著者
藤原 求美 山口 実果 手塚 康貴 太田 忠信
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.330-333, 2006-10-20

本研究の目的は,脳卒中患者・骨関節疾患患者・健常高齢者におけるFour Square Step Test (以下,FSST)の検者内信頼性と妥当性について検討することである。対象は脳卒中患者30名,骨関節疾患患者20名,健常高齢者20名とし,FSST,Berg Balance Scale(以下,BBS),Timed Up and Go test(以下,TUG)を測定した。脳卒中患者30名のうちFSSTを完全に実施できた患者は24名であった。FSSTは2回の測定を2日間行い,その測定値より級内相関係数を求めた結果,全対象者で高い再現性(ICC=0.807〜0.985)を示した。またFSSTとBBS,BBSとTUGの間には危険率1%未満の有意な相関関係(ρ=0.677〜0.860)が認められ,FSSTとTUGの間には危険率5%未満の有意な相関関係(r=0.559〜0.948)が認められた。結果より,FSSTは上記の対象者において有用な評価方法であると示唆された。
著者
浅川 康吉 市橋 則明 羽崎 完 池添 冬芽 樋口 由美
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.75-79, 2000
参考文献数
14
被引用文献数
5

踏み台昇降訓練における踏み台の位置や高さの設定が,立脚側の股関節周囲筋の筋活動量に与える影響について筋電図学的検討を行った。対象は健常男性13名(25.9 ± 3.8歳)で,股関節周囲筋として大殿筋,中殿筋,内転筋,大腿筋膜張筋,および大腿直筋を選択した。踏み台昇降動作は,前方,後方,側方の踏み台の位置と,10cm,20cm,30cmの高さを組み合わせた計9通りで行った。統計学的分析には二要因とも対応のある二元配置分散分析を用いた。その結果,踏み台の位置は中殿筋,大腿筋膜張筋の筋活動に影響し,踏み台の高さは大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋の筋活動に影響していた。内転筋と大腿直筋には交互作用が認められた。股関節周囲筋では,踏み台昇降訓練における踏み台の位置や高さの影響が各筋ごとにそれぞれ異なると考えられた。
著者
増田 崇 田平 一行 北村 亨 東村 美枝 鴨川 久美子 吉村 淳
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.308-312, 2008-12-20
参考文献数
13
被引用文献数
3

【目的】本研究の目的は開腹手術後の咳嗽時最大呼気流速(peak cough flow:PCF),肺活量(vital capacity:VC),創部痛の経時的変化とこれらの関係を明らかにすることである。【方法】待機的に開腹手術を行った30症例を対象にPCF,VC,安静時痛,咳嗽時痛を術前および術後13日目まで測定した。PCFはピークフローメーターを,VCはライトレスピロメーターを,疼痛はvisual analog scale (VAS)を用いて測定した。各項目間の関係はPearsonの相関分析を用いた。項目ごとの経時的変化の比較は一元配置分散分析を行い,多重比較はTamhane法を用いた。【結果】術後のPCFは術前値に対し術後1日目に46.4%まで低下し,術後5日目まで有意に低下していた。VCは術後1日目に47.8%まで低下し,術後6日目まで有意に低下した状態が続いた。術前PCFに対する回復率とVCの回復率,安静時・咳嗽時痛との間に有意な相関関係を認めた。またPCFとVCの間にも有意な相関が認められた。【結論】開腹手術患者に対しては,肺活量を上昇するような呼吸練習や痛みを軽減するための咳嗽介助など,周術期における理学療法士の積極的な関与の必要性が示唆された。
著者
藤村 宜史 片山 信久 武田 麗華 永尾 進 中塩 仁士 藤井 和代 山本 陽介
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-8, 2009
参考文献数
25
被引用文献数
1

【目的】本調査の目的は,地域連携パス(以下連携パス)のバリアンスや転帰から目標在院日数の妥当性や運用上の対策を検討することである。【方法】呉市の連携パス参加機関のうち連携パスの運用実績のある8施設において連携パスを適応された大腿骨頚部骨折(以下頚部骨折)16例と大腿骨転子部骨折(以下転子部骨折)19例を対象とした。この8施設に所属する理学療法士の協力を得て,手術日から急性期病院を転院するまでの日数(以下在院日数I),手術日から連携病院を退院するまでの日数(以下在院日数II)の目標設定からの逸脱をバリアンスとして,その有無と原因を調査した。【結果】在院日数Iにおける負のバリアンス発生率は頚部骨折50.0%,転子部骨折36.8%であり,その理由は主に転院マネージメント,インフォームドコンセントなど情報に関する要因であった。在院日数IIにおける負のバリアンス発生率は頚部骨折12.5%,転子部骨折47.4%で,理由は主に歩行能力の獲得遷延,術後疼痛など患者の身体的な要因であった。【考察】急性期病院では,短い在院日数において職種・施設間で円滑な情報伝達を図り,適切なインフォームドコンセントにより患者や家族の理解を得ることが求められ,また連携病院ではバリアンス分析により目標在院日数を見直し,介護保険への連携を構築することが今後の課題と考えられる。
著者
大原 昌之 羽崎 完 大場 かおり 柴田 健治 森澤 早苗 石原 崇史
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.21, no.7, pp.430-431, 1994-11-30

患側上肢に奇妙な不随意動作を認めた右片麻痺の一症例を経験した。症例は74歳。女性。左前頭葉後部の皮質下出血による右片麻痺を呈していた。発症後6日目に血腫除去術が施行された。発症後約5週頃より右手で眼前の物を不随意的に取り上げる動作を示した。患者の示した不随意動作は道具の強迫的使用現象の不完全型であると考えられた。本症例では, 不随意動作が患者の治療課題遂行やADLを阻害しているのか否かに留意し, 理学療法を実施した。
著者
石井 千菊 直江 祐樹 日沖 甚生
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】人工股関節全置換術(以下THA)後の患者においては、術後自覚的脚長差を平成18年11月から平成19年10月まで当院にてTHAを施行し、術後理学療法を施行した10例(女9例、男1例、平均年齢60.4歳)。診断は変形性股関節症9例、股関節高位脱臼1例。手術は全例後側方侵入にて行われた。1例は、大腿骨骨折により術後4週免荷。<BR>【方法】平成18年11月から平成19年10月まで当院にてTHAを施行し、術後理学療法を施行した10例(女9例、男1例、平均年齢60.4歳)。診断は変形性股関節症9例、股関節高位脱臼1例。手術は全例後側方侵入にて行われた。1例は、大腿骨骨折により術後4週免荷。術前、歩行開始時、歩行開始後1週、歩行開始後2週に自覚的脚長差を5mmきざみの板を踏んでもらうことにより測定し、記録は2.5mm単位で施行した。また術前および術後に両股関節正面レントゲンにて涙痕間線を基準として他覚的脚長差を測定した。術側下肢が長い場合を正の値とした。<BR>【結果】術後全例が自覚的脚長の変化を認めた。自覚的脚長差は、術前で平均-8.5mm、歩行開始時で平均14.0mm、歩行開始後1週で平均11.25mm、歩行開始後2週で平均10.5mmであった。他覚的脚長差は、術前で平均-18.1mm、術後で平均11mmであった。歩行開始時から歩行開始後1週の自覚的脚長差の変化は平均3.7mm、歩行開始後1週から歩行開始後2週の変化は自覚的脚長差の変化は平均0.9mmであり、歩行開始時から歩行開始後1週の変化は有意に大きかった(p=0.0013)。歩行開始後全例で脚長差は減少し、歩行開始後2週において10例中8例で自覚的脚長差が10mm以下になり、補高を必要としなかった。10例中2例に歩行開始後2週にて自覚的脚長差と術後他覚的脚長差に30mm以上の差が見られた。その他の8例においては、歩行開始後2週にて自覚的脚長差と術後他覚的脚長差の差は平均0.15mmであった。<BR>【考察】自覚的脚長差の測定は、補高を決定する上で重要である。THA後の理学療法において自覚的脚長差がみられた場合の補高を処方する時期は決められていない。自覚的脚長差の歩行開始時から歩行開始後1週の変化が有意に大きかったことから、補高を処方する場合は、歩行開始早期に行う必要がないのではないかと思われる。また歩行開始1周以降も自覚的脚長差の改善がみられた例がいたこと、歩行開始後2週において10例中8例で自覚的脚長差が10mm以下になり補高を必要としなかったことから補高を処方する場合も段階的に高さを調整出来るようにした方が良いと考えられる。<BR><BR>
著者
鐘司 朋子 相沢 幸一郎 鍋城 武志 蘭 康昭 飯田 哲 品田 良之
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【はじめに】人工股関節全置換術(以下THA)における前方アプローチと側方アプローチの股関節外転筋力と膝関節伸展筋力の回復経過について在院日数などとあわせて比較検討を行った.<BR>【対象】2003年11月~2006年12月までに当院整形外科で施行したTHA患者のうち,術後3ヶ月・6ヶ月・1年に評価が可能だった患者で,前方アプローチ79名(以下前方群)で変形性股関節症74名,大腿骨頭壊死5名,平均年齢62.9歳,側方アプローチ65名(以下側方群)で変形性股関節症63名,大腿骨頭壊死2名,平均年齢61.2歳とした.<BR>【方法】両群間で手術から退院までの期間と1本杖歩行開始までの日数の比較,および術前・退院時・術後3ヶ月・術後6ヶ月・術後1年に等尺性の股関節外転筋力と膝関節伸展筋力をアニマ社製 μTasMF―01を用いて測定し術前筋力との比を回復率(%)として算出し比較検討した.<BR>【結果】手術から退院までの期間は前方群は26日,側方群は31日,1本杖開始までは前方群は9日,側方群は14日となり,前方群は側方群に対し有意に短い結果となった.股外転筋力回復率は前方群においてすべての評価時で術前より有意な回復をみせたが,側方群においては術後3ヶ月以降に有意な回復となった.両群の股外転筋力回復率の比較では退院時に前方群は144%,側方群は129%となり,前方群おいて有意に高い結果となった.膝伸展筋力回復率は両群とも退院後からの回復となり,術後3ヶ月で前方群は139%,側方群は125%,術後1年では前方群147%,側方群140%と経過中は前方群の方が有意に高い回復経過となった.<BR>【考察】前方アプローチは股外転筋に侵襲を加えないため側方アプローチに比べて早期に股外転筋力が回復したと思われる.膝伸展筋力において経過中回復率が前方アプローチで高かったのは,前方アプローチは股関節周囲筋への直接的な侵襲が少ないため立位歩行など移動動作が早期に可能で推進筋である大腿四頭筋の筋力回復も高かったのではないかと推察される.<BR>【まとめ】前方アプローチは側方アプローチに比べて筋への侵襲が少ないため筋力回復も早く杖歩行など立位歩行動作が比較的獲得しやすく術後在院期間も短い.THAにおいては術式により筋力回復や術後経過に違いがあり,それを踏まえた上での理学療法の進め方が重要であることが示唆された.
著者
栗田 真悟 得平 司 内山 匡将 根来 政徳 福井 浩之 岡本 浩明 谷本 武晴 白井 一郎 本田 侑子 住田 幹男 大園 健二 相原 雅治
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】全人工股関節置換術(以下THA)の術後,中・長期後の合併症で最も問題なのはコンポーネントの弛みである.この原因には、コンポーネントの設置不良や,感染,外傷などと,ポリエチレン摩耗粉によって生じる骨溶解による無菌性の弛みと言われている.今回この無菌性の弛みに影響する因子について調査検討を行った.<BR>【対象と方法】対象は,当院において初回THAを施行され2002年10月~2006年12月までの間に,再置換術を施行した19名26股のうち,複数回再置換術を施行した症例を除き,調査項目(年齢,初回THA手術日,再置換術日,再置換術前JOAscore,関節可動域,筋力,身長,体重,職業歴,Life-Space Assessment,1日の歩行時間,移動形態,趣味,再置換に対するきっかけ)が得られた女性9例11股(初回THA平均年齢は53.0±4.0歳,再置換平均年齢65.82±8.32歳)である.項目はカルテによる調査と電話での聞き取り調査を行った.方法は初回THA手術から再置換術までの経過期間の平均値より早期に再置換に至った症例(以下短期群)と,平均値よりも遅く再置換に至った症例群(以下長期群)と定義し,この2群間における調査項目について比較検討した.統計処理はt検定を用い,有意水準を5%未満とした.<BR>【結果および考察】THA再置換術までの日数の平均値は12.9±5.45年であり,短期群6名の平均年齢61.1±3.6歳,長期群5名の平均年齢74.8±8.0歳,再置換までの平均年数はそれぞれ8.9±1.98年,17.6±4.32年で有意差がみられた(p<0.008).術側JOAscoreにおいて短期群74.7±19.66点,長期群46.4±10.16点であり,短期群で有意に点数が高かった(p<0.016).また,JOAscoreの疼痛の項目に関して短期群31.7±9.83点,長期群19.0±5.48点,車・バスの乗り降りの項目に関して,短期群3.0±1.10点,長期群1.2±1.10点,ADL合計点においても短期群16.0±3.58点,長期群10.4±3.29点と各々の項目で短期群で有意に高かった(p<0.012, p<0.024,p<0.025).術側屈曲筋力MMTにおいて短期群4.5±0.55,長期群3.2±0.84,術側外転筋力MMTにおいて短期群4.3±0.82,長期群3.8±0.84であり,短期群で有意に筋力が高かった(屈曲p<0.031,外転p<0.003).移動形態では独歩,一本杖,二本杖で分類し検討した結果,短期群で有意に補装具が少ない傾向にあった(p<0.047).趣味では毎日スポーツジムに通う,毎日の散歩,年に数回の旅行に分類し検討した結果,短期群で有意に活動量において多い傾向がみられた(p<0.045).しかし,Gunnarらによる研究とは異なりBMIにおいて2群間で有意差はなかった(p<0.367).これらの結果から,短期群では疼痛が軽く筋力も長期群より強いため,ADL能力も高かったと考えられる.また仕事や趣味,さらに移動形態では,より独歩に近いことからも短期群の活動性の高さが伺える.すなわち,今回の調査では活動性が高いことが弛みを助長し,再置換のリスクを高める要因のうちの一つであることが示唆された.<BR>
著者
相澤 純也 小山 貴之 塩田 琴美 高梨 晃 磯崎 弘司
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】人工股関節全置換術(以下、THA)後の爪切り動作では術後合併症である脱臼の回避と、足先の目視が必要であり、代償的な動作が限定されるため、動作獲得には良好な股関節可動域(以下、ROM)が不可欠となる。動作獲得に向けた効果的な介入には、客観的なROM評価と、動作自立に要するROMの詳細情報が重要な根拠となる。本研究目的は、THA後の爪切り動作自立に要するROMの一水準を得ることである。<BR>【対象と方法】対象はTHA後患者34名の48下肢、年齢64.3±10.5歳、身長152.9±6.3cm、BMI23.0±4.2kg/m<SUP>2</SUP>であった。原因疾患は変形性股関節症46肢、大腿骨頭壊死2肢であった。手術アプローチは後外側が44肢、前外側が4肢であった。ROMは、同一検者が日本リハビリテーション医学会・日本整形外科学会制定法に従い、東大型角度計(TTM-KO)を使用して測定した。測定項目は股関節屈曲、外転、外旋角度とし、無作為順に測定した。対象動作は坐位、膝関節屈曲位で、単純股関節屈曲位もしくは、股関節屈曲・外転・外旋位での爪切り動作とした。動作自立度の判定は、検者による動作観察と、被験者の主観的評価によりa.不可能、b.かろうじて可能、c.容易に可能、の3段階で行った。統計学的分析は、群別に各データの平均値及び標準偏差を算出した後、一要因分散分析及び多重比較(LSD法)を用いて、群間での各データの有意差をみた(5%水準)。<BR>【結果】年齢、身長、BMIに群間での有意差は認めなかった。各群(N:a群12、b群21、c群15)の角度平均値及び標準偏差は、屈曲a群72.3±11.8、b群88.3±13.2、c群96.2±12.0度、外転a群7.7±9.1、b群10.6±6.0、c群15.4±5.3度、外旋a群14.8±8.4、b群21.4±8.5、c群20.8±10.1度、屈曲+外転+外旋a群94.7±24.8、b群120.4±19.2、c群132.4±17.4度であった。a群と比較して、b群において屈曲、外旋、屈曲+外転+外旋が有意に高値を示し、c群においては屈曲、外転、屈曲+外転+外旋が有意に高値を示した。b群とc群の比較では、c群で外転のみ有意に高値を示した。<BR>【考察】THA後の爪切り動作の自立には屈曲と外旋のROM増大が特に重要であると示唆され、容易な動作遂行に要するROMとしてc群の角度データが一水準になると考えられた。また、b群と比較し、c群での外転が有意に高値を示したことから、安楽な動作遂行には外転ROMの増大が重要になると考えられた。爪切り動作のような足部へのリーチ動作において、多軸関節である股関節では、屈曲、外転、外旋各々のROM不足を相互に代償しうる特性を持つことから、3つの角度の総和も動作自立に要するROMの一指標になりうると考えられた。<BR>
著者
石田 和人 浅井 友詞 水口 静子 堀場 充哉 野々垣 嘉男 吉田 行雄 大藪 直子 和田 郁雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.340-346, 1994-09-30
被引用文献数
4

変股症でTHRを施行し長期経過した症例が, 生活の場において実際にしているADLの実態をとらえる目的で, 短期群(THR術後経過年数が1〜3年)10例, 中期群(5〜8年)9例, 長期群(10〜20年)9例の3群に分類し, ADLにおける諸動作の特徴を撮影したVTRより分析し検討した。結果, 術後のADL能力は比較的良好に保たれており, 高い満足が得られているが, 長期群では加齢に伴う活動性の低下から立位歩行能力等に問題が生じる例もあった。また, 術後経過の期間と無関係に, ADL上問題となる内容は, 立位歩行, 靴下着脱, 腰を床に降ろすの3点に集約された。変股症患者のADL能力は長期にわたり, その時点での股関節機能(特に可動性)に影響されるが, 加えて, 加齢にともなう活動性の低下なども影響しうる。よって, THR後の長期経過はX線学的問題のみならず, 生活の場で行っているADLの実態把握が重要である。
著者
對馬 均 舘山 智格 川嶋 順蔵 片野 博
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.51-56, 1989-01-10
被引用文献数
1

人工股関節全置換術を目的として入院となったものの, 疼痛, ROM 制限, 筋力低下, 不良姿勢, などの機能的諸問題により手術施行が延期された慢性関節リウマチの一症例を経験した。この症例に対して7週間に渡り術前訓練を徹底して行った結果, 手術-術後訓練と良好に経過し, ADL 自立にて自宅退院させることができた。本症例に対する理学療法を通じて, 術前訓練の意義として, (1)術前に機能状態を高めておくことが, 術後の機能状態を大きく左右する, (2)術前から起居動作・移動動作を習熟させておくことによって, 術後早期離床・部分荷重歩行へのスムーズな移行が可能となる, (3)術前訓練の励行によって達成された身体的効果が, 手術や術後機能に関する心理的問題に好影響を及ぼす, (4)全人的理学療法という観点からも術前訓練は重要である, などの点を再確認した。
著者
宮城 新吾 豊田 輝 寺村 誠治 脇元 章博 高木 康臣 吉葉 崇
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】<BR>人工股関節全置換術(以下THA)後の靴下着脱動作方法には,一般的に臨床で用いられている股関節屈曲・外転・外旋を伴う方法(以下外旋法),長坐位で体幹屈曲し行う方法(以下長坐位法),立位で膝を屈曲し行う方法(以下立位法)などがある.THA後にこれらの靴下着脱動作方法を指導する際,短期間に複数の方法を試し,安楽に動作可能な方法を理学療法士が経験的な要素から選定しているため,理解力に欠けている患者では困惑し,誤って危険な方法をとろうとしてしまうことがある.そこで本研究では,靴下着脱方法の外旋法,長坐位法,立位法の3つの動作方法の指標となる股関節関節可動域(以下ROM)を明らかにし,臨床における指導方法選定の参考角度を求めることを目的とする.<BR>【対象および方法】<BR>対象は,当院整形外科にて初回片側THA(全例セメントレス,進入方法は後側方アプローチ)後に理学療法を施行した52例.なお,関節リウマチ患者は対象から除外した.<BR>方法は,術後14病日の時点で,股関節屈曲・外転・外旋のROMを測定した.また,担当理学療法士が外旋法・長坐位法・立位法を指導後,対象がそれぞれの動作方法を実施し,最も安楽に靴下着脱可能と答えた動作を獲得方法として選定した.選定された動作方法ごとに,測定で得られた3方向の股関節ROMの各平均値を算出し,靴下着脱動作における必要可動域について検討した.併せて,選定された動作方法ごとに,3方向の股関節ROMの総和の最低値と最高値,平均値を算出した.<BR>【結果】<BR>術後14病日の時点での靴下着脱動作獲得率は100%であった.動作獲得方法別にみると,外旋法67%,長坐位法8%,立位法25%であった.外旋法における股関節屈曲角度の平均値は86.8度,外転27.1度,外旋28.2度であった.総和の最低値は105度,最高値は170度,平均値は137.5度であった.長坐位法における股関節屈曲角度の平均値は88.8度,外転20.0度,外旋16.3度であった.総和の最低値は120度,最高値は130度,平均値は125.0度であった.立位法における股関節屈曲角度の平均値は71.9度,外転17.3度,外旋20.0度であった.総和の最低値は95度,最高値は125度,平均値は110.0度であった.<BR>【考察】<BR>今回の対象においては,術後14病日の時点で,上記のような股関節ROMの参考角度が示された.外旋法や立位法では,総和の最低値と最高値の差が大きく,股関節ROM以外の要因の関与が予想された.複合動作である靴下着脱動作には,肩甲帯や体幹の柔軟性,腹部と大腿部の軟部組織量などの股関節ROM以外の身体的要因が靴下着脱動作獲得に与える影響は大きいことが推察される.今後は,身体的要因を含めた指導方法選定の検討を行っていく必要があると考えられた.<BR>
著者
塚越 累 建内 宏重 大畑 光司 江口 悟 奥村 秀雄 市橋 則明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.41-48, 2009-04-20
被引用文献数
6

【目的】人工股関節全置換術(THA)後早期の股関節と膝関節筋力の推移を比較し,術後に最も回復の遅延する筋を明らかにすること。【方法】変形性股関節症によりTHAを施行した女性53名を対象とし,術側と非術側の股関節外転,伸展,屈曲,膝関節伸展および屈曲の最大等尺性筋力を術前と術後2週,4週,6週時点で測定した。【結果】術側の股関節筋力は術後2週で術前より有意に低く,術後4週および6週では術前値と有意な差は認められなかった。一方,術側膝関節伸展筋力は術後2週,4週,6週の全測定時期において術前値より低い値を示した。術後の筋力推移を術前比で比較した場合,術後6週では術側の股関節筋力および膝関節屈曲筋力の術前比は114〜124%で有意な差は無かったが,膝関節伸展筋力は術前比86%と他の4つの筋力と比べて有意に低い値を示した。【結論】THA後には股関節周囲筋力および膝関節屈曲筋力に比べて,膝関節伸展筋力の回復が遅延することが判明した。