著者
平本 真知子 松井 知之 東 善一 瀬尾 和弥 福嶋 秀記 長谷川 敏史 西尾 大地 相馬 寛人 伊藤 盛春 山内 紀子 水嶋 祐史 森原 徹 木田 圭重 堀井 基行 久保 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100563, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】 投球障害のリハビリテーションでは、局所のみならず、全身の評価・アプローチが重要である。投球障害の原因として、身長や関節可動域の低下が報告されているが、成長期である小学生・中学生と高校生における関節可動域の変化については明らかではない。われわれは、投球障害のリハビリテーションを行う上の、小・中・高校生の関節可動域特性を明らかにする目的で、投手に対して上肢・体幹・下肢関節可動域を測定し、比較検討した。【方法】 対象は2008年から2011年にメディカルチェックに参加した京都府下の小・中・高校生投手517例であった。内訳は高校生264例、中学生182例、小学生71例であった。 検討項目は、肩関節2nd外旋および内旋、肩関節3rd内旋、股関節内旋および外旋(90°屈曲位)、SLR、HBD、頚部・胸腰部回旋の各関節角度とし、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて行った。 検者は操作、固定、角度測定、記入を分担し、代償動作に十分注意し、4名1グループで行った。 得られたデータを小・中・高校生の各年代間で比較検討した。検定は、クラスカル・ワーリス検定を用い、事後検定として、多重比較検定(Steel-Dwass法)を用いた。有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は京都府立医科大学倫理委員会の承認を得た。参加者およびチーム責任者に対し、メディカルチェックの意義、重要性の説明を行った。同意を得られた希望者のみを対象とした。【結果】 肩関節2nd外旋では、小学生133.2±12.3度、中学生124.1±11.6度、高校生125.3±9.9度であった。小学生が中・高校生に比べ有意に大きな値であった。 投球側股関節外旋では、小学生62.5±13.1度、中学生56.9±8.4度、高校生56.1±10.1度であり,小学生が中・高校生に比べ有意に大きな値であった。 非投球側股関節内旋では、小学生41.3±12.2度、中学生41.3±13.6度、高校生35.6±12.9度であり,小・中学生が高校生よりも有意に大きい値であった。 投球側SLRでは、小学生59.3±12.1度、中学生58.6±9.1度、高校生53.7±13.9度であった。非投球側SLRでは、小学生59.7±11.0度、中学生58.9±9.5度、高校生54.8±14.8度であった。投球側、非投球側ともに小・中学生が高校生よりも有意に大きい値であった。 投球側HBDでは、小学生6.1±5.3度、中学生10.8±6.0度、高校生14±6.6度であった。非投球側HBDでは、小学生6.3±5.5度、中学生11.3±6.5度、高校生14.2±6.5度であった。投球側・非投球側ともに年代が上がるとともに有意に増加した。 投球側頚部回旋では、小学生83.5±12.6度、中学生85.4±14度、高校生77.9±12.8度であった。非投球側頚部回旋では、小学生83.6±9度、中学生82.5±12.6度、高校生77.3±10度であった。投球側・非投球側ともに小・中学生が高校生に対して有意に大きな値であった。 投球側胸腰部回旋では、小学生46.0±13.4度、中学生47.4±11.9度、高校生50.9±9度であった。非投球側胸腰部回旋では、小学生46.7±12.8度、中学生47.3±12度、高校生52.3±9.2度であった。投球側・非投球側ともに高校生が小・中学生よりも有意に大きな値であった。【考察】 全国的に投球障害の早期発見・治療を目的とした検診やメディカルチェックが行われているが、野球選手の身体特性を検討したメディカルチェックの報告は少ない。 一般健常人は年齢と共に柔軟性が減少すると報告されている。本研究の結果も、年代が上がるにつれ関節可動域は減少する傾向であった。しかし、胸腰部回旋のみ高校生が有意に大きな値であった。投球動作中における体幹機能については,成長とともに、体幹回旋角度が増大する、体幹の回旋が投球スピードに影響を与えるなど多数報告されている。 年代が上がるにつれて、各関節可動域は減少していくが、投球動作に重要な要素である胸腰部回旋角度は増大する傾向であった。投球障害を有する選手へのリハビリテーションを考える上で、各年代の関節可動域特性を理解することは重要である。【理学療法学研究としての意義】 各年代の関節可動域特性が明らかになり,投球障害で受診した選手へのリハビリテーション、投球障害予防におけるスポーツ現場でのコンディショニング指導の基礎的なデータとなりうる。
著者
栗田 健 高木 峰子 木元 貴之 小野 元揮 吉田 典史 中西 理沙子 山﨑 哲也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101721, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】われわれは過去に投球障害肘患者(以下肘群)と投球障害肩患者(以下肩群)において手内筋である母指・小指対立筋(以下対立筋群)の機能不全について検討をしたところ,肘群が肩群より有意に機能不全を認めた.さらに対立筋群機能不全を多く認めた肘群において, 非投球側に対立筋群の機能不全がある場合,投球側にも機能不全を認めた.また,この対立筋群の機能不全は,筋や骨などの成長が関与している可能性が考えられた.そのため,今回は年齢により対立筋群に機能不全の差が認められるのかどうかを検討したので報告する.【方法】対象は投球障害で当院を受診した45名の投球側45手とし,他関節の障害の合併や既往,神経障害および手術歴を有する症例は除外した.性別は全例男性で,年齢によりA群10歳~12歳,B群13歳~15歳,C群16歳~18歳の3群に分けた.評価項目は,投球時のボールリリースの肢位を想定した対立筋群テストとし,座位にて肩関節屈曲90°位にて肘伸展位・手関節背屈位を保持して指腹同士が接するか否かを観察した.徒手筋力検査法の3を基準とし,指腹同士が接すれば可,IP関節屈曲するなど代償動作の出現や指の側面での接触は機能不全とした.なお統計学的解析には多重比較検定を用い,3群間に対し各々カイ二乗検定を行い,Bonferroniの不等式を用いて有意水準5%未満として有意差を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対し本研究の目的を説明し同意の得られた方のデータを対象とし,当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化にてデータを使用した.【結果】各群の人数は,A群9名,B群17名,C群19名であった.また,機能不全の発生率はA群33.3%,B群52.9%,C群47.3%であり,各群間のカイ二乗検定では,A群×B群(p=0.34)A群×C群(p=0.48)B群×C群(p=0.738)となり,すべての群間において有意差は認められなかった.【考察】一般的なボールの把持は,ボール上部を支えるために示指・中指を使い,下部を支えるために母指・環指・小指を使用している.手内筋である母指・小指対立筋は,ボールを下部より効率よく支持するために必要である.ボールの把持を手外筋群によって行うと,手関節の動きの制限や筋の起始部である上腕骨内側上顆に負担がかかることが示唆される.過去の報告から投球障害における母指・小指対立筋機能不全は投球障害肘群に多く認めることが分かっている.しかし手指の対立動作は骨の成長による影響や運動発達による影響など,年齢による影響がある可能性もあり,機能不全発生の機序までは断定できなかった.本研究の結果から,対立筋群の機能不全は年齢間差が無いことから,年齢を重ねることで機能不全が改善する可能性は否定的な結果であった.また同様に年齢を重ねることで対立筋群の機能不全が増えるわけでもなく,どの年代においても一定の割合で発生している事がわかった。この事から対立筋群の機能不全は骨の成長による影響や運動発達など成長による影響ではなく,癖や元々の巧緻性の低下などその他の要素によって発生していることが示唆された.以上により手内筋による正しい対立機能を用いたボールの把持できなければ投球動作を繰り返す中で肘の障害が発生する可能性が示唆された.その為、投球障害肘の症例に対してリハビリテーションを行う場合には,従来から言われている投球フォームの改善のみではなく遠位からの影響を考慮して,母指・小指対立筋機能不全の確認と機能改善が重要と考えられた.また障害予防の点においても,投球動作を覚える段階で手指対立機能の獲得とボールの持ち方などの指導が必要であることも示唆される.【理学療法学研究としての意義】本研究では対立筋群の機能不全は年齢による影響はないと示唆された.また過去の研究より投球障害肘の身体機能の中で手内筋である母指・小指対立筋に機能不全を多く有することが分かっている.投球障害を治療する際には、対立筋群の機能に着目することが重要と考える.また今回設定した評価方法は簡便であり,障害予防の観点からも競技の指導者や本人により試みることで早期にリスクを発見できる可能性も示唆された.
著者
木下 利喜生 橋崎 孝賢 森木 貴司 堀 晋之助 藤田 恭久 幸田 剣 中村 健 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100176, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 当院リハビリテーション(リハ)科では、リハ室で患者が急変した場合、緊急カート、心電図モニター(ECG)、パルスオキシメーター、血圧計、ストレッチャーなどの準備、装着を現場スタッフで行う。同時に他のスタッフがリハ医へ報告、現場での診察を依頼し、身体所見やモニターなどの情報をもとに対応の指示を仰ぐまでの一連の流れを救急時対応とし、全スタッフを対象にトレーニングを実施している。そのため、当科では、これまでにも幾度となく血圧や意識レベル低下などの急変が発生しているが、全ての案件において対応が可能であった。 今回、リハ実施時において、開設から始めて患者が心肺停止となる状況に直面した。その際にリハ科で対応可能であったこと、またシステム上の不備や対応不足が明らかとなったことを情報の共有のために報告する。【方法】 10時20分頃、理学療法室で立位練習開始、血圧低下認めないため、平行棒内での歩行練習をこの日より開始する。平行棒内での歩行練習後もバイタルの著明な変動ないため、10時40分頃に歩行器での歩行練習を行う。歩行器歩行10m程度で両下肢の脱力、意識消失を認め、理学療法士数名でベッドへ寝かせている間に、リハ医と外来看護師に連絡、ECG、パルスオキシメーター、血圧計を装着した。ECG上60台でサイナスリズム、酸素飽和度98%、血圧測定行えないためベッド上で下肢挙上する。10時45分頃リハ医・看護師到着、何度か血圧測定するも測定できず、病棟に連絡し、ストレッチャーでの迎えを要請する。その後、意識レベル改善認めず、徐々に酸素飽和度が低下し始めたため、10時48分にホワイトコール(救急対応依頼の全館放送)を要請する。リハ医と看護師により酸素投与開始し、アンビューバックを準備している際に多数の医師、看護師到着。頚動脈も触知困難のため救急医師により、心臓マッサージ、挿管により気道確保され、救急処置室へ搬送される。その後の検査の結果、急変原因は肺血栓塞栓症であることが判明した。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例の情報は、医療記録から特定できないよう匿名化し、プライバシーに配慮した。また、今回の発表にあたり当大学医療安全推進部に発表内容および目的を十分に説明し、発表の了承を得た。【結果】 初期対応は、手順通り実施できており問題ないと思われた。しかし、多数の医師、看護師が到着、理学療法室内が騒然とし、リハ中の患者を移動するなどの対応をとるべきであったが、これまでに心肺停止でのホワイトコール経験がなく、迅速な対応が行えず、駆け付けた看護師の判断により、病棟へ帰室するかたちとなった。 また、当科では酸素配管はあるがボンベを常備しておらず、リハ室から救急対応室へ搬送する際の酸素ボンベを救急部に借りに行く必要があった。【考察】 今回の対応の不備は、これまでに心肺停止によるホワイトコールの経験がなく、我々の想定していない状況下に陥った事が背景にある。これを受けて、ボンベの常備を早急に行い、ホワイトコール時は、一旦、リハ中の患者を発生現場以外の訓練室に移動したのち、病棟へ搬送すると決定した。また、シミュレーションをホワイトコールまでを想定したものに変更し、すぐに全体研修を実施、また人事異動のある4月初旬に必ず全体研修を実施すると決めた。 院内対応としては、長期臥床患者のリハを開始する際は、下肢深部静脈血栓症・肺梗塞のリスク因子を評価し、必要があれば下肢静脈エコーを行うなど早期発見・早期予防に務めるよう全科へ指導が行われた。当科でも下肢の腫脹などの身体所見の確認だけでなく、Dダイマー、FDPなどの血液データの確認を指導した。またリハ科で行える静脈血栓塞栓症の予防として、早期からの歩行および積極的な運動が重要であることを再教育し、早期離床を再度徹底した。 今回の案件を経験し、考えうる最悪の状況を想定した急変時対応を常に考えていく重要性を痛感した。本案件だけでなく、ひとつひとつの事例背景を分析し、対応マニュアルの強化、更新が必要であり、また積極的に文献抄読や学会参加をすることで、常に新しい情報を収集しておくことも重要であると感じた。【理学療法学研究としての意義】 最も重篤な急変の1つである心肺停止事例における、対応時の問題、さらにその解決策を報告することは、今後のリハ室での急変時対応マニュアル作成や強化などをする際の貴重な情報になると考えられる。
著者
徳田 良英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100108, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】バランスや歩行の観点で婦人靴のヒールの高さの許容範囲を身体運動学的に評価し明らかにする.【方法】動的バランスの解析 対象:健常な女子大学生7名(年齢:21.4±0.8歳,身長:157.0±3.1cm,BMI:20.4±2.3 kg/m²,靴のサイズ:23.0cm~23.5cm)とした.測定方法:市販のスニーカーおよび婦人靴(ヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cm)の計5種類の靴をランダムに履いて,筋電計(DHK社TRAISシステム,サンプリング周波数1,000Hz)の電極を下腿三頭筋部に装着し,フォースプレート(Kistler社, サンプリング周波数100Hz)上で静止立位の状態からファンクショナルリーチテスト(以下FRT)を実施し,FRTの測定値,下腿三頭筋の筋活動量,重心動揺を同時に計測した.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.解析は,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれのFRTの測定値を比較した.FRTでの下腿三頭筋の筋活動量を比較するために,各筋電波形の計測3秒間の積算値を筋活動量とし,各被験者でスニーカーの活動量を基準にヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比率を筋活動量として算定した.FRTでの前後方向の重心移動距離をスニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmそれぞれの比較をした.歩行パラメーターの解析 対象:健常な女子大学生18名(平均年齢:21.1±0.9歳,身長:157.8±4.2cm, BMI:20.3±1.7kg/m²)とした.測定方法:被験者に上記5種類の靴で被験者に廊下を普段歩く速さで歩くように指示して10m歩行を行わせた.各計測は筋疲労などの影響が及ばないように十分な間隔を空け,自覚症状がないことを確認して行った.歩行速度(m/min),ストライド(m),ケイデンス(step/min)を,スニーカーおよびヒール高さ3cm,5cm,7cm,10cmのそれぞれについて比較した.統計学的解析はWilcoxon の符号付き順位検定にて有意水準5%で検定した.【倫理的配慮、説明と同意】学内倫理委員会で研究計画の承認を得た上で,各実験に際しては被験者に予め実験の趣旨と方法,リスクを説明し,口頭および書面による同意を得て行った.【結果】動的バランスの解析の結果,ヒール高さ10cmではスニーカーに比べFRTの値が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ7cmおよび10cmはFRTでの前後方向の重心移動距離が小さかった(p<.05).FRT時,スニーカーに比べヒール高さ5cm,7cm,10cmは下腿三頭筋の筋活動量が高かった(p<.05).特にヒール高さ10cmの場合,筋活動が著明に高かった.歩行パラメーターの解析の結果,スニーカーに比べ,歩行速度は,ヒール高さが高くなるに従い遅くなる傾向であった.ケイデンスに差がなかった.ストライドはヒール高さ3cm,5cm,7cmでは約10cm短く,ヒール高さ10cmでは約20cm短かった.【考察】ヒール高さ10cmは,いずれの評価でもスニーカーに比べ差が認められた。このデザインの靴の場合,足関節を極度に底屈位にするためバランスや歩行の観点で実用性が著しく劣ると考える.ヒール高さ7cmは,FRTではスニーカーと差がなかったことから,今回の被験者のような若年者が履く場合,立って手を前方に伸ばすということにおいては一応可能である.その時の重心の前方移動距離を見ると,スニーカーに比べ小さいことから,FRT時に十分な重心移動ができず腰を引いた姿勢で無理をして手を前方に伸ばしていることが理解できる.ヒール高さ5cmは,FRTで手を前方に伸ばす範囲,その時の重心移動距離に差はない.足底圧測定と歩き心地,トレッドミル歩行の疲労解析をした先行研究で婦人靴のヒール高さ5cmを超えたところに限界があるとしている(細谷,2008).また,歩行時のエネルギーコストを比較した先行研究では,婦人靴のヒール高さは5cm位までを推奨している(Ebbeling CJ, et al, 1994).本研究の結果から若年者が履く婦人靴の実用的な許容高さとしてヒール高さ5cmは概ね妥当と考える.しかし,FRTでの筋電図から筋活動量を比較した結果,ヒール高さ5cmの婦人靴はスニーカーに比べ筋活動量が多いことから,長時間履くとスニーカーより疲れやすいことが示唆された.ヒール高さ3cmは,FRT,FRTでの重心の前方移動距離,FRTでの下腿三頭筋の筋活動量のいずれもスニーカーと差がなく,この点において最も推奨できるヒールの高さと考える.エネルギー代謝の観点からヒール高さを検討した先行研究では最適値は3cmとしている(石毛, 1961).本研究の結果は先行研究を追認する.一方,歩行パラメーターの評価ではスニーカーに比べ,歩行速度が若干遅くなり,ストライド小さく,やや小股で歩く傾向であった.ヒール高さ3cmの婦人靴は,動的バランスではスニーカー程度の性能があるが,歩行時はスニーカーよりストライドの小さな歩行になることが考えられる.【理学療法学研究としての意義】婦人靴によるけがや障害予防のためのユーザーへの注意喚起に必要な基礎的データを示すものとして意義がある.
著者
松山 太士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100909, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】 スキルとは,「手腕.技量.また,訓練によって得られる特殊な技能や技術」とされる.専門職として理学療法士が身につけるべきスキルは多岐にわたり,また難易度の高いスキルを習得するには繰り返し何度も経験することが必要となる.卒前教育において,スキル習得の機会は主に臨床実習の場である.しかし,近年は患者の権利意識の高まりやコンプライアンス遵守の必要性,集団療法から個別療法のみの診療体制へと変遷したこと等,理学療法士を取り巻く環境は大きく変化し,無資格者である学生が臨床実習で経験を積むことが以前より困難になっているのが現状である.一方,卒後に目を向けると,予防から急性期・回復期・生活期まで理学療法士の活躍の場は拡大しており,臨床現場で求められるスキル項目は近年増加している.よって,臨床実習中に経験するスキル項目と,卒後必要とされるスキル項目との乖離を埋めるような工夫が求められる. 本研究の目的は,臨床実習中に経験したスキル項目と卒後必要とされるスキル項目とを比較検討し,卒前教育と卒後教育とが一貫して継続される臨床実習の実現へと活かすことである.【方法】 当院の理学療法士のうち,急性期の整形外科・脳神経外科・神経内科担当チーム,急性期の外科・内科担当チーム,回復期リハビリ病棟担当チーム,訪問・通所リハ担当チームそれぞれのチーム内指導者を対象に,現場で必要なスキル項目を自由記載でアンケート調査した.次に,臨床経験1~2年目の理学療法士11名を対象に,学生時代に臨床実習で経験した事のある項目について指導者から調査した項目の中から選択するよう求めた.経験した事のある項目については,「指導者の実践を見学のみ(以下,見学)」「指導者の実践を模倣しながら実施(以下,模倣)」「指導者の監督のもと単独で実施(以下,実施)」のどの段階まで経験したのかを回答するよう求めた.【倫理的配慮,説明と同意】 全ての対象者に対して研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 指導者の求めているスキル項目は各チームによって大きく異なっていた.また,「吸引の知識・技術」「人工呼吸器管理下のリスク管理方法」「心電図モニターの理解とリスク管理方法」「ケアマネとの連携方法」など,無資格の状態で経験することが困難な項目や,複合的スキルが要求され臨床実習中での習得は難易度が高いと思われる項目も散見された. 臨床実習中に経験したスキル項目は,リスク管理に関する項目:「フィジカルアセスメント」と「離床時の点滴・尿道カテーテル等の扱い方や禁忌事項」は概ね実施されていたが,「感染対策」「NGチューブ,胃瘻の扱い方や禁忌事項」については未実施も多く存在した.動作の分析・介助方法に関する項目:「歩行分析,動作分析」「歩行介助方法」「移乗動作介助方法」はいずれも概ね実施されていた.多職種連携に関する項目:「看護師との情報共有」は概ね実施されていたが,「ケアマネとの連携方法」「リハ実施計画書」の作成」は殆どが未実施であった.「カンファレンスでの報告」は実施が2名であった.機器の使用方法に関する項目:「電動ベッドの操作方法と注意点」は概ね実施されていた.「物理療法の適応と使用方法,禁忌」は概ね実施されていたが未実施が2名存在した.「車椅子の構造理解,調整」と「装具の選定,調整,フィッティング」は殆どが未実施あるいは見学であった.【考察】 各チーム指導者が求めているスキル項目は大きく異なっていたことから,実習先の施設あるいは卒後就職する施設の特性により経験できるスキル項目・必要とされるスキル項目は大きく異なることが考えられる.スキル項目の難易度については,臨床実習中に経験しておくべき内容と卒後教育にて担うべき内容とを理解した上で指導に当たることが重要である.臨床実習で経験した項目については,「感染対策」「NGチューブ,胃瘻の扱い方や禁忌事項」「実施計画書の作成」「カンファレンスでの報告」「車椅子の構造理解,調整」と「装具の選定,調整,フィッティング」等は卒後多くの施設で求められ,かつ臨床実習にて経験が可能と思われるスキル項目であることから,臨床実習中に経験を促す必要がある.臨床実習では,スキル項目の施設特性・難易度を考慮した上で臨床現場に求められている項目を経験できるよう配慮することが重要であるが,この実現にはスキル項目を細分化し経験させるクリニカルクラークシップ方式での教育体制が必要である.【理学療法学研究としての意義】 臨床現場で必要なスキル項目の習得には臨床実習はどうあるべきかを提示したことにより,卒前教育と卒後教育とが一貫して継続される臨床実習の実現に寄与することができる.
著者
光武 誠吾 河合 恒 大渕 修一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100956, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】リテラシーとは、もとは読み書き能力のことを示す用語であるが、健康情報に関連した文脈におけるリテラシーは、ヘルスリテラシーと呼ばれ、健康づくりのために必要な情報を得て、適切に活用するための能力とされる。ヘルスリテラシーが高いことは、望ましい健康行動や身体的、精神的な健康状態の良さに影響することが示されており、米国の健康政策指標であるHealthy People 2020でもヘルスリテラシーの向上が重点分野の一つとして定められている。健康分野におけるヘルスリテラシーの影響や介入研究について英語で記載されている文献については文献研究が試みられているが、我が国におけるヘルスリテラシー研究について整理した報告は不十分である。欧米諸国に比べ、我が国は単一民族国家で識字率も高いことから、我が国でのヘルスリテラシー研究を整理することは意義がある。本研究では、我が国におけるヘルスリテラシー研究を概観し、ヘルスリテラシー研究に関する今後の課題を特定する。【方法】英語文献の検索には、米国国立医学図書館が提供する文献データベース MEDLINEを用い、"health literacy"と"Japan"をキーワードとした。また、日本語文献の検索には、医学中央雑誌(医中誌)を用い、「ヘルスリテラシー」をキーワードとして検索した。いずれのデータベースでも2012年11月15日を最終検索日とした。採択基準は、1.英語か日本語で記述、2.ヘルスリテラシーが主要な研究対象、3.我が国での研究、4.査読付き雑誌掲載論文、と設定し、タイトルと抄録、本文から論文の内容を筆者が精査した。MEDLINEでは31件、医中誌では21件の文献が抽出され、2つのデータベースで重複していた3件を調整し、合計で49件が検出された。そのうち、採択基準をすべて満たした26件と文献リストより、採択基準をすべて満たした2件、合計28件を文献研究の対象とした。【結果】ヘルスリテラシーの概念整理や米国における健康教育施策に関する紹介を目的とした文献研究が6件、ヘルスリテラシーの尺度開発や健康項目との関連を検討した横断的質問紙調査研究が16件、半構造面接等の質的分析手法を用いた研究が4件、介入による前後比較研究が2件であった。我が国で用いられているヘルスリテラシーの概念や尺度の多くは、Nutbeamが提案する機能的ヘルスリテラシー、相互作用的ヘルスリテラシー、批判的ヘルスリテラシーの3つから成るモデルに準拠していた。欧米では機能的ヘルスリテラシーに焦点を当てた尺度であるThe Test of Functional Health Literacy in Adults (TOFHLA)やRapid Estimate of Adult Literacy in Medicine (REALM)を用いることが多い一方で、我が国では、相互作用的、批判的ヘルスリテラシーに着目した尺度が開発され、質問紙調査にて用いられていることが多かった。また、Nutbeamのヘルスリテラシーモデルでは、ヘルスリテラシーは臨床場面において、患者の治療への理解や医療従事者と患者間のコミュニケーションに影響する「リスク」と、公衆衛生場面において、健康教育や健康づくりのアウトカムとして個人の健康を決定する「資産」として考えられている。我が国でも、臨床場面では糖尿病を呈した者を対象とし、公衆衛生場面では、会社員や市区町村における一般市民を対象とした研究も散見されるが、米国における研究の蓄積と比較すると不十分である。相互作用的、批判的ヘルスリテラシーの高さは、糖尿病患者における糖尿病の管理状態や自己管理に関する自己効力感の高さに関連があることが示され、一般成人では、健康的な生活習慣や適切なストレス対処行動にヘルスリテラシーの高さが関連することが示されていた。さらに、精神的な疾患のセルフケアに関連するメンタルヘルスリテラシーや健康情報の中でも栄養に関する情報に特定した栄養リテラシー、健康情報源の中でもインターネット上の健康情報を扱う能力であるeヘルスリテラシーといったより限定的な文脈でのヘルスリテラシーに関する概念整理や尺度開発が検討されていた。【考察】欧米と比較すると我が国は単民族国家で識字率も高いため、機能的ヘルスリテラシーよりも、相互作用的、批判的ヘルスリテラシーに着目した研究を今後も蓄積していくことが求められる。具体的には、多様な疾患を呈する者を対象とすること、大規模横断調査や縦断調査を用いて、より精度の高いヘルスリテラシーの役割に関する根拠を示していくこと、が課題として挙げられる。【理学療法学研究としての意義】臨床場面における患者との適切なコミュニケーションの確立や、健康づくりの促進のために、ヘルスリテラシーに合わせた健康情報の提供方法やヘルスリテラシーの教育プログラムを検討することは理学療法学研究においても意義深い。
著者
稲垣 郁哉 小関 泰一 財前 知典 小関 博久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101669, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】近年、体幹と下肢の運動連鎖について述べた研究は数多く報告されている。しかし、体幹と上肢の運動連鎖についての研究は少なく、中でも末梢に存在する手部と体幹機能について述べた研究はほとんどみられない。我々は先行研究により、第5 中手骨の外がえし誘導テーピングが荷重位におけるプッシュ動作時の前鋸筋活動を増加させるという報告を行った。この結果から手部と体幹に関係があることが示唆された。この現象は、荷重位のみでなく非荷重位でも観察されることを臨床上経験する。そこで今回は、第5 中手骨外がえし誘導テーピングが非荷重位におけるプッシュ動作時の前鋸筋活動と、前鋸筋作用である肩甲骨外転可動域に及ぼす影響を検証し、荷重位の結果と比較することを目的とした。【方法】対象は整形外科疾患など既往のない健常成人男性15 名(平均年齢23.9 ± 2.9 歳)とした。第5 中手骨誘導は入谷式足底板の評価に用いる第5 列外がえし誘導テーピングに類似させ、第5 中手骨頭と舟状骨間に貼付し、第5 中手骨誘導と誘導なしに分類した。テーピングは長さ8cm、張力200mgに統一し、同一験者が施行した。課題動作は、背臥位にて左肩関節屈曲90°、肘関節伸展位、前腕および手関節中間位、手指伸展位で、脊柱の棘突起が離床しない範囲での最大プッシュ動作とした。また、頭位や体幹の過度な回旋が生じた場合は除外した。被験筋は左前鋸筋とし、表面筋電図は日本光電社製多チャンネルテレメーターシステムWEB7000 を使用、サンプリング周波数は1000Hzにて計測した。肩甲骨外転可動域は肩峰の後角を指標にし、プッシュ動作時の床面からの移動量を定規にて測定した。筋電波形は、プッシュ動作を5 秒間保持してもらい、安定した2 秒間を抽出した。得られた筋電波形をキッセイコムティック社製BIMUTAS−Video for WEBにて積分値(以下IEMG)を求め、被験筋の最大等尺性随意収縮を基に%IEMGを算出した。統計処理にはSPSS Statistics 21 を用いてそれぞれ対応のあるt検定で比較検討した。なお有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分に説明し、同意を得た上で計測を実施した。【結果】第5 中手骨外がえし誘導は誘導なしと比較し、前鋸筋活動が有意に増加し(平均値12.5 ± 5.8%、p<0.01)、肩甲骨外転移可動域も有意に増加した(平均値1.5 ± 0.7cm、p<0.01)。このことから、第5 中手骨外がえし誘導テーピングにより荷重位、非荷重位ともにプッシュ動作時の前鋸筋活動が増加する結果となった。【考察】本研究では第5 中手骨外がえし誘導テーピングにて非荷重位でのプッシュ動作により前鋸筋活動と肩甲骨外転可動域が増加した。このことから、第5 中手骨に対する誘導においては荷重位および非荷重位ともに前鋸筋活動に同様な影響を及ぼすことが示された。第5 中手骨は手部における外側の縦アーチに関与し、手部の支持性に寄与することが考えられる。手部の支持性向上は、上肢帯のユニットの安定性を高め、肩甲胸郭関節を安定させる前鋸筋の活動が向上したと考える。足部機能は骨盤を含めた下肢ユニットに影響を与えることが報告されており、足部と同様に、末梢部である手部機能も、上肢ユニットに影響を及ぼすことが考えられる。このことは、発達に伴う上肢の役割が荷重位から非荷重位へと移行していく現象と深く関わるものと推察される。つまり、荷重位における手部と体幹部の間には運動連鎖が存在し、この動きが非荷重位においても反映していると考えられる。【理学療法学研究としての意義】第5 中手骨誘導が荷重位、非荷重位において前鋸筋活動に同様な影響を及ぼすことが示唆された。臨床においては手部を含む上肢に対する理学療法は非荷重位で展開されることが多く、本研究は手部からの運動連鎖を把握するとともに、上肢の理学療法を行う上での新たな展開になるのではないかと考えられる。今後は、第5 中手骨誘導における手関節、肘関節などの各関節機能に着目し、より正確な運動連鎖を検証していく必要があると考える。
著者
田鹿 慎二 島内 卓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100201, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】体幹の動的安定性を保つ為には、運動の方向や外的な荷重に対処する表層筋と、個々の脊椎間の安定性に関与する深層筋が、適切なタイミングおよび適切な活動量で機能しなければならない。Kaderらは腰痛患者の80%に多裂筋の萎縮があることをMRIにて報告し、多裂筋の機能不全と腰痛には有意な相関があることを報告している。そこで今回、慢性腰痛症患者が外的な荷重に対処した際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用いて検証した。【方法】現在著名な神経症状を有さず、3ヶ月以上腰痛が継続している慢性腰痛症患者10名(男性10名、平均年齢36.8±9.2歳)と腰痛を有さない健常群12名(男性11名女性1名、平均年齢26.7±2.2歳)を対象とした。尚、事前に研究の目的と方法を説明し同意を得た上で測定を実施した。測定肢位は被験者を安楽な立位姿勢に保たせ、次に肩関節屈曲30°、外転0°、肘関節屈曲70°位にて前腕を90°回外させた状態と定めた。被験筋は多裂筋(L5/S1棘突起外側)および脊柱起立筋(L1棘突起外側)とした。また、荷重負荷の瞬間がデータ上に記録されるように圧力センサー(FRS402)を被験者の両手掌面の第2中手骨頭部に固定した。その後重さ3Kgのメディシンボールを被験者の手掌より45cm高位より落下させ、両手にて捕球した際の多裂筋、脊柱起立筋の活動量と反応開始時間を計測した。尚圧力センサーからのアナログ信号をサンプリング周波数1KHzにてパーソナルコンピューターに取り込み解析を行った。計測は5回行い、その平均値を代表値として算出し測定には表面筋電図(Megawin バイオモニターME6000)を用いて動作により得られたデータを全波整流した後、正規化(100%MVC)し各筋のピークトルク値を求めた。また反応開始時間については、圧力センサーが反応した時点を基準の0秒とし、安静立位時における基線の最大振幅±2SDを超えた時点を反応開始時間として算出し比較検討を行った。統計処理には対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】メディシンボールを捕球した直後の脊柱起立筋の筋活動は腰痛群85.6%に対し健常群68.1%と腰痛群が有意に高い値を示し(p<0.05)多裂筋の筋活動は腰痛群49.4%に対し健常群50.3%と有意差は認められなかった。外的荷重に対する多裂筋の反応開始時間に関しては、腰痛群がボールを捕球し圧力センサーが反応する0.19秒前に先行して活動するのに対し、健常群は0.14秒前に先行して活動する結果となり、2群間に有意差は認められなかった。【考察】慢性腰痛症患者に外乱負荷や外的荷重が生じた際の多裂筋及び脊柱起立筋の筋活動量と反応開始時間を表面筋電図を用い客観的に評価し、機能不全の原因を明確にする目的で今回の研究を行った。しかし多裂筋において、負荷発生時の反応開始時間の差は両群間で認められず、Newmanらの慢性腰痛症患者は多裂筋の萎縮により、活動開始時間が遅延し機能不全が生じるとする報告とは異なる結果となった。一方で慢性腰痛症患者の脊柱起立筋の活動量が健常群よりも高いことが確認された。この結果について、両群間において多裂筋のピークトルク値に有意差は認められないものの、慢性腰痛症患者の多裂筋にはMRIにて筋萎縮が認められるとした報告から、外的荷重が発生した際に生じる体幹の前方モーメントに抗する多裂筋の収縮力では腰部の安定化が不十分となり、代償として脊柱起立筋の筋活動が過剰になったと推測した。今回の結果から腰痛が慢性化する背景には、筋バランスの不均整による脊柱起立筋の慢性的な疲労の蓄積が強く関与していることが考えられる。
著者
小倉 正基 今枝 裕二 阿部 光 富田 正身 福田 卓民
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102095, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節の可動性が低下することで立位姿勢のアライメント異常や歩行バランス低下、歩容の異常などが生じるといわれている。しかし身体機能の低下にともない歩行が困難となり、日常生活での起立や移乗に介助を要するような高齢者を対象とした足関節の可動性に関する報告は少ない。足関節の背屈制限は、起立や移乗の介助量増加や動作能力向上の阻害因子にもなり、引いては離床機会の減少につながると考えられ、自立歩行や立位が困難であっても可動性を維持する必要のある関節であると考える。今回、足関節の可動域が生活に与える影響を検討することを目的に、療養病床における高齢障害者の生活状況と足関節背屈制限の関係について調査した。【方法】対象は2012年8月に当院在院中の708名(男性:161名、女性:547名、平均年齢88.0歳)とした。生活状況は障害高齢者の日常生活自立度に準じ、A群(81名)、B群(328名)、C群(298名)の3群に分け(Jは該当者無し)、それぞれの左右足関節背屈可動域(膝関節屈曲時および伸展時)を測定し、その平均値を比較した。統計処理はt検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】研究は院内で検討し承諾を受け、対象者またはその家族に研究の目的と方法を説明し同意を得た。【結果】膝屈曲時の足関節平均背屈角度は、A群は右16.7±8.1°/左16.2±8.2°、B群は9.4±9.7°/9.0±9.7°、C群は-6.1±18.2°/-6.0±18.3°であり、膝伸展時においてA群は右5.5±6.0°/左4.9±6.5°、B群は-0.7±8.7°/-0.3±8.6°、C群は-13.9±16.6°/-14.4±16.5°であった。足関節背屈角度は膝屈曲時および伸展時ともにA群とB群、B群とC群との比較において有意に減少していた。【考察】加齢にともない足関節背屈可動域は減少する傾向にあるとされているが、今回の調査では生活状況により3群に有意な差がみられ、A群に比べB・C群の足関節背屈制限が著明であった。B群は移動が車椅子主体であり、移乗動作を自立または介助により行なうものの、日中は座位中心で膝関節屈曲位、足関節底背屈0°前後の肢位で過ごす時間が長いと思われ、歩行のような連続した足関節底背屈運動の機会がないことによる足関節周囲筋の伸張性低下が考えられる。また、膝伸展時の平均背屈角度は0°を下回っており、移乗時に立位をとる際にも膝関節は完全伸展位にならず、二関節筋である腓腹筋が十分に伸張されていない場合が多いものと考えられる。また長時間の座位保持による影響から足関節周囲に浮腫がみられることも多く、足関節可動域制限の発生因子となっている可能性がある。C群は日中の臥床時間が長く、足関節は底屈位のまま保持されていることが多い。自動・他動での関節運動の機会が少なく、筋や腱の伸張性低下が生じやすい状況にあると考えられる。沖田らは弛緩位で不動化された骨格筋は伸張位で不動化された場合より短期間で筋長が短縮したと報告している。また不動の期間が長期化することにより骨格筋だけでなく、関節包や靱帯などにも器質的変化をきたすとされている。C群では-60°以上の背屈制限を呈する者もみられ、器質的変化が関節包や靱帯などに及んでいる可能性もあると考える。今回は横断的な調査であり、経時的な変化や効果的な介入については今後の課題である。B群はC群の予備軍と捉え、離床し車椅子に乗車するだけでは足関節の可動性は低下する可能性があるため、足関節周囲筋の収縮・弛緩を引き出しながらの立位練習による伸張性の維持、足関節自動運動やストレッチなどの積極的な介入が必要と考えられる。また対象者の能力を最大限に活かせる介助方法の指導により、日常生活動作で機能維持を図ることも重要である。当院ではC群の対象者でもリスクを考慮しながら可能な場合は立位練習を実施している。離床機会が減少し臥床傾向になると短期間で背屈制限が生じる可能性もあるため、常に身体状態を把握し、立位練習やストレッチなどで足関節の可動性維持を図る必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の調査結果は、療養病床における足関節背屈制限の状況を生活状況別に示し、これからの検証と介入の必要性を示すことができたものと考える。理学療法の分野として今後は経時的な変化を追うこと、積極的な介入による効果判定を示すことが必要であると考える。
著者
若林 諒三 浅井 友詞 佐藤 大志 森本 浩之 小田 恭史 水谷 武彦 水谷 陽子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101957, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】立位安定性は、外界に対する身体の位置関係を視覚、前庭感覚、足底感覚、固有感覚情報により検出し、それらの求心性情報が中枢神経系で統合され、適切な運動出力が起こることで保たれている。立位安定性を保つ上で特に重要となるのが、自由度の高い頭部の運動を制御することである。頭部の制御は、前庭感覚、頚部からの求心性情報をもとに頚部周囲筋が協調的に活動することで、姿勢変化に応じて頭部の垂直固定、意図した肢位での保持、外乱刺激に対する応答が可能となる。そのため、前庭機能障害や頚部障害の患者では前庭、頚部からの求心性情報の異常により立位安定性が低下することが報告されている。また、健常成人においても静止立位と比較して頭部回旋運動時の立位重心動揺は有意に増加することが報告されている。一方、頚部関節位置覚は前庭感覚とともに頭部の位置・運動情報を中枢神経系に提供していることから、頭部運動時の立位安定性に関与する可能性が考えられるが、その関連性は明らかでない。したがって今回、頭部回旋運動時の立位安定性と頚部関節位置覚の関連性についての検討を目的に研究を行ったので報告する。【方法】健常成人25 人(28.6 ± 6.1 歳)を対象とした。被験者に対して頚部関節位置覚の測定および頭部正中位での重心動揺、頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定を行った。頚部関節位置覚の測定は、Revelらが先行研究で用いているRelocation Testを使用した。椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着させ、200cm前方の壁に投射させた。安静時の投射点に対する、閉眼で頚部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点の距離を測定し、頚部の角度の誤差を算出した。測定時に被験者の後方にビデオカメラを設置し、我々が開発した解析ソフトを使用して解析を行った。頚部関節位置覚の測定は、左右回旋それぞれ10 回行い平均値を代表値として算出した。頭部正中位での重心動揺の測定は、Neurocom社製Balance Master®を使用して、modified Clinical Test of Sensory Interaction on Balanceにて行った(以下Normal mCTSIB)。Normal mCTSIB の条件1 は開眼・固い床面、条件2 は閉眼・固い床面、条件3 は開眼・不安定な床面、条件4 は閉眼・不安定な床面である。頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定はNormal mCTSIBと同様の条件下で行い(以下 Shaking mCTSIB)、測定中の頭部回旋運動をメトロノームで0.3Hzに合わせて約60°の範囲で行うよう被験者に指示した。重心動揺の指標には重心動揺速度(deg/sec)を使用した。また、測定中に転倒したものは解析から除外した。統計処理はSPSSを使用し、Relocation TestとNormal mCTSIBおよびShaking mCTSIBの相関関係をピアソンの相関係数を用いて検討し、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】日本福祉大学ヒトを対象とした倫理委員会の承諾を得た後、対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】Relocation Testの平均値は5.36 ± 2.06°であった。Normal mCTSIBのすべての条件においてRelocation Testとの相関関係は認められなかった。Shaking mCTSIBの条件1 においてRelocation Testとの間に中等度の相関(r = 0.42)が認められた。【考察】本研究の結果より、健常成人において、Shaking mCTSIBの条件1 とRelocation Testとの間に中等度の相関関係が認められた。Honakerらの先行研究によると頭部回旋運動は立位安定性を低下させることが報告されている。また立位安定性保つ上で頭部の運動を制御することが必要であり、頭部の位置・運動に関する求心性情報を伝える頚部関節位置覚の正確性が重要であると考えられる。したがって、本研究では頚部関節位置覚と頭部回旋運動時の立位安定性との間に中等度の関連性が認められたと考えられる。また今回、Relocation TestとNormal mCTSIBやShaking mCTSIBの条件2、3、4 との間には相関関係が認められなかった。姿勢制御においては頚部関節位置覚以外にも、前庭感覚、視覚、足底感覚などの感覚系を含め様々な因子が関与する。本研究では健常成人を対象としており、閉眼や不安定な床面などで一部の感覚系が抑制された条件下では前庭感覚などの感覚系の個人差が反映されるため、頚部関節位置覚との相関関係が認められなかったと推察される。【理学療法学研究としての意義】日常生活活動において頭部を動かす機会は多く、姿勢安定性を保つために頭部の運動を制御することは重要であると考えられる。本研究において頚部関節位置覚が頭部回旋運動時の姿勢安定性に関連することが示されたことから、高齢者やバランス機能低下を有する患者において頚部関節位置覚の評価を行い、それを考慮した治療プログラムを立案することの必要性が示唆された。
著者
鈴木 静香 田中 暢一 村田 雄二 永井 智貴 高 重治 正木 信也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102087, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 我々は、第47回日本理学療法学術大会において、結帯動作の制限と考えられる筋に対してストレッチを施行し、結帯動作の即時効果の変化を捉えた。そして、結帯動作の制限因子は、烏口腕筋、棘下筋であることを報告した。その後、「烏口腕筋・棘下筋は介入回数が増えることでより効果が増大し結帯動作は改善するのではないか?」また、「小円筋は介入回数が増えることで効果が出現し結帯動作は改善するのではないか?」という疑問が出てきた。そこで今回は、前回介入した筋に対して、介入する回数を増やし結帯動作の変化を捉えることを目的に研究を行なった。【方法】 対象は左上肢に整形外科疾患の既往のない健常者10名(男性7名、女性3名、年齢22~36歳)とした。結帯動作の制限因子と考えられる烏口腕筋、棘下筋、小円筋を対象とし、これらの筋に対してストレッチを週2回を2週間、計4回実施した。結帯動作の評価方法は、前回同様、立位にて左上肢を体幹背面へと回し、第7頸椎棘突起から中指MP関節間の距離(以下C7-MP)を介入前後で測定し比較を行った。各筋に2分間ストレッチを実施する群(烏口腕筋群、棘下筋群、小円筋群)とストレッチを加えず2分間安静臥位とする群(未実施群)の計4群に分類し、複数回の介入による結帯動作の経時的変化を検討した。よって、1回目介入前の値を基準値とし、C7-MPの変化は、基準値に対し各介入後にどれだけ変化したかを変化率として統計処理を行った。また、それぞれの筋に対する介入効果が影響しないよう対象者には1週間以上の間隔を設けた。統計処理では、各群について、複数回の介入による結帯動作の変化を検討するために対応のある一元配置分散分析を用い、多重比較にはTukey法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に対して事前に研究参加への趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 棘下筋群の変化率の平均は、1回目10.8%、2回目11.4%、3回目15.7%、4回目19.5%であった。一元配置分散分析の結果、棘下筋群のみに有意差を認めた(p=0.0003)。しかし、多重比較では各回数間の有意差は認めなかった。また、烏口腕筋群や小円筋群や未実施群は、有意差は認めなかった。【考察】 結果では棘下筋群のみに有意差を認め、前回の介入でも棘下筋に効果を認めた。高濱らは、結帯動作の制限因子は棘下筋であると述べている。以上より、棘下筋に介入することで結帯動作を改善することができるとわかった。しかし、多重比較において、有意差を認めなかったため、どの回数間で効果が得られているのかを追究することができず介入回数についての考察に至ることができなかった。その原因としては、症例数が少ないことが考えられる。今後は症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組み、介入回数についても考察したいと考える。烏口腕筋では、前回、介入において即時効果を認めていたが、複数回の介入による結帯動作の変化は認めなかった。烏口腕筋は肩の屈筋であり、上腕骨の内面に付いているために伸展および内旋で緊張するという報告もあり、結帯動作における制限因子の可能性は高いと考えられる。しかし、今回有意差を認めなかった原因は、症例数が少ないことや、他にストレッチの強さや場所など方法になんらかの問題があったとも考えられる。今後、方法を確立した上で、症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組んでいきたいと考える。小円筋では、小円筋は介入回数が増えることで効果は出現し結帯動作は改善するのではないかと考えていた。しかし、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めなかった。高濱らは、結帯動作は肩の外転・伸展・内旋の複合運動であり、小円筋は内転位であるために下垂位では緩んでいると述べている。以上より、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めず、結帯動作における改善には小円筋は関係がないと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果より棘下筋に複数回介入することで、結帯動作の変化率はより増大することがわかった。臨床において結帯動作が困難な症例に対しての介入の一つとして有効である可能性がある。具体的な介入回数について追究できなかったため、今後の課題として取り組んでいきたい。
著者
野田 優希 古川 裕之 福岡 ゆかり 松本 晋太朗 小松 稔 内田 智也 藤田 健司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101534, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 近年、各種スポーツに関する外傷・障害調査は多数報告されているが、バレーボールに関する報告は比較的少ない。過去の報告では、その多くが全体もしくは男性のみ、女性のみの疾患別の割合を示したものであり、傷害と性別の関係を分析した報告は我々が渉猟し得た限りではみられない。そこで今回、2007年4月から2011年10月までに当院を受診したバレーボール競技者の傷害調査を行い、男女間で傷害発生部位が異なるか否か、また各部位ごとの発生傷害に違いがみられるかについて傷害発生率をもとに検討した。【方法】 2007年4月から2011年10月までに当院を受診したバレーボール競技者718名1524件(男性431件、女性1093件)のうち30代未満の競技者(469名、1046件)を男女に分けた(男性:142名、332件、女性:327名、714件)。傷害部位は、肩関節、腰部、膝関節、下腿、足関節、足部、その他の7部位に分け、各部位ごとの傷害発生率を算出した。また、各部位で傷害を疾患別に分類し疾患別傷害発生率を算出した。分析については、各部位ごとの傷害発生率が男女間で違いがみられるか検討し、さらに各部位内の疾患別傷害発生率が男女間で違いがみられるか検討した。統計学的検定には、カイ二乗独立性の検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 当院倫理委員会の承認を得、各被験者には本研究の趣旨と方法について説明し同意のうえ実施した。【結果】 各部位別の傷害発生率は、肩関節は男子で11.8%、女子で7.6%、腰部は同様に11.8%、13.6%、膝関節は27.6%、23.8%、下腿は5.6%、8.3%、足関節は21.7%、14.7%、足部は7.1%、16.0%で部位ごとの傷害発生率に性差はみられなかった。各部位内での疾患別傷害発生率では、肩関節と腰部、足部で男女間に違いがみられた。これら3部位内において男女間で傷害発生率が異なる傾向がみられたのは、肩関節では、インピンジメント症候群と腱板炎・腱板断裂でともに男性の発生率が高い傾向であった。腰部では椎間板性腰痛症でこれも男性の発生率が高い傾向であった。足部では中足骨骨膜炎・疲労骨折、扁平回内足で、これは女性の発生率が高い傾向であった。【考察】 バレーボールの傷害特性として、肩関節、腰部、膝関節、足関節に傷害が多いことは周知のとおりである。また、バレーボールは男女問わず小学生から中高年まで幅広い年齢層に競技者が多いスポーツである。そこで今回傷害発生率に性差がみられるか検討した。選択した7部位の傷害発生率に性差はみられなかったが、これはバレーボールの傷害において男女ともにこれらの部位に傷害発生率が高いことを示しておりこれまでの報告を支持する結果となった。肩関節、腰部、足部において男女間で違いがみられた。肩関節では、男性においてインピンジメント症候群、腱板炎・腱板断裂の発生率が高く、腰部では椎間板性腰痛症の発生率が高い傾向であった。また、足部では女性において扁平回内足、中足骨骨膜炎・疲労骨折の発生率が高い傾向であった。これらのことから、男性ではスパイク時に肩関節へ繰り返しストレスが加わり関節運動の破綻をきたしていること、またスパイク時の体幹の伸展屈曲動作により椎間板へストレスが生じていることが推察された。女性においてはブロック・スパイクジャンプ時・着地時に足部へ繰り返される荷重ストレスが傷害発生の要因であることが考えられた。試合を見ていても、男性では一発の強烈なスパイクで得点が決まり比較的ラリーが短いのに対し、女性では長いラリーの末得点が決まることが多い。このような試合の流れの違いが、今回の疾患別傷害発生率に男女間の違いとなって表れたのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ現場、日々の臨床においてバレーボール競技者を治療する際に感じている男女間での傷害の違いを提示することができた。バレーボールにおける傷害と性別の関係を知ることで、より効果的にトレーニング指導、傷害予防を行ことができる可能性が示唆された。
著者
竹林 秀晃 弘井 鈴乃 滝本 幸治 宮本 謙三 宅間 豊 井上 佳和 宮本 祥子 岡部 孝生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100757, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】近年,身体保持感や運動主体感などの自己身体感覚の研究において,視覚と体性感覚が時間的・空間的に一致することによりラバーハンド錯覚や体外離脱体験などの現象が引き起こされることが報告されている.一方,慢性疼痛の原因は,視覚情報と体性感覚情報の不一致が疼痛の原因となることが報告されている.そして治療として,鏡,ビデオ映像やVR 技術などを使用し,視覚と体性感覚のマッチングが有効であるとの報告がある.こうしたことから,自己身体を正確に認識するためには,様々な感覚モダリティの情報を統合することが必要である.しかし,姿勢制御において視覚刺激と身体情報の一致・不一致性についての報告は少ない.視覚情報と身体感覚情報(体性感覚,前庭覚)が一致しなければ,身体の違和感が起こり姿勢制御能力の低下やパフォーマンスがうまくできなくなる可能性がある.そこで,今回リアルタイムに視覚情報を変化させることで身体感覚情報との不一致をつくり,姿勢制御への影響を探ることを目的とした.【方法】対象は,健常成人18 名(年齢21.9 ± 0.4 歳)とした.測定肢位は,Head Mounted Display; HMD(HMZ-T2,SONY社製)を装着したタンデム肢位とした.HMDとデジタルビデオカメラ(HDR-CX270V,SONY社製)を同期化させ,被験者自身の後方から撮影した映像をリアルタイムにHMDに映写した.映像としてカメラを前額面上で右回転させ,設定角度は0°・45°・90°・135°・180°の5 つをランダムに映写した.測定時間は各30 秒とし,15 秒で設定角度へと傾け,15 秒で0°へと戻した.データは,重心動揺計(アニマ社製)にて,サンプリング周波数50HzでPCに取り込み,総軌跡長,矩形面積を算出した.統計学的解析は,一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を用いた.また,測定後,測定時の主観的感覚を聴取した.【倫理的配慮,説明と同意】実験プロトコルは,非侵襲的であり,施設内倫理委員会の承認を得た.なお,対象者には,研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】総軌跡長は,映像の回転角度180°において,回転角度0°より有意に高値を示した (p<0.01) .矩形面積は,回転角度135°と180°において回転角度0°より有意に高値を示した (p<0.01) .被験者からの主観的感覚の回答としては,「映像に抵抗しようと傾きと反対方向に傾いてしまう」などの映写された自己身体像に対して没入感があったことが窺える回答が得られた.【考察】立位姿勢保持では,視覚・体性感覚・前庭覚の情報が統合されて成り立つが,視覚情報による影響が大きい.しかし通常,自身の姿勢を視覚的に取得することは困難であり,本研究のように自己身体の後方からの映像は非日常的である.さらに,リアルタイムに映写する身体像を回転させることで,視覚情報に外乱刺激を与え,身体感覚情報との不一致の状況のみならず,遠心性コピーとの不一致も与えることになる.結果として回転角度が大きい場合において有意に重心動揺が大きくなった.これは,視覚情報と身体感覚情報の不一致の度合いが大きく,身体図式との整合性が合わず姿勢制御に影響を及ぼしたことを示唆している.これは,Mental Rotation課題において実際動かすことが難しい120°,240°に回転させた手の写真に対する反応時間が延長する報告やBiological Motionにおいて180°回転させた時には、運動の認知が低下する報告と同様なものと考えられる.日常見る機会の少ない角度の視覚情報であるため,視覚映像としての経験的要素が少なく身体図式が形成されていないためと考えられる.また,各回転角度が増大するにつれて回転角速度が速くなることが姿勢制御に影響を与えたことも考えられる.一方,回転角度が少ない場合は,日常経験可能な角度であることから身体図式の形成がされており,映写された身体像との不一致があっても,感覚の重みづけの変化がおこり,視覚情報よりも他の身体感覚情報がより賦活されている可能性や予測的側面により重心動揺を制御できる可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】姿勢制御において,視覚操作や視覚と身体感覚の一致性に着目する必要がある.視覚情報と身体感覚情報との不一致の状況では,感覚の重みづけの変化により体性感覚など自己身体へのアプローチを閉眼という環境以外で与えることが出来ると考えられ,新たな姿勢制御戦略や視覚や身体感覚情報の統合障害がある場合での評価やトレーニングにつながる可能性があると考えている.
著者
土橋 純美 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101903, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに,目的】足指握力が身体機能において重要な役割を持っているとの報告は多い.足指握力は安静立位時の姿勢調節を行っているとの報告や,足指握力強化による転倒リスク軽減の可能性,歩行能力向上の報告もある他,トップアスリートのパフォーマンスにおいても重要な役割を担っているとされている.また,扁平足では運動能力が劣ることが一般常識とされている.扁平足の子供はそうでない子供と比較して,片脚立位などの運動課題において成績が劣るとの報告や,立ち幅跳びや50m走などにおいて,アーチ未形成者は形成者に比べて成績が劣るとの報告がある.以上より,足指握力及び足部アーチは種々の身体機能面において重要であると言えるが,その関係性についての報告は少なく結果も様々である.また,足指握力の測定肢位は膝関節屈曲90°の端座位姿勢がよく選択されるが,日常的に足指機能を発揮しているのは歩行時や運動時など,荷重下の場合がほとんどであると思われる.荷重下で足指握力を測定することで,より日常生活上での能力として反映されると考えた.本研究の目的は,足指握力の測定を荷重下で行い,足指握力に影響を及ぼすとされるアーチ高率との関連性を検討することである.【方法】日常生活に支障を来たすような疼痛のない健常女子大学生24名(身長160.0±5.2cm,体重56.0±9.4kg,BMI21.9±3.5kg/m²).利き足はボールを蹴る足と定義し,全員右側であった.計測は全て自然立位下で行った.足長は,踵骨後端から最も長い足指先端までの直線距離とした.アーチ高は,床面から舟状骨粗面までの高さとした.アーチ高率は,足長に対する舟状骨粗面高の割合を算出した.足指握力は,足指筋力測定器(T.K.K.3362 武井機器工業株式会社)を用いて左右交互に2回計測し,平均値を採用した.統計処理は,足指握力とアーチ高率の関係性をみるために相関係数を算出した.有意水準は0.05未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の十分な説明を口頭及び文書にて行い,書面にて同意を得た.【結果】アーチ高率の平均は右側15.7±2.6%,左側15.9±2.8%であった.足指握力の平均は右側21.7±7.3,左側20.0±7.1であった.右側のアーチ高率と足指握力に有意な相関関係は認められなかった(p=0.35).左側のアーチ高率と足指握力にも有意な相関関係は認められなかった(p=0.20).その他,左右の足指握力と各体格要因(身長,体重,BMI,アーチ高)との間にも有意な相関関係は認められなかった.【考察】荷重下での足部アーチの高低が足指握力に及ぼす影響について検討した.足指握力に影響を与える因子として,アーチ高率が高いほど足指握力が強いという報告があるが,本研究の結果はこれとは一致しない.アーチ高率に関しては,体重負荷によって低下することが予想される.端座位の場合,足部にかかる荷重は下肢の重さ(体重の1/6)のみであるとされているが,立位姿勢となると全体重が足部に負荷される.これによりアーチが低下し,足指屈筋が伸張位となることで,充分な足指の屈曲が得られなかったのではないかと考えられる.また,一般的に筋力と体重には相関があるとされているが,足指握力に関しては,立位姿勢では足指が体重支持(バランス)に強く働き,座位姿勢時よりも筋力を発揮出来なかったのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】足指握力を荷重下で測定することによって,足指握力に影響を与える因子として考えられているアーチ高率との関連性を認めなかった.つまり測定肢位を変化させることでアーチ高率は足指握力に関与しなくなったと考えられる.よって,荷重によってアーチが低下しても,足指握力には影響を与えないということが示唆された.立位姿勢で足指握力を測定することは,特に高齢者やバランス障害のある患者においてはそれだけで危険な行為であり,足指握力に関連する因子も見出せない.そのため,足指握力の測定肢位は,荷重下である立位姿勢よりも,一般的に選択されている端座位姿勢が臨床的に有用であり,かつ安全であると考えられる.
著者
秋野 徹 波戸 真之介 鈴川 芽久美 林 悠太 石本 麻友子 今田 樹志 小林 修 島田 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101499, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】我が国では急速な高齢化が進んでおり、要支援や要介護状態となる高齢者は増加の一途を辿っている。その背景として、加齢や廃用による心身機能、認知機能の低下によって、日常生活活動(activities of daily living: ADL)が低下し、介護度が悪化する例は多く存在するものと考えられる。介護度の悪化がどのようにして起こったのか、介護度の悪化の傾向や要因を縦断的に大規模で調査した報告は、介護予防への取り組みにおいて重要性が高い。そこで本研究は、縦断的な調査により要介護度の悪化に影響を及ぼす要因を検討することを目的とした。【方法】対象は2005年10月から2012年10月の間で全国のデイサービスを利用し、2年間の追跡調査が可能であった要支援1から要介護4までの高齢者4212名(平均年齢82.2±6.6歳、男性1354名、女性2858名)とした。なお、追跡期間内に要介護度の改善が認められたものは対象から除外した。調査は、追跡調査開始時にベースラインとしてFunctional Independence Measure (FIM)、握力、歩行速度、Chair Stand Test- 5 times(CST)、開眼片脚立ち時間、Mental Status Questionnaire (MSQ)を測定した。その後2年間、1年ごとに要介護度の追跡調査を実施し、2年以内に要介護度の悪化した者を悪化群、悪化しなかった者を維持群とした。 統計学的解析は、ベースラインにおける各調査項目について、悪化群と維持群の間の差異を単変量解析(t検定、U検定、χ2検定)にて比較した。また、要介護度の悪化発生までの期間を考慮したうえで、要介護度の悪化に対する各調査項目の影響を検討するため、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。独立変数は性別、ベースラインにおける年齢、介護度、FIM運動項目の合計点、FIM認知項目の合計点、握力、歩行速度、CST、開眼片脚立ち時間、MSQとし、ステップワイズの変数減少法による分析を用いた。また、要介護度の悪化と有意な関連を示した変数に関してはハザード比を算出した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨および目的の説明を行い、同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】2年間の追跡期間における悪化群は2693名(平均年齢82.4±6.4歳、男性879名、女性1814名)、維持群は1519名(平均年齢81.8±7.0歳、男性475名、女性1044名)であった。単変量解析により、悪化群と維持群間を比較したとき、年齢は維持群が有意に低く、ベースラインにおける介護度は維持群が有意に重度であった。加えて、FIM運動項目合計点、握力、歩行速度、CST、開眼片脚立ち時間、MSQは維持群が有意に高い値を示した。Cox比例ハザード回帰分析の結果、モデルχ2検定は有意となり、要介護度の悪化に有意な関連を認めた変数は、性別(ハザード比:0.749、95%信頼区間:0.724~0.776)、ベースラインにおける介護度(ハザード比:0.819、95%信頼区間:0.740~0.906)、FIM運動項目合計点(ハザード比:0.996、95%信頼区間:0.994~0.998)、MSQ(ハザード比:1.063、95%信頼区間:1.049~1.077)、歩行速度(ハザード比:0.759、95%信頼区間:0.655~0.880)握力(ハザード比:0.988、95%信頼区間:0.981~0.996)となった。【考察】2年間の追跡調査にて要介護度が悪化した群と維持していた群を比較した結果、ベースラインでのFIM運動項目や運動機能は維持群のほうが有意に高かった、また、縦断的な解析により、ベースラインにおけるFIM運動項目、MSQ、歩行速度、握力が高いほど、要介護度の悪化の発生が増加することが示され、これらの評価指標が介護度の悪化の予測に有用である可能性が示唆された。特に歩行速度に関しては、ADLの低下に関連することや、将来の要介護度発生に影響を与えることが報告されており、本研究も先行研究を支持する結果となった。しかし、要介護高齢者においては歩行困難な対象が多く存在することを考慮する必要があり、今後は対象を限定したうえで要介護度の悪化への影響を検討することも課題である。【理学療法学研究としての意義】介護予防は、現在要介護状態にあるものを要介護状態に陥らないようにすることに加え、現在要介護状態にあるものの要介護状態を悪化させないことも含む。理学療法士としての介護予防への取り組みとして、歩行を含む心身機能、生活機能の維持・向上を図ることの重要性が縦断的に確認されたことは、重要な知見と言える。
著者
中山 大輔 齋藤 圭介 福永 裕也 小幡 太志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101297, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】介護老人保健施設(以下,老健)は,本来中間施設の役割を持ち,自宅復帰を前提とした介入が求められている.しかし現状では,在宅復帰率の低下や入所期間の長期化といった問題に直面している.老健における在宅復帰に関する先行研究では,さまざまな要因が関連していることが報告されているが,その研究蓄積は乏しく一定の見解は得られていない.それに対し,病院入院患者における在宅復帰に関する先行研究は,おおむね日常生活活動(Activities of daily living; ADL),認知機能,家族の介護力が,重要な規定要因として概ねコンセンサスが得られている.老健における在宅復帰の規定要因を検討するには,まず病院における在宅復帰の規定要因により老健入所者の在宅復帰を説明可能か検証するとともに,老健での独自の規定要因がある可能性を考慮し検討していく必要がある. 以上を踏まえ本研究では,老健入所者の在宅復帰に向けた指針を得ることをねらいに,病院での在宅復帰の規定要因に関するモデルを応用しその適切さを検証すること,ならびに老健入所者における在宅復帰の関連要因について検討することを目的とした.【方法】中国地方に位置する1か所の老人保健施設を調査対象施設として選定し,過去3年間の入所利用者130名とし,集計対象は退所先が病院や施設であった者,死亡退所者を除く81名(男性11名,女性64名,86.1±8.1歳)とした.調査方法は後ろ向きの縦断研究とし,介護記録,カルテを基に調査を行った.調査項目は基本的属性(性別,年齢,入所元),医学的属性(基礎疾患,医学的管理),身体機能(Rivermead Mobility Index ; RMI),ADL自立度(Barthel Index ; BI),認知機能(改訂長谷川式簡易知能評価スケール;HDS-R),行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; BPSD)の有無,補助介護者の有無とした. 基礎的検討として,施設からの在宅復帰者と入所者に分けて各要因との関連について群間比較を行った.年齢については二標本t検定を行い,RMI,BI及びHDS-RについてはMann-Whitney検定を行い,性別,基礎疾患,医学的管理,入所元,DBDを用いたBPSDの有無,補助介護者の有無についてはχ²検定を行った.病院における在宅復帰の規定要因により,老健入所者の在宅復帰を説明可能か検証した.統計処理に関しては,病院在宅復帰モデルで規定要因とされているADL自立度,認知機能,家族の介護力について,BI,HDS-R,補助介護者の有無をそれぞれ説明変数とし,在宅復帰の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.次いで,群間比較において統計的有意な関係が見られた変数を説明変数,在宅復帰の有無を従属変数としてWald統計量によるステップワイズ法により解析を行った. 【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として,調査施設の倫理審査を経て実施した.【結果】病院における在宅復帰の規定要因 とされているADL自立度,認知機能,補助介護者の有無は統計的有意な差がみられた.それに加え,RMI,入所元,褥瘡についても統計的に有意な差が認められた.病院における在宅復帰の規定要因の検証では,BI総得点のみ統計的に有意な関連が示され,他の変数については有意な関連が認められなかった. 上記結果を踏まえ, Wald統計量によるステップワイズ法により解析を行った結果,移動能力の指標であるRMI,ならびに入所元が,統計的に有意な関連を示した.一方,病院での在宅復帰の規定要因に関するモデル検証で有意であったBI総得点をはじめ,HDS-R得点,補助介護者の有無,褥瘡は棄却された.【考察】本研究により,老健入所者の在宅復帰を規定する要因は,病院入院患者を対象とした先行研究における知見とは異なる,独自の要因によって規定されている可能性を明らかにした.また今回の研究では,自宅復帰の規定要因として移動能力と入所元の2つの要因が検出された.このことは,必ずしもADLを自立させなくとも,姿勢や動作の獲得による介護負担軽減により,自宅復帰を促進できる可能性を示唆するものである.同時に,自宅からの入所者について退所出来る割合が高かったことは,自宅復帰の可能性を探る上で重要な目安となるものと考えられた.【理学療法学研究としての意義】老健における在宅復帰の規定要因を明らかにすることで今後のケアに向けての指針を得ることができ,理学療法分野においても在宅復帰に向けた適切なリハビリテーションを行うための基礎的資料となりうると考えられる.