著者
太田 珠代 妹尾 翼 布野 優香 加藤 勇輝 江草 典政
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101461, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 我々は,島根県内でのスポーツ傷害の予防や外傷からの復帰の積極的支援を目的として,島根大学医学部整形外科学教室と近隣の病院・養成校が協力し島根スポーツ医学&リハビリテーション研究会を組織した.その活動の一環として,2012年夏季に島根県隠岐の島町の中学生に対してスポーツ傷害の予防,成長期障害の早期発見のため運動器検診を行った.スポーツ傷害の原因として,overuse,柔軟性の低下,過負荷,アライメント・パフォーマンス不良,低栄養等が報告されている.運動器検診を通して,成長期スポーツ傷害の実態,スポーツ障害と関節柔軟性の低下との関連を明らかにし,今後の継続した支援に向けて様々な視点から検討したので以下に報告する.【方法】 島根県隠岐の島町の4中学校の1~2年生240名(男子:112名,女子:128名)に対して,関節可動域(ROM),柔軟性の指標として,股関節外旋(HER)・内旋(HIR),膝屈曲位での足関節背屈(DKF),膝伸展位での足関節背屈(DKE),指床間距離(FFD),下肢伸展拳上(SLR),踵臀部間距離(HBD)を計測した.成長期では大腿骨前捻角の個人差が大きく股関節回旋角度への影響があると考え,HERとHIR合計し孤として可動域を評価した(tHR).また,マークシートを用いた運動器疾患の一次スクリーニングを実施し,運動器疾患の疑いがあると判定された71名について,整形外科医が診察を行い,54名が運動器疾患有りと診断された.この内,急性外傷,側弯症,先天性疾患を除いた31名(男子:19名,女子:12名)をスポーツ障害有り群とし,残りの209名から急性外傷を除いた205名(男子:90名,女子:115名)をスポーツ障害無し群とし柔軟性を比較した.スポーツ障害の部位は上肢7名(男子:4名,女子:3名),下肢20名(男子:12名,女子8名),腰部4名(男子:3名,女子:1名)であり,各部位ごとに障害の有り群と無し群で柔軟性の比較・検討を行った.統計学的検定にてtHRは,正規分布していたためスチューデントのt検定を使用し,その他の項目は正規分布していなかったため,マン・ホイットニーのU検定を用いた.危険率5%未満を統計学的有意差有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】 事前に各学校に検診の意義と方法について説明し,同意を得て実施した.なお収集したデータは個人が特定できないよう匿名化した.【結果】 スポーツ障害有り群では右HERが[障害有り/無し] 60.6°/65.1°と有意に低下していた.障害部位別では上肢障害有り群では,右tHRが[障害有り/無し] 105°/123.5°と有意に低下しており,腰部障害有り群では,左HBDが[障害有り/無し] 3.1 cm/0.7 cm,DKFが[障害有り/無し] 17.5°/24.2°と有意に柔軟性が低下していた.下肢障害有り群では,柔軟性に有意差はなかった.他の検査項目では統計学的有意差は認めなかったが,障害有り群で柔軟性が低い傾向があった.【考察】 上肢障害は下肢柔軟性の低下に起因することが知られており,本研究においても上肢障害と股関節内外旋の合計角度が関係している事が示唆された.また,成長期においては股関節外旋・内旋の個々の柔軟性のみではなく,股関節内外旋の合計角度を観察していく事が必要であると考えられる.腰部障害では,足関節の柔軟性,ヒラメ筋,大腿四頭筋のタイトネスが関係している事が示唆された.一方,下肢障害では各測定項目との関連が見られなかった.これは,下肢障害の発生原因として,柔軟性だけではなく,overuse,アライメント・パフォーマンス不良の影響も大きいためと考えた.今回,各中学校でストレッチの指導を行っており,今後柔軟性の改善とともにスポーツ傷害の発生率が低下するかを明らかにするため,調査を継続していくことが重要である.【理学療法学研究としての意義】 学校単位での運動器に焦点をあてた検診は全国でも少なく,小学生・中学生の成長期におけるスポーツ障害、外傷とROM,柔軟性と因果関係のある因子を見つける事で,早期にスポーツ傷害の予防指導ができ,スポーツ傷害が減り,長期間スポーツに関われる子どもを増やせるのではないかと考えられる.
著者
大重 匡 村山 光史朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101204, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに・目的】 スポーツ競技の前には軽度ないし中等度の運動でウォーミングアップをおこなう。ウォーミングアップの目的の一つは体温を上昇させる事にある。体温の上昇は骨格筋温を上昇させ筋収縮の粘性抵抗を減少させる。粘性抵抗減少は筋収縮の機械的効率を高めることになる。そこで、運動前にウォーミングアップではなく、手軽に行える部分浴が体温を上昇させ運動効率向上効果を示すことができるのかについて検討した。【方法】 対象者は健康な若年男性9名(内訳:年齢22.3±1.0歳、身長174.0±3.8cm、体重63.6±10.3kg(Mean±SD)) である。部分浴は下腿浴とした。下腿浴は十分な安静後、室温21℃前後の環境で、41℃の部分浴を10分間施行後エルゴメータによる運動負荷を実施した。同一被験者にはcontrol群としてランダムに1日以上の間隔を空け部分浴を施行せず運動負荷のみ行った。湯温はTERUMO社製MODEL CTM205を使用し、41℃に保つよう設定した。下腿浴時の測定項目は舌下温、呼吸数、心拍数、血圧とした。測定は安静時と部分浴10分経過時に測定した。舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205、呼吸数・心拍数は日本光電社製BSM-2401、血圧は水銀血圧計を使用した。運動負荷はCOMBI社製エアロバイク75XLを使用し十分な安静後ウォーミングアップ程度の運動を考慮し75W3分間施行した。安静時および運動負荷中はアニマ社製携帯型酸素消費量計 AT-1100を用い酸素消費量、分時換気量、呼吸数を測定した。血圧は水銀血圧計で測定した。また運動負荷終了時には主観的作業強度Borg Scaleを用い測定した。統計処理は主観的温感強度以外対応のあるt検定で行った。主観的作業強度についてはノンパラメトリック検定(Wilcoxon検定)を行った。【倫理的配慮 説明と同意】 本研究は当国立大学医学部の倫理審査会において、審査を受け承認されたのち行った研究である。なお、被験者に対して本研究の説明を行い、同意文書を得て行った。【結果】 下腿浴後舌下温は安静時より有意に0.22±0.14℃上昇した(P<0.01)。呼吸・循環反応は呼吸数が2.8±4.4回/分に有意に増加し、心拍数も有意に5.3±7.7bpm増加した(P<0.05)。血圧は収縮期血圧、拡張期血圧ともに一桁程度低下したが有意差は認めなかった。運動負荷時の心拍数はcontrol群127.0±15.4(bpm)、下腿浴群123.4±15.1(bpm)となり有意に低下した(P<0.05)。酸素消費量はcontrol群15.8±1.4(ml/min・kg)、下腿浴群14.5±1.9(ml/min・kg)となり有意に低下した(P<0.01)。分時換気量はcontrol群29.5±2.8(ml/min)、下腿浴群27.5±2.7(ml/min)となり有意に低下した(P<0.05)。呼吸数・血圧は、control群より下腿浴群で減少したが有意差は認めなかった。主観的作業強度のcontrol群の平均は13±1.8点、下腿浴群の平均は12.4±.9点となり有意差は認めなかったが、運動強度はおおよそややきつい程度の運動強度であった。【考察】 ウォーミングアップを行わなくても下腿浴のみ施行することで、舌下温が0.2℃程度上昇し、下腿筋へ加温によって運動に対する準備が行えたと考える。下腿浴群とcontrol群と比較すると心拍数、酸素摂取量、分時換気量において75Wの運度強度で有意に減少したことは、温熱効果によって筋の柔軟性の向上、筋へ血流促進、運動時の内呼吸効率向上、さらに安静時の心拍出量の円滑化が全身の呼吸循環機能を円滑にしたため運動負荷強度が減少したと考えられる。また確認は出来ていないが温熱刺激によるHeat Shock Protein(HSP70)作用も一因となっていると考える。【まとめ】1.本研究では健常若年者に対して運動前に下腿浴を施行し運動負荷強度に変化がみられるか検討した。2.下腿浴施行により体温が上昇し、呼吸数・心拍数がわずかに増加した。3.下腿浴後に運動を行った群と下腿浴を行わずに運動を行った群と比較して同一運動時の酸素消費量、分時換気量、心拍数が下腿浴後に運動を行った群で有意に減少した。【理学療法学研究としての意義】下腿浴でも深部体温を上昇させることができ、中等度(ややきつい)負荷強度において身体かかる負荷強度が減少できることが明らかになった。これにより循環障害により運動強度に制限のある者に対して運動前の下腿浴施行で運動強度を減少させることができ、運動の施行がより安全に運動がおこなえることに役立つと考える。
著者
大塚 浩一 江口 拓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101327, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】地域在住高齢者の身体活動量は外出形態に関連し,中でも自転車運転の活動量は在宅高齢者の余暇活動量や外出量との関連性が見られるとされる(角田.2007).自転車運転に関連する先行報告としては視覚性認知機能や片脚立位保持能力の関連性は指摘されているが,現在自転車運転動作においてこれといった評価法は存在しない.今回脊髄梗塞を発症し2年経過した症例を経験し,訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)にて短期間の介入で実生活での自転車運転を獲得した症例について,考察を交えて報告する.【方法】対象は約3年前にTh8.9の範囲にて脊髄梗塞を発症した67歳女性.訪問リハは発症1年後に開始.理学所見としてMMT両下肢外転及び伸展4,体幹3レベル.両下肢の表在感覚及び深部感覚の鈍麻を認める.関節可動域は両膝関節屈曲120°と軽度制限有り.MMSE30点.身辺動作自立しており屋外歩行自立.発症前は自転車及び自動車での移動自立されていたが,発症後は非実施.訪問リハ時の聴取にて自転車走行の再獲得が希望として挙げられた.具体的な目標として「自転車を自走して買い物に行く」と定めて評価・介入を開始した.事前評価として行った片脚立位保持時間は左右共に10秒以上可能.Trail Making Test(以下TMT)はpartA32秒、partB1分12秒であった.そして自動車運転余裕評価の先行報告を参考に(自動車交通安全センター.2000),立位での足踏み運動に聴覚刺激による振り向き動作を組み合わせた二重課題を実施したが問題なく遂行可能であった.またスタンドをした状態でのペダル操作,片足での床面支持,外乱に対してのブレーキ維持といった自転車の前提動作(今井.2009)も問題なく実施可能であった.それらの評価を行った後に実際の運転練習に移った.【倫理的配慮、説明と同意】症例にはヘルシンキ宣言にのっとって発表に関する趣旨及びプライバシー保護について,また自転車運転のリスクについて十分な說明を行い,同意を得た.【結果】運転練習開始初期は、走り初めの低速時にハンドルの動揺が著明に観察され介助が必要な状態であった.そのためPTが後方で介助しながら乗り始めのハンドル・ペダル操作を反復して練習した.訪問リハの無い日には,片脚立位練習やスタンドをしてサドルに座り,片足支持やペダルに足を着く・離す動作の自主練習を指導した.訓練開始後15日目にて低速時の動揺が改善し,ペダルの踏み直しや状況に応じた停止・再発進も可能になり,直線50m以上の運転が自立して可能となった.その後指定場所における一時停止,駐車車両脇の通過をそれぞれ安全に実施できるかを確認した.訓練開始後28日目にて目標の買い物先までの運転動作を実際にPT同行のもとで2回実施した.いずれも安全に実施可能である事を確認した後に,症例の日中の買物時における自転車運転での移動自立とした.【考察】今回訪問リハにて脊髄梗塞患者に対し自転車運転自立を目指して介入を実施した結果,運転自立の獲得に至った症例を経験した.先行研究を元に事前評価を実施しその後実演項目を経て自立に至ったが,実演項目における自転車運転の運動技能の評価についてはこれといった評価法や先行報告は存在しない.運動技能の要因として外界の状況の把握能力,動きの速さ,動きの正確さ,持続性があるとされる.そしてその評価としては,動作場面での誤りの減少や自由度の増加,そして努力量の減少にてある程度の評価が可能である事が示唆されている(丸山.2002).今回本症例に対して行った事前評価では,視覚性注意機能や身体機能面そして二重課題において著明な問題を認めなかった.その後実際の実演項目による運動技能の経過観察にて,低速時のブレに対して予期を働かせて上肢や体幹による動きの正確性に改善が見られた.更に外界や身体の状況に応じて適切に運転を中断する,再開するといった状況把握能力や一定距離を運転し続ける持続性も身についていった.それらの経過から症例は自転車運転の技能向上を認め,自立に至る事が出来たものと考えた.【理学療法学研究としての意義】高齢者の自転車運転については,自動車の運転同様自転車運転の自信が年代とともに上がる現象が見られており、自分の運転能力を客観的に評価させることも必要であるとされる(元田.2001).高齢者にとって重要な移動形態の一つである自転車運転の実用性の評価に対して,今回実施した先行研究による身体機能面・認知機能面の評価更には運動技能の観点からの理学療法士による客観的な評価・介入は有用な可能性がある.今後は地域在住高齢者を対象により妥当性のある評価方法の検討を進めていきたい.
著者
上野 奨太 中島 駿平 岡田 洋平 中村 潤二 喜多 頼広 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100660, 2013 (Released:2013-06-20)
被引用文献数
1

【はじめに、目的】 直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation: GVS)は耳後部から経皮的に前庭系を直流電気刺激する神経生理学的手法である。GVSの電極配置を両側乳様突起とし,直流電流を通電することにより陽極側への身体傾斜が誘発される。近年,GVSは治療手段としても利用され,両側乳様突起間でのGVSにより,パーキンソン病の体幹側屈や脳卒中後の半側空間無視の軽減効果についての報告も散見される。またパーキンソン病の前屈姿勢異常に対しGVSを実施し,立位時の体幹屈曲角度が改善したとする報告では,両側乳様突起と隆椎棘突起両外側間を刺激している。健常人を対象に両側乳様突起間へのGVSが立位姿勢制御に与える影響についての報告は数多く存在するが,両側乳様突起と隆椎両外側間へのGVSが立位姿勢制御に与える影響についてはほとんど検討されていない。本研究の目的は両側乳様突起と隆椎両外側間でのGVSを健常人に対して実施し,GVSの極性と刺激強度が前後方向の立位姿勢制御に与える影響について検討することとした。【方法】 対象は内耳疾患,てんかんの既往歴および体内に金属を有する者を除外した健常若年者10名(男性6名,女性4名,22.1±0.3歳)とした。対象者の肢位は重心動揺計(G-6100,アニマ)上における閉眼閉脚立位とした。電極を両側乳様突起と隆椎両外側に左右二対貼付し,重心動揺計と同期した電気刺激装置(SEN-8203,日本光電)により7秒間の矩形波を用いて電気刺激を行った。刺激条件は2種の極性(乳様突起陽極,乳様突起陰極)と3種の刺激強度(1.0,1.5,2.0mA)を組み合わせた計6条件とし,各条件は被験者ごとにランダムな順序で別日に実施した。測定項目は7秒間のGVS時の足圧中心(center of pressure:COP)の偏位方向および最大偏位距離とした。各条件において6試行実施し,COPの最大偏位距離は6試行の平均値を代表値とした。統計解析は同一極性による刺激強度間でのCOPの最大偏位距離の差をFriedman検定の後,Wilcoxon符号付順位和検定を用いて検討した。 Friedman検定の有意水準は5%,Wilcoxon符号付順位和検定の有意水準は1.6%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は畿央大学研究倫理委員会の許可を得た上で実施した。全対象者に実施前に本研究の趣旨と目的を十分説明し,自署による同意を得た。なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者の保護には十分留意して実施した。【結果】 乳様突起陽極では全ての刺激強度において10名全員のCOPは刺激中に後方へ偏位し,乳様突起陰極では1.0mAで10名中9名,1.5mA,2.0mAで10名中8名のCOPが前方へ偏位した。乳様突起陽極条件では,刺激強度間でCOPの最大偏位距離に有意差を認め,2.0mAは1.0mAと比較してCOPの最大偏位距離が有意に大きかった(P=0.0069)。乳様突起陰極条件では刺激強度間のCOP最大偏位距離に有意差は認められなかった。また,めまいや嘔気,強い痛み等の副作用を訴える者はいなかった。【考察】 GVSの極性を乳様突起陽極,隆椎外側陰極にすることによりCOPの後方偏位を,乳様突起陰極,隆椎外側陽極にすることによりCOPの前方偏位を誘発可能であり,乳様突起陽極のGVS時のみ刺激強度依存的にCOPの後方偏位が増加した。両側乳様突起間のみでのGVSは刺激強度に依存して陽極方向へ身体傾斜も強まると報告されており,これはGVSが耳石器を刺激して左右方向への加速度感覚が発生したためと考えられている。今回の乳様突起と隆椎外側間のGVSにより耳石器への刺激方向が変化し,COPの偏位は前後方向への加速度感覚が生じたことによると考察する。さらに極性変更により相反する方向への加速度感覚が発生し,刺激後のCOPの偏位が逆方向になったと考えられる。GVSによる刺激強度依存的なCOPの後方偏位の増加は,刺激強度増加に伴い耳石器における活動電位が強くなったためと考察する。GVS後のCOPの前方偏位に刺激強度依存性がなかった原因は,前足部のメカノレセプターの分布密度が踵部より高く,立位前方傾斜時には前庭感覚よりも体性感覚依存度が高い可能性がある。今後乳様突起,隆椎両外側へのGVSを臨床適用していくには,刺激時の筋活動,肢位による反応の差異,長時間介入による持続効果について検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 両側乳様突起と隆椎両外側へのGVSでは,極性を変化させることにより前方あるいは後方への姿勢誘導が可能であり,後方誘導には刺激強度依存性があることが明らかになった。パーキンソン病の前屈姿勢異常などに対してGVSを治療手段として利用する際の刺激方法を考慮する一助となると考えられる。
著者
塚田 雅弘 新居 美紗子 明本 聡 瀧内 敏朗
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100265, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】成長期腰椎分離症は、椎弓の関節突起間部の疲労骨折と考えられており、その発生には活発なスポーツ活動が深く関わっている。近年、MRIでの早期診断が可能となり保存療法の成績は向上しているものの、病態などにより治療期間が長期に及ぶ症例も少なくない。活動期間が限られる成長期のスポーツ選手は、一日も早い確実なスポーツ復帰を望んでおり、そのための保存療法確立が重要な課題である。骨折の治療では近年、低出力超音波パルス(low intensity pulsed ultrasound : LIPUS)の臨床利用が広がっている。LIPUSの骨折治癒促進効果は、これまで多くの臨床試験や基礎的研究により証明されているが、本症に対する臨床利用、治療成績の報告は散見される程度である。当院では2010年7月より本症患者全例に対し、従来の保存療法と患部へのLIPUS治療併用を開始し、これまでの治療期間を約40%短縮した。本研究では、症例数を増やしてLIPUS効果の検証を進めるとともに、照射頻度と治療期間との関係を調査し、より効果的な治療法を検討することを目的とした。【方法】2009年4月から2012年9月までに当院を受診し、MRI T2強調像で椎弓根部に高信号変化を認め、初期の腰椎分離症と診断された18歳以下の患者のうち、治療が完結した84例86椎弓を対象とした。全例共通の治療として、従来からの保存療法であるコルセットでの外固定、運動量の制限、運動療法を実施した。LIPUS治療の有無は、当院に治療機器が導入された2010年7月以前の受診か、それ以後の受診かによって決定した。治療機器導入後は対象を限定せず全例にLIPUS治療を併用した。治療機器は日本シグマックス社製アクセラスを用い、通院毎に1回、患部に20分照射した。MRI T2強調像で高信号変化の消失を治癒の条件とし、それまでを治療期間とした。すべての診断は同一の整形外科医が一人で行った。通院治療回数や頻度は全対象者自身が任意に決定した。従来の保存療法とLIPUSを併用して治癒に至った62例64椎弓(男性59例、女性3例、年齢14.5±1.6歳)を超音波群、従来からの保存療法のみで治癒に至った22例22椎弓(男性21例、女性1例、年齢15.1±1.4歳)を対照群として治療期間を比較した。また、照射頻度による影響を検討するため、超音波群を照射頻度が週1回以上であった高頻度群32例33椎弓(男性30例、女性2例、年齢14.3±1.7歳)と週1回未満であった低頻度群30例31椎弓(男性29例、女性1例、年齢14.6±1.5歳)に分け、治療期間を群間比較した。統計処理は、対応のないt検定、χ²独立性の検定を用い、有意差判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】治療開始にあたり、対象者および保護者に口頭での説明と、書面による同意を得て実施した。【結果】超音波群と対照群および高頻度群と低頻度群の年齢、性別、分離椎弓高位、分離椎弓根(右、左、両側)の分布は有意な偏りを認めなかった。平均治療期間は、超音波群98.1±50.8日で、対照群の175.8±89.4日に比べ有意に短く(p<0.01)、その短縮率は、44.2%であった。また、高頻度群の治療期間は82.8±33.8日で低頻度群の114.3±60.6日に比べ有意に短かった(p<0.05)。【考察】本症の保存療法に際し、LIPUSを併用すると、従来の治療期間を有意に短縮することが明らかとなった。その短縮率は44.2%であり、LIPUSが本症分離部の治癒促進に有効である事が示唆された。照射頻度による比較では、週1回以上照射した症例がそれ未満の症例より有意に治療期間が短かったことから、高頻度に照射することが、患部治癒をより効果的に促進する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】成長期腰椎分離症分離部に対するLIPUS照射の高い有効性を示唆した。また、照射頻度による検討も加えており、より効果的な治療法の確立に向け、新たな知見を示した。
著者
波多野 元貴 鈴木 重行 松尾 真吾 後藤 慎 岩田 全広 坂野 裕洋 浅井 友詞
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100755, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 スタティック・ストレッチング(static stretching:SST)は、柔軟性の改善をもたらすとされ、臨床場面やスポーツ現場などで広く用いられる。他方、SST後は最大発揮筋力や単位時間あたりの筋力発揮率であるrate of force development(RFD)などに代表される筋パフォーマンスの低下が生じるため、最大限の筋力発揮を要するパフォーマンスの前にはSST実施を避けるべきであるとする報告が多い。また、SST後の筋パフォーマンス低下の要因のひとつとして、筋電図振幅の減少など神経生理学的な変化が報告されている。SST後の発揮筋力や瞬発的なパフォーマンスの変化を検討した先行研究を渉猟すると、少数ながらSST後に動的な運動や低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、筋パフォーマンスの低下を抑制できる可能性が示唆されている。しかし、SST後の運動負荷による筋パフォーマンス低下抑制と神経生理学的変化の関連性について比較検討した報告はない。よって、本研究はSSTおよびその後に行う低強度・短時間の等尺性収縮が最大等尺性筋力、RFDおよび筋電図振幅に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 被験者は健常学生7名(男性4名、女性3名、平均年齢21.4±1.0歳)とし、対象筋は右ハムストリングスとした。被験者は股関節および膝関節をそれぞれ約110°屈曲した座位をとり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)と表面筋電計(Mega Electronics社製ME6000)を用いて測定を行った。評価指標は6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮時の最大等尺性筋力、筋収縮開始時から200 msec間の時間-トルク関係の回帰直線の傾きであるRFD、等尺性収縮中の内・外側ハムストリングスの筋電図平均振幅(root mean square:RMS)とした。実験は、まず6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行い、15分間の休憩の後、膝関節を痛みの出る直前の角度まで伸展し、300秒間保持することでハムストリングスに対するSSTを行った。その後は、直ぐに6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST群)、または30%maximum voluntary contraction(MVC)の強度で6秒間の等尺性収縮を行った後に6秒間の膝関節屈曲最大等尺性収縮を行う場合(SST-30%MVC群)のいずれかを行い、被験者はこの2種類の実験をランダムな順番に行った。統計処理は反復測定2元配置分散分析および対応のあるt検定を行い、有意水準は5% とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は本学医学部生命倫理審査委員会および共同研究施設倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者には実験の前に実験内容について文書及び口頭で説明し、同意が得られた場合のみ研究を行った。【結果】 最大等尺性筋力は、SST群では介入後に有意に低下し(介入前:64.5±19.7 Nm、介入後:57.0±18.7 Nm)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:63.9±20.3 Nm、介入後:65.70±19.8 Nm)。また、介入方法と介入前後との間に交互作用を認め、両群の介入後の値に有意な差を認めた。RFDはSST群で介入後に有意に低下し(介入前:238.5±61.6 Nm/msec、介入後:160.0±63.8 Nm/msec)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:215.0±88.5 Nm/msec、介入後:194.7±67.3 Nm/msec)。また、外側ハムストリングスのRMSは、SST群で介入後に有意に低下し(介入前:280.0±92.3 μV、介入後:253.9±97.0 μV)、SST-30%MVC群では介入前後に有意な差を認めなかった(介入前:270.6±62.3 μV、介入後:258.9±67.1 μV)。内側ハムストリングスのRMSは、両群とも介入前後の値に有意な差を認めなかった。【考察】 本研究結果より、SST後には最大等尺性筋力、RFD、外側ハムストリングスのRMSの低下が生じるが、SST後に低強度・短時間の等尺性収縮を負荷することで、これらの低下を抑制できることがわかった。先行研究にて、筋活動が低下した状態で30%MVCの等尺性収縮を負荷すると、筋紡錘の自発放電頻度が増加することが示されている。本研究では外側ハムストリングスのRMSの変化が最大等尺性筋力およびRFDの変化に同期していることから、SST後に低下した神経生理学的な興奮性が等尺性収縮の負荷によって高まり、筋パフォーマンス低下が抑制されたものと推察する。【理学療法学研究としての意義】 本研究から、理学療法士がスポーツ現場でウォームアップとしてSSTを行う際に危惧してきた筋パフォーマンス低下が、低強度・短時間の等尺性収縮により抑制できる可能性が示唆された。理学療法士が頻繁に行うSST効果に関する基礎的データの集積は、理学療法介入の科学的根拠に基づく理学療法介入の確立・進展につながるとともに、有効なSST実践に向けた方法論構築に寄与するものと考える。
著者
山際 清貴 小野 晋 島田 雅子 小関 博久
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100328, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】学生という立場から専門職業人への移行は、生涯のなかでも大きなライフイベントのひとつであるといえる。入職後、速やかに環境に順応し職場適応することは、理学療法士としての人生を円滑にスタートするための重要な要素であると考えられる。なお、組織への新規参入者のほとんどが、この職場適応の過程においてリアリティショック(RS)に直面することが報告されている。今回我々は、新人PTが直面するRSの要因とサポート状況および克服手段について調査を行い、円滑な職場適応の一助となり得る方策を見出すことを目的として検討を行った。【方法】対象は、2012年3月にA専門学校を卒業した66名(男性38名、女性28名、平均年齢25.1歳)とした。上記の66名に対して、電子メールにて無記名式のアンケートを送信し回答を得た。アンケートの構成は、性別と年齢の基本属性の他に「RSの有無」「RSを受けた内容」「RSを受けた時期」「RSを受けた際のサポート源の有無」「サポート源の役職」「サポートの手段」「RSへの立ち向かい方」についての7項目について調査した。このうち「RSを受けた内容」「サポートの手段」「RSへの立ち向かい方」に関しては自由記載にて回答を求め、類似した内容をKJ法にてカテゴリー化した。RSの定義は「新卒の専門職者が数年間の専門教育を受け実際に職場で仕事を始めるようになって、予期しなかった苦痛や不快さを伴うしばしば耐えがたい現実の場面に合ったときに感じる困惑の状態」とした。依頼文と共にアンケートの前文に記載し、十分にRSの定義を理解してから回答するように促した。【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として、回答は任意であり、取得したデータの取り扱いについては個人を特定しないことを明記した。また、個人情報の取り扱いに関しては十分な注意を払うこと、アンケートの返信をもって研究への同意を得たとみなす旨を記載した。【結果】アンケートの返信数は25名(男性17名、女性8名、平均年齢24.2歳、回収率37.9%)であり、回答に不備のあるものはなかった。入職してから現在までに「RSを受けた」と自覚した者は13名(52.0%)であり、「サポートしてくれた人物の有無」に関しては、12名(92.3%)が「いた」と回答した。その内訳は、プリセプターが9名(69.2%)、同期のスタッフが9名(69.2%)、プリセプター以外の上司が7名(53.8%)、同級生が5名(38.5%)、家族が2名(15.4%)、その他が2名(15.4%)、患者が1名(7.7%)であった。なお、「RSを受けた時期」は、4月が3名(23.0%)、5月と6月がそれぞれ5名(38.5%)であり、7月以降に受けた者はいなかった。「RSを受けた内容」に関しては25件のコードを抽出し、サブカテゴリー「知識の量(5)」「治療の技術(5)」「評価の技術(4)」を大カテゴリー[PTとしての資質]とし、同様に「第三者との関わり(5)」「コミュニケーション(2)」を[対人技能]、「多忙(3)」「給与の安さ(1)」を[職場環境]と命名し分類した。同様に、「RSに対するサポートの手段」に関しては21件のコードを抽出し、サブカテゴリー「一緒に患者を担当(8)」「フィードバック(5)」を大カテゴリー[実技面のサポート]とし、同様に「傾聴(6)」「声掛け(2)」を[心理面のサポート]と命名し、「RSの克服手段」に関しては15件のコードを抽出し、サブカテゴリー「文献学習(3)」「先輩PTへの相談(4)」を大カテゴリー[前向きな克服手段]とし、同様に「発想の転換(4)」「気分転換(2)」を[内的な変容]と命名し分類した。【考察】新人PTは、日々の業務の中で自身の知識の乏しさや技術の未熟さに代表されるようなPTとしての資質面に限らず、第三者との関わりの難しさや多忙であることなどにも戸惑いを感じ、高いストレス環境の下で業務を遂行していることが示唆された。新人看護師のサポート源としては、同僚、先輩看護師、上司・友人、家族が重要な役割を占めると報告されている。本研究においてもほぼ同様の傾向を示しており、入職後3ヵ月までの期間において、新人PTは個別指導を担当するプリセプターからの日常業務の進め方や理学療法の実践に必要な知識や技術についてのサポートを受ける機会が最も多いことが示唆された。これらは、入職したばかりで不慣れな環境に置かれた新人医療者にとっては、職種を問わずプリセプターの存在が最も身近で重要な存在であることを意味している。すなわち、新人PTが円滑に職場適応を果たすためには、当事者の努力のみならずプリセプターを主とした周囲のスタッフの教育力や支援の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】RSの存在や要因が明確になり、RSによる精神的健康の低下や早期離職などの予防策を立てる一助となり得ることは、新人PTと施設の双方において有益であると考えられる。
著者
福利 崇 渋谷 佳樹 中川 慧 青景 遵之 橋詰 顕 栗栖 薫 河原 裕美 大鶴 直史 弓削 類
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100979, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】我々は,日常生活の中で無意識に他者の姿や行動を観察していることが多い.他者が行っている動作の模倣やイメージをする際は,他者の視点に立って,姿や動作の特徴を注意深く捉える必要があるが,これはリハビリテーションの臨床現場においても共通している.神経心理学において,他者の視点に立つことを意味する視点取得(perspective-taking)という概念があり,この概念に関して様々な観点から研究されている.脳イメージング研究では,fMRIを用いて脳活動部位を同定した研究は数多くみられるものの,時間的な側面から検討した研究は少ない.そこで本研究では,時間・空間分解能力に優れた脳磁図を用いて,部位と時間の両側面から,視点取得における脳神経活動を検討した.【方法】対象は,視覚に異常のない右利きの健常者13 名とした.スクリーン上にランダムに呈示される,左右どちらか一側の上肢または下肢を拳上した全身像の視覚刺激に対する誘発脳磁場活動を,306ch全頭型脳磁計(ELEKTA社, Neuromag System)を使用し,記録した.全身像は,対象者に正面を向けた像(正面像)と背面を向けた像(背面像)から構成し,それぞれ一側の上肢または下肢を挙上した像を作成した.課題は,スクリーン上に呈示された全身像がどちらの上肢または下肢を挙上しているかを解答する本課題と,全身像が挙上している上肢または下肢がスクリーンの右側か左側かを解答するコントロール課題とした.解答は両側示指のタッピングとし,LEDセンサーを用いて各課題および条件の反応時間を計測した.対象者には,各課題において解答に該当する側の示指をできるだけ速くタッピングし,かつ正確に解答するよう指示した.脳磁場測定は,サンプリング周波数を1001Hz,バンドパスフィルターを0.5 ‐30Hzにそれぞれ設定し,実施した.各課題において,正面像と背面像に対する脳活動をそれぞれ約80 回加算した.解析には,グラジオメーターを用い,後頭領域(20ch)と左右の後頭頂領域(各30ch)において各センサー位置におけるRMS(root mean square)を算出し,各領域におけるareal meanを算出した.得られたareal mean波形のピーク値と潜時を,領域別に算出し,課題間で比較した.また,空間フィルター法(sLORETA)を用いて,課題ごとのピーク潜時における各格子点での電流値を算出し,MRI上に空間的に分布表示した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の趣旨や目的,方法について説明を行い,同意を得た上で実施した.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:1139)【結果】課題間での平均反応時間は,正面像,背面像ともに,コントロール課題と比較して本課題で有意に延長した(p<0.01).脳磁場活動は,全身像呈示後100ms付近で後頭領域に,さらに200ms付近で右後側頭頂領域において,正面像,背面像ともに明瞭な活動が認められた.100ms付近の成分は,正面像および背面像ともに課題間で活動の有意差はみられなかったのに対し,200ms 付近の右後側頭頂領域における活動は,正面像において,コントロール課題と比較し,本課題で振幅の有意な増加が認められた(p<0.05).また,背面像においても,有意には至らなかったものの本課題において200ms付近の活動が増加する傾向が認められた.【考察】本課題における反応時間がコントロール課題に対して有意に延長したことは,視点取得に際し,より複雑なプロセスを踏んでいることを示している.本課題の全身像の視点取得において,fMRIを用いて右後側頭頂領域が活動したとの報告がある.本研究においても視覚刺激後200ms付近で右後側頭領域に明瞭な反応が認められ,その活動は複雑な視点取得を必要とする本課題で有意に増加した.脳波を用いた先行研究では,視覚刺激後約300ms付近で頭頂付近で観察されるP300 が物体認知や判断を表す成分といわれているが,本研究でみられた右側頭頂領域の200ms付近の成分も,全身像の左右弁別に関与する可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,他者の視点に立って全身像の特徴を捉えようとしている際の脳活動の経時的変化に関連した,部分的な基礎的知見を与えるものである.
著者
中村 雅俊 池添 冬芽 梅垣 雄心 小林 拓也 武野 陽平 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101053, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】ハムストリングスのストレッチング方法は主観的な伸張感により,近位部を伸張するには股関節屈曲位での膝関節伸展,遠位部を伸張するには膝関節伸展位での股関節屈曲が推奨されている.しかし,これら2種類のストレッチング方法の違いが近位部と遠位部の伸張性に及ぼす影響について客観的な指標を用いて比較した報告はなく,科学的根拠は乏しいのが現状である.そこで本研究は剪断波超音波診断装置を用いて,これら2種類の異なるストレッチング方法がハムストリングスの各部位における伸張の程度に及ぼす影響を検討し,ストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張できるかを明らかにすることを目的とした.【方法】対象は整形外科的疾患を有さない健常男性15名(年齢23.8±3.2歳)とし,利き脚 (ボールを蹴る) 側の半腱様筋(ST)と大腿二頭筋長頭(BF)を対象筋とした.対象者をベッド上背臥位にし,骨盤後傾を防ぐために反対側下肢をベッドから下ろして骨盤を固定した状態で他動的に股関節90°屈曲位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで膝関節伸展を行うストレッチング(KE),膝関節完全伸展位から痛みを訴えることなく最大限,伸張感を感じる角度まで股関節屈曲を行うストレッチング(SLR),股関節90°屈曲・膝関節90°屈曲位の安静時の3条件での筋の伸張の程度を評価した.筋硬度の測定には超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製 Aixplorer)の剪断波エラストグラフィ機能を用いて,STとBFそれぞれ大腿長の近位1/3(近位),1/2(中間),遠位1/3(遠位) の筋硬度を無作為な順番で測定した.筋は伸張されると筋硬度が増すことが報告されているため,伸張量の指標として筋硬度を用いた. 統計学的処理は,STとBFにおける各部位の安静時とKE,SLRの条件間の違いをScheffe法における多重比較を用い検討した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を求め,各部位におけるKEとSLRの変化率の違いと近位,中間,遠位の部位による違いについてScheffe法における多重比較を用い比較した.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を十分に説明し,研究に参加することの同意を得た.【結果】STの筋硬度について近位部は安静で39.6±31.8kPa,KEで398.4±125.8kPa,SLRで354.3±109.4kPa,中間部は安静で61.0±23.2kPa,KEで507.9±71.5kPa,SLRで472.6±81.5kPa,遠位部は安静で66.5±29.3kPa,KEで504.3±103.6kPa,SLRで478.4±151.2kPaであった.BFにおける近位部は安静で30.6±12.8kPa,KEで361.4±91.8kPa,SLRで343.3±92.6kPa,中間部は安静で45.4±32.3kPa,KEで386.4±147.6kPa,SLRで392.3±98.8kPa,遠位部は安静で54.1±22.4kPa,KEで490.5±112.3kPa,SLRで425.8±109.5kPaであった.多重比較の結果,STとBFともに近位,中間,遠位部の全ての部位において安静条件と比較してKEとSLRで有意に高値を示した.また安静時に対するKEとSLRの変化率を比較した結果,STとBFの全ての部位においてKEとSLR間で有意差は認められなかった.安静時からの変化率について近位,中間,遠位の部位間で比較した結果,STとBFのKEとSLRともに部位による有意差は認められなかった.【考察】本研究の結果,KEとSLRの2つのストレッチング法はともにSTとBF両筋の全ての部位を伸張することが可能であった.さらに,KEとSLR間では全ての部位で有意差が認められなかったことより,どの部位でも両ストレッチング方法による伸張の程度に違いはないことが明らかとなった.また,近位,中間,遠位部の比較においても有意差が認められなかったことより,部位による違いはないことも明らかとなった.これらの結果より,二関節筋であるSTとBFを伸張する場合にはKEとSLRの方法による違いはなく,両ストレッチングとも全ての部位において同じ程度のストレッチング効果が得られること,すなわちこれらストレッチング方法の違いによって近位部と遠位部を選択的に伸張することは困難であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】股関節を屈曲した状態から膝関節を伸展するストレッチングと膝関節完全伸展位から股関節を屈曲するストレッチングの両ストレッチング手技ともにハムストリングスの近位部,遠位部を一様に伸張する効果があることが明らかとなった.
著者
西沢 喬 田高 智美 種田 智成 田中 優介 今井田 憲 川井 純子 植木 努 曽田 直樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101734, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】一般的に腰部脊柱の安定性の改善が腰痛疾患の治療成績を向上させるするとされており、腰部の疾患にとって腰部脊柱の安定性の確保は重要である。腰部脊柱の安定性に関与する筋には、腹横筋や内腹斜筋、多裂筋などがあり、それらが同時収縮することで、胸腰筋膜の緊張増加と腹腔内圧の増加をもたらし腰部の安定性向上につながるとされている。また同時収縮が関節のスティフネスを増加させて、マルアライメントの改善に影響するとの報告もあり、体幹筋の同時収縮が腰部安定性に重要である。そのため体幹筋の同時収縮により腰部安定性向上を目的とした運動が一般的に行われている。しかし実際に行われている運動が同時収縮しているかどうかの検証やどの運動が効果的なのかなどの報告は少ない。そこで今回我々は、腰部安定性向上を目的とした運動における多裂筋と内腹斜筋の筋活動を計測し、同時収縮の指標であるco-contraction index(以下CI)を用い、その運動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は腰部に疾患のない健常成人男性15 名(平均年齢29.4 ± 5.0 歳、平均身長173.8 ± 4.3cm、平均体重64.3 ± 8.3kg)とした。筋活動の測定には表面筋電図(Myosystem G2)を用い、測定筋は左側の多裂筋(正木らに従い第5腰椎レベルで第1・2 腰椎間と上後腸骨棘を結んだ線上)、内腹斜筋(赤羽らに従い腹直筋、鼠径靭帯、臍から上前腸骨棘を結ぶ線に囲まれた領域で鼠径靭帯に平行)の2 筋とした。測定課題は1)四つ這い位から右上肢と左下肢を水平まで挙上した肢位(以下四つ這い)、2)背臥位で後頭部に手を組ませ膝関節約90°屈曲位となるよう膝を立てた姿勢から体幹と下肢が一直線になるように殿部を拳上した肢位(以下お尻上げ)、3)長坐位で体幹約45°後方に傾斜させ上肢を床面に対して垂直に接地した姿勢から、体幹と下肢が一直線になるように殿部を拳上させた肢位(以下逆ブリッジ)、4)左側を下にしたサイドブリッジ(以下サイドブリッジ)、5)端坐位での腹式呼吸最大呼気位(以下腹式呼吸)の5 つの肢位とした。各条件において波形が安定した、3 秒間の筋活動をサンプリング周波数1000Hzにて記録した。得られたデータは最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化し、各条件での筋活動を%MVCとして算出した。同時収縮の評価はFalconerらの方法を用いて多裂筋と内腹斜筋のCIを算出した。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い、各肢位間における筋活動及びCI値の比較に関して、一元配置分散分析後、多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た。また本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。(承認番号120705-1)【結果】多裂筋活動は四つ這い27.3 ± 12.6%、お尻上げ30.3 ± 11.7%、逆ブリッジ33.3 ± 12.0%、サイドブリッジ24.3 ± 7.3%、腹式呼吸6.4 ± 8.0%であった。内腹斜筋活動は四つ這い14.1 ± 10.0%、お尻上げ3.8 ± 3.2%、逆ブリッジ10.0 ± 7.3%、サイドブリッジ32.0 ± 20.2%、腹式呼吸42.1 ± 38.4%であった。多裂筋活動では腹式呼吸が他の動作に比べ有意に低かった(P<0.05)。内腹斜筋活動では、 お尻上げが逆ブリッジ以外の動作に比べ有意に低かった(P<0.05)。また腹式呼吸がサイドブリッジ以外の動作に比べ有意に高かった(P<0.05)。CIでは、四つ這い57.8 ± 30.0%、お尻上げ24.6 ± 21.1%、逆ブリッジ44.8 ± 25.0%、サイドブリッジ76.6 ± 11.8%、腹式呼吸33.6 ± 24.7%であった。サイドブリッジが四つ這い以外の動作に比べて有意に高かった(P<0.05)。【考察】今回の結果においてCIはサイドブリッジが四つ這い以外の動作に比べ有意に高かった。サイドブリッジは、前腕と足部外側で支持するため、他の課題に比べ支持面が小さくまた関節自由度が少ない、加えて支持面からの重心位置が遠くにあることから課題の中で最も腰部の不安定な肢位であることが考えられる。先行研究より腰部の不安定性が筋活動を増加させることが報告されており、このためサイドブリッジで多裂筋と内腹斜筋の同時収縮が高まったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】サイドブリッジは、体幹筋の同時収縮に優れており、腰部安定性に対する有効な運動となりえる事が示唆された。また、体幹筋の同時収縮を知ることで、腰部安定性の評価や運動効果の指標に貢献できると考える。
著者
庄﨑 賢剛 今村 知之 中道 剛 松井 良一 柴田 和哉 松永 圭一郎 玉利 光太郎 原田 和宏 元田 弘敏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101575, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 現在、腰痛の約80%が原因不明の非特異的腰痛であり、アライメント異常は腰椎椎間関節・腰仙関節などにストレスが生じ、腰部・骨盤帯の不安定性による機能障害や疼痛を引き起こす可能性が考えられる。そのため、理学療法において腰部・骨盤帯に関連する仙腸関節の可動性の評価は重要である。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、新鮮死体用いた報告、生体に直接Wire・ボールを挿入しカメラやX線を用いた報告、MRIを使用した報告などがある。しかし、これらの方法では侵襲やコストの面から臨床応用は困難であると思われる。加えてこれらの報告は腰椎前屈・後屈・股関節屈曲での他動的測定姿勢位で行われており、骨盤周囲筋を動員し自動運動時の測定肢位での研究は見当たらなかった。そのため、本研究では安静立位と自動運動時の骨盤前傾・後傾時にそれぞれX線撮影し、仙腸関節の可動性の定量化と信頼性を検討した。【方法】 信頼性の検討では健常成人男性15名を対象とし(年齢:27.9±4.6歳、身長:168.4±5.9cm、体重:60.8±9.0kg)、仙腸関節の定量化の測定では健常成人男性62名とした(年齢:28.7±5.7歳、身長:169.7±5.9cm、体重:64.0±9.3)。X線撮影は安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位の3つの姿勢にて、腰椎・骨盤における矢状面を立位の左側方からX線を照射し撮影を行った(L→R画像を撮影)。骨盤の動きは検査者が徒手的に骨盤前後傾の動きを誘導した。その際、体幹が前傾・後傾することなく、正中位を保持し、両膝が屈曲位とならない範囲での姿勢を保つように指導した。被験者に動きを十分学習させた後、骨盤周囲筋を最大に動員した自動運動の最終域で姿勢を保持させ撮影を行った。再現性に関しては同様の方法で、その後1か月以内に2回目の撮影を行った。得られた画像はDICOM形式医用画像Viewer(Radis Version 1.2.0)を使用してパソコン上に描写し、その画像処理を行った後、GNU画像編集プログラム(GIMP2.6.7)を使用して、骨盤傾斜角、腰仙角(第1仙椎上縁と水平線との角度)を計測した。本研究では、仙腸角は腰仙角から骨盤傾斜角を引いたものと定義した。骨盤傾斜角はASISとPSISとを結ぶ線と水平線とのなす角度とし定義した。X線撮影に関しては当院の医師の指示の基、診療放射線技師が行った。統計学的解析はSPSS Statistics Ver.20 を用いた。信頼性に関しては、相対信頼性として級内相関係数(ICC)を算出し、また絶対信頼性を検証するために測定の標準誤差、最小可検変化量(MDC)を算出した。そして、安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位において各被験者の各姿勢における平均値を算出した。また仙腸関節の可動性として各姿勢での仙腸角の差の絶対値の平均を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て(承認番号11-31)、各対象者に対し研究の主旨を書面と口頭で十分に説明し、同意書に署名が得られた方を対象とし実施した。【結果】 仙腸角について安静立位、骨盤前傾立位、骨盤後傾立位におけるICCは全て0.99となり、MDCは安静立位0.86°、骨盤前傾立位1.38°、骨盤後傾立位1.11°となった。62名の仙腸角の平均値を算出すると安静立位20.04±6.80°、骨盤前傾立位19.29±6.85°、骨盤後傾立位22.25±6.90°であった。仙腸関節の可動性は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°(最大値9.82°、最小値0.12°)、安静立位と骨盤後傾立位では3.91±2.75°(最大値13.43°、最小値0.13°)という結果になった。骨盤前傾の際、腸骨に対し仙骨が後屈した者は38名(-3.23±2.40°)、前屈した者は24名(3.19±2.63°)であった。骨盤後傾の際は仙骨が前屈する者は37名(5.13±2.73°)、後屈する者は25名(-2.10±1.64°)であった。【考察】 今回の結果ではICCは0.99となり、相対信頼性が良好であることが確認できた。またMDCは0.86°~1.38°となり、仙腸関節の可動性がMDC以上の値となり、「誤差以上の変化」が見られた。今回、仙腸関節は安静立位と骨盤前傾立位との比較では3.06±2.65°、安静立位と骨盤後傾位では3.91±2.75°の可動性が見られた。仙腸関節の可動性に関する先行研究では、竹井らは一側の股関節最大屈曲位にて仙腸関節は2.3°前屈位となり、両側の股関節屈曲では仙腸関節の動きは認められないとし、Sturessonらは股関節90°屈曲の際に-1.0°~ -1.2°の仙骨の後屈が見られたと報告している。本研究においては仙腸関節の可動性は先行研究を超える値が示された。その原因として、本研究での測定は骨盤周囲筋を最大限に動員した自動運動の測定肢位で行われたことなどが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回考案したX線を用いた仙腸関節の測定法での信頼性の確認と仙腸関節の可動性に関する新たな知見は臨床応用に繋がる可能性がある。
著者
田中 秀明 井舟 正秀 石渡 利浩 川北 慎一郎 西願 司
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100594, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】臨床実習において,対象者との信頼関係や知識・技術向上のために理解しやすく円滑な実習が行えるよう対象者選定を行っている.学生のスキルにもよるが,理学療法プロセスを理解してもらうために経過が比較的安定している神経系・運動器障害を対象者とすることが多い現状がある.しかし,各施設の対象者としては内部障害が年々,増加している.また,神経系・運動器障害の対象者であっても,合併症として内部疾患を有しているケースは多々見られる.これからの理学療法士は施設の特徴もあるが,就職後すぐに内部障害を担当することも多くなってくると予想される.今回,当院での臨床実習で学生に内部障害対象者を担当してもらい,実習終了後に意識調査を実施し学習の効果について検討したので若干の考察を加えここに報告する.【方法】対象は,当院で臨床実習を行った学生10名(男性6名,女性4名)であった.実習内容についての大まかな流れについて説明する.対象者は実習期間中に退院でき,理学療法開始後早期の対象者を選定し説明と同意を得た上で学生が担当した.疾患は間質性肺炎,慢性閉塞性肺疾患,冠動脈バイパス手術後,慢性心不全急性増悪,急性呼吸窮迫症候群であった.指導内容は事前に電子カルテで疾患に対しての情報収集をし,病態の把握を行ってもらい医師に直接確認する場を設けた.収集した情報が的確であるか否かを指導者が確認し,不足している情報があれば修正し対象者の評価を行った.実習中では適宜,軌道修正を加え日々,変化する病態把握に対応した.全体像の把握してもらうために,退院の目途が立ち次第,家屋評価や介護保険の申請をし,退院後の生活支援にも関わった.また,症例に関わる文献抄読も行ってもらった.意識調査の方法は学校卒業後にアンケートを実施した.内容は(1)以前に内部障害を担当したことがあるか.(2)実習は学習になったか.(3)学校で習得した知識は生かせたか.(4)実習後の学習に役に立ったか.(5)内部障害に対する意識に変化はあったか.(6)今後も内部障害を担当したいか.(7)自由記載.以上の7項目についてアンケートを実施した.回答は,「はい」・「いいえ」・「どちらでもない」,その他自由記載とした.統計学的分析はKolmogorov-Smirnov検定を用い分析を行い,有意水準は5%とした.【説明と同意】倫理的配慮として,本研究の目的に対し十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.【結果】(1)「はい」0名,「いいえ」10名.(2)「はい」10名,「いいえ」0名.(3)「はい」1名,「いいえ」9名.(4)「はい」10名,「いいえ」0名.(5)「はい」9名,「いいえ」1名.(6)「はい」8名,「いいえ」1名,「どちらでもない」1名.(7)症例が少ないので見られてよかった,考え方の変化があった,実習を通して苦手意識が解消された,国家試験対策になった,座学でわからなかった内容が実践を通してわかりやすかった,血液データの読み方が難しかった,離床を進める上での患者のアセスメントが難しい,まずは脳血管や運動器障害を見たい,手技的なテクニックを身につけたいなどの回答が得られた.尚,統計学的分析の結果(2)は「いいえ」,それ以外の項目は「はい」の方で有意差を認めた(p<0.01).【考察】今回の結果から,内部障害を担当したことで興味を持ち,有益な学習ができたと考えた.各養成校では,カリキュラムで様々な工夫をして授業を行っている.循環器・呼吸・代謝系理学療法を独立した授業を行っている養成校もある.座学では知識を整理し学習することが困難との意見があった.充実した授業で得た知識を活用するためにも,臨床実習で学習することで,学生のスキルが向上し国家試験対策に繋がるものと考えた.離床する際やデータの読み方などは各症例に対しケースバイケースで考える必要があるため,難しいとは思うが,臨床実習を通して考え方を経験することが重要と考えた.一部の学生から学習にはなったが,まずは神経系・運動器障害の担当希望や徒手療法などのテクニックを習得したい意見もあった.当然,あってしかるべきであり研鑽してほしいと考えるが,全身状態を考えた時に理学療法を施行する上での阻害因子を十分考慮し,リスク管理のために学習してほしいと思う.指導者側では,以前からの実習スタイルがあり,学生のみの問題ではなく指導者が内部障害の理学療法プロセスを十分に指導ができないことも要因として挙げられるため指導方法を確立することが重要と考えた.【理学療法学研究としての意義】内部障害を臨床実習で担当し経験をすることで有益な学習ができた.今後,臨床実習での指導方法を確立していくことが重要であると考えた.
著者
増田 幸泰 中野 壮一郎 小玉 陽子 北村 智之
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101929, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】 松葉杖は臨床において下肢骨折などにより免荷が必要な患者に多く用いられている歩行補助具の一つである.しかし,松葉杖免荷3点歩行(以下,松葉杖歩行)は不安定な歩行形態であり,臨床においても歩行獲得のための指導に苦慮するケースがみられる.松葉杖歩行には上肢筋力が関与しているとされ,動作解析やエネルギー消費など様々な検討が過去にもなされている.しかし,実際の臨床において松葉杖歩行を可能にするために必要な筋力以外の運動機能についての詳細な検討はあまりみられていない.そこで,本研究では松葉杖歩行に関与すると思われる運動機能として筋力に加えて,バランスや柔軟性,敏捷性などを検討することで,臨床における松葉杖歩行指導の一助とすることを目的とした.【方法】 対象は健常成人女性22名(29.0±5.5歳)とし,過去に松葉杖使用の経験がない者とした. 測定項目は松葉杖歩行,身長,体重,10m快適歩行と最大歩行の他に,筋力の指標として握力,等尺性膝伸展筋力,上体起し,柔軟性の指標として長座位体前屈,敏捷性の指標として棒反応テスト,バランスの指標として閉眼片脚立位時間とした.松葉杖3点歩行は利き足を免荷した状態での最大歩行を10m歩行路にて2回測定し,速度を算出した.快適・最大歩行速度についても同様に算出した.握力は握力計にて測定し,左右の平均値を体重にて補正した.等尺性膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメーターにて非利き足のみの測定を2回行い,最大値を体重で除した体重比(以下,下肢筋力)として算出した.上体起しは30秒間にできるだけはやく可能な回数を1回測定した.長座位体前屈は2回測定し,最大値を採用した.棒反応テストは5回の測定を実施し,最大と最小の値を除いた3回の平均値を算出した.閉眼片脚立位時間は非利き足が支持脚となるように立たせ,120秒を最大として2回測定し最大値を分析に用いた.統計学的分析にはピアソンの相関分析を用いて各項目の関連について検討をした.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 本研究の実施にあたり,事前に対象者に対して書面にて研究の目的,内容を説明し,同意の署名を得てから測定を実施した.【結果】 各項目の平均値は松葉杖歩行 76.4±22.0m/min,身長157.5±5.7cm,体重 49.2±4.5kg,握力0.6±0.1kg,上体起し16.4± 4.3回,下肢筋力 0.54± 0.14kgf/kg,長座位体前屈35.1±8.9cm,閉眼片脚立位時間55.6±43.5sec,快適歩行速度 83.8± 9.6m/min,最大歩行速度118.5±17.9m/min,棒反応テスト22.8±3.7cmであった.相関分析の結果,松葉杖歩行と握力r=0.59,上体起こしr=0.51,下肢筋力r=0.55,閉眼片脚立位時間r=0.52,最大歩行速度r=0.63の間で有意な正の相関を認めた(p<0.01).年齢r=-0.31,身長r=0.17,体重r=-0.36,長座位体前屈r=0.19,棒反応テストr=-0.33の間では相関を認めなかった.また,最大歩行速度との間では下肢筋力r=0.65,握力r=0.57,上体起こしr=0.54に有意な正の相関を認めた(p<0.01)が,その他の項目においては有意な相関を認めなかった.【考察】 本研究の結果,先行研究と同様に松葉杖歩行と上肢筋力の指標とした握力において有意な正の相関を認めた.また,上体起こしと下肢筋力の間においても有意な正の相関を認め,松葉杖歩行においては歩行に影響するとされる下肢筋力のほかに,体幹筋力の影響も考慮する必要があると考えられた.さらに,バランスの指標とした閉眼片脚立位時間においても松葉杖歩行との間で有意な正の相関を認めた.閉眼片脚立位時間は最大歩行速度との間では有意な相関を認めておらず,このことから,松葉杖歩行を安定してより速く行うためには筋力の他にバランス能力の影響を考慮する必要があると考えられた.これらのことから,松葉杖歩行を指導する前に,閉眼片脚立位時間や筋力の測定を行うことが有用ではないかと考えられた.しかし,今回の結果は健常成人女性のみの検討であり,今後は対象者の拡大や実際の患者での影響を検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 松葉杖歩行における筋力以外の運動機能の関係を示唆した結果となり,臨床において松葉杖歩行獲得の指標となる可能性を見出した.
著者
二木 亮 高山 正伸 阿部 千穂子 小西 将広 陳 維嘉 長嶺 隆二
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100284, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】 人工股関節全置換術(以下、THA)後の股屈曲角度は術後日常生活活動(以下、ADL)動作との関連が強いとされている。そのため術前より術後屈曲角度を予測できれば、術後理学療法における可動域獲得の指標となるだけでなくADL動作指導の参考となる。THA後の股屈曲角度を予測した報告は少なく、改善率を用いて予測した報告は見当たらない。そこで本研究の目的はTHA後早期の股屈曲角度を改善率によって予測が可能であるか検討することである。【対象と方法】 対象は2009年6月から2012年10月までに当院で施行したTHA151例157股のうち、変形性股関節症以外でTHAとなった症例、後側方進入法以外のTHA、再置換術を行った症例を除外した初回THA71例71股とした。内約は年齢68.0±8.6歳、男性7股、女性64股であった。全例とも機種はJMM社製 Kyocera PerFix 910 Seriesであった。カップ設置角度の平均値は前方開角12.3±6.0度、外方開角43.2±6.0度であった。 後療法は術翌日より全荷重が許可され、疼痛に応じて自己他動または他動運動での関節可動域運動を開始した。評価項目は術前・術後3週の股屈曲角度とした。角度の計測は他動にて柄の長いゴニオメーターを使用し日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会の方法に準じて1度単位で測定した。改善率は術後3週角度/術前角度×100にて算出した。 統計学的検定は従属変数を改善率、独立変数は年齢、体重、術側術前角度、反対側術前角度としステップワイズ法により回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を説明し同意を得た。【結果】 術前屈曲角度の平均値は術側89.1±16.8度、反対側104.2±19.3度、術後3週のそれは術側88.8±8.1度、改善率は103±20.2%と術後3週での屈曲角度は術前とほぼ同等まで改善していた。改善率は術前角度が良好であるほど低くなり、術前角度が不良であるほど高くなる傾向であった。ステップワイズ法による回帰分析の結果、改善率に影響を与える因子として術側術前角度が採用され回帰式にて表された。数式は[改善率=197.012-1.054×(術側術前角度)]、決定係数は0.77であった。【考察および結論】 THA後の股屈曲角度を予測した報告ではオシレーション角、カップの外方開角、前方開角、ネックの前捻角、ネック水平面からの角度によって人工関節自身の可動域を予測した吉峰らの報告が知られているが、臨床的には予測された人工関節自身の可動域と同等の可動域を獲得することが困難である。そのため軟部組織による影響を考慮した臨床的可動域の予測が必要であると考えられる。 THA後の臨床的屈曲可動域を予測する因子としては術側術前角度に加えて反対側角度を用いた報告も見られるが、改善率を用いた本研究では術側術前角度のみで予測が可能であった。また今回得られた回帰式は決定係数が0.77と当てはまりがよく、諸家らの報告と比べても優れた結果であった。THA後早期の股屈曲角度には術側術前角度が最も影響していたことから、術前はもちろんのこと保存期からの理学療法の関わりが術後の良好な可動域改善に重要であると思われる。 THA後の靴下着脱動作や爪切り動作の獲得はADLの向上において不可欠であると考えている。筆者らは靴下着脱動作を開排位にて獲得するためには屈曲85度以上もしくは屈曲+外旋110度以上が必要であると報告した。今回得られた回帰式を用いると術前屈曲70度であれば改善率が120%となり術後3週で屈曲86度に達すると予測され、開排位での靴下着脱動作の獲得が期待できる。一方で術前屈曲角度が70度未満である場合でもあらかじめ開排位以外の靴下着脱方法を選択して指導することも可能である。当院の退院時期は3~4週間が目安であるため本研究では術後評価日を3週と設定した。しかしTHA後の股屈曲可動域は術後1年まで改善が見込まれるとの報告もあり、術後3週で動作を獲得できていない症例であっても術後1年までに可動域改善による動作獲得は可能であると考えられる。そのため今後は長期成績について改善率から予測可能であるか検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果から改善率はTHA術後早期の股関節屈曲可動域の予測に有用であることが明らかとなった。今後は長期的な検討が必要である。
著者
高橋 美沙 渡邊 裕之 嘉治 一樹 津村 一美 橋本 昌美 高平 尚伸
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102030, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節の安定性には,inner musclesである腱板とouter musclesである浅層筋群との力のバランスが重要であり,このバランスが破綻すると肩関節の不安定性を生じさせ,肩峰下インピンジメント症候群などの種々の障害を引き起こす(筒井ら,1992).特に,棘上筋は上腕骨頭を求心位に保つ機能を有しており,動揺性肩関節患者では棘上筋が正常な機能を果たしていないことが報告されている(河野,1986).したがって,棘上筋を強化すること(棘上筋トレーニング)は肩関節安定性の向上を目的とした肩関節障害予防として重要である.従来,棘上筋トレーニングの効果判定法として肩甲骨面挙上筋力測定が行われてきた.しかし,肩甲骨面挙上筋力測定は三角筋の影響を受けやすく,棘上筋単独で筋力を評価することは困難である(Reinold et al,2007).一方,超音波画像診断装置を用いた筋厚測定は技術的に簡便かつ非侵襲性であるため棘上筋トレーニングを評価する方法として着目されている(二木ら,2001).棘上筋筋厚はMRIで測定された棘上筋断面積と相関することが報告されている(Yi et al,2012).また,我々が事前に実施した実験の未報告データにおいて,棘上筋筋厚と筋活動との相関が認められ,筋厚測定によって筋活動を推定することが可能である.棘上筋トレーニングの実施効果を縦断的に検討した報告は少なく,棘上筋トレーニングの効果については不明な点が多い.本研究の目的は,超音波画像診断装置を用いて棘上筋筋厚を測定することにより,棘上筋トレーニングが棘上筋筋活動に及ぼす影響について検討することである.【方法】対象は健常成人男性9 名の18 肩とした.肩関節疾患および外傷の既往歴,肩関節に疼痛を有する者は対象から除外した.棘上筋トレーニングの方法は,イエローセラバンド(2kg負荷)を使用し,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0°〜30°までの反復運動とした.回数は20 回× 3 セットとした.棘上筋筋厚は超音波画像診断装置(ProSound,SSD-4000,ALOKA)を使用して測定された.超音波画像の撮像位置は,肩甲棘長を100%とし,肩甲棘基部から10%,50%の部位に15MHzのリニアプローブを肩甲棘に対して垂直にあてた.筋厚は,棘上筋浅層筋膜と深層筋膜との間の距離とした.試行動作は,肩関節外旋位での肩甲骨面挙上30°の肢位にて,他動保持時,セラバンド2kg負荷時,最大等尺性収縮時の3 条件とした.実験手順を以下に示す.トレーニング開始前に棘上筋筋厚を測定しベースライン値とした.その後,対象者は棘上筋トレーニングを週に5 回の頻度で6 週間実施した.トレーニング終了後,再度棘上筋筋厚を測定した.統計学的解析として,各条件における棘上筋筋厚をWilcoxonの符号付順位和検定を用いてトレーニング前後で比較した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:2012-014).本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た.【結果】肩甲棘長の10%部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前0.28 ± 0.16cm,介入後0.41 ± 0.14cm)およびセラバンド2kg 負荷時(介入前0.61 ± 0.26cm,介入後0.80 ± 0.22cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).50% 部位での棘上筋筋厚は他動保持時(介入前1.76 ± 0.19cm,介入後1.89 ± 0.12cm)の条件においてトレーニング後に有意に増加した(p < 0.05).【考察】肩甲棘長の10%および50%の部位における棘上筋筋厚は,6 週間の棘上筋トレーニング後の他動保持時,セラバンド2kg負荷時において増加した.Yiらは,棘上筋筋厚と筋断面積が相関することを報告している.また,我々が実施した実験の未報告のデータによると,棘上筋筋厚と筋活動との間に相関が認められたことから,筋厚の増加は筋活動の増加を反映している可能性がある.したがって,6 週間の棘上筋トレーニングは筋活動を増加させる可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】6 週間の棘上筋トレーニングは棘上筋筋厚を増加させた.したがって,本研究で実施した棘上筋トレーニングは肩関節障害予防を目的とした棘上筋強化法として有用である可能性がある.また,超音波画像診断装置を用いた棘上筋筋厚測定は,棘上筋筋活動を非侵襲的に評価でき,棘上筋トレーニングの効果判定法として有用である可能性が示唆された.
著者
佐藤 萌都子 田村 幸嗣 吉田 裕一郎 河野 芳廣 森山 裕一(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100387, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 癌患者、その家族にとって終末期をどのように過ごすかは大きな問題のひとつである。今回、癌の進行に伴い、ADLおよび活動意欲が低下し、目標喪失となった終末期癌患者への理学療法を担当した。本症例を通し、意識変化のきっかけを与えることで、共通目標の設定・自宅退院が可能となった症例を経験する機会を得たため、報告する。【方法】 症例は30歳代女性。子宮肉腫に対し、他院にて子宮全摘+両側付属器切除施行。その6年後、子宮肉腫クラスV再発を認められ、当院にて抗癌剤治療目的に入院となる。生命予後については、主治医より“年単位は難しい”と入院時のインフォームドコンセントにて症例・ご家族に対し告知済みである。ご家族は夫・両親・義理の母親を中心に終日誰かが病室にいる状態であり、症例に対し非常に協力的であった。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し、患者情報を診療記録から抽出した。症例ご家族に対し、本学会にて症例報告を行うことについて同意を得た。また、当院の倫理委員会の承諾も受けた。【結果】 当院入院から退院までを以下の3相に分け、経過を報告する。(介入初期)当院入院約1ヶ月経過し、機能改善目的にリハビリテーション(以下リハ)開始となった。介入当初は、PS2~3と個室内トイレへは点滴台歩行にて自立レベルであったが、終日嘔気・嘔吐に加え間欠的な腹部痛、下腿浮腫を中心とした倦怠感により臥床傾向であった。また、人目を気にすることで個室外出はほとんどみられず、“リハが入っても何もできない”とリハ介入に対しての強い不安が聞かれた。そこで、まずは「個室からリハ室までの外出」を目標に、他の利用者のいない昼休み時間を利用するなど環境設定をしながら、少しずつ離床を図った。(活動範囲拡大期)点滴台歩行に加え自転車エルゴメーターを中心に運動耐容能改善を図るなかで、“思ったより歩けた”“動けるなら自宅に帰って妻らしく家事がしたい”など心理的変化に加え、意欲的な発言がみられ始めた。一時的には病棟内を散歩するなど、人前に出る機会も多くなり、身体機能の向上を図ることができた。PTに対して、在宅復帰への希望がある一方で、ご家族の負担となることへの不安を話す場面もあったが、症例、ご家族、病棟スタッフを含め「自宅退院」という目標を共有した。その後、抗癌剤治療の合間に自宅退院の予行を含め、訪問看護を導入しながら一時退院となった。(自宅復帰移行期)再入院に伴い再び介入したが、抗癌剤治療開始に併せ、腹水の増加や熱発・嘔吐が持続し、誤嚥性肺炎を呈するとNGチューブ・ドレーン留置となり、徐々にベッドサイドでの身体機能維持を目標とした緩和的な介入が中心となった。加えて、症状の不安定性により積極的な介入が行えない日が増えた。そのため、病棟との連携の中で疼痛コントロールを図った上での介入を行い、リラクゼーション・下腿浮腫に対するマッサージをはじめとし、体調に合わせたプログラム設定の中で、個室内の点滴台歩行の継続を図り、機能維持に努めた。最終的な自宅退院が近づく中、希望がみられる一方で“家に帰っても家族の迷惑になるのでは”という強い不安が聞かれたが、家族の受け入れを得ることができ、再入院から2ヵ月後、状態維持のまま自宅退院となった。【考察】 介入当初、活動意欲の低かった症例に対し目標設定を行うことに大変苦慮したが、症例に合わせた環境設定を行うことで個室外への離床を図ることができ、そこから前向きな意識変化を生み出せたことが自宅退院という共通目標設定に大きく繋がったと考える。また、終末期においてADL低下は避けられないが、緩和的介入へ移行し症状が不安定な中でも介入し続けることで治療はまだ続いているという精神的な支えとなり、身体機能低下を遅らせるだけでなく、目標への意欲を保持することも可能であると考える。自宅退院が決まったのち、症例からは笑顔とともに“やっぱり家が良いね”と、ご家族からは“家に帰らせることができて良かった”という発言が聞かれ、QOL向上を図れたことから今回のPT介入は適切なものであったと考える。【理学療法学研究としての意義】 癌の終末期において、QOLの向上を図ることは重要である。ADL機能の向上が図れなくなった時こそ、身体機能面への介入だけでなく、症例に合わせた理学療法を行い、目標を共有し意識を高めることはQOL向上に有効なアプローチと考える。
著者
梅井 凡子 小野 武也 大塚 彰 沖 貞明 大田尾 浩 積山 和加子 田坂 厚志 石倉 英樹 相原 一貴 佐藤 勇太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100050, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】虚血再灌流後の骨格筋は浮腫により運動障害を引き起こす。運動障害の原因は浮腫に付随する炎症反応と疼痛であると推察される。先行研究により抗酸化物質により炎症反応が軽減することを確認した。しかし,その際の行動観察が不十分であったため,今回,虚血再灌流後にラット後肢への重量配分を測定することで鎮痛評価を行った。本研究においては抗酸化物質投与と運動負荷が,虚血再灌流後の骨格筋に与える影響を検証することを目的とした。【方法】対象は8 週齢のWistar系雌性ラット20 個体である。これらを5 個体ずつ無作為に「再灌流のみ群」「運動群」「アスコルビン酸群」「トコフェロール群」の4 群に振り分けた。すべての群は麻酔下にて右後肢に対し駆血を行った。駆血圧は300 mmHgで駆血時間は90 分間である。「アスコルビン酸群」「トコフェロール群」は12 時間毎にそれぞれを投与した。運動負荷はトレッドミルにて再灌流開始24 時間後より4 日間行った。運動負荷は1 日2 回とし,運動時間は20 分間とした。トレッドミルの速度は10 m/secより開始し20 m/secまで増加させた。また,すべての運動負荷時には歩行状態を観察するとともに 鎮痛評価は右後肢の重量配分を測定した。すべての群は実験終了時に対象肢からヒラメ筋を摘出した。摘出したヒラメ筋は,液体窒素で急速冷凍させ凍結ヒラメ筋標本を作製した。凍結ヒラメ筋標本はクリオスタットを使用して,10 μm厚のヒラメ筋筋組織横断切片を作製し,H&E染色を施した。顕微鏡デジタルカメラを使用して標本毎に組織学的検索を行った。重量配分の統計処理は実験開始前と比較し,対応のあるt検定を行った。危険率5%未満をもって有意差を判定した。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,動物実験モデルであるために演者所属の動物実験倫理委員会の承認を受けて行った。【結果】重量配分は実験開始前「再灌流のみ群」48.3%,「運動群」51.6%,「アスコルビン酸群」47.0%,「トコフェロール群」48.2%であった。虚血再灌流翌日には「再灌流のみ群」33.6%,「運動群」32.0%,「アスコルビン酸群」28.9%,「トコフェロール群」41.3%と変化し,実験最終日には「再灌流のみ群」25.8%,「運動群」35.0%,「アスコルビン酸群」33.1%,「トコフェロール群」36.2%であった。「トコフェロール群」以外の3 群において実験開始前に比較して虚血再灌流翌日,実験最終日ともに重量配分は有意差に減少していた。運動負荷時の歩行状態は,運動1 日目では「運動群」は5 個体,「アスコルビン酸群」「トコフェロール群」はともに3 個体で右下肢が十分背屈できずに足関節底屈位のまま歩行をしていた。運動2 日目は「運動群」は3 個体,「アスコルビン酸群」2 個体,「トコフェロール群」3 個体で右下肢が十分背屈できず,「運動群」2 個体,「アスコルビン酸群」2 個体,「トコフェロール群」1個体に擦過傷による出血を認めた。運動3日目は「運動群」は1個体,「アスコルビン酸群」2個体,「トコフェロール群」2 個体で右下肢が十分背屈できず,「運動群」2 個体,「トコフェロール群」3 個体に擦過傷を認めた。「アスコルビン酸群」2 個体は途中休憩を入れていた。運動4 日目は「運動群」,「アスコルビン酸群」,「トコフェロール群」それぞれ1 個体で右下肢の背屈が弱く,途中休憩を入れていた。筋線維の組織学的検索において「再灌流のみ群」は正常に比較し細胞間が広く,細胞自体も丸みを帯びていた。「運動群」「アスコルビン酸群」は「再灌流のみ」に比較して細胞間は狭い。核の膨化を認めるとともに中心核が存在した。「トコフェロール群」多数の炎症細胞の増加と壊死した筋線維の痕跡を認めた。【考察】虚血再灌流障害により発生する浮腫及び炎症反応により虚血肢への重量配分が減少する。しかし,「トコフェロール群」においては虚血再灌流翌日の重量配分の減少が抑制された。トコフェロールには血流改善,細胞膜保護作用があるため虚血再灌流後に発生する浮腫を減少させ,浮腫に伴う疼痛を減少させることが出来たものと考える。また,運動負荷により重量配分は増加していた。このことは運動負荷により浮腫が改善したものであると推察される。筋線維の組織学的検索においても「再灌流のみ群」に比較してその他の群では細胞間が狭かった。虚血再灌流後の浮腫の抑制には抗酸化物質の投与および運動負荷が有効であると示唆された。【理学療法学研究としての意義】虚血再灌流後の浮腫の抑制に抗酸化物質投与と運動負荷が効果的であり,早期から運動療法を施行する裏付けとなると考える。
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 伊東 元 鈴木 大輔 藤宮 峯子 内山 英一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100534, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】股関節内転筋群の内転作用以外は諸説あり不明な点が多い。これは,関節の肢位によって筋の作用が変化することが関係している。本研究は股関節の角度変化に伴う股関節内転筋群のモーメントアームの変化を調べ,その作用を検討した。なお,本研究ではDostalら(1981,1986)の方法(モーメントアーム・ベクトル,以下MAV)を用いてモーメントアームの各成分(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)を算出した。【方法】1. 材料:死亡年齢84 〜98 歳(平均90 歳)の未固定標本5 体の右下肢を用いた。神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮が見られる下肢は除外した。標本は骨盤〜大腿骨部分を使用し,関節包および恥骨筋(PE),短内転筋(AB),長内転筋(AL),大内転筋(AM)を残して計測した。なお,AMは大腿深動脈の貫通動脈を基準に4 つの筋束(AM1-AM4)に分けた。2. 計測:骨盤を木製ジグに固定し,大腿骨を屈曲・伸展方向に同一験者が動かした。その際,磁気式3D位置センサー(Polhemus社製)を用いて,骨および筋の参照点の座標変化を記録した。参照点は,筋の起始部と停止部,上前腸骨棘,恥骨結合,大転子,外側上顆,大腿骨頭上の3 点とした。また,筋の起始部と停止部の直線距離を計測し,筋腱複合体の長さ(筋長)とした。3. データ処理:大腿骨頭上の座標と骨頭の半径から骨頭中心の座標を非線形最小2 乗法で求めた。骨頭中心座標と参照点を用いて直交座標系を構成し,関節座標系を定義した。骨盤側の座標系を絶対座標系(GCS),大腿骨側を移動座標系(LCS)とした。GCSとLCSの関係から関節角度を求めた。筋の張力方向は,停止部から起始部へ向かう単位ベクトルとした。更に単位ベクトルと筋の停止から骨頭中心に向かうベクトルの外積から3 軸(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)のMAVを求めた。MAVは,筋が1Nの張力を発揮した時の各軸周りの関節トルクの大きさと向きを示す。4. 分析:大腿長で標準化されたMAVおよび筋長と股関節屈曲角度の関係を2 次式で近似した。得られた近似式を用いて,15 度間隔で股関節屈曲-15°から75°の範囲におけるMAVと筋長の値を求めた。最大値を示したMAV成分を主成分,主成分の50%以上の値を示した成分を二次成分とした。【倫理的配慮、説明と同意】使用した遺体は,本人および家族が未固定遺体として使用されることを同意している。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】股関節屈曲-15°から75°の範囲で,AM4 を除く全ての内転筋群の主成分は内転成分であった。一方,AM1 とPEを除き,外旋/内旋成分は常に小さな値を示した。屈曲角度の増加に伴い,AM4 を除く全ての筋の屈曲/伸展成分が屈曲から伸展に転換した。AM2 とAM3 は,それぞれ股関節屈曲45 度,75 度以上で伸展成分が二次的成分になった。AM4 の伸展成分は屈曲0 度以上で二次成分,さらに45 度以上では主成分となった。ALは股関節伸展15°で屈曲成分が二次成分となった。AM1,PE,ABでは二次成分を認めなかった。いずれの筋束も二次成分を示す股関節肢位で筋長は伸長位にあった。【考察】全屈曲角度を通じて,AM4 を除く股関節内転筋群の主成分は内転であったが,屈曲/伸展成分は各筋で異なる特徴を示した。大内転筋のAM2-AM4 は股関節屈曲位において伸展作用を有すると示唆される。特に,AM4 は股関節屈曲45 度以上では主成分が伸展になることから,股関節伸展筋としての要素が強い。ALは従来股関節屈曲位において股関節伸展作用を持つとみなされていたが,股関節屈曲位におけるALの伸展成分はそれほど大きくなく,また筋が弛緩する肢位のため,伸展作用は小さいと考えられる。ALは股関節伸展位で二次成分に屈曲を示し,加えて筋も伸長位にあることから,股関節伸展位近傍で屈筋作用を持つ筋であると考えた。【理学療法学研究としての意義】股関節内転筋群は下肢を内転させるだけの筋ではない。股関節に対する長内転筋の屈曲作用や大内転筋の伸展作用は,腸腰筋やハムストリングスのサブモーターとして機能していると考える。このため,内転筋群は効果的な運動療法を行う上でもっと考慮すべき筋である。
著者
三瓶 良祐 小林 龍生 小倉 正恒 田中 良弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101171, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】全身振動刺激トレーニングは、振動するプラットフォーム上で運動することによって身体機能を向上させるトレーニング方法である。トレーニング効果として、筋力増強、筋柔軟性の向上や神経筋協調性の改善に対する効果などが報告されている。脊髄腫瘍術後、深部感覚障害による脊髄性失調を呈した症例に対し、全身振動刺激トレーニングを実施し、身体機能に関する即時および長期効果が得られたので報告する。【方法】対象は、脊髄内腫瘍(Th2/3レベル、Cavernous angioma)、52歳の男性。H17年度より右下肢のしびれを自覚。H22年5月、右下肢の違和感、しびれが増強し、右下肢麻痺、両下肢感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害を認めた。H22年11月15日に他院にて腫瘍摘出術を実施。11月16日よりリハビリテーション開始。H24年4月全身振動刺激トレーニング開始時、MMT左右下肢とも5レベル。感覚は両下肢でしびれが強く、表在覚は両下肢とも軽度鈍麻、運動覚は右足趾で軽度低下、振動覚は右内踝7秒、左内踝9秒とともに低下。Romberg sign陽性。基本動作は自立しており、走行も可能なレベルである。全身振動刺激トレーニング機器であるPOWER PLATEを使用し、周波数35Hz、振幅2~4mmの振動刺激を用いて、スクワット姿勢など7種類の運動と2種類のストレッチを3回/週、14週間施行した。振幅、刺激時間は1週間ごとに振幅2mm・30秒、4mm・30秒、2mm・60秒、4mm・60秒と段階的にあげ、5週目以降は4mm・60秒で実施した。評価は1週間毎に、閉眼閉脚立位時間、開眼片脚立位時間(左右)、垂直飛びをPOWER PLATE 実施前後に計測した。各評価は3回試行し、即時効果はトレーニング実施前後に得られた最高値を、長期効果は全身刺激トレーニング実施前の平均値を採用した。統計学的検討として、t検定を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究を実施するにあたり、ヘルシンキ宣言に基づき症例に対し事前に十分な説明と同意を得てから研究を実施した。【結果】即時効果として、閉眼閉脚立位時間は、実施前16.3±8.8秒から実施後115.3±14.7秒で有意差を認めた(P<0.01)。開眼片脚立位時間は、実施前、右13.5±6.2秒、左16.8±8.6秒から、実施後、右23.4±15.0秒、左41.6±31.7秒で、両側で有意差を認めた(P<0.01)。垂直飛びは、実施前30.2±2.9cmから実施後35.6±1.2cmで有意差を認めた(P<0.01)。POWER PLATEを用いた運動後、すべての評価項目で即時効果を認めた。また、長期効果は、閉眼閉脚立位時間は初回、23.2±12.9秒から評価14回目で100.1±24.5秒、開眼片脚立位時間は、初回、右16.0±6.2秒、左18.2±12.5秒、評価14回目で右86.0±34.0秒、左68.8±49.5秒、垂直飛びは初回、33.3±2.3cm、評価14回目で34.8±0.5cmとすべての評価項目で長期的な改善効果の傾向が見られた。【考察】即時効果として、閉眼閉脚立位時間は、実施前16.3±8.8秒から実施後115.3±14.7秒で有意差を認めた(P<0.01)。開眼片脚立位時間は、実施前、右13.5±6.2秒、左16.8±8.6秒から、実施後、右23.4±15.0秒、左41.6±31.7秒で、両側で有意差を認めた(P<0.01)。垂直飛びは、実施前30.2±2.9cmから実施後35.6±1.2cmで有意差を認めた(P<0.01)。POWER PLATEを用いた運動後、すべての評価項目で即時効果を認めた。また、長期効果は、閉眼閉脚立位時間は初回、23.2±12.9秒から評価14回目で100.1±24.5秒、開眼片脚立位時間は、初回、右16.0±6.2秒、左18.2±12.5秒、評価14回目で右86.0±34.0秒、左68.8±49.5秒、垂直飛びは初回、33.3±2.3cm、評価14回目で34.8±0.5cmとすべての評価項目で長期的な改善効果の傾向が見られた。【理学療法学研究としての意義】脊髄腫瘍摘出術後に脊髄性失調を呈した症例に対し、全身振動刺激トレーニングを施行し、バランス能力と筋パワーの2つの異なる身体機能に改善を認めた。脊髄性失調の症例に対して全身振動刺激トレーニングにより改善効果のある可能性が示唆された。
著者
伊東 孝洋 陶山 啓子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100311, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 臨床においては踵部の褥瘡予防を目的としてクッション等を用いて下肢挙上を行うことがあるが、過度な下肢挙上により仙骨部に褥瘡を発症する事例が存在する。また先行研究において膝関節拘縮は仙骨部や踵部に対する褥瘡発生リスクを高める要因の一つとされている。以前から褥瘡予防を目的とした背臥位や30°側臥位などの体位と仙骨部接触圧との関係や膝関節の拘縮が仙骨部接触圧にどのような影響を及ぼすか調査した研究はよく行われている。しかし膝関節屈曲拘縮及び下肢挙上の高さが仙骨部接触圧に与える影響については検討されていない。本研究の目的は膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さが、仙骨部接触圧にどのような関連が生じるのか明らかにすることである。【方法】 対象者は20歳から35歳までの健常な成人男性で、BMIが18.5以上25未満の者を対象とした。測定期間は平成23年5月1日~10月31日、測定項目は対象者に対して膝関節角度(0°、30°、50°)と下肢挙上の高さ(0cm、5cm、10cm、15cm、20cm)を変化させ、背臥位におけるそれぞれの仙骨部接触圧を測定した。また対象者の背景(年齢、身長、体重)を調査した。測定方法は仙骨部接触圧をニッタ社製Body Pressure Measurement System(以下BPMSと略す)を用いてベットにマットレス(ケープ社製 アイリス2)を置き、その上にBPMSのセンサーを設置し測定を行った。そして対象者は病衣を着用し、膝関節角度(0°、30°、50°)いずれかに設定したダイアルロック式膝装具 (中村ブレイス社製ラックニリガACL)を装着後、センサー上に背臥位となり、1分間安静を保持した後に全ての膝関節角度と下肢挙上の高さについて、仙骨部最大接触圧を20秒間に1回、計3回測定し平均値を仙骨部接触圧とした。下肢挙上の高さはマットレスから踵部までの距離とし、高さの設定は体圧分散能力のない高さ5cmの足枕とニシスポーツ社製バランスパッド(以下バランスパッド)を用いて設定した。なお下肢挙上時は両下肢を挙上した。 測定において順序効果を相殺するため、膝関節屈曲角度と下肢挙上の高さの順番はランダムに設定した。統計分析はExcel統計2006を用い、膝関節屈曲角度それぞれにおける下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係をSpearmanの順位相関係数によって求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は愛媛大学大学院医学系研究科看護学専攻研究倫理審査委員会の承認を受け、研究への参加は対象者の自由意志にて行い、書面による同意を得て行った。また個人情報の取り扱いについては氏名についてはコード化し外部に情報流出がないよう十分に留意した。【結果】 本研究に参加した対象者は15名であった。平均年齢は28.6±4.56歳、平均BMIは22.4±1.98であった。それぞれの膝関節屈曲角度における下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関係は、膝関節屈曲0°はr=0.41(p<0.001)、膝関節屈曲30°はr=0.35(p<0.001)、膝関節屈曲50°はr=0.41(p<0.001)であった。 【考察】 膝関節0°、30°、50°それぞれにおいて下肢挙上の高さと仙骨部接触圧に有意な正の相関関係が認められた。理由として下肢挙上により大腿部や下腿部後面とマットレスとの接触面積が減少し、大腿部後面や下腿部後面に係る接触圧が仙骨部へ移動したと考えた。また先行研究において大腿挙上運動によって骨盤は後傾方向へ運動するといわれており、下肢挙上による骨盤の後傾運動が生じ、仙骨部接触圧が増加した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 下肢挙上は血圧低下時や整形外科手術前後などで行われる姿勢であり、臨床においてよく行われる姿勢である。また高齢化を迎えるにあたって膝関節屈曲拘縮を有する患者は今後増加することが考えられる。膝関節屈曲角度及び下肢挙上の高さと仙骨部接触圧との関連を明らかにすることで、仙骨部における褥瘡発生及び予防につながる知見が得られる可能性があり、本研究を行う意義は大きいと考える。