著者
仲島 佑紀 藤井 周 坂内 将貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100654, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】鏡視下肩腱板修復術後の早期後療法における腱板機能エクササイズとして等尺性運動が選択され、ホームエクササイズとしても指導することが多い。しかし臨床上、適切な運動負荷量の設定が困難であり、運動時に肩関節周囲筋の過活動など運動習得に難渋する症例を経験する。そのような症例においては前腕や手関節運動を用いた腱板筋群の賦活を行っているが、運動様式の違いによる腱板筋群の筋活動については明らかとなっていない。そこで本研究では肩関節外旋等尺性運動に着目し、運動様式の異なる3種類の腱板機能エクササイズにおける筋活動について、表面筋電図学的に検討することを目的とした。【方法】対象は肩関節に既往のない健常男性17名(25.5±2.1歳)の非利き手側17肩とした。測定筋は棘下筋、小円筋、三角筋前・後部線維とした。測定機器はNoraxon社製Myosystem1400の表面筋電図を使用し、サンプリング周波数は1000Hzに設定した。電極は十分な皮膚処理後に貼付した。測定肢位はすべての運動課題において、外転装具を用いて肩関節外転位、前腕回内外中間位、手関節掌背屈中間位で肘を机上に乗せた坐位とした。運動課題は3種類とし、試行回数は5秒間を3回とした。<1>肩関節外旋等尺性運動(以下、外旋);自家製pulleyを用いて、0.5kg重錘にて肩関節内旋方向の牽引力が加わるよう設定した。抵抗部位を手関節とし、保持させた。<2>前腕回外反復運動(以下、回外);輪ゴムの一方を固定し、一方を母指に掛け、前腕回内外中間位から最大回外位までの反復運動を行わせた。<3>手関節背屈反復運動(以下、背屈);輪ゴムを母指と示指・中指で把持し、手関節掌背屈中間位から最大背屈位までの反復運動を行わせた。<2>と<3>については最大回外位、最大背屈位で輪ゴムが一定の張力となるよう設定し、メトロノームを用いて1秒に1回のリズムで運動を行わせた。解析区間は5秒間のうち中間3秒間とした。筋活動の解析は、各筋の最大等尺性収縮を測定し、得られた筋活動最大値から%MVCを算出した。解析区間で得られた%MVC積分値を筋活動量とし、各運動課題の3試行の平均値を算出した。統計学的解析には2元配置分散分析を用い、各運動様式および各筋活動量を比較検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理委員会で承認を得た後に行われた(承認番号2012019)。被験者に対して倫理委員会規定の同意書を用いて研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】各運動課題における筋活動量(%MVC)は、外旋において棘下筋19.6±11.5、小円筋12.0±5.3、三角筋前部2.5±1.4、三角筋後部3.3±1.5、回外において棘下筋22.1±11.2、小円筋14.7±6.0、三角筋前部3.9±2.9、三角筋後部4.3±2.2、背屈において棘下筋18.7±10.1、小円筋13.4±6.2、三角筋前部3.2±2.4、三角筋後部3.8±2.1であった。2元配置分散分析から各筋の筋活動量に主効果が認められ(p<0.01)、各運動様式には主効果が認められなかった(p=0.19)。交互作用は認められなかった(p=0.96)。【考察】本研究結果は、最も高値の筋活動量が棘下筋であり、次いで小円筋、三角筋後部、三角筋前部の順となり、各運動様式においてその傾向が同様であったことを表している。これは本研究運動課題における低負荷外旋等尺性運動と回外や背屈を用いた腱板機能エクササイズがそれぞれ同様の運動効果をもたらす可能性を示唆するものと考える。林らは肩関節ROMエクササイズとしての腱板等尺性収縮の有効性を報告し、また石谷らは、術後早期の腱板機能エクササイズについて、鏡視下腱板修復後のRSD様症状の発生予防や挙上角度の早期改善に有利であること、装具固定期間の等尺性収縮を用いた早期後療法と術後1ヶ月後にエクササイズを開始した群において腱骨接合部癒合不全率に差がなかったと報告している。先行研究からも後療法における等尺性運動は有効であると考える。しかし臨床上、外旋等尺性運動においては運動強度を定めることが困難であり、組織修復期間の過剰な筋収縮のリスクなどを考慮する必要がある。そのため早期後療法として低負荷での筋収縮を行わせるうえで、運動課題が容易である前腕や手関節を用いた腱板機能エクササイズの有用性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】腱板機能エクササイズについて表面筋電図学的検討を行ない、各運動様式で筋活動が同様の傾向を示したことは、本研究結果が臨床上、症例に応じた運動療法選択の一助となる可能性が示唆された。
著者
梅垣 雄心 中村 雅俊 武野 陽平 小林 拓也 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101963, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】臨床現場において、ハムストリングスのストレッチングは多くの場面で用いられている。近年、ストレッチングの効果に関して多く報告されているが、ストレッチング法について検討した報告は少なく、特に内外側ハムストリングスの選択的なストレッチング法について、科学的根拠は示されていない。理論的に筋のストレッチングは筋の作用と逆方向へ伸張すべきであり、ハムストリングスは股関節伸展・膝関節屈曲作用に加え、内側は股関節内旋、外側は外旋作用を有していることから、内側は股関節屈曲・外旋位から膝関節伸展、外側は股関節屈曲・内旋位から膝関節伸展の他動運動が効果的なストレッチングになると考えられる。その一方で股関節屈曲・膝関節伸展に股関節外旋を加えることで外側を、内旋を加えることで内側を選択的に伸張できるという報告もあり、統一された見解は得られていない。そこで、本研究では筋は伸張されると硬くなるという先行研究に基づき、超音波診断装置と弾力評価装置を用いて筋硬度を測定し、筋の伸張量の指標とした。本研究の目的は股関節屈曲・膝関節伸展に股関節の内旋と外旋を加えることが、内・外側ハムストリングスの伸張量に与える影響を明確にすることである。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常男性17名(平均年齢24±3.4歳)の利き脚(ボールを蹴る)側の大腿二頭筋(以下:BF)及び半腱様筋(以下:ST)とした。ストレッチング肢位は、背臥位でベッド側方から非利き脚をたらし、ベルトで骨盤を固定した。試行は股関節90°屈曲、膝関節90°屈曲位(以下Rest)、股関節 90°屈曲・最大内旋からの膝関節伸展(以下IR)、股関節90°屈曲からの膝関節伸展(以下NOR)、股関節90°屈曲・最大外旋からの膝関節伸展(以下ER)の4試行とし,IR、NOR、ERでは痛みを訴えず、最大限伸張する角度まで他動的関節運動を行い、その時の膝関節伸展角度と筋硬度を測定した。 筋硬度の評価はテック技販製弾力評価装置(弾力計)と、SuperSonic Imagine社製超音波診断装置の剪断波エラストグラフィ機能 (以下:エラスト)を用いた。弾力計では圧力20NでRestのみ2回測定し、その平均値を算出した。IR、NOR、ERは1回の測定値を使用した。エラストでは全て1回の測定値を使用した。測定位置は,坐骨結節と外側上顆を結ぶ線の中点の位置でBFを、坐骨結節と内側上顆を結ぶ線の中点の位置でSTを触診しながら測定を行った。統計学的解析では、BFとSTにおける筋硬度値と膝関節伸展角度をそれぞれ各条件間でWilcoxon検定を用いて比較し、Bonferroni補正を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を説明し、研究に参加することの同意を得た。【結果】BFでは、弾力計の値はRestに比べ、IR,NOR,ERが有意に減少し、エラストの値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に増加しが、両筋硬度ともIR、NOR、ERの間に有意な差は認められなかった。STでは、弾力計の値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に減少し、ERに比べ、IR、 NORが有意に減少したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。エラストの値はRestに比べ,IR,NOR,ERが有意に増加し、ERに比べIR、NORが有意に増加したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。膝関節伸展角度は、NORで-21.5±12.2、IRは-31.5±7.2、ERは-36.5±8.8であり、NORはIR,ERに比べ有意に高値を示し、IRはERに比べ有意に高値を示した。【考察】本研究では、 BFはIR,NOR,ERの間で伸張量に変化がなかったことから、BFの伸張量を股関節内外旋の動きにより、コントロールすることは困難であることが示唆された。一方、STはERに比べIR、NORの方が有意に伸張されたことから、大きな外旋の動きを加えた場合より、股関節内外旋の動きを加えない場合や大きな内旋の動きを加えた場合の方が、STは伸張されやすいことが示唆された。この理由として、内側ハムストリングスの股関節内旋作用、外側ハムストリングスの外旋作用というのは解剖学的肢位での作用であり、股関節屈曲や最大内外旋することによって作用が変化している可能性が考えられる。また、ERにおいて、NORやIRと比較して膝関節伸展角度が有意に小さく、BFが伸張されていないことから、ERではハムストリングス以外の要素が優先的に膝関節伸展を妨害しており、その結果としてBFが伸張されなかった可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】ハムストリングスのストレッチングにおいて、股関節内外旋の動きを加えることでより伸張することは難しいことが考えられ、ハムストリングスのストレッチングにおいては股関節内外旋の動きを大きく加える必要はないことが考えられる。
著者
池澤 秀起 高木 綾一 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100556, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者の肩関節挙上運動は、肩甲骨の挙上など代償運動を認めることが多い。この原因の一つとして、僧帽筋下部線維の筋力低下による肩甲骨内転、上方回旋運動の減少が挙げられる。理学療法の場面において、患側上肢の運動により僧帽筋下部線維の筋活動を促すが、可動域制限や代償運動により難渋する。そこで、僧帽筋下部線維の筋活動を促す方法として、腹臥位での患側上肢と反対側の股関節外転位空間保持が有効ではないかと考えた。その結果、第47 回日本理学療法学術大会において、腹臥位での股関節中間位空間保持と腹臥位での肩関節外転145 度位保持は同程度の僧帽筋下部線維の筋活動を認めたと報告した。一方、先行研究では下肢への抵抗負荷を用いない自重負荷であったことから、下肢への抵抗負荷を考慮することで僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促せるのではないかと考えた。腹臥位での股関節中間位空間保持において下肢への抵抗負荷の有無が僧帽筋下部線維や肩甲骨周囲筋の筋活動に与える影響を明確にし、僧帽筋下部線維のトレーニングの一助にしたいと考えた。【方法】対象は上下肢、体幹に現在疾患を有さない健常男性22 名(年齢25.4 ± 2.4 歳、身長168.9 ± 2.2cm、体重60.6 ± 4.0kg)とした。測定課題は、利き腕と反対側の股関節中間位空間保持とした。測定肢位は、ベッドと顎の間に両手を重ねた腹臥位で股関節中間位とした。測定筋は、股関節中間位空間保持側と反対側で利き腕側の僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維、僧帽筋下部線維とした。股関節中間位空間保持側への抵抗負荷量は、対象者の体重の0%、10%、30%、50%の重さを抵抗負荷量として設定し、Isoforce(オージー技研社製)を用いて測定した。抵抗負荷をかける位置は、大腿骨内側上顆と外側上顆を結んだ線の中点と坐骨を結んだ線分の中点とし、鉛直下方向に抵抗を加えた。筋電図測定にはテレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社製)を使用した。測定筋の筋活動は、1 秒間当たりの筋電図積分値を安静腹臥位の筋電図積分値で除した筋電図積分値相対値で表した。また、抵抗負荷が無い場合(0%)、抵抗負荷が体重の10%、30%、50%とした場合の測定筋の筋電図積分値相対値を算出し、4 群全ての筋電図積分値相対値をそれぞれ比較した。比較には一元配置分散分析及び多重比較検定を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に本研究の目的及び方法を説明し、同意を得た。【結果】僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。【考察】腹臥位での股関節中間位空間保持において、空間保持側と反対側の僧帽筋下部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%に対して、抵抗負荷が30%、50%において有意に増加した。この要因として、脊柱の固定には体幹筋や肩甲骨周囲筋の選択的な筋活動ではなく、全ての筋群の協調的な筋活動により脊柱の固定を図るのではないかと推察する。このことから、腹臥位での股関節中間位保持における下肢への抵抗運動において僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいのではないかと考える。また、僧帽筋上部線維、僧帽筋中部線維の筋電図積分値相対値は、抵抗負荷が0%、10%、30%に対して、抵抗負荷が50%において有意に増加した。低負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するために両側の腰部多裂筋の筋活動が作用したと推察する。一方、高負荷での股関節中間位空間保持では、骨盤や脊柱を固定するためにより大きな力が必要になる。そのため、腰部多裂筋など骨盤と脊柱に付着する筋群に加え、空間保持側と反対側の僧帽筋など脊柱と肩甲骨に付着する筋群の筋活動が増大することで脊柱の固定を図ったのではないかと考える。一方、肩関節挙上時に肩甲骨内転筋の筋緊張低下により肩甲骨外転位を呈する対象者は、高負荷での抵抗運動により僧帽筋上部・中部・下部線維の筋活動を総合的に促すことが可能となるため効果的なトレーニングになるのではないかと推察する。しかし、肩関節挙上時に僧帽筋上部線維の過剰な筋活動を認める対象者は、高負荷での抵抗運動は効果的ではないと考える。【理学療法学研究としての意義】腹臥位での股関節中間位空間保持課題において、抵抗負荷の増減により僧帽筋下部線維の筋活動を選択的に促すことは難しいが、高負荷での抵抗運動は、肩関節挙上時に肩甲骨の内転運動が乏しい対象者のトレーニングとして効果的であることが示唆された。
著者
成田 爽子 牧野 美里
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100262, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】厚生労働省の平成22 年の国民生活基礎調査によると、12 歳以上の者(入院者は除く)について、日常生活での悩みやストレスの有無別構成割合をみると「ある」46.5%となっている。運動とストレスの関係について論文検索をしたところ、運動によりストレス軽減効果が得られるとしている文献が多数みられた。その評価指標として、主観的指標を用いているものが多く、客観的指標を用いているものは比較的少なかった。そこで、今回の研究では運動によりストレスの改善ができるかどうかを客観的に評価することを目的とした。【方法】健常男子学生16 名(年齢:21.5 ± 2.27 歳、身長:175.13 ± 3.93cm、体重:68.69 ± 9.41kg) を対象とした。主観的指標として日本語版Profile of Mood States短縮版(以下POMS短縮版)、客観的指標として心拍変動周波数成分(LF/HF:交感神経活動指標、HF:副交感神経活動指標)の2 分間の平均と唾液アミラーゼ活性を用いた。対象者はPOLAR社製スポーツ心拍計RS800CX(以下:心拍計)を装着し、安静閉眼座位にて10 分間の休憩を取った。自転車エルゴメーターにて20 分間の運動と1 分間のクールダウンを行い、運動前後で、上記の評価を行った。尚、運動強度は、50%HRmax、50 回/分を目安として快適に運動を続けることができる負荷量を事前に決定した(52.5 ± 14.76W)。周波数解析は付属のソフトを用いて行い、統計処理にはStatcel3 を用い、対応のあるt検定(抑うつ−落ち込み、怒り−敵意、唾液アミラーゼ活性、LF/HF)及びWillcoxon符号付順位和検定(緊張−不安、活気、疲労、混乱、HF)により行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての被験者には事前に本研究の目的や方法、参加への同意・撤回の自由、プライバシー保護の徹底について説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】POMS短縮版の各項目において運動前後で有意差は見られなかったが、緊張−不安(前43.44±9.68点、後40.69±7.28点)、抑うつ−落ち込み(前45.44 ± 8.55 点、後44.19 ± 7.84 点)、怒り−敵意(前41.88 ± 7.85 点、後40.5 ± 5.92 点)、混乱(前46.19 ± 5.39 点、後44.31 ± 4.67 点)の項目のT得点の減少が見られ、活気(前42.06 ± 14.27 点、後44.50 ± 14.42 点)の項目でT得点の上昇が見られた。唾液アミラーゼ活性(前40.88 ± 41.97KU/L、後20.25 ± 24.06 KU/L)においても、運動前後で有意差は見られなかったが、数値の減少が見られた。つまり、これらの項目ではストレスを改善する傾向がみられた。また、有意差は見られなかったが、POMS短縮版の疲労(前44.88 ± 10.36 点、後47.56 ± 9.99 点)の項目のT得点が増加した。副交感神経の指標であるHF成分(前447.99 ± 429.42ms 2 、後195.53 ± 184.97ms 2 )において有意に減少し、交感神経の指標であるLF/HF(前570.14 ± 1248.07、後499.84 ± 317.05)は、ほぼ変化はなかった。【考察】本研究では、運動によりストレスの改善ができるかどうかを客観的に評価することを目的として実験を行った。「リラクセーション状態=ストレスのない状態」と解釈され、心身のリラクセーションの評価法については未だに十分に整理されているとは言い難いとされており、ストレスの評価法についても同様であると考えられる。本研究においても、主観的評価や唾液アミラーゼ活性ではストレス改善傾向を示しているが、有意差は見られていない。また、副交感神経の指標であるHFの減少に関しても、運動によって副交感神経活動が減少することは既に示されている。今回は運動直後のHFを解析したためにHFが有意に低下したと考えられ、それ以降のHFの推移を追っていくことが重要だったのではないかと思われる。また、50 〜80%HRの運動によってストレス軽減効果が得られるとされているが、乳酸性作業閾値以上の運動によりストレスホルモンである副腎皮質刺激ホルモンが亢進し、交感神経系が亢進すると言われているため、低負荷の運動でもストレス軽減効果が見られるか等、運動強度についても再検討する必要があると考えられる。これらのことから、客観的にストレスを評価できたとは言い難いが、運動強度や評価指標、評価を行うタイミング等の実験方法を再検討することで、ストレスを客観的に評価することができる可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】現代ではストレスを抱える人が多く、運動療法を行うことによって身体的な障害のみでなく精神的なストレスを改善することができるならば、QOLの向上につながると考える。そのためには、運動とストレスの関連を把握し、ストレスを評価する指標が必要であり、本研究はその一助となると思われる。更に、運動強度や評価指標など、実験方法を再検討することで、患者への臨床応用も可能となると考えるため、理学療法学研究として意義があると思われる。
著者
森山 信彰 浦辺 幸夫 前田 慶明 篠原 博 笹代 純平 藤井 絵里 高井 聡志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101779, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 体幹筋は,表層に位置するグローバル筋と,深部に位置するローカル筋に分類される.ローカル筋は骨盤の固定に寄与しており,下肢と骨盤の分離運動のためにはローカル筋の活動が不可欠である.今回,選択的にローカル筋の活動を促すDrawing-in maneuver(以下,Draw in)といわれる腹部引き込み運動に着目した.主に下肢の運動中にローカル筋による骨盤固定作用を得るために,グローバル筋の活動を抑えながら,ローカル筋の筋活動を高めるDraw inの重要性が知られてきている. 座位では背臥位に比べ内腹斜筋の活動が増加することや(Snijder et al. 1995),腹直筋が不安定面でのバランスに関与することから(鈴木ら2009),Draw inを異なる姿勢や支持面を持つ条件下で行うとこれらの筋の活動量が変化すると考えられる.今回,Draw in中のグローバル筋である腹直筋と,ローカル筋である内腹斜筋を対比させながら,この活動量の比率を求めることで,どのような方法が選択的な内腹斜筋の筋活動量が得られるか示されるのではないかと考えた.本研究の目的は,姿勢や支持面の異なる複数の条件下で行うDraw inのうち,どれが選択的に内腹斜筋の活動が得られるかを検討することとした.仮説としては,座位にて支持基底面を大きくした条件で行うDraw inでは,腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動が高くなるとした.【方法】 健常成人男性6名 (年齢25.8±5.7歳,身長173.0±5.2cm,体重65.4±9.0kg)を対象とした.Draw inは「お腹を引っ込めるように」3秒間収縮させる運動とし,運動中は呼気を行うよう指示した.Draw inは,背臥位,背臥位から頭部を拳上させた状態(以下,頭部拳上),頭部拳上で頭部を枕で支持した状態 (以下,頭部支持),足底を接地しない座位(以下,非接地座位),足底を接地させた座位(以下,接地座位)の5条件で行った.筋活動の計測にはpersonal EMG(追坂電子機器社)を用い,下野(2010)の方法を参考に腹直筋,内腹斜筋の右側の筋腹より筋活動を導出した.試行中の任意の1秒間の筋活動の積分値を最大等尺性収縮時に対する割合(%MVC)として表し,各条件について3試行の平均値を算出した.さらに,腹直筋に対する内腹斜筋の筋活動量の割合(以下,O/R比)を算出した.5条件間の腹直筋および内腹斜筋の筋活動量と,O/R比の比較にTukeyの方法を用い,危険率5 %未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象には事前に実験内容を説明し,協力の同意を得た.本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1123).【結果】 背臥位,頭部拳上,頭部支持,非接地座位,接地座位での腹直筋の%MVCはそれぞれ28.0±24.2%,46.4±29.0%,23.0±22.0%,13.2±7.2%,10.6±5.9%であった.頭部拳上では,非接地座位および接地座位より有意に高かった(p<0.05).内腹斜筋の%MVCはそれぞれ48.7±44.1%,49.0±36.9%,47.9±40.8%,45.4±32.1%,50.6±28.4%となり,各群間で有意差は認められなかった.O/R比はそれぞれ2.67±3.10,1.31±1.52,2.58±2.74,3.33±2.62,4.57±2.70であり,接地座位では頭部拳上より有意に高かった(p<0.05).【考察】 内腹斜筋の活動量には条件間で有意差がなく,今回規定した姿勢や支持基底面の相違では変化しないと考えられた.腹直筋は,頭部拳上では頭部の抗重力位での固定の主働筋となるため,筋活動量が他の条件より高いと考えられた.さらに,有意差はなかったが背臥位では座位に比べて腹直筋の活動量が高い傾向があった.背臥位では,頭部拳上の条件以外でも,「お腹をへこませる」運動を視認するために頭部の抗重力方向への拳上と軽度の体幹屈曲が生じ,腹直筋の活動が高まった可能性がある. O/R比は腹直筋の筋活動の変化により,条件間で差が生じることがわかった。背臥位で行うDraw inでは,腹直筋の活動を抑えるために,頭部の支持による基底面の確保に加えて,頭部位置を考慮する,もしくは座位で行うことが有効であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 Draw inを行う際に背臥位から頭部を挙げる条件では,内腹斜筋の活動量が同程度のまま腹直筋の筋活動が高まり,結果としてO/R比が低下するという知見が得られ,効果的に行うためにはこのような条件をとらないよう留意すべきことが示唆されたことは意義深い.
著者
田仲 陽子 南角 学 吉岡 佑二 秋山 治彦 柿木 良介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101562, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】これまでに、変形性股関節症の股関節の変性は骨盤アライメントの異常と相互に関連しており、この骨盤アライメントの異常は歩行を中心とした運動機能に影響するという報告がなされてきている。そのため、変形性股関節症患者のリハビリテーションにおいては、骨盤アライメントに対する評価や介入が重要となる。また、変形性股関節症患者の運動機能の向上を図るための効果的な介入を行うためには、骨盤アライメントと股関節周囲筋との関連性をより詳細に検討することが必要と考えられるが、これらの関連を検討した報告は少ない。そこで、本研究の目的は、末期の変形性股関節症患者の股関節周囲筋の筋萎縮を定量的に評価し、骨盤アライメントとの関連性を明らかにすることとする。【方法】末期の片側変形性股関節症と診断された32名(男性3名、女性29名、年齢63.8±9.7歳、身長153.0±7.0cm、体重53.5±10.6kg、BMI22.8±4.0kg/m²)を対象とした。股関節周囲筋の筋断面積と骨盤アライメントの測定には、当院整形外科の処方により放射線技師が撮影したCT画像と静止立位における全脊柱のレントゲン画像を用いた。股関節周囲筋の筋断面積の測定は、Raschらの方法に従い仙腸関節最下端での水平断におけるCT画像を採用し、画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて各筋群の筋断面積の測定を行った。対象筋群は腸骨筋、大腰筋、腸腰筋(腸骨筋+大腰筋)、大殿筋、中殿筋、小殿筋とし、得られた筋断面積から求めた患健比(患側筋断面積/健側筋断面積)×100(%)を筋萎縮率と定義した。また、骨盤アライメントとして、静止立位における全脊柱のレントゲン画像から、土井口らの方法に従って骨盤傾斜角(仙骨岬角と恥骨結合上縁を結んだ線と仙骨岬角から垂直におろした線の成す角)を測定した。さらに、先行研究の健常者の骨盤傾斜角の平均値(26.6度)に基づいて骨盤前傾群と骨盤後傾群の2群に分けた。統計処理には、各筋群の患側と健側の筋断面積の比較には対応のないt検定を、骨盤前傾群と骨盤後傾群の各筋の萎縮率の比較には、マンホイットニーのU検定を用い、統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け、対象者には本研究の主旨ならびに目的を説明し研究への参加に対する同意を得て実施した。【結果】骨盤傾斜角測定の結果、骨盤前傾群は15名(骨盤傾斜角19.4±4.3度)、骨盤後傾群は17名(骨盤傾斜角34.1±5.0度)であった。各筋の筋断面積測定の結果、全ての筋群において患側は健側に比べて有意に低値を示した。また、筋萎縮率については、腸腰筋が骨盤前傾群で63.0±14.3%(患側676.9±152.8mm²、健側1103.0±251.5mm²)、骨盤後傾群で75.4±16.7%(患側836.1±282.5mm²、健側1105.4±242.9mm²)であり、腸骨筋が骨盤前傾群で60.7±20.8%(患側435.6±134.0mm²、健側743.7±152.7mm²)、骨盤後傾群で75.9±19.5%(患側588.8±187.8mm²、健側783.0±163.5mm²)と、骨盤前傾群が骨盤後傾群に比べ有意に低値を示した。大腰筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋の筋萎縮率は2群間に有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果より、変形性股関節症患者の骨盤傾斜角に関連していた筋は腸腰筋と腸骨筋のみであり、大腰筋や殿筋群には骨盤アライメントの影響を認めなかった。先行研究において、骨盤後傾位のほうが骨盤前傾位よりも股関節屈曲筋力を発揮しやすいことが報告されている。これらの先行研究を考慮すると、過度な骨盤前傾位を呈している変形性股関節症患者では、静止立位時や動作時において腸腰筋の筋活動が得られにくく、患側の腸腰筋の筋萎縮が顕著に生じていたと考えられる。また、大腰筋に関しては第2腰椎に起始部を持ち姿勢保持に働く筋とされており、静止立位時の骨盤前後傾に対しどちらも正中位に保持しようとする方向に働くと考えられ、大腰筋の筋萎縮率は骨盤前傾群と骨盤後傾群の間に差を認めなかったものと思われる。今後の課題として、変形性股関節症患者に対し腸腰筋に着目したトレーニングを施行することが、立位姿勢や運動機能の改善に有効であるかを検討していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】これまで、変形性股関節症患者の骨盤アライメントの異常については多く報告されてきた。しかし、骨盤アライメントと股関節周囲筋の関連性について詳細に検討した報告は少なく、骨盤アライメントの改善に有効とされる介入内容は不明瞭であった。本研究の結果より、骨盤アライメントと腸腰筋の筋萎縮に関連があることが明らかとなった。この結果は、変形性股関節症患者の姿勢改善や運動機能向上に対し効果的なトレーニング方法を立案する際の一助となると考えられる。
著者
相馬 正之 村田 伸 甲斐 義浩 中江 秀幸 佐藤 洋介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100289, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足指・足底機能は,立位・歩行時に足底が唯一の接地面となることから,その重要性が指摘され,足趾把持力に関する多くの報告が行われている.足趾把持力は,短母指屈筋,長母指屈筋,虫様筋,短指屈筋,長指屈筋の作用により起こる複合運動であり,手の握力に相当するものと考えられている.現在の測定方法は,端座位で,体幹垂直位,股,膝関節を90 度屈曲し,足関節底背屈0°の肢位で行われている.その肢位により測定された足趾把持力は,転倒経験者では低下していること,トレーニングによって強化が可能であり,強化することで転倒者が減少することから,足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されている.しかし,この足趾把持力の測定肢位については,十分な検討がされていない.手関節においては,手関節背屈により手指の屈曲が生じ,掌屈により伸展が生じるTenodesis action(固定筋腱作用)が存在する.手指の把持動作時には,この作用を効果的に用いるために手関節を背屈位に保ち,手関節を安定させることが報告されている.このように手指の把持動作においては,手関節の角度変化によって握力への影響が報告されているものの,足趾把持力に関する足関節角度の影響については指摘されていない.そこで本研究では,足関節の角度変化が足趾把持力に与える影響について検討した.【方法】対象は,健常成人女性20 名(平均年齢21.5 ± 1.0 歳,平均身長158.4 ± 4.2cm,平均体重52.2 ± 5.0kg)とした.いずれも下肢に整形外科的疾患や疼痛などの既往はなかった.測定項目は利き足の足趾把持力とした.足趾把持力の測定は,足趾把持力計(TKK3362,竹井機器工業社製)を用いた.足趾把持力の測定肢位は端座位とし,体幹垂直位,股,膝関節を90 度屈曲位で,足関節をそれぞれ,背屈位10°,底背屈位0°,底屈位10°の各条件で測定した.この足関節角度の設定には,足関節矯正板(K2590M,酒井医療社製)を用いた.足趾把持力の測定は,2 回ずつ測定し,その最大値を採用した.統計処理は,足関節背屈位,底背屈中間位,底屈位間の足趾把持力の比較に,反復測定分散分析およびBonferronniの多重比較検定を採用し,危険率5%未満を有意差ありと判定した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容について説明し,理解を得たうえで協力を求めた.また,研究への参加は自由意志であり,被験者にならなくても不利益にならないことを口答と書面で説明し,同意を得て研究を開始した.本研究は,東北福祉大学研究倫理委員会の承認(RS1208283)を受け実施した.【結果】足趾把持力は,足関節背屈位が平均19.0 ± 4.1kg,底背屈中間位が平均18.9 ± 3.4kg,底屈位が平均16.8 ± 4.9kgであった.反復測定分散分析の結果,3 群間に有意な群間差(F値=8.5,p<0.05)が認められた.さらに,多重比較検定の結果,足関節底屈位での足趾把持力は,背屈位および中間位より有意に低値を示した(p <0.05).【考察】本結果から,足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された.この要因の1 つには,足指屈曲筋の活動張力の減少と相反する足指伸展筋の解剖学的な影響が考えられる.足趾把持力に関与する長母指屈筋,長指屈筋などは多関節筋であり,足関節底屈により筋長が短縮する.そのため,発揮できる筋力は,張力−長さ曲線の関係から低下したものと考えられる.また,足関節底屈位の足指の屈曲動作では,相反する足指伸筋群の筋長が伸張されることにより,最終域までの足指屈曲が困難になることから,筋力が発揮できていないことが推測された. さらに,足関節底屈時には,距腿関節において関節の遊びが生じる.このことから,足関節底屈位の足趾把持力発揮では,足関節の安定性が不十分となり,筋力の発揮に影響を及ぼしたものと考えられる.本結果からは,足関節角度と足趾把持力発揮の関係から,歩行場面において平地および上り勾配では,足趾把持力が発揮されやすいが,下り勾配では発揮しにくいことが推測される.そのため,高齢者では,下り勾配において足趾把持力による姿勢の制御能が低下し,転倒の危険性が増大する可能性が示された.【理学療法学研究としての意義】足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されているものの,測定肢位については,十分な検討がなれていなかった.本結果から足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された.
著者
福原 隆志 坂本 雅昭 中澤 理恵 川越 誠 加藤 和夫(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101862, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節底背屈運動時には,腓骨の回旋運動が伴うとされている.しかしながら,回旋方向についての報告は一定の見解を得ていない.また,先行研究は屍体下肢を用いての報告がほとんどであり,生体を対象にした報告はほとんど行われていない.本研究の目的は,Bモード超音波画像を用い,足関節底背屈運動時の腓骨外果の回旋運動について検討するものである.【方法】対象は,足関節に既往のない健常成人男女5名(24.6±2.5歳)の足関節10肢とした.測定姿位は,長坐位にて膝30°屈曲位とした.超音波画像診断装置(LOGIQ e,GEヘルスケア,リニア型プローブ)を用い,腓骨外果最下端より3cm近位部にて足関節前外方よりプローブを当て,短軸像にて脛腓関節を観察した.被験者は自動運動にて足関節背屈及び底屈運動を行った.足関節最大背屈時及び足関節最大底屈時において,脛骨及び腓骨の運動方向を画像上にて確認した.また脛骨及び腓骨間の距離を画像上にて0.01cm単位で測定した.さらに脛骨及び腓骨の接線を描画し,両者の成す角を0.1°単位で測定した.なお,測定は1肢につき3回行い平均値を測定値とした.なお,測定はすべて同一検者1名で行った.統計学的解析方法として,足関節背屈時と底屈時に得られた測定値についてWilcoxonの符号付順位和検定を用い検討した.解析にはSPSS ver.17を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者全員に対し,研究の趣旨について十分に説明し,書面にて同意を得た.【結果】全ての被験者において,関節背屈時に腓骨の外旋が観察された.また,足関節底屈時には腓骨の内旋が確認された.脛骨及び脛骨間の距離は,底屈時では0.27±0.08cm,背屈時では0.36±0.13cmであり,底屈時と比べ背屈時では有意に距離は開大していた(p<0.01).脛骨及び腓骨の接線の成す角は,底屈時では4.8±5.8°,背屈時では10.0±6.42°であり,底屈時と比べ背屈時では有意に角度は増加していた(p<0.01).【考察】足関節の運動学は理学療法実施上,注目すべき重要なポイントであると考えられる.しかしながら足関節底背屈運動時における腓骨の運動方向について,これまで一定の見解を得ていなかった.今回の結果から足関節の自動運動時において,背屈時には腓骨は脛骨に対し外旋し,底屈時には内旋することが明らかとなった.今回の知見を活かすことで,足関節に対する理学療法実施の際,より適切なアプローチを実施することが可能となると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は足関節底背屈運動に伴う脛腓関節の運動について明らかにし,適切な理学療法実施のための一助となる研究である.
著者
木山 良二 川田 将之 吉元 洋一 前田 哲男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102107, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】歩行時の足関節底屈モーメントの増加は,床反力の前方成分を強め,股関節屈曲モーメント,パワーを減少させることが報告されている。立脚後期の足関節底屈モーメントはヒラメ筋や腓腹筋などにより発揮されるが,腓腹筋は二関節筋であり,その作用は膝関節を介し,股関節にも影響を与えると考えられる。本研究の目的は,下腿三頭筋の最大筋力を変化させた筋骨格モデルを用い,腓腹筋が歩行中の股関節屈筋群に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人10 名とした。3 次元動作解析装置(Oxford Metrics社製VICON MX3)と床反力計2 枚(AMTI社製OR6-7, BP400-600 )を用い,快適速度の歩行を計測した。計測側は左下肢とし,計測回数は3 回とした。得られたデータと筋骨格モデルシミュレーションソフト(ANYBODY Technology社製AnyBody 5.2)を用い,筋の活動張力を算出した。筋骨格モデルの腓腹筋もしくは,ヒラメ筋の最大筋力をそれぞれ100%,60%,30%に減少させたモデルを用い,腓腹筋の筋張力が股関節屈筋群の筋張力に与える影響を検討した。今回は腓腹筋,ヒラメ筋,大腿直筋,大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維を分析対象とした。また大腿直筋については,腱に蓄積される弾性エネルギーも算出した。活動張力および弾性エネルギーは,時間正規化を行い,体重にて正規化し,立脚後期における最大値を比較した。統計学的検定にはフリードマン検定を用い,有意水準は5%とした。なお統計学的検定にはSPSS 20 を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究の内容は,鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。測定に先立って,対象者に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,書面にて同意を得られた場合にのみ測定を行った。【結果】歩行速度は1.22 ± 0.16 m/s,歩幅は0.66 ± 0.1 m,歩行率は109.6 ± 4.9 steps/minであった。腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の最大筋力の低下に伴い,立脚後期の大腿直筋の活動張力が有意に低下し(100%, 3.7 ± 2.9 N/kg; 60%, 2.9 ± 2.6 N/kg; 30%, 2.5 ± 2.3 N/kg; P<0.001),ヒラメ筋(100%, 21.6 ± 6.5 N/kg; 60%, 25.8 ± 8.6 N/kg; 30%, 31.5 ± 8.2 N/kg; P<0.001),大腰筋(100%, 17.3 ± 6.9 N/kg; 60%, 18.4 ± 7.2 N/kg; 30%, 19.9 ± 7.5 N/kg; P<0.001),腸骨筋(100%, 7.0 ± 2.1 N/kg; 60%, 7.5 ± 2.1 N/kg; 30%, 8.0 ± 2.1 N/kg; P<0.001),中殿筋前部線維(100%, 5.5 ± 1.5 N/kg; 60%, 6.1 ± 1.6 N/kg; 30%, 7.5 ± 1.7 N/kg; P<0.001)の活動帳力が有意に増加した。股関節の屈筋群で特に変化率が大きかったのは,大腿直筋および中殿筋前部線維であった。ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,ヒラメ筋の筋力低下に伴い,立脚後期における腓腹筋,大腿直筋の活動張力が有意に増加し(P<0.001),大腰筋,腸骨筋,中殿筋前部線維の活動張力が有意に減少した(P<0.001)。また大腿直筋腱の弾性エネルギーは,歩行周期の約50%にピークを示し,腓腹筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に減少し(P<0.001),ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,有意に増加した(P<0.001)。【考察】今回の結果では,腓腹筋の活動張力のピークは歩行周期の約40%,ヒラメ筋は約50%であり,おおよそターミナルスタンスの後半からプレスウィングに該当する。この時期の腓腹筋の筋張力は,主に足関節底屈モーメントを発生し,重心の前方移動に関与する。しかし膝関節に対しては,屈曲モーメントを発生させる。一方,大腿直筋もおおよそ歩行周期の50% でピークを示し,股関節屈曲モーメントと膝関節伸展モーメントを発揮する。腓腹筋と大腿直筋の同時性収縮により,膝関節の安定性が保たれる。そのため,腓腹筋の最大筋力を低下させた筋骨格モデルでは,腓腹筋の活動張力の低下に伴い,それに拮抗する大腿直筋の活動張力および腱の弾性エネルギーが減少する。その結果,その他の股関節屈筋の活動張力が増加したと考えられた。また,大腿直筋は股関節に対しては,屈曲と外転の作用をもつため,同様の作用をもつ中殿筋前部線維の活動張力の増加率が大きかったと考えられた。逆に,ヒラメ筋の最大筋力を低下させたモデルでは,腓腹筋の活動張力が増加するために,大腿直筋の活動張力が増加し,その他の股関節屈筋群の活動張力が減少したと考えられた。したがって,腓腹筋の活動張力は大腿直筋と連動して,股関節屈筋群に影響を与えることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】歩行中の腓腹筋の筋張力は,床反力の前方成分の増加に加え,膝関節伸展筋と拮抗することにより,大腿直筋の筋張力を高め,股関節屈筋群の負荷を軽減することが示唆された。このことは,歩行時の振り出しが困難な症例の代償戦略や,負荷が生じる部位を検討する際の基礎的情報として意義深いと考える。
著者
近藤 崇史 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100264, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】我々は,昨年の第47 回日本理学療法学術大会において健常者の歩行踵離地(以下:HL)のタイミングが遅れるほど,歩行時の立脚中期から立脚後期にかけての足関節底屈モーメントの活動が高まり,股関節屈曲モーメントの活動は低くなるといった足関節と股関節が相互に代償している可能性について報告した.その際,足部内の力学負担に関しては足部を1 つの剛体として捉えたため,その詳細は明らかにできなかった.アキレス腱炎,足底筋膜炎に代表される足部に関するスポーツ障害ではアキレス腱炎では足関節底屈モーメント,足底筋膜炎では中足趾節関節(以下:MP関節)屈曲モーメントが高まり,繰り返しのメカニカルストレスが障害に結びつくと予想される.従来の光学式手法による運動解析では,足部を1 つのセグメントとして捉えるもの,または複数のセグメントからなる足部モデルにおいても関節角度のみを算出しているものが多く,足部内の力学作用に関する検討は少ない.そこで今回は,剛体リンクモデルではなく,矢状面内での足関節およびMP関節の関節モーメントを算出し,HLのタイミングとの関係性を検討することを本研究の目的とする.【方法】対象は健常成人21 名(男性:17 名,女性:4 名,年齢:28.9 ± 2.5 歳)とした.測定には3 次元動作解析装置(VICON Motion system社)と床反力計(AMTI社)を用いた.標点はVicon Plug-In-Gait full body modelに準じて反射マーカー35点を全身に添付した.動作課題は自由歩行を7 回行った.得られた下肢の力学データは左右分けることなく採用し,解析に用いた.計測にて歩行速度,歩幅および矢状面上の足関節・MP関節の関節モーメントを算出するため,足関節中心,第2 中足骨頭背側マーカー,床反力作用点の位置座標,床反力データを得た.矢状面内での足関節およびMP関節の関節モーメントは,宮崎ら(1994)の先行研究の方法を参考に算出した.解析項目として1 歩行周期中の算出した足関節底屈モーメントおよびMP関節屈曲モーメントの最大値とHLのタイミング(歩行周期中の百分率;%)の関係を分析した.統計分析は統計ソフトSPSS 18J(SPSS Inc.)を使用した.統計手法には偏相関分析を用い(制御変数;歩行速度,歩幅),有意水準は1%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】文京学院大学大学院保健医療科学研究科倫理委員会の承認を得たうえで,対象者には測定前に本研究の趣旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面にて得た.【結果】全対象の自由歩行から立脚期の力学データを抽出した左下肢68 肢,右下肢79 肢であった.HLのタイミングが遅れるほど立脚中期から後期にかけての足関節底屈モーメントは大きく(r=0.54,p<0.01),MP関節屈曲モーメントも大きかった(r=0.36,p<0.01).【考察】健常者の歩行動作では,HLのタイミングが遅れるほど足関節底屈筋,足趾屈曲筋(特にMP関節屈曲作用の筋群)による力学的負担がともに大きくなることが確認された.このような力学的負担はアキレス腱炎,足底筋膜炎につながるメカニカルストレスとなり得ることが示唆された.Wearing(2004)らによるfluoroscopyを用いた運動解析によれば足底筋膜炎の症例では歩行立脚後期の第1 中足趾節関節伸展角度が低下していたとされる.よって,本研究の結果とWearingらの先行研究を踏まえて考えるならば,MP関節伸展制限および踵離地のタイミングが遅れることによるMP関節屈曲モーメント増加といった力学的負担が足底筋膜炎へとつながる可能性が推察された.上記の理由から臨床場面でのアキレス腱炎,足底筋膜炎の症例においての評価・介入の指標として歩行時のHLのタイミングを考慮にいれた解釈を行うことの重要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より歩行観察時にHLのタイミングを指標とすることにより,立脚中期から後期にかけての足関節底屈モーメントおよびMP関節屈曲モーメントによる力学的負担(メカニカルストレス)を解釈できることが明らかとなり,アキレス腱炎,足底筋膜炎の症例に対しての理学療法評価および介入の効果判定などの臨床推論に活用できることが本研究の意義であると考える.
著者
関野 有紀 濵上 陽平 中願寺 風香 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100383, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】近年,ギプス固定などによる四肢の一部の不動が慢性痛の発生因子になることが指摘されており,我々の先行研究においても,ラット足関節を8 週間ギプスで不動化すると不動解除後も痛覚過敏の状態が継続し,慢性痛を呈する可能性が示唆されている。一方,不動期間が4 週間の場合は痛覚過敏の発生は一過性であり,加えて不動4 週目の足底皮膚において表皮の菲薄化や末梢神経密度の増加が生じていたことから,痛みの発生原因は中枢神経系の変化というよりはむしろ末梢組織の変化にあると推測している。我々は,この末梢組織由来の痛みの発生メカニズムについて解析を進め,これまでに末梢神経密度の増加には表皮の構成細胞であるケラチノサイトが産生する神経成長因子(NGF)の増加が関与する可能性を報告した。しかし,不動による皮膚の組織学的変化がどの時期から進行するのかは不明のままであり,課題が残されていた。加えて,近年の研究によれば侵害刺激受容体が神経細胞のみならずケラチノサイトにおいても発現・機能していることが明らかとなっており,末梢における痛覚伝達系への関与が注目されている。そこで,本研究では侵害刺激受容の中心的分子であるTRPV1 およびP2X3の発現変化を含む皮膚の組織学的変化の経時的推移を明らかにすることを目的とした。【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット60 匹を用い,不動期間を1・2・4 週に設定した不動群(n = 30)とそれぞれに週齢を合わせた対照群(n = 30)に振り分けた。不動群は右足関節を最大底屈位でギプス固定した。不動期間中は,週1 回の頻度で機械的刺激に対する痛み反応をvon Frey filament(VFF)を用いて評価し,具体的には足底部にVFFで刺激(4,15 g ;各10 回)を加えた際の逃避反応をカウントした。また,熱刺激に対する痛み反応の評価として足背部の熱痛覚閾値温度を測定した。各不動期間終了後,ラットを4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し,足底部中央の皮膚組織を採取した。組織試料は急速凍結させた後に凍結切片とし,以下の検索に供した。まず,組織学的解析としてHE染色を施した切片を用いて表皮厚を計測した。次に,免疫組織化学的解析として末梢神経(A線維,C線維)をABC法に従って可視化し,真皮上層に分布する末梢神経密度を半定量化した。さらに,NGF,TRPV1 およびP2X3に対する蛍光免疫染色を行い,表皮層における発現強度を半定量化した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した。【結果】不動群のVFF刺激に対する逃避反応回数は,4 gでは不動2 週より,15 gでは不動1 週より対照群に比べ有意に高値を示し,また,不動群の熱痛覚閾値温度は不動1 週より対照群に比べ有意に低値を示し,これらの行動学的変化は不動期間に準拠して顕著になった。足底皮膚を解析した結果,不動群の表皮厚は不動1 週より対照群に比べ有意に低値を示し, A 線維の末梢神経密度は不動1 週より,C線維のそれは不動2 週より対照群に比べ有意に高値を示した。また,TRPV1 およびP2X3発現量はともに不動2 週より不動群が対照群に比べ有意に高値を示し,これらの変化はすべて不動期間に準拠して顕著になった。一方,NGF発現量は不動1 週より不動群が対照群に比べ有意に高値を示したが,その発現レベルは不動期間を通じて一定であった。【考察】今回の結果から,表皮の菲薄化,末梢神経密度の増加,ケラチノサイトに発現する侵害刺激受容体の発現増強は不動1 〜2 週という早期から発生し,その程度は不動期間に準拠して顕著になることが明らかとなった。また,それらの推移は痛みの行動学的変化と同様であったことから, 不動に伴う痛みの発生に皮膚の組織学的変化が深く関与することが示唆された。NGFは神経成長因子としての役割に加え,一次知覚神経に発現するTRPV1 やP2X3などの発現あるいは機能増強を誘導する内因性メディエーターとしての機能を持つ。NGFの増加自体が痛みの直接的な原因になっていることも十分に考えられ,今後さらに検討を進めたい。【理学療法学研究としての意義】本研究は,不動に伴う痛み発生メカニズムにおいて皮膚組織がその責任組織の一端を担っている可能性を提示した。われわれ理学療法士は皮膚組織を含む末梢組織に対して直接的に介入可能であることから,本研究の進展は,不動に伴う痛みに対する理学療法学的な介入方法の開発につながると期待でき,理学療法学研究として十分な意義がある。
著者
木村 圭佑 作 慎一郎 高取 克彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101144, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】日常生活における,歩行や階段昇降は運動学的には片脚立位からのバランス損失と回復の繰り返しといえる.よって片脚立位時の姿勢制御能力の向上は転倒予防のために重要と考えられる.先行研究では片脚立位における前後方向の重心動揺制御への母趾外転筋強化の有効性が報告されている.しかし,その有効性は無作為割り付けの行われた対照群がない設定で実施されていることから,より精度の高い手法での検討が必要と考えられる.また,重心の側方動揺制御には,小趾外転筋の活動が有効だと考えられているが,両者の関係については,十分な調査が行われていない.本研究の目的は,小趾外転筋の筋力強化が片脚立位時における姿勢制御能力に及ぼす影響について明らかにすること,母趾外転筋強化による重心動揺制御効果を無作為化比較試験にて追試することである.【方法】健常成人70名から参加の同意を得られた30名(男性15名,女性15名,平均年齢21.4±1.0歳)の両下肢を対象とした.母趾外転筋のみをトレーニングする群(以下:コントロール群)15名と母趾および小趾外転筋をトレーニングする群(以下:実験群)15名に無作為に振り分けた.両群の参加者特性(年齢・性別・身長・体重・足長・足幅)には有意な差は認められなかった.母趾外転筋トレーニングは第2~5趾を固定させ,最大可動域までの母趾外転運動を行う事とし,小趾外転筋トレーニングは第1~4趾を固定させ,最大可動域までの小趾外転運動を行う事とした.両トレーニングともに左右実施し,1分間できるだけ多く課題を反復させるよう指示した.実験群では両トレーニングを実施させ,コントロール群は母趾外転トレーニングのみを行わせた.トレーニングは両群とも週7日,3週間行った.評価項目は筋力の指標として自動母趾および小趾外転距離の変化と片脚立位バランスおよび安定性限界の変化とした.母趾外転距離の測定では,最大自動外転時の母趾・示趾間の距離を測定した.小趾外転距離の測定においても,小趾・環趾間の距離を測定した.母趾および小趾外転距離は足幅で除して標準化した.足幅は第一中足骨頭内側,第五中足骨頭外側の距離を測定した.片脚立位バランスおよび安定性限界の評価には重心動揺計(アニマ社製)を用いて左右片脚立位30秒間の重心動揺面積および重心最大偏位距離(前後・側方)を測定した.また,両脚支持での立位安定性限界(前後左右への随意的な重心最大移動距離)についても測定を行った.重心動揺の前後距離は足長で,左右距離は足幅で除することで標準化した.足長は踵から足尖間距離を金尺にて測定した.データ解析は,両群におけるトレーニング前後の変化率を対応のないt検定を用いて実施し,有意水準を5%未満に設定した. 【倫理的配慮、説明と同意】被検者には研究の趣旨を説明し,自由意志にて参加の同意を得た.【結果】小趾外転距離はコントロール群に比較して実験群で増加傾向が認められた.片脚立位時の重心動揺面積は右脚において実験群に有意な減少が認められた(p<0.05,効果量 =0.84).また最大重心偏位距離は前後方向で両脚ともに実験群において有意な減少が認められた(p<0.05,右効果量 =1.06)(p<0.05,左効果量=0.87).左右方向では,群間差は認められなかった.立位安定性限界における重心最大距離変化では,両群間に有意差は認められなかったが,全方向において実験群に重心最大移動距離の増加傾向が認められた.【考察】片脚立位時の前後重心動揺が実験群で減少した要因としては,母趾による偏位した重心位置での支持作用と,小趾による偏位した重心を中心に戻す作用に改善が認められたためと考えられる.また,足部は前後方向の動きで重心を安定させており,母趾外転筋には母趾屈曲作用,小趾外転筋には小趾屈曲作用がある.これらの事から,実験群での重心動揺面積の減少は,主に前後最大距離の減少によるものと考えられる.左右最大距離に変化が認められなかった要因として,側方バランス維持には足部内外反を制御する外在筋の役割が重要とされている.従って,側方動揺制御に対し,内在筋の強化のみでは姿勢制御能力の改善には不十分であった可能性が考えられる.立位安定性限界には群間差は認められなかったが,全方向において実験群がコントロール群よりも増加傾向が認められた事から,母趾および小趾外転トレーニングは足趾把持筋力を強化し,動的姿勢制御能の向上を示す可能性があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本研究では,小趾外転筋の筋力強化によって姿勢制御能力の向上が認められた.よって,臨床においてよく用いられる足趾把持トレーニングに加え,外転トレーニングを行うことで,転倒リスクの更なる減少に有用だと考えられる.
著者
阿比留 友樹 藤原 和志 則竹 賢人 浅原 亮太 新野尾 嘉孝 友田 秀紀 小泉 幸毅 森山 雅志 梅津 祐一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102062, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】アメリカスポーツ医学会は、健常者の体力改善には高度の運動強度で20~25分以上、週3回以上の実施を推奨している。また少なくとも10分以上の運動を断続的に実施し、1日の合計運動が推奨時間に達するものは同様の効果があるとしている。そこで今回、少量・頻回のトレーニングによる全身持久力への効果を検証することを目的とした。【方法】対象は、健常成人男性10名(年齢23.3±0.9歳、BMI22.5±3.2kg/m²)とし、日本光電社製自転車エルゴメータを用い直線的漸増負荷試験を行った。負荷方法は、3分間の安静後、回転数は50~60rpmとし、20wattで3分間のウォームアップ後、20watt/分で漸増負荷を実施した。中止基準は予測最大心拍数(以下予測HRmax)に達するか、自覚的に運動継続が困難となるまでとした。運動負荷試験はアニマ社製AT-1100を用いbreath by breath方式で酸素摂取量(以下V(dot)O2)、最高酸素摂取量(以下peak V(dot)O2)、無酸素性作業閾値(以下AT)、分時換気量(以下VE)、心拍数(以下HR)等を算出した。またBorg Scaleにより1分毎の自覚症状を測定した。運動負荷試験終了後、アークレイ社製ラクテート・プロ2を用い乳酸値を測定した。筋力は、アニマ社製ハンドヘルドダイナモメーターを用い膝伸展筋力を測定した。トレーニングは、自転車エルゴメータ駆動を1日に10分間を3セット、週3回、1ヶ月間実施し、運動強度は運動負荷試験より酸素摂取予備能の80%とした。トレーニング終了後、同様の運動負荷試験、筋力測定を行った。またV(dot)O2-HR関係式と予測HRmaxから予測最大酸素摂取量(以下予測V(dot)O2max)を算出した。さらに漸増負荷中の仕事率に対する相対HRの増加率を回帰直線で示し、相対HR/仕事率係数を算出した。解析方法として、Wilcoxon符号順位検定を用いトレーニング前後で比較、分析し、有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 本研究の各被験者には、ヘルシンキ宣言に基づき研究内容の趣旨を説明し本人の承諾および署名を得た。【結果】トレーニング前後の予測V(dot)O2maxは前34.5±6.8、後36.3±5.4ml/min/kgで、有意差は認めなかったが、向上傾向にあった。また、peak V(dot)O2の時間(前483±88.8、後539.5±94.6sec)、ATの時間(前328±152.8、後423.8±134.4sec)、症候限界時間(前548.4±109.1、後681.6±160.1sec)に有意差を認めた(P<0.05)。相対HR/仕事率係数(前0.6326±0.0927、後0.5994±0.1184)は、有意差は認めなかったが、傾きが緩やかになる傾向にあった。膝伸展筋力、peak V(dot)O2、AT時のV(dot)O2、VEに有意差は認めなかった。また、全対象者で乳酸値データから最大努力を示していたことが確認された。【考察】 一般的にV(dot)O2maxに影響する要因は肺の換気機能、肺拡散機能、心臓の循環機能、末梢組織での代謝機能であり、今回の結果では予測V(dot)O2max やpeak V(dot)O2時のVE、AT時のVEに有意差を認めず、肺機能の改善には至らなかったが、予測V(dot)O2maxが向上傾向にあり、少なからず全身持久力は向上したと考えられる。また、相対HR/仕事率係数は緩やかになる傾向にあり、漸増負荷中の同一仕事量におけるHRは減少したことが示唆された。一方、Clausenらは「全身持久力トレーニングは、筋血管拡張機能の向上や毛細血管網の発達により活動筋最高血流を高める」と報告しており、本研究でもATや症候限界時間の延長から、末梢の活動筋血流量が向上し、代謝機能が改善したと推測される。以上より、今回の少量・頻回のトレーニングは、全身持久力の改善に一定の効果があり、特に末梢組織での代謝機能改善に寄与すると思われた。【理学療法学研究としての意義】少量・頻回のトレーニングは末梢組織での代謝機能改善に有効であることが示唆された。したがって、長時間の運動継続が困難なものや持久力向上を目的としたアプローチを実施する際の一手段として有用であると思われる。
著者
五十嵐 祐介 平野 和宏 鈴木 壽彦 田中 真希 石川 明菜 姉崎 由佳 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100131, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は整形外科疾患において代表的な疾患であり、関節軟骨の変性や骨棘形成など様々な臨床症状を呈する。膝OAの増悪には多くの因子が関与しており、主に肥満や膝関節の安定性、膝関節屈曲及び伸展筋力、膝関節のアライメント、歩行時におけるlateral thrustなどとされている。一方、膝OAの進行予防に関する因子として、膝OA患者の歩行や階段昇降などの動作時に膝関節屈曲筋力と伸展筋力の比であるH/Q (ハムストリングス/大腿四頭筋)比を筋電図で検討した結果、各筋のバランスが膝OA進行予防に重要であるとの指摘がされている。しかし、膝OAの増悪因子と考えられるlateral thrustと膝関節屈曲筋力、伸展筋力のバランスを表すH/Q比との関連を検討した報告は見当たらない。そこで今回、当大学附属4病院にて共通で使用している人工膝関節全置換術患者に対する評価表から、術前評価のデータを使用し、後方視的にlateral thrustとH/Q比との関係を検討することとした。【方法】対象は2010年4月から2012年8月までに当大学附属4病院において膝OA患者で人工膝関節全置換術の術前評価を実施した199肢(男性:33肢、女性:166肢、平均年齢74.1±7.3歳)とした。測定下肢は手術予定側及び非手術予定側に関わらず膝OAの診断がされている下肢とした。筋力の測定はHand-Held Dynamomater (ANIMA社製μ-tas)を使用し、端座位時に膝関節屈曲60°の姿勢で膝関節伸展と屈曲が計測できるよう専用の測定台を作成し、ベルトにて下肢を測定台に固定した状態で伸展と屈曲を各々2回測定した。測定値は2回測定したうち最大値を下腿長にてトルク換算し体重で除した値を使用した。また、lateral thrustの有無は各担当理学療法士が歩行観察により評価した。統計学的処理はlateral thrust有群(以下LT有群)と無群(以下LT無群)の2群に分け屈曲筋力、伸展筋力、H/Q比をそれぞれ対応のないt検定にて比較した。【倫理的配慮】本研究は、当大学倫理審査委員会の承諾を得て施行した。【結果】LT有群95肢(男性:22肢、女性:73肢、平均年齢74.1±7.4歳、平均伸展筋力99.9±42.2Nm/kg、平均屈曲筋力30.1±15.83Nm/kg、平均H/Q比0.34±0.23)、LT無群104肢(男性:11肢、女性:93肢、平均年齢74.5±6.5歳、平均伸展筋力95.5±47.9 Nm/kg、平均屈曲筋力35.4±21.5 Nm/kg、平均H/Q比0.44±0.38)となり、屈曲筋力とH/Q比において2群間に有意差を認めた(p<.05)。【考察】LT有群は、LT無群と比較し屈曲筋力及びH/Q比にて有意に低値を示した。lateral thrustに対し筋力の要因を検討したものでは、大腿四頭筋の最大筋力値が高いほどlateral thrustが出現しにくいという報告や、一方で大腿四頭筋の最大筋力値はlateral thrustの出現に関与しないという報告もあり、筋力の観点からは統一した見解は未だ示されていない。今回の結果にて有意差は認められなかったが伸展筋力ではLT有群の平均値がLT無群よりも高値であったことや、屈曲筋力にて有意差が認められたことは先行研究と同様の傾向を示すものはなく、lateral thrustを単一の筋力のみで検討するには難しいのではないかと考える。本研究でlateral thrustとH/Q比において有意差が認められたことより、各筋力の最大値以外にも比による筋力のバランスという観点も重要であり、lateral thrustが出現している膝OA患者に対するトレーニングとして、最大筋力のみでなく主動作筋と拮抗筋のバランスを考慮したアプローチも重要であると考える。今後はlateral thrustとH/Q比の関係を更に検討するために、歩行時における各筋の活動状態やlateral thrustの程度、立脚期における膝関節内反モーメントなどの評価にて考察を深めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、最大筋力でのH/Q比がlateral thrustの出現に関与する一因である可能性が示唆され、理学療法研究として意義のあることと考える。今後、更に考察を深めていくことでlateral thrust の制動に効果的なH/Q比の検討につなげていきたい。
著者
米田 浩久 實光 遼 松本 明彦 岩崎 裕斗 金子 飛鳥 守道 祐人 鈴木 俊明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101928, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】課題指向型の運動学習条件としてpart method(分習法)とwhole method(全習法)がある(Sheaら,1993)。このうち分習法は獲得する動作を構成する運動要素に区分して別々に練習する方法であり、全習法は獲得する動作をひとまとめに練習する方法である。全習法は分習法と比較して学習効果が高く、運動学習の達成度は早い。これに対して分習法は学習した運動の転移が可能なことから難易度の高い運動に有用であるが、獲得から転移の過程を経るため全習法よりも時間を要する。一方、理学療法では早期の動作再獲得を図るため障害された動作の中核を構成する運動を選択的かつ集中的にトレーニングする分習法を採用することが多く、1 回あたりの治療成績は全習法よりもむしろ分習法の方が良好であり、早期に改善する印象がある。そこで今回、分習法による早期学習効果の検討を目的にバルーン上座位保持(バルーン座位)による下手投げの投球課題を用いて全習法と分習法による運動学習効果を比較検討した。【方法】対象者は健常大学生24 名(男子19 名、女子5 名、平均年齢20.4 ± 0.4 歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ、2m前方にある目標の中心に当てるように指示し、お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。バルーン上座位は投球前後に各5 秒間の保持を要求し、学習課題前後に各1 回ずつ実施した。目標から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3 つの同心円(直径20cm、40cm、60cm)を描き、中心からの16 本の放射線で分割した64 分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40 点、30 点、20 点、10 点と順次点数付けし、その得点をもって結果とした。学習課題は3 種類の方法を設定し、それぞれA〜C群として無作為に対象者を均等配置した。全群の1 セットあたりの練習回数は5 回、セット間の休憩時間は1 分とした。A群では検定課題と同様の方法でバルーン上座位保持による投球をおこなわせた。実施回数は主観的疲労を感じない回数として12 セット実施した。B群は、まず椅座位での投球を6 セット実施した後、バルーン上座位を6 セット実施した。C群では椅座位での投球とバルーン座位を交互に6 セットずつ実施した。学習課題ではお手玉が当たった分画の中央の座標を1 試行ずつ記録し、中心からの距離と方向とした。得られた結果から、検定課題では学習前後での得点の比較をおこない、学習課題では各群の成功例を基に投球結果座標による中心からの平均距離を標準偏差で除した変動係数とセット間の平均距離の比の自然対数を基にした変動率による比較をおこなった。統計学的手法は、検定課題では学習前後の結果比較に対応のあるt検定を用い、A〜C群の比較として検定・学習課題ともにKruskal-Wallis検定とBonferroni多重比較法を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は、A群11.3 ± 16.4/26.3 ± 15.1 点、B群6.3 ± 9.2/33.8 ± 7.4点、C群10.0 ± 15.1 点/18.8 ± 16.4 点であり、B群で有意な学習効果を認めた(p<0.01)。学習課題中の投球結果の変動係数はA群19.67 ± 1.06、B群8.42 ± 0.49、C群13.50 ± 1.24 で、A群に対してB群で有意な減少を認めた(p<0.05)。また、学習中の投球結果の変動率は群間で有意差は認められなかったものの、他群に対してB群で安定する傾向を認めた。【考察】Winstein(1991)は、分習法はスキルや運動の構成成分を順序付ける過程の学習であるとしており、運動全体の文脈的な継続性を考慮して動作を学習させる必要があるとしている。本研究ではB群によって検定・学習課題とも他群に比べて良好な結果を得た。B群では分習法により投球とバルーン上座位を各々別に集中して学習したが、運動学習中の変動係数の減少と変動率の安定化を認めたことから、バルーン上座位での投球の重要な要素である動的姿勢を集中的に獲得できたことが全習法に対して効果が得られた成因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から運動学習課題の設定によっては、全習法よりも学習効果が得られる事が示唆された。特に運動時の姿勢の改善を目的とする学習課題を分習法に組み込むことによって学習効果が向上する可能性があり、理学療法への分習法の応用に有用であると考えられる。
著者
壹岐 英正 林 省吾 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100559, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】頚静脈孔を出た副神経は,胸鎖乳突筋枝と僧帽筋枝に分岐し,後者は胸鎖乳突筋を貫通する貫通型と貫通しない非貫通型に大別される(吉崎 1961).貫通型においては,胸鎖乳突筋が絞扼因子となる可能性が考えられるが,同筋による副神経絞扼性ニューロパチーは報告されていない.一方,神経に長期的な圧迫が加わる部位においては,Renaut 小体と呼ばれる球状構造物が出現することが知られている.Renaut 小体は,線維芽細胞の侵入と膠原線維の増生によって形成され,神経周膜の肥厚や神経線維の減少とともに,臨床症状を呈していない無症候性神経絞扼のMerkmalになる(Neary D et al 1975).本研究の目的は,副神経僧帽筋枝を組織学的に観察し,貫通型において胸鎖乳突筋が絞扼因子となる可能性を検討することである.【対象および方法】対象は,愛知医科大学医学部において研究および教育に供された解剖実習体4 体8 側(男性・女性各2 体,平均83.3 歳)である.副神経を胸鎖乳突筋とともに切離し,貫通型か非貫通型かを同定した.貫通型においては貫通部周囲を,非貫通型においては副神経の胸鎖乳突筋進入部位を中心に摘出した.摘出した組織片において,副神経の横断方向で10 μmの組織切片を作成した.貫通型においては貫通部を中心に「貫通前」,「貫通中」,「貫通後」,非貫通型においては「胸鎖乳突筋枝と僧帽筋枝に分岐する部位より中枢側(以下,副神経本幹)」と「僧帽筋枝」について切片を作成し,H-E染色およびMasson’s trichrome染色を行った.Renaut小体の有無および神経周膜の肥厚を組織学的に観察し,貫通型と非貫通型において比較した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言および死体解剖保存法に基づいて実施した.生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究および教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】貫通型は4 側,非貫通型は4 側であった.Renaut小体は,貫通型においては貫通前:0 側,貫通中:2 側,貫通後:2 側で認められた.非貫通型においては僧帽筋枝1 側のみに認められた.神経周膜の肥厚は,貫通型においては,貫通前:1 側,貫通中:3 側,貫通後:3 側に認められた.非貫通型においては,副神経本幹:3 側,僧帽筋枝:1 側に認められた.【考察】貫通型と非貫通型の頻度に差は見られなかった.先行研究において,吉崎(1961)は貫通型が44%,非貫通型が56%,Shiozakiら(2005)は貫通型が56.9%,非貫通型が43.1%と報告しており,副神経は高頻度で胸鎖乳突筋を貫通すると考えられる.組織学的観察の結果,貫通型の貫通中および貫通後においては,非貫通型と比べ,Renaut小体および神経周膜の肥厚が高頻度で認められた.Renaut 小体は,長期的な圧迫を受けた部位に一致して存在すると言われているが,三岡ら(2011)は,腋窩神経が肩甲下筋とその過剰束の間を走行する変異例において,全例で神経線維束内に 同小体が観察されたと報告している.さらに1 例においては,過剰束より末梢側においても 同小体が観察されたと報告している.今回の結果は,三岡ら(2011)の結果と類似しており,筋による末梢神経の圧迫は普遍的であり,かつ,圧迫部位より末梢側においても同小体が形成されることを示唆するものである.またChang ら(2010)は,Cervical myofascial pain syndrome(以下,MFPS)群と健常群において,副神経ニューロパチーの可能性を電気生理学的に検討した.その結果,MFPS群において僧帽筋上部線維の活動電位の有意な減少に加え,約48%の症例で脱神経と神経再支配の所見が見られたことを示し,副神経ニューロパチーをMFPSの要因として挙げている.今回の結果は,この報告を形態的見地から支持するものであり,脱神経と神経再支配の頻度が副神経貫通型の頻度と近似することは興味深い.Changら(2010)の述べた副神経ニューロパチーが胸鎖乳突筋による絞扼性ニューロパチーと関連する病態であるかについては,検討が必要である.【まとめ】胸鎖乳突筋が副神経の絞扼因子になる可能性を示した.今後の課題として,例数を増やし推測統計学的に有意差を明らかにすること,神経周膜の肥厚を客観的に示すこと,絞扼性ニューロパチーとの関連を明らかにすることが挙げられる.【理学療法学研究としての意義】末梢神経の絞扼性ニューロパチーは,手根管や肘部管のようなトンネル状構造に限らず,筋の圧迫によっても普遍的に起こり得る.これは,症例の病態生理を的確に把握するために重要である.
著者
澤野 靖之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100060, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】新体操は美を表現するスポーツであり,5種類の手具を操作しながらジャンプ,ピボットターン,バランス,柔軟性を組み合わせて表現する競技である.選手の競技活動では技術練習に多くの時間を要し,個人戦,団体戦があるため,すべての練習を合わせると身体へのストレスは大きい.新体操選手の障害はover useによるものが多く,当院では足関節と足部の割合が38%を占める.今回はover use障害の一つで,難治性である中足骨疲労骨折に着目した.臨床で新体操選手の中足骨疲労骨折症例は外反母趾を呈し,左側の発症が多い印象があるが,今日まで新体操選手の足部に関しての報告は渉猟し得ない.そこで本研究の目的は,新体操選手における中足骨疲労骨折と他の足部傷害との足部の形状的特徴をX線学的に比較検討することである.【方法】対象は,2003年3月~2012年8月までに当院にて担当医がレントゲンまたはMRIにて中足骨疲労骨折と診断した新体操選手13名13足(平均身長159.1±2.9cm,平均体重44.2±2.8kg,平均年齢16.2±0.6歳,平均競技歴9.6±1.1年)をFx群とし,中足骨疲労骨折以外の足部疾患と診断した新体操選手10名12足(平均身長157.2±3.2cm,平均体重44.7±3.4kg,平均年齢16.3±0.6歳,平均競技歴8.6±1.9年)をCo群とした.方法はレントゲン正面像より外反母趾角(hallux valgus angle:HV角)を第1中足骨の長軸と第1基節骨の長軸の交点より計測し,第1・2中足骨間角(First-second intermetatarsal angle:M1/2 角)を第1中足骨の長軸と第2中足骨の長軸の交点より計測した.各角度は3回同一検者にて計測し,その平均値をそれぞれFx群,Co群で比較検討した.統計処理にはSPSSver16.0を使用し,検者内級内相関(ICC)を算出した上で,Fx群,Co群のHV角,M1/2角の比較をMann-WhitneyU検定にて行い,有意水準は5%とした.さらにFx群の左右足の中足骨疲労骨折の割合とFx群,Co群のHV角20°以上の割合を重ねて検討した.【倫理的配慮、説明と同意】レントゲンに関しては,担当医が診療時に必要と判断し,当院放射線技師にて撮影された足部正面像を使用した.またヘルシンキ宣言に基づき対象者へは人権擁護がなされている旨を説明し同意を得て行った.【結果】ICC(1,1)はHV角:0.942,M1/2角:0.954(p<0.001)と再現性の高いものであった.HV角はFx群24.5±3.8°とCo群20.3±3.5°でFx群が有意に高値を示し(p<0.05),M1/2角はFx群11.6±2.6°とCo群9.1±1.9°でFx群が有意に高値を示した(p<0.05).HV角20°以上の割合は,Fx群で11足/13足(85%),Co群で5足/12足(42%)であり,Fx群とCo群を合計すると16足/25足(64%)であった.Fx群の障害発生の割合は10/13名(77%)が左側,3/13名(23%)が右側であり左側に多かった.【考察】日本整形外科学会診療ガイドライン委員会の定める外反母趾の診断にはHV角20°以上を推奨しており,M1/2角に関しては10°以上を第1中足骨内反としている.今回の結果では,HV角よりFx群は85%が外反母趾であり,Co群も42%が外反母趾を呈していた.M1/2角からはFx群が第1中足骨内反が強いといえる.HV角,M1/2角ともにFxが有意に高値を示したことより,HV角とM1/2角の増大は新体操選手の中足骨疲労骨折に関連があると示唆された.また新体操選手の足部疾患の64%に外反母趾症例が存在することから,外反母趾は新体操選手の足部の特徴である可能性も考えられる.スポーツ選手の中足骨疲労骨折について,能らは,サッカー,陸上,バスケットボール,剣道選手の61.3%が左側であったと報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の左右割合も同様に77%と,バランスやピボットターンの軸足となる左側に多い結果であった.【理学療法学研究としての意義】新体操選手に特化した足部の報告は現在までに渉猟し得ないため,今回の新体操選手の中足骨疲労骨折とHV角,M1/2角の特徴について報告出来たことは今後理学療法を行う上で有用であると考える.佐本らは,30°未満のHV角は運動療法にて減少すると報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の予防的観点からも外反母趾に対する理学療法と軸脚である左足部への介入が重要と考える.
著者
齊田 高介 大塚 直輝 小山 優美子 西村 里穂 長谷川 聡 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101218, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は着地やカッティング動作時のknee-in(膝外反)で発生することが多く,この受傷起点には股関節外転筋力の低下が関係していると言われている。またACL損傷は試合の終盤に発生することが多く,疲労がACL損傷の一要因であると考えられている。これらのことから疲労による外転筋の筋力低下がACL損傷に繋がる可能性があると考え,我々は股関節外転の主動作筋である中殿筋に注目した。しかし,これまでの所,中殿筋単独の疲労が動作に及ぼす影響を調査した研究はなく,中殿筋の疲労とACL損傷リスクとの関連は不明である。そこで本研究では,骨格筋電気刺激(以下EMS)装置を用いて中殿筋を選択的に疲労させ,その前後での片脚着地動作の変化を調査した。本研究の目的は,中殿筋の選択的な疲労が片脚着地動作に及ぼす影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性8名(年齢20.9±1.9歳)とし,利き脚(ボールを蹴る脚と定義)側を測定肢とした。まず疲労課題としてEMS装置(ホーマーイオン社製,AUTO TENS PRO)を用い,最初の10分間は痛みを感じない強度で,その後の20分間は耐えられうる最大強度で中殿筋に対して電気刺激を実施した。中殿筋の選択的な筋力低下を確認するために,最大等尺性随意収縮(以下MVC)時の股関節外転・屈曲・伸展筋力をEMS前後で測定した。筋力測定には徒手筋力計(酒井医療製,mobie)を用いた。動作課題として30cm台からの利き脚片脚による着地動作を行った。疲労課題の前後で動作課題を3試行ずつ計測し,三次元動作解析装置(VICON社製)と床反力計(KISTLER社製),表面筋電図(Noraxon社製,TeleMyo2400)を用い,運動学的・運動力学的データと筋電図学的データを収集した。筋電図は外側・内側広筋,大腿直筋,外側・内側ハムストリングス,大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋に貼付した。解析では,着地動作中の利き脚の矢状面,前額面における股・膝・足関節角度および外的関節モーメント,動作中の床反力の鉛直成分を算出した。筋電図は50msec毎の二乗平均平方根を算出し,MVC時の値で正規化した。筋電図の解析区間は着地の前後50msec,50~100msecの4区間とし各区間の平均値を求めた。各関節角度,外的関節モーメントの解析には着地時点,床反力最大時点,最大膝関節屈曲時点での値を用いた。床反力鉛直成分と股関節外転筋力の解析には最大値を用いた。各パラメータは3回の試行における平均値を算出した。統計学的処理では,疲労前後での運動学的・運動力学的データ,筋力データを対応のあるt検定,筋電図データをWilcoxonの順位和検定で比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 EMS後に股関節外転筋力は有意に減少(p<0.05)したが,股関節屈曲・伸展筋力に有意な変化は認められなかった。着地時点では股関節屈曲角度(p<0.05)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。床反力最大時に股関節屈曲モーメント(p<0.05),股関節内転角度(p<0.05)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。最大膝関節屈曲時点では股関節屈曲角度(p<0.01)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。床反力鉛直方向の最大値は有意に増加(p<0.05)した。他の関節モーメントおよび関節角度,筋電図データに有意な変化は認められなかった。 また,有意な差は認められなかったが着地時点の股関節内転角度(効果量r=0.65),床反力最大時点の股関節屈曲角度(効果量r=0.61)および膝関節外反角度(効果量r=0.64)で効果量大が示された。【考察】 疲労課題前後における筋電図データに有意な差はみられなかったが,筋力が有意に低下していることから,股関節外転筋をEMSにより選択的に疲労させられたと考える。疲労課題後の床反力最大時点での股関節内転角度の増加は,中殿筋の筋疲労のため床反力最大時に反対側の骨盤が下降したと考えられる。また有意な差はなかったものの,床反力最大時点の膝関節外反角度の増加は効果量大であり,中殿筋の筋疲労によって股関節が内転し,膝関節が外反方向に誘導されたと考える。 本研究の結果より中殿筋の筋疲労は片脚着地動作時のknee-inを誘導し,ACL損傷のリスクを高める可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より,中殿筋の選択的な疲労によって着地時のACL損傷リスクが高まる可能性があることが示唆された。これはACL損傷の発生機序を解明する一助となると考えられる。
著者
柴田 篤志 森 友洋 縣 信秀 宮本 靖義 宮津 真寿美 河上 敬介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101555, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 骨、皮膚、靭帯などの損傷に対して超音波刺激を行うと、組織の回復を促進させると言われている。また動物モデルにおいて、筋損傷からの回復促進に超音波刺激が有効であるという報告も多い。しかし、これらの報告では、用いられている動物モデルの損傷の程度や再現性が十分に示されていない。また、損傷からの組織学的回復過程と、我々理学療法士にとって重要な“筋力”という機能的回復過程とをあわせて、経時的に検証した報告はない。そこで、本研究の目的は、既に再現性を確認してある筋損傷モデルを用いて、機能的側面と組織学的側面とを合わせて筋損傷からの回復過程を定量的に評価し、超音波刺激の効果を明らかにすることである。【方法】 8週齢Wistar系雄性ラット18匹を、無処置のSham群(n=6)、遠心性収縮により前脛骨筋を損傷させたControl群(n=6)、遠心性収縮による筋損傷後に超音波刺激を施行したUs群(n=6)に分けた。遠心性収縮を用いた筋損傷モデルは、前脛骨筋に対して最大収縮が生じる条件で電気刺激を与え、足関節の他動的な底屈運動により作製した。底屈運動の条件は、角速度を200度/秒、運動範囲を脛骨と第 5 中足骨の成す角度が60度から150度までの90度、運動回数を10回、5セットとした。超音波刺激は周波数が3 MHz、照射様式が間欠的照射 (50% cut)、照射出力強度が0.5 W/cm²、照射時間が10分間とし、損傷2時間後に1回のみ行った。筋損傷からの回復過程の評価には、機能的評価と組織学的評価を用いた。機能的評価は遠心性収縮前、2、7、14、18、21日後に小動物足関節運動装置を使用して、電気刺激時の最大等尺性足関節背屈トルクによりおこなった。なお、筋損傷前の最大等尺性足関節背屈トルク値を100%として算出した結果で比較した。組織学的評価は、遠心性収縮21日後にラット前脛骨筋を採取し、凍結横断切片を作製し、DAPIによる核染色と細胞膜に局在するDystrophinの免疫染色を行った。染色後、バーチャルスライドスキャナ(Nano Zoomer RS 2.0、浜松ホトニクス)で撮影した。撮影した前脛骨筋の筋腹横断面における浅層部、中間層部、深層部から、それぞれ一辺が0.5 mmの正方形の範囲を合計 0.75 mm²抽出し、その範囲に含まれる筋線維の筋線維横断面積を、画像解析ソフト(Image-J) にて測定した。統計処理は、先ず一元配置分散分析を行い、有意差を認めた場合に多重比較検定 Tukeyを行った。いずれの統計手法も有意水準は 5 % 未満とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】 遠心性収縮2日後の Us群の足関節背屈トルクは、Control群に対して有意に大きく、 Sham群に対して有意に小さかった (Us群:30.7±4.6% 、Control群:25.2±3.0%、Sham群:101 .0 ±2.74%)。しかし、遠心性収縮7日後では、Us群とControl群間に有意な違いはなかった(Us群:55.7±5.7% 、Control群:44.0 ±5.7%)。一方、遠心性収縮14日後のUs群はControl群に対して有意に大きかった(Us群:94.0±4.4%、Control群:84.1±5.7%)。この有意な違いは18日後(Us群:109.2±6.6% 、Control群:97.8±5.2%)、21日後(Us群:123.1±8.3% 、Control群:105.8±2.5%)でも存在した。筋線維横断面積は、遠心性収縮21日後のUs群とSham群と有意な違いはなかった(Us群:3043.1±268.7 μm²、Sham群:3209.9±628.3 μm²)が、Control群(Control群2478.5±293.3 μm²)はSham群に対して有意に小さかった。【考察】 損傷2時間後に超音波刺激を行うと、遠心性収縮48時間後の足関節最大背屈トルクの減少が緩和された。これは超音波刺激が、二次的損傷による筋損傷を防止したためだと考える。しかし、遠心性収縮7日後では、control群と有意な差がなかったことから、筋損傷を防止する効果は一時的なものであったと考えられる。また、遠心性収縮21日後の結果より、超音波刺激によるに筋損傷からの回復促進効果が機能的、組織学的に明らかになった。筋組織は損傷すると、損傷 2時間後より好中球やマクロファージの活動が開始すると言われている。このマクロファージが分泌するサイトカインは、この後に生じる筋衛星細胞の活性化を促すことが分かっている。本研究の結果は、損傷 2時間後の超音波刺激がマクロファージの活動性を亢進し、サイトカインの分泌量が増加し、その結果、筋衛星細胞の増殖・分化・融合の開始を早めたことによると考える。【理学療法学研究としての意義】 超音波刺激による筋損傷からの回復促進効果を客観的に明らかにした。本研究を用いれば、強度、時間、タイミングなどの違いによる回復促進効果の違いを検証することが可能となり、最も効果的な超音波刺激の条件を明らかにすることができる。
著者
浅川 大地 河内 淳介 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101999, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】足関節は可動性が高く動的バランスに大きく関与しており,投球動作での片脚立位時のアライメントにも関与していると考えられる.そのため足関節捻挫などによる足関節背屈制限が投球動作時のアライメントに影響し,肩・肘などの投球障害に結びついているのではないかと考えた.そこで本研究の目的は,足関節背屈制限によるアライメントの変化が投球動作時の上肢関節へ及ぼす影響について検討することとした.【方法】対象は健常成人男性8名(右投げ5名・左投げ3名,年齢19.9±2.0歳,身長178.8±6.3cm,体重68.8±5.4kg)とし,野球経験6年以上で投球障害がなく,足関節傷害の既往のないものとした.投球開始肢位をセットポジションとし,通常投球と軸足の足関節背屈可動域を制限した投球(以下,制限投球)の2条件の試技を行った.足関節背屈制限角度は膝伸展位で10°とし,非伸縮性テーピングによって固定した。尚,投球前後での足関節背屈制限角度に有意差は認められなかった.投球距離はマウンドから本塁間(18.4m)とし,側方・後方から2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hzで同期させ,各条件3回の試技を撮影した.また,反射マーカーを両肩峰,投球側肘頭,投球側手関節背側中央に貼付し,得られた画像から反射マーカー部位の3次元座標(DLT法)を算出した.各部位の3次元座標から球速,足部接地(FP)時及びボールリリース(BR)時の肩水平外転角度,肩外転角度,肘屈曲角度を求めた.統計学的分析は表計算ソフト(Excel,Microsoft社)上で,2条件間の比較において対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の目的,危険性について口頭及び書面にて十分に説明し同意を得た.【結果】球速およびFP時の各関節角度において,2条件間に有意差は認められなかった. BR時では制限投球の肩外転角度は72.2±4.8°であり,通常投球時(73.6±6.2°)と比較して有意に減少していた(p<0.05).また,BR時の肩水平外転角度は3.36±2.5°,肘屈曲角度は69.5±17.3°であり,通常投球時の肩水平外転角度(1.85±2.2°),肘屈曲角度(62.5±20.7°)と比較して有意に増加していた(p<0.05).【考察】制限投球は通常投球に比べて肩外転角度が有意に減少し,肩水平外転角度・肘屈曲角度が有意に増加した。このことから,制限投球では投球動作時の肩・肘へのストレスが増加していると考える.投球動作時に体幹・骨盤が後傾する選手は,上半身・上肢・肩甲帯が動員されバランスをとろうとし,体幹の回旋不足が起こる可能性があり,その補正のため肩が過度に水平外転をとるとされている.本調査の制限投球においては,ワインドアップ時に足関節の背屈が制限されたため後方重心となり,体幹の回旋不足が生じ,BR時の肩の水平外転角度が有意に増加したと考える。BR時に肩が水平外転位にあると肩に加わる前方負荷が増大するとされているため,制限投球では肩関節へのストレスが増大すると推察する.また,先行研究においてBR時の肩水平外転角度の増加,肩外転角度の減少は,ゼロポジションと比べて肩関節にかかる負荷が有意に大きいとされており,今回も同様の結果となった.このことから,制限投球でのBRは肩関節へのストレスを増加させていると考える.また,投球動作の加速期における上腕の加速運動は肩関節内旋運動と肘関節伸展運動が中心に担っており,この2つの運動のどちらか一方が強調されることなく投球動作を行う必要がある。しかし,制限投球では肘屈曲角度の増加も認められたことから,肩内旋運動が強調されていた可能性が考えられ,肘関節への外反ストレスも増大する可能性が推察される.投球における運動連鎖は,下肢・体幹・上肢へと全身の各関節が効率良く連動することが必要であり,運動連鎖の破綻は肩や肘の外傷発生やパフォーマンスの低下につながる.制限投球条件でのBR時の各関節角度には有意な差が認められており,運動連鎖の破綻があったと考えられる.しかし,球速について有意な差は認められなかったため,パフォーマンスは低下していなかったと考える.パフォーマンスを維持するために,上肢に大きなストレスをかけているか,骨盤・体幹などに何らかの代償が起きていたと推察する.【理学療法学研究としての意義】投球動作において後期コッキング期から加速期にかけて肩や肘に痛みを生じやすいが,この位相での動作修正は容易でない.そのため,それ以前の位相からの影響について検討することで投球障害のリスクを減少することが可能と考える.その一要因として足関節が投球動作に与える影響についても考慮することも必要であると考える.