- 著者
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矢部 辰男
林 晴男
- 出版者
- 日本衛生動物学会
- 雑誌
- 衛生動物 (ISSN:04247086)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.3, pp.179-184, 1993-09-15 (Released:2016-08-23)
- 被引用文献数
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神奈川県西部地域の, 県境より東へ約34km内に設けた19調査地点の草やぶ(主にススキを優占種とする放置された草原)で, 全捕獲小哺乳類の88%に当たる239個体のアカネズミ(Apodemus speciosus)が採集された。県境より25km内の13調査地点では, これらの哺乳類と土壌から815個体のタテツツガムシ(Leptotrombidim scutellare)が採集された。草やぶは, タテツツガムシとその主要宿主であるアカネズミの格好の生息環境と推定される。しかし, 1950年代の調査では, この地域でタテツツガムシがまったく見いだされていない。本病発生地域内に6(km)^2の区画4カ所を設け, 空中写真を用いて1964,1973,1980,1985年の草やぶ面積を推定した。4区画の総草やぶ面積は, 1964・1973に約0.6(km)^2であったが, その後に増えて1985年には1.5(km)^2に達した。農林水産省の統計によれば, 山北町と南足柄市で耕作放棄された農地面積は, 1975年に0.14(km)^2で, 1985年には0.64(km)^2に達した。耕作放棄面積の増加は草やぶ拡大の一因と思われる。ツツガムシ病患者は県西部の山北町と南足柄市を中心に, 1970年代前半より増えたと見られるが, その増加の一因は, 草やぶの拡大に伴うタテツツガムシの分布拡大にあると推定される。