著者
井上 秀雄 萩原 健一 中嶋 暉躬
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.307-313, 1993

チャイロスズメバチは, キイロスズメバチとモンスズメバチの巣に社会寄生することが知られている。本研究は, SDS電気泳動および高速液体クロマトグラフィーを用いて3種スズメバチの毒嚢成分の比較検討を行った。キイロスズメバチ毒とモンスズメバチ毒の泳動パターンには顕著な差が認められなかったが, チャイロスズメバチ毒は他の2種との成分パターンがわずかに異なり, 蛋白性成分の多様性が示された。さらに, チャイロスズメバチ毒には, スズメバチ毒に共通した活性ペプチドであるマストパランやVes-CPsが検出されなかった。一方, スズメバチ科のもつハチ毒の特徴であるセロトニン, ヒスタミン, ポリアミンがチャイロスズメバチ毒にも含まれていた。とくに, プロトレッシンおよびセロトニンの含量は他の2種に比べ顕著に高いことを認めた。これらの結果から, チャイロスズメバチ毒は, 従来報告されているスズメバチ属のハチ毒と異なる成分組成をしていることが示唆された。
著者
大利 昌久 樋山 御理男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.281-284, 1977
被引用文献数
3

A case of anaphylactic shock from the wasp, Vespa tropica, was recorded in Higashi-Yamanashi city, a typical agricultural area in Japan, on October 12,1976. This case was a 51-year-old female farmer who was stung on the nap by a wasp while working at her farm. Approximately ten minutes later, dyspnea and cloudiness of consciousness developed. When she was brought to hospital at twenty minutes after the wasp sting, blood pressure was unable to obtain and moist rales was audible all over the chest. At approximately 15 minutes on I. V. drip including predoning, nor-epinephrine, aminophyllin and histamics as well as on oxygen, initial symptoms were stabilized and consciousness became clear. The review of hospital charts revealed that ten patients had been treated for wasp or bee stings in the hospital of the present case during the period of October, 1975 to September, 1976. further epidemiological studies on wasp or bee stings need to be carried out. Desensitization therapy may be useful for those known to be hypersensitive to stings. It is also advisable that those especially in close contact with these insects be educated on the danger of their sting.
著者
小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.217-222, 1976
被引用文献数
1 2

著者は1975年6月15日北海道幌泉郡襟裳町でブユの調査を行い, 猿留川の2支流で多数の老熟幼虫, 蛹を採集した。これらを飼育して成虫を羽化させた結果Pro-imulium属に属する新種であると認めたので, ここにProsimulium sarurenseとして記載する。本種は雌雄の生殖器, 脚の形態から本邦産のProsimulium属のhirtipes-groupよりもyezoense-groupに類似しており, さらに蛹の呼吸系の形態からyezoense-groupとは別のgroupに属するものと見なされる。P. yezoense Shiraki, 1935およびその類似種は雌のみ腿節脛節が黄白色ないし黄色, 蛹の呼吸系は22∿36本であるが, 本種は雌雄ともに腿節脛節がすべて黄白色ないし黄色, 雌の小楯板の外縁部が銀白色, 雌雄の生殖器の特徴, 蛹の呼吸系が46∿48本であることなどにより明瞭に区別できる差異が認められた。蛹の呼吸系の数, 幼虫のhyposto-iumの歯の形態は, シベリア, アルタイ, アラスカ, カナダに広く分布しているP. alpestre Dorogostajskij, Rubtzov et Vlasenko, 1935に類似しているが, alpestreとは雌雄の生殖器, 脚の色彩, 爪の形状などにより明瞭に区別できる。本種に対しサルルキアシオオブユという和名を提唱した。
著者
小川 賢一
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.77-80, 1992
被引用文献数
5 7

神奈川県川崎市内の住宅地域を流れる二ケ領用水で大発生するR. kyotoensisの飛群真近に音響トラップを設置して, ユスリカを捕獲する野外実験を初めて行った。飛群は水面上0.3∿2.5mの高さに形成され, 飛群を構成するユスリカの97%以上は雄であった。1989年および1990年の10月から12月にわたる実験期間中, 雄は周波数180Hzから300Hzの範囲の音響に対して顕著に応答し, トラップに誘引・捕獲された。この雄の音響応答において, 捕獲に最適な音響周波数と気温との間にきわめて高い正の相関が認められ, その音響周波数の変動が約11Hz/℃であることを明らかにした。また, 一定の気温条件下では, 雄が応答する音響周波数の範囲がかなり狭いことも示された。
著者
大滝 倫子 篠永 哲
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.81-82, 1995
被引用文献数
1

A case of dermatitis due to slug caterpillar of Lotoia lepida, in Saitama Prefecture, was reported. Many small erythematous maculopapules with itching were observed on the forearm and cubital fossa.
著者
稲岡 徹 早川 博文 山口 勝幸
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.261-263, 1985

The tabanid fauna of Okushiri Island, Hokkaido, Japan, was surveyed by collecting female adults with a mosquito-net trap baited with dry ice and by digging larvae and pupae with hand shovels, on August 6 and 7,1983. A total of 544 female adults of 9 species belonging to 3 genera and 39 immatures of 3 species of Tabanus were collected. Tabanus nipponicus, T. chrysurus and T. trigeminus were ubiquitous and predominant. The faunal make-up of this island with a considerable abundance of anautogenous tabanid population markedly differs from that of Rishiri and Rebun Islands. The influence of the livestock farming for the establishment of the tabanid fauna of this island was discussed.
著者
佐々木 均 西島 浩 早川 博文 楠井 善久
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.81-83, 1988

Surveys on the fauna of tabanid flies in Okushiri Island, Hokkaido, Japan were carried out at 6 localities from June to August in 1986 using CO_2-lured mosquito-net traps. A total of 138 individuals belonging to 2 genera and 6 species were collected. Tabanus nipponicus was the most predominant species accounting for 49.3% (68 indiv.) followed by Chrysops suavis (37.7%, 52 indiv.). Individuals of other species collected were few in number. The largest number of species and individuals were collected in August (5 species, 104 indiv.), with fewer in June (2 species, 17 indiv.) and July (3 species, 17 indiv.). Chrysops japonicus was collected for the first time from Okushiri Island.
著者
鈴木 猛 椎名 実 土屋 芳春 安富 和男 喜島 功 平社 俊之助
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.268-275, 1959

1.千葉八日市場市の農村部落において, 1959年6月1日より7月28日に至る間に, 各種malathion製剤を用いてハエ成虫・幼虫及び蚊幼虫駆除の実地試験を行つた.2.20%malathion乳剤40倍稀釈液か, 0.7%malathion油剤を, 家屋内の天井全面に1m^2あたり27〜42cc撒布することにより, 屋内のハエの棲息密度が著しく減少し, この効果は7〜10日間持続する.なお, ハエの棲息密度判定法として, 屋内に設置したハエとりリボン及びハエとりビンの捕集数は, 高い相関関係にあることを知つた.3.便池のハエ幼虫に対しては, 20%malathionの200倍液を表面積1m^2あたり2l, あるいは1.5%malathion粉剤を1m^2あたり100g撒布することにより, 1日後にほとんどすべての幼虫が死滅したが, 7日後にはかなりの幼虫数の回復が認められた.4.実験的に積んだ堆肥にmalathion製剤を撒布した結果, 20%乳剤200倍液の2l/m^2撒布ではハエの発生防止効果がほとんど認められないにもかゝわらず, 1, 000倍稀釈液の10l/m^2撒布では顕著な効果があることを知つた.また, 1.5%粉剤の100g/m^2撒布では, 対照に比較して, 58.9%のハエを発生させる効果にとどまつた.5.滞水域のアカイエカ幼虫に対して, 20%malathion乳剤を100倍にうすめ, 表面積1m^2あたり100cc撒布すれば, 幼虫は全く死滅し, その後7〜10日はほとんど再発生を認めなかつた.しかしこの量の撒布では, サナギに対する効果はほとんどなかつた.
著者
森林 敦子 Wells Jeffrey D. 倉橋 弘
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.129-135, 1999
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

センチニクバエの休眠蛹は20℃, 短日の条件下で成虫, その幼虫を飼育すると得られる。東京で採集したセンチニクバエの休眠蛹を20℃で2ヶ月間置きその後一定の期間低温(4℃)に置いた。その後27℃に移し休眠蛹が覚醒し成虫羽化までに要した日数, 雌雄の確認, 及び生存率を羽化率より検討した。その結果羽化までの日数は低温期間の長さによって変わることが明らかになった。このハエの休眠覚醒に最適な低温期間は3ヶ月で14日後から10日間の間で89%が羽化した。しかしそれ以上低温期間が長引くと羽化率が低下し7ヶ月で13%, 8ヶ月以上ではそれが0%になった。東京の10月, 11月は短日で平均気温が16℃から13℃あり, その後12月, 1月, 2月と5℃を割る低温が続く。3月になると平均気温が5℃を越えるようになる。4月, 5月と気温が上昇し実際ニクバエが野外で見られるようになる。得られた実験結果は, 今回使用した東京産の休眠するセンチニクバエが東京の環境に適応していることを示していると思われる。またこれらの実験結果からセンチニクバエの北限についても考察した。
著者
大森 康正 斉藤 奬 松井 繁巳
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.191-193, 1960

本年(1960)6月中旬頃, 新潟市山ノ下地区に黒い小さなハエが非常に多く発生しているという情報が同市東保健所に入つた.その後, 本種は一時下火になつたかのように見えたが, 梅雨の明けた7月中旬頃から山ノ下地区から約1kmはなれた市内沼垂の貯木場付近一帯に再び大発生し, 近くの民家に侵入して住民を悩し始めた.本種は同定の結果, Drosophila virilisクロショウジョウバエと判明した.新潟市内のショウジョウバエについては筆者らの一人斉藤が1957年に調査しているが, 今回の発生は当時の採集量に比べて問題にならぬくらいの大発生である.筆者らは今回の異常発生について発生源その他を調査し, 併せて殺虫剤散布も試みたので, その成績を紹介したい.
著者
村主 節雄 原田 正和 佐々 学 石井 明 板野 一男 松岡 裕之
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.33-39, 1989
被引用文献数
3 4

岡山県の児島湖において, ライトトラップによるユスリカ科昆虫についての調査を行った。まず1985年7月8日より9日に5カ所において予備調査を行った。その結果, 好適地点を決め, 1985年7月より1986年12月までの周年調査を行った。各月の平均採集数の年間合計は41,669匹(雄15,795匹;雌25,874匹)であった。15属21種のユスリカが採集され, 主要種およびその採集数はそれぞれ, Polypedilum arundinetum (14,254), Parachironomus arcuatus (5,234), Microchironomus ishii (4,622), Tanytarsus oyamai (4,057), Chironomus kiiensis (3,004), Tanypus punctipennis (2,490), Pentapedilum tigrinum (2,349), Polypedilum masudai (1,577), Polypedilum nubifer (980), Dicrotendipes niveicaudus (962), Cricotopus sylvestris (936), and Tokunaga-yusurika akamusi (526)であった。多くの成虫は6∿9月に採集されたが, 冬期に採集される数種, さらに春と秋に発生数が2峰を示すLimnophyes hudsoniがみられた。
著者
斉藤 奨 大森 康正 松井 繁己 小松原 忠知
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.229-232, 1962

新潟県で採集されたショウジョウバエは2科5属23種であり, そのうち新潟市では2科4属18種が得られた.主な3種, カオジロショウジョウバエ, オオショウジョウバエおよびキハダショウジョウバエの季節的消長をみると, いずれも7月中旬に山を形成したほかオオショウジョウバエは10月下旬に, キハダショウジョウバエは11月上旬に再び山を形成する双峰型の消長を示した.その他の種はほとんど秋季に主として採集された.なおクロショウジョウバエの異常発生が1960年と1961年の2カ年にわたり梅雨明けにみられた.
著者
緒方 一喜 中山 孝夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.157-166, 1963
被引用文献数
1 1

1962年3月から11月にいたる間, 川崎市北郊の約42aの水田で, 防除を目的とした蚊の発生動態の調査を行なつた.調査中に得た種類は, 4属9種で, コガタアカイエカ, シナハマダラカが圧倒的に多く, 前2種より著るしく少ないが, キンイロヤブカ, コガタクロウスカがこれについで多かつた.水田では, コガタアカイエカとシナハマダラカが圧倒的であつたが, 用水路では, コガタクロウスカが優占種であつた.水田における蚊幼虫発生の周年消長を論ずる場合, 稲作作業歴から, 次の4期に区分して考えると都合がよかつた.第1期(苗代作りから田植まで : 4月13日〜6月11日).第2期(田植からパラチオン散布まで : 6月12日〜7月14日).第3期(パラチオン散布から中干し開始まで : 7月15日〜24日).第4期(中干し開始から落水まで : 7月25日〜9月13日).第1期は, まだ湛水面積が狭く, 季節も早く, 幼虫の発生は少ない.土塊の間の水たまりにキンイロヤブカが多かつた.第2期の後半にコガタアカイエカ, シナハマダラカの急激な増加がみられた.6月21日以降, 全水田に幼虫の発生がみられるようになつた.第3期は, パラチオン散布で始まる.これで全滅した幼虫も, 9日目にはほぼ元通り回復する.そして, 再び急激に増加するが, 中干し開始によつてここに第2のピークを作る.第4期には, 1〜5日間の中干しが合計8回行なわれた.中干の間に灌水が行なわれた時, 多数の幼虫が発生したが, 羽化にはいたらず次の中干しによつて死滅したようである.そして, 9月13日の落水で幼虫の発生は終りをつげた.すなわち, 水田における蚊の発生は水によつて大きく規制され, 7月下旬から始まる頻繁な中干しによつて, 成虫の発生を許す期間は6月中旬から7月下旬にいたる約40日間であつた.この間, 7月中旬に農薬散布が行なわれるので, 6月中旬から7月中旬にいたる間に対策を講ずればよいと考えた. 1つの試案として, この年の作業歴を基にすれば, 6月27日頃と, 7月6日頃の2回, 中干しか, 殺虫剤散布を行なえば, 充分な駆除効果を上げ得ることを確かめた.ライトトラップによる成虫の出現消長と, 水田の幼虫の消長との間には, そのパターンにかなりの相違がみられた.その因果関係を論じ, この年の長梅雨と低温が成虫捕集の時期をおくらせたこと. 7月下旬以降は中干しによつて成虫になり得ず, このために成虫の補給が絶たれたこと, によつて, 成虫では急峻な1つのピークができたものと考えた.
著者
宮本 健司 中尾 稔
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.267-269, 1991
被引用文献数
5 6

1980年から10年間にダニ標本を確認した58例の人体マダニ咬症を分析した。これらの発生は5月(18例), 6月(29例), 7月(9例)および9月(2例)で前3カ月に集中する。9月にシュルツェマダニ雄成虫寄生例を認め, この雄ダニを解剖したところ, 少量の血液を腸管に含有していた。いっぽう, 旭川と富良野で野外のマダニ類の活動状況をハタズリ法で調べた。両地点とも4月中旬から活動が開始され, そのピークは5,6,7月に活発となり, 人体マダニ咬症発生の時期に一致した。
著者
白坂 昭子 宮本 詢子 水谷 澄 和田 芳武 田中 生男 宮崎 光男 今中 健一 平社 俊之助
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.210-212, 1971
被引用文献数
2 1

東京都町田市本町田公団住宅においてコナダニ類の防除実験を行なつた.防除方法は殺虫剤浸漬防虫紙を畳床下表面および上面化粧ばえ下に計2枚全面に縫込んだものを用いたものである.実験期間は1970年5月11日に畳床に防虫紙を縫込み, 6月13日住宅に敷込み以後約1カ月間コナダニの発生状況を観察した.この結果, 実験終了時(防虫紙処理2カ月後)の無処理畳のコナダニ数と比較した防除率は0.37% dieldrin (100ml/m^2)処理紙では95〜100%, 0.5% fenthion処理紙は99〜100%, 1.0% fenitrothion処理紙はほぼ100%であり極めて高い効果が示された.またマイクロ波による誘電加熱処理を行なつた畳では95〜99%の防除率であつた.