著者
安富 和男
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.124-129, 1961
被引用文献数
2

茨城, 千葉両県下の一部地域で, 1960年秋より1961年春にかけて採集したイエバエ群を主な実験材料として, diazinonに対する抵抗性の発達, 消失, ならびに交叉抵抗性の関係について実験した結果, 次のような諸点が判明した. 1.茨城県鉾田町美原地区, 茨城町小幡地区, 千葉県袖カ浦町浜宿地区などから採集したイエバエ群は, 標準の高槻系統の10〜20倍の(LD)_<50>値を示したが, これらを, さらに実験室的に5世代, diazinonで淘汰すると, 2〜4倍抵抗性が増大し, とくに, 鉾田産イエバエ群を6代淘汰したものは, 高槻系統に比べて, 約100倍大きなLD_50の値(2.5098μg/♀fly)を示した.しかし, 彦根産イエバエ群を8代淘汰しても, 抵抗性は2.2倍しか増大せず, 抵抗性の発達度は, イエバエのpopulationによつて大差が見られる.また, 茨城県出島村上郷地区産イエバエは, 実験室における3代の淘汰よりも現地における1年間のdiazinon撒布(10回の残留噴霧)の方がむしろ抵抗性の発達が大きかつた. 2.RP系統では, 46世代薬剤との接触なしに飼育しても, diazinon抵抗性は低下しなかつたが, 鉾田産イエバエ群, および茨城町産イエバエ群では, 薬剤との接触なしに5世代の間飼育すると, diazinon抵抗性は若干消失するが, さほど顕著でなかつた. 3.Diazinonに抵抗性の強い各イエバエ群は, DDVP, malathion, Nankor, Baytexに対しても, 標準の高槻系統より2〜4倍程度大きな値を示したが, diazinonの場合に比べると, Resistance ratioは小さかつた.
著者
岩佐 光啓 真田 睦郎 伊東 拓也
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.265-268, 2000
被引用文献数
1 4

1999年6月, 北海道沼田町在住の主婦(49歳)が自家の山で草刈りの合間の昼寝の後, 「ゴロゴロ」という雷のような耳鳴りを自覚し, 深川市の耳鼻咽喉科医院に来院した。この患者の外耳道左鼓膜一面に径約0.5mmの赤色小斑点が十数個と黒点1個を認め, 耳洗浄を行ったところ, 無弁類ハエ成虫一匹が生きたまま出現した。このハエを検討したところ, Family CarnidaeのCarnus hemapterus Nitzsch, 1818であることが判明した。本種は, ヨーロッパ, 北アフリカ, ロシア, アメリカ, カナダに分布し, 日本からは未記録であった。また, 本種が属する科も日本で初めての記録となり, 科の和名をチビコバエ科(新称)とし, 種の和名をトリチスイコバエ(新称)とした。本種は樹洞性をはじめとする様々な野鳥の巣のヒナに寄生・吸血することが知られているが, 今まで人体寄生例はなく, 今回が初めての症例報告となる。
著者
早川 博文
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.145-147, 1982

日本産のイヨシロオビアブ群に基づいて, 新属Hirosiaツナギアブ属(属模式種 : Hi. iyoensisイヨシロオビアブ)を記載した。新属は, 触角鞭節の基節がやや細長く背面突起があまり発達していないこと, 小顎鬚第2節の基部がかなり膨大なことでTabanusアブ属と区別されるが, 最も大きな特徴は幼虫と蛹の特異的な形態にある。新属の名称は, 高橋弘博士に献名されたもので, なお和名のツナギアブは, 岩手県下におけるイヨシロオビアブの俗称である。ツナギアブ属の日本産9種の検索表を掲げた。
著者
千種 雄一 松本 淳 桐木 雅史 川合 覚 松田 肇 及川 暁 佐藤 孝
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.125-127, 1998
被引用文献数
4 16

アルコール症と痴呆症の60歳の女性患者が自宅で転倒しガラス窓に頭部を突っ込み同部に弁状創をおった。しかし患者は何ら創傷部の手当をしないで放置した。10日後に精神科を受診した折, 医師が創部に60匹余りのヒロズキンバエの3齢幼虫を見い出した。従来言われているハエ症を惹起しやすい状態, 病態にアルコール依存症と痴呆症を加えることを提唱する。
著者
千種 雄一 川合 覚 桐木 雅史 松田 肇 守田 浩一
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.141-143, 1997
被引用文献数
6 12

埼玉県春日部市在住の66歳の男性患者の左下腿の皮膚潰瘍部に発生したシリグロニクバエによるハエ症を報告した。同患者は昭和59年に脳梗塞に罹患し以来四肢麻痺の状態で, 今回のハエ症は平成8年7月7日に発生した。発生部位の細菌学的検索ではPseudomonas aeruginosaとProteus mirabilisが検出され, この緑膿菌感染がハエ症を発生させ易くした可能性が示唆された。
著者
栗原 毅 佐々 学
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-48, 1965
被引用文献数
1

バンコク市でネッタイイエカの吸血, 休止などの行動について観察し興味ある知見を得た.当市の蚊の人吸血行動は屋内外でとも午前1〜3時をピークとする夜間攻撃性を示し, 屋内では屋外よりもその数が多い.これらの傾向は, 産卵経歴の有無に関わらずみられた.また攻撃蚊雌は3, 737匹を解剖して4匹以外はIb期であつた.休止蚊は屋内, 家畜舎内, 水ガメ内などにみられ, それぞれの休止蚊群の濾胞発育段階構成比は少しく相違を示した.また, box trapと水がめによつて侵入脱出の状態を観察した所, 共に早朝に侵入, 夕刻に脱出をし, またこれは雌雄の別, 濾胞発育段階の別に特に関係なく認められた.
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.130-148, 1958
被引用文献数
1 2

1)本邦各地に於いてツマグロカミキリモドキ(福島県), キクビカミキリモドキ(北海道), アオカミキリモドキ(東京), ズグロカミキリモドキ(奄美大島), ハイイロカミキリモドキ(奄美大島)等による病害例を認め, カミキリモドキ類による皮膚炎は広く発生していること及びこれ迄に記録されたもの以外にも病害を与える種のあることを知つた.2)12属24種のカミキリモドキにつき皮膚貼布試験を行い, 毒性の有無を調査した.材料が生の場合は押潰してそのまま塗擦し, 乾燥死体の場合はクロロホルムで浸出し溶媒を溜去してワセリンに混じて用いた.その結果, 実際に病害の知られているもの以外にルリ・ワダ・カトウ・シリナガ・キバネ・コウノ・オオサワ・ハラグロ・ミヤマ・スジ・メスグロ・クロアオ・キアシ・モモブト等のカミキリモドキも有毒であることを知り得た.3)カミキリモドキによる皮膚炎の臨床的観察を行つた.この皮膚炎は水疱(唯1個又は数個からなり, 形と大きさは多種多様で, 通常緊満し, 疱膜は薄く内容は透明で容易に破壊する)の形成を主症状とするもので, 露出部に好発し, 多少の疼痛及び〓痒感があり, 通常数日で乾涸して治癒に赴くが, 水疱が破壊して糜爛面を形成すれば疼痛が強く経過は遷延する.治癒後永く色素沈着を残す.4)虫体の接触状況と皮膚炎発生の関係をアオカミキリモドキ成虫を用いて実験した.単に人体皮膚面をはうのみでは皮膚炎をおこさないが, 手等で押え或いは払いのける等多少とも圧迫を加えると, この甲虫は前胸背板の前後両縁や翅鞘の縦隆条から毒液を分泌し, これが附着した皮膚に水疱を生ぜしめる.また虫体を誤つて押潰したときにも, 有毒な体液により被害を蒙る場合がある.卵及び幼虫も毒素を含むが, 実際の病害性の点では問題にならない.5)本邦に於けるカミキリモドキによる病害を検討するためにカミキリモドキ科各種の地理的分布と成虫の出現期並びに灯火飛来性の有無につき広汎な調査を行つた.その結果北海道及び本州新記録のもの各1種, 四国新記録のもの2種, 九州新記録のもの5種, 屋久島新記録のもの1種を見出し, その他大多数の種類について分布状態と出現期の概要を明かにすることが出来た.6)上記の調査結果に基き, 本邦産カミキリモドキ科各種の分布及び生態特に灯火飛来性と病害性の関係を論じた. Anoncodina, Ezonacerda, Ditylus, Chrysarthia, Asclera, Oedemerina, Oedemeroniaの7属は野外の植物上に見出されるのみで人体に接触する機会が殆どないから病害性の点ではあまり問題にならない.しかしNacerdes, Xanthochroa, Eobia, Oncomerellaの4属のものは夜間灯火に飛来するので人体に接触する機会が多く, 而もOncomerella以外の3属はいずれも有毒であるから, 病害を与える可能性が大きいと考えられる.
著者
林 利彦 都野 展子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.357-359, 1998
被引用文献数
2

キノコ類より発生した日本産フンコバエ科(改称)7種を記録した。日本においてフンコバエ類がキノコより発生した例は従来知られておらず, 今回が初めての記録である。フンコバエ類と発生したキノコ種は以下のとおりである。アシマダラオオフンコバエ, 新称Crumomyia annulus (Walker), キララタケ;ヤマトオオフンコバエ, 改称(マダラオオハヤトビバエ)C. nipponica (Richards), アミガサタケ;アシジロツヤホソフンコバエ, 新称Minilimosina (Svarciella) furculisterna (Deeming), キララタケ;モリフンコバエ, 新称Paralimosina japonica Hayashi, アミガサタケ;ヒメフンコバエ, 改称(ヒメハヤトビバエ)Spelobia luteilabris (Rondani), キララタケ・ヒトヨタケ・オオイチョウタケ・シカタケ;ホソカドマルフンコバエ, 改称(ホソカドマルハヤトビバエ)Terrilimosina longipexa Marshall, キララタケ;コガタカドマルフンコバエ, 改称(コガタカドマルハヤトビバエ)T. nana Hayashi, キララタケ。なお本科の科名には従来ハヤトビバエ科という和名が使われてきたが, 飛翔力が非常に弱い本科には実体に合わないので, 英名Lesser dung flyにちなみ, フンコバエ科という和名を新たに提唱した。
著者
斉藤 豊 斉藤 奨 大森 康正 山田 光太郎
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.7-16, 1964
被引用文献数
2 7

カメムシ類は果樹を食害する農業害虫として重要視されていることは衆知の事実であるが, 近年それによる直接的人体被害も若干しられている.素木(1958)はクロカメムシの臭液腺分泌物が人の眼に入ると結膜炎視力障害等をおこし, 直接皮膚に付着するとその部に水胞を形成する皮膚炎が生じ, 特に乳児はその感受性大なることを紹介している.東北地方の山地では毎年の秋(9月下旬〜10月中旬頃)クサギカメムシの成虫が越冬のため大挙人家内に侵入しここで越冬したのち雪も消え温暖となつた若葉の候(5月頃), 一斉に野外へ飛び出ることがわかつている.その間この虫は屋内いたるところのすき間に見出されるばかりでなく, 衣類・寝具類にまで潜入するにいたる.室内の温度が上昇すると彼等は冬眠から覚めて小活動を開始して歩き廻るばかりでなく, 更に何かの刺激に対し容易に反応して臭液腺より分泌された臭液のため室内は特異的な悪臭で充満されるので, 頭痛, 嘔吐, 食欲不振等を訴える人がしばしばあり, 秋の観光客等もこの不快昆虫のため顔をそむけて宿泊せずに引返すことすらある現状であると聞く.ところがたまたま本年初夏新潟県衛生部からこの不快昆虫の撲滅対策について強い要望があつた.そこで我々はこの機会に本県山地特に新潟県営発電所を中心にして, カメムシ類特にクサギカメムシの生態調査, 殺虫試験等について諸観察を行ないうることが出来たので, ここにその諸結果を記述する.
著者
和田 芳武 高橋 純雄 堀 栄太郎
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.129-134, 1973

Bohartが1956年に雌8匹から記載したセボリヤブカの幼虫, 蛹を東京都小笠原諸島の父島及び弟島の海岸のロックプールから採集したので, 雌, 蛹, 幼虫の新記載を含めて, 再記載をした。成虫は, 雌ではKnight and Marksのgroup H, subgroup IIIの特徴を備えているが, 雄の外生殖器はこのsubgroupの特徴である変形鱗片(specialized scales)の房(tuft)はなく, 変形鱗片が散在し, トウゴウヤブカAedes togoiに似た形態を示している。この点から, 本種をどのsubgroupに属させるべきであるかはさらに検討を要する。蛹は, 遊泳片の後縁がなめらかで大小2本の毛を有する点, 幼虫は下唇の歯数が21&acd;25であることから, 本邦産のFinlaya亜属の蚊の中で最もよく似ているトウゴウヤブカとも区別出来る。本種は小笠原以外の採集記録はなく, 発生源もすべて海岸の半海水性のロックプールであった。なお弟島ではトウゴウヤブカと一諸に採集された。吸血活動は日没日出頃が活発であるが, 日中の炎天下でも人を刺しに飛来した。
著者
池田 修
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.288-290, 1967
被引用文献数
1

1966年に横浜港で調査した外航貨物船舶45隻のうち5隻から, X. cheopis 1種のみを検出した.なお検査ネズミ数1, 099頭で採集したX. cheopis数は64匹であつた.採集できた船舶はいずれもアジア地域からのものであり, 同方面からの来航船舶27隻中5隻(18.5%)から採集した.ノミを保有したネズミは船内各区劃から見られ, R. rattusと同様M. musculusにも多数のX. cheopisの寄生が認められた.
著者
中田 五一 伊藤 壽美代
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.82-93, 1955
被引用文献数
1

1) 1952年5月から1953年4月に至る1年間, 京都市右京区太秦, 安井小学校々庭において, New Jersey型light trapによる周年採集を行つた.2) 採集現場は市街地帯と農耕地帯の境界附近にあり北側は人家が密集し, 他の三方は水田である.3) 上記期間中に終夜採集を41回実施し, 総計5属19種8655個体の蚊が得られた.4) Culex pipiens (32.6%), Culex tritaeniorhynchus (29.0%), Anopheles sinensis (26.0%)の3種が圧倒的に多く, Culex vishnui (9.0%), Culex bitaeniorhynchus (1.4%), Culex rubithoracis (0.7%), Armigeres subalbatus (0.4%)の諸種は少いながらも構成上無視しがたい地位を占める.他は0.1%以下であつた.5) Culex pipiensは3, 4月には越冬雌が散発的に採れ, 5月中旬から雄が出現し, 以後11月下旬まで概ね連続して採集され, 従つて活動期間が最も長い.最高頂は6月下旬に認められる.6) Culex tritaeniorhynchusは5月下旬から雌が, 6月中旬から雄が出現を開始し, 7月下旬最高頂に達し, 9月下旬に急激に消失する.7) Anopheles sinensisは3, 4月に雌が散発的に出現, 5月中旬から雄が現われる. 7月上旬から急増し, 下旬に最高頂に達し, 10月上旬に姿を消す.8) Culex vishnuiは6月下旬から雌が, 7月下旬がら雄が現われ, 8月中旬最高頂に達し, 9月末に消失する.9) Culex bitaeniorhynchusは6月上旬に雌が始めて採れ.その後約1ヵ月間採れず, 7月中旬から9月下旬までは概ね連続的に出現する.最高頂は7月下旬に認められる.10) Culex rubithoracisは7月中旬から9月中旬まで概ね連続的に少数宛出現し, 8月中下旬に雄が稍々多くなる.11) Armigeres subalbatusは8月末から10月中旬まで採集され, 9月20日前後が最も多い.12) その他の諸種は, 概ね不連続に少数宛採集され, 消長様相を把握することは困難である.13) 各種の最盛期の間には多少のずれがあり, 全体として季節的"すみわけ"の傾向が認められる.14) 以上の成績を一応従来の知見と比較した結果, 蚊成虫の季節的消長は採集地点附近の環境や調査方法によつてかなり異つた様相を示す場合が多く, 到底緯度や気象の差だけでは説明し得ない.15) 季節的消長に関する研究の窮極の目的は, 各種の蚊のpopulation増減と環境要因の季節的変動との間の因果関係を探究することであり, その手がかりは, 個々の成績間における共通点を集約することよりも, むしろ相違点の分析的検討によつて与えられると思う.16) 以上の他light trap採集法の方法論的考察を行つた.
著者
田原 雄一郎 Monroy Carlota Rodas Antonieta MEJIA Mildred ROSALES Regina
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.87-92, 1998
参考文献数
20
被引用文献数
4 17

グアテマラ各地の6村落の農家でチャガス病を伝搬する2種サシガメ, Triatoma dimidiata及びRhodnius prolixusの防除実験を行った。前者に対しては土壁の表面, 隙間, 割れ目に散布し, 後者では草葺き屋根の天井に散布した。人-時間採集評価でlambda-cyhalothrineは両種に対して30-60mg(a.i.)/m^2の薬量で極めて有効で, 3-4ヵ月以上にわたり再発生を許さなかった。また, deltamethrin液剤及び粉剤, diazinon, propoxurの液剤は200-600mg/m^2の薬量で2-4ヵ月の残留効果を発揮した。他方, fenitrothion及びdiazinonの液剤の効力は600-1000mg/m^2に増量したにもかかわらず劣った。また, permethrin燻煙剤は隙間の多いグアテマラの農家では有効でなかった。Deltamethrinは眼粘膜や鼻粘膜刺激が強く室内散布剤としては問題が残った。
著者
鈴木 猛 平社 俊之助 佐藤 金作
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.78-79, 1959
被引用文献数
1

ゴキブリの駆除の一方法として, 比較的高濃度の薬剤を, その潜伏場所のまわりに帯状に処理し, ゴキブリの通路を囲む事により効果を期待するやり方がある.この方法は数cmの狭い幅に薬剤を処理するので, これにゴキブリが接触する時間は, 普通数秒間であり, 特別の事情のない限り長くても1日に10分間以上触れているとは考えられない.5%ダイアジノンを用いた室内的な実験(白井, 平社, 鈴木, 1959)では, 雌の場合10分以上の接触が100%の死亡に必要であることから, はたして実際において, この様な方法で完全な効果が期待出来るかどうか疑問になる.しかし実際には我々の目にとまる所にゴキブリの潜伏場所があれば, こゝに薬剤を処理するであろう.そして, この場所のゴキブリは当然死亡ないしは逃亡する.だが, ゴキブリの様な我々の見付けにくい所に往々ひそんでいる昆虫に対し, すべての潜伏場に薬剤を残留塗布の形で処理することは不可能に近い.そして実際的には往々にして一部の潜伏場所に直接薬剤を噴霧した場合の駆除効果をみるため, 過大に評価し勝である.この様な考え方から, 著者等は出来得る限り, その潜伏場をみつけ, しかも, こゝに全く薬剤を処理することなく, そのまわりに5%ダイアジノン乳剤をはけを用いて幅約5cm位の帯状に残留塗布を行いその効果を観察した.
著者
松本 克彦
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.196-203, 1968
被引用文献数
1

前報に続き, コナダニ類のヒポプスの成因を検討した.すでに繁殖しているコウノホシカダニLardoglyphus konoiの集団を種々の湿度環境におき, ダニ数および年齢構造の変動を観察した.コウノホシカダニを煮干し6 : 乾燥酵母剤4の割合で混じた飼料で, 温度25℃, 湿度76% R. H. (NaCl飽和溶液にて調整)において, あらかじめ4週間飼育した.繁殖ダニ数は飼料0.5g当り平均256匹であつた.この飼料を10gずつ小コツプに取り, これを, K_2SO_4 (98% R. H.), KNO_3 (94% R. H.), KCl (87% R. H.), Na_2SO_4 (82% R. H.), NaCl (76% R. H.), NaNO_2 (66% R. H.), NaHSO_4・H_2O (52% R. H.)の各飽和溶液を入れたデシケーターにそれぞれ置いた.温度は25℃と一定にした.1)飼料内ダニ数への各湿度の影響は, 実験開始2日目から現われた.低湿度66%, 52% R. H.ではダニ数は減少した.最高ダニ数を示した湿度は82% R. H.であり, 7日目で912匹となつた.87% R. H.以上の高湿度では最高ダニ数に達する時期が, 他の湿度に比べて遅くなつたが, 増殖率は相当良好であつた.2)飼料内から外部へ移動する這い出し現象は低湿度においては実験開始時から盛んに行なわれた.94% R. H.以上の湿度における這い出し現象は, 他の湿度に比べ1日遅れて2日目から始まつた.各湿度における這い出し現象の最盛期は, 飼料内のダニ数が減少期に入つてからであつた.飼料内のダニ数に対する這い出しダニ数の比, すなわち這い出し比は最適繁殖湿度82% R. H.および94%, 98% R. H.では小さく, 低湿度では大きな値を示した.這い出し数の最高は87% R. H.の湿度で示された.3)湿度76% R. H.以上の飼料内ダニの年齢構造に対する湿度差の影響は14日以内には見られず, 17日以後になると, 高湿度では成虫の比率が高くなつた. 66% R. H.以下の低湿度では2日目以後から成虫が少なく, 前若虫の占める率が大きくなつた.ヒポプスは各湿度ともほぼ10日前後に現われた.ヒポプスの出現比率は最適繁殖湿度82% R. H.をはさんだ87, 76% R. H.に極大値を示した.4)這い出しダニの年齢構成は各湿度とも初期ではほとんど成虫で占められていたが, 這い出しダニ数の増加とともに, 若い時期のダニ数が多くなつた.ヒポプスの出現時期は湿度98% R. H.ではやや遅れるが, その他の湿度ではほぼ同じ8日前後であつた.ヒポプス出現率が10%以上の大きい値を示す時期は湿度が高くなるにつれて遅くなつた.出現率の大きさは飼料内のヒポプスと同じく, 76%および87% R. H.の所で極大を示した.
著者
宮城 一郎 當間 孝子 長谷川 英男 只野 昌之 福永 利彦
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.259-262, 1992
被引用文献数
2 6

1990年5月, 8月, 石垣島での日本脳炎伝搬蚊の調査時に, 水田からCulex vishnuiの幼虫と蛹が多数発見された。本種はCx. pseudovishnui Collessと形態的特徴が酷似するためしばしば混同されてきた。Cx. vishnui幼虫の形態的特徴は胸部背面に微細な突起(spicules)を有し, 腹部6-III&acd;VI毛は2分岐, 1-VI, 1-VI毛は3&acd;4分岐, 1-V毛は4&acd;5分岐, 側鱗(combscales)は通常18&acd;25個であった。本種はこれまで明確な記録はなく, 今回が琉球列島で初の生息記録となる。
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.245-276, 1958
被引用文献数
1 8

1)線状皮膚炎を惹起する有毒甲虫, Paederus fuscipes Curtisアオバアリガタハネカクシの生活史・習性について野外観察並びに実験的調査を行い, また各期の外部形態を記載した.2)成虫は体長7mm内外で一見蟻のような形状を有する.蛹は体長4.5mm内外の裸蛹で, 全体乳白色乃至橙黄色を呈し, 前胸背の前縁部と後縁部及び第1, 3〜7腹節の側端に各1対の非常に長い剛毛状突起がある.第2齢(終齢)幼虫は体長4〜6mmで, 細長く, 白色乃至橙黄色を呈し, 第9腹節に1対の長い尾突起を具える.第1齢幼虫は体長2.2〜2.4mm.卵は殆ど球形で, 産下当初は淡黄白色で長径約1.1〜1.2mmであるが, 発育に伴つて急速に増大し, 色彩も黄褐色に変る.3)本種は本邦では北海道から九州迄全土に亘つて広く分布するが, 概して暖地に多産し, 水田・畑・池沼の周辺・川岸などに棲息する.成虫は地表及び雑草上で生活する.東京都の成増では成虫は4月下旬乃至5月中旬頃から10月下旬に亘つて灯火に飛来し, 6・7月頃にピークを形成するのが認められた.成虫の灯火飛来活動はいわゆる前半夜型に属し, 暗化後2時間半以内の飛来個体が1夜の総飛来数の過半に達した.4)交尾の際, 雄は雌の背上に乗り, 大腮で雌の前胸と中胸の間の縊れた部分をくわえる.卵は地表の土壌間隙に1個ずつ産下される.1頭の雌の総産卵数は18〜100個(平均約52.3個)であつた.越冬した雌は4月下旬乃至5月中旬から通常7月中・下旬迄産卵を行い, 6月上旬に羽化した成虫は7月から9月に亘つて産卵を行つた.5)卵期間は3〜19日で, 孵化率は96.2%であつた.幼虫期は僅か2齢からなる.第1齢及び第2齢の期間はそれぞれ約4〜22日及び7〜36日であつた.老熟した幼虫は浅い土中に蛹室を造り, 約2〜9日後蛹化する.蛹の期間は約3〜12日であつた.6)成虫は雑食性であるが, 特に食肉性の傾向が強く, 野外では種々の昆虫, ダニ, 土壌線虫などを捕食し, また植物のやや腐敗した部分などを食するのが見られた.幼虫の食性も成虫と同様であつて, 捕食性の傾向が強く, 実験室内では牛肉或いはキュウリの一片の何れを与えても飼育することが出来た.7)周年生活環は東京附近では不規則で1年3世代のものと2世代或いは1世代のものがある.越冬は常に成虫態で行われる.越冬の際多数の個体が集団を作ることがある.8)有毒物質は卵・幼虫・蛹・成虫の何れからも証明された.成虫では有毒物質は体液中に含まれており, 虫体が破壊されて体液が外へ洩れ出ない限り皮膚炎を起すことはないと考えられる.本邦に産するPaederus属のハネカクシ8種のうち, fuscipes, tamulus, poweri, parallelusの4種は有毒物質を含むことが判明したが, 線状皮膚炎の原因として実際に重要なのはアオバアリガタハネカクシ唯一種である.本邦に於いて筆者により明かにされた灯火飛来性を有する68種のハネカクシの内には皮膚塗擦試験で軽微な皮膚炎を惹起するものがあるが, アオバアリガタハネカクシ以外に線状皮膚炎の症状を呈するものはない.
著者
金子 清俊
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.57-58, 1972

中田五一氏がイランに滞在中採集したネズミジラミを預かり, 同定したところ, Polyplax asiaticaとPolyplax paradoxaの2種であった。いずれもイランからは初記録であり, 後種の雄は生殖器の特徴が今日まで知られていなかったので, 記載をし図を付した。
著者
佐々木 均 西島 浩 小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.87-90, 1988
被引用文献数
3

吸血源動物を知る目的で, 北海道に分布するSimulium属の主要種である, アシマダラブユとアカクラアシマダラブユの2種のblood-mealをELISAを用いて, 免疫学的に同定した。アシマダラブユでは抗ヒト, 抗ウシ, 抗ウマ, 抗ヒツジ, 抗エゾシカ血清に, アカクラアシマダラブユでは抗ヒト, 抗ウシ, 抗ウマ血清にそれぞれ陽性反応を示したが, 抗鳥類血清に陽性反応を示した個体はなかった。この2種のブユは趺節の爪が歯をもたないS型であることからほ乳類吸血性とみられていたが, 本報に示された結果からこのことが免疫学的にも確認された。