著者
稲葉 通将 鳥海 不二夫 石井 健一郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.1, pp.59-67, 2011-01-01

近年,人間と対話を行うコンピュータ(対話エージェント)に関する研究が活発化している.しかし,その多くはチケット予約や道案内など特定のタスク達成を目的としたタスク指向型対話エージェントに関するものであり,人間と雑談を行い,話を盛り上げるための非タスク指向型対話エージェントの研究は少ない.話を盛り上げ,相手を楽しませる対話エージェントの設計のためには,人間同士の対話の分析が必要不可欠である.そこで本論文では,人間同士のテキスト対話中における,話者の盛り上がり度の高い発話をCRF (Conditional Random Fields)を用いて自動判定する手法を提案する.本手法では,大規模コーパスから獲得した共起情報を用いて,発話と発話の間の意味的なつながりの強さを抽出し,これを素性の一つとして用いた.実験の結果,提案手法は人手による評価に準ずる性能を示すことを確認した.
著者
小澤 俊介 内元 清貴 松原 茂樹
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.3, pp.506-517, 2012-03-01

Web上には,病気への対処法や料理のレシピなど,様々なノウハウが蓄積されている.そのため,ノウハウを知るためにWebを参照することが多い.しかし,既存のWeb検索でノウハウのみを検索することは容易ではない.この問題に対し,ノウハウをあらかじめ整理し,専用のWebサイトなどで提供することができれば,災害に対する予防策など,様々な事象への対処・対策の発見を容易にすることができる.本論文では,モノとその使われ方に着目することにより,ノウハウを獲得する手法を提案する.本手法では,まず,対象のモノを含むパッセージを獲得し,ノウハウの候補を抽出する.次に,パッセージに含まれる手掛り表現,及び,モノとその使われ方として用途表現を利用することにより,ノウハウ候補がノウハウであるか否かを判定する.実験により,ノウハウ獲得においてモノとその使われ方が重要な役割を果たすことを示す.
著者
本多 俊貴 鈴木 裕利 石井 成郎 遠藤 守 高橋 友一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.3, pp.460-472, 2012-03-01

一般に,災害時に住民に対して提供される情報は行政やマスメディアから発信されている.このような公助的情報は広域にまたがり,あるいは,被害の大きな地域の情報に集中する傾向があるために,住民にとって身近な地域,あるいは,限定された地域における共助的情報の流通は難しいのが現状である.また,情報伝達の取組みにおいても,住民への伝達情報が,果たして住民が必要とする情報であるのか,住民が伝達情報をどのように活用しているのかなど,システムのユーザである住民の側からの評価,システムを使用する際の住民の行動についての分析は行われていない.そこで,本研究では認知心理学的なアプローチの導入により,災害情報収集システムを利用する人々が,「どのように情報を判断するか」について評価することにより,構築システムの最適化とシステムに求められる流通情報の特徴を明らかにすることを目的とする.これまでの評価実験の結果からは,システム利用時にユーザが必要としていた情報である,災害が起こった地域の場所や方向の安全/危険に関する情報を提案システムが提供できている点,災害時を想定した時間的制約のある状況においてもそれが有効である点がそれぞれ確認された.
著者
森 一樹 木下 大輔 古宮 誠一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.3, pp.437-446, 2012-03-01

筆者らは,ソフトウェア開発プロジェクトの開発計画(スケジュールと開発を担当する要員の割当の)案を自動的に立案するシステムを研究開発してきた.工程遅延が発生した場合に,これまでは,クラッシングやファーストトラッキングに基づく対策案(工程遅延を回復できるような開発計画案)を自動立案する仕組みを研究してきた.工程遅延の回復方法には,クラッシングやファーストトラッキング以外に休日出勤による方法が挙げられる.これまでのシステムでは,休日を要員割当処理上の制約としては捉えず,全ての休日を単に割当不可能な日とみなし,非明示的に(つまり,アプリケーション上,変更不可能な対象として)扱っていただけであったが,この論文では休日を『要員割り当て対象日に関する制約』として捉え,原則として要員割当ができない日として,明示的に(つまり,アプリケーション上,変更可能な対象として)扱う.しかし,ユーザが指定したいくつかの工程のみは,休日も要員割当可能な日として扱う.これにより,特定の工程のみは休日にも要員を割り当てるような対策案を自動立案するとともに,提案した仕組みの有効性を検証している.
著者
野宮 浩揮 宝珍 輝尚
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.2, pp.193-205, 2012-02-01

大規模な映像データベースからの人物を含む印象的なシーンの検索を目的としたシーン検出法を提案する.本論文では,映像中の人物に何らかの感情が表出しているシーンを印象的なシーンと捉え,人物の表情を認識し,表情に変化が現れたシーンを感情表出シーンとして検出する.まず,効率的に表情の認識を行うために,眉,目,口の端点などの顔特徴点の位置関係と顔画像の輝度値から高速に求められる特徴量を提案する.また,これらの中から有用な特徴量を選択し,認識対象の表情の種類に応じた数の表情認識モデルを生成する.それらをアンサンブル学習を用いて統合することにより,認識精度と認識速度のトレードオフを考慮した表情認識法を提案する.更に,映像中の各フレーム画像に対する表情認識結果から,表情表出開始フレームと表情表出終了フレームを特定して表情表出シーン検出を行う手法を構成し,提案手法の表情表出シーン検出性能の評価を行う.
著者
中川 俊明 林 佳典 畑中 裕司 青山 陽 水草 豊 藤田 明宏 加古川 正勝 原 武史 藤田 広志 山本 哲也
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J89-D, no.11, pp.2491-2501, 2006-11-01

我々は,眼底画像の異常を自動検出することによって眼科医の診断を支援するコンピュータ支援診断(CAD)システムの開発を行っている.本研究では,眼底画像の視神経乳頭を認識するために,血管の抽出及び消去を行う手法を提案する.また,血管消去画像の応用例として,患者説明に利用する擬似立体視画像の作成を行った.血管はカラー眼底画像の緑成分画像に対して,モフォロジー演算の一種であるBlack-top-hat変換を行い抽出した.抽出した血管領域に対して周囲の画素のRGB値を利用した補間を行い血管消去画像を作成した.このように作成した血管消去画像を視神経乳頭の認識に適用した.視神経乳頭は,血管消去画像を用いたP-タイル法によって認識した.78枚の画像を用いて評価実験を行った結果,認識率は94%(73/78)であった.更に,抽出した血管像及び血管消去画像を利用して,擬似立体視画像の作成を試みた.その結果,血管が網膜の硝子体側を走行している様子を表現できた.本手法が眼底CADシステムの精度向上に寄与することを示唆した.
著者
鈴木 健太 大平 雅子 野崎 綾子 内山 尚志 吉川 泰生 佐藤 利幸 野村 収作
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J95-D, no.1, pp.162-165, 2012-01-01

精神的なストレスの評価指標としてコルチゾールというホルモンが注目されている.従来,同物質は血液,唾液,尿などの検体から定量されてきた.これに対し本研究では,皮膚に微細孔を形成し,経皮的にコルチゾールを定量する新たな手法を提案する.
著者
山田 光穂 福田 忠彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09135713)
巻号頁・発行日
vol.J69-D, no.9, pp.1335-1342, 1986-09-25

視線の動きから画像を分折する試みを行っている.そのためには,視線の動きを視対象から情報を受容するための成分と,視対象を移動するための成分に分離する必要がある.前者を注視点と呼び,その注視点をここでは,眼球運動の随従運動の性質から定義した.すなわち眼球運動速度の5度/秒をしきい速度として注視点を分離するというものであり,その結果,視線の動きを注視点と注視点間の移動成分に明確に分離することが可能となった.また,この注視点の定義を組み込んだ注視点情報分析装置(Vision Analyser)を開発し,視線の動きをリアルタイムで総合的に分析することが可能となった.更に,このVision Analyserを用いた分析例としてVDT画像と一般動画像の見方の違いおよび芸術方面への応用例として写楽の浮世絵の分析の参考資料となった実験結果についても併せて述べ,注視点の定義が妥当であることを示す.
著者
小野 智司 津々見 誠 中山 茂
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.12, pp.1971-1974, 2011-12-01

航空機の搭乗券のように金銭的価値をもつ二次元コードの利用が拡大している昨今,二次元コードの複製を検知する技術の実現は急務である.本論文は,複写機による複製を検出できるよう,二次元コードに電子透かしを埋め込む方式を提案する.
著者
高橋 朝英 田口 元貴 小林 良太郎 加藤 雅彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.12, pp.2058-2068, 2011-12-01

現在,ウェブサービスは広く一般に利用され,日常生活を行う上で欠かせないものとなっている.それに伴い,ウェブサービスが停止した際の社会的影響も大きくなっている.一方,攻撃対象のシステムのサービス提供を不能にするサービス妨害(DoS)攻撃が存在し,問題となっている.手動によるDoS攻撃では,サーバ側で攻撃と思われる通信を単純にブロックしていることが攻撃者に気づかれると,攻撃者は攻撃を別の手段に切り換えて対策を回避し攻撃を行ってくる場合がある.本研究ではこの点に着目し,DoS攻撃の一種であるHTTP-GET Flood攻撃に焦点を当て,この攻撃に対して一般利用者の通信をできるだけ生かしつつ,対策を行っていることが攻撃者に気づかれにくくなるようウェブサービス提供側で可能な対策の提案を行う.本対策手法では,仮想マシンを複数台使用することで資源の分離を行い,攻撃者と通常利用者の使用する資源を分ける.また,攻撃者が利用する資源の操作を行うことで,攻撃が成功しつつあるかのように見せる.更に,提案手法の実装を行い,実験を行うことで本提案手法の有効性を確認する.
著者
宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.12, pp.2069-2081, 2011-12-01

本研究では,妥当かつ多様な論文構成の構築を支援するシステムの開発と評価を行う.ここでは,「論文構成」を情報理論における情報源からの出力符号系列とみなしたメタファとしてとらえ,論文構成の構築過程を定式化する.具体的には,過去の優良論文100件の論文構成を論文要素カテゴリーの系列データとし,それがm重マルコフ情報源に従うと仮定する.多重度の推定法として,情報論的アプローチでは,ベイズ符号語長(Bayes code length)最小化による推定法が高精度であると知られている.しかし,本論文で扱うようなデータ長の短いデータから学習する場合,多重度の増加に伴いベイズ符号語長が単調減少し,多重度を正しく推定できないことがある.そこで,本研究では,ベイズ符号語長が単調減少する場合の推定補正法を提案し,過去の優良論文100件から予測精度の高いm重マルコフ情報源を推定する.更に,推定されたマルコフ情報源に基づき論文構成の構築過程を逐次的にナビゲーションするシステムを開発する.最後に,評価実験を行い,補正手法及び提案システムの有効性を評価する.
著者
田中 俊行 グェン ミンティ 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1751-1761, 2011-11-01

インターネットの普及に伴い,Web上には商品やサービス(対象物)に対する多くの評判情報が蓄積されている.しかし,誰でも発信できるが故に,情報は膨大となり,それら全てに目を通すことは利用者にとって多大な負担となる.そのような背景から,レビューから意見を自動的に抽出する研究が盛んに行われており,意見を<対象物,評価視点(属性),評価値>の三つ組と捉え抽出する研究も行われている.しかしながら多くの研究は,評価視点や評価値の抽出に辞書を用いており,ジャンルごとに必要となる辞書の構築のためのコストは小さいとはいえない.また,単に辞書を用いてマッチングを行っただけでは,精度が上がらないのが現状である.そこで本論文では,教師あり学習を用いて,レビューサイトから意見を抽出する手法を提案する.提案手法は,従来の手法のように大規模な辞書をあらかじめ用意する必要がないため,コストを大幅に抑えることが可能である.実験の結果,辞書をあらかじめ用意しない既存手法と比較して,最大で適合率は約26%,再現率は約47%向上した.また,既存研究では個別の辞書を必要とするような他ジャンルに対して本手法を適用した結果,ほぼ変わらない精度で抽出することができ,他ジャンルへの適用の可能性を示すことができた.
著者
佐藤 大輔 中川 博之 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1773-1782, 2011-11-01

本論文では,閲覧中のWeb上のニュース記事に対する意見を個人のブログから収集し,その本文中の主張部分を抽出して提示するシステムの提案を行う.現在ニュースサイトにコメント欄が用意されているところは少なく,検索エンジンを用いても個人の意見のみを収集するのは容易ではない.そこで個人の意見を述べやすい場であるブログに着目してニュース記事に関連した意見を集め,主張を抽出する.本研究では主張とは意見の中で筆者が強く述べている主観的な部分を指す.開発中の主張提示システムの中で,本論文では主張抽出に焦点を当てる.主張抽出には人手により主張であるとされた文章から形態素解析を利用して特徴的な抽出ルールを設定した.本システムによりユーザはニュースサイトを閲覧すると同時に意見の多角的な見方が可能になり,より深い洞察が得られるようになる.評価実験において人手による正解との適合率を求めたところ70.0%となった.
著者
浜本 一知 田原 康之 大須賀 昭彦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1812-1824, 2011-11-01

ライフログなどの個人情報を提供し,プロバイダより情報推薦などの個人サービスを受ける場合,多くの個人情報を提供することで更に品質の高い個人サービスを受けることができる反面,情報の漏えいや流用などによるプライバシ侵害の危険性も増える.そこで本論文では,ユーザごとに設定する希望匿名度に対応する属性を開示する前に,匿名度に影響を及ぼす二つの要素,(1)プロバイダのユーザ背景情報,(2)コミュニティの状況,をチェックし匿名度に反映させることで開示属性を調整し,結果,無用な情報開示を避けることを特徴とするプライバシ保護エージェントを提案する.(1),(2)それぞれにおいて,課題を分析し,解決への提案手法について述べ,(1)は事例モデルによる実験的机上検証,(2)は歩行者モデルを用いたコミュニティを想定し机上検証により,提案手法の妥当性と有効性を確認した.
著者
清水 彰一 西尾 和晃 木村 誠 藤吉 弘亘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1909-1918, 2011-11-01

人の行動意図を認識しようとするFirst Person Visionでは,人の状態とその人が何を見ているのかという情報が必要となる.そこで我々は,人の眼球と人の視界映像を同時に取得するInside-Outカメラを提案し,そのカメラの構成を活かした注視点の推定法も提案する.Inside-Outカメラはハーフミラーを介して眼球を正面から,視界映像を眼球と同等の位置から撮影することができる.Inside-Outカメラでは,眼球を撮影した画像から得られる視線ベクトルと視界を撮影した画像から得られる注視点位置の関係を変換式で表すことが可能である.そのため,変換式のパラメータをあらかじめ推定することにより,視線ベクトルから注視点を推定する.評価実験では,指標を注視した際の両眼,両視界映像を撮影し,視界画像の指標位置を真値として視線ベクトルから推定された注視点との誤差を算出した.評価実験から視野角において約1.5度の平均誤差で注視点を推定可能であることを確認した.人間は1点を注視しているとき,注視箇所だけではなく視野角で約2度の範囲がはっきり見えていることが報告されていることから,この範囲を評価基準とすると,提案手法は,十分な精度をもつことが分かる.
著者
松岡 俊佑 日野 善規 市川 周一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.10, pp.1696-1700, 2011-10-01

AES暗号とCamellia暗号について,暗号鍵を定数に固定した回路を設計し,FPGAによる実装評価を行った.その結果,従来回路と比較して論理規模が削減され,最大動作周波数が改善された.
著者
松田 一朗 橋本 峻弥 須田 貴志 池田 悠 青森 久 伊東 晋
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.8, pp.1486-1495, 2011-08-01

本論文では,JPEG方式で記録されている静止画像のデータサイズを削減するため,画質を保持したまま再符号化する手法を提案する.JPEG方式は離散コサイン変換(DCT)を用いた非可逆符号化アルゴリズムを採用しており,符号化に伴う画質劣化はDCT係数の量子化ひずみによって生じる.したがって,JPEG画像データより抽出された量子化済みDCT係数を再量子化せずに可逆符号化することで,再符号化の前後で再生画像を完全に一致させることが可能となる.提案方式では,ブロック間の相関を利用したイントラ予測を導入するとともに,適応的な確率モデルに基づいた算術符号を用いることで,量子化済みDCT係数の効率的な可逆符号化を実現している.シミュレーション実験の結果,提案方式によって既存のJPEG画像データの符号化レートを19~33%削減できることを確認した.
著者
山澤 一誠 鈴木 可奈 横矢 直和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.9, pp.1561-1569, 2011-09-01

近年,付箋の直観性・操作性を模倣した電子的な付箋システムが開発されている.本研究では電子的な付箋の利点であるマルチメディアへの対応と,紙媒体の付箋の利点である一覧性や直観的な操作感を,拡張現実感(AR)を用いて融合するシステムを構築した.マルチメディア情報の管理はブログシステムを採用することにより,閲覧・編集を簡単に行えるようにし,紙の付箋にマーカとしてQRコードを描くことで,ブログデータベースへのアクセスを容易にする.これによりユーザは紙媒体の付箋と同じように実環境に付箋を貼り,PCを通して実環境に重畳表示されたマルチメディア情報を閲覧・編集することで,効率的にメモを残すことが可能となる.
著者
宮地 隆雄 長谷川 まどか 田中 雄一 加藤 茂夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.9, pp.1513-1521, 2011-09-01

現在のユーザ認証方式は,文字入力による認証方式が主流である.しかし,セキュリティの強化を目的に,パスワードとして長くランダムなテキストをユーザに要求するシステムが多く,記憶がユーザにとって負担になっている.これに対し,画像は人間にとって認識及び記憶が容易であるという特性に着目し,テキストの代わりに画像をパスワードとして用いる画像認証方式が近年提案されている.しかし,多くの画像認証方式は,認証時にパスワード画像がディスプレイに表示されるため,第三者によるのぞき見攻撃に脆弱である.そこで,我々は,離散ウェーブレット変換を使用し,パスワードの代わりとなる画像の高周波成分とおとりとなる背景画像の低周波成分を合成した画像を認証に使用する方式を提案する.一般に画像の高周波成分は,離れた位置から見るほど認識しにくくなるという性質があるため,ディスプレイから離れてのぞき見を行う者に対しパス画像の認識を困難にすることが期待できる.本論文では,提案方式による認証システムを試作し,本方式と既存方式とのユーザビリティ及びのぞき見攻撃耐性の比較を行ったので報告する.
著者
近藤 一晃 西谷 英之 中村 裕一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.8, pp.1206-1215, 2011-08-01

人間とシステムが協調することで画像認識の適用範囲や精度を高める「協調的認識」の考えが提案されている.本研究では協調的物体認識を効果的に形成して認識を改善するインタラクションの設計について提案する.具体的には,認識結果やシーンの状況といった項目をシステムが評価し,認識を行う上で悪状況であった場合には,その説明とともに協力してほしい内容を人間に提示する.これにより,どうすれば認識が良い方向に向かうのかを簡単に知ることができるため,小さな負担で認識が改善されるとともに,人間にとって分かりやすい道具となることが期待される.協調的認識を行うための状況評価,提示インタフェースの設計・構築,及び実験を行い,認識困難な状況の検出が行えること,また人間の協力により認識が改善されることを確かめた.