著者
剛史 柳原 正 那和 一成 松尾 豊
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J98-D, no.6, pp.1019-1032, 2015-06-01

近年はソーシャルメディアを通じて実世界のイベントを観測するアプローチが増加している.これらの研究では,ソーシャルメディア上のユーザをセンサとして扱うソーシャルセンサという考え方を用いている.本研究では,ソーシャルセンサを用いて位置情報付きの道路交通情報を抽出する手法を提案する.これにより既存ITSからは取得できない道路交通情報の収集を実現する.道路交通情報は,既存研究でソーシャルセンサが扱ってきた対象と比べて,詳細な位置情報を必要とするという特徴をもつ.本研究では,(1)GPS情報を利用する手法(2)形態素辞書を利用する手法(3)自動作成辞書を利用する手法(4)周辺格フレーム情報を利用する手法を組み合わせて,精度よく位置を取得する手法を提案する.ツイート収集の従来手法を適用することで適合率0.78で渋滞情報を含むツイートが収集できた.また,提案手法を適用することで適合率0.85で収集したツイートから位置情報を取得することができた.提案手法を用いてデモシステムを構築し,定常的に一定数(1日あたり約2,000件)の道路交通情報を収集できること,既存ITSでは取得できない情報が収集できることを示した.本手法は,道路交通情報に留まらず,細かい位置を特定する必要のある事例に対してのソーシャルセンサの応用可能性を広げる,重要な基礎技術である.
著者
田沼 英樹 出口 弘
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J90-D, no.9, pp.2415-2422, 2007-09-01

SOARS(Spot Oriented Agent Role Simulator)は,社会システムをマルチエージェントシステムとしてボトムアップにモデル化するために開発された新しいシミュレーション言語である.SOARSは当初,伝染病の感染シミュレーションの記述言語として開発された.社会生活を営む人々の行動を記述するためSOARSにいくつかの独自なモデル概念が導入されたが,それらがより一般的な社会シミュレーションの記述にも有用であることが分かった.SOARSは三階層のモデリングフレームワークをもつ.下位層はJava言語であり,中位層が,我々のモデリングフレームワークの核となるSOARSスクリプト言語とその開発実行環境であるモデルビルダーである.本論文ではSOARSの中核となるモデリングフレームワークにつき,その特質と設計,実装について明らかにする.そこではエージェントの役割行為を記述する宣言型のスクリプト言語と,因果的に順序関係をもつ複数のステージという概念に基づいた手続き型の実行順序制御が導入される.上位層は,プログラミングの知識のないユーザがモデルを開発するための開発実験GUI環境である.
著者
森 稔 倉掛 正治 杉村 利明 塩 昭夫 鈴木 章
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J83-D2, no.7, pp.1658-1666, 2000-07-25

映像から切り出されたテロップ文字の認識では,輪郭形状の鋸状劣化及び背景の残存ノイズが問題となる.本論文では,この問題に対処する(1)輪郭形状の劣化にロバストなWLDC特徴と(2)ノイズの影響を抑制する動的修正ユークリッド距離を用いたテロップ文字認識手法を提案する.(1)は,背景及び文字両領域の形状を記述・正規化することにより,輪郭形状の劣化に対するロバスト性を高めた特徴である.(2)は,局所領域ごとに画素の変動量を求め,画素の変動量に応じて距離値を修正することにより,ノイズの影響を動的に抑制する識別関数である.人工的に画質を劣化させた文字を用いた認識実験の結果,各提案手法は劣化文字に対して従来手法より大幅に認識率が向上することを確認した.また,実映像中のテロップ文字を用いた認識実験では,提案手法により識別率73%,第10位累積分類率90%の結果を得た.
著者
白水 菜々重 松下 光範 花村 周寛
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J97-D, no.1, pp.3-16, 2014-01-01

本研究の目的は,通い慣れた場所や見慣れた風景に対する認識を異化し,新たな気づきを促すことによって,その環境に対する認識の深化や新たな発見を促す仕掛けを確立することである.その実践として,大学生を対象にキャンパスを「楽園」に見立てたガイドマップを作成させるワークショップをデザインした.ガイドマップを作成する過程にはフィールドワークや情報の収集が含まれており,これらを通じて知識が得られるような仕掛けが施されている.本論文では,学生らのキャンパスに対する意識や理解の変化について考察するために,ワークショップの事前と事後にキャンパスに対する印象を尋ねるアンケートとキャンパスの認知地図を描画させるテストを実施した.その結果,学生らのキャンパスに対する印象は改善されたが,一方で認知地図に変化は見られなかった.
著者
丸山 裕士 山口 佳樹 児玉 祐悦
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.6, pp.594-606, 2016-06-01

本論文では,小型組み込み機器において利用される撮像システムの利便性を高めるために,撮影された動画に生じるブレを実時間で電子的に補正する演算方式の提案とその検証を行った.この提案の特徴は,撮像素子から入力される画素を滞りなくストリーム処理する演算パイプラインを設けることで,メモリアクセス回数及び必要メモリ容量を削減したことにある.また,入力から出力までの演算レイテンシを考えたとき,既存の電子式ブレ補正は一般に2フレーム以上要求するが,本論文ではこれを1フレームに抑えている.加えて,本論文では,提案手法を小規模FPGAであるXilinx社製XC6SLX45に実装し,その実性能を定量的に評価した.FPGA上の提案回路は80 MHzで動作し,画面サイズがSVGA (800×600画素)の場合,最大120 fpsでの実時間処理が可能であった.また,1フレームあたり最大17画素のブレが周期的に発生する撮影条件下で20秒間試験しても,本実装回路は1フレームあたりのブレ量を平均0.1画素未満まで抑制できることを確認した.本提案は,回路規模がコンパクトかつ演算遅延も小さいことから,様々な他の撮像モジュールの性能拡張に広く適用できると考えられる.
著者
青野 裕司 片寄 晴弘 井口 征士
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J82-D2, no.11, pp.1847-1856, 1999-11-25

本論文では,人間の演奏に反応し即興的合奏を実現するセッションシステムの開発について述べる.本システムの特徴の一つとして,従来のセッションシステムにおいて主流であったMIDI楽器の代わりに,ピアノやギターといったアコースティック楽器を利用する点がある.セッションシステムでは,和音に代表される複合音が入力できること,そして入力された音楽情報をリアルタイムに解析できることが必要である.本システムは,和音構成音のピッチや正確な発音時間といった,詳細な音楽情報は解析の対象としないという制約のもと,楽器音がハーモニックであることを利用した信号処理によって,実時間での和音名の認識を行う.この手法を用いた,3度重ね四和音に対する認識率は,95%を超えることを実験によって確認した.加えて,楽曲の最小反復単位を自動的に抽出する機能をもたせることにより,事前に楽譜を必要としないセッションシステムを実現した.
著者
岩村 惠市 稲村 勝樹 古賀 克磨 金田 北洋
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.5, pp.489-500, 2016-05-01

You TubeやCLIPのような消費者生成メディアに適した著作権保護技術を提案する.提案方式はコンテンツの編集を許さない従来の著作権保護技術と異なり,コンテンツ編集を前提として,それに必要な著作権保護技術である権利継承と編集制御を電子署名によって実現する.権利継承とは一次著作者と二次著作者の関係を明示する技術であり,編集制御は著作者が自ら制作したコンテンツに関する編集可否を事前に制御するための技術である.また,提案方式の種々の攻撃に対する安全性を評価する.
著者
白井 匡人 三浦 孝夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.4, pp.392-402, 2016-04-01

本研究では文書ストリームを対象としたマルチラベル分類手法を提案する.特徴の変化が起こる文書ストリームでは新たな文書が逐次発生し文書集合が動的に変化することから,あらかじめ決まった定常な確率分布によって分類を行うことは困難である.このため,ラベルに対応する文書集合の特徴を動的に学習して分類を行う必要があり,マルチラベルでの特徴の変化も考慮することが求められる.提案手法では,ラベルの定常的な特徴とストリーム中に発生する局所的な変動を考慮したトピックモデルを用いる.各文書集合の特徴を学習し,ラベル間の共起関係をラベリングに利用することで文書ストリームのマルチラベル分類を行う.
著者
鴨志田 亮太 坂本 一憲
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.4, pp.428-438, 2016-04-01

収集・蓄積可能なデータ量の増大に伴い,ビッグデータを分析するデータサイエンティストという職種に注目が集まっている一方で,その人材不足が指摘されている.近年,オープンソースの機械学習ツールが充実してきたことで,機械学習を利用したデータ分析が容易となり,需要増という背景から,未習熟者がデータ分析に従事するケースが増えている.しかし,経験・知識が不足している分析者が分析を行った場合,分析手順の誤りなどにより適切な分析を行うことができないことがある.本論文では,未習熟者のデータ分析を支援することを目的として,自動化による分析支援,及び分析レポート作成による知識習得支援を行う機械学習支援ツールMALSSを提案する.MALSSの有効性を確認するため,模擬データ分析実験,及び知識確認テストを実施した.その結果,MALSSを利用することで,既存の機械学習ツールを利用した場合よりも質の高いデータ分析を行いながら,機械学習によるデータ分析に必要な知識を習得することが可能であることを確認した.
著者
志賀 優毅 内海 ゆづ子 岩村 雅一 カイ クンツェ 黄瀬 浩一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J97-D, no.12, pp.1733-1736, 2014-12-01

読書活動を把握することは,人の知識の質と量の把握につながるため,重要であると考えられている.とりわけ,多くの人の読書活動を長期間に渡って詳細に把握することができれば,これまでにない知見が得られる可能性がある.しかし,読書活動を記録する現在利用可能な方法は手動記録に限られ,現実的に掛けられる手間を考えると,詳細な読書活動の記録には適していない.そこで本論文では,読書活動を自動的に記録,分析するために,ユーザが読んでいる文書を推定する問題を考え,その意義と課題を議論する.
著者
酒井 紗希 関 洋平
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J97-D, no.1, pp.173-176, 2014-01-01

読者どうしの交流の促進を目的として,「レビューを読者が抱いた感性で集約する」という特徴をもつソーシャル付箋を提案する.また,従来の掲示板型インタフェースとの比較実験を行い,本提案により,読者がコメントを通じて盛んに交流することを明らかにした.
著者
光本 浩士 濱崎 敏幸 大多和 寛 田村 進一 柳田 益造
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J84-D2, no.5, pp.851-853, 2001-05-01

本論文は,話者の意図によって賞賛にも皮肉にもなり得る文の発話について,最終モーラである終助詞「ね」の韻律を用いて,賞賛発話か皮肉発話かの識別を試みている.3文,10人の138発話に対して,約76%の識別率が得られている.
著者
渡辺 桂子 長嶋 祐二
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.1, pp.76-89, 2016-01-01

本論文では,医療用手話単語のデータベースの構築について述べる.手話通訳が必要とされる場面の一つに医療現場がある.医療用の手話単語は既に検討されているが,同じ意味の単語であっても書籍によって表現が異なっている,一般的に普及していない手話表現が多数存在している,手話単語の造語に統一性がないなどの問題点があり,手話表現が一般的に普及していない.著者らは,既存の手話単語の問題点を分析し,よりわかりやすい医療用手話表現を検討した.手話表現のわかりやすさを考慮し,動作の一貫性や表現の統一に注意して手話表現の検討を重ねた結果,1324単語の造語及び既存動作からの作成を行った.作成された手話表現は,全て3次元動作の収録を行い,アニメーション再生できるようになっている.3次元データで保存されているため,未登録単語があった場合,アニメーションの形態素合成で補えるようになっている.また,既存の手話表現とデータベースの手話表現の差異を形態素数を用いて検証した.その結果,手話表現の一致度は少なかった.これは,医療用の手話単語は既存の単語だけなく,部位や形状を用いて,わかりやすくしたためである.
著者
樋渡 勇太朗 松永 和輝 豊田 希 藪田 哲郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J96-D, no.4, pp.1085-1088, 2013-04-01

目隠しラバーハンド錯覚において,被験者の右手人差し指のタッチと左手へのタッチによる触刺激を同期して与えた方が,非同期で与えるよりも錯覚を誘発すると報告されているが,この刺激のずれは定量的に計測されてはいない.本論文では,ハプティックデバイスを用いて実験を行い,刺激の時間遅れを変化させ錯覚の感度を比較し,ずれによる影響を計測することができたので報告する.
著者
高野 裕士 鈴木 健嗣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.1, pp.67-75, 2016-01-01

本研究では,他者と表情を共有するための新しい装着型インタフェースを開発し,表情によるコミュニケーションが困難な方々への支援機器の実現を目指す.開発したインタフェースは顔面上を伝播する表面筋電位から得られる生体信号のパターンに基づき表情を識別し,LEDや振動デバイスを通じて実時間で表情識別結果を提示することで,自身や他者の表情を知覚することを支援し,共有することを可能にする.ここでは,表情の中でも特にコミュニケーションに重要だと考えられる笑顔に着目し,笑顔の識別及び共有が可能であるかを明らかにする.また,取得する表面筋電位は乾式電極により前頭部及び側頭部上の領域から複数チャネルを通じて計測する手法を提案する.これを頭部装着型インタフェースとして実装することで,使用者の自由な動作が可能な空間的制約の小さい計測を実現する.開発したインタフェースの性能を検証するため,複数の評価実験を行い,提案した表情識別手法が頭部の動きや発話,頭部姿勢に対して頑健であることを明らかにした.更に実証実験を行い,振動提示による表情の共有が視覚障害者の支援に有効であるという結果が示唆された.
著者
和泉 潔 池田 竜一 山本 仁志 諏訪 博彦 岡田 勇 磯崎 直樹 服部 進
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J96-D, no.12, pp.2877-2887, 2013-12-01

本研究では,構成論的なアプローチに基づくエージェントベースの社会シミュレーション研究の新たな方法論,可能世界ブラウザを提唱した.更に,実際の購買データに基づいたシミュレーションによる購買ターゲットの特定を題材にして,可能世界ブラウザを応用した結果を紹介した.顧客の購買行動をエージェントベースモデルに組み込んだシミュレーションモデルを作成した.そしてユーザが目的となるようなケースを作り出す.特定ケースでのエージェントの購買行動パターンの特徴を分析することで,目的の達成に大きく関係している購買行動パターンを特定し,更にその成分の組合せから具体的な消費者像の推定を行うことで顧客ターゲティングにつなげることができた.
著者
小島 清信 徳田 英幸
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J96-D, no.3, pp.371-380, 2013-03-01

ソーシャルフィルタリングといわれる人的ネットワークを介した選択的な情報伝達作用に着目した.Twitterは相手の同意なくリンクをつなぎ換えできるため,ユーザの興味変化がソーシャルグラフとしてAPIを通じて動的に取得可能である.実ユーザの行動を週単位から年単位まで追跡調査することで,リンク数が32 (101.5)以上のユーザにおいて積極的なつなぎ換えを観察した.アンケートを加えてつなぎ換えの分析を行い,中位次数へのリンクを活性化させる分散的選択と探索的選択の特性を導き出した.モバイル環境の普及により人を介する伝達の機会は更に増加すると考えられ,ソーシャルフィルタリングを活用するための知見が応用できる領域は大きい.
著者
清木 康 金子 昌史 北川 高嗣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.J79-D2, no.4, pp.509-519, 1996-04-25

画像データを対象としたデータベースシステムにおいては,検索者の印象や画像の内容による検索を実現する方法が重要である.我々は,文脈あるいは状況に応じて動的に変化するデータ間の意味的な関係を計算するモデルである意味の数学モデルを提案している.本論文では,意味の数学モデルを用いた意味的画像探索方式を提案し,また,その学習機構を示す.本方式では,メタデータ空間と呼ぶ正規直交空間を形成し,その空間上に画像データ群,および,検索に用いるキーワード群を配置する.そして,その空間上での距離計算により,検索者の印象,および,画像の内容の指定に応じた画像探索を実現する.検索対象の各画像は,画像の特徴(印象あるいは内容)を表す言葉(単語群)によって表現されることを前提とする.本方式は,検索者が発行する検索語,および,画像データの特徴を表現する単語間の相関関係の分析により,画像を検索する方式として位置づけられる.本方式では,検索者が指定する印象あるいは画像の内容を文脈として言葉により与えると,その文脈に対応する画像をメタデータ空間より動的に抽出する.本学習機構では,その文脈から得られた画像が,本来,抽出されるべき画像と異なる場合,抽出されるべき画像を指定することにより,文脈を構成している言葉についての学習を行う.本学習機構を適用することにより,画像の印象表現における個人差に対応することが可能となる.
著者
和泉 紘介 河村 圭 内藤 整
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J98-D, no.9, pp.1256-1264, 2015-09-01

映像サービス提供事業者にとって映像の品質を保証することは重要である.しかしながら,人手での映像の品質検査は高コストであるため,自動で品質検査することが望ましい.高解像度映像では,参照画像を用いた画素レベルでの検査処理は多大な計算コストを要するため,符号化映像データにおける符号化パラメータのみを利用して主観画質を推定するParametric NR(No Reference)客観画質評価技術が求められる.また,圧縮技術としてH. 265/HEVC (以下HEVCと呼ぶ)の普及が見込まれるため,高解像度向け客観画質評価技術にはHEVC圧縮による画質劣化を考慮することが不可欠である.しかし,HEVCは規格化完了から時間が経っておらず,HEVC対応の客観評価技術は十分に確立されていない.HEVCは多様なブロックサイズを選択できるため,大きなブロック周囲のノイズが知覚されやすくなった.従来方式ではこれらを考慮しないが,提案手法ではブロックサイズをテクスチャの複雑度指標として知覚されやすさを考慮する.また,HEVCのマージモードはあるフレームでのフリッキングとして知覚される領域が空間的に広がる.本論文では,HEVCの特徴を利用したParametric NR型客観評価方式を提案する.実験結果より,提案方式による客観評価値と主観評価との相関係数は0.945,RMSEは8.599の性能を有することを確認した.これは,AVCを対象とした従来の客観評価方式と同レベルである.
著者
福田 隆 立花 隆輝 ウィレット ダニエル チャン プミン
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J98-D, no.8, pp.1162-1170, 2015-08-01

音声の多様性を高精度にモデル化する方法は,音声認識の分野で長らく重要課題の一つに位置づけられてきた.近年では,大規模コーパスの整備に伴い,音響的に類似したサブセットを用いて個々にユニークな特性をもつ音響モデル集合を作成し,システム統合を介して更なる高精度化を図る手法が増えている.本論文では,信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)や話速といった音声に内在する隠れ属性を利用して大規模データを分割し,システム統合法やモデル選択法のための効果的な音響モデル集合を構築する方法を提案する.提案法では,各発話を事後確率に基づく単一ベクトルで表現した後,コサイン類似度に由来する目的関数を用いて音声データクラスタの独立性を評価する.その後,生成されたデータクラスタごとに音響モデルを構築し,n-best ROVER(Recognizer Output Voting Error Reduction)によるシステム統合を行う.提案手法は音声検索タスクに特化した大語彙連続音声認識で,単一モデルの音声認識システムと比較して相対的に4%の性能改善を達成した.