著者
多々良 成紀 杉山 広 熊沢 秀雄 斑目 広郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.45-47, 2010-03
参考文献数
15

高知県の動物園で飼育されていたミーアキャット(Suricata suricatta)の1例について,左肺の虫嚢から2隻の吸虫が認められ,その虫体と卵の形態学的特徴およびDNA分析から宮崎肺吸虫(Paragonimus miyazakii)と同定された。ミーアキャットの飼育区画に侵入した野生サワガニ(Geothelphusa dehaani)を摂食し感染したと考えられた。本例は,輸入動物であるミーアキャットが動物園飼育下で宮崎肺吸虫に自然感染した初めての報告である。
著者
浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.35-44, 1997-02

生物地理学的な調査研究の一環として, 日本列島産ハタネズミ亜科およびネズミ亜科(齧歯目:ネズミ科)の寄生線虫相をまとめた。これまでに, ヤチネズミ属Clethrionomys, ビロードネズミ属Eothenomys, ハタネズミ属Microtusおよびアカネズミ属Apodemusから記録されている寄生線虫類は16科24属36種であった。これらの内, 円虫目ヘリグモソームム科Heligmosomoides属について, 線虫類の種分化や地理的分布, 宿主である齧歯類の化石の記録, 日本列島の地史などを考慮にいれ, その生物地理学的解析を試みた。
著者
水尾 愛 大島 由子 今西 亮 北田 祐二 笠原 道子 橋崎 文隆 和田 晴太郎 松永 雅之 高井 進 大沼 学 翁長 武紀 萩原 克郎 真田 良典 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.77-80, 2009-03
参考文献数
16
被引用文献数
1

生体内の酸化ストレスを評価する一般的な生体指標である尿中8-hydroxyguanosine(以下,8-OHdG)量を国内飼育下の9頭のニシローランドゴリラにおいて定量した。検査対象個体に原虫感染が認められたが,臨床症状は観察されなかった。全個体の8-OHdG値(ng/mg creafinine)の範囲は4.3〜193.1,各個体の中央値の幅は6.8〜52.4であった。原虫陽性と陰性個体との8-OHdG値の比較を行い,有意差は認められなかった(>0.05)。
著者
坪田 敏男 瀧紫 珠子 須藤 明子 村瀬 哲磨 野田 亜矢子 柵木 利昭 源 宣之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.69-74, 2002-03

人間の営みによって作り出された化学物質が,長期間分解されることなく環境に蓄積し,内分泌攪乱化学作用によって人や野生動物の生殖に異常をもたらすことが解明されつつある。内分泌攪乱化学物質には,DDTなどの農薬,PCB類などの工業化学物質,ダイオキシンなどの非意図的生成物,合成女性ホルモンとして使われたDESなどの医薬品などが含まれる。これまでに,アメリカ合衆国のアポプカ湖でのワニの個体数減少,ミンクやカワウソの繁殖率の低下,猛禽類の卵殻の薄化や孵化率の低下,イルカやアザラシの大量死,イボニシでのインポセックス,コイの雌雄同体化,ホッキョクグマの生殖能力の低下や間性といったさまざまな生殖異常が内分泌攪乱作用によって引き起こされている。日本においては平成10年度より内分泌攪乱化学物質およびダイオキシン類による野生生物への影響実態調査が開始され,さまざまな野生動物,とくに海獣類や猛禽類における内分泌攪乱化学物質の蓄積が認められた。今後さらに影響実態を究明し,内分泌攪乱化学物質問題を解決していく必要がある。
著者
ルンカ グリシュダ シリアロンラット ボリパット カンワンポン ダオルン 増田 隆一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.39-43, 1999-03

約30年前, タイ農業組合省林産公団は子ゾウ訓練学校(YETS)を創立した。創立目的は, 森林伐採に使用する若い使役ゾウの訓練と子ゾウを保育することであった。最近, この訓練学校は拡張され, 名前もタイ国立ゾウ保護センターと改称された。このセンターの名称と役割は, タイにおけるゾウの保全のために再度検討されたのである。現在のゾウ保護センターの活動は, 保全対策, ゾウ使いとゾウの訓練, 治療活動, およびツーリズムを管理していくことである。その他, 移動式のゾウ病院, 学校生徒の見学会, ゾウに関する展示館など市民に向けた活動も行っている。さらに, 繁殖計画および家畜ゾウの野生復帰計画も最近の研究目的となっている。センターの年間経費は1, 300万タイバーツであり, そのうち約700万タイバーツが林産公団から支給されている。残りの経費は, NGO, 寄付, またはツーリズムによる収入によって支えられている。
著者
シリアロンラット ボリパット アンカワニシュ タウィポケ カンワンポン ダオルン 増田 隆一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.65-71, 1999-03

タイ北部のメーホンソン県ナムトクメースリン国立公園周辺に生息する野生ゾウについて, 予備的情報を収集した。この国立公園内および周辺における数多くの村落は, アジアゾウ(Elephas maximus)の生活に影響を及ぼしている可能性がある。そこで, 野生ゾウの痕跡に関する野外調査を行うと共に, カレン族の人々から聞き取り調査を行った。その結果, 2頭のメス成獣の足跡を認めた。前脚足跡は円周を測定した結果, これらの2頭のゾウの肩高さは各々2.9mおよび2.3mと推定された。ゾウの糞およびゾウによって木の幹につけられた泥が発見された。また, 体毛も採取されたが, これは将来の野生集団の遺伝分析のために用いることができるであろう。さらに, 少数民族の人々と自然との関係について紹介した。
著者
伊藤 英之 遠藤 千尋 山地 明子 阿部 素子 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.79-84, 2005-09

タカ目の多くの種は他の多くの鳥類と同様に外部形態から性判別をすることが困難である。この問題は, タカ目に関する生態学の研究を妨げ, 保存のための計画を作製することを困難にする。そのため, タカ目における性判別方法の開発が望まれていた。我々は, CHD1WとCHD1Zの遺伝子間のイントロンの長さの違いを利用する方法を用いて, 日本に生息する8種類のタカ目において, 性判別を試みた。今回用いた方法は, これまでに開発された他の性判別方法よりも容易で迅速に行うことができる。また, 今回調査したすべての種において性判別が可能であった。さらに, わずかなサンプルから抽出したDNAからでも性判別が可能であり, この方法が野生個体/集団の研究に適用することが可能であることが示唆された。結論として, この研究において用いた方法は, タカ目の性判別に非常に有用であり, 希少なタカ目の将来の保全に大きな価値があると考えられた。
著者
片山 敦司 坪田 敏男 山田 文雄 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.26-32, 1996-02
参考文献数
24
被引用文献数
8

1991年3月から1993年8月までの間に, 岐阜県および京都府で捕殺された雌ニホンツキノワグマ(Selenarctos thibetanus japonicus)19頭の生殖器の肉眼的および組織学的観察により, 性成熟年齢, 排卵数, 着床数, 一腹産子数および繁殖歴などを推定した。卵巣の重量および大きさは加齢に伴って増加の傾向を示した。その傾向は未成熟個体で顕著であり, 性成熟個体で緩やかであった。黄体および黄体退縮物の存在を性成熟の基準とした場合, 4歳以上の全ての個体は性成熟に達していると判定された。しかし, 4歳未満でも性成熟に達する例も存在することが示唆され, 性成熟に達する年齢には個体差があることがうかがわれた。黄体, 黄体退縮物および胎盤痕の観察と連れ子の数から平均排卵数は1.89, 平均着床数は2.00, および平均連れ子頭数は, 1.86と算定された。さらに, 黄体退縮物の組織学的観察により, 捕殺時点における過去の総排卵数の推定を試みた。その結果, 黄体および黄体退縮物の数と交尾期経過回数には正の相関が認められた。しかし, 黄体およびその退縮物の数にはばらつきがあり, 交尾期経過回数との間に大きな差が認められる例もあった。
著者
石本 明宏 山中 美佳 荒木 由季子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.87-95, 2007-09
参考文献数
18

2004年2月3日〜4月18日までに搬入された野鳥30種254羽の傷病の種類および死亡または瀕死の原因を病理学的に検索した。傷病の種類は,外部損傷が138例(54.3%),非外傷性の内臓の出血35例(13.8%),病原体の感染26例(10.2%),栄養障害24例(9.4%)およびリンパ組織の障害1例(0.4%)が認められ,30例(11.8%)には著変がなく,46例(18.1%)は材料の劣化により検査不能であった。死亡または瀕死の原因が特定されたものは,143例(56.3%)であり,内訳は,外部損傷による死亡135例(53.1%),感染症5例(2.0%)および栄養障害3例(1.2%)であった。病原体の感染26例の病原体の内訳は,寄生虫13例(50.0%),細菌9例(34.6%),細菌と寄生虫の混合3例(11.5%)および真菌1例(3.8%)であった。感染症により死亡したとみられたものは5例であり,結核様肉芽腫の形成,線虫の多数寄生を伴う筋胃潰瘍,壊死性腸炎,頭蓋骨Airspaceの化膿性炎およびアスペルギルス様真菌による深在性真菌症などがみられた。ウイルス分離を試みた184検体から鳥インフルエンザウイルスおよびニューカッスル病ウイルスは分離されなかった。今回の調査から,傷病野鳥の多くは,人と野鳥の生息環境の接触により発生していること,また,高率に各種病原体を保有していることが示唆された。今後,さらなる検討のためには,日頃からのモニタリング検査が重要である。
著者
柳井 徳磨 後藤 俊二 杢野 弥生 平田 暁大 酒井 洋樹 柵木 利昭 吉川 泰弘
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.41-48, 2003-03

サル類,特にマカク属において結核症は依然として重要な感染症である。アカゲザルに発生した牛型結核症および非定型抗酸菌症(鳥型結核菌症)の病理学的特徴について示す。アカゲザルの群れに牛型結核菌症が集団発生した。13例が急性の経過で瀕死に陥り,剖検では,肺,脾臓,肝臓,リンパ節および胸壁に著明な黄白色結節が認められた。組織学的には,いずれも肺および付属リンパ節,肝臓および脾臓に中心部が高度な乾酪壊死を示す結節状病変がみられた。結節状病変では,中心部は高度に乾酪壊死し、これを取り囲んで類上皮細胞,稀にランゲルハンス型巨細胞,さらにリンパ球の浸潤が認められた。抗酸菌染色では,乾酪壊死巣内には,少数の陽性桿菌が認められた。一方,非定型抗酸菌は,SIVに感染し免疫抑制状態にあるアカゲザルの腸管の粘膜と腸間膜リンパ節に肉芽腫性病変を引き起こした。多数の抗酸菌を容れた泡沫様大食細胞が肥厚した腸管粘膜および腸間膜リンパ節に認められた。マカク属は結核菌と非定型抗酸菌の双方に高い感受性を示すことから,集団発生の可能性に留意する必要がある。
著者
白水 博 野村 靖夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.45-51, 1997-02

バンドウイルカ(Tursiops truncatus)の2例に接合菌症(Zygomycosis)が発生した。2例とも主症状は, 元気消失, 食欲低下, 湿性雑音を伴う努力呼吸であった。臨床病理学的検査では, 好中球の増加とγ-グロブリン値の上昇がみられた。症例1には, 喉頭を狭窄する鶏卵大腫瘤と気管気管支リンパ節の腫大, 症例2には, 肺と気管に散在する黄白色病巣と気管気管支リンパ節の腫大が認められた。これらの病変部には, 隔壁が乏しく, 直角に分岐する傾向を示し, 太さが一定でない真菌が無数に存在することから, 接合菌症(zygomycosis)と診断された。
著者
福士 秀人
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.11-17, 2003-03
被引用文献数
1

ヘラジカおよび鳥類を感染源とするクラミジア症の集団発生が2001年に2件報告された。これまでのオウム病の報告例は家族内発生および孤発例を含め,個人の飼育鳥ないし野鳥が原因であり,動物の飼育施設における罹患報告はほとんどなかった。動物園などで感染したオウム病の例は国内では,姫路のサファリパークを感染源とする患者が一名,1996年に報告されている。2001年の11月から12月にかけて鳥類展示施設を感染源とするオウム病の集団発生があった。来園者12名,従業員5名が発病した。この事例は動物飼育施設での感染としては国内2例目,集団発生として1例目である。動物園のヘラジカの出産に関連して出産に立ち会った5名に不明熱が発生した。当初はブルセラはじめ種々の病原体が疑われたが,抗体検索からクラミジア抗体の上昇が見いだされ,最終的にヘラジカからクラミジアが分離された。分離されたクラミジアは鳥類のクラミジアとほぼ同一であった。これはほ乳類から人に鳥類クラミジアが伝播し発生した事例であると考えられた。
著者
横山 祐子 稲葉 智之 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.83-93, 2003-09
被引用文献数
1

サル類の公衆衛生学的研究の一環として,東京都内動物商およびペットショップで死亡したサル類5科15属22種96個体について,寄生蠕虫類の調査を実施した。検査動物の属としてはLemur, Galago, Nycticebus, Perodicticus, Aotus, Saimri, Cebus, Cebuella, Callithrix, Saguinus, Leontidius, Macaca, Cercopithecus, Erythrocebus, および Miopithecusであった。その結果,45個体に何らかの寄生蠕虫類を認めた。特に,調べたリスザル12個体とタラポアン14個体すべてに蠕虫類が認められたが,いずれも愛玩動物として人気が高いので警戒が必要とされた。今回の調査では線虫13属,吸虫1属,鉤頭虫2属,すなわちPhysaloptera, Rictularia, Dipetalonema, Gongylonema, Streptopharagus, Enterobius, Lemuricola, Crenosomatidae gen., Primasubulura, Globocephalus, Strongyloides, Molineus, Trichuris, Dicrocoeliidae gen., Prosthenorchis, Nephridiacanthusが検出された。このほか舌虫類の若虫(おそらくProcephalus sp.およびArmillifer sp.)が見つかったが,条虫類は見つからなかった。ほとんどの蠕虫類が日本で初めての報告となった。
著者
遠藤 秀紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-25, 2009-03
被引用文献数
2

動物園が研究の責任を果たし続けなくてはならいないことを再確認する。動物園は,日本独自の教育と学問の歴史のなかで,学術研究から一定の距離を取らされてきた。戦前は富国強兵政策,戦後は経済発展主導の陰に押しやられ,純粋基礎科学の研究の場としての位置づけを確立できないまま推移した。戦後についていえば,敗戦を契機に自由で民主的な社会教育が法整備されてきたにもかかわらず,動物園・博物館は,冷戦を要因に理念的発展の途が閉ざされてしまった。結果的に,動物園と社会教育は往々にして土木行政や利益誘導の場にとどまり,科学的研究を進めることのできない組織となった。そしてまた大学を中心とした学術も,動物学の偏向や純粋基礎科学の貧困を黙認し,動物園を大学とは関係のない組織ととらえ,社会教育に無関心であり続けた。そしていまの行革時代に,動物園は真の研究も教育も二の次に,サービスと遊興を尺度にした乱暴な合理化の対象となっている。公務員と公教育を軽視することでリーダーシップを演出する政治によって,社会教育と動物園は理念から隔離され,営業行為・サービス業の末端部分として破壊されつつあるといえよう。他方,短期的経営追い込まれた大学・アカデミズムは,無関心から掌を返したように動物園と社会教育に表面上接近し,それを業績増殖のための都合のよい植民地として弄ぶようになっている。いま私たちには,こうした愚昧と不幸の歴史を断ち,動物園を学問と教育の中心地として繁栄させていく責任がある。
著者
森本 委利 宮下 実
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.67-71, 1997-02

1994年10月, 当園で検疫中の若齢アルダブラゾウガメ(雌)1頭が死亡した。病理学的ならびに細菌学的検査の結果, 当該動物の死因は, Aspergillus fumigatus感染を伴った非定型抗酸菌Mycobacterium nonchromogenicum complex(M.terrae complex)感染によることが判明した。感染はまず抗酸菌に始まり, それによる衰弱後, アスペルギルス感染に至ったと病変から推察された。しかし抗酸菌の感染時期は推定できなかった。本症例は, アルダブラゾウガメにおけるM.nonchromogenicum complex(M.terrae complex)感染の最初の報告である。
著者
稲葉 智之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.37-42, 1998-03

東京都恩賜上野動物園で飼育され, 現在骨格標本が保管されているジャイアントパンダ2例に軸椎と第三頸椎の癒合をみつけた。"康康"にみられた頸椎の癒合は, 軸椎と第三頸椎の棘突起から関節突起にかけて, 2つの頸椎骨を区別することができないほど一体化し, 関節突起も消失していた。発生原因としては, 椎骨の形成過程における分離不全が疑われた。一方, "欄欄"にみられた頸椎の癒合では, 椎体部分は一部関節境界面の癒合痕が残った状態がみられ, "康康"の頸椎のような一体化はしていなかった。また, 軸椎の後関節突起と第三頸椎の前関節突起間には炎症性の癒合がみられ, 椎骨が分離形成された後の癒合も原因の1つと考えられた。
著者
木下 こづえ 稲田 早香 荒蒔 祐輔 関 和也 芦田 雅尚 浜 夏樹 大峡 芽 楠 比呂志
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.59-66, 2009-03

飼育下の雌ユキヒョウ(Uncia uncia)と雌チーター(Acinonyx jubatus)における性行動と発情ホルモンの関係を調べる目的で,週に2〜7回の頻度で,同一日に行動観察と採糞を行った。糞中エストロゲン(E)濃度はエンザイムイムノアッセイによって測定し,ユキヒョウでは25項目の行動の回数を,チーターではRollingについてのみ回数を記録した。その結果,ユキヒョウでは,糞中E濃度との間に有意な正の相関関係が見られた行動は,Locomotion(r_s=0.4305, P<0.01),Flehmen(r_s=0.3905, P<0.01),Sniffing(r_s=0.3588, P<0.01),Rubbing(r_s=0.2988, P<0.01),Lordosis(r_s=0.2621, P<0.01),Pace(r_s=0.2335, P<0.01),Rolling(r_s=0.2285, P<0.01),Prusten(r_s=0.2216, P<0.01),Spraying(r_s=0.1876, P<0.01),Pursuing(r_s=0.1793, P<0.01),Attacking(r_s=0.1732, P<0.05)およびApproaching(rs=0.1423,P<0.05)の12項目であった。また糞中E値とこれらの行動の頻度は,共に季節的に変動し初冬から晩春にかけて高値を示した。チーターでも,糞中Eのピーク日やその直前にRollingが頻発し,両者の間には有意な正の相関関係が認められた(r_s=0.2714, P<0.05)。以上の結果から,飼育下の雌ユキヒョウと雌チーターにおいて,発情ホルモン動態と関連したこれらの行動を観察することで,適切な交尾のタイミングを予測できる可能性が示唆された。
著者
遠藤 秀紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-22, 2002-03
被引用文献数
2

野生動物の遺体が,それ自体で意味ある研究対象として扱われることは,今日,非常に少ない。分子遺伝学と生態学で単純な採取材料として用いられることはあっても,解剖学が衰退する中,遺体そのものは,ほとんど研究されていない。そこで私は,解剖学の古典的問題意識を学界と社会の現実の情勢に合わせることで,新たに遺体研究の活性化を図りつつある。ここでは新たな遺体研究の体系を「遺体科学」と名付けよう。遺体科学の本質は,遺体の無制限収集に始まる。遺体科学においては,遺体から科学的にできる限り興味深い研究成果を残すという観点から,研究者のセンスが問われ続けている。そして遺体の標本化と収蔵,すなわち継承性を満たすことで,遺体科学は完成に近づく。遺体を廃棄物にすることを防ぎ,これを不滅の学術資産に昇華するために,遺体科学の推進を提唱する。