著者
筒井 孝子
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.694-700, 2016-09-18 (Released:2016-10-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1

諸外国では,ICFを用いて,多くの社会実験や臨床適応のための研究がなされており,国際的なスタンダードとなるための過程を経つつあると言われている.しかし,このICFを用いた評価は,総コード数が膨大であることや,分類する際の評価の基準が曖昧であるという,きわめて大きな問題があることも指摘されてきた.そこで日本の政策あるいは臨床でICFを活用するためには,どのような方策が必要となるかを考察し,筆者が開発した日本語版ICFコアセットマニュアルの活用可能性とその課題を述べることを目的とした.また本稿では,多様な人々の中から特定の問題を共有する状態像をもった集団を焦点化し,これらの人々の問題解決を図ることを目的として開発されてきたツール「ICFコアセット」に着目し,2013年に日本版ICFコアセットを開発すると共に試行評価を実施した経過を述べた.研究結果からは,ICF利用における検者間信頼性は低く,現時点の状況からは日本国内での実用化を進めるのは困難であることが明らかとなった.今後,わが国で臨床実践のレベルで個別事例の評価ツールとして活用するには,ICFの正確な理解を深めるための研修が必須であると考えられる.またICFによる分類は人の機能や健康や障害の状態や,その社会的自立の状況を分類しつくすという革新的アプローチといえるが,まずはこの分類を利用した具体的なシステムが,開発されることが期待される.
著者
加賀谷 斉
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.677-685, 2008-10-18 (Released:2008-10-24)
参考文献数
75
被引用文献数
3 1

Femoral neck and intertrochanteric fractures are common in the elderly. These types of fractures affect about 90,000 people each year in Japan. At present, most such fractures are operated on. Immediate unrestricted weight-bearing after surgery is usually allowed. Conservative treatment may be considered if a patient can bear long-term bed rest and accept the risk of having a less functional outcome. Isometric quadriceps muscles and ankle range of motion exercises are important therapies to use before surgery. The appropriate intensity for rehabilitation is still controversial. The majority of the functional recoveries occur within the first 6 months, but further outpatient rehabilitation is still effective in patients without severe physical or cognitive impairments. About half of all patients recover their prefracture activities of daily living. Patients who are older or who are disoriented after surgery recovered least in terms of instrumental activities of daily living. In this group, even patients with uneventful healing courses did not regain their prefracture health-related quality of life level. Deep vein thrombosis, pulmonary infarction, palsy of the common peroneal nerve, fall, avascular necrosis of the femoral head, screw dislodging and removal, dislocation and infection are all possible risks factors after femoral neck and intertrochanteric fractures.

2 0 0 0 OA 筋力の測定

著者
片山 訓博 山﨑 裕司
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.761-763, 2017-10-18 (Released:2017-12-04)
参考文献数
10
被引用文献数
4 4

固定用ベルトを併用したhand-held dynamometerは,比較的安価で,簡便性・汎用性・信頼性に優れ,多くの臨床データが蓄積されている.院内連続歩行,階段昇降,椅子からの立ち上がりに必要な膝伸展筋力体重比の自立閾値は,それぞれ0.4 kgf/kg,0.5 kgf/kg,0.35 kgf/kgである.下限閾値は,それぞれ0.25 kgf/kg,0.25 kgf/kg,0.2 kgf/kgである.また,本邦高齢者の膝伸展筋力体重比は,移動動作の自立閾値に近似しており,予備力が乏しい状態にある.
著者
齋藤 洋一
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.33-37, 2019-01-18 (Released:2019-03-04)
参考文献数
16

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)による慢性疼痛治療は,投薬治療が十分に効果を示さない,または副作用が強く出ている患者にとって,また脊髄刺激のような侵襲性のある治療に抵抗のある患者にとって,安全な治療法である.現状の世界的データでは高頻度rTMSによる一次運動野刺激が有効とされており,上肢の神経障害性疼痛が最もよい適応と考えられる.臨床上有用な除痛効果をもたらすには,継続的なrTMS治療が必要であり,在宅でのrTMS治療を実現させることが,患者にとって重要である.
著者
井上 誠
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.672-675, 2017-09-15 (Released:2017-11-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

リハビリテーションの分野において,電気刺激療法は鎮痛や筋力強化などの目的で古くから使用されてきた.筋力強化をめざした電気刺激療法は,脳血管疾患患者の摂食嚥下障害に対する理学療法として浸透してきたが,その効果に関するエビデンスはいまだ十分に得られていない.一方,筋力強化とは別に,感覚神経への刺激を通して,中枢神経系に働きかけることによって嚥下運動にかかわる中枢神経系の改善をめざした治療法もある.本稿では,電気刺激療法の種類や原理を紹介したうえで,中枢強化を目的とする電気刺激療法にも触れ,摂食嚥下障害への応用について,今後の展望と課題を解説する.
著者
長本 行隆
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.746-749, 2016-10-18 (Released:2016-11-17)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

頚椎は,脊椎の中で最大の可動域を有し,環軸椎という軸椎下の椎骨と大きく形態を異にする椎骨の存在のために,そのバイオメカニクスは脊椎の中でも独特である.近年の3次元動作解析により,生体内での頚椎前後屈,回旋,側屈のすべての基本運動の詳細な挙動が明らかにされ,中でも回旋や側屈における椎間レベルの可動域や,カップルドモーションと呼ばれる3次元的な運動パターンの解明が,飛躍的に進んだ.頚椎疾患の治療に携わる医療従事者にとって,頚椎のバイオメカニクスを理解しておくことは重要である.そこで本稿では,バイオメカニクスの中でもリハビリテーションにおいて,特に重要と思われる頚椎の機能解剖やキネマティクスを中心に取り上げ解説する.
著者
安東 範明
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.101-104, 2019-02-18 (Released:2019-04-03)
参考文献数
15
被引用文献数
2

小脳性運動失調を呈する代表的な神経変性疾患は脊髄小脳変性症である.理学療法は疾患の初期から開始し,歩行がいまだ自立している軽症の時期,歩行が不安定になり移動に介助を要する中等度障害の時期,転倒の危険が大きくなり全身の機能障害が進んだ重度の時期と,ステージに応じて必要な訓練を選択して行う.エングラムの形成のため反復訓練を行うが,目標とする運動行為が達成困難な場合は部分法をとる.運動失調性歩行の改善に重錘負荷は効果がある.歩行解析を手法として個々の症例に適切な重錘負荷を求め,さらに靴底の形状を工夫した靴型装具の開発の試みについて紹介する.また,標準的と考える靴型装具の形状についても紹介する.
著者
福岡 達之 道免 和久
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.105-109, 2019-02-18 (Released:2019-04-03)
参考文献数
15

小脳失調は,小脳あるいは小脳との連絡経路が障害される疾患によって生じ,発声発語,嚥下機能にも影響を及ぼす.失調性dysarthriaでは発話に関連する運動制御や協調運動の障害により,不明瞭な構音,断綴性発話,爆発性発話など特徴的な症状を呈する.小脳系の障害による嚥下障害の病態は明らかではないが,嚥下器官に生じる失調症状により咀嚼や食塊形成,送り込みの運動障害をきたすと考えられる.小脳失調を伴うdysarthriaと嚥下障害のリハビリテーション医療は,原因疾患や合併する症状によって異なり,脊髄小脳変性症のような進行性疾患では病期に応じたアプローチが重要である.
著者
白石 裕一 三上 靖夫 的場 聖明
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1143-1149, 2020-12-18 (Released:2021-03-13)
参考文献数
18

心不全患者における栄養状態は予後予測因子であり,その評価は重要である.栄養障害の要因は多岐にわたるが心機能の面からは左心機能より右心機能の関与が注目されている.栄養状態の評価は問診,採血項目,身体計測,バイオインピーダンス法などの生理機能検査などが行われているが決定的な方法は確立されていない.当院では簡便な指標としてエコーを用いた大腿直筋厚の有用性を報告してきた.また,退院前の食事摂取エネルギー量の評価をすることで必要な食事摂取ができているか評価をし,どのような要因がその阻害因子になっているかを検討して介入している.当院での取り組みを紹介しながら心不全患者における栄養について概説する
著者
春山 幸志郎 川上 途行 羽鳥 朱里 池澤 真紀 大塚 友吉 里宇 明元
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.413-424, 2019-05-17 (Released:2019-06-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2

目的:本研究の目的は,脊髄小脳変性症(SCD),多系統萎縮症(MSA)患者のリハビリテーション実施状況による患者背景を比較し,リハビリテーション医療における課題を明らかにすることである.方法:患者会会員914名のアンケート調査を解析し,リハビリテーション実施形態の分布とそれによる基本情報,リハビリテーション関連情報の群間比較を実施した.結果:対象者のうちリハビリテーション実施群は67.9%,自主練習群は17.7%,非実施群は14.3%であった.リハビリテーション実施群では,生活自立度の低下や要介護度の増加に伴い実施割合が増加した.リハビリテーション実施群と自主練習群におけるリハビリテーションによる主観的変化は差を認めなかったが,リハビリテーション実施群では継続の意思が有意に高かった(p=0.018).結論:SCD,MSA患者の自主練習を含めたリハビリテーションの実施割合は高かったが,主観的な訓練効果は明らかでなかった.病期にかかわらず専門職による定期的なリハビリテーション指導が行える環境の整備が必要と考えられる.
著者
大畑 光司
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.121-127, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
8
被引用文献数
1

歩行運動において,正常と異常を区別する閾値の設定は非常に難しい問題である.一般に正常歩行は,健常者の歩行運動を基準とし,そこからの偏位として定義づけられることが多い.しかし,健常者の歩行にも幅があり,一概に正しい歩行のあり方を決めることは難しい.理論的に正常歩行とは効率的な倒立振子運動を形成し,両脚支持期の床反力を適切に制御されている状態である.この運動の効率のよい形成のためには,limb kinematicsの調整が鍵となる.Limb kinematicsの制御が適切に行われている状態を正常歩行であるとすることで,より臨床的な正常歩行の定義が可能になるかもしれない.
著者
先﨑 章
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.270-273, 2017-04-18 (Released:2017-06-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

復職や就労の予後を予測できる単一の指標はない.外傷性脳損傷の場合,就労の予後と関連する可能性があるものとして,年齢,教育レベル,受傷前の職業レベル,重症度(昏睡期間の長さ,外傷後健忘期間,入院期間),現状の機能,うつや不安の程度,性別や人種,さまざまな神経心理学検査結果などがあるが決定的なものはない.就労支援に際しては,成功あるいは失敗に至り得る多角的な要因を念頭に置きつつ,必要に応じて多職種で連携して,個別性のある柔軟な介入,長期的な切れ目のない支援が必要である.加えて,小児期発症の高次脳機能障害者に対しては,青年期や就労前時期段階での就労準備支援が必要である.加えて日本での障害者の就労支援は,ハローワーク,地域障害者職業センター,障害者就業・生活支援センター,障害者職業能力開発校,就労移行支援事業所,就労継続支援事業所(A型・B型)が連携して行っている.支援において大切なことは,連携支援,障害認識,周囲の理解とその対応,アセスメントである.職場での配慮事項として,指示の出し方の工夫,本人の特徴に合わせた業務内容,担当者を決める,易疲労性への配慮がある.
著者
中村 健 岡村 正嗣 佐伯 拓也
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.941-946, 2017-12-18 (Released:2018-01-10)
参考文献数
10

息切れは,健常者においても急激な激しい運動を行うと起こるが,安静時や軽微な運動によって息切れが起こる場合には,病的な状態であることが考えられる.息切れの程度を評価するための代表的な評価法には,修正Borgスケール,Visual Analogue Scale(VAS),Fletcher, Hugh-Jones分類,modified British Medical Research Council(mMRC)息切れスケール,Baseline Dyspnea Index(BDI)およびTransition Dyspnea Index(TDI),Oxygen Cost Diagram(OCD)などがある.さらに,病的な息切れであると判断した場合は,息切れの原因となっている疾患を診断することが重要である.息切れの原因には,呼吸器疾患,循環器疾患,神経筋疾患,廃用症候群などが考えられる.まず,呼吸数・呼吸様式,呼吸音,心音,心拍,血圧,胸郭・四肢所見などの身体所見から,息切れの原因疾患を判断することが重要である.
著者
木村 百合香 齋藤 真由
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.41-47, 2021-01-18 (Released:2021-03-15)
参考文献数
5

摂食嚥下障害診療は医師(主治医・リハビリテーション科医・耳鼻咽喉科医),歯科医師,言語聴覚士,理学療法士,作業療法士,看護師,薬剤師,その他多くの医療職が関与し円滑なチーム医療を行うことで初めて成り立つ.チームの構築には「テクニカルスキル」「ノンテクニカルスキル」の両面からのアプローチが求められる.2020年度の診療報酬改定では,摂食機能療法において,摂食嚥下機能に障害のある者に対する多職種チームによる介入を評価する「摂食嚥下支援加算」が新設されたことから,各施設において摂食嚥下障害診療のチーム医療への積極的な参加が望まれる.
著者
木村 慎二 細井 昌子 松原 貴子 柴田 政彦 水野 泰行 西原 真理 村上 孝徳 大鶴 直史
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.206-214, 2018-03-16 (Released:2018-04-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

2011年のNakamuraらの調査では,日本人の慢性疼痛の有症率は約15%で,その患者数は増加傾向である.慢性疼痛は急性痛と異なり,通常の薬物療法が効きにくい例があり,日本整形外科学会の2012年腰痛診療ガイドラインでは,運動療法,小冊子を用いた患者教育,さらには認知行動療法がGrade Aとして強く推奨されている.認知行動療法は,ある出来事に対する認知(考え方)と行動を変えることで,問題への効果的な対処の仕方を習得させる心理教育を踏まえた治療法である.慢性疼痛患者の生活および生きがいを獲得することを目的に,筆者は認知行動療法理論に基づき,「いきいきリハビリノート」を用いた運動促進法を開発し,普及に努めている.