著者
土井 理美 横光 健吾 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-55, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
4

本研究の目的は、Acceptance and Commitment Therapy(Hayes et al.,1999)の文脈で用いられる「価値」の概念を多面的に測定することが可能であるPersonal Values Questionnaire II(PVQ-II;Blackledge et al.,2010)の因子構造、内的整合性、妥当性を検討し、PVQ-IIがより活用されるよう精緻化を行うことであった。大学生、大学院生、一般成人388名を対象に項目分析、探索的因子分析を実施した結果、1項目が削除され、PVQ-IIは8項目3因子構造であることが示された。また内的整合性、妥当性ともに十分な値が示された。そして、413名を対象に確認的因子分析を実施した。その結果、第1因子と第3因子の相関を仮定した3因子構造モデルの適合度は十分な値を示していた。その結果、PVQ-IIの標準化に関するデータを追加し、わが国でもPVQ-IIの利用が可能であることが明らかとなった。今後は、PVQ-IIをわが国においても普及させていくために、わが国におけるPVQ-IIの特異性を明らかにしていく必要がある。
著者
若林 上総 加藤 哲文
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.71-82, 2012-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
3

本研究では発達障害のある高校生、および学級に在籍するその他の生徒によるグループ学習場面に介入し、課題達成行動の生起に対する非依存型、および相互依存型集団随伴性が与える影響、ならびに集団随伴性が仲間間の相互交渉へ与える影響について検討した。また、介入前後には介入実行者である教師の介入受容性(treatmentacceptability)を測定し、その変化も検証した。結果として、非依存型、および相互依存型集団随伴性の適用は、発達障害のある高校生を含めた学級全体の課題達成行動の生起に影響を与え、教師も高い介入受容性を示すことが明らかとなった。一方で、発達障害のある生徒とその仲間間の相互交渉に与えた影響は明らかにされず、ネガティブな副次的作用としてサボタージュ行動が生じることも明らかとなった。以上のことから、有効かつポジティブな副次的作用を発現する集団随伴性に必要な手続き上の課題を議論した。
著者
前田 基成 坂野 雄二 東條 光彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.158-170, 1987-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は,治療セッショソをおって継時的に評定されたセルフ・エフィカシーの変動と,視線恐怖反応の消去にともなう行動変容との関係を明らかにし,知覚されたセルフ・エフィカシーが行動変容の先行要因としてどのように機能しているかを明らかにすることである。学校場面において,極度の視線恐怖反応を示す14歳の少年に対し,系統的脱感作法を適用した。約10ヵ月にわたる治療的介入は,主観的・認知的(SUD,セルフ・エフィカシー),心理生理的(心拍数),行動的(日常生活における恐怖をともなわない行動遂行,行動の自己評定)測度のいずれにおいても顕著な改善をもたらした。各治療セッショソ後に実施された次セッショソまでの1週間を見通したセルフ・エフィカシーの評定と,1週間後に確認された行動変容の関係を詳細に分析したところ,セルフ・エフィカシーの変動が恐怖反応の消去と密接に関係していることが明らかにされた。すなわち,クライエソトがセルフ・エフィカシーを強く認知すればするほど,視線恐怖時の不安反応は弱くなることが観察された。同時に,その逆の現象も認められた。その結果,知覚されたセルフ・エフィカシーが,行動変容の先行要因として機能していることが示唆された。
著者
菊田 和代 三田村 仰 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.331-343, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
10

本事例では、うつ病と診断され、社会人になってから30年間にわたって抑うつ感や不安感を抱えてきた男性に、臨床心理士がアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を行った。男性は特に出勤のしづらさを訴え、認知行動療法(CBT)を受けることを希望していた。男性の不安・抑うつ症状は軽度残存しており、自分の能力に関する思考や不安を一時的に回避するための行動が日常的に用いられていた。男性は、自身の業務上のパフォーマンスや他者評価をさほど偏りなく認識していたが、それらの認識は男性の行動に影響を与えておらず、活動内容が固定されていた。セラピストはACTの初心者であり、本事例の中でクライエントとともにACTの実際をさらに学ぶことができたので、それを報告し考察する。
著者
石川 信一 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.125-136, 2004-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本論文の目的は、児童期の不安障害のレビューを行い、児童における不安障害に対する認知行動療法の効果について検討を行うことであった。第1に、児童期の不安障害は、全般性不安障害/過剰不安障害、社会恐怖、分離不安障害、パニック障害、特定の恐怖症、強迫性障害の6つに分類されることが示された。第2に、児童期の不安障害の有病率は10%弱であること、不安障害の各症状は併発率が高いことが示された。第3に、不安症状をもつ児童は学校や他の社会的状況において不適応を示すこと、不安障害を示す成人の多くは児童期から不安症状をもつことがわかった。不安障害の児童に対する認知行動療法の展望の結果、個別介入、集団介入、早期介入、両親を含めた介入の効果が無作為化比較試験によって証明された。最後に、本邦において、効果的な治療法を構築するために、不安障害の児童に対する治療法の研究が必要であることが指摘された。
著者
谷 晋二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.147-158, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
12
被引用文献数
3

本研究はACTに基づく心理教育を先延ばし行動を持つ大学生に対して実施した症例報告である。成果の検討のために、先延ばししている課題の遂行状況の自己記録、GPS、AAQ-II、FFMQが用いられた。ACTの心理教育は、先延ばし行動の機能の分析と体験の回避についての学習、体験の回避を促進している言語的な関係からの脱フュージョン、体験の回避に変わる代替行動としてのマインドフルネス・エクササイズの実施、価値の明確化と価値に基づく行動の実施という四つのステップで提供された。学習会修了後、先延ばししていた課題が継続して遂行され、GPSの得点(pre: 55, post: 39, −6 points)、AAQ-II(pre: 29, post: 24, −5 points)、FFMQの得点の変化(pre: 127, post: 156, +27 points)が見られた。これらの結果について関係フレーム理論から分析を行い、先延ばし行動を持つ大学生へのACTの適用が有効であることが考えられた。初年次教育やキャリア教育への適用の可能性について議論を行った。
著者
増田 智美 長江 信和 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.123-135, 2002-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、大学生の怒りに対する認知行動療法(CBT)、すなわちISST(inductive social skills training)の効果と同時に、個人差である怒りの表出傾向が介入効果に相違をもたらすかどうかを検討した。被験者は、怒りの特性が高く、かつ怒りの表出傾向の高い者(AO高者)と怒りの抑制傾向の高い者(AI高者)の計42名であった。 AO高者とAI高者それぞれを、 CBT群と統制(Ctrl)群に割り当て、2つのCBT群には、怒りの行動的反応を標的とするCBTを4週間実施した。その結果、 Ctrl群と比較して、CBT群では、介入直後の怒りの特性だけでなく、敵意や不安においても有意な低減がみられ、その効果は3か月後のフォローアップ時でも維持されていた。また、表出傾向別にみると、怒りの表出傾向が高い被験者のほうが低い被験者よりも効果が著しかった。怒りを表出する傾向の高い被験者には、行動的反応を標的としたCBTが有効であることが判明した。 CBTを施す際に、怒りの表出傾向まで考慮することの意義が示唆された。
著者
石川 信一 美和 健太郎 笹川 智子 佐藤 寛 岡安 孝弘 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.17-31, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、日本語版Social Phobia and Anxiety Inventory for Children(SPAI-C;Beidel et al.,1995)を開発することであった。本研究の対象者は小学生859名(男子434名、女子425名)であった。因子分析の結果、SPAI-Cは「対人交流場面」「パフォーマンス」「身体症状」の3因子構造であることがわかった。再検査信頼性、およびCronbachのα係数から、本尺度は十分な信頼i生をもつことがわかった。妥当性分析の結果、本尺度はスペンス児童用不安尺度(Spence,1997)と日本語版State-TraitAnxietyInventoryforChildren(曽我,1983)と中程度の正の相関関係にあることがわかった。多変量分散分析の結果、女子が男子よりも社会不安の症状を多く報告することが明らかにされた。最後に、日本の児童の社会不安症状の特徴とSPAI-Cの有用性について議論がなされた。
著者
三原 博光
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.133-143, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)

本論文の目的は、高齢者に行動変容アプローチを適用し、その方法の効果を検証することにある。そこで、在宅で生活する高齢者の被害妄想的表現が問題行動として取り上げられ、治療介入が行われた。その結果、8か月間、治療介入が実地された。面接場面においては一時的に被害妄想的表現が減少したが、治療介入の効果が維持されず、被害妄想的表現が再び増加した。高齢でしかも痴呆性が伴う高齢者の場合、行動変容アプローチの適用も困難になることが本ケースを通して示された。
著者
大久保 賢一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.137-146, 2017-05-31 (Released:2017-10-30)
参考文献数
14

本研究においては外出恐怖を示し不登校状態にあった自閉症スペクトラム障害のある高校生を対象として、外出行動の増加と範囲の拡大、そして外出に伴う不安や恐怖の低減を目的とした「現実場面において嫌悪状況に段階的に接近させていく手続き」(段階的プログラム)を適用した。段階的プログラムは、母親の協力を得ながら、ホームワーク形式で実施された。さらに、在籍していた高校の中退に伴い、進路選択に関するガイダンスなども併せて行うことにより再就学を支援した。その結果、標的とした場所への外出が可能となり、外出に伴う不安や恐怖はほぼ消失した。また、その成果はほかの場所へも般化した。再就学した高校への登校行動は2年間維持しており、問題の再発は約3年間にわたってみられなかった。最後に本事例に関する成果と課題について考察を行った。
著者
田中 乙菜 越川 房子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.15-27, 2010-01-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、自己陳述を用いて、中学生が学校対人場面で考えている内容を明らかにし、自己陳述と心理的ストレスとの関係性を検討することである。対人ストレス場面6場面、全60項目からなる中学生の学校対人ストレス場面における自己陳述2次調査票が作成され、914名の中学生を対象に実施された。因子分析の結果、ポジティブな自己陳述は、状況を肯定的に評価するもの、ストレス状況に対処するもの等を中心に構成されており、ネガティブな自己陳述は、自己・他者・状況を否定的に評価するもの、不安感情を表したもの、自己の責任を回避するもの等を中心に構成されていた。また、自己陳述の頻度の高低によるストレス得点の差を∫検定で検討した結果、自己陳述の頻度の高い群が低い群よりもストレス得点が有意に高く、自己陳述の内容にかかわらず、自己陳述を行う頻度の高い人がストレスも高いことが示された。
著者
本谷 亮 松岡 紘史 小林 理奈 森若 文雄 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.13-20, 2011-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、緊張型頭痛患者を対象として、痛みの臨床症状と心理的要因である痛みに対する認知的要因・感情的要因が、緊張型頭痛患者の抱える生活支障度の身体的側面、社会的側面、精神的側面をそれぞれどの程度予測しているか明らかにすることであった。成人の緊張型頭痛患者73名を対象に質問紙調査を行い、重回帰分析を用いて、緊張型頭痛の生活支障度の各側面に対する予測要因を検討した。その結果、生活支障度の中でも身体的側面に関する生活支障度に対しては痛みの臨床症状が予測しているが、社会的側面や精神的側面に関する生活支障度に対しては、痛みに対する破局的思考や逃避・回避行動といった痛みに対する認知的要因・感情的要因が強く予測していることが明らかとなった。キーワード:緊張型頭痛頭痛症状痛みに対する破局的思考逃避・回避行動生活支障度
著者
茂本 由紀 武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-14, 2018-01-31 (Released:2018-06-18)
参考文献数
23

本研究は、茂本・武藤(2017)が開発した漢字迷路課題を改良し、関係フレーム反応の測定指標としての妥当性、および抑うつ的反すうの測定指標としての適用可能性を検討することが目的であった。漢字迷路課題を中性語のみで構成された迷路と抑うつ語のみで構成された迷路の両方を含むように改良し、抑うつ語の反応時間から中性語の反応時間を減じた反応時間の差分を算出した。関係フレーム反応の妥当性の検討では、漢字迷路課題の反応時間の差分とIRAPのDIRAP得点との相関を求め、刺激の機能変換を測定する自己評定尺度の高群と低群との間で、反応時間の差分に差があるかどうかを検討した。また、抑うつ的反すうの測定指標としての適用可能性の検討では、抑うつ的反すうを評価する自己評定尺度による高群と低群の反応時間の差分を分析した。その結果、漢字迷路課題の反応時間の差分が、関係フレーム反応測定指標として妥当であることは示されなかったが、抑うつ的反すうの測定指標として適用可能であることが示唆された。
著者
佐藤 寛 高橋 史 杉山 恵一 境 泉洋 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.33-44, 2007-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、攻撃行動をパーソナリティ変数としてではなく、観察可能な行動として測定する尺度である攻撃行動尺度を作成し、信頼性と妥当性を検討することであった。まず、研究1では大学生372名を対象に調査を実施し、攻撃行動尺度の作成と内的整合性の検討を行った。その結果、「身体的・物理的攻撃」「言語的攻撃」「間接的攻撃」の3因子17項目からなる攻撃行動尺度が作成された。また、攻撃行動尺度はある程度の内的整合性があることが示された。次に、研究IIにおいて、大学生406名を対象に、攻撃行動尺度とAnger Expression Scaleを用いた調査を実施し、攻撃行動尺度の妥当性を検討した。分析の結果、攻撃行動尺度は適切な交差妥当性と構成概念妥当性を有していることが示唆された。最後に、本研究の限界と今後の課題に関する議論が述べられた。
著者
伊藤 理紗 矢島 涼 佐藤 秀樹 樋上 巧洋 松元 智美 並木 伸賢 国里 愛彦 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.13-22, 2019-01-31 (Released:2019-06-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では、(1)安全確保行動を恐怖のピークの前でとるか後でとるか、(2)恐怖対象への視覚的な注意の有無が、治療効果に及ぼす影響を検討した。ゴキブリ恐怖の大学生を対象に、四つの条件のいずれか一つに割り当てた:(a)恐怖ピーク後注意あり群、(b)恐怖ピーク後注意なし群、(c)恐怖ピーク前注意あり群、(d)恐怖ピーク前注意なし群。群と時期(エクスポージャー前・エクスポージャー直後・フォローアップ時)を独立変数、ゴキブリ恐怖を従属変数とした分散分析の結果、メインアウトカムである行動評定の恐怖度の変数において、時期の主効果が有意であった。また、セカンダリーアウトカムである想起時の回避度において、交互作用が有意であった。単純主効果の検定の結果、a・b群はフォローアップ時の回避度の改善が認められないのに対し、c・d群は改善が認められた。最後に、治療効果が認められた原因について考察した。