著者
藤原 直子 大野 裕史 日上 耕司 久保 義郎 佐田 久真貴 松永 美希
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.159-173, 2010-06-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
6

本研究では、「気になる子」を担任する幼稚園教諭(コンサルティ)に対する集団コンサルテーションプログラムを作成・実施し、その効果を検討した。6名のコンサルティに対して全6回(フォーローアップ1回を含む)のプログラムを実施し、行動の見方や対応方法を応用行動分析学に基づき教授した。また、グループワークにおいては、コンサルティが行った「気になる子」の観察記録をもとに対応方法を検討した。その対応をコンサルティが実践した結果、対象児の行動に改善がみられた。さらに、コンサルティが子どもに対応する際に感じるストレスが軽減し、保育者としての効力感が向上した。満足度アンケートによる評価も高く、このコンサルテーションの内容は、幼稚園において実施可能であり、その対応方法は「気になる子」の支援に有効であることが示唆された。
著者
国里 愛彦 土屋 政雄
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.113-122, 2022-05-31 (Released:2022-07-28)
参考文献数
29

心理学の再現性の問題が指摘されるようになって久しいが、心理学および認知行動療法の研究において再現可能性を高めるための取り組みはまだ十分に進んでいない現状がある。本稿では、現状把握として、認知行動療法に関連する心理学における再現性の危機について概観したうえで、再現性の危機を乗り越えるための方策について論じた。具体的には、Goodman et al.(2016)が提唱する3つの再現可能性(方法の再現可能性、結果の再現可能性、推論の再現可能性)に基づいて、それぞれの現状における問題点の指摘と問題を乗り越えるための前向きな解決法について解説した。3つの再現可能性は主に個々の研究者の研究実践を扱っているが、より広く社会の中で研究実践を位置づけ、研究の価値を高めることも必要となってきている。そこで、研究疑問の優先順位付けにより研究の価値を高めることについても論じた。
著者
藤森 麻衣子 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.93-103, 2006-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、不安喚起場面、身体覚醒場面、安静場面を設定し、身体反応知覚と情動の関連性について検討することであった。対象者は、47名(男性12名、女性35名)の大学生であり、3つの課題(スピーチ課題、運動課題、安静課題)から成る実験に参加した。測定指標は、心拍数、皮膚伝導水準、スピーチ不安尺度、特性不安尺度、身体反応知覚尺度、主観的不安感、印象評定であり、予期不安期、スピーチ課題期、運動期、安静期に測定が行われた。スピーチ不安尺度の得点の高低によって、参加者はスピーチ不安高群とスピーチ不安低群に振り分けられ、群を実験参加者間要因、測定時期を実験参加者内要因とする分散分析が行われた。その結果、予期不安期、スピーチ期では実際の心拍と心拍の知覚、実際の皮膚伝導水準と皮膚伝導水準の知覚、および第三者による行動評定と自己評価とのずれが小さい一方で、運動期、安静期では実際の反応とその知覚のずれが大きいことが示唆された。本研究の結果から、これまで指摘されてきた不安と心拍の知覚の関連に加え、不安と皮膚伝導水準、行動評定との関連が示唆された。
著者
竹島 克典 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.115-124, 2019-09-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
27

本研究の目的は、PPR(Positive Peer Reporting)と集団随伴性によるクラス単位の介入プログラムを実施し、児童の抑うつ症状に対する効果を検討することであった。介入プログラムは、児童が毎日の学校生活のなかで仲間の向社会的行動を観察して肯定的報告を行いそれを担任教師が賞賛するPPRと、クラス全体の肯定的報告が目標数に達した場合にクラスで特別な活動ができるという相互依存型集団随伴性の手続きによって構成された。介入プログラムの事前と事後を比較した結果から、児童の抑うつ症状の有意な低減が示された。最後に、抑うつの対人モデルに基づいて、児童の抑うつに対する介入研究における社会的環境へのアプローチの有効性と今後の課題について考察した。
著者
村山 恭朗 岡安 孝弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.215-224, 2012-09-30 (Released:2019-04-06)
参考文献数
31

抑うつ的反すうとはネガティブな認知を繰り返し体験することを指す。反すう傾向が高い場合うつ病リスクは高まるが、反すう傾向が低い場合にはネガティブな認知が抑うつを悪化させるプロセスが緩和される。しかしながら、この抑うつ的反すうが加齢に伴って量的および質的にどのように変化するかに関して、あまり研究されていない。そこで本研究は、大学生群と30・40代の成人群が示す抑うつ的反すう傾向と低反すうの緩衝効果を比較することで、加齢に伴う反すう傾向の変化を検討した。その結果、成人群では反すう傾向が低く、さらに低反すうの緩衝効果が認められた。このことから、加齢に伴って抑うつ的反すうは軽減し、個人はより効果的にネガティブな認知に対応できるようになると示唆された。また本研究結果から年齢に適した予防的介入が議論された。
著者
今井 正司 今井 千鶴子 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-15, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

行動分析的な観点に基づくアセスメントと支援は、児童の行動を環境に適応させる効果的な方法であることが確認されている。しかしながら、従来型の行動アセスメントにおいては、多面的な問題行動を体系化する方法が確立されていないという問題点がある。そこで本研究では、システム構造分析を用いたアセスメント(システム行動分析)を適用し、多面的な問題行動を"反応階層"や"連鎖構造"からとらえることを試みた。その結果、問題行動の多面性を数量的に把握することが可能となり、効率的な支援を行うためのポイントが示された。最後に、従来型の行動アセスメントの知見を参照しながら、本研究で得られた知見の重要性について考察された。
著者
石川 信一 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.45-57, 2005-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、Children's Self-Statement Scale(CSSS)を作成し、その信頼性と妥当性を検討するとともに、児童における自己陳述と不安症状との関連を検討することであった。研究1では、小学生217名を対象に予備調査を行い、項目を抽出した。そして、小学生693名を対象とした因子分析の結果、CSSSは「ポジティブ自己陳述」「ネガティブ自己陳述」という2つの因子があることが示され、信頼性と妥当性が確認された。研究IIでは、小学生546名を対象に、 CSSSとスペンス児童用不安尺度(SCAS)による調査を実施した。その結果、SCASのすべての下位尺度において、「ネガティブ自己陳述」が強く影響していることがわかった。また、SOM得点によりポジティブに偏った認知の群は、 SCASの得点が低いことが示された。
著者
岩永 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.29-43, 1987-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

不安反応は,生理・行動・認知の3つの表出次元で測定することが可能である。各々の表出次元で見られる不安反応は互いに共変したり,(synchrony),独立または逆の変化傾向を示す(desyn-chrony)と考えられている。不安反応間で見られるsynchronyの高さは,治療効果予測の一助となることから,その有用性は極めて高い。本報告では不安反応間の対応関係について,Rachman(1976)の4つの仮説を中心に,最近特に注目されるようになったreturnoffear,consonanttreatmentについて概括した。さらに,synchrony研究を進める上で問題となる不安の測度の種類とその妥当性,およびsynchrony指標化の方法についても検討を加えた。
著者
高橋 史
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.105-114, 2017-05-31 (Released:2017-10-30)
参考文献数
19

本報告では、価値の明確化と行動活性化を中心とした治療によって症状緩和と生活改善が見られた、出産をきっかけにうつ病となったクライエントの治療経過を報告した。30代女性のクライエントに対して、1回60分、計22回のセッションが実施された。2回目面接において価値のワークが導入され、作成された価値リストに基づいて行動活性化が進められた。治療の結果、抑うつ症状の指標であるBDI-IIは29点から13点、特性不安の指標であるSTAI-Tは58点から38点、心理的柔軟性の指標であるAAQ-IIは19点から30点へと改善した。また、クライエントにとって価値に沿った行動である手料理を作る行動の回数は、1日あたり0.7回から2.1回へと増加した。以上の経過から、産後うつ症状を示すクライエントに対する価値の明確化と行動活性化手続きの併用効果が示された。
著者
有園 正俊
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.223-233, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
8

先行研究によると、児童期のマルトリートメント(childhood maltreatment; CM)を体験したことで、情動の調節が困難な特性をもつことや強迫症/強迫性障害(obsessive–compulsive disorder; OCD)の症状に潜在的に影響する可能性が示されている。本症例の患者は、CMを体験し、対人関係でストレスを感じても自分の意見を表現抑制する傾向があった。そして、成人になって職場でのストレスが強い出来事をきっかけに、他者への加害の強迫観念を抱くOCDを発症した。重症度が増し、自宅で一人のときは、ほとんど身動きしないでいた。自宅にいる患者に音声通話を主とした遠隔診療で認知行動療法を行った。この方法は、患者が強迫症状の現れる場所にいながら、治療者と課題をできるなどのメリットがあり、症状は改善した。本研究では、その患者のCM体験とパーソナリティ、OCDへの影響を検討した。
著者
田村 典久 田中 秀樹 笹井 妙子 井上 雄一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.39-50, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は、睡眠促進行動チェックリストを併用した睡眠教育プログラムの実施が、中学生の睡眠促進行動や睡眠習慣、日中の眠気に与える効果を検証することである。対象とした中学校2校の1年生229名を、睡眠教育群(n=118)と待機群(n=111)に振り分けた後に、睡眠教育群に対してのみ睡眠知識教育を実施し、適切な睡眠促進行動を提示してその中から達成目標とする行動を一つ選択させ、目標行動を2週間自己調整させた。その結果、睡眠教育群では睡眠知識や睡眠促進行動が向上し、就床時刻や入眠潜時、睡眠時間が有意に改善した。また、日中の眠気の改善も認められた。一方、待機群ではこれらの改善は認められなかった。本研究結果より、われわれの開発した睡眠教育プログラムは、中学生の睡眠促進行動を向上させ、実際の睡眠習慣や日中の眠気の改善に有効であると考えられた。
著者
佐藤 寛
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.255-272, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

抑うつの認知モデルによると、抑うつに関連する認知的要因は、(1)スキーマ、(2)推論の誤り、(3)自動思考、といった複数のレベルの認知変数から構成される一連の過程であるとされている。しかしながら、児童において抑うつの認知モデルの妥当性を検討した研究は、これまでにほとんど報告されていない。本研究の目的は、児童の抑うつに関連する認知的過程を説明する認知モデルを構築し、その妥当性を検討することであった。9〜12歳の児童664名を対象に、ストレッサー、スキーマ、推論の誤り、自動思考、および抑うつを測定する尺度を用いた調査を実施し、抑うつの認知理論に基づくモデルの妥当性を検討した。その結果、成人とほぼ同様の認知モデルが児童にもあてはまることが示された。すなわち、非機能的なスキーマは推論の誤りを導き、推論の誤りは自動思考に影響を及ぼし、自動思考は抑うつに影響していることが示唆された。
著者
村山 恭朗 岡安 孝弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.13-22, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

ネガティブな反すうは抑うつを悪化させることが実験的、横断的、縦断的にこれまで見いだされている。先行研究において、反すうはストレッサーの生成を促し、さらにストレッサーは反すうを強めることが示唆されている。本研究では、反すうとストレッサーの関連性が及ぼす抑うつへの影響を検討するために、2回にわたる縦断的調査を行った。111名の成人対象(平均年齢44.30±11.34歳)がT1調査で反すうと抑うつを、その7カ月後に反すう、抑うつ、ストレッサーを測定した。共分散構造分析の結果、T1反すうは直接的にT2抑うつに影響を及ぼしておらず、7カ月間で経験されたストレッサーが抑うつに及ぼす反すうの影響を完全に媒介していた。加えて、T1時点での反すうと抑うつはT1-T2間のストレッサーの生成を促し、それがT2時点における反すうや抑うつを悪化させることも示された。
著者
松岡 紘史 神村 栄一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.147-157, 2005-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、ディストラクションが痛みに及ぼす効果を、注意の限界容量モデルと反応予期仮説の観点から検討することであった。実験参加者30名は、High-Distraction(HD)群、 Low-Distraction(LD)群、統制群の3群に無作為に分けられ、10℃の冷水に48秒間手を浸す課題を合計3回行った。第2、3試行で、HD群には、3秒に1題のペースで3つの1桁の数値の加算が要求される課題、 LD群には6秒に1題のペースで偶数・奇数の判断を行う課題にそれぞれ取り組むことが要求された。統制群は、課題を要求されなかった。ディストラクションが痛みの体験に及ぼす効果を検討したところ、ディストラクション課題への集中度が主観的痛みと主観的不快感に影響を与え、不快感の予期得点が主観的不快感に影響を与えていた。しかし、課題の難易度についての評価は、主観的痛み、および主観的不快感いずれに対しても影響していなかった。
著者
後藤 吉道 佐藤 正二 佐藤 容子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.15-24, 2000-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
8

本研究では、集団SSTを通して学級内の仲間関係が改善されるかどうかを検討するために、小学2年生の児童を対象にして学級を単位とした3セッションからなる集団SSTが行われた。標的スキルは、適切な働きかけと応答であった。訓練は、教示、モデリング、行動リハーサル、フィードバック、強化からなるコーチング法の手続きに従って行われた。その結果、訓練群の児童は、統制群の児童よりも訓練前から訓練後にかけて、社会的スキル得点が有意に増加し、引っ込み思案得点が有意に減少した。また教師による社会的スキル評定においても、訓練群の得点が訓練後に有意に増加していることが確かめられた。さらに、好意性指名得点は、訓練群のみ訓練後に得点の増加が認められた。これらの結果から、集団SSTは、社会的スキルの獲得を促進するばかりでなく、仲間に対するポジティブな見方を高めることが明らかにされたといえよう。
著者
藤目 文子 尾形 明子 在原 理沙 宮河 真一郎 神野 和彦 小林 正夫 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.167-175, 2009-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、1型糖尿病患児を対象としたキャンプが、病気の自己管理行動に及ぼす影響を検討することであった。キャンプの前後に1型糖尿病患児28名に対して、自己管理行動に対するセルフエフィカシー、糖尿病に関する知識、ストレス反応、HbAlcを測定した。キャンプにおいて、ストレス反応が減少し、自己の症状把握に対するセルフエフィカシーの上昇が認められた。さらに自己注射や、糖分摂取、インスリン調節に対するセルフエフィカシーがストレス反応やHbAlc値を改善させる要因として示唆された。1型糖尿病患児を対象としたキャンプは、症状コントロールのための自己管理行動へのセルフエフィカシーや知識の向上に効果的であることが示唆された。