著者
伊藤 大輔 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.155-166, 2009-05-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、非致死性トラウマ体験者を対象として、トラウマ体験後の認知を測定する尺度(CognitionsInventoryofNon-lethalTrauma;CINT)を作成し、その信頼1生、妥当性を検討することであった。大学生302名を対象に、非致死性トラウマ体験後の否定的な考えについて自由記述による回答を求め、項目を作成した。次に、大学生902名を対象に、CINT暫定版を実施した。探索的因子分析を行った結果、「自己の能力や価値に対する否定的な認知」「出来事の対処についての後悔の念」「他者関係性に対する否定的認知」「周囲の不安全・将来に関する否定的認知」の4因子19項目から成るCINTが作成された。また、CINTは十分な信頼性と内容的妥当性、基準関連妥当性、併存的妥当性を有することが確認された。最後に、CINTの臨床的有用性に関して議論がなされた。
著者
高橋 史 大塚 明子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.23-33, 2012-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
3

本研究は、嚥下失敗を含む身体的症状および窒息恐怖を示す40代男性に対して、内潜的な認知的反応と嚥下の反応連鎖に関する行動分析に基づいて介入を行うことで改善をみた症例の報告である。行動分析の結果、本症例では、口腔内の食塊と窒息に関する認知的反応が同時に提示されることで嚥下失敗が生じ、嚥下失敗が回避行動を強化する結果事象となっている可能性が考えられた。そこで、嚥下中の認知的反応の妨害と、嚥下に伴う身体感覚の単独提示を行った。具体的な治療手続きとしては、飲食物を口に含んでから飲み込みがすむまでの身体感覚を言語的に記述し続けることで、「死ぬかもしれない」といった認知的反応の抑止を行った。介入の結果、症状の軽減が認められ、介入効果は1カ月後および3カ月後のフォローアップ期においても維持されていた。
著者
中谷 江利子 中川 彰子 磯村 香代子 大隈 紘子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.29-41, 2004-03-31 (Released:2019-04-06)

Prader-Willi症候群(PWS)は、筋緊張低下、肥満、性腺発育不全、精神遅滞を主徴候とする先天性疾患である。肥満とその合併症が生命予後にかかわることから、肥満対策が不可欠とされている。今回筆者らは、身体合併症(心不全、糖尿病、睡眠時無呼吸)があり、生命維持のために減量が必要であったが、食行動異常のほか、こだわり、かんしゃく、放火、俳徊などの多くの問題行動のため、小児科での治療が困難であった13歳男子のPWSの入院治療を行った。入院後も激しい問題行動と、体重測定さえできないほど肥満治療に対しての抵抗が強く、入院生活の継続も懸念された状態であったが、刺激を統制し、オペラント強化法を用いるための治療上の工夫を行ったことにより、患者が積極的に楽しく肥満治療に取り組みながら16kgの減量に成功し、身体合併症の著明な改善がみられた。この治療成果は本症例の生涯にわたる肥満治療において重要な役割を果たすと考えられた。
著者
岡村 寿代 金山 元春 佐藤 正二 佐藤 容子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.233-243, 2009-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究では、集団社会的スキル訓練を78名(男子43名、女子35名)の幼児に実施し、その効果を検討した。その際、訓練前の社会的スキルの程度によって社会的スキルの高群、中群、低群の3群に分類し、どのような特徴をもつ幼児に訓練効果がみられるかの検討を行った。3つの標的スキル(上手に聞く、仲間入り、あたたかい言葉かけ)を訓練するために、6〜8セッションからなる集団社会的スキル訓練が行われた。訓練は、教示、モデリング、行動リハーサル、フィードバック、強化からなるコーチング法の手続きに従って行われた。自由遊び場面へのスキルの般化を促進するために、教室でのスキル訓練と自由遊び場面でのスキル訓練を交互に繰り返す訓練プログラムを計画した。その結果、自然な自由遊び場面での行動観察のデータによれば、社会的スキル低群と中群において協調的行動の増加が認められた。また、担任教師による社会的スキル評定によれば、社会的スキル低群において、社会的スキル領域総得点および社会的働きかけスキル得点の増加が見いだされた。これらの結果から、本研究で実施された集団SSTは、社会的スキル低群だけではなく、すでに社会的スキルを獲得している中群にも有効であったことが示された。
著者
加計 佳代子 佐藤 寛 石川 信一 嶋田 洋徳 佐藤 容子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.113-125, 2008-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究は児童の社会的スキルと認知の誤りが社会不安に与える影響について検討することを目的とした。対象者は小学4年生から6年生1,163名(男子575名、女子588名)であった。対象者は、SocialPhobiaandAnxietyInventoryforChildren日本語版(石川ら,2008)、Children'sCognitiveErrorScale改訂版(CCES-R;佐藤ら,2004)、小学生用社会的スキル尺度(嶋田ら,1996)への回答を求められた。対象者1,163名のうち、無作為抽出された197名の児童の担任教師40名は小学生用社会的スキル尺度(嶋田ら,1996)を他者評定用に改訂したものに回答した。分析の結果、認知の誤りの高さが社会的スキルの自己評定と他者評定の差に関係していることが明らかになった。また、社会的スキルよりも認知の誤りの方が児童の社会不安に直接影響していることが示され、児童の認知変数への介入が有効である可能性が示唆された。
著者
中齋 美咲 大月 友 桂川 泰典
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.181-190, 2017-09-30 (Released:2017-10-31)
参考文献数
18

Acceptance and Commitment Therapy(ACT)では心理的柔軟性が精神健康の向上に重要だとされるが、ACTの基盤となる関係フレーム理論(RFT)の観点からこれを支持した実証研究は少ない。そこで本研究はルール制御下の行動変動性に着目し、ACTの心理的柔軟性モデルをRFTの観点から検討することを目的とした。実験参加者に質問紙と行動変動性測定用コンピュータ課題を実施した。分析対象者19名のデータで相関分析と階層的重回帰分析を行った結果、AAQ-IIと行動変動性指標間の相関が弱い一方で、AAQ-IIおよび行動変動性指標はそれぞれGHQ-60と相関がありGHQ-60を予測、説明できる可能性が示された。したがってルール制御下の行動変動性はAAQ-IIと異なり心理的柔軟性の一要素を測定する指標となりうる可能性が考えられ、ACTの心理的柔軟性モデルはRFTの観点から支持されると示唆された。
著者
小林 和彦 辻下 守弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.201-213, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
20

本研究においては、行動分析学の視点から理論および介助の方法論を解説したパソコン上で作動する教材を開発し、介護職員3名に自己学習とセルフチェックを行ってもらい、介護老人保健施設入所者に対するベッドから車椅子への移乗介助技能への効果を、単一事例実験計画法を用いて検証した。その結果、3名とも適切な介助の頻度が増加(平均46.2%)し、彼らが日頃介助している入所者も、より少ない介助で移乗が行えるようになった。また、移乗介助指導の効果が同じ入所者の脱衣介助に反映されることも確認された。さらに、指導プログラムの内容や意義に関しても比較的良好な受け入れや評価が得られた。以上のことから、従来の指導方法によるデメリットを補完する役割を果たすことができ、本教材が介護職員指導における効果的な方法論として位置づけられる可能性が示唆されたが、対象の選択および追跡調査の問題、操作性や内容などに関する課題も残された。
著者
井澤 信三 霜田 浩信 氏森 英亜
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.111-121, 2007-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究では、自閉性障害生徒における社会的スキルに対する自己モニタリング指導の効果を検討した。対象生徒は、知的障害のある仲間との共同作業活動(木工作業〉を実行し、その活動に必要な社会的スキルが標的とされた。まず、自己モニタリング導入条件では、対象生徒自身が社会的スキルに対する自己モニタリングシートに、「はい(できた場合)」または「いいえ(できなかった場合〉」のどちらかに○をつけるという手続きであった。しかし、社会的スキルの適切な遂行には至らなかった。そこで、次に、社会的スキルに対する自己モニタリングの適切性を高めるためのビデオフィードバックを含んだ自己モニタリング指導条件を導入した。その結果、正確な自己モニタリング率および適切な社会的スキルの遂行が高まった。自己モニタリング指導の有効性、および社会的スキル遂行および正確な自己モニタジングとの関係について考察が行われた。
著者
岡村 寿代 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.137-147, 2002-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、攻撃的な幼児を対象として、社会的スキル訓練(SST)を実施し、訓練の般化効果について検討した。さらに、訓練に参加した仲間が訓練対象児の社会的スキルの獲得にどのように貢献しているのかを検討した。3つの標的スキル(エントリースキル、適切なやりとりスキル、断られたときの対処スキル)を訓練するために16セッションからなる個別SSTが行われた。その結果、訓練対象児は、仲間に対する社会的働きかけ、仲間からの社会的働きかけを増加させ、攻撃行動を減少させた。さらに3か月後にもこれらの訓練効果が維持していることが示された。また、訓練対象児は仲間協力児だけではなく、訓練に参加していない仲間へも社会的働きかけを向けていたことが確認された。一方、訓練に参加した仲間の役割については、この仲間協力児も訓練対象児と持続的にやりとりをしていなかったことが明らかになった。
著者
伊井 俊貴
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.353-362, 2016-09-30 (Released:2019-04-27)
参考文献数
9
被引用文献数
2

脱フュージョンはアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)における六つの構成要素の一つであり、言語の意味が行動に影響を及ぼす効果を減らして、言語以外の行動基準がその瞬間によりよく機能できるようにすることを目的とする。本論文では脱フュージョンで「漢字」を利用した試みを紹介する。症例は50歳の慢性的なうつ病の患者で主訴は常に恐怖心があり落ち着かないことであった。全12セッションを行った。本症例ではセッションを通じて顕著な改善を認めた第3回目の脱フュージョンで工夫した点について論じる。まず、フュージョンしている言葉「落伍者」を繰り返し声に出してもらうワードリピーティングを行った後「楽娯社」という漢字を当てて再びワードリピーティングを行った。漢字を当てた後のほうが単に繰り返しただけのときよりも「言葉の意味が抜けた」と話し、Acceptance & Action Questionnaire-IIでも第3回以降に大きく改善を認めた。ワードリピーティングにおいて「漢字」を使用することが脱フュージョンの効果を高める可能性が示唆される。
著者
金井 嘉宏 嶋田 洋徳 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.159-170, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、脅威刺激に対する注意バイアスに対処スタイルが及ぼす影響について検討することであった。大学生50名を実験参加者とし、ドットプローブ課題を行った。単語の呈示条件は500ms,1500msの2条件であった。上下に対呈示された単語が消えるとすぐに、どちらかの単語と同じ位置にドットが呈示された。参加者はドットの位置の判断をボタン押しで求められた。注意バイアス得点を従属変数とする分散分析の結果、対処スタイルの主効果が有意傾向であった。対処スタイルによって注意の向け方は異なるが、注意の方向は明らかにされなかった。また、500ms条件では、脅威語に対する注意の向け方に対処スタイルによる違いはみられないが、1500ms条件ではsensitizersの注意の向け方は明らかにされなかったが、repressorsは脅威語に注意を向けることがわかった。本研究の結果は、不安の情報処理モデル理論から考察された。
著者
野田 航 石塚 祐香 石川 菜津美 宮崎 優 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.93-105, 2021-05-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究の目的は、発達障害のある児童2名の漢字の読みに対して刺激ペアリング手続きによる遠隔地学習支援を実施し、その効果と社会的妥当性について検討することであった。事例Iにおいてはタブレット端末による刺激ペアリング手続きの教材を用いた自律的な学習をビデオ通話およびメールで遠隔地学習支援を行い、事例IIにおいてはビデオ通話を用いて教材提示から評価までをすべて遠隔で実施した。両事例とも、課題間多層プローブデザインを用いて介入効果を検証した結果、漢字単語の読みの正答率が向上した。また、対象児と保護者を対象に実施した社会的妥当性のインタビューから、本研究の遠隔地学習支援は高く評価されていた。一方で、事例Iにおいては介入効果の維持に一部課題が残った。介入効果を維持させるための介入手続きの改善、介入効果の般化の検討、介入実行度の検討など、今後の課題について考察した。
著者
武部 匡也 岸田 広平 佐藤 美幸 高橋 史 佐藤 寛
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.169-179, 2017-09-30 (Released:2017-10-31)
参考文献数
28

本研究の目的は、児童青年期の感情としての怒りの測定に特化した子ども用怒り感情尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することであった。小学4年生~中学3年生を対象に予備調査(n=101)および本調査(n=1,088)を実施した。その結果,1因子7項目の子ども用怒り感情尺度が作成され、「COSMIN」に基づいて検討したところ,十分な信頼性と部分的な妥当性が確認された。また,性別と発達段階で得点に差が認められ,男女ともに発達段階が上がるにつれて怒りを強く抱く傾向があること,そして,男子は女子に比べてその傾向が顕著であることが示唆された。さらに,項目反応理論による項目特性の分析では,子ども用怒り感情尺度は怒りを母平均よりも強く抱いている子どもに対して十分な測定精度を有していた。最後に,子ども用怒り感情尺度が怒りの認知行動療法に関する研究と実践の発展に貢献する可能性と本研究の限界,そして今後の課題が議論された。
著者
竹村 洋子 杉山 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.73-84, 2003-03-31 (Released:2019-04-06)

通常学級で発達障害児が示すいわゆる問題行動は回避行動としての機能をもち、教師の評価と関連した周囲との相互作用の中で、生起・維持している可能性がある。本研究では、攻撃行動を示す児童を対象に対人回避の低減を標的とした個別指導を行い、個別指導場面での児童の行動変化が、授業場面における児童と教師の行動、児童とのかかわりにおいて生じる問題に対する教師の評価に及ぼす影響について検討した。個別指導場面での児童の行動変化に伴い、授業場面での問題行動が低減し、教師への視線が増加した。教師が児童に接近する行動の生起頻度も増加したがその生起頻度は不安定で、児童の問題行動は再度増加傾向を示した。児童とのかかわりにおいて生じる問題に対する教師の評価については認知的評価尺度影響性因子の得点が増加、コーピング測定尺度各因子の得点が減少し、問題が示された。児童との相互作用における教師の評価と行動の関連について論じられた。
著者
野口 啓示
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.107-118, 2003-09-30 (Released:2019-04-06)

平成13年度の全国の児童相談所における児童虐待相談は、10年前と比べると21倍の23,274件となった。虐待は社会問題であり、被虐待児およびその親に対するケアやサポートは大きな関心事である。本稿においては、家族の再統合を目指し、虐待をした親のケアとして行ったペアレント・トレーニングの実践について論究したい。ここで用いたのは行動療法を基礎としてペアレント・トレーニングとしてアメリカで開発されたCommon Sense Parentingである。 Coercion theoryやsocial learning theoryを基礎として6セッションからなっている。虐待により施設入所となった親に対して行った実践報告を行いながら、虐待の防止・再発防止という取り組みへの本プログラムの有効性やプログラムの特徴について論究する。
著者
亀谷 知麻記 富田 望 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-022, (Released:2023-01-12)
参考文献数
30

社交不安の特徴として、他者からの否定的評価に対する恐れ(FNE)、他者からの肯定的評価に対する恐れ(FPE)、それらと関わる注意バイアスが挙げられる。注意バイアス研究の多くはFPEやポジティブ刺激を含めていないため、本研究ではFNEとFPEによって表情刺激への注意バイアスがどう異なるかを明らかにすることを目的とした。大学生と大学院生55名を対象に質問紙への回答と、否定顔、中性顔、肯定顔の表情画像を用い、否定顔への注意バイアス得点と肯定顔への注意バイアス得点を算出するドット・プローブ課題を実施した。その結果、FNEが高くなるほど否定顔に対する注意バイアスと有意に関連することが示された一方、LSASとより強い関連を示したFPEは注意バイアスと関係しないことが示された。今後はFPEの影響をさらに検討するために、実際の評価場面を使った研究の実施が望まれる。
著者
藤田 昌也 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.67-81, 2009-01-31 (Released:2019-04-06)

本研究では、3名の自閉症児の事例を通して、大学生に機軸反応訓練(Pivotal Response Treatments:PRT)を指導することにより、遊び場面で自閉症児と適切な相互作用を形成することができるかを検討した。大学生と自閉症児が1対1のペアとなる遊び場面を設け、4名の大学生に対して教示、モデリング、ロールプレイ、パフォーマンスフィードバックを用いてPRTの指導を行った。標的行動は自閉症児の社会的行動(相互作用行動と働きかけ行動)と大学生のPRT行動とし、遊び場面における標的行動の変化を観察した。その結果、3名の大学生のPRT行動は増加し、さまざまな遊びを通して3名のうち2名の自閉症児との相互作用を形成することができた。相互作用が増えても自閉症児からの働きかけ行動を引き出すことができなかったことは、今後の課題として残された。