著者
小倉 恵実
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.81-102, 2012-03

両大戦間期のアメリカでは,優生学運動が大衆化の様相を見せた。「赤ちゃんコンクール」や続く「ふさわしい家族」コンテストは,それを表す典型的なイベントで,アメリカ各州や郡の博覧会で頻繁に開かれ新聞でも第一面で大々的に報道された。科学の発達により,より視覚的で「わかりやすい」展示物を生産することが可能になったことも挙げられるが,このコンテストを支えていたのは,地方の女性達であり,彼女たちは優生学運動に参加することで自らのアイデンティティを獲得していったのである。
著者
並松 信久
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.239-278, 2014-03

仲原善忠(1890–1964)は,沖縄を代表する歴史および地理の研究者である。とくにオモロ研究者として著名である。沖縄県久米島生まれで,戦前期には主に地理の教育者として活躍する。沖縄研究には1939(昭和14)年頃から取り組んでいるが,久米島のオモロ研究が,そのきっかけとなる。そして『久米島史話』(弟の仲原善秀との共著,1940 年)など一連の歴史研究を発表している。仲原の歴史研究には,久米島の原体験から生まれる独自の歴史観と文化論が内包されている。仲原は沖縄がヤマトによって逆境におかれていたということだけではなく,沖縄の支配層の下に,さらに抑圧されていた離島の久米島の姿を描いている。 仲原の沖縄史研究は,次の四つの特徴がある。(1)按司と支配体制,(2)琉球王国の祭政一致体制,(3)久米島の経済的基盤,(4)久米島の地方役人と官僚システム,これらの特徴は久米島独特の思想を反映していた。そして久米島オモロの研究は,上記の(1)~(4)を裏付ける役割を果たしていた。 さらに戦後沖縄の状況を念頭に置いて,次の四つに仲原の歴史研究の特徴がある。(1) 沖縄の時代区分,(2)琉球と薩摩藩の関係,(3)ペリー来航と戦後の米軍占領,(4)ブラジル「勝ち組」への対応,であった。これらの戦後の沖縄史研究は,近代主義的な様相を帯びていたものの,その基本にあるのは郷土・久米島から生まれた歴史観であった。
著者
川合 全弘
出版者
京都産業大学
雑誌
産大法学 (ISSN:02863782)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.430-437, 2014-01
著者
ヤスパゼン マルテ[制作] 石川 桂子[訳]
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.445-469, 2013-03

ラジオドキュメンタリー(Radio Feature)は,第二次世界大戦後のドイツで音響芸術の新 たな形態として確立された。ラジオドキュメンタリーはラジオドラマとは異なり,事実,即ち ノンフィクションを扱う。その形態は実に多種多様なものが許され,音楽,言葉,サウンド が果たす役割は番組によってさまざまである。BBC でかつてドキュメンタリー部長を務めた ジョン・シオカリスは,「ドキュメンタリーは,ラジオが持つあらゆる可能性を駆使し,聴く 人の想像力をかきたて,世界への,そして人間存在への理解を深めさせてくれる」と述べている。 本稿は,ドイツの放送局であるドイツ文化ラジオ(Deutschlandradio Kultur)とバイエル ン放送局(Bayerischer Rundfunk)のために制作したラジオドキュメンタリー「想定外」の原 稿であり,2011 年3 月11 日に日本の東北地方を襲った大災害について長い時間をかけて調査 をした結果である。執筆者は,ルポルタージュの伝統的な手法に加えて,音響芸術学的で詩的 な要素も取り入れ,存在に関する実存的な問いに取り組んだ。それは,ここで扱う問いが今回 の大災害を経験した後では,もはや東北地方の人たちだけが改めて問いかけるようなものでは なくなってしまっているためである。 「想定外」は,2012 年のPrix Italia においてイタリア大統領特別賞を授与された。Prix Italia は,ラジオ・テレビ・インターネットに関する最も歴史のあり,最も重要な国際コンテ ストとして知られている。世界45 か国の公共放送あるいは民間放送がPrix Italia の正規会員 である。
著者
齊藤 健太郎
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.239-258, 2013-03

イギリスにおける熟練労働者への技能習得の訓練は、19 世紀以来の「自由な労働市場」の枠組みを背 景に、使用者・労働者双方のボランタリズムによって形成されてきた。これは、20 世紀初頭から漸進的 に導入された一般的な職業訓練でも同様であり、政府が職業教育に介入することは20 世紀中半に至るま で稀であった。しかし、第二次大戦後、1960 年代より、福祉国家的諸政策の展開から、職業訓練にも政 府が積極的に介入するようになる。その後、1980 年代、この傾向はサッチャリズムと市場主義的な新自 由主義政策の展開によって減速し、保守党政権の末期には、伝統的な職業訓練である徒弟制度の再編と 拡大という形をとりつつ、使用者主導のボランタリズムが再生する。1997 年に政権についた「新しい労 働党」は、この方向を維持しつつ、徒弟制度の拡大をはかるが、訓練の到達度はむしろ後退した。さら に、2010 年に政権についた連立政府において、その政策全体における職業訓練の優先順位はむしろ低下 し、イギリスにおける職業教育は現在、多くの困難に直面している。
著者
山下 辰夫 堀田 幸平 佐藤 克信 林 大介 北波 赳彦
出版者
京都産業大学
雑誌
高等教育フォーラム (ISSN:21862907)
巻号頁・発行日
no.5, pp.197-203, 2015

近年は大学にグローバル人材の育成が求められており,京都産業大学は,2012 年に文部科学省の「グローバル人材育成推進事業」に採択され,その構想調書のなかで事務職員の語学力向上についても言及している。グローバル人材の定義は様々であり,もちろん一般教養をはじめとした能力も求められるが,語学能力は必須であり,京都産業大学では事務職員を対象に海外語学研修を毎年実施している。本稿は2014 年の夏にタイのチェンマイ大学で今年度より新たに実施された研修に参加した5 名の報告をまとめたものである。研修の内容を中心にまとめており,次年度以降に本研修が継続されるかは現時点では未定であるが,もし継続されるのであれば本稿が研修参加者の参考となれば幸いである。また,本プログラムがより良いものとなるために帰国後に行った振り返りをもとに研修プログラムへの改善等についても言及している。
著者
長谷川 晶子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.365-381, 2014-03

本論の目的は,フランスの美術批評家アンドレ・ブルトンが,1938 年にメキシコに滞在した折に出会ったメキシコの有名な写真家マヌエル・アルバレス・ブラーボから受けた影響を明らかにすることにある。ブルトンのテクスト「マヌエル・アルバレス・ブラーボ」(1938 年)と「メキシコの思い出」(1939 年)を手掛かりとして,そこで言及されているアルバレス・ブラーボの写真を詳細に分析しながら,ブルトンがメキシコという土地の特異性をどのように捉えようとしたかを解明する。ブルトンは,西洋中心主義の立場で非西洋の文化を解釈する安易なエグゾティスムに対して批判的だった。ブルトンはアルバレス・ブラーボの写真を,ステレオタイプ化されたメキシコではなく,「土地の魂」をつかんでいるものだと評価している。フランス人である自分もまたエグゾティスムの眼差しから逃れ難いことを承知していたブルトンは,メキシコ滞在の経験を記す上で,解釈を一旦括弧に入れて事物の描写に固執する。あたかもアルバレス・ブラーボの写真の中に光と影の対立から生と死の循環の原理を見出したように,個別の事物の具体的描写を通して,メキシコの土地に潜む普遍的性質を垣間見ようとするのだ。見えるものを通して見えないものを表現するアルバレス・ブラーボの寓意的な写真と重なりあうようなこのブルトンの姿勢は,芸術批評が写真をモデルとして執筆されたことを強く示唆している。
著者
松川 克彦
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 社会科学系列 (ISSN:02879719)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.249-272, 2014-03

山本五十六提督はアメリカ駐在武官も勤め、同国の実力を熟知していたが故に、アメリカとの間の戦争に反対であったといわれている。したがって日独伊三国同盟にも反対であった。しかしながら、日米関係が緊張してくると、アメリカ太平洋艦隊の基地真珠湾を攻撃する計画を作成、その計画実現に向けて強引な働きかけを行った。 これをみると、山本は果たして本当に平和を望んでいたのかどうかについて疑問が起こってくる。一方で平和を望みその実現に努力したと言われながら、実際にはアメリカとの戦争実現に向けて最大限の努力を行った人物でもある。 本論は山本が軍令部に提出した真珠湾攻撃の計画が実際にどのようにして採択されたのか。それは具体的にはいつのことなのか。またその際用兵の最高責任者、軍令部総長であった永野修身はどのような役割を果たしたのかについて言及する。これを通じて、もし山本の計画が存在しなければ、あるいはこれほどまでに計画実現に執着しなければアメリカとの戦争実現は困難だったのではないだろうかという点について論述する。 日米開戦原因については多くの研究の蓄積がある。しかしながら山本五十六の果たした役割についてはいまだに不明の部分が多いと考える。それが、従来あまり触れられることのなかった山本五十六の開戦責任について、この試論を書いた理由である。
著者
山本 啓二 矢野 道雄
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

プトレマイオスによる『テトラビブロス』のアラビア語校訂版を作成する過程で初めて得られた知見は、9世紀のフナイン・イブン・イスハークが改訂したとされるアラビア語写本が全部で9種類現存することが確認できたこと、サービト・イブン・クッラ(9世紀)がナイン版にどの程度手を加えたかが判明したこと、そしてフナイン版とウマル版がともに、現存する唯一のシリア語写本から翻訳されたものではないことが判明したことである。
著者
川又 啓子
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題で実施した日仏出版社へのインタビュー調査から、コンテンツ創造には「信頼」が最重要要因であることが示された。マンガはハイリスクなビジネスであるがゆえに、創造基盤としての「信頼」(タスクに対する信頼(task reliability))と編集者の誠実さ(integrity))の重要性が当事者間で強く認識されている。しかし、作家・編集者の関係が成熟するにつれて、当事者間での意識が希薄になるのは、「信頼」が制作システムに埋め込まれるためであると考えられる。
著者
ストレフォード パトリック
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究者は、ヤンゴン、ミャンマーのフィールド調査を実施した。このフィールド調査中にミャンマーの開発に対する専門家にインタビューを行った(例;国際コンサルタント、大使館の官僚、現地の研究者)。また、論文が国際学術誌に掲載された。さらに、研究者のアカデミックネットワークの拡大により、招待者のみが参加できる国際学会・国際ワークショップに参加することができた。ミャンマー戦略国際問題研究所とも親密な関係を結ぶことができた。
著者
寺井 晃
出版者
京都産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究において研究代表者は,期待インフレ率についての理論・実証分析を行った.まず,候補者の選好が選挙制度でどのような結果をもたらすのか,モンテカルロシミュレーションを行った.小選挙区制度では経験則として知られる「3乗法則」よりも議席数は偏り,比例代表制度は概ね有権者の選好を反映する議席数となる結果を得た.次いで,期待インフレ率の回答者の分布が「混合分布」から生じているのではないかと考え,当てはめを行った.こうして得た期待インフレ率の系列は,合理性の検定の結果,一定程度の優位性が認められた.