著者
黒田 彰 坪井 直子 筒井 大祐
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.1-18, 2012-03-01

八幡縁起は古代、中世に流行した八幡信仰を背景とする縁起絵巻で、北野縁起などと共に我が国の社寺縁起を代表する絵巻の一である。小稿では従来、甲乙類に分類される八幡縁起絵巻の乙類に属すると見られる新出資料、愛知県刈谷市の榊原家の所蔵に掛る、八幡の本地二巻をカラー影印、翻刻により紹介する。本号に収録するのは、その下巻で、本誌前号(95号)収録の上巻に続くものである。榊原本の書誌的事項や翻刻の方針などについては、前号の略解題を参照されたい。なお『京都語文』18号(平成23年11月)には、同じ八幡縁起絵巻甲類の新出資料、鰐鳴八幡宮本八幡大菩薩御縁起(上下巻)を紹介したので、併せての参照を乞う。
著者
中野 加奈子
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.221-235, 2007-03-01

退院援助は、日本に医療ソーシャルワークが導入されて以来取り組まれてきた医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)の主要な業務の一つである。これまでの歴史の中で、MSWは、社会問題としての生活問題の解決に取り組む実践を積み重ね、実践の中から退院援助の理論を構築してきた。しかし一方で、これまで「退院問題」「退院計画」「退院援助」という用語は曖昧な使われ方をしており、さらに、医療制度の様々な「改正」によって、医療ソーシャルワークが機能し得ない状況が起こりつつある。本論では、上記の用語の概念整理を行い、「退院援助」において、MSWが患者・家族の様々な生活問題を捉え、それらの解決・調整をしながら、患者・家族の主体形成にも関わる援助を行っていることを明らかにした。さらに、今後は、生活全体を捉える視点からの生活問題のアセスメントや、退院援助対象者のスクリーニングの「標準化」が必要であり、さらに退院後のフォローアップが必要となることを考察していくものである。
著者
水谷 幸正 藤堂 俊英 渡辺 千寿子 場知賀 礼文 藤本 浄彦 小西 輝夫 田宮 仁
出版者
佛教大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

医療技術の進歩と高齢化社会の到来によって、より問題化してきた終末看護に、仏教的叡智を体して対応しうる人材を養成することは、その原理的精神を継承する日本仏教の、またそれを教授指導する仏教系学府の今日的使命の一つであるといえる。そうした認識をふまえて本研究は三期七年にわたる「仏教とターミナル・ケアに関する研究」を先行する基礎的理論的研究とし、さらにその成果をもとに平成5年4月より本学専攻科内に本邦で最初の仏教看護コースを開設した。その就学者には看護僧をめざす僧尼ばかりでなく、第一線の看護、社会福祉、社会教育に携わる人々も含まれることになり、仏教精神を体した日本的ターミナルケアの本格的な稼働が如何に待望されているかを知らしめられることになった。今回の一期二年にわたる研究は当該コースにおける教授指導を通してターミナルケア従事者、特に仏教看護僧の養成に当っての教授法やカリキュラムについて多角的、また統合的な検討を加えて行った。その成果は順次、仏教看護コースの教授の中に活かされ、その充実に資するところとなった。仏教看護コースの修学年限は一ヶ年(二年まで可)であるが、欧米では定着している大学院レヴェルでの教育システムの中で専門家を養成して行くことで、日本におけるターミナルケア従事者の裾野を充実したものに広げて行くことが次の課題となった。またそうした構想の実現を通して、日本社会におけるターミナルケア従事者、仏教看護者の受け入れ体制も徐々に整って行くことであろう。尚、先行する「仏教とターミナルケアに関する研究」の三冊の報告書が新たな編集のもとに法蔵館(京都)より出版されることとなった。この公刊により日本におけるターミナルケアに対する理解が一層深まることを期待したい。
著者
孫 ■■
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.19-34, 2012-03-01

韓国でも人口高齢化に伴い同居率の低下,家族の介護力が低下している。一方では要介護高齢者の増加,要介護期間の長期化,家族の身体的・経済的・心理的な負担は増加している。このような状況から家族介護システムから社会的介護システムへの転換としての韓国型の介護保険制度が2008年7月から施行され,4年目を迎えている。長期療養保険施行以後の認定者及び利用者は,毎年増加する傾向にある。最近の保健福祉部・国民健康保険公団の2011年老人長期療養保険施行3周年記念シンポジウムの資料によれば,2008年の認定数者14万人と利用者数7万人は,2009年には認定者数26万人と利用者数18万人,2011年3月には認定者数32万人と利用者数28万人まで増加している。又,要介護の認定申請から外された潜在的な長期療養対象者も現在(2011年3月基準)約37万人であり,潜在的な長期療養者に対する支援も必要である。このような韓国の高齢社会の状況と公的介護保障制度である「老人長期療養保険制度」の施行後の動向と成果及び課題が注目される。
著者
池田 昌広
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.93-107, 2007-03-01

今日の我々にとって、『日本書紀』の抑もの書名は未定といわねばならない。何となれば『日本書紀』の現存古写本が凡そ「日本書紀」の標題であるのに、その撰上を唯一伝える『続日本紀』養老四年条が「日本紀」を以て喚名するからである。この齟齬に合理的解説を与えるのが書名論の具体である。私は明解の考拠を得るため、関連史料を整理したうえで先行学説から継承すべき視点を抽出した。その結果、原題を「日本紀」に認め、「日本書紀」の名称を『日本書紀』撰上以後天平十年頃以前の所為に考えるべきを述べた。并せて、『日本書紀』の史体が六朝時代に流行した「通史」体であること、「日本書紀」の名称の発明された理由と「隋書」「経籍志」に初出する「正史」の概念の伝来とが関連しているだろうことを述べた。
著者
山崎 瞳 原 清治
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学教育学部学会紀要 (ISSN:13474782)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.155-172, 2010-03-15

現在、子どもたちのなかでケータイ電話を介したネットいじめの問題が深刻化している。こうした事態に対処するため、2008年6月に18歳未満の青少年がケータイを利用する場合には、保護者からの申し出がある場合を除いてフィルタリングを適用することを各ケータイ電話会社に対して義務付ける「青少年ネット規制法」が成立した。しかし、フィルタリングの導入はネットいじめの「万能薬」とは言いがたく、子どもたちを守る本質的な取り組みが喫緊の課題となっている。本研究が注目するのは、ケータイ電話利用を始める際の「モラル教育」のあり方である。昨年度に京都府下の小学校においてネットいじめに関する予備調査を実施し、以下の知見を得た。(1)小学生の30%前後がすでにケータイ電話を所有すること、(2)ネットいじめの被害とケータイの使用頻度(内容)は相関すること、(3)ケータイ利用に関しては、必ずしもその導入期に家庭におけるルールが成立していないことである。 本研究では、京都市教育委員会の協力を得て、市内に在住する小学生の児童に対してアンケート調査を実施し、予備調査において明らかとなった子どもたちのネットいじめの実態を精緻に分析するとともに、その元凶ともいわれるケータイ電話利用に関する意識調査を実施した。結果として、(1)小学生のおよそ3割程度がケータイ電話を所有していること、(2)小学生の12.5%は何らかのネットいじめの被害経験をもつこと、(3)ネットいじめの被害と相関関係にある項目として(1)性別、(2)1日あたりの平均メール回数、(3)家庭でのケータイやインターネット利用に関するルールの有無があげられ、ネットいじめの被害者となった児童はネットいじめの加害者となりやすい傾向が明らかとなった
著者
青山 忠正
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.61-74, 2001-03-25
著者
熊谷 貴史
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学総合研究所紀要 (ISSN:13405942)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.63-85, 2011-03-25

仏教には高僧らが神秘的な宗教体験によって仏・菩薩などの形姿を観じ、〈感得〉するという概念がある。またその感得により得た視覚的イメージを、彫刻や絵画で表したものを〈感得像〉という。宗教概念である〈感得〉と造形化された〈感得像〉が不可分の関係にあろうことは言を俟たないが、そこに内在する宗教的意義の解釈と、像に対する仏教美術としての芸術的評価は多くの場合別個に論じられ、宗教性と芸術性が結び付けられることは概して少ない。本稿の目的は〈感得〉の概念を大局的に捉え直すことにより、具現化された〈感得像〉の意義を再考することにある。すなわち〈感得〉とは規範を前提としない尊容の獲得であり、初発的性質が評価される事象と考えられる。その初発的なイメージを反映する〈感得像〉は、図像的要素のみでは解釈し得ない、神仏顕現の奇跡を具現化しようとする全体観における異相(威相)の表現によって、本来の意義が見出される可能性を指摘する。
著者
林 悠子
出版者
佛教大学
雑誌
社会福祉学部論集 (ISSN:13493922)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.77-94, 2011-03-01

本稿の目的は,保育の質において重要であるとされる「過程の質」は保育者にとってどのように経験されているのかを,保育記録の質的分析より明らかにすることである。筆者が保育者として記した保育記録の内容をKJ法を用いて分析した結果,保育者がその日の実践を振り返り書き残したことは8つのグループに分類でき,その特徴から保育者は子ども・保育者・職員・保護者との関係性を重視していることが明らかになった。グループ間の意味の連関からは,子どもの育ちへの願いを持った保育者が子どもと出会い,子どもの行為の意味を考え,次の関わりを展開する,保育者と子どもとの関わりの積み重ねの中に「過程の質」が見いだせることが考察できた。
著者
若尾 典子
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

男性あるいは女性加害者への介入プログラムは、ドメステック・バイオレンスの場合も児童虐待の場合も、ジェンダーに敏感な視点が必要である。なぜなら親密な暴力は、個人のジェンダー意識(ジェンダー・アイデンティティーと言い換えることもできる)に基づく行動の一つだからである。個人のジェンダー意識に基づく行動は多様であり、社会的に確立しているジェンダー意識を直接に反映することもあるが、反対の行動をとることもある。例えば、女性加害者は女性役割や母親役割に反して、暴力をふるう。それは、彼女の個人的ジェンダー意識が社会的ジェンダー意識にとらわれ、反発あるいは過剰な適応として、暴力行為にいたるからである。加害者への介入プログラムは、被害者支援の観点から、加害者の個人的ジェンダー意識を変化させることを重視して実行される必要がある。そのためには、家族支援の専門家としてソーシャル・ワーカーを児童虐待防止法に明確に位置付けることと、すべての関係者にジェンダーに敏感な視点から家族関係を把握する共通理解を確保することが、求められる。
著者
黒田 彰 後藤 昭雄 三木 雅博 山崎 誠 後藤 昭雄 三木 雅博 山崎 誠
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、古代幼学の実態解明に向けて、孝子伝(図)、列女伝(図)、体腔か陽など、未解明の題材を取り上げ、発展的研究を目差したものである。中で、後述日中共同研究による和林格爾後漢壁画墓の未公開の孝子伝図、列女伝図を含む、全壁画の公開報告書の公刊や、太公家教の現存全本の校本と校訂本文の作成、注解などの公刊(『太公家教注解』、汲古書院)を中心とする、学際的特色をもった成果を齎すことが出来た。
著者
達富 洋二 森山 卓郎
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、教室談話の記録を分析した。その結果、生活語レジス ターによる発話には,生活語レジスターによる発話には指標的な機能をもつ発話があるという 特徴があることが明らかになった。教師が子どもの発話を聞く時に、生活語レジスターによる発話にはこれらの特徴があることを理解したうえで、子どもの発話に関与していくことで、教 室談話が創造的なものになることが分かった。
著者
中田 智恵海
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

セルフヘルプグループ(以下SHG)の援助の特性として認知されている接近容易性や即応性がリーダーを疲弊させ、スムースな交代を困難にしている。後継者の育成にはメンバーのエンパワメントを諮る中でリーダーが育っていく。そのためにはピアサポート研修が必要であることが明らかとなり、ピアサポート研修のテキストを作成、改善しつつ、研修を重ねて一定の成果を得た。
著者
佐古 愛己
出版者
佛教大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

古代都城平安京から中世都市京都への変貌は、従来、京域内の変化に関しては、律令制的都市支配制度の形骸化、解体による治安の悪化や都市民による巷所の形成など、権力の弱体化や不在が中世都市の形成に繋がったとする視角が主流であった。本研究では、度重なる御所の焼失や頻繁にみられる天皇や上皇などの居所の移動(移徙)が、院政期に次々に実施される新宅(内裏・里内裏や院御所)造営と密接に関連しており、さらにその背景には、造営を請け負う受領をめぐる人事との関係がみられる点を明らかにして、当該期の政治・経済・人事制度に関連する構造的な問題の存在と、権力者により積極的に中世的都市の構築が図られていた側面を指摘した。
著者
山本 健治
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.91-101, 2008-03-01

本研究では、青年期の精神的自立の課題について、職業観や勤労観、また親子関係を含む対人関係との関連から考察を試みた。方法としては、高校生を対象にこれらのことに関する意識調査を実施し、その結果について分析した。同時に「ひきこもりの心理特性」を測る調査を実施し、抽出されたそれぞれの因子と前述の職業観・勤労観及び対人関係との関係を回帰分析等を用いて精査した。その結果、ひきこもりの心理特性を持つ者は、学業から職業への移行について、さまざまな不安を抱えていることが明らかになった。対人関係においても、信頼できる人や、困ったことを相談できる人の存在に乏しく、信頼感に基づいた一体感を感じられないでいることがわかった。それらの要因を探るなかで、生来の個性とは別に、幼児期、児童期から連続する発達課題の問題として、この問題を捉え直すことが重要である。精神的自立ひきこもり心理特性職業観対人関係
著者
荒木 猛
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.69-87, 2000-03-01

明代に時行された「金瓶梅」には、うちに「水滸伝」の影響を色濃く残す「金瓶梅詞話」と、それにいろいろと手を加え作品としてより完成度の向上に務めた「新刻繍像批評金瓶梅」の両種の版本がある。この両種の版本にはさまざまな相違があるが、中でも、回目と標題詩の違いが顕著である。本稿は、この回目と標題詩にどのような違いがあるかを解明し、少なくとも、この両種の版本の編者は同一人物ではなかったであろうことを論じた。
著者
眞砂 照美
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.175-191, 2001-03-01

視覚障害をもつ人の学習は、一般に点字図書と録音図書を使用して行われるが、わが国では、そのほとんどがボランティアによって制作されており、その絶対量の不足とジャンルの偏りが指摘されている。視覚障害者の学習環境は十分に整備されているとは言い難い状況である。本稿は、音訳活動をボランティアとしての捉え方ではなく、生涯教育の視点から考察するところに特長がある。まず盲先覚者の学び方を取り上げ、読みという活動について整理し、さらに非文字情報の音訳化の実験を通して音訳活動の性格について検討した。その結果、音訳活動には、読み手側の学習経験や読む能力が大きく影響し、視覚障害者のための音訳活動が結果的に、音訳者自身にとっても新たな学習形態を創り出すことが明らかになった。