著者
吉本 秀之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.372-375, 2017-08-20 (Released:2018-02-01)
参考文献数
4

アリストテレスの四元素説(火は,水,土,空気とならび四元素の1つであった),パラケルスス派の三原質(エン,スイギン,イオウの3つのうち,イオウは可燃性を担う原質と位置づけられていた)という17世紀までの元素説・原質説の基本をまず紹介しよう。そして,こうした背景に対し,ベッヒャーとシュタールのフロギストン説は,一体何であったのかを解説しよう。
著者
戸谷 吉博
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.434-437, 2009-09-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

多くの生物は好気条件下において,1分子のグルコースを完全に酸化することで最大38分子のATPを獲得する。このような代謝における生化学反応の多くは酵素の触媒によって進行する。また,細胞内の代謝物質の量を一定に保つため,複雑な調節メカニズムによって制御されている。
著者
藤田 晴久 福島 紘司 桜井 敏晴 福間 真理子 瀬戸 淑子 藤田 知信 伊藤 光一 篠原 紀夫 由本 靖 石原 俊信
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.5, pp.566-574, 1990-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

有機ケイ素化合物の抗腫瘍活性を培養細胞系と実験動物移植腫瘍系を用いて検討した。50種類の化合物には培養細胞系においてEhrlichがん,肉腫-180.Lewis肺がんおよびB-16メラノーマに対して細胞増殖抑制効果を示す化合物が認められ,また,マウス移植腫瘍系においても上記の各固形腫瘍に対して経口投与によって有効な抗腫瘍活性を現わす化合物が見いだされた.中でも2-(2-Trimethylsilylethy1)thiaethylamine(SDK-12A)は最も強い活性を示し,その効果は抗がん剤5-FUのそれに匹敵するものであった。さらに,SDK-12AはLewis肺がんの転移を有意に抑制し.遅延型免疫機能賦活化作用も認められた。またSDK-12Aは実験動物において毒性面では安全性の高い化合物であった。これらの結果は,SDK-12Aが多面的作用を持った特異な化合物であり,抗がん剤開発の研究領域からみて興味ある物質である。
著者
高橋 一正 宇田川 毅 草葉 義夫 村松 岳彦 天野 壮泰 谷岡 慎一 市野 富雄 中野 清志 村上 一方 畔 和夫 奈良部 幸夫 今井 昭生 小西 優介 天田 巌
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.9, pp.1571-1575, 1989-09-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

波長可変レーザー装置を用いてcis-ビタミンK2(cis-VK2)→trans-ビタミンK2(trans-VK2)の光異性化反応を試みた。cis-VK2またはtrans-VK2の溶液に紫外から可視領域のレーザー光を照射し,それぞれの異性化量を測定した。その結果,cis-5-VK2→trans-VK2の異性化に有効な波長は280~460nmであり,とくに435と355nmが高い異性化率を示した。trans-VK2→cis-VK2の異性化反亦も同時に進行するがその速度は遅く,光平衡組成はtrans-VK2/cis-VK27/3となった。また異性化反応は溶媒の影響を受け極性溶媒よりも無極性溶媒が有効であった。cis-VK2→trans-VK2の異性化はテトラプレニル側鎖中のナフトキノン骨格にもっとも近い二重結合で起こり,他の二重結合部では起こらず選択的反応である。窒素雰囲気下でのおもな副生成物はメナクロメノロ一ルであった。これらの結果から異性化反応過程を推定した。
著者
黒崎 博雅 阿南 秀基 木村 栄一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.691-697, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
18
被引用文献数
5

ブレオマイシン金属配位部位の新モデル配位子L1,L2を合成し,水溶液中におけるCu(II)およびFe(II)との錯生成および,それらの錯体の化学的性質についてブレオマイシンと比較検討した。カルバモイル基の存在が,鉄錯体生成には必須であることが,L1,L2の比較により明らかとなり,その理由について考察した。L2の鋼(II)錯体は,3モルのシステイン存在下で鉄(II)錯体と金属交換が起こること,および鉄錯体は分子状酸素を活性化し,DNAを切断することなど,L2はブレオマイシンの挙動によく類似する。そのDNA切断能は,EDTA-鉄錯体とほぼ同じであるが,ブレオマイシンよりは弱いことも明らかとなった。
著者
長倉 三郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:24326542)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.377-382, 1963-12-20 (Released:2017-09-23)

水の分子は, 複雑な有機化合物の分子に比べれば, 簡単な構造をもっており, 分子内の原子の配置は, 最近の分子構造研究法, とくにマイクロ波分光学の進歩によって, 厳密に決定できるようになった。一方水や氷は, こうした比較的簡単な分子の集団にもかかわらず, いろいろな熱的性質や電気的性質などにおいて, 著しい異常性を示すことはよく知られている。水の沸点や融点が類似の化合物に比べて異常に高いとか, 4℃で密度がもっとも大きくなるというのは, こうした異常性の例であるが, その原因は分子間の特殊な結合力-水素結合と呼ばれる-にあることが明らかになっている。そこで, ここでは水素結合の問題を中心にして, 水の二, 三の性質を分子論的な立場から説明してゆきたいと思う。
著者
後飯塚 由香里
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.206-208, 2014-04-20 (Released:2017-06-16)
参考文献数
6
被引用文献数
2
著者
高田 誠二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.574-578, 1998-09-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
5
被引用文献数
1

気体の状態方程式に現われる定数R(いわゆる気体定数)は, 教育上どのように扱われているか-それを概説した上で, 計測上の問題を吟味し, 併せて, 定数の意味, 記号および数値の科学史上の知見を紹介する。
著者
新村 典康 宮腰 哲雄 小野寺 潤 樋口 哲夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.9, pp.724-729, 1995
被引用文献数
5

試料の形状を問わず,短時間で微量試料の分析が可能な熱分解GC-MS(PY-GC-MS)を用いて漆膜の分析を行った.今回測定に用いた熱分解法は,従来から用いられてきた瞬間熱分解法と比較的新しい手法である二段熱分解法を併用した.瞬間熱分解法は一段法と呼ばれ,混合熱分解クロマトグラムが得られる.これに対して二段熱分解法はポリマー中の揮発性成分と基質ポリマーの熱分解成分を二段階に分けて分析する手法である.従って漆膜のように複合的な天然塗膜の分析には有効な手法であると推定した.本研究では,まず一段法を用い,漆樹液から単離したゴム質,含窒素化合物,ウルシオール成分を分析し,各成分の検出に最適な加熱炉温度を検討した.次に二段法によって,漆膜を熱分解分析した.その結果,ウルシオールポリマー骨格成分の解析を容易に行うことができ,これまで不明であった漆膜の高次の重合機構を解明した.それにより,ウルシオールの塗膜形成時に側鎖一側鎖のC-Cカップリソグや芳香環と側鎖の間のC-Oカップリソグがかなり進行していることが明らかになった.
著者
青山 肇 草柳 賀一 四辻 美奈子 北山 功 山口 友伸 児玉 勉
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.12, pp.1765-1770, 1986-12-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24
被引用文献数
3

5-フルオロ-2'-デオキシ-β-ウリジン〔5〕の合成法について検討した。Brφnsted酸の存在下,5-フルオロ-2,4-ビス(トリメチルシリルオキシ)ピリミジン〔1〕は立体運択的に3,5-ビス[O-(p-クロロベンゾイル)]-2-デオキシ-α-D-リボフラノシルクロリド〔2〕と反応し,3,5なビス[O-(p-クロロベンゾイル)]-5-フルオロ-2'デオキシ-β-ウリジン〔3〕を高収率で与えた。反応生成物の立体異性体の比率は添加されたBrφnsted酸の種類により変化し,p-ニトロフェノールの存在下では,〔3〕は92%の収率で得られた。β-立体選択性は,モル比〔1〕/〔2〕を上げることにより増加し,下げることにより減少した。一方,この反応に極微量の塩化鉄(III)を存在させると,β-立体選択性は低下し,その値は塩化鉄(III)の濃度に逆比例した。〔1〕と〔2〕との反応はSN1とSN2との両反応機構を経由して競争的に進行し,この反応速度比がβ一立体選択性を定めていると思われる。〔3〕にアンモニア/メタノール溶液を作用させることにより,反応および単離精製が容易になり,高収率で〔5〕が得られた。
著者
横越 英彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.394-397, 2011-08-20 (Released:2017-06-30)

食品を何故摂取するか?従来の栄養学では,食品成分が身体に取り込まれ,その後の栄養素の役割,あるいは,食品成分の生理機能に関する研究が中心であった。しかし,美味しそうな料理を目にし,香りを嗅いだだけでお腹が鳴るし,食事をとれば気分がよく,幸福感に満たされる。すなわち,食品には,喜怒哀楽といった情動に関与する機能もありそうだ。
著者
横井 弘 菊地 毅光 花木 昭
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1594-1600, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
45
被引用文献数
2

pH10の水溶液中のトリグリシン(グリシルグリシルグリシン),テトラグリシン,ペンタグリシン,ヘキサグリシン,オクタグリシンの1:1銅(II)錯体は,どれもよく似た状況で,単量体との平衡系として,二量体生成をすることがESR法で明らかとなった。さらに,グリシンアミド,グリシルグリシンアミド,ビウレットの銅(II)錯体もpH12で二量体を生成することがわかった。テトラグリシン錯体について,単量体と二量体のESRシグナル強度比の濃度依存性から,単量体と二量体問の平衡定数(0℃付近)が460mol・dm-3と求まった。また,二量体ESRスペクトルのΔM=2遷移強度の温度依存性から,これら二量体のスピン交換相互作用エネルギーは,ほぼ-1cm-1程度であることが推定できた。観測した二量体ESRスペクトルのすべては計算機シミュレーション法で解析し,平行平衝型二量体の構造パラメーターのr(Cu-Cu距離)とξ(Cu--Cu軸と分子面垂線とのなす角度)を推定した。ゆそれによれば,トリグリシン錯体の二量体(r=3.3Å;ξ=40°)は,結晶内の二量体構造と同一であるゆこと,しかし,ほかの錯体の二量体(r=4.0-4.3Å;ξ ≦15°)は,結晶内のものとは一致せず,配位面を真上近くでたがいに重ね合わせたような二量体構造をもつことがわかった。また,この種の錯体が二量化能をもつためには,分子内に2個以上の脱プロトンしたペプチド(アミド基)窒素原子の配位が必要であり,金属イオンとこれら脱プロトンしたアミド基がπ-電子系を構成し,そのような二つの錯体分子間にはたらくいわゆるπ-π 相互作用が,二量化の主要な駆動力と考えられる。
著者
鷹野 景子 細矢 治夫 岩田 末廣
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1395-1403, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

古典的な酸化数概念を検討するために分子内のある特定の原子種に注目し,原子のまわりでの精密な電子数解析を,非経験的分子軌道法(ab initio MO method)に基づいて系統的に行なった。対象とした原子種は,H,C,N,O,F,P,S,Clである。正四面体型イオン,XO4n-(X=si,P,S,Cl,Ar)の系列についても計籏を行なった。ある原子を中心とし,半径Rの球における差球平均電子密度,Δρo(R)=ρo(R)-〓 ρoi(R)を種々の精度で計算し,基底関数依存性も調べた。その結果,原子のまわオりの電子数の変化は古典的な酸化数から予測されるほど大きくないが,Δρo(R)の値はわずかながらも段階的な有意の差を示し,古典的な酸化数に比例する量として解釈できることがおかった。このことは無機化合物だけでなく,有機化合物にもあてはまる。さらに,著者らの電子数解析と古典的な概念の間の一致を得るためには,CH,PH,NH,NOのようなイオン性の小さい結合に対して,酸化数の古典的な割りふりをつぎのように小修正すべきであることがわかった。C-H+1 → C-H+0.5 ; P-H+I → P-H0N-H+1 → N-H0.5 ; N-O-II → N-0-1
著者
井本 稔 大内 辰郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.4, pp.585-590, 1986-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1

Hückel MO法およびab initio RHF MO法によってラジカル重合における成長反応の活性化エネルギーEp≠ は, ラジカルのSOMOとモノマーのLUMOの固有値の差幅が大きいほど小さくなることを知った。また笛野らの報告によって, 6種のラジカルがエチレンに付加する場合にも同じ結論になることを計算した。その結果は式(3)としてまとめられる。その理由を7種のモノマーの成長反応について考察した。ラジカルのSOMOはまずモノマーのHOMOと作用する(摂動エネルギー, ΔE1)。新しくできるSOMOはつぎにLUMOと作用する(摂動エネルギー,ΔE2)。SOMO-HOMOの摂動では電子はモノマーからラジカルに流れ, SOMO-LUMOの摂動では電子はラジカルからモノマーに移行する。その電荷移動の大きさはΔEに比例する。この場合はΔE1の方がΔE2より大きく, したがってモノマーからラジカルへ電荷移動が起こる。その電荷移動が成長反応のすすむ条件の1部になるとして, 次式(10)を提出した。Ep≠=C-γ(ΔE1-ΔE2) (10)式(10)から式(3)を導くことは容易であった。ただしフロンティァMOで計算したΔE1が1.9±0.4eVという定数値になることが式(3)の誘導を可能した。
著者
水野 忠雄
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.68-73, 2011-02-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
5

オゾンと聞けば,まず「オゾン層」を思い浮かべる方は多いだろう。オゾン層については,その人為的な破壊が問題となっているが,なぜ問題となるのか?それは,オゾンが生態に影響を与える紫外線を吸収する性質を持っているからである。この性質は,オゾンの濃度測定にも利用される。また,オゾン層が生成する理由は,紫外線により酸素からオゾンが生成するからである。この事実は,オゾンの製造に利用される。ただし,現在では高濃度・大容量のオゾンを発生させるためには放電や水の電気分解を利用している。本ヘッドラインでは,このようにして発生させたオゾンが非常に身近もしくは幅広い分野で用いられていることが紹介されている。ここでは,オゾンの強い酸化力が利用されている。本稿では,まずオゾンに関する基礎知識として,物理化学的特性,反応などについて紹介する。そしてオゾンを利用するための,オゾンの発生方法,濃度測定方法を紹介する。最後に,オゾンを用いた素晴らしい技術は,適切な使用によるものであるとの観点から,オゾンの動物や人体への影響・安全基準をまとめ,安全な利用を促した。
著者
岡本 拓司
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.32-35, 2019-01-20 (Released:2020-01-01)
参考文献数
5

ノーベル賞は,大きな賞金の額と,推薦を国際的に集める選考過程に特徴がある。同賞の最初の授賞は1901年に行われたが,この年すでに,日本の医学者,北里柴三郎の名前が候補者の中にあった。ノーベル賞を初めて受賞した日本人は湯川秀樹であったが(物理学賞,1949年),それ以前から同賞と日本の関わりは始まっており,人工癌の発生に成功した山極勝三郎のように,1920年代に受賞に近づいた者もあった。湯川,朝永振一郎(1965年)と続いた理論物理学者の受賞は,20世紀初頭の物理学の変革の産物であるとも解釈できるが,その影響は日本人初の化学賞を受賞した福井謙一の研究にも及んでいると考えられる。