著者
宮坂 祥夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.780-783, 2003-12-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
3

毛髪には,犯罪現場と人を線でつなぐ証拠的価値が秘められている。1本の毛髪資料からどのような情報が得られ,そしてどのようにして毛髪の落とし主にたどり着くことができるのであろうか。ここでは,日本の警察で行われている毛髪鑑定の概要とその現状について解説する。
著者
渡辺 正
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.500-503, 2005-09-20 (Released:2017-07-11)

1996〜98年ごろいきなり大きな騒ぎとなったのに,もう新聞もテレビもほとんどやらない「ダイオキシン・環境ホルモン間題」とは,いったい何だったのか。命や健康にあぶないとか,果ては人類の未来を脅かすといった話はどのようにして生まれ,どんな人たちが騒ぎ,なぜ終息に向かっているのだろう?そのへんを振り返ってみれば,昨今の「環境問題」がもつ性格と,今後への教訓が浮き彫りになる。
著者
太秦 康光 那須 義和 瀬尾 淑子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.413-418, 1960-03-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
12

温泉水中のストロンチウム含量とその分布を明らかにし, さらに温泉の化学成分の起源を考える上の資料とする目的で, 前報までに報告した北海道, 青森県の温泉 117 泉源について炎光法によりストロンチウムの定量を行なった。温泉中のストロンチウムは 0.05~27mg/l の広い範囲を示し, すべての温泉に普遍的に存在している。とくに, 青森県舞戸温泉の 27mg/l という値は, 本邦でいままでに見いだされた最高値である。Ca:400mg/l 以上のものあるいはそれ以下でもある特徴を持った温泉ではカルシウムとストロンチウムとの間に相関性があり, その他はカルシウムの量の変化によるストロンチウムの変化は少ない。Sr/Ca 比は n×10-3~10-2 で, 10-3 以下の値をとるものは少なく酸性泉がこの範中に入る。n×10-2 の値をとる温泉ではその泉質に明らかに特徴がみられる。また, カルシウム以外の主成分はストロンチウムと関連性はない。温泉中のストロンチウムはカルシウムとともに岩石, 石灰岩から供給されていると考えられ, 温泉の化学成分の起源について考察する際に Sr/Ca 比は非常に有力な手段となると考えるに至った。
著者
立川 眞理子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.460-463, 2007-09-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
3
被引用文献数
1

水道水を始めとする種々の浄水処理で使用されている塩素(Cl_2やHClO)とその関連物質(オキソ酸,二酸化塩素およびクロラミン)について化学的な説明を行い,それを基に実際の塩素処理の機構とその化学的な背景,およびそこから生じる塩素副生成物などの種々の問題点について例をあげて解説する。
著者
安江 任 小澤 聡 荒井 康夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.6, pp.767-770, 1986-06-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
26

水道水の軟化, ボイラーのスケール防止, 焼セッコウやボルトランドセメントの凝結遅延に関連し, 水溶液中のカルシウム, マグネシウムイオンを封鎖することを目的として, クエン酸ナトリウ, ショ糖, ブドウ糖, ジグリコール酸などの錯形成能,錯イオンの組成を比較検討した。測定方法には濁度法, 金属指示薬法, イオン選択電極電位差法, 電気伝導度法を用いた。クエン酸ナトリウムおよび糖類のイオン封鎖能は測定方法によってかなり相違し, その理由を考察した。クエン酸ナトリウムはカルシウムイオンに対する封鎖能が大であり, たとえぽpH8.5での封鎖能は26.8g であるのに対してマグネシウムのそれは17.0g であった。本研究で確認した錯イオンのほとんどは結合比が1/1であるが, ジグリコール酸のカルシウム錯イオンにかぎり結合比は1/2であった。また, 錯イオンの多くはpH8.0~9.5の水溶液中でもっとも安定である。
著者
山口 敏男
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.344-347, 2022-07-20 (Released:2023-07-01)
参考文献数
5

水は,地球表面の7割を覆っており,成人のヒトの体重の7割を占める。水は地球に生命が誕生するために,また地球上の動植物の生命活動に不可欠な液体である。水は,正常な液体に比べて多くの異常性を示す。水の構造や特性は1世紀以上にわたり研究されてきたが,現在も水の本質を解き明かすモデルが活発に研究されている。近年,種々の実験技術の進歩により,広い温度圧力領域や特殊環境下での水の構造が明らかにされている。
著者
原 博
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.385-389, 2000-06-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
2

生体のしくみが精密に明らかになるにつれ, それに関与する医薬品や農薬, さらに情報機器に多用される液晶においても光学活性化合物の理解とそれらの入手が必須となってきた。また, 大学入試においても光学異性体について他の異性体を含めて頻繁に出題されるようになってきた。どの高校の教科書にも光学異性体の存在と簡単な説明がある。不斉炭素が一つのときはわかりやすいが, 二つ以上のものについては記述がないか, 混乱しているものもある。本稿では立体異性体の分類とそのなかでの光学異性体の位置, およびその周辺を整理して解説する。
著者
岡内 辰夫 北村 充
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.130-133, 2019-03-20 (Released:2020-03-01)
参考文献数
4

2010年,「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリングの開発」に貢献した3人(Heck,根岸,鈴木)に,ノーベル化学賞が与えられた。そのうち2人が日本人であったため,マスコミで大きく取り上げられ,クロスカップリングという言葉が広く知られるようになった。受賞者の1人である北海道大学名誉教授の鈴木 章先生らのグループが開発した反応が,鈴木-宮浦クロスカップリングである。この反応は,有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化合物に対して,パラジウム触媒を作用させることで炭素-炭素結合が形成するというものである。この反応は,我々の身の回りの医薬品,農薬,液晶材料,EL材料などの開発・量産化に大いに貢献している。
著者
西坂 剛 円入 寛子 竹野 哲 大倉 一郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.7, pp.867-873, 1993-07-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

メチレンブルーの光化学治療用光増感剤としての有用性を検討した。その結果,長波長領域の照射光を利用することができ,HeLa細胞に対する殺細胞効果が大きいことがわかった。光照射後の細胞を形態学的に観察すると,照射直後ではあまり変化がみられないが,照射1時間後では,細胞の輪郭を保ったまま核が突出している様子がみられた。メチレンブルーの光化学作用は主としてタイプIIの機構で起こり,その際,一重項酸素をよく生成することがわかった。
著者
真鍋 和夫 御手洗 征明 久保 輝一郎
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
工業化学雑誌 (ISSN:00232734)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.1828-1835, 1968-11-05 (Released:2011-09-02)
参考文献数
18
被引用文献数
6

酢酸ビスマス(III)(Bi(CH3COO)3)の熱分解の機構を,熱重量分析,示差熱分析,X線分析,質量分析および化学分析の方法で追跡した。結果はっぎの通りである。酢酸ビスマス(III)は,50~200℃ で酢酸を放出して分解し,酢酸ビスムチル(BiOCH3COO)を生成する。酢酸ビスムチルは,280~320℃ でアセトン,炭酸ガス,水などを放出して分解し金属ビスマスとなる。金属ビスマスは空気中の酸素により酸化されて酸化ビスマス(III)となるが,分解温度370℃ 以下では酸化ビスマス(III)の新結晶変態を生成し,分解温度390℃ 以上ではα-酸化ビスマス(III)となる。この結晶転移は, 370~390℃ で生起し, 非可逆的であり, 発熱反応である。この新酸化ビスマス(III)は,酢酸ビスマス(III)の空気中の熱分解で, 分解温度320℃ で純粋なものとして生成する。そして,それはX線回折図形から考えて,歪んだ三二酸化マンガン型の結晶構造(正方晶系)をもつ。

2 0 0 0 OA 奈良の墨

著者
野田 盛弘
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.514-517, 2016-10-20 (Released:2017-04-03)
参考文献数
8

奈良の正倉院には,およそ1300年前に中国から伝来したと考えられる「墨」1)が伝わっている。その「墨」の外観を見る限り現在の墨とその製法が変わっている様子はなく,油煙もしくは松煙などの煤と膠を混練した後に成型,乾燥させたように見える。和紙に墨で書かれた文字は,正倉院文書が現代に伝わっているという事実から1300年の時を経ても変わることのない,長期保存安定性に優れた稀有な記録材料であるといえる。コロイドという言葉の語源でもある膠を利用した記録材料である墨は,現在も全国生産高の95 %以上が奈良の地で作り続けられており,現代ではコロイドの技術がインクジェットプリンターのインキや導電性塗料,化粧品など我々の身近な製品に多く利用されている。
著者
雲林 秀徳 佐用 昇 芥川 進 坂口 登志昭 鶴田 治樹
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.12, pp.835-846, 1997-12-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
62
被引用文献数
7

BINAPを配位子とする遷移金属錯体触媒を用いた不斉触媒反応の開発と工業的合成法の確立について述べる.まず,BINAP-ロジウム触媒を用いたN,N-ジエチルゲラニルアミン(GDEA)の不斉異性化反応を鍵反応とするl-メントール合成の工業化を行った.この工程の工業化は1)異性化基質であるGDEAの合成,2)BINAPの合成,3)ロジウム錯体の簡易合成法,4)触媒反応の高効率化という四つの問題を解決することにより確立した.このプロセスの完成後,不斉触媒反応の開発を続けた結果,BINAP-ルテニウム錯体が近傍に官能基を有するオレフィソ類,ケトン類の不斉水素化反応に有効な触媒であることを見いだした.そして,この不斉水素化反琳を鍵反応とする4-アセトキシ-2-アゼチジノン(4-AA)および1,2-プロパンジオール誘導体(2-PPD)合成の工業化を完成した.特に,4-AAの合成においてはα-置換β-ケトエステル類のジアステレオ選択的不斉水素化反応,つまり,同時に二つの不斉点を制御する方法を開発し,さらにルテニウム触媒を用いたラクタム環への位置選択的アセトキシ化反応を開発することにより工業化を確立することができた.また,本論文では不斉水素化反応を用いたその他医薬品中間体合成の開発についても述べる.