著者
杉本 千恵 笠原 聡子 岡 耕平
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.18-26, 2018 (Released:2018-07-28)
参考文献数
36
被引用文献数
1

目的:看護学生のレジリエンスの学年による違いとソーシャルサポートとの関連を検討した.方法:看護専門学校1から3年生246名に対し自記式質問紙調査を実施した.項目は属性,二次元レジリエンス要因尺度(BRS),ソーシャルサポートとし,一元配置分散分析と重回帰分析を行った.結果:BRS資質的要因の統御力(F2,227 = 3.2, P = 0.042)は1年生より3年生で,獲得的要因では問題解決志向(F2,227 = 6.2, P = 0.002)と自己理解(F2,227 = 7.3, P < 0.001)が2・3年生で高く,他者心理の理解は差がなかった.自己理解には学校生活に関わる実習教員(β = 0.22)などのサポートが,他者心理の理解には恋人(β = 0.21)など学外他者が影響した.結論:自己理解,問題解決志向,統御力のレジリエンスが高学年で高く,その育成には学校内外の他者によるサポートが関与した.
著者
山内 朋子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.170-179, 2014-08-20 (Released:2014-08-28)
参考文献数
11

目的:学童期精神科閉鎖病棟に入院し,他者とうまく距離をとることができない発達障害の学童に対して,看護師がどのようにかかわっているのかを明らかにする.方法:Leiningerの民族看護学の研究方法を用い,主に参加観察とインタビューを行った.主要情報提供者は看護師9名,一般情報提供者は学童6名とその家族6名,医療スタッフ5名であった.結果:テーマ6つと大テーマ1つが抽出された.看護師は,子どもをありのまま受け止めて,子どもが距離の近さで訴える‘人とかかわりたい’思いを見極めていた.看護師が子どもに適切なかかわり方を教えたり看護師との間で子どもと大人との信頼関係を修復したりすることで子どもの思いに応えると,子どもは他の子どもとの遊びや思いの言語化ができるように変化していた.結論:看護師は,子どもの対処方法の体得を支え,子どもの大人への信頼感やアタッチメントを修復することで,子どもの‘人とかかわりたい’思いに応える必要があると示唆された.
著者
藤井 美穂子 相澤 恵子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.378-385, 2020 (Released:2021-02-05)
参考文献数
13

目的:生殖補助医療(Assisted reproductive technology: ART)後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識を明らかにする.方法:助産師5名を対象にして,グループインタビューを実施した.データ分析は,Riessman(2008)のテーマ分析を用いた.結果:ART後に双胎妊娠した女性への助産ケアに対する助産師の認識について(a)【心が不安に占領される妊娠生活】(b)【双胎妊娠の負担の上に重なる高齢妊娠の重荷】(c)【出産をゴールに据えるがための理想と現実のギャップへの困惑】(d)【子どもとの距離を感じる母親】(e)【継続的な支援の必要性】(f)【ART後であることへの配慮の欠如】が見出された.結論:ARTヒストリーの情報を活用した継続的なケアの実践には至っておらず,ARTヒストリーを踏まえた助産ケアの知識の確立と普及の必要性が示唆された.
著者
川原 佳代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.279-285, 2021 (Released:2021-10-19)
参考文献数
24

目的:近年,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取組みが注目されているが,慢性疾患患者に対するACPの統一した見解はない.そこで,慢性疾患患者に対するACPの定義を明確にすることを目的に概念分析を行った.方法:14文献を対象に,Walker & Avantの概念分析方法を用いた.結果:ACPの属性は【自己決定を行うための理解】【情緒的ゆらぎ】【ACPにたずさわる人々の関係性】【自己決定】【多職種支援へつなげる記録・書面化】【ACPのプロセスの継続と見直し】が抽出された.結論:慢性疾患患者のACPを「患者の適切な時期に,自己決定を行うための理解を通して情緒的ゆらぎを経験しながら,治療やケアのゴールが導き出され自己決定が行われる過程であり,それは患者・家族とヘルスケア提供者のコミュニケーションにより繰り返し行われる」と定義した.
著者
大平 幸子 松田 光信 河野 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.100-105, 2020 (Released:2020-08-25)
参考文献数
46

目的:精神障害者のレジリエンスの概念を分析し,その構造を明らかにすることにより,看護実践や研究における有用性を検討することである.方法:43文献を対象として,Rodgersの概念分析アプローチを用いて分析した.結果:属性には3カテゴリー【回復を支える個人的要素】【多側面からのエンパワー】【個人に内在する力の発動】を抽出した.先行要件には2カテゴリー,帰結には3カテゴリーを抽出した.結論:レジリエンスの概念は,回復力を重視することによって精神障害者がその人らしく生きること,そして【人間的な成長】を実現する過程を表す概念である.結果より【回復を支える個人的要素】と【多側面からのエンパワー】の要素が,精神障害者の【個人の内在する力の発動】を可能にすることが明らかとなった.これらの要素の強化により,精神障害者のレジリエンスを高めることができ,精神障害者への支援を検討するうえで有用である.
著者
大槻 奈緒子 福井 小紀子 藤田 淳子 清水 準一 林田 賢史 清崎 由美子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.183-192, 2019 (Released:2019-11-13)
参考文献数
32
被引用文献数
2

目的:本研究は,機能強化型訪問看護事業所での利用者特性に応じた訪問看護ケアの実施実態を明らかにした.方法:全国の機能強化型訪問看護事業所と利用者515名を対象に開発したデータ入力システムを用いた調査を行った.結果:利用者特性に関連する実施回数の多い訪問看護ケア項目は,がん末期では「疾病・治療の説明・指導(オッズ比(OR)=4.535)」,神経難病利用者への「衣生活のケア・指導(OR = 2.276)」,小児への「精神的援助(OR = 3.062)」「意思決定支援(OR = 3.701)」が特徴的であった.結論:利用者特性別での実施回数の多い特徴的な訪問看護ケアが明らかになった.訪問看護のケア実施には,利用者特性を考慮する必要がある.
著者
川添 郁夫
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.4_63-4_71, 2007-12-20 (Released:2011-09-09)
被引用文献数
4

統合失調症を発症した子どもをもつ母親9名への対処過程に関して半構造化的インタビューを実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)に準拠して分析した.その結果,母親は子どもの異常行動に対して緊張感を維持しながらケアを継続していた.ケアを継続できた要因は,仲間との出会い,仲間との共感,仲間に支持されたことの自信であった.母親にとって,子どもの統合失調症発症を受容することは困難を伴うことであり,回復の兆しに治癒を期待し,症状が再燃するたびに落ち込みを体験していた.受容は,母親のケアに対する積極的意思への変化により深まる傾向がみられた.また,母親は統合失調症に関して混乱と恐怖を強く記憶に留めていた.母親がもつ恐怖体験に対して,早期に心理的ケア行うなど,支援が必要であると示唆された.
著者
勝原 裕美子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.1-10, 2003-09-30 (Released:2012-10-29)
参考文献数
15
被引用文献数
4 2

本研究は, 看護部長の倫理的ジレンマが, どのような道徳的要求の衝突によって生じているのかを明らかにするものである. 本研究では, 倫理的ジレンマを「複数の優先順位をつけられない道徳的要求があるが, それらのすべてを達成することができない状況」と定義し, そのような状況のうち, これまで最も意思決定が困難であった事例について自由に語ってもらうという面接手法を採用した. その結果, 25名の看護部長から合計41のストーリーが得られた. それらは, 医療ミス・過誤の開示に関するものが8例, 処遇や昇格などの人事の適正に関するものが6例, 医師の業務内容や態度を問題だと感じているものが5例, 人や予算などの資源配分に関するものが5例などである. これらのストーリーからは, 合計48の倫理的ジレンマが確認でき, それらは次の17種類の道徳的要求のいずれか2つ以上がぶつかり合って生じていることが明らかになった.「個人の誇りを守る」,「市民としての義務を果たす」,「女性であることを受け入れる」,「社会的に人を助ける」,「患者の権利を守る」,「看護の質を保証する」,「看護専門職としての誇りを守る」,「患者の生命を守る」,「組織の利益を上げる」,「労働者の権利を守る」,「看護部門を代表する」,「医師と協調する」,「組織のルールに従う」,「日本的文化規範に従う」,「法を守る」,「住民の要望にこたえる」,「政策や政治的な要求を受け入れる」.
著者
中山 貴美子 鳩野 洋子 合田 加代子 草野 恵美子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.279-289, 2020 (Released:2020-12-10)
参考文献数
29

目的:本研究では,乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難を明らかにすることを目的とした.方法:出産後にがんの診断を受け,乳幼児期の子どもを育てることを経験した母親5名を対象に半構成的面接を実施した.データは,質的に分析した.結果:【子どもを残して死ぬ恐怖があり,生きる希望が持てない】【不確かで長い治療がつらい】【治療と子育ての両立にせっぱつまる】【無理をせざるをえず,その人にとってのあたりまえの生活ができない】【がんを受容しきれずにもどかしい】【がんにより子どもと家族を巻き込むことがつらい】【頼れる資源や情報が不足している】【経験者に出会えずにつらさを共有できない】【治療と生活が重なる経済的負担がある】という9つのカテゴリーが抽出された.結論:母親は,子どもと共に生きる希望がもてず,治療と子育ての両立にせっぱつまる等の困難を抱えていた.母親には,治療と子育ての両立支援や母親同士の支え合いが重要と示唆された.
著者
木全 真理
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.329-335, 2017 (Released:2018-02-09)
参考文献数
19

目的:本研究は,保険制度外の訪問看護の実践を把握し,その実践をする訪問看護ステーションの特性を明らかにする.方法:多職種が協働する場への参加がある5地域の訪問看護ステーション145カ所に,保険制度外の訪問看護の実態,事業所の体制に関する自記式質問紙を郵送した.分析は保険制度外の訪問看護実践の有無の2群に分けて,事業所の体制の属性を比較検討した.結果:有効回答は58カ所,そのうち20件に保険制度外の訪問看護の実践があった.その実践は,利用者が看護を受けたい,家族が家庭内の役割を担いたい,という理由が多かった.保険制度外の訪問看護の実践は,職員の実人数,利用者の人数や延べ訪問回数,保険制度外の訪問看護の自費設定をしていた事業所が多かった.両群では多職種協働する場への参加に差はなかった.結論:保険制度外の訪問看護は,規模の大きい事業所が利用者や家族からのニーズを汲み取り,実践に組み替えていた.
著者
寺岡 三左子 村中 陽子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.35-44, 2017 (Released:2017-10-07)
参考文献数
19
被引用文献数
2 7

目的:日本の医療機関を受診した在日外国人の異文化体験の様相を明らかにする.方法:在日外国人22名に受診行動をとおして実感した異文化体験についてグループインタビューを行った.結果:対象者は【受診システムがわかりくい】【自分の病状や主張を正しく伝えるのが難しい】状況の中【医師は十分に対話してくれない】【壁をつくられて向き合ってもらえない】ことを経験し,【患者1人ひとりの文化的背景が注目されない】【拒否する権利を行使できない】と実感していた.また【決まり事の存在や根拠が理解できない】ことから【なじみのない『暗黙の了解』にとまどう】体験をしていた.【看護師の関わりは家族のようで安心できる】と思う一方【病気のことは看護師に頼れない】と認識していた.結論:在日外国人は,言葉の壁,外見に基づく先入観の壁,異文化が理解されないことに直面していた.医療者は,外国人に対する文化的側面への注目の欠如を自覚する必要がある.
著者
片山 由加里 小笠原 知枝 辻 ちえ 井村 香積 永山 弘子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.20-27, 2005-06-20 (Released:2012-10-29)
参考文献数
25
被引用文献数
10 6

本研究の目的は, 看護師の感情労働測定尺度 (Emotional Labor Inventory for Nurses: ELIN) を開発することであつた. 本研究では, 看護師の感情労働を, 患者にとつて適切であるとみなす看護師の感情を表現する行為と定義した. 始めに, 文献とインタビューに基づいて57の質問項目を選定し, 看護師60名と学生66名が項目の適切性を評価した. さらに, 項目分析によつて削減した50項目のELIN原案を看護師436名に調査した. 因子分析の結果,「探索的理解」,「表層適応」,「表出抑制」,「ケアの表現」,「深層適応」の5因子から構成するELIN (26項目) が示された. 内的整合性はCronbach's α (0.92), 安定性は再テスト法 (r=0.72) によつて確保した. 基準関連妥当性は, ELINとEmotional Labor Scale との相関 (r=0.48)と, 看護師と学生のELINの比較によつて確認した. 構成概念妥当性は, 共有経験尺度と共有不全経験尺度によつて確認した. 以上により, ELINの信頼性と妥当性がおおむね支持された.
著者
三木 珠美 大岩 美樹
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.56-63, 2018 (Released:2018-10-12)
参考文献数
30

目的:がん化学療法誘因性末梢神経障害への効果的な運動療法について,文献から検討を行い,示唆を得ることである.方法:医学中央雑誌とPubMedを用い過去5年間の原著論文で,末梢神経障害に対する運動療法に限定し検索を行った.結果:対象文献は20件であり,糖尿病性末梢神経障害の文献が多くそれ以外は少数であった.運動は有酸素運動,レジスタンス運動,感覚運動が主であり,専門家による管理にて安全面への配慮がされていた.運動療法前後での比較では,全ての研究においてバランス力や歩行力に有意な改善を認めたが,群間比較による有意な改善は必ずしも明確ではなかった.結論:運動療法前後の比較から,がん化学療法誘因性末梢神経障害への運動療法の試験的導入は,神経症状やバランス力の改善に期待できるものと考える.運動内容は単独より複合的な運動プログラムにて,医療者の管理のもと軽度から始め中等度の負荷で維持することが適切と考える.
著者
細坂 泰子 茅島 江子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-9, 2017 (Released:2017-09-09)
参考文献数
36
被引用文献数
2

目的:乳幼児を養育する母親のしつけと虐待の境界の様相を明らかにする.方法:母親26名にしつけと虐待の境界と思われた体験を中心に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的に分析した.結果:しつけと虐待の境界に関連する様相として【母親が感情的になると無意識に押し付けてしまう子どもへのパワー】,【子どもの属性で異なるしつけ】が抽出された.その他に【しつけに対する他者評価の優位性】,【理想の母親像や母親としての責任感から蓄積する疲弊】,【周囲の支援や母親自身の力によって変化する心の余裕】が示された.結論:しつけと虐待の境界の様相では,感情優位となった時に子どもへのパワーが生じること,境界は子どもの属性で異なることが明らかになった.母親は他者評価を重視し,理想や責任感から疲弊していた.また母親の余裕はサポートや母親自身の力によって左右された.感情のコントロール法や知識の提供,母親への評価的サポート,コミュニティ拡大への支援,有効な社会資源の提供が示唆された.
著者
渡邉 久美 國方 弘子 三好 真琴
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.146-154, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
21

本研究は,独自に開発したソフトタッチの皮膚接触をベースとするハンドケアリングを精神障害者に実施し,その効果を,心拍変動,アミラーゼなどの自律神経活動指標と,不安,リラックス度,疲労度,会話欲求度,親近感の心理的指標を用いて明らかにした.対象は地域で生活する精神障害者10名(平均年齢56.7±14.9歳)であり,内田クレペリンテストによる負荷後,座位対面式にて15分間のハンドケアリングを実施した.各指標を実施前後で比較分析した結果,心拍数は有意に低下し,pNN50は有意に増加した.STAI得点は,特性不安と状態不安ともに実施後に有意に低下し,VASを用いた主観的評価では疲労度のみが有意に低下した.施術者との会話欲求度と親近感は,実施後50%以上増加した.唾液αアミラーゼは,安静時と実施前後で有意差を認めなかった.ハンドケアリングは,副交感神経活動の亢進および,不安や主観的疲労感の軽減とともに,施術者との心理的距離に良好な影響を与えており,患者–看護師関係の形成に向けた活用の可能性が示された.
著者
岩永 秀子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.30-39, 1998

本研究は, 対象の保健行動変容への有効な支援方法を探るために, 保健行動の地域特性を明らかにすることを目的としている. 今回は, 農漁村部である長崎県小値賀島住民の保健行動特性を明らかにするために, 都市部である神奈川県相模原市住民と対比検討した. 調査項目は, 保健行動の実行度, 実行要因 (保健行動の優先性, 保健規範意識, 病気に対する脆弱感, 情緒的支援ネットワーク, 生きがい), 食生活状況である. 分析対象数は小値賀122人, 相模原149人であった.<BR>分析の結果以下のことが明らかになった. 1)小値賀島住民は都市部住民より保健行動を実行しており, 特に50歳未満, 有職者で差がみられた. 小値賀島住民は規則正しい食事をし, 夜更かしをさけ, 睡眠を十分とっていた.<BR>2)小値賀島住民は都市部住民より生活行動の中で保健行動を優先させる態度が強く, また生きがいを多くもっていた. 特に仕事, 地域の人との関わり, 宗教をより生きがいとする人の割合が高かった.<BR>3)調査した5つの実行要因によって, 小値賀島住民の保健行動実行度の約30%が説明可能であり, 都市部住民に比べ影響が大きかった. 小値賀島住民では, 他の生活行動より保健行動を優先させる態度が強い人ほど, 生きがいを多くもっている人ほど, 保健行動の実行度が高かった.
著者
濱田 由紀
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.215-224, 2015-12-16 (Released:2015-12-19)
参考文献数
13
被引用文献数
7 5

目的:精神障害をもつ人のリカバリーにおけるピアサポートの意味を明らかにすることである.方法: Denzinの解釈的相互作用論を理論的前提とする質的研究デザインである.精神疾患と診断され,電話相談によるピアサポートを行う人20名に,リカバリーにおけるピアサポートの経験について半構成的面接を行った.結果:リカバリーにおけるピアサポートの意味は,1. 他者との出会いによって固有の人生を生きること,2. 他者の幸せに自分を生かすこと,であった.〈他者との出会いによって固有の人生を生きること〉は,1)精神病による画一性からの解放と,2)固有の人生を模索すること,という様相から,〈他者の幸せに自分を生かすこと〉は,1)痛み・気遣い,2)ありのままを受け入れてもらう経験,3)つながり・連帯,4)他者に対する有責感,5)他者支援に自分を生かすこと,6)意味ある人間関係を本質とする仕事,という様相から捉えられた.考察:Lévinasの他者論から,これらの結果は,「他者」との出会いによる固有性の再獲得と,痛みをもつ他者に対する倫理的な応答としての主体性の確立と解釈された.
著者
布谷 麻耶 髙橋 美宝
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.295-304, 2023 (Released:2023-10-03)
参考文献数
24

目的:炎症性腸疾患患者が大腸内視鏡検査に伴いどのような苦痛を体験しているかを明らかにする.方法:発症後に大腸内視鏡検査を1回以上受けた経験がある寛解期の患者10名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.結果:患者は大腸内視鏡検査に伴い,【前処置による心身の負担】【検査中の痛み】【検査への恐怖】【異性の医療者に対する抵抗感】【検査後の疲労と病状悪化】【検査結果への不安】【時間と費用の負担】という苦痛を体験していた.【検査中の痛み】には『炎症時の内視鏡操作に伴う痛み』『内視鏡挿入時や体位変換時の合併症による痛み』『腸管屈曲部に内視鏡が当たる痛み』『送気による腹部の張りと痛み』があった.結論:大腸内視鏡検査に伴い炎症性腸疾患患者は,腸管の炎症や合併症によって疾患特有の苦痛を体験していた.
著者
森 恵美 前原 澄子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.22-32, 1991-06-10 (Released:2012-10-29)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

産婦の不安の軽減のために, 分娩準備教育のプログラムの1構成要素であるRelaxationの技法に関して, 自律訓練法を教授することにより, その効果を検証することを目的として研究を行った.自律訓練法習得群(11名), 自律訓練法未習得群(21名), 自律訓練法未訓練群(12名)の3群について,分娩経過に沿って, 状態不安・産痛・血圧・脈拍数・神経筋コントロール力・ラマーズ法評価を測定し, 評価した. その結果, 自律訓練法習得群と他の2群との間には, 分娩第1期の終わりである極期において, 状態不安・産痛の感覚的評価指数・神経筋コントロール力判定結果・ラマーズ法評価得点に, 明らかな差がみられた.陣痛間歇期の血圧・脈拍数においては, 自律訓練法習得群の平均値が他の2群より低かったが, 有意差はなかった.以上により, 産婦の不安の軽減や産痛の緩和のために, 分娩前からRelaxationの技法を教授することにより, 産婦の不安の軽減や産痛の緩和に有効であることが明らかになった.
著者
峰松 恵里 赤星 琴美 村嶋 幸代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.334-343, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
27
被引用文献数
1

目的:運転免許の自主返納者を対象に,返納理由や現在の外出状況と車の代替手段,健康状態,車のない生活の受け止めを明らかにする.方法:公共交通の少ない地域に居住する75歳以上の返納者13名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.結果:免許返納理由は,《認知症・認知機能低下》,《身体機能低下》,《事故予防》の3タイプにわけられた.車の代替手段は,〈買い物〉〈通院〉は確保されていたが,〈農業〉〈娯楽〉〈交友〉では,確保できない者もいた.車のない生活を受け入れて満足している者もいれば,身体機能低下や閉じこもりという健康課題が生じた者もいた.結論:解決策として,個人レジリエンスを高めるためには,〈農業〉への移動手段として限定条件付免許の導入等が必要だと考えられる.また地域レジリエンス強化の観点から,移動支援サービス等の在り方を検討する必要があろう.