著者
渡邊 龍之介 木田 亮平 武村 雪絵
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.63-71, 2022 (Released:2022-08-11)
参考文献数
22
被引用文献数
2

目的:看護職の労働条件,相対的に偏りのある勤務割り振り(以下,相対的偏り)や勤務日・休暇のコントロール感不足(以下,コントロール感不足)とバーンアウトや身体愁訴との関連を検証する.方法:2020年1~2月,交代制勤務に従事する看護職を対象にweb調査を行った.バーンアウトの下位尺度(情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感)と身体愁訴を従属変数とし,基本属性,労働状況,相対的偏りおよびコントロール感不足を順に投入する階層的重回帰分析を行った.結果:分析対象者は394名だった.階層的重回帰分析の結果,最終モデルでは労働状況には統計学的有意差を認めず,相対的偏りは情緒的消耗感と脱人格化に,勤務日や休暇の見通しのなさは情緒的消耗感に,急な休暇取得のしにくさは脱人格化と身体愁訴に関連した.結論:交代制勤務に従事する看護職にとっては労働状況よりも相対的偏りやコントロール感不足と心身のストレスとの関連が明らかになった.
著者
大西 奈保子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.225-234, 2015-01-25 (Released:2016-02-09)
参考文献数
20
被引用文献数
3

家族が在宅で患者を看取れるように支援することは,がん患者の在宅ケアには不可欠である.そこで,がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えた要因を明らかにすることを目的として,がん患者を在宅で看取った家族15名からなぜ在宅で看取ることができたのかという問いを立てて半構成的インタビューを試み,その内容をGrounded Theory Approachの手法を用いて分析を行った.その結果,115のコード,32の概念,8のサブカテゴリー,3のカテゴリーが抽出された.がん患者を在宅で看取った家族の覚悟を支えたカテゴリーは,家族の人生観・死生観である《在宅での看取りを受け入れる思い》,家族を取り巻く人間関係である《周囲の人々の協力》,家族が患者・家族の置かれた現状を認識する《在宅ケアを継続する勇気》であった.家族の在宅での看取りの覚悟を支えるには,これらの要因に介入していくことが必要であることが示唆された.
著者
増田 恵美 島田 真理恵
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.464-472, 2017 (Released:2018-03-23)
参考文献数
16

目的:分娩後に骨盤周囲にさらしを巻く群(介入群)と巻かない群(対照群)では,産褥早期の骨盤周囲径測定値,腰背部痛の状況と腰背部痛による日常生活上の支障の程度について違いがあるのかを明らかにすることを目的とした.方法:介入群45名と対照群37名に,妊娠末期,産褥1,4日目に骨盤周囲径測定と質問紙調査を行い統計学的に分析した.結果:骨盤周囲径測定値は,2群間で差はなく,2群ともに妊娠末期の値より産後の値の方が小さかった.腰背部痛は,2群ともに各時期において6割程度の者が自覚し,痛みの程度に差はなかった.対照群では,産褥1日目に背部痛が発生する者が多かった.2群ともに日常生活上の支障については産褥経過とともに軽減していた.結論:産褥早期の骨盤周囲径は2群ともに妊娠末期より減少したが,さらしを巻くことにより,さらに骨盤周囲径を減少させる効果は確認されなかった.産褥早期にさらしを巻くことは背部痛の予防に寄与すると推測された.
著者
川崎 千恵 麻原 きよみ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.4_52-4_62, 2012-12-20 (Released:2013-01-09)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:在日中国人女性の,育児経験における困難と困難への対処のプロセスを記述する.方法:日本で出産を経験し学童までの子どもを育てた経験を持つ,首都圏近郊在住の中華人民共和国出身の在日中国人女性8名に半構造的面接を行い,質的記述的分析を行った.結果:育児で繰り返し遭遇する困難として«日本の文化的な母親をイメージできない»,«異文化の見えない壁に遮られる»,«異文化の中で自分を見失う»の3つの困難が段階的に抽出された.また,対処方法として,«予期できない困難に学習を重ね対処する»が抽出された.困難に繰り返し対処する結果得られるものに«母親としての新しい自分を見出す»が抽出された.困難への対処を経て得られたものとして,«母親としての新しい自分を見出す»が抽出された.結論:本研究の結果を困難の各段階でみられた在日中国人女性の心の変化や対処に着目したところ,Pedersenの5段階モデルと類似していたことから,育児を始めることで文化変容を迫られ,母親になると同時に異文化適応を経験していることが示唆された.
著者
髙谷 新 安保 寛明 佐藤 大輔
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.375-384, 2022 (Released:2022-12-21)
参考文献数
35

目的:看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長の自己効力感の関連について,看護職員による所属部署の看護師長に対するリーダーシップの認識の媒介効果を明らかにすることを目的とする.方法:16医療機関の看護師長,看護職員を対象に看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長の自己効力感,リーダーシップについて質問紙調査を行った.看護職員269名を対象にマルチレベル媒介分析を行った.結果:看護職員による看護師長のリーダーシップの認識は看護師長の自己効力感と看護職員のワーク・エンゲイジメントを完全に媒介していることが明らかとなった.看護師長の自己効力感と看護職員のワーク・エンゲイジメントにおけるリーダーシップの認識の媒介効果は個人レベルでの効果であることが示唆された.結論:看護師長の自己効力感は看護職員によるリーダーシップの認識を介して,看護職員のワーク・エンゲイジメントに影響を及ぼしていることが明らかとなった.
著者
為永 義憲 蒔田 寛子 藤井 徹也
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.244-251, 2020 (Released:2020-12-02)
参考文献数
13

目的:訪問看護師のICTを用いた遠隔からの医師の死亡診断を補助することへの自信感や不安と遠隔死亡診断に用いる看護技術の自信等の関連を明らかにし,遠隔死亡診断が普及するための課題を検討する.方法:全国1785カ所の訪問看護ステーションの看護師に無記名自記式質問紙調査を実施した.単純集計後,死亡診断に関する認識と看取り体制,看護技術の自信等との関連をみた.結果:325名を有効回答(18.2%)とした.死亡診断に関する認識として,遠隔死亡診断をできないと思う者は176名(54.2%)であり,理由は「家族が納得しない」が最も多かった.死亡診断に関する認識は,身体観察項目に対する自信,死亡診断等GLや医師法21条の認知等と関連した.結論:訪問看護師が遠隔死亡診断をできると認識するには,死亡診断関連の情報を得ることや身体観察技術の向上が重要と示唆された.
著者
大久保 暢子 亀井 智子 梶井 文子 堀内 成子 菱沼 典子 豊増 佳子 中山 和弘 柳井 晴夫
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.31-38, 2005-03-20 (Released:2012-10-29)
参考文献数
11
被引用文献数
3 1

看護大学における高等教育・継続教育としての e-learning (以下 EL と称す) は, 時間的・物理的制約を解消する有用な手段である. 今回, 国内の保健医療福祉機関に勤務する看護職計1,270名 (有効回答率36.6%) を分析対象として EL に関するニーズ調査を行った. その結果の一部を参考に仮説を立て, 因果モデルを想定し, 因子分析・共分散構造分析を用いて説明を試みた.結果: (1)「直接交流がないことへの不安」,「ELの内容や費用への不安」,「1人で学習することによる不安」といったEL受講への不安がなければ「ELの受講希望」は高くなり, 中でも「直接交流がないことへの不安」が「EL受講希望」に最も強く影響していた. さらに, (2) 大学の単位や認定看護師の教育単位といった「単位取得が可能」であれば「EL受講希望」は高くなることも明らかとなった. 以上のことから, 看護高等教育・卒後教育におけるEL導入は, スクーリングや対面式講義など直接交流の機会がもてること, 大学や認定看護師の講義単位が取得できることが重要であることが示唆された.
著者
麻原 きよみ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-12, 1999-03-25 (Released:2012-10-29)
参考文献数
35
被引用文献数
6 1

本研究は, 過疎農山村における家族介護者の老人介護と農業両立の意味を探求することを目的とした. 方法論としてエスノグラフィを用いた. データ収集は27名の要介護老人の介護者, 住民および保健医療福祉関係者に対するインタビュー, 参加観察, 村の書類, 資料等の検討であった. 得られたデータを方法と動機の観点から分析した結果, 以下のことが明らかとなった.(1) 農村介護者は介護と農業両立の仕事の調整方法として, 1日の生活時間に両者を組み込でいく <介護と農業の組み込み戦略> を用いていた.(2) 介護と農業両立の動機づけには, <伝統的価値規範の内面化>, <村落共同体的集団原理に従う>, <農業継続困難な現状の受け入れ>といった消極的動機づけ, <老人に対する愛情>, <生き甲斐としての農業>, <行為へ価値づける> 積極的動機づけがみられ, これは介護と農業を調整する自己認識の調整であった.(3) 農村介護者の消極的動機づけによる介護と農業継続の内面化, および自らの主体性に意味づける積極的動機づけから, <農村介護者は介護と農業を両立できることに自己存在の意味を見出す> をテーマとして抽出した. このテーマは, 農村介護者の現実への対処行動だけでなく, 自己を積極的に意味づけて生き抜く, 農村介護者の生き方をも示していた.以上のことから, 農村介護者の伝統的価値規範を問題意識化することなく受容する認識面, およびそれを支持する社会的環境面の問題を提示するとともに, 介護と農業継続に関する農業の重要性について述べ, 地域看護実践のあり方を考察した.
著者
川北 敬美 細田 泰子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.196-203, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
26

目的:子育て期にある女性看護師(以下,子育て期看護師)におけるワーク・ファミリー・エンリッチメントの資源を明らかにする.方法:日本病院機能評価機構の認定病院に勤める未就学児を養育する女性看護師16名に半構成インタビューを実施し,質的記述的に分析をした.結果:子育て期看護師の仕事役割から得られる資源は,【ケア能力】【指導力】【効率性】【充実した感情】【社会性育成の環境】【経済的な安定】であり,家族役割から得られる資源は,【共感力】【受容力】【視野の広がり】【調整力】【ヘルプシーキング行動】【充実した感情】であった.結論:すべての子育て期看護師は,実感の差はあるものの,仕事の経験が家族役割に,母親等家族役割の経験が仕事役割の質を向上させる資源を獲得していた.それぞれの役割で得られる資源は,相互に影響し合っており,一つの資源を得ることが他の資源獲得のトリガーになることが示唆された.
著者
永見 悠加里 藤﨑 万裕 野口 麻衣子 山本 則子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.122-131, 2021 (Released:2021-08-12)
参考文献数
38

目的:移動に対する負担感および管理者のサポートと訪問看護師の就業継続意向の関連を明らかにする.方法:訪問看護管理者と訪問看護師に対し自記式質問紙調査を行い,就業継続意向を従属変数とするマルチレベル二項ロジスティック回帰分析を行った.結果:管理者38名,看護師221名から有効回答を得た.就業継続意向がある者は151名(68.3%)であった.負担感は,非効率な訪問スケジュール(OR = 0.41, 95%CI: 0.22~0.78),管理者のサポートは,移動しやすい道のりの共有(OR = 2.49, 95%CI: 1.20~5.17),訪問間隔の確保(OR = 2.72, 95%CI: 1.19~6.21),移動時間の目安の提示(OR = 0.43, 95%CI: 0.21~0.92)が就業継続意向と関連した.結論:移動に関する直接的な支援が就業継続支援に有用であることが示唆された.
著者
犬塚 裕樹 藤丸 清佳
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.567-572, 2021 (Released:2022-01-18)
参考文献数
11

目的:看護提供方式としてのパートナーシップ・ナーシング・システム(PNS)の看護特性を数理モデルによって定量的に評価した.方法:確率過程の数理モデルを使い,看護提供の受付け口数の違いが患者の看護待ち行列数に及ぼす効果を調べた.さらにベテランナースと新人ナースがペアを組み看護ケアを分担する場合の看護ケア効率を調べた.結果:看護待ち行列の平均人数は,看護提供の受付け口数が2から1に半減すると,トラフィック密度に依存し,およそ10倍に増え,患者に厳しい負担を与えることになった.さらに,ベテランナースと新人ナースが看護ケアを分担すると,単独で行う場合に比べ,看護ケア効率が落ちた.結論:PNSの2つの構造的特性は,ナースが単独での看護提供に比較して不利な結果となった.PNSが患者に,より安全で質の高い看護サービスを効率よく提供するためには,ナース間で高度なコミュニケーションを図り,互いを補完し協働することが必要である可能性が残された.
著者
川島 徹治 川上 明希 蘆田 薫 田中 真琴
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.763-771, 2021 (Released:2022-03-02)
参考文献数
30

目的:集中治療領域での終末期患者とその家族に対するインフォームドコンセント(Informed Consent: IC)における看護実践の実施程度に関連する要因を明らかにすること.方法:集中治療領域で働く看護師(96病院955名)を対象に集中治療領域での終末期患者とその家族に対するICにおける看護実践尺度の得点に関連する要因を重回帰分析にて検討した.結果:尺度合計得点が高いことと有意な関連を示したのは,研修参加経験有(β = .098, p = .010),学生時の学習歴有(β = .103, p = .006),他者への相談頻度が高い(β = –.214~–.034, p < .001),最終学歴(β = .057~.063, p = .010),診療体制:セミクローズド(β = .093, p = .023),フリー看護師がいる頻度が高い(β = –.044~–.141, p = .021),看護提供方式:パートナーシップ(β = .095, p = .007)であった.結論:ICでの看護実践の充実には,問題対処への積極的な姿勢や学習経験,看護提供体制の重要性が示唆された.
著者
青木 裕見 木下 康仁 瀬戸屋 希 岩本 操 船越 明子 武用 百子 松枝 美智子 片岡 三佳 安保 寛明 萱間 真美
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-30, 2022 (Released:2022-06-22)
参考文献数
14

目的:COVID-19パンデミックに対応した福祉施設管理者の体験を明らかにすることを目的とした.方法:7施設の福祉施設管理者8名を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的分析を行った.結果:36のカテゴリと109のサブカテゴリが抽出された.研究参加者は,人的・物的な医療資源のない自施設で未曽有の感染症に果敢に対処していた.不安・緊張を抱える中,組織内のスタッフと情報共有を密にし,勤務体制の再編成を行い,支援の優先度を見極めつつ障害特性に応じた対応を工夫しながら,本人・家族への支援を続けていた.そこでは,従前からの組織内の関係性や対策,さらに一般社会との相互作用も影響しており,とくに地域の医療との協力は必須であった.結論:緊急時でも支援を継続させるためには,平時から組織内で情報共有を密にし,業務の優先順位を整理しておくことが重要であると示唆された.またパンデミックを乗り越えるには医療との協働は不可欠であり,看護支援のニーズが高いことが示唆された.
著者
渡邉 久美 國方 弘子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.263-271, 2014-12-01 (Released:2015-02-10)
参考文献数
17
被引用文献数
3

本研究は,自尊心回復グループ認知行動看護療法プログラムに参加した地域で生活する精神障害者の自己概念の変容過程を明らかにした.対象はプログラム参加者10名であり,半構造面接により過去,現在,未来の流れで自己概念を尋ね,逐語録をM-GTAにより質的帰納的に分析した.その結果,《自己の殻からの心の孵化》をコアカテゴリーとする8カテゴリーが抽出された.発症後に知覚されていた【渦の中での停まり】【価値のない自分】は,【理解者による緊張緩和】を経て,【生活習慣への自負】【人に煩わされない感覚】へと変化していた.そして【新生した自分】の実感が,現在の【充実した生の体感】を導き,未来の自己に向かい【理想像の描写】を見出していた.発症後の否定的な自己概念は,理解者との出会いを契機に肯定的に変容していたことから,同じ体験を有する当事者や疾患を解する人々による安心できる雰囲気のなかで,ありのままの自己を語り,受け入れられる場の必要性が示された.
著者
田中 浩二 長谷川 雅美
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.3_53-62, 2012-09-20 (Released:2012-10-16)
参考文献数
20

目的:うつ病高齢者の生活世界に根ざした体験を明らかにし,抑うつを緩和するための看護への示唆を得ることである.方法:うつ病と診断され精神科治療を受けている65歳以上の高齢者11名を対象に,非構成的面接を行い,Giorgiの科学的現象学的方法で分析した.結果:6つのテーマが導き出された.うつ病高齢者は,過去の【負の記憶の重み】を抱えながら現在を生きており,さらに【老いによる喪失の重み】【抑うつを伴う身体症状からの脅かし】【他者との相互作用から起こる自己の存在価値の低下と孤独】という老いを生きることに基づく苦しみを体験することで抑うつを深めていた.これらの体験は全て【死の強い意識化】につながっており,それによってさらに抑うつが増強するという悪循環が生じていた.一方では,他者や世界とのつながりが実感できることで【生きる力の再生】を体験し,抑うつを緩和することができていた.結論:うつ病高齢者の体験の基盤には,死にふれて生きることや人としての尊厳が脅かされやすいことへの苦悩があることが考えられた.看護師は,うつ病高齢者が抑うつを抱えながらも【生きる力を再生】できるように働きかけることが重要である.
著者
大友 光恵 麻原 きよみ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1_3-1_11, 2013-03-20 (Released:2013-04-09)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究は,虐待予防のために母子の継続支援を行う助産師と保健師の連携システムの構造を記述することを目的とした質的記述的研究である.結果,連携の目的は,妊娠期から育児期を通して【母子へ継続した安心を提供する】ことであった.方法は,個別対応の【助産師と保健師の双方が母親と信頼関係をつくる】,組織内・外の【関係職種が支援の必要な母子を漏らさない網目をつくる】二重の支援であり,媒体となるのは【日常的な口頭のやりとりで情報を生かす】ことであった.連携の条件は,助産師と保健師が【虐待予防のために協力する意識を高める】,【互いを信じて支え合う】ことであった.虐待予防には,母親と専門職の関係を継続させることや文書だけではない情報の交換が重要であり,助産師と保健師の信頼関係があることで実践できていた.このことから虐待予防システムに関わる専門職の信頼関係を構築する必要性が示唆された.
著者
成田 太一 小林 恵子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.205-213, 2020 (Released:2020-11-06)
参考文献数
24
被引用文献数
2

目的:長期入院を経験し精神科デイケアを利用する男性統合失調症者が,地域においてどのように生活を再構築しているのか,当事者の視点からその特徴を明らかにし支援への示唆を得る.方法:男性統合失調症者9人を対象とし,参加観察やインタビューから得られたデータから退院後の生活の再構築についての語りを抽出し,分析した.結果:対象者は,【長期入院によるつながりの喪失】を経験し,退院後は馴染みのない【新たなコミュニティのメンバーシップを得ることの難しさ】から寂しさを感じていた.そのようななか,専門職や親族などからの【サポートの活用による病状や生活の維持】を図りながら,【地域におけるデイケアメンバーとのつながりと役割の獲得】により,生活を再構築していた.結論:長期入院を経験した男性統合失調症者が地域の中で孤立せず社会参加できるよう,当事者コミュニティと地域コミュニティとの関係づくりを強化することや,入院早期からの就労支援と地域における活動の機会の必要性が示唆された.
著者
今野 浩之 大森 純子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.772-779, 2021 (Released:2022-03-02)
参考文献数
35

本研究は,地域で生活を継続する統合失調症を持つ者の回復とはどのような経験であるかを明らかにすることを目的とした.Giorgiが提唱する現象学的アプローチを参考に,統合失調症を持つ者5名を対象に分析した.結果,統合失調症を持つ者の回復の経験とは『他者の理解の中だけにある未知の自分の存在を認知する』であり,未知の自分に対し,過去から現在までの連続の中で自分が認識できている既知の自分を見定めながら『未知の自分と既知の自分を共存させる』ことであった.未知の自分と既知の自分を共存させ続けるためには『既知の自分を維持・強化し続ける』ことが必要であった.統合失調症を持つ者の回復の経験は,未知の自分とそれに対応する既知の自分との因縁の不可分な関係によって生じ続け,今も持続的に経験されていた.既知の自分を蓄積することは,自己同一性の再構築であると考えられ,今も継続しているものであると推察された.
著者
亀井 智子 西川 浩昭 柳井 晴夫
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.2_3-2_11, 2013-06-20 (Released:2013-07-04)
参考文献数
18

【目的】看護系大学共用試験(CBT)用に作成した老年看護学の出題90項目を古典的テスト理論(CTT),および項目反応理論(IRT)を用い正答率,および項目識別度,項目困難度などの特性によりメタ評価した.【対象と方法】便宜的標本抽出により国公私立看護系23大学の臨地実習前の3年次生730名を対象として,紙筆試験を実施した.分析は正答率,IT双列相関,項目困難度(2PL model),項目識別度,因子負荷量を求め,項目特性曲線等を描いてすべての項目特性を評価した.【結果】老年看護学の平均正答率は65.8~69.3%で,他科目との相関は薬理学r=0.30~0.41, 解剖学・病理学r=0.28~0.38であった(p<0.01).項目困難度(-5.851~4.068),および項目識別度(0.292~2.218)とも幅が広かった.情報量曲線により各項目の特性が示された.90項目中3 項目の項目識別度が低かった.【結論】90項目の問題中87項目はCBTでの利用が可能と考えられた.しかし,このうち71.1%は項目困難度が負の易しい問題であったため,能力水準の高いレベルの受検者の識別に課題が残った.