著者
香川 里美 名越 民江 粟納 由記子 松岡 美奈子 南 妙子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1_61-1_70, 2013-03-20 (Released:2013-04-09)
参考文献数
20

目的:本研究では,熟練看護師が長期入院統合失調症患者に対し,退院を意識して患者に関わり始めた時期から退院支援が終了するまでの,看護実践のプロセスを明らかにすることを目的とした.方法:研究協力者13名を対象に半構成的面接を行い,質的帰納的分析を行った.結果:本研究で見出されたカテゴリーは,《患者を捉え直すことで見えてきた退院可能性》【心の奥底にある退院への希望を引き出す】【退院支援に消極的な主治医との意思統一】【退院に賛同できない家族の心情と背景を理解する】【プライマリーナースが主体となるネットワークの構築】【安心を提供するプライマリーナースの役割遂行】【1対1の関わりから自信を持たせる】の7カテゴリーであった.《患者を捉え直すことで見えてきた退院可能性》は他のすべてのカテゴリーに影響を与える中心的現象と考えられ,本研究のコアカテゴリーに位置づけられた.結論:長期入院統合失調症患者の退院支援に関する看護実践のプロセスには,継続的に患者を捉え直しながら可能性を広げる柔軟な臨床判断と,失いつつある希望を引き出し,わずかな変化にも即応できる看護介入が必要である.
著者
大森 圭美 森 千鶴
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.3_25-34, 2012-09-20 (Released:2012-10-16)
参考文献数
29

目的:統合失調症者の病気の認識に影響する要因間の関連を明らかにすることを目的とした.方法:入院中の統合失調症者に対面形式での質問紙調査を行った.各要因の関連はスピアマンの相関係数を用い,「自己の疾病についての意識」を従属変数として重回帰分析(変数減少法)を行った.結果:対象者104名のうち63名から有効回答を得た.病気の自覚尺度と「自己の疾病についての意識」において「自己内省性」と関連が認められた.また,精神疾患の自覚の程度により病気の認識,自尊感情,精神障害者観の関連が異なることが認められた.「自己の疾病についての意識」を従属変数とした重回帰分析では「陰性尺度」「自己内省性因子」「自己確信性因子」「自尊感情尺度」,精神障害者観因子「能力」で構成されるモデルを得た.結論:統合失調症者の病識の認識向上の支援には現実的認知の促進,精神障害者観と自己価値の改善の必要性が示唆された.
著者
上星 浩子 岡 美智代 高橋 さつき 恩幣 宏美 原 元子 村瀬 智恵美 茶円 美保 宮下 美子 柿本 なおみ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_21-29, 2012-03-20 (Released:2012-03-30)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

目的:慢性腎臓病(CKD)対象者に非盲検ランダム化比較試験におけるEASEプログラムを実施し,血圧,血圧測定実施率およびセルフマネジメント行動や自己効力感が向上するかどうかを検証した.方法:介入群(n=19)はEASEプログラムを12週間実施し,対照群(n=12)は従来の教育を実施した.介入の効果指標は,4週ごとの平均血圧値および血圧測定実施率,セルフマネジメント行動,自己効力感である.結果:2群間における効果指標に有意差は認められなかったが,介入群のセルフマネジメント行動は介入前後で有意に向上した.自己効力感の中央値は介入群で上昇し,対照群は低下した.血圧測定実施率は両群とも1~4週に比べ,9~12週が有意に低下した.とくに対照群における測定実施率の低下は大きかった.結論:ランダム化比較試験の結果,効果指標に有意差は認められなかった.しかし介入群のセルフマネジメント行動は向上した.よってEASEプログラムはセルフマネジメント行動に効果があることが示された.
著者
郡 ハルミ
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.520-526, 2021 (Released:2021-12-24)
参考文献数
17

目的:立位バランスに必要な足底部の皮膚感覚と足趾力を高めるためのフットマッサージを介護予防の必要な在宅高齢者に行い,効果について検討した.方法:デイサービスを利用する在宅高齢者11名に,フットマッサージを週2回,2ヵ月間行った.皮膚感覚はモノフィラメント,足趾力は足趾力測定器を用い,立位バランスは開眼片足立ち時間を測定し,前後比較分析を行った.結果:2か月間で皮膚感覚は91%以上の閾値が低下し(p < 0.05),足趾力は全員が向上した(p < 0.05).開眼片足立ち時間も82%が延長した(p < 0.05).フットマッサージの揉みほぐしで感覚受容器の情報入力が改善し,足趾運動で足趾筋力が強化したことや,開眼片足立ち時間の延長によって立位バランスの改善が示唆された.結論:介護予防の必要な在宅高齢者の転倒予防支援として,フットマッサージは有効となる可能性がある.
著者
矢野 真理 小林 裕美
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.431-440, 2021 (Released:2021-11-20)
参考文献数
22

目的:本研究は,エンド・オブ・ライフケアにおける超高齢者の療養場所選択に対する意思決定支援を行うために,急性期病院の熟練看護師が超高齢者と家族の意思をどのようにくみ取り,意思決定支援を実践しているかについての構造を明らかにする.方法:研究参加者10名に半構造化面接を行い質的統合法(KJ法)にて分析した.結果:熟練看護師は,【超高齢者への理解の追求】と【家族への理解の追求】の両面から【療養場所決定の中にある本人の尊厳】を尊重していた.さらに,【超高齢者側から見た最適医療】のために超高齢者の価値観や体験の理解をし,【医療者側から見た最適医療】を見定める調整をして【病院医療依存の中にある本人の尊厳】を守り【希望療養場所の実現可能性支援】を行っている構造が明らかとなった.結論:熟練看護師は,超高齢者の尊厳の追求を中心に据え,超高齢者医療のあり方への挑戦を実践していることが示唆された.
著者
柿沼 直美 飯田 苗恵 大澤 真奈美 原 美弥子 齋藤 基
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.1-9, 2015-04-27 (Released:2015-06-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

目的:訪問看護ステーションにおける安定的な経営管理のために,管理者が活用可能な自己評価尺度を開発する.方法:尺度の開発は,①概念枠組みの明確化,②尺度の原案は先行研究および研究者の経験に基づき作成,③専門家会議およびパイロットスタディによる内容的妥当性の検討,④全国の管理者を対象とした本調査の実施およびデータの項目分析,尺度の信頼性・妥当性の検討とした.結果:検討の結果,7下位尺度25項目からなる尺度が完成した.尺度のクロンバックα係数は,0.897であり,内的整合性を確保していた.因子分析により抽出された7因子は,【第1因子:意思疎通がよく,働きやすい職場環境の形成】【第2因子:資金の管理】【第3因子:サービスの拡充】【第4因子:収支のモニタリング】【第5因子:生産性の向上】【第6因子:看護の質保証】【第7因子:市場調査】であった.結論:本尺度は,管理者の経営管理に対する自己評価を促し,安定的な経営管理のために活用可能である.
著者
福山 智子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.161-169, 2017 (Released:2017-11-14)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

目的:Oremのセルフケア理論を基盤として,若年女性が痛みの程度と緩和の必要性に応じて,意図的に有効な対処法を実施することで,月経痛のコントロールを目指した教育プログラムを開発し評価することである.方法:8大学を教育プログラムを実施する介入群としない対照群に非ランダムに割り付け,アウトカムについて教育プログラム前後で量的に測定した.アウトカムは月経痛の対応についての考え方,月経痛の知識,月経痛レベル,月経随伴症状,日常生活行動の支障,社会生活への影響,月経痛コントロールの7項目である.結果:介入群はセッションに参加し全質問紙に回答した49名(45.4%)を,対照群は全質問紙に回答した58名(57.4%)を分析した.介入群は対照群と比較して,有意に月経痛に対処しようという考え方に変化し,月経痛の正しい知識が増え,月経痛レベルと月経随伴症状が軽減し,月経痛コントロールができた.結論:本プログラムは,若年女性が意図的に月経痛をコントロールするために効果的である可能性が示唆された.
著者
五十嵐 貴大 荒木田 美香子 佐藤 みつ子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.344-353, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
14

目的:看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請に関する尺度(以下,援助要請尺度)を開発し,その信頼性と妥当性を検証する.方法:11都道府県の看護系大学の3,4年次生2,120名を対象とし,質問紙調査を2020年2月に実施した.質問項目は援助要請尺度案(40質問項目),属性,援助要請スタイル尺度であった.また,2大学の375名に再テストを実施した.結果:808名(有効回答率38.1%)を分析対象とした.項目分析と因子分析により,2因子「非要請コストの自覚」と「被援助利益の自覚」8質問項目を抽出し,モデルの適合度を確認した.尺度全体と援助要請スタイル尺度との相関は回避型(r = –.257),自立型(r = .311)であった.クロンバックαはα = .836であった.また,再テストでは116名(有効回答率30.9%)を分析した.級内相関はr = .860であった.結論:2因子の内容に基づき,尺度名を「看護大学生の臨地実習指導者に対する援助要請の意思決定尺度」に修正した.
著者
瀬戸屋 希 萱間 真美 宮本 有紀 安保 寛明 林 亜希子 沢田 秋 船越 明子 小市 理恵子 木村 美枝子 矢内 里英 瀬尾 智美 瀬尾 千晶 高橋 恵子 秋山 美紀 長澤 利枝 立石 彩美
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1_41-1_51, 2008-03-20 (Released:2011-08-30)
被引用文献数
16 10

精神障害者に対する地域ケア施策において,精神科訪問看護は重要な役割を担っている.その効果については,精神科病棟への再入院の防止と在院日数の減少に影響を与えることが報告されているものの,提供されているケアの具体的な内容については十分に検討されていない.本研究は,精神科訪問看護で提供されているケア内容を網羅するケアリストを作成することを目的に,精神科訪問看護師18名を対象に,行った看護ケア内容についてインタビュー調査を行った.得られた援助内容について質的に分析し,「日常生活の維持/生活技能の獲得・拡大」「対人関係の維持・構築」「家族関係の調整」「精神症状の悪化や増悪を防ぐ」「身体症状の発症や進行を防ぐ」「ケアの連携」「社会資源の活用」「対象者のエンパワメント」の8つのケアの焦点と,それぞれの焦点について合計58のケア領域と222のケアコンテンツからなるリストを作成した.今後は,このリストを用いてケアの内容と量を測定していくことが期待される.
著者
池田 道智江 平野 真紀 坂口 美和 森 京子 玉田 章
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.4_46-54, 2011-12-20 (Released:2012-01-21)
参考文献数
37
被引用文献数
4 1

目的:看護師を対象にQOLと自己効力感が離職願望にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする.方法:看護師625名に質問紙票を配布し,全項目に回答した300名を対象とした.質問紙は個人属性,QOL(WHO/QOL-26日本語版),自己効力感(一般性自己効力感尺度:GSES),離職願望尺度で構成した.結果:経験年数別の比較では,QOL,GSESにおいて3年以上5年未満が最低値を示し,20年以上が最高値を示した(p<0.01).離職願望は,3年以上5年未満が最高値を示し,20年以上が最低値を示した(p<0.05).QOL,GSES,離職願望で有意な相関(p<0.01)を認め,カテゴリカル回帰分析の結果,離職願望に対してQOL(身体領域,社会関係),GSES(行動の積極性,失敗に対する不安,能力の社会的位置づけ),婚姻状況が有意に影響していた.結論:経験年数3年以上5年未満の中堅看護師の移行期間への離職願望防止対策構築の必要性が示唆された.
著者
松田 佳子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.326-333, 2019 (Released:2020-03-14)
参考文献数
25

目的:初めて父親になる男性が,立ち会い出産後にBirth-Review for Coupleを受けることで得られる父親らしさへの効果を明らかにすること.方法:立ち会い出産を希望する男性を対象に,無作為に介入群(22名)とコントロール群(23名)に割り付け,2群間比較を行った.介入群へは,出産後3日以内に夫婦一緒に出産の振り返りを行った.調査は,妊娠後期,出産後,産後1か月時に質問紙法を実施し,統計学的に分析した.結果:二元配置分散分析の結果,父親意識の高まり(F = 10.969, p < 0.001)と子どもの存在から沸き立つ思い(F = 5.848, p = 0.007)に有意差が認められた.またこれらは,出産後および産後1か月ともに介入前より有意に高かった(p < 0.01~0.001).結論:父親意識の高まりと子どもの存在から沸き立つ思いは,介入によって出産後に高くなることが明らかとなり,産後1か月まで維持されていることが示された.
著者
安藤 満代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.51-58, 1999-07-25 (Released:2012-10-29)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, ストレッサー (手術)が患者の状態不安に及ぼす影響, 患者の状態不安と覚醒との関係, およびストレッサーの種類やストレスを受ける時期が覚醒へ及ぼす影響について検討することであった. 調査では,(1) 手術前後の状態不安の変化,(2) 手術前後の状態不安と覚醒度 (緊張覚醒度・エネルギー覚醒度) との関係,(3) ストレッサーの種類 (手術・注射) およびストレスを受ける時期(前・後)が覚醒度に及ぼす影響の違いについて調べた. 25人の患者が手術前後に日本語版気分チェックリスト (JUMACL) と状態・特性不安インヴェントリー (STAI) に答え, 別の68人の患者が注射前後に気分チェックリストに記入した. その結果, 以下のことが得られた.1) 手術後の状態不安は, 手術前より低下した. これはストレッサー (手術) が状態不安に影響することを示す.2) 状態不安は緊張覚醒度とは正の相関が, エネルギー覚醒度とは負の相関があり, また不安高群は不安低群より緊張覚醒度は高く, エネルギー覚醒度は低かった.3) 緊張覚醒度は, 手術も注射もともに経験後は前より低下した. また, エネルギー覚醒度は手術では経験後は前より上昇する傾向があったが, 注射では経験の前後に差はみられなかった.ストレスが状態不安に影響し, さらに状態不安は覚醒と関係するという結果は, 部分的にScottのストレス-コーピングモデルと一致するといえる. また, ストレッサーの種類およびストレスを受ける時期によって各覚醒度に及ぼす影響が異なることは, 北村の研究を一部支持している. 今後, これらの結果に基づいた看護が必要であると考えられる.
著者
石橋 信江 東 ますみ 藤永 新子 西村 治彦
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.219-228, 2018
被引用文献数
1

<p><b>目的:</b>慢性心不全患者への遠隔看護介入モデルが入院リスクの軽減,QOLの維持・向上に有用であるかを検証する.</p><p><b>方法:</b>入院を繰り返す65歳以上の慢性心不全患者11名にビデオ通話による看護介入を1年間実践し,介入前・中・後の入院回数と入院期間,体重,血圧,BNP値と,介入前後のQOLの比較・検討を行う.</p><p><b>結果:</b>介入1回あたりの平均通話時間は11.5±3.6分で,介入前の入院回数は全員が2~5回/年だったが,介入中は9名が入院することなく,そのうち5名は介入後の1年間も入院しなかった.BNP値等の数値に目立つ変化はなく,介入後のSF-36®による心理的側面の得点が有意に高かった.</p><p><b>考察:</b>患者に合わせた短時間の集約的な介入の継続によってQOLを改善し入院を回避できたという結果から,遠隔看護介入モデルの有用性が確認できた.介入終了後も入院回避しており,在宅患者のセルフモニタリング能力の強化に繋がることが示唆された.</p>
著者
岩井 詠美 辻本 朋美 井上 智子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.111-117, 2015-07-28 (Released:2015-08-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:病院に勤務する看護師による組織市民行動の実態を調査し,看護師に特徴的な組織市民行動を明らかにする.方法:2013年2月,近隣に位置する4つの公的病院の看護師1,003名を対象に自記式質問調査を行った.結果:有効回答数は763名(76.1%)であった.『スタッフ支援』について,4項目中2項目において「時々した」「よくした」を合わせて90%を超えた.一方,『ロイヤリティへの貢献』の全3項目において「全くしなかった」「あまりしなかった」を合わせて50%以上を占めた.組織市民行動の実施の程度の因子分析(n=409)では,質向上に関する行動,環境整備,指導,協力,ケアの提供に関する行動の5因子が抽出された.抽出された因子の実施状況の差をみたところ,5因子で有意差が見られ,質向上に関する行動が最も低く,協力が最も高かった.結論:看護師は,スタッフなど個人に向けた組織市民行動をよく行い,組織に向けた組織市民行動をあまり行っていない.看護師の組織市民行動において,協力など,一般的に組織市民行動とみなされている行動のほか,質向上に関する行動や指導など,看護師に特徴的な組織市民行動がみられた.
著者
神成 真 澤田 いずみ 道信 良子 吉野 淳一
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.88-97, 2021 (Released:2021-07-29)
参考文献数
20

目的:精神療養病棟の治療構造における病棟規則の機能を明らかにすること.方法:3施設4か所の精神療養病棟で月1回6か月間のエスノグラフィーを実施し,構造機能主義を理論的パースペクティブとして質的帰納的分析を行った.結果:病棟規則の機能として,【管理指示型集団従属的規則運用パターン】の規則は,【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】の治療構造の存続を維持するために順機能していた.【対話支持型個人主体的規則運用パターン】の規則は,【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】の治療構造の存続を維持するために順機能していた.結論:精神療養病棟の病棟規則は,患者の医療保護および社会防衛の機能と,患者を社会復帰に向ける機能を有していた.患者個人を支援する規則の内容と対話を用いた運用が,患者を社会復帰に向ける機能を果たすと示唆された.
著者
土屋 守克 伊藤 幸太 髙橋 誠一 坂上 貴之 眞邉 一近
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.71-78, 2021 (Released:2021-07-20)
参考文献数
29

目的:フライトナースのプレホスピタル・ケアを対象として,撮影された動画のオプティカルフローから算出した活動量(以下,動画活動量)を測定した上で,熟練者と初心者の相違について比較するとともに,機械学習による分類性能について検討することを目的とした.本研究の結果が明らかとなれば,臨床における教育や業務の省力化,効率化が期待できる.方法:熟練者および初心者フライトナースのべ30名を対象とした.対象者は,胸部にウェアラブルカメラを装着した上で業務に従事した.熟練者と初心者の分類のために機械学習および線形判別分析を行い,分類性能を検証した.結果:動画活動量のエントロピーの中央値は,熟練者のフライトナースが有意に低値であった.各分析方法における分類性能(適合率,再現率,F1値)は,サポートベクターマシンとランダムフォレストが高かった.結論:動画活動量のエントロピーが熟練性の指標となり得ること,エントロピーの経時的変化に対して機械学習を適用することにより,高い分類性能を示すことが明らかとなった.
著者
阪井 万裕 成瀬 昂 渡井 いずみ 有本 梓 村嶋 幸代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.4_71-4_78, 2012-12-20 (Released:2013-01-09)
参考文献数
34
被引用文献数
1 2

目的:看護師のワーク・エンゲージメント(以下,WE)に関する研究の方法論を包括的に整理し,今後の研究の方向性について示唆を得ることを目的とする.方法:CINAHL, MEDLINE, PubMed, PsycINFO,医学中央雑誌を用いて,nurse, engagement, work engagement,看護師,エンゲージメント,ワーク・エンゲージメントの用語で検索した.2004~2011年11月までに発表された20文献を対象とした.結果:調査対象は病院勤務の看護職が大半であった.また,さまざまな病院・部署を同時に扱うことによる影響が考えられ,方法論上の課題が明らかとなった.WEの測定尺度は4つあり,近年はJob Demands–Resources modelを概念枠組みとしたUtrecht Work Engagement Scaleを用いた研究が多かった.看護師のWEの向上は,看護師の身体症状・うつ症状の軽減に限らず,組織の効率性やケアの質の向上にも寄与することが明らかとなった.結論:今後は,所属機関や部署ごとの特性を考慮した変数設定や解析方法を取り入れること,看護師のWEの向上を視野に入れた具体的な実践や介入が及ぼす効果を科学的に検証することの必要性が示唆された.