著者
小船 雅義 渡辺 一郎 芦野 園子 奥村 恭男 高木 康博 山田 健史 小船 達也 大久保 公恵 進藤 敦史 中井 俊子 國本 聡 平山 篤志
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.SUPPL.3, pp.S3_114-S3_117, 2009 (Released:2015-01-23)
参考文献数
4

植込み型除細動器 (ICD) は心室頻拍/細動 (VT/VF) に基づく突然死の1次/2次予防に有効な治療法であることが示されている. しかしながら, ICDの植え込みを施行したにもかかわらず救命困難な症例も存在する. 今回, VFに対しICDが作動したにもかかわらず死亡した2症例を経験したので報告する.  症例1 : 56歳, 男性. 陳旧性心筋梗塞後の低心機能症例で, VTに対しICD植え込みを施行したが, 約1年後, 心肺停止 (CPA) にて搬送され死亡した. ICDの記録にてVFによる作動が確認された.  症例2 : 69歳, 男性. 2004年4月にCPAで当院搬送され救命され, 冠攣縮性狭心症に伴うVFに対しICD植え込みを施行した. 心機能は良好であり狭心症治療薬の服用も励行していたが, 再びCPAとなり死亡した. ICDの記録にてVFによる作動が確認された.  結語 : 冠動脈攣縮に伴うVF症例および虚血性心疾患に基づく重度の低心機能例ではICDが作動してもVT/VFが停止しない場合もあり, 冠攣縮の薬物コントロール, あるいはアブレーションなどの心室性不整脈に対する対策が望まれる.
著者
益岡 弘司 世古 哲哉 森木 宣行 山中 猛成 常岡 克伸 上田 国彦 中沢 茂雄 小野 直見 二神 康夫 須川 正宏 井坂 直樹 中野 赳
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.295-299, 1996

Tissue plasminogen activator(t-PA)による冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)後の再閉塞が,以前より問題となっている.短時聞でのt-PA投与に伴う反応性の線溶能の変動が,再閉塞に関与することを既に我々は報告した.今回我々は,現時点で一般臨床上使用可能な投与量でも再閉塞の予防に寄与する投与方法がないかを検討するために,2つの異なったt-PAの投与方法を試み比較検討した.〔方法〕急性心筋梗塞患者20例を無作為にA群10例とB群10例に分けた.A群にはt-PA640万単位でPTCRを施行した.B群は480万単位で施行後,160万単位を6時間かけて末梢静脈より持続点滴した.PTCR開始前と開始の24時間後に採血し,t-PA,PAI-1,PIC,TAT,AT III,α2-PI,fibrino-gen,D-dimerおよび血小板数を測定した.〔結果〕PTCRはA群の1例で再灌流しなかった.4週後の確認造影では,PTCR不成功の1例に加え別にA群で1例が完全閉塞であったが,B群に再閉塞例はなかった.PTCR開始前の各因子に両群間で有意差は認めなかった.24時間後の値では,TATがA群15.4ng/ml,B群3.2ng/mlと有意にB群で低値であったが,他の因子に両群間で有意差は認めなかった.〔結論〕PTCR後のt-PA持続点滴を試みた.点滴例に慢性期再閉塞はなかった. t - P A 持続点滴例はPTCR単独例に比し,24時間後のPICに差はないがTATは有意に低く,線溶療法後の線溶活性は変わらないが反応性の凝固亢進状態の持続は弱いと考えられ,再閉塞の予防に有用である可能性がある.
著者
榎本 善成 野呂 眞人 伊藤 尚志 久次米 真吾 森山 明義 熊谷 賢太 酒井 毅 坂田 隆夫 杉 薫
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.2, pp.S2_111-S2_116, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
12

症例は29歳,男性.17歳時に不整脈原性右室心筋症(ARVC)による心室頻拍(VT)から心肺停止となり,植込み型除細動器(ICD)を植え込み経過観察していた.2011年3月11日の東日本大震災以降,動悸の訴えあり3月14日ICD作働を認めたため,当院緊急入院となった.入院時心電図は,左脚ブロック型,右軸偏位のHR100台の心室頻拍(VT)であり,over-drive pacing,各種抗不整脈投与でも停止しないため鎮静下でVTコントロールを開始した.約1週間の鎮静でコントロール後,持続するVTは消失したため,第48病日に独歩退院となった.しかし,その後も心不全悪化のために短期間で再入院を繰り返し,6月4日に再入院となった.心臓超音波検査(UCG)では,右心系の著明な拡大のみならず左室駆出率10%程度の両心不全の状態であり,入院後再度VT storm状態となった.鎮静下でのコントロールも無効であったため,補助循環装置(PCPS)導入したが,VT stormが鎮静化することなく,死亡した.震災を契機にVT storm状態となり心機能悪化が助長されたARVCの1例を経験した.
著者
三崎 拓郎 岩 喬 関 雅博 飯田 茂穂 向井 恵一 相沢 義房 小渡 輝雄 岩 亨
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.975-980, 1989

教室で外科治療を行った非虚血性心室性頻拍32例の内,3例は薬物療法に強く抵抗し遠隔地よりヘリコプターおよび航空機で搬送され緊急手術を行った.緊急手術の特殊性として,手術部位決定のための術前,術中の電気生理検査を十分行いえない点があげられた.すなわち術前電気生理検査の際に容易に心室細動となるため,心内膜カテーテルマッピングを行いえないこと,逆に術中心表面マッピングでは,術前長期あるいは蘇生に際して大量に使用された抗不整脈剤の影響のためもあって,患者の持っている全ての頻拍が誘発されるとは限らないことである.対策としてあらかじめ心電図所見などから予想される心内膜部位に予防的に広範な冷凍凝固を行うことが重要である.
著者
柴田 宗一 菊田 寿 住吉 剛忠 渡辺 誠 三引 義明 大沢 上 小泉 勝 榛沢 和彦
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.473-480, 2010 (Released:2012-01-31)
参考文献数
11
被引用文献数
6

岩手・宮城内陸地震発生後,新潟大学を主体とする「エコノミークラス症候群予防検査支援会」を中心に,周辺医療機関からのボランティアと栗原市職員から構成される『チーム栗原』として,静脈血栓塞栓症 (venous thromboembolism;VTE) 予防検査活動を行った.地震発生後6カ月目までに,被災者113名に対し下肢静脈エコーを行い,17名 (15%) に深部静脈血栓 (deep vein thrombosis;DVT) を認めた.DVT陽性群とDVT陰性群とで,リスク要因について多変量解析を用いて分析した結果,年齢:高齢 (オッズ比1.090,95%CI 1.029-1.155,p=0.004),性別:男性 (odds ratios (OR) 0.150,95% confidence interval (CI) 0.027-0.818,p=0.028),症状の有無:有り (OR 3.326,95%CI 1.024-10.805,p=0.046),喫煙習慣:有り (OR 16.020,95%CI 2.067-124.163,p=0.008) が統計学的に有意であった.血栓陽性者に対しては,弾性ストッキングを配布し,かかりつけ医に対し診療情報提供書を作成し,基礎疾患治療の継続とともに,血栓治療を依頼した.さらに検診データをもとに栗原市とともに,避難所および仮設住宅の環境改善にも取り組んだ.保健師を中心に,避難所生活内での指導と管理を継続して行った.その結果,避難所および仮設住宅内で1人も肺塞栓症へ進展することなく現在まで経過している.震災後のVTE予防検査活動を行ううえでは,病院の枠組みを越え,行政を巻き込んだ活動が必要である.またこのような活動を支援することは,災害時における循環器科医師の重要な役割の1つと考える.
著者
茅野 千春 丸山 隆久 小林 武司 相澤 孝夫 武井 学
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.719-724, 2001-09-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
7
被引用文献数
3

向精神薬の長期服用中に,著明な低酸素血症と肺高血圧症を呈した慢性血栓塞栓性肺高血圧症を経験した.症例Iは58歳,女性.分裂病で抗精神薬の長期服用歴あり.平成8年より労作性の息切れ,呼吸困難が出現.動脈血酸素分圧47.4mmHg,肺動脈圧75/28(45)mmHg.肺血流シンチで両側肺野に多発性に集積低下,欠損像を認め,右下肢深部静脈血栓症も認めたことより,慢性血栓塞栓性肺高血圧症と診断した.下大静脈フィルターの留置,抗凝固療法,在宅酸素療法,t-PAの静脈内投与を行った.平成10年3月右心不全で死亡.診断後約1年6カ月の経過だった.剖検で肺動脈内に血栓閉塞と再疎通所見,血栓の器質化による血管腔の狭小化,著明な右室肥大(500g)を認めた.症例IIは63歳,女性.トリアゾラムの長期服用歴あり.平成10年に顔面の浮腫で発症.動脈血酸素分圧38.1mmHg,肺動脈圧97/40(62)mmHg.肺血流シンチで両側肺野に集積低下,欠損像を認め,肺動脈造影で主幹部の拡張と末梢での途絶,消失像を認めた.下肢静脈瘤あり.平成12年1月呼吸不全で死亡.発症約2年の経過だった.ともに小太りの初老の女性で,下肢の静脈異常を有し,向精神薬の長期の服用歴があった.発症に向精神薬の関連が示唆された.
著者
野間 昭典
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.236-243, 1997-03-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
29

この総説では,心洞房結節細胞における自発活動電位のイオン機序について,我々がこれまでに報告した主な論文を中心に概説する.拡張期緩徐脱分極に関係する電流として多くの電流系が報告されているが,これらは大きく2つのグループ,即ち,いわゆる背景電流と,膜電位と時間に依存したゲーティングを示すイオンチャネル電流に分類できる.膜電位変化を能動的に誘発するのは後者であるが,心ペースメーカー細胞では以下のようなチャネルが報告されている.遅延整流Kチャネル,特にE4031などでブロックされる速いコンポーネントは先行する活動電位脱分極で活性化され,最大拡張期電位の後,時間とともに脱活性化される.L型Caチャネルは活動電位脱分極によって不活性化されるが,再分極の後,拡張期に時間依存性に不活性化から解除される.僅かに,いわゆるwindow current成分が存在する場合には,Ca電流の大きさが徐々に大きくなる.拡張期の後半1/3では徐々に活性化が進み,活動電化の立ち上がりにスムースに移行する.T型Caチャネルは-50mV位に活性化の閾値を示すので,一部のチャネルは拡張期脱分極中,活性化される.持続性内向き電流が拡張期脱分極の電位範囲で活性化することが最近報告されているが,この電流は不活性化が極めて遅く,流れ続けることができることから,拡張期脱分極に寄与していると考えられる.最後に,過分極で活性化する非選択性陽イオンチャネル(If)が-60 mV付近で僅かに活性化される.背景電流としては,Na依存性の背景電流, Na/Kポンプ電流,Na/Ca交換電流などが主な成分であると考えられる.
著者
横田 充弘 山内 一信 谷村 英彦 渡辺 佳彦 外畑 巌 安井 昭二
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.315-324, 1975-03-01 (Released:2013-05-24)
参考文献数
20

20歳から49歳にわたる日本人正常男性164名,女性137名を対象として,小型電子計算機を用いた8心拍加算法により,S/N比の良いFrank誘導ベクトル心電図P環を描出した.これらのP環について17項目の諸量を自動計測し,性別,年代別(20-29歳,30-39歳,40-49歳)に平均値および標準偏差を求め,統計学的手法を用いて性差,年齢差の解明を試みた.計測17項目中20歳代の群で5項目,30歳代の群で3項目,40 歳代の群では7項目に有意な性差が存在した.また,男性では5項目に,女性では13項目に加齢に伴う変化を認めた,これらの成績よりP環について適切なベクトル心電図診断を行なうには性別,年齢別診断基準が必要であることが示唆された
著者
田村 康二 坂内 省五 樋熊 紀雄 小沢 武文 松岡 松三
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.8, no.13, pp.1273-1280, 1976

冠予備力の測定には最大冠血流量の起こさせ方とその測定法に問題がある.そこで種々のストレス下での経時的冠血流量の変化の内での最大血流量の変化をみて冠血流量の予備力をヒトで検討してみた.(1)冠動脈全体の最大血流量(冠予備力)の判定についてi)運動試験の場合:平均36%の増加の冠血流量を認めた.ii)精神暗箪負荷試験:平均26%の冠血流量の増加を認めた.しかしいずれも動物実験から推測される最大血流量には至らなかった.iii)ニトログリセリン投与:9.5~14.4%の増加.iv)亜硝酸アミル投与:63% .v)Dipyridamole:46%の増加.vi)Etaphenone hydrochloride:9%の増加と薬剤投与で最大血流量は認められなかった.vii)冠静脈洞ペーシング負荷法:104%の増加が非心筋虚血群で認められた.これも最大血流量はみれないが負荷法としては安定していた.(2) 単一冠動脈の冠予備力:冠動脈造影時の冠血流量の反応が手掛りを与えてくれる.
著者
西澤 匡史 星出 聡 苅尾 七臣
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.563-568, 2014 (Released:2015-05-15)
参考文献数
13
著者
中川 陽之 小林 洋一 渡辺 則和 箕浦 慶乃 勝又 亮 河村 光晴 安達 太郎 小原 千明 宮田 彰 丹野 郁 馬場 隆男 片桐 敬
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.16-20, 2004

38歳の女性,主訴は意識消失発作である.既往歴として2回の失神歴を有した.平成12年1月頃より,起立時の立ちくらみが頻発し始めた.同年12月,起立位で上司との会話中,立ちくらみが出現した.息をこらえ我慢していたところ意識消失発作が出現したため救急車で某病院に搬送され,当院紹介受診となった.理学的所見,非観血的検査に異常は認められず,臨床経過よりneura11y mediatedsyncopeが疑われたためhead-up tilt test,頸動脈洞マッサージを施行したが,失神発作は誘発されなかった.Valsalva試験は第II相,第IV相における異常反応が認められ,valsalva ratioは低下しており,自律神経系異常パターンが認められた.このことより,再度80度受動起立下で息こらえをしたところ,開始直後より急激な血圧の低下をきたし,約6秒後に臨床症状と同様の失神発作が誘発された.以後,日常生活での息こらえを必要とする動作の禁止を指導し,外来経過観察中である.息こらえにより失神発作が誘発される症例は,我々が検索した限り,成人例においては2報告にすぎず,まれな症例と考えられ報告した.
著者
石川 自然 安藤 正彦 辻 隆之 須磨 幸蔵 高尾 篤良
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.6, no.11, pp.1632-1637, 1974

われわれは雑腫成犬を使用しての実験中,たまたままれにみるイヌの心膜欠損に遭遇した.<BR>本心膜欠損例は,'L内筍形の合併はなく,'t前面左右に及ぶ広範囲の心膜欠損があり,ヒトにおいてもまれと思われるtypeの1つである、また,形態学上興味深い事は,特に左室側の心膜辺縁の直下に深い圧痕がみられ,さらに左側のN.phrenicusが露出されていた事である.現在までに,ヒトの心膜欠損症の臨床症状の1つとして胸痛があげられているが,本症例の場合,圧痕による冠状動脈の圧迫は形態学上胸痛の成因を示唆している様に思われる.<BR>発生学的には,横隔膜神経が左側心膜を伴っていない事から,左側のpleuropericardial-membraneの不完全な発育によって肺芽が胸腔と心腔との間にある空隙に突入しながら発育したためと思われる.心膜欠損症の発生機序については,不明なところがまだ多く,今後さらに検討する必要があると思われる.
著者
村松 崇 坪井 直哉 吉田 幸彦 小椋 康弘 鈴木 博彦 山下 健太郎 海野 一雅 嶋野 祐之 松下 邦洋 七里 守 竹澤 博人 平山 治雄 伊藤 昭男 外山 淳治
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.71-77, 2004

症例は65歳男性.慢性腎不全,下壁心筋梗塞の既往あり.慢性心不全の増悪で入退院を繰り返していた.2002年徐脈性心房細動のためVVIペースメーカー植え込み術を施行された.その後2003年3月から心不全が再増悪し,ドブタミン持続点滴から離脱困難となった.来院時BNPは1560,心エコー上LVDd78mm ,LVEF26%であった.両室ペーシング(BiV)の急性効果を検討したところ右室ペーシングと比較して,LVdP/dt maxが約41%改善した. 後日BiVへのupgrade手術を施行. 術後心不全は著明に軽快しドブタミンから容易に離脱可能となった.術後6日目にCL320msの非持続性心室頻拍(10連発)が1度のみ認められた.メキシレチン200mg/日を開始したところ以後心室頻拍は認められないため退院となった。退院後心不全症状はなく経過良好であったが2カ月後自宅で午睡中に突然心肺停止状態となり死亡した.経過から致死的不整脈が死因と考えられた.うっ血性心不全に対するBiV治療においてはICD機能付き両室ペースメーカーを必要とする症例が存在するが,その鑑別が重要と考えられる.
著者
一瀬 哲夫 小島 諭 宮崎 彩記子 宮崎 忠史 林 英守 伊藤 誠悟 川村 正樹 諏訪 哲 櫻井 秀彦 住吉 正孝
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.806-810, 2008

症例は64歳,男性.数日前に左上肢を枕にして昼寝をしていたところ,突然の左上肢浮腫を認めたため来院.明らかな血栓性素因,悪性疾患を認めなかったが,左上肢の静脈造影,造影CTで左腋窩静脈の高度狭窄と,左鎖骨下静脈の遠位部の完全閉塞と近位部に浮遊血栓を認めた.肺動脈血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)の予防のため上大静脈に一時留置型静脈フィルター(ニューハウスプロテクト)を留置し,7日間のウロキナーゼ投与,およびヘパリン療法を開始した.線溶療法後の静脈造影では浮遊血栓は消失し,左鎖骨下静脈に器質化した血栓を認めた.フィルターは10日目に合併症なく抜去した.原発性鎖骨下静脈血栓症(Paget-Schroetter症候群)によるPTE予防に一時留置型フィルターは有用であると思われた.
著者
伊藤 健二 高口 直明 大川 恭矩 赤坂 忠義 井村 哲也
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.6, no.14, pp.2014-2018, 1974

左右肺静脈は共通幹を形成するものの,右肺静脈と左下肺静脈は主として冠状静脈洞へ,左上肺静脈は垂直静脈を経て左腕頭静脈へ還流する混合型総肺静脈還流異常症の11ヵ月女児に対する二期的根治手術例を報告した.<BR>第一期手術は,冠状静脈洞入口部を拡大し,肺静脈血が左房へ還流するように,ダクロンパヅチによる心房中隔脈成を,第二期手術は3年後,肺静脈一左房吻合,垂直静脈結築を行ない,血行動態は正常化した.<BR>混合型総肺静脈還流異常症の中,最も頻度の多い,冠状静脈洞と左腕頭静脈へ還流する型につき,共通肺静脈幹形成の有無,左右肺静脈間の交通の程度によって,分類を試み.おのおのの型に対する根治手術術式を検討した.
著者
網野 真理 吉岡 公一郎 鈴木 陽介 上村 春良 福嶋 友一 櫻井 馨士 守田 誠司 大塚 洋幸 中川 儀英 山本 五十年 児玉 逸雄 猪口 貞樹 田邉 晃久
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.SUPPL.3, pp.S3_138-S3_138, 2009 (Released:2015-01-23)

本邦においては硫化水素による自殺者が2008年の1年間のみで1,007人にものぼり社会的に深刻な問題になっている. 今回われわれは, 重篤な意識障害と呼吸不全に心筋障害を合併した硫化水素中毒患者の救命に成功し, 心筋障害の回復過程を心臓核医学検査により評価し得たので報告する. 症例は32歳, 男性. 自ら硫化水素を発生させて吸入自殺を図り, 救急車で当院救命センターに搬送された. 来院時の身体所見では, 除脳硬直肢位, 口唇のラベンダーブルー斑, 腐卵臭を呈し, 両側肺野では湿性ラ音が聴取された. 硫化水素中毒に伴う意識障害, 呼吸不全, 肺炎, 横紋筋融解症と診断し, 人工呼吸器管理, 高濃度酸素投与にて集中治療室へ入院. 第2病日には肺炎による敗血症性ショックを発症, 第3病日には横紋筋融解症の進行と心筋障害の新規出現が認められた. さらに第5病日には心原性ショック, 肺水腫が出現したが, 第7病日には人工呼吸器からの離脱に成功した. 第14病日は心筋血流イメージとして99mTc-tetrofosmin (TF), 心筋脂肪酸代謝イメージとして123I-BMIPP, 心臓交感神経イメージとして123I-MIBGを施行可能であった. TF, BMIPPでは前壁の一部, 下壁~後壁における集積低下が認められ, MIBGでは高度交感神経障害が示唆された. 同時期に施行した冠動脈CTにおいて冠動脈の有意狭窄はなかった. 心筋障害に対する内服加療としてカルベジロールおよびエナラプリルを投与し, 第38病日に退院となった. 受傷6カ月後の心電図および心臓超音波検査では, 左室壁運動は正常化し心臓核医学検査ではTF, BMIPPにおける前壁, 下壁~後壁の集積低下は改善した. MIBGにおいては, wash out rateは改善した. 以上の臨床経過から, 内因性の急性心筋梗塞, たこつぼ心筋症, 急性心筋炎の可能性は低く, 硫化水素による心筋障害と考えられた. 本症例は重篤な硫化水素中毒からの急性期離脱後, およそ6カ月の経過を経て心筋障害の改善傾向を示した貴重な症例である.