著者
佐藤 知己
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

今年度は「蝦夷記」のアイヌ語の研究を重点的に行い、18世紀のアイヌ語の音声、音韻、文法、語彙の分析を行ったその結果、これまでに知られていなかった点として、いくつかの言語的特色が明らかになった。すなわち、まず、音声的な面について言えば、今日の/h/に対応する位置に、パ行の仮名が用いられている場合が、偶然とは思えない頻度で存在することが明らかとなった。また、今日のaに対応する位置にオ段の仮名が書かれている例も多数みられ、これらは、今日のアイヌ語の発音とは異なる発音であった可能性を示すものと考えられ、アイヌ語の変遷を考える上で貴重な示唆を与えるものである。文法的な点について言えば、人称接辞の存在が、既にこの時代の日本人によっても認識されていたことを示すと思われる記載が見つかった。このことは、アイヌ語の観察の精度が高いことを示すものと言うことができ、本資料の信頼性を推測する有力な手がかりとなるものである。語彙的な面では、従来、あまり明らかではなかった社会言語学的な言語変種が、この時代のアイヌ語には極めて多数存在していたことが明らかになった点が特筆される。すなわち、指示対象の種類、使用者の社会的な立場、使用される場面に応じて、同じ対象に対して実に様々な語彙が存在していたことが明らかになった。これらはいずれも今日のアイヌ語方言では全く知られていないか、痕跡的にしか残っていない特色であり、アイヌ語の歴史的変遷、アイヌ語の文法構造を探る上で貴重な手がかりを提供するものである。また、この資料の中には、現代の資料、たとえば『アイヌ神謡集』の中の難読語を解明する上で有力な手がかりを提供するものが含まれていることも同時に示した。なお、アイヌ口頭文芸の1人称体の起源の考察においても、古文献の資料が役立つことも示した。
著者
新田 卓也
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

目的:アスタキサンチンによる網膜神経節細胞(RGC)保護効果を調べるために、正常眼圧モデル動物であるGLASTノックアウトマウスに、アスタキサンチンを経口投与し、網膜神経節細胞死の抑制効果を調べた。アスタキサンチンは用量依存性にRGCの保護作用を示し、投与されたマウス網膜において酸化ストレスのマーカーである4-hydroxy-2-nonenal (HNE)の減少がみられた。しかしNF-kBの抑制はみられず、抗炎症作用についてはみられなかった。アスタキサンチンは緑内障の有力な治療薬の候補であり、その神経保護作用は抗酸化作用によって生じていることが、今回明らかになった。
著者
内田 健太
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本研究の目的は、人馴れ・餌付けがエゾリスの人に対する攻撃性を高める可能性について検証することである。これまで、人に馴れたり餌付いた野生動物(例えば、北米イエローストーンのクマや奈良公園のシカ)が人に攻撃的になることが知られている。しかしながら、こうした人為介入がなぜ野生動物の人に対する攻撃性を高めるのかは、未だ科学的に検証されていない。そこで、本研究では過度な人馴れにより、同種に対する攻撃性が人に対する反応にも波及するという新しい枠組みを提示する。餌付けは、野生動物を誘引しエサ台などの局所的な個体密度を高める。こうした環境では、資源を巡る競争が激化し、個体の攻撃性が高まりやすいとされる。そして、こうした攻撃性はしばしば別の対象にも波及すること(漏洩効果Spillover effect)が知られる。つまり、過度の人馴れで全く人を恐れなくなった結果、リスの攻撃性の高まりが人への攻撃性にも波及していると考えた。本研究では、集団の攻撃行動の頻度、個体の同種に対する攻撃性の性格、個体の人への攻撃性を調べることで、上記の仮説を検証にする。平成29年度は、データサンプリングを中心に行った。餌付けされている生息地では、餌付けのされていない生息地よりも、リス同士の争い合いの頻度が高いことが分かった。また、こうした生息地では、人に対する攻撃性も高いことが分かった。現在、約90頭のリスについて、Open field test(同種に対する攻撃性を測る行動実験)を実施しており、行動分析を行っている
著者
白取 祐司
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
1984

博士論文
著者
山本 康貴 馬奈木 俊介 増田 清敬 近藤 功庸 笹木 潤 宋 柱昌 吉田 祐介 赤堀 弘和
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

EUでは、環境に配慮した農業生産を行うなどの一定要件を満たした農業生産者に補助金等を支払うというクロス・コンプライアンス(CC)を適用した農業政策が実施されている。本研究では、CC受給要件を、農業由来の環境負荷などの外部性効果とみなして評価し、CC受給要件の内容設計に資する手法の開発や適用を試みた。農業生産活動由来の環境負荷に及ぼす環境影響を経営段階のミクロレベルや国全体のマクロレベルで定量評価できる手法の開発と適用を行い、CCを適用した新たな農業政策の設計に資する基礎知見を得ることができた。

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出版者
北海道大学
雑誌
北大百二十五年史
巻号頁・発行日
vol.論文・資料編, pp.939-642, 2003-02-21
著者
亀山 宗彦 佐藤 孝紀 谷本 浩志 小川 浩史 角皆 潤 山下 洋平
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では海表面への落雷に伴う物質循環が起きる可能性を検証した。実際の海水、河川水、純水に純空気及びアルゴン雰囲気下で放電を行うことで実際の落雷を模擬した。本研究では特に窒素酸化物の生成がみられ、放電に伴い硝酸・亜硝酸塩及び亜酸化窒素が生成されていることがわかった。硝酸・亜硝酸は気相中での生成が知られており、本研究でも主な生成は気相中で起こっていたが、液相中でもその生成が起きていることがわかった。また、溶存態・粒子態有機物の生成・分解も確認された。
著者
秦泉寺 雅夫
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

今年度は、申請課題の2つのテーマにおいて進展があった。第一のものは、K3曲面上のN=4超対称位相的ゲージ理論についてのもので、前年度に引き続き、この理論の分配関数と、アフィンリー環の理論との関連を追及した。この方針の研究を進める事により、ADE型のアフィンリー環の分母公式に現れる式が、K3曲面上のADE型のゲージ理論の分配関数の満たすべきS-双対性の性質を満足している事を発見した。この発見をもとに、ADE型のゲージ群をもつK3曲面上のN=4超対称ゲージ理論の分配関数を構成した。また、これらの結果が、弦理論双対性の一種であるTypeIIA弦理論と、Heterotic弦理論の間の双対性を用いて、簡明に解釈できる事を示した。第二のものは、一般型の超曲面の量子コモホロジーに関する研究で、今年度は、この量子コモホロジー環を、それに付随するガウス-マニン系と呼ばれる微分方程式を用いて決定するという方針のもとに研究を行った。大きな進展は、この量子コモホロジー環が、カラビーヤウ超極面の量子コモホロジー環を導出する際に用いられるミラー変換と呼ばれる座標変換を拡張した一般ミラー変換を用いる事によって決定できる事を発見した事である。現在の所このやり方によって、次数5までの有理曲線に関するGromov-Witten不変量を予言する公式を導出する事に成功している。また、一般の次数の有理曲線に対して、一般ミラー変換をどう定義すべきかが明らかにはなっていないので論文の形で発表はしていないが、近日中に理論を完成させ、発表する予定である。
著者
松井 利仁
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

交通騒音によって睡眠妨害以外の健康影響が生じることは必ずしも知られていない。しかし,近年の大規模な疫学調査などにより,虚血性心疾患や脳卒中の罹患率・死亡率の上昇が明らかにされてきた。欧州WHOはそれらの知見に基づいて,交通騒音による健康損失を障害調整生存年(DALY)で評価する方法を示している。本研究では,我が国にこれを適用する際の様々な課題について検討を行ない,DALY算定のための方法を確立した。