著者
生田 和良 西野 佳以 今井 光信 石原 智明 関口 定美 小野 悦郎 岸 雅彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

精神疾患の原因は明らかにされていない。現在、精神分裂病やうつ病などの精神疾患の原因として遺伝因子と環境因子の両方が関わると考えられている。本研究では、精神疾患との関連性が示唆されているボルナ病ウイルス(BDV)に関する検討を行った。これまでのドイツを中心に行われた疫学調査から、BDVはウマ、ヒツジ、ウシ、ネコ、ダチョウに自然感染し、特に、BDVに感染したウマやヒツジではその一部に脳炎を引き起こすことが明らかにされている。私達は、日本においてもドイツとほぼ同じ状況でBDVがこれらの動物に蔓延していること、さらに末梢血単核球内にBDV RNAが検出しえることを報告してきた。また、同様の検出法により、精神分裂病に加え、慢性疲労症候群においてもBDVとの関連性を認めている。しかし、献血者血液においても、これらの疾患患者に比べ低率ながら、BDV血清抗体や末梢血単核球内のBDV RNA陽性例が存在することを報告した。そこで、本研究では安全な輸血用血液の供給を目的として研究を行い、以下の結果を得た。1) 健常者由来末梢血単核球への精神分裂病患者剖検脳海馬由来BDV感染により、明らかなウイルス増殖の証拠は得られなかった。2) ヒトの血清抗体ではBDV p24に対する抗体が主に検出され、ヌクレオプロテインであるp40に対する抗体検出は稀である。同様に、ヒト由来末梢血単核球内のBDV RNA検出においても、p24 mRNAが主であり、p40 mRNAは稀である。この現象を検討するため、ラットおよびスナネズミ脳内へのBDV接種実験を行った。その結果、新生仔動物への接種ではp24抗体が主として産生され、成動物への接種ではp24とともにp40に対しても上昇することが判明した。
著者
鈴木 由美
出版者
北海道大学
巻号頁・発行日
2017-03-23

背景 レビー小体型認知症(DLB)はパーキンソニズム,幻視,認知の変動を三主徴とする変性疾患である.幻視とは,実在しない対象が見える現象である.幻視はDLBと臨床診断された患者の70%にみられ,DLBの病初期から認められる重要な問題である.錯視とは,実在する対象が実際とは異なって見える現象である.DLBには錯視もみられるが,頻度の高い錯視にパレイドリアがある.パレイドリアとは,壁の染みやシーツの皺が人や動物の全身や顔に見えるなど,光景の中の不明確な形から実体的で明瞭な対象の錯視が形成される現象のことである.Uchiyamaらは,適切な視覚刺激(パレイドリア誘発刺激)を用いれば,パレイドリアを再現できることを示し,その検査をパレイドリアテストと名付けた.幻視とパレイドリアとは,視覚像として生じる対象,生じる場所などが類似しており,両者に共通の神経基盤がある可能性が論じられている.したがって,パレイドリアの神経基盤を解明することはDLBの幻視を研究する上でも重要である.しかし,パレイドリアテストでは対象者に画像の中にある対象を指さし口述するように求めるため,パレイドリアが生じているか否かの判断は,患者の主観的な報告のみに依存する.パレイドリアが生じていることを示す外から観察可能な生理学的指標のないことが,その神経基盤を解明するための研究,たとえば機能的MRIの施行を困難にしている.瞳孔径は,網膜に届く光の強さなどにもとづいて反射的に変動するだけでなく,より高次な脳機能とも関連して変動することが報告されている.アイマークレコーダーを用いれば,対象者が刺激のどこをみているのか,どのように視線を動かしているのかの情報と同時に,瞳孔径についての情報も得ることができる.目的本研究の目的は,アイマークレコーダーを用いてパレイドリアテスト実施中のDLB患者の発言と画像刺激の注視位置,衝動性眼球運動,瞳孔径を記録し,パレイドリアの出現と瞳孔径変動など生理学的指標の特徴との関係を明らかにし,パレイドリアが生じていることを示す外から観察可能な生理学的指標を見出すことである.方法DLB患者8名と,年齢,性比,教育年数を合わせた健常対照者9名を対象とした.対象者にアイマークレコーダーを装着,ビデオ撮影をしながら,Uchiyamaらのパレイドリアテストを行った.これにより,パレイドリア誘発画像を見ているときの注視位置,衝動性眼球運動,瞳孔径,および言動を記録した.みられた発言を,刺激画像の中にはないものがあると誤って言うパレイドリア発言と刺激画像の中にあるものをあると言う正しい発言とに分類した.DLB患者のパレイドリア発言に先行する瞳孔径変動,DLB患者の正しい発言に先行する瞳孔径変動,および健常対照者の正しい発言に先行する瞳孔径変動の時間周波数を,高速フーリエ変換プログラムを用いて分析した.結果発言に先行する1秒間の0~0.46Hzの低い時間周波数帯域のパワーの変化量には,DLB患者のパレイドリア発言,DLB患者の正しい発言,健常対照者の正しい発言の三者で有意差があった.すなわち,DLB患者のパレイドリア発言前が最も大きく,DLB患者の正しい発言前が次に大きく,健常対照者の正しい発言前が最も小さかった.また,健常対照者の正しい発言前のパワーの変化量の中央値を基準にして,DLB患者の発言を開始直前の1秒間のパワーの変化量がそれより大きい群と,それより小さいか等しい群の2群に分けると,発言前のパワーの変化量が基準より大きいときはパレイドリア発言が正しい発言より有意に多かった.また,変化量が基準に等しいかより小さいときは,正しい発言がパレイドリア発言より有意に多かった.また,同じDLB患者が同じ刺激画像の同じ位置を見ているケースの対を全て拾い出し,その直前1秒間のパワーの変化量を調べても,ほとんどの場合にパレイドリア発言の直前のパワーの変化量は健常者の中央値より大きく,正しい発言の直前のパワーの変化量は健常者の中央値より小さかった.しかし,発言開始直前1秒間の衝動性眼球運動については,頻度にもついて角速度についても,DLB患者のパレイドリア発言とDLB患者の正しい発言の間に有意な差はなかった.
著者
和田 哲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ホンヤドカリ属を対象として、オスとメスの成長と繁殖の資源配分様式を調べた。本属の一部の種では、交尾直前にメスが脱皮することがあり、繁殖期中にも成長する。本研究の結果、脱皮する個体は、とくに産卵間隔が長い傾向が強く、抱卵数も変異が大きかった。オスも配偶行動によって摂餌行動が抑制されるため、繁殖に費やす時間の増加が成長を低下させることが示唆されたが、実験ではそれを強く支持する結果は得られなかった。
著者
黒田 明慈
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

水に微量の長鎖状高分子あるいは棒状ミセルを形成する界面活性剤を添加すると,乱流域での抵抗が著しく低減することはToms効果として知られている.著者らは微小なダンベル状要素で高分子を模擬したモデルを構築し,本モデルを用いて二次元チャネル内乱流のDNSを行い,Toms効果を再現した.また,この離散要素が縦渦減衰による抵抗低減機構と壁面近傍の付加応力による抵抗増加機構の2つの機構を内在していることを示した.二次元チャネル内乱流を対象として,抵抗低減流れの直接数値計算を行った。混入要素は(1)流体中で一様に発生する(2)流体から受ける引張り力に応じた確率で切断消滅するものとした.(2)の効果によって流体中で要素の濃度分布が生じるが、瞬時の要素濃度は移流拡散方程式を解くことによって求めた。その結果、従来50%程度であった抵抗低減率が最大で約70%となった。またこの場合に流れがほとんど層流化していることが確認された。さらにRe_tau=120-600の範囲で計算を行い,高レイノルズ数では抵抗低減効果が消失するなどのレイノルズ数依存性が見られることを確認した.
著者
小島 廣光
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.1-95, 2002-03-12

本研究は,我が国のNPO法の立法過程を詳細に分析することにより,(1)本法律の特徴である市民に広く開かれた立法過程のあり方の提示,および(2)本法律の見直すべき問題点と有効な活用方法の解明を目指したものである。本稿では,このNPO法の全立法過程を次の6期に区分し,(1)政府(内閣・省庁),(2)議員・国会,(3)市民団体の3つの参加者の各期における行動をそれぞれ詳述する。6期は,(第1期)議論の開始から阪神・淡路大震災の発生前まで,(第2期)阪神・淡路大震災後から与党案の第1次合意まで,(第3期)与党案第1次合意の破棄から第2次合意まで,(第4期)与党案第2次合意から民主党との調整を経て衆議院通過まで,(第5期)参議院での修正と特定非営利活動促進法の成立まで,(第6期)特定非営利活動促進法の公布から優遇税制の成立まで,である。これら参加者の行動は,次稿において政策の窓モデルを改訂した独自のモデルにもとづき詳細に分析される。
著者
尾関 俊浩 秋田谷 英次
出版者
北海道大学
雑誌
低温科学. 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.1-10, 1995-02

サン・クラストが形成される熱収支領域及び雪質条件を明らかにすることを目的に,4融雪期にわたって野外観測を行なった。観測期間に9回15例のサン・クラスト形成を観測した。サン・クラストは 1mm程度の薄い氷板であり,その下には深さ1cm程の空洞が形成された。サン・クラスト形成時には 200から 450W/m^2の短波放射フラックスが積雪に吸収されていた。また積雪表面は長波放射と蒸発によって冷却されており,長波放射収支と顕熱,潜熱のフラックスの和は常に負の値(0〜ー140W/m^2)であった。これはサン・クラストが維持され,その下で内部融解が起こるのに適した熱収支条件であった。サン・クラストは平均4.2×10^2kg/m^3のざらめ雪が変態して形成された。さらに表層の雪はサン・クラストを形成する過程で大きな密度のざらめ雪を経なければならなかった。
著者
葉原 芳昭 坂本 健太郎
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011-04-28

モモイロペリカンとハイイロペリカンの胸部、キングペンギンとコウテイペンギンの耳部と頚部・上胸部に他の部位と比較して紫外線を吸収する紫外線低反射羽毛領域が種を超えて存在することが紫外線カメラ撮影と分光測光で明らかとなった。この領域はロペリカン両種では黄色の、ペンギン両種では橙色の羽毛領域とほぼ一致していた。モモイロペリカンでは、この紫外線低反射領域は、成長に伴って現れることが推定された。この「紫外線模様」は性成熟もしくは繁殖可能性を示すサインとして機能している可能性があるが、雌雄判別への関与は少なくともこの4種の鳥類ではないと結論された。一方、カラスでは判別に関わっている可能性がある。
著者
樋渡 雅人
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では,ウズベキスタンの農村地域のコミュニティ(マハッラ)を対象に,家計調査によって収集したネットワーク・データを用いて,コミュニティに内在する社会ネットワーク(互助関係,血縁関係,その他の社会関係)の構造や効果を分析した.空間自己回帰モデルを用いた計量分析によって,社会ネットワークが農村家計の多様な経済活動(移民,就業,生産,相互扶助)に及ぼすネットワーク効果(ピア効果)を明らかにした.また,ダイアディック回帰分析を通して,コミュニティ内の現金や財貨の流れが社会関係的要因に強く依存することを示した.
著者
樋渡 雅人
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究は、旧ソ連中央アジアのウズベキスタンを対象に、地縁共同体の内部構造をネットワークの統計学的モデル化の手法を用いて分析することで、開発政策や比較研究の見地から応用的含意を導くことを目的としている。村落内に根付いた慣習的な組織に基づく高い密度の社会ネットワークの安定性は、特定の構造によって支えられていることなどを実証的に示すことで、ネットワークの構造と調和的な開発政策を立案する有効性を指摘した。
著者
鈴木 賢 坂口 一成
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

日本同様、自白偏重の傾向がある台湾では、1998年に刑事訴訟法が改正されて、警察、検察での取調過程に録音・録画を義務づける制度が導入された。取調全過程録音(ないし録画)はすっかり実務に定着し、今日では当たり前のことになった。しかし、義務違反が根絶されたわけではなく、義務に違反した取調調書の証拠能力について訴訟で争われる事例もなくなってはいない。その意味で義務違反の取調調書をいかに扱うかが今後の焦点となっている。他方で取調過程の可視化が自白を困難にさせていることは確認できず、この制度の導入によるデメリットも見つからなかった。台湾法の実践は日本の進むべき道を示唆していると考えられる。
著者
高井 哲彦
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.349-372, 2003-12-16

フランス労使関係は、労働組合の初期形成期からすでに単純な二元構造ではなく、多元的構造を持った。その中でも20世紀初頭のスト破り組合は、経営者団体にも労働組合にも属さない「中間的団体」の先駆であった。スト破り組合=黄色組合の盛衰は、敵対する労働総同盟=赤色組合と表裏一体であり、第1期の初期組合(1897年)以来、10年ごとに3つに時期区分できる。とくに第2期(1909-1920年)の自由(国民)労働会館は黄金期をなした。異なる視点を組織史的に統合することにより、その3つの顔が明らかになった。労使協調を志向する穏健派組合が第1 の顔であるが、半犯罪者の組織する人夫供給機関という第2 の顔の方が実態に近いと思われる。第1次世界大戦では、ナショナリスト労組という第3 の顔を得て急成長する。ところが、同大戦後の第3 期には、対抗すべき労働総同盟がイデオロギー的に分裂すると同時に、キリスト教組合や技術者・ホワイトカラー組合など、より洗練された中間的団体が興隆した。そのため、ときに粗暴なスト破り組合は歴史的役割を終えたが、労使協調的な中間的団体はその後も姿を変えて存続し、多元的労使関係の第三極を形成する。
著者
山下 和久
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.33-39, 2009-03-12

公益事業と収益事業を行なう民法第34条法人は,公益事業で生じる赤字を収益事業の利潤の一部で補填するという制約の下で「公益財の量」および「収益事業の税引き後利潤から公益事業への繰入額を差し引いた金額」に依存する目的関数を最大化すると考えられる。 公益認定法人は公益目的事業比率を50%以上とし,公益目的事業については剰余金が出ないようにする必要がある。また,収益事業からの利潤の50%以上を公益事業へ繰入れなければならない。そういった制約の下で,公益財の量および収益事業の利潤をできるだけ大きくするように行動すると考えられる。制約を満たすには収益事業の利潤を最大にすることができないこともある。 一般社団法人・一般財団法人は,「非営利型法人」と「非営利型以外の法人」に区分される。非営利型法人には「非営利性が徹底された法人」と「共益法人」がある。共益財供給費用が会費収入と収益事業の税引き後利潤で賄われるという制約の下で,共益法人は共益財の量および会員数に依存する目的関数を最大にするように共益財の量と会費を決定するであろう。
著者
川合 安
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学文学部紀要 (ISSN:04376668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.1-23, 1999-03
著者
北村 嘉恵 山本 和行 樋浦 郷子
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、「研究実施計画」に即して、以下のとおり進めた。1.台湾南部(台南、嘉義)において、国民小学や個人・団体の所蔵する文書・写真・奉安庫等の調査を進めるとともに、関係者に聞き取り調査を行った(8月、3月)。所蔵者の逝去により一時中断していた元教員旧蔵資料群については、遺族の了解を得て作業を再開することができ、出版物(書籍)を除く全資料のデジタル撮影を終えることができた。現在その悉皆的な目録の作成を進行中である。これまでの調査の成果と課題を共有するため、国立台湾歴史博物館研究組組長と協議を行い、同館における調査・整理の方針について情報を得るとともに、今後の協力方法についても検討した。2.韓国・国家記録院のデータベース等により学校資料の残存状況および内容を把握したうえで、韓国南部の数カ所(昌原、釜山)に調査地を絞りこみ、初等学校や韓国長老教会の所蔵する文書・写真等の閲覧および関係者への聞き取り調査を行った(8月)。実地調査において学校沿革誌の原本を確認することはできなかったが、とくに、学校創立以来の通時的な集合写真や学籍簿、普通学校生徒の帳面のほか、教会の牧師・長老会議の記録である「堂会録」(1900年代初頭~1960年代末)などの所蔵を確認し閲覧できた点で大きな進展が見られた。このうち許可の得られた資料についてはデジタルカメラにて撮影を行うとともに、仮目録を作成した。3.主要資料のうち公刊許可の得られた学校沿革誌については、全文の翻刻を行い、解題を付して紙媒体および電子媒体で順次公刊し、幅広い共有化をはかるとともに調査地への成果還元につとめている。また、調査・分析より得られた知見は教育史学会等にて個別研究として発表し、論文として公刊を進めている。