著者
喜田 宏 MWEENE Aaron Simanyengwe
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

新型インフルエンザウイルスの出現には渡りガモ、家禽およびブタが重要な役割を果す。研究代表者はヒトと家畜・家禽に発生、流行するインフルエンザを予防・制圧するため、地球規模で動物インフルエンザの疫学調査を実施している。研究分担者を疫学調査に参画させるとともに、ウイルス学・分子生物学的解析法ならびに動物実験法を習得せしめ、グローバルな疫学調査網のカウンターパートとして養成することを目的とする。研究分担者は調査で分離されるウイルス株の遺伝子を解析し、インフルエンザウイルスの宿主域の分子基盤を明らかにする。研究代表者および研究分担者らが国内で実施した調査における渡りガモおよび家禽からの糞便およびブタ鼻腔拭い液を発育鶏卵あるいはMDCK細胞を用いてインフルエンザウイルスの分離を試みた。本年度、渡りガモからは69株の様々な亜型のインフルエンザウイルスが分離された。分離されたウイルスの亜型、卵での増殖能などの情報を基に、ワクチンおよび診断用抗原として適切な候補株を系統的に保存した。現在この系統保存は135通り中101通りまで完成している。また、2004年1月から発生した国内における高病原性鳥インフルエンザの発生の原因ウイルスであるA/chicken/Yamaguchi/7/04(H5N1)の抗原解析、遺伝子解析を行い、今回の流行に有効なワクチン候補株の選抜を行った。また研究分担者は、インフルエンザウイルスの高感度迅速診断法を確立するために、インフルエンザウイルスNS1蛋白に対するモノクローナル抗体を作出した。これらのモノクローナル抗体は、抗体作成時に免疫原とした組換えNS1蛋白およびインフルエンザウイルス感染細胞中のNS1蛋白を高感度で検出できることがわかった。このモノクローナル抗体を用いた迅速診断キット試作品が完成し、ウイルス感染細胞におけるNS1蛋白の検出時期を本キットで調べた。現在A/chicken/Yamaguchi/7/04(H5N1)を感染させた鳥類の材料を用いて、本診断キットの有効性を評価中である。
著者
大橋 和彦 高木 道浩 杉本 千尋 小沼 操
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ウイルス、細菌などの病原体には標的細胞への吸着の際、細胞表面糖鎖をレセプターとして利用しているものが多く、このようなレセプターをワクチンなどに利用すれば、株間で抗原性が異なる病原体に対しても広く有効な防除法を開発することが可能になる。そこで感染症防除のためにこれらの糖鎖を擬態できるようなペプチドを探索・同定し分子擬態利用法を開発するため、ウイルス(NDV)をモデルとしてNDVレセプター構造を分子構造的に模倣するレセプター擬態ペプチド分子を探索し、そのNDV感染に対する防御能を検討した。NDVヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)抗原を標的として特異的に結合するペプチド分子をランダムペプチドライブラリー(6mer〜8merのペプチドを含む)よりファージディスプレイ法とバイオパンニング法により探索した。その結果、NDV HN抗原に対して特異的結合性を示す3種類のファージクローンが得られた。得られたクローンの塩基配列・アミノ酸残基を解析した結果、EVSHPKVG、WVTTSNQW、SGGSNRSPの3種類のアミノ酸配列が擬態分子として同定された。さらに各ファージクローンのNDV特異的結合能は、抗NDVニワトリ抗血清を利用したELISA競合阻止試験によっても確認された。次にこれらの各ファージクローンより予想されたアミノ酸配列をもとに合成ペプチドを作製し、NDV粒子に対する結合能や感染防御能を解析した。3種類の合成ペプチドはNDVによる赤血球凝集活性を阻止できなかった。しかしながら、ウイルス中和試験の結果、これらのペプチドが部分的にNDVの感染を中和できることが示された。今後、これらのペプチドが結合するNDV粒子状の分子を明らかにするとともに、そのアミノ酸配列をもとに、よりNDV感染阻止能力の高いアミノ酸配列を模索し、in vivoにおける効果を検討することが、臨床応用に向けて必要となる。
著者
中村 通義
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.47-55, 1997
著者
岩田 昌征
出版者
北海道大学
雑誌
スラヴ研究 (ISSN:05626579)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.47-72, 1981
著者
于 暁軍
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.115-134, 2004-12-09

中国経済は、改革開放の政策を実施して以来、輸出主導経済を牽引力に、20年間著しい成長を遂げてきた。経済規模が既に世界7位まで浮上してきた。その背景には、ドルに対する固定相場制を採用していることがある。そのために、外貨準備が年々増加し、世界第2位のドル保有国となっている。近年、通貨の人民元のレートに関する議論が盛んに行われてきた。特に、アメリカが双子の赤字を抱えており、一方、国内でインフレが進んでいる状況の中で、現行の固定レート(1ドル=8.27元)を維持できるかどうかという疑問が出ている。第一章では、(1)人民元の交換性、(2)人民元レートの運営と為替需要、(3)為替運営と金融政策、(4)為替市場の仕組みと人民元レートの決定メカニズムなどを中心に、中国現行為替管理の仕組みにおいて人民元需給要因などから人民元レートの決定メカニズムを明らかにする。第二章では、(1)人民元レートの推移、(2)人民元レートの管理から生じる問題、(3)金融国際化に向けた為替制度の見直し、(4)今後の為替運営の展望などを中心に、現行の為替相場制度は抱えている様々な問題を分析し、WTO加盟後、安定的な経済成長を維持しながら、柔軟性のある為替制度をどのように選択することを議論する。
著者
澤村 誠 宗林 孝明
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

貝毒(下痢性)を惹き起こすオカダ酸を、抗原抗体反応を利用し、非標識で動作するバイオセンサで検出した。また、予備実験として同センサによりがんマーカーのCEA(癌胎児性抗原)を検出した。・バイオセンサの作製:平成17年度に作成したトランジスタ型センサから操作が容易でより安定して動作するダイオード型センサを作製した(特許出願済)。・検出法:センサのシリコン基板表面の酸化膜上に微細な電極を作製し反応場とし、抗体を固定化(物理吸着)し、ターゲットの抗原を滴下する。抗原抗体反応進行に伴い、ダイオードの電流・電圧特性を比較すると、反応の進行レベルに加え、動的特性がターゲットの濃度に依存して規則的に変化する。標準サンプルから検量線を作成すればターゲットを定量することができる。・効果:本研究は貝毒の抗原抗体反応の検出を非標識で行った最初の研究と思われる(従来、検出にはマウステストが行われているが、近年ELISA法による実験の成功例がある)。オカダ酸のような微小な分子が非標識で検出されたことは重要な発見である。尚、使用したバイオセンサは構造が簡素で、低電圧で安定動作し、操作が容易である。他の抗原抗体反応(CEA検出)にも応用できるが、可能性として酵素反応やDNAハイブリダイゼーションにも用いることができ、応用範囲が広い。・新発見:反応場上の抗原と抗体が形成する薄膜の動的電気伝導特性が変化することから、反応に伴い抗体の分子構造(水を含む)の大きな変化(conformal transition)を伴う電子状態の変化があることが予想される。このため、今後、細胞やウイルスなどの大型ターゲットの電子状態計測や細胞シリコン融合素子への応用が期待される。課題:(1)検出感度を他の検出法と比較すること(サンドイッチ法(ELISA)で検出できず)。(2)抗原抗体反応に要する時間の短縮。(3)夾雑物のある環境における検出実験。
著者
吉見 宏
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.217-222, 2009-03-12

我が国の内部統制監査は,日本版SOX法とも呼ばれる,一連の制度整備によって2008年度から本格的に導入された。これはアメリカにおけるSOX法をモデルにしたとされるものの,我が国の場合には1つの法としてではなく,金融証券取引法等の該当条文及び,各種基準等を総称したものである。その中核となるのがいわゆる「内部統制基準」である。 本稿は,その制定に当たって,米SOX法の制定の契機となったエンロン事件に相当するものが我が国に見られるのかを検証するものである。ここでは,西武鉄道,アソシエント・テクノロジーの事例を中心に,大和銀行等の事例も検討対象とし,これらの不正事例の発覚と,内部統制基準の制定との連関が,エンロン事件と米SOX法ほどには明確にはみられないものの,制度制定の促進要因となっていたことを見るものである。
著者
加藤 重広
出版者
北海道大学
雑誌
北海道大学文学研究科紀要 (ISSN:13460277)
巻号頁・発行日
vol.127, pp.1-27, 2009-02-25
著者
ガンバト ジャミヤン 吉野 悦雄
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.73-93, 2005-06-09

モンゴルは、市場経済に移行して国際社会から援助を受けるようになった。モンゴルは1991年から2002 年までの間に総額で23.6 億米ドルのODA を受けている。このODA 総額のうち日本からのODA 額は約36%を占めており、日本はモンゴルにとって第1 位のドナー国となっている。このような多額にのぼる外国ODA はモンゴルの社会・経済において疑いもなく重要な役割を果たしている。本稿では、モンゴルに対する外国ODA の実態を概観し、日本のODA の現状と課題について検討する。さらに事例分析を通じて日本のODA のモンゴル社会・経済に与えている効果について分析を行う。本稿の検討からはODA 法の整備の遅れが悪影響を及ぼしたことが分かる。日本のODA はモンゴルの経済インフラを中心として行われている。ODA 事業の失敗例もあるが、モンゴルに対する日本のODA は非常に重要な意義を持ち、欠かせない役割を果たしていると位置づけられよう。
著者
宮本 謙介
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.85-103, 2001-12-11

本稿(本研究の第II章)では、現代中国における開発最前線の一事例として浙江省の中小私営企業を取りあげ、2000年9月に実施した実態調査に基づいて、私営企業の労働市場を分析課題とした。浙江省は、上海市に隣接して、中国でも最も私営企業が成長している地方であり、当地では、国有企業や郷鎮企業が民営化によって私営企業に衣替えしたものが多数を占める。その労働市場は、同族経営と縁故主義による雇用と労働力配置、内部労働市場の未成熟、労働力調達の地域的閉鎖性などを特徴としており、また雇用形態や社会保障の面でも就労の不安定化要因を内包している。現代中国の私営企業は、労働者の能力主義評価を重視した生産効率優先の経営によって経済成長を牽引しているが、労働者の雇用確保、就労の安定性といった諸点で、なお多くの課題を抱えている。
著者
両角 良子
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.101-115, 2009-03-12

子育て世帯が,政府による子育て支援を目的とした所得保障を受ける場合には,いったん,他の非労働所得とプールした上で非労働所得の配分を考える。そのため,子育て世帯が所得保障で得た非労働所得を子ども向けの財の消費に使うことは,標準的なミクロ経済学の需要理論では必ずしもいえない。日本政府は1999年に子育て世帯に対して,居住地域にある小売店で買い物をすることができる地域振興券を交付した。地域振興券の交付の目的の一つは,若い親の層の子育てを金銭的に支援することであった。そこで本研究では,地域振興券政策に着目し,子育て支援が目的である旨を政策にラベル付けすることで,政府による所得保障が子ども向けの財の消費に結びつくか,すなわち、ラベリング効果(labeling effect)が存在するかを検証した。その際,子ども向けの財として,子どもの被服消費に焦点を当て,『家計調査』(総務省)の個票データを使って検証した。分析の結果,地域振興券の利用が認められている期間に,世帯の被服消費額に占める子どもの被服消費額の割合が一時的に上昇していることがわかった。この結果は、ラベリング効果があったことを示している。
著者
杉浦 竜夫
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.93-112, 2004-03-09

環境被害は自然環境の破壊にとどまらず、人間の多様な価値を剥奪している。本論の目的は、アマルティア・センの経済学的方法論を抽出し、環境問題分析へ応用可能なツールとしてこれを整理することにある。彼の方法論は環境問題分析の視点から「手段と目的との峻別」、「個人の多様性への配慮」、「帰結と過程の区別と関連の重視」、「エンタイトルメント概念」、「agency 概念」の5 点に整理することができる。この方法論は環境政策上の有用な含意を導出するものであり、水俣での事例にも適用した場合、以下が指摘できる。水俣地域住民の環境被害の回避可能性にかんするエンタイトルメント状況に留意する必要性、水俣病に特有な「機能」剥奪の増加・多様化に対応する専門医療機関の拡充や精神面でのサポートを含めた通院・在宅を通じての医療ケアの必要性、患者の自由度を支えるための公共政策として水俣地域での交通対策の推進による自由な生活の基盤確立、agency を踏まえた被害者・患者が主体的に関わることができるシステム作りを進める必要。そして、総じて述べれば水俣の真の環境再生・地域発展を視野に置く人々の価値ある生活を「目的」とした政策である。以上、センの方法論を水俣病事件に適用することで、環境被害の多面的な剥奪状況を把握する場合での有効性を確認した。
著者
町野 和夫
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.199-215, 2009-03-12

本稿では,町野(2003)を基にしながら,平等主義的倫理規範の進化的起源の動物行動学や人類学の知見を取り入れて,倫理規範形成過程のモデル化の枠組みを提示した。倫理規範の形成に影響する多様な要因を整理して,シンプルでかつ各過程の個別モデル同士の整合性の取れた,ゲーム・モデルが構築できることを示した。メンバー間の多様性を前提することでイニシアティブをとるリーダーの存在を内生化でき,その上で説得される人数と協同作業の成功確率を明示的に関連付けてモデル化した。さらに限定的記憶による慣習化と効用関数(利得構造)の変化として倫理規範の内面化をモデル化できることを示した。
著者
山岸 俊男 山岸 みどり 高橋 伸幸 結城 雅樹 石井 敬子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

実験室に設定された「実験社会」を用いて、関係の固定化による「安心」の提供が不可能な状況を作り出し、関係の固定化を媒介しない形での自発的な社会秩序の形成を可能とする原理を明らかにすることをめざした。そしてこの最終目的を達成するために、一連の実験研究を通して、まず第1に、機会主義的関係の信頼関係への変換に際してリスクテイキングが不可欠の役割を果たすこと、そして更に、この変換のために必要とされる社会関係的および社会制度的な条件を明らかにすることを明らかにした。具体的には、以下の諸点を明らかにした。◆信頼関係の形成に際してはリスクテイキングが重要な役割を果たす。◆信頼関係形成においては、信頼行動と協力行動とを切り離し、信頼に伴うリスクを最小限に抑えつつ協力行動をとる戦略が極めて有効である。◆情報非対称性が生み出すエージェンシー問題の解決に際して評判が果たす役割は、社会ないし市場の開放性・閉鎖性に応じて異なってくる。閉鎖的社会ではネガティブ評判が、開放的社会ではポジティブ評判が有効である。◆相互協力を達成するための集団内での非協力者に対する罰行動と、他集団の成員に対する罰行動は、異なる心理メカニズムに基づいている。◆1回限りの囚人のジレンマにおける協力行動の説明原理としての効用変換モデルの限界を克服するためには、ヒューリスティック・モデルが有効である。◆内集団成員に対する協力行動は、集団内部での一般交換に対する期待が欠かせない。この証拠は、最小条件集団においても国籍集団においても存在する。ただし、集団内で相互作用が存在する場合には、この期待は内集団成員に対する協力行動にとって必要ではない。◆集団主義的社会制度の経験は、集団主義的(ないし相互協調的)自己観と原因帰属(すなわち集団主義的信念システム)を顕在化する。
著者
石塚 晴通 白井 純
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究計画に基づいて平成13〜16年度に以下の研究を実施した。1.シナ大陸の古印刷資料の原本調査を、大英図書館、フランス国立図書館、中国国家図書館、天津図書館、台湾故宮博物院、台湾国立中央図書館に於て実施した。2.朝鮮半島の古印刷資料の原本調査を、韓国誠庵古書博物館、同湖巖美術館、同延世大学校図書館、東洋文庫、京都国立博物館等に於て実施した。3.日本の百万塔陀羅尼及び古印刷資料の原本調査を、大英図書館、東洋文庫、京都国立博物館、高山寺、個人宅等に於て実施した。4.印刷資料及び関連する典籍をテーマとする「典籍の国際的交流・受容(訓読)」(平成14年度、於北海道大学)、「日本学・敦煌学・漢文訓読の新展開」国際学術会議(平成16年度、於北海道大学)の実行委員長として、国際会議を推進した。5.研究成果を国際会議及び国内学会に於て発表した。以上の如く、シナ大陸、朝鮮半島及び日本の古印刷資料の原本調査を実施して、東アジアに於ける正式印刷本の確認は9世紀後期まで下ること、日本の百万塔陀羅尼は「刷る」行程の無い集成印本であることを明らかにして、国際会議等の場に於て積極的に発表した。
著者
谷口 勇仁
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.67-74, 2005-03-10

本稿の目的は、既存のCSR(Corporate Social Responsibility)に関する議論を検討し、「企業の論理」と「社会の論理」という2つの論理の存在を明らかにすることにある。従来、不祥事を起こした企業に対して、「CSR を果たすという当たり前のことがなぜできないのか」という意識に基づいた批判が数多くなされてきた。しかしながら、企業にとってCSR 活動を行うことは必ずしも当たり前ではない可能性もある。このような場合、批判の根底にある前提と、現実のCSR活動の根底にある前提が異なることになるため、不祥事を起こした企業に対する批判は机上の空論となる恐れがある。本稿は、このような状況を「企業の論理」と「社会の論理」のギャップとして捉えることを試みたものである。まず、既存のCSR に関する研究を「企業経営に対する提言」という観点から、「規範的アプローチ」と「手段的アプローチ」という2つのアプローチに分類して整理した。次に、この2つのアプローチを比較検討した結果、それぞれ「社会の論理」、「企業の論理」という観点からの整理であることを明らかにし、両論理の存在を導出した。さらに、2つの論理を検討した結果、「企業の論理」と「社会の論理」の間にCSR に関する解釈のギャップが存在する可能性を指摘した。