著者
森下 満
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

研究目的:開港場として諸外国の文化導入の窓口となったわが国近代の歴史的地区において、社会的、文化的に形成された地域固有の色を明らかにし、そのことを通じて町並み色彩の意味や計画の考え方の再定立をめざす。研究方法:函館市西部地区と神戸市北野・山本地区の2地区をとりあげ、戦前期洋風木造建物の外壁下見板などに塗り重ねられ、層をなすペンキ色彩のこすり出しによるサンプル採集・分析、CGシミュレーションによる復元的分析等にもとづき、町並み色彩の変容過程を比較考察する。成果:1.こすり出しによって様々の色からなる同心円状のペンキ層を発掘した。これを「時層色環」という新しい概念で提示し、地層のように各層が示すそれぞれの時代、環境、個人の様相を意味するものとして定義した。2.ペンキによる町並み色彩は時代によって変化する。現状に比べて過去の色彩は多様であり、意外性をもち、全く異なる色の世界が形成されていた。3.色彩変化の背景には、戦争などの大きな時代の流れと、建物所有者の変化などの地域コミュニティレベルの色彩形成のしくみの変化の2つの力が働いている。4.従来の町並み色彩計画の考え方として、周囲となるべく目だたず無難な色を基本とし、基準を設けて統一的な色彩に規制するのをよしとする傾向がある。そのモデルに近世の伝統的な町並みがある。しかし、近代のペンキによる町並み色彩では、多様、変化という全く異なる方法で魅力的な町並みを形成することが可能なことを示唆している。5.豊かな、魅力ある町並み色彩を形成するには、地域コミュニティレベルで創造的な色彩形成のソフトなしくみを環境-時代-人-色の応答関係の中でどうつくるかが課題である。6.町並み色彩とは「環境と時代における個人の自己表現と集団の共有の価値の表現」を示すものであり、住民が主体的に町並みづくりに係わることのできる重要な役割をになう可能性をもっている。
著者
松藤 敏彦 東條 安匡 島岡 隆行 吉田 英樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

埋立地の安定化状態の推定は,適正管理のために重要な課題である。本研究は,二つのアプローチによって埋立地内部の状況を推定した。有機物の指標として炭素収支推定の意義と可能性を示し,多数のガス抜き管における測定により浸出水とガスの動きを推定した。またガス抜き管埋設による周囲からの空気引き込みは,長期化が懸念される埋立地の安定化促進に向けた新たな方法を示唆する重要な発見である。
著者
金子 勇 稲月 正 町村 敬志 松本 康 園部 雅久 森岡 清志
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

現代都市で高齢化が進むにつれて、そこに生きる高齢者の多くかできるだけ長く社会との関わりを持とうとしている。それが自分自身の近未来の幸せであるという意識である。年金が遅く支給されることが高齢者を仕事に駆り立てるのではなく、主な理由は生きがいと健康のためにある。社会参加のキッカケとしての仕事から離れると、高齢者がそれを見付けることは困難なので、できるだけ自分を生かせるものならば何でも行なっているのが現状である。それは高齢者が「後期高齢者」の介護をすることまでも含む。調査結果からみると、高齢者のほとんどがとにかく熱心に社会との関わりを探すライフスタイルを採っていた。だから、退職の年齢になっても、高齢者はできるだけさまざまなルートで社会参加の道を探し、公的な雇用や伝統的な雇用関係にとどまらない。たとえその仕事が自分の現役時代のそれより評価が低くても、十分な満足が得られない報酬であっても、高齢者は一生懸命に探しだした仕事に取り組む。日本の都市では、自営業の経験は地域社会との関わりを必然的にもたらすので、この特徴を生かすことから地域社会での参加の方向を考え直すことができる。なぜなら、地域社会での役割活動の評価は特に高くはないが、ゆるやかで融通がきくことも長所に数えられるから。今回の高齢者ライフスタイル調査研究からは、その興味深い生活史に支えられたさまざまの人生観から多くの生き方が学べた。そのうえで、高齢者にとって、経済的な理由からの社会活動としての職業参加を超えて、健康の維持や生きがいさらには残り20年の積極的な人生のためにも、働く、役割をもつ、経験する、一緒に何かを行なうことなどの一連の行為の重要性が解明された。
著者
上田 多門 後藤 康明 長谷川 拓哉 濱 幸雄 田口 史雄 遠藤 裕丈 林田 宏 桂 修 加藤 莉奈 佐藤 靖彦 王 立成
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

寒冷地のコンクリート構造物は,コンクリート内部の水分が凍結融解を繰り返すことにより,凍害といわれる劣化が生じる.超音波を用いた実構造物における凍害の程度を測定する方法を提示し,凍害の程度と材料特性の劣化程度との関係を示した.乾湿繰返しや塩害と凍害との複合劣化のメカニズムを明らかにし,劣化をシミュレーションするための数値モデルを提示した.凍害を受けた構造物を増厚工法で補修補強した後の,構造物の挙動を数値解析するためのモデルを提示した.
著者
中丸 裕爾
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

アレルギー性鼻炎の病態形成におけるマクロファージ遊走阻止因子(macrophage inhibitory factor ; MIF)の働きを調べるため、MIFの遺伝子ノックアウトマウスを使用しアレルギーモデルマウスを作成し、アレルギー性鼻炎症状、鼻腔粘膜浸潤好酸球数および鼻腔粘膜内サイトカイン濃度を検討した。結果MIFノックアウトマウスではコントロールマウスに比べ、くしゃみの回数、鼻を掻く回数ともに減少していた。鼻粘膜浸潤好酸球数もMIFノックアウトマウスは有意に減少していた。鼻腔粘膜内サイトカインの濃度は、インターロイキン(IL)-2、IL-4、IL-5、tumor necrotizing factor (TNF)-α、インターフェロン(INF)-γを検討した。MIFノックアウトマウスにおいてはTNF-αの鼻腔粘膜内濃度が低いことが判明した。IL-4,IL-5の濃度もコントロールに比べMIFノックアウトマウスでは低い傾向にあったが、有意な差ではなかった。IL-2,INF-γの濃度に差は認められなかった。さらに、MIFがIgE産生にどのように作用するのかを調べるため、MIFノックアウトマウスにおいてアレルギー性鼻炎モデルを作成し、血清IgE濃度を検討した。野生型マウスにくらべOVA特異的IgEは少ない傾向にあったが、有意な差ではなかった。以上の結果よりMIFはアレルギー性鼻炎を増悪させる因子として働く可能性が示唆された。
著者
明石 孝也
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

LaCoO_3系材料は、固体酸化物燃料電池の電極やNO_x分解触媒などに応用される。これらの用途のためには、大きい表面積を持つことが望ましく、ゾル-ゲル法や溶液噴霧法などの様々な方法で、数十〜数百nmの気孔を持つメソポーラス材料が合成されている。しかし、メソポーラス材料では表面エネルギーを駆動力とした粒成長が起こりやすく、高温で長時間安定に存在することが難しい。そこで、本研究ではメソポーラス複合酸化物中にナノ単酸化物粒子を分散させることにより、高い粒成長抑制効果と優れた電極特性を同時に発現させるために、CoOナノ粒子を分散したメソポーラス(La, Sr)CoO_3膜の粒成長機構を解明し、粒成長抑制のための指針を設計した。ゾル-ゲル法を用いて、CoOナノ粒子を分散したメソポーラスLa_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜をGd_2O_3ドープCeO_2焼結体基板上に作製し、La_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜の1273Kにおける粒成長速度を評価した。粒成長速度の酸素分圧依存性と粒成長の式による解析により、約50nmの初期粒径を持つLa_<0.6>Sr_<0.4>CoO_<3-δ>膜の粒成長は、拡散律速ではなく、界面反応律速で進行していることを明らにした。ナノ〜サブミクロンサイズの粒径をもつ(La, Sr)CoO_<3-δ>膜の粒成長抑制には、粒界の偏析層を制御し、空間電荷層を横切る陽イオンの移動を抑制することが重要であるという設計指針を確立した。
著者
河村 公隆 WANG Haobo
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究では、大気中の微粒子、特に有機物からなるエアロゾルに着目し、その組成解析を行うことを目的にする。特に、都市における有機エアロゾルをガスクロマトグラフ・質量分析計を使って解析し、主要な燃料に違いによって大気中のエアロゾル成分にどのような違いが生ずるのかを明らかにする。中国では、石炭が重要な工業的エネルギー源であり、家庭においても石炭・木材の双方が燃料源として広く使われている。一方、ニュージーランドでは、両方のエネルギーが使われており、特に、クライストチャーチでは家庭の暖房に薪を多用するために大気汚染が問題となっているのに対し、オークランドでは石油が一般的につかわれている。二つの主要都市は、冬期に使用するエネルギーの種類において対照的である。そこで、本研究では、ニュージーランドの2つの都市で採取されたエアロゾル試料を分析し、その化学成分の特徴から化石燃料とバイオマスの燃焼の寄与を明らかにすることを目的とした。エアロゾル試料中の有機炭素、黒色炭素、水溶性炭素の濃度を測定するとともに、主要イオン成分を測定した。その結果、冬季の暖房に薪を多用するクライストチャーチでは、有機炭素・黒色炭素の濃度がオークランドにくらべて著しく高いことがわかった。更に、エアロゾル試料から有機成分を分離し、GC/MSによる詳細な解析を行った。その結果、バイオマス燃焼に由来する有機物がクライストチャーチの冬のサンプルで高い濃度を示すことが明らかになった。特に、セルロースの燃焼生成物であるレボグルコサンは最も高い濃度をしめす有機物として検出され、薪の使用が有機エアロゾルの生成に大きく寄与していることを明らかになった。一方、オークランドで採取したエアゾル試料では、原油や石炭など化石燃料の燃焼に起因する有機物(例えば、ホパノイド炭化水素)が高い濃度で検出された。以上の成果は、国際誌であるEnviron.Sci.and Technol.に投稿された。現在、審査中である。
著者
春日 純
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

カツラという樹木の木部組織には水の過冷却を促進するフラボノイドが存在する。本研究によって、このフラボノイドの木部組織における局在性と量的な季節変化が明らかになった。また、フラボノイドの過冷却促進効果はアグリコンと糖鎖の組み合わせにより大きく変化することを明らかにした。さらに、カツラ由来のcDNA ライブラリの調製など、フラボノイドの蓄積量を改変した形質転換樹木の作出の準備を進めた。
著者
高畑 雅一
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

アメリカウミザリガニHomarus americanusを実験動物とし、新たに開発したoperant chamberを用いて、レバー押し型のオペラント条件づけの可能性を実証するとともに、分化強化の可能性について検討した。動物を実験水槽に十分に慣れさせた後、水槽内の餌場に自発的に接近するようになるまで乾物ホタテ貝柱で誘導し、接近した場合に餌を与えた。この訓練が完了したのち、1セッションを30分としてレバーに対する自発的なはさみ行動の平均生起率(1セッションのはさみ回数/セッション数、以下BL値と呼ぶ)を確定した。次いでレバー押しに対して報酬を連合した。ここでは特に、1)セッションごとのはさみ回数の推移《獲得、消去、回復の傾向は観察されるか》および2)はさみ強度のスケジュール間比較《はさみ強度について分化強化手続きができるか》を調査した。強化閾値を変える前と後で、はさみ強度(各はさみ行動の最大応答値)の分布にどのような変化が現れるのか個体ごとに調べるに当たっては一般化線形モデル選択法を適用した。その結果、各セッションのはさみ回数は、獲得手続きではBL値以上で持続する傾向、消去手続きではBL値付近に徐々に近づく傾向、回復手続きではBL値以上で再び持続する傾向が、それぞれみられた。また、非随伴性強化ではBL値以上の割合は獲得手続きの場合以下であり、持続する傾向もみられなかった。これらの知見は、アメリカウミザリガニでオペラント学習が可能であることを実証している。また、強化閾値を上げたことに依存してはさみ強度が上昇し、強化閾値を変えない場合では、はさみ強度に変化はなかった。これらの結果は、分化強化が強化閾値の上昇に限って成立する可能性を示唆する。閾値下降については、新たな装置を開発して調査する必要がある。
著者
前野 紀一 川田 邦夫 木村 龍治 荒川 政彦 西村 浩一 成田 英器
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

一般に湿雪雪崩の形は単純でその動的特徴の多くは斜面を流下する濡れた雪塊として理解できる。しかし、乾雪雪崩、特に煙り型乾雪表層雪崩は、昭和61年13人の死者を出した新潟県能生町の柵口雪崩にように、極めて高速かつ大規模になり、大きな被害を起こしやすいにもかかわらず、その内部構造と動的特性について詳しい情報が得られておらず、その予測や防御が難しい。本研究では実際の乾雪表層雪崩の内部構造を調べるために、黒部峡谷志合谷において観測を実施した。これは雪崩走路上に設置されている2基のマウンドに雪崩観測用のカメラ、衝撃圧センサ-、超音波風速計等を取り付け、雪崩の自然発生を待つ方法である。黒部峡谷志合谷で観測された数個の雪崩では、雪崩風が観測された。雪崩風は雪崩の実体の前面あるいは側方に発生する局部的な強風であり、その存在やそれによる災害がしばしば報告されいるが、これまで定量的に観測はなかった。今回観測された雪崩風は、雪崩自身の規模があまり大きくなかったが、雪崩の実質部よりもはっきりと先行しており、その速度は雪崩前面の速度にほぼ等しかった。本研究では、また雪崩の内部構造と運動メカニズムを調べるために、大型低温実験室における氷球を用いたシュ-ト実験が実施された。多数の氷球(平均粒径2.9mm)がシュ-ト(長さ5.4m、幅8cm)を流下する様子が高速ビデオで撮影され、速度と密度が求められた。シュ-トの角度は30度から40度、実験温度は0℃からー30℃の範囲で変えられた。得られた氷粒子速度と密度の鉛直分布からは、流れの最下部に低密度層が見出され、この層が生成する理由は粒子間衝突の結果と結論された。
著者
但野 茂 橋本 伸也 高橋 裕人 吉成 哲 吉成 智
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

車椅子の試作:従来の2輪駆動電動車椅子をベースに構造的、機構的検討のため、四輪駆動電動車椅子を試作した.そして雪路走行実験を行い、四輪駆動の優位性を確認した.また、室内では四輪駆動は不用のため、二輪駆動車椅子で使用できる収納型キャスター輪を考案した.これらの成果を新聞報道した.乗り心地性の客観指標の開発:市販電動車椅子および本開発の四輪駆動電動車椅子を使い、雪路、乾燥路走行時の身体負荷特性を計測した.三軸方向加速度、三軸周りの角速度、座圧分布変化量を用いることで、乗り心地性の客観的評価法が可能であることを確認した.通常路面に比べて、雪道走行では乗り心地性が悪くなった。しかし、本開発した四輪駆動車椅子の乗り心地性は、市販の車椅子に比べて、改善された。シーティング機構の開発:身体機能・状態に合わせた四輪駆動電動車椅子のためのシーティング設計法を考案した.座面角度と背もたれ角度を任意に設定可能な実験シートを作成し、それぞれの角度について走行時の座圧分布を測定した。これらのデータにより、雪道走行に最適な角度があることを示し、シーティング設計と重心位置の移動制御方法を検討した.雪路走行実験:あらゆる条件を想定した実験路面を作成した.そして、走行実験を行った.また、実際の雪路を利用した走行実験を繰返し、乗り心地性を評価した.ジョイスティックの機能デザイン:ジョイスティックの操作制御に学習効果を持たせ、使っているうちに、利用者の感覚と合ってくるものを開発した.試作車の改良と走行実験:試作した車椅子に上記の開発項目を盛り込み、改良を計った.
著者
笠原 敏史 福島 順子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

(1)2頭のサルに対する訓練と手指機能パフォーマンステストの有用性について検討を行い,(2)サルの大脳皮質第一次運動野の上肢領域(主に手指領域)梗塞作成前の上肢動作をVTRにより,(3)第一次運動野の上肢領域を皮質内微小刺激によってマッピング、(4)さらに梗塞作成後の麻痺の状態ならびに機能回復過程について,上肢運動障害,代償動作を比較した.(1)アクリル板で深さの異なる5つの円柱状の穴(Kluver board)を作成した.訓練前のテスト結果では,2頭のサルとも深さが徐々に増加するにつれ所要時間は増加した.(2)サルの把握動作は,浅い穴では栂指とII指の間にリンゴを挟み,穴が深くなるとIIからIV指を穴の中に差込み,屈曲して掻き上げる方法であった.これは2匹のサルで同様であった.(3)GOFとネンブタール麻酔下で開頭し優位半球の第一次運動野(A12L18)に微小電極を用いて刺激し,マッピングを行った。その結果、中心溝の吻側に内側から外側にかけて,肩領域、肘〜前腕領域,手〜手指領域の順序で筋収縮が観察された.手指領域は,運動野の内側から外側にかけて第Vから第II指の屈曲、伸展が順に誘発された.これらの結果は,従来の運動野上肢領域の体部位局在に一致していた.(4)マッピング終了後,手指領域に梗塞を作成した.両サルとも術後翌日に対側上肢に麻痺を認めた.術後は麻痺側を使うも失敗が多く非麻痺側を用い,数日間は麻痺側を使わなかった.麻痺側を使う際,隣接する肘関節と肩関節に麻痺による運動障害を代償する動作が確認され,特に,肘や肩関節を用いて手先を前後に動かす,身体を傾けるまたは移動する行為が見られた.運動障害からの機能回復が見られると,所要時間の減少とともに代償動作の頻度も減少し,術後1ヶ月と術前でほぼ変わらない成績であった.
著者
金田 清志 白土 修 但野 茂 伊福部 達
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

1)平成5年度にひきつづき、寒冷暴露下での脊髄損傷者の自律神経系に及ぼす影響を調査するため、人工気象室を利用し、常温(気温24℃、湿度50%)の前室から低温(気温5℃、湿度50%)の環境下に被験者を移動させ寒冷に暴露し、血圧、麻痺のある下肢の血流・皮膚温の変化を測定し解析した。健常者では寒冷暴露と同時に下肢血流量は急激に減少、下肢の体表温度も低下した。血圧の上昇も認められた。再度常温に暴露すると徐々に血流・体表温度とも回復する経過を示した。しかし、脊損者においては寒冷暴露によっても下肢血流量は減少せず、外部環境の影響を受け体表温度は低下した。血圧の変化もなかった。麻痺のレベルが下位胸髄以下では、健常人と類似した変化が認められたが、その変化はわずかであった。従って、脊損者では放射・伝導・対流により体表面からの熱放散が容易に生じることが判明した。冬期間用車椅子試作者と,従来型電動車椅子の走行試験とデータ解析を行った。過酷なアイスバーン状態を想定し、室内に仮設した斜度1/10のスロープに氷板を張って走行試験を実施した。登坂性能および発進性能は、試作車に明らかな優位性が確認された。走行時の加速度を測定し駆動輪スリップ度を評価した。ここでスリップ度Kは、進行方向の加速度を積分して得られる実走速度(La)とモータパルスカウントから得られる理論速度(Lp)の比率(La/Lp)で表わした。K=0で駆動輪がスリップしていない状態、K>0で駆動輪の空転度合、K<0で慣性力によるすべり度合がわかる。雪路の低速モード(3.0Km/h)走行では、市販タイプは、発進時からスリップしているが、試作車はスリップなく安定した走行をしている。高速モード(6.0Km/h)走行では、各車一定のスリップ度を示しながら走行している。しかし、制動時には,試作者はほとんどスリップなく停止した.
著者
遠藤 辰雄 高橋 庸哉 児玉 裕二
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

世界中の降雨の大部分は、それをもたらす上空の雲に0℃以下の温度領域が十分に含まれており、そこでは酸性雪の形成が支配しているはずである。しかもこの降雪は、採取した時に、降雪粒子の種類・大きさ・結晶形など形成過程の履歴の情報を知ることが出来るので、雨滴の場合より解析的な追跡が可能である。さらに、それらの最も効率のよい成長様式は、霰などの雲粒捕捉成長と雪片などを形成する気相成長とその併合過程の組み合わせによる様式の2つに大別される。しかも、この成長様式は、成長の初期に、いずれかに決定されると、途中で乗換がほとんどできないと考えられるものであり、この研究ではこの2つの様式について降雪試料を化学分析してみた。その結果、雲粒捕捉成長と気相成長による降雪は、それぞれ、硫酸塩と硝酸塩をを他の成分に比べて、顕著に卓越して、含有していることが明らかにされた。しかもそれらをもたらす降雪雲の雲システムから推定すると、前者は、都市である札幌でも郊外の石狩および遠隔地の母子里においても、ほとんど同じ程度の割合で、高い濃度で、検出されることから、いわゆる長距離輸送されて、雲粒に取り込まれて、溶液反応で酸化が促進したものと考えられる。また、後者は落下速度が遅く、かつ下層の風が弱い時に卓越する、降雪様式であること、さらに、札幌や石狩における、下層が陸風で明らかに汚染された気流の中を降下するときに、高い濃度が検出され、母子里では低い値であることから、雲底下の人為起源の汚染質を取り込んだものと判断される。後者の降雪に含まれる硝酸イオンは自動車の排気ガスが主な発生源と考えられるが、さらに、第2、第3番目を常に占める成分は、非海塩性の塩素イオンとカルシュウムイオンであり、発生源として、ゴミの焼却と路面のアスファルトの分散が考えられる。
著者
白岩 孝行 田中 教幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

北太平洋で発現する十年〜数十年周期の気候変動(DICE : Decadal and Interdecadal Climatic Event)の過去500年間に及ぶ変動周期と変動する気候・環境要素を、1998年にカムチャツカ半島ウシュコフスキー氷冠で掘削された全長212mの雪氷コアを用いて解明した。山岳地域に発達する氷河は、流動機構が複雑なため、表面に堆積後の歪みが著しい。このため、同氷冠の動力学を解析的手法、数値計算によるシミュレーションの二つから追求し、歪みを除去するための力学モデルも開発した。酸素・水素同位体比に見られる季節変動を用いて、表面から深度120mまでの年代を±2年の精度で決定した。その上で、解析的な力学モデルを用いて各深度の積算歪み量を算出し、同位体の季節変動によって定義される年層を表面相当の値に換算した。その結果、過去170年間に及ぶ涵養速度および酸素・水素同位体比の時系列データを雪氷コアから抽出した。上で取り出した時系列データについて、スペクトル解析を行って、変動の卓越周期を算出した。その結果、涵養速度には32.1年、12.2年、5.1年、3.7年の周期、酸素同位体比には11.5年と5.0年という周期が検出された。これら二つの時系列データは、Mantuaらによって定義された北太平洋のレジームシフトを示すPDOインデックスと負の関係にあり、北米沿岸のSSTが高い温暖期にはカムチャツカ半島で涵養速度が遅く、SSTが低い寒冷期にはカムチャツカ半島で涵養速度が速いことが判明した。
著者
曽根 敏雄 原田 鉱一郎 岩花 剛 森 淳子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

パルサは永久凍土の丘状の地形で、日本では大雪山だけにその存在が知られている。これまで大雪山のパルサには変化が生じていると考えられてきたが、基本的な情報が不足していた。そこでパルサの分布状態を記載し、地温観測、電気探査法による永久凍土核の推定を行った。その結果、2010年に生じた急激なパルサの分布面積の減少を捉えることができた。また永久凍土の温度が高いことが判った。大雪山の高山帯の気温変化を復元した結果、現在パルサの大部分が残存しているものであると考えられた。
著者
松村 良之
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

北海道大学教育学部附属乳幼児臨床発達センターの5、6歳児5名を対象にインタービューを行い、子供の所有権の概念の獲得について、以下のような知見を得た。(1)5、6歳の幼児といえども、所有権の概念(,..は誰のもの)が存在する。(ii)客体の支配可能性が所有の条件であることは被験者すべての発言が一致している。(iii)家のものと自分のものとの区別ははっきりとは存在していないように思われる。(iv)子供の理解では、所有権の始期あるいは発生原因の重要なものとして、売買があるように思われる。(v)売買の理解が所有権の概念の獲得に結びつくと仮定した場合、その理由は現実の所持の移転ではなく、売買の対価性にあるように思われる。そして、対価性に所有権の獲得の根拠があるとするならば、この問題はアダムスらに始まる分配の公正の心理学と結びつくであろう。実際、被験者の幼児は公正ではない分配を受けると(例えば友達はお菓子1つで自分は2つ先生から分配を受ける)、所有についてとまどいを感じているのである。(vi)売買に加えて、贈与という概念も理解されていて、それも所有権の根拠になっている。ただし、それは家族間など特定の人間関係に限られているように思われる。(vii)所有権の消滅については子供がどのように考えているかはよくわからない。ただし、占有(現実の所持)を失っているだけでは所有権は消滅しないと考えているらしい。(viii)貸す、借りるという概念も子供に理解されている。長く貸したり、借りたりしていることにより、所有権が消滅したり、移転することはないということは理解されている。
著者
堀 彰 本堂 武夫 成田 英器 深澤 倫子 堀 彰
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

ラマン散乱および中性子非弾性散乱スペクトルに見られる南極の氷床コア氷の特徴は、プロトンの秩序化を反映すると解釈されてきた。この秩序化を結晶構造から明らかにすることを念頭に、本研究では、主にX線回折法を用いて南極深層氷の結晶構造に関する以下の研究を行った。(1)X線回折法による結晶組織の評価X線回折法によりVostok深層コアの氷試料ロッキング・カーブを測定し、その幅から転位密度を求めた。転位密度は深さとともに減少し、最も深い3600m以深の氷の転位密度は10^8 1/m^2程度の低い値を示した。この氷が底部の湖の水が再凍結して成長したためであると考えられる。(2)粉末X線回折法による結晶構造の評価粉末X線回折測定では試料深さ依存性は見られなかった。また、プロトンが秩序化した秩序相(氷XI)に特有の(1121)反射の測定結果は、強度が非常に弱く、強力な光源である放射光を用いた実験が必要である。また、X線散漫散乱測定も今後の課題である。(3)粉末X線回折法による格子定数測定粉末X線回折測定データをリートベルト法で解析し、各深度の氷の格子定数を求めた。南極氷床氷は実験室の氷よりも格子定数が大きく、かつ深さの増大とともに格子定数も増加した。粉末化による残留応力の開放と、空気ハイドレートの解離で生じた空気の取り込みが原因として考えられる。(4)ラマン散乱による変形を受けた氷の格子振動モードの測定氷試料を変形させてラマン散乱測定を行ったが、スペクトルには特に変化は観測されなかったことから、南極氷床氷の特徴は氷の変形によるものではないと考えられる。(5)クラスレート・ハイドレートの生成過程と氷の結晶構造分子動力学シミュレーションの結果、気体分子は、これまで考えられてきた格子間位置(Tu)を安定位置とするのではなく、水素結合の間に入り込んで部分的に特有の構造を作ることが明らかになった。
著者
秋田谷 英次 石井 吉之 成田 英器 石川 信敬 小林 俊一 鈴木 哲 早川 典生 対馬 勝年 石坂 雅昭 楽 鵬飛 張 森
出版者
北海道大学
雑誌
低温科学. 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.35-50, 1995-02

1994年3月上旬,中国黒竜江省の 1500km を車で走破し積雪と道路状況を調査し,道路雪害の実態を明らかにした。北海道と比べて寒冷ではあるが雪は極端に少なく,吹雪と吹溜の発生頻度と規模は小さい。しかし,除雪作業や車の冬期用装備がされていないため,交通量が増加すれば深刻な道路雪害となることが予想される。平地の農耕地内の道路は農地からの土砂で著しく汚れた圧雪た氷板からなり,そのため滑りの危険は小さいが,凹凸がはげしい。山地森林内の道路は汚れのすくない圧雪と氷板からなり,滑りの危険が大きい。この地方の特徴である道路に沿った並木は配置が不適当なため,吹雪の面から見ると,むしろマイナスの効果が大きい。吹雪対策としては側溝と盛り土された道路,および効果的な並木の配置がある。さらに,簡単な除雪機による吹雪直後の除雪が効果的である。山地の坂道やカーブでは滑り止めの土砂散布も必要である。
著者
河村 公隆 渡辺 興亜 中塚 武 大河内 直彦
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、グリーンランド(Site-J)で採取した氷床コア中に生物起源の脂肪酸を検索し、炭素数7から32の脂肪酸を検出した。海洋生物起源の脂肪酸(C_<12>-C_<18>)の濃度は、1930-1950年代に高く1970年代にいったん減少した後、1980年代に増加することがわかった。濃度増加が認められた時代は、温暖な時期に相当しており、この時期には海氷の後退と低気圧活動の活発化によって海水表面からの大気への物質輸送が強化されたものと考えられる。また、シュウ酸(炭素数2のジカルボン酸)から炭素数11までのジカルボン酸を検出した。ジカルボン酸の炭素数分布の特徴は、コハク酸(C_4)がほとんどの試料で優位を示したことであったが、19世紀以前は優位でなかったアゼライン酸(C_9)が20世紀になって急激な濃度増加をし、1940年代に大きなピークを示した。アゼライン酸は生物起源の不飽和脂肪酸の光化学反応によって選択的に生成される有機物であることから、この結果は、海洋生物由来の有機物の大気への寄与がこの時期に大きく増加したことを示すとともに、それらが大気中で光化学的に酸化されたことを意味する。南極H15アイスコア中にUCM炭化水素やPAHを検出したことにより、人為起源物質が南極氷床まで大気輸送され、保存されていることが明らかとなった。これらの濃度は1900年以降増加しており、この結果はグリーンランドアイスコアの傾向と一致した。このことから、1900年代以降、全球的に大気中の人為起源物質が増加したことが示唆された。不飽和脂肪酸や低分子ジカルボン酸の組成比から推定された大気の酸化能力は、過去350年間において大きく変動したと考えられる。アゼライン酸とその前駆体である不飽和脂肪酸の濃度比は、1970年代以降急激に増加しており、南極における対流圏の光化学的酸化能力が、1970年代以降、成層圏オゾン濃度の現象に対応して増大している可能性が示唆された。