著者
今野 祐多
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度のH_2水素安定同位体組成定量システムに引き続き,同じく還元性気体であり,極限環境において大きなエネルギー源および炭素源となるCH_4の水素安定同位体組成定量システムを構築した.それを応用し,岐阜県瑞浪超深地層実験施設における地下水中のCH_4の定量を行った.炭素同位体組成の情報だけではCH_4の起源を判別することは出来なかったが,水素同位体組成の情報を併せることで,単純な有機物由来のCH_4では無く,CO_2還元由来ではないかと結論した.一方で,H_2の水素同位体組成は-700‰前後であり,地下水と温度平衡になっている可能性が考えられる.微生物によるH_2の生成消費反応はH_2-H_2O平衡を促進させるため,水素に関わる微生物活動の可能性を示唆しているのではないかと考える.また,窒素固定反応に付随してH_2が副次生成されることが知られており,海洋において窒素固定速度とH_2濃度に相関があることが報告されている(Moore et al., 2009など).ところが海洋表層は大気からの混入と現場で生成されるH_2の区別が難しく,H_2濃度のみから窒素固定速度を求めることはやや定量性に欠けると考える.そこでH_2の水素同位体組成を定量することで窒素固定速度の定量を目指した.ところが実際の海水試料中に溶存するH_2濃度はsub-nM~数nM程度であり,現システムで精度良く水素同位体組成を定量するのは難しく,窒素固定速度と整合性の取れたデータを取得することは出来なかった.しかし,得られた水素同位体組成は一般的な大気と生物由来と考えられるH_2との間の値を取っており,将来的に少量で精度良く水素同位体測定が可能になれば,海洋窒素固定速度定量に対して有用なツールとなる可能性があると考える.
著者
LOPEZ Larry 町村 尚
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

森林群落は、季節的に融解層を深くしないというプロテクトの役目を果たしている(カラマツ林と白カンバ林の場合)。森林群落下の気温はアラスより低い。しかし、この研究の結果によると湿潤草地の活動層は森林の深さと同じである。土壌水分が多いので、冬に凍った水は春になると水分の熱伝導度と潜熱の関係で解けにくくなる。カラマツ林の土壌断面の結果を見ると、活動層の塩分濃度は低いが、永久凍土に入ると急に高くなる。現在のアラスは永久凍土が破壊されてからできたものである。それで、今でも中央ヤクチアの永久凍土の塩分濃度が高いので、数センチの凍土がこの地域にとても大きな影響を与えると考えられる。その上で、森林は気候変動の関係で耐塩性草原になると二酸化炭層の吸収力75%下がることが明らかになった。現在、森林の蒸発散量はOverstoryとUnderstoryとがそれぞれ50-50%に分かれている。それで森林がなくなると水収支が徹底的に変化すると恐れがある。最後に、森林火災が起きる後進林生態に対しては大きな影響があるが,15年間ぐらい経つと森林と永久凍土が復活することを明らかにした。
著者
小出 達夫 横井 敏郎 町井 輝久 木村 保茂
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1.調査し得た対象校は、北海道で13工業高校中10校、東京地区で9工業高校、東北地区で5校であり、そのほか工業高等専門学校、ポリテクカレッジ、職業訓練校、都立科学技術大学、教育行政諸機関なども訪ねた。さらにアメリ力との比較研究のためオレゴン州の高校および関連諸施設・機関を調査した。2.研究成果については折に触れ論文等にしたが、それらについては別紙を参照してほしい。成果の発表の場は、日本教育学会第57大会のほか、文部省主催の全国フォーラム、北大教育学部創設50周年記念国際シンポ、北海道工薬高校校長会などの場で報告発表しれた。そのほか『調査報告・資料集』を3分冊(No.1〜3)にして刊行し、関連機関に配布した。また研究代表者の小出は、この間文部省産業教育審議会や北海道教委教育計画推進会議の委員を果たし、その点でも研究成果を社会に還元できた。3.工業高校の改革を推進する上での二つの仮説はほぼ論証し得た。仮説は、(1)地域連携の強化、(2)高等教育機関との接続の強化、の二つであるが、いずれも不可避の課題として自覚化されつつあるし、また実現の条件もできつつある。とはいえ日本の場合は遅れており、オレゴンの高校改革ほどには進展していない。4.今後は、本調査研究で得た諸事実を理論化することが課題となるが、その際本研究の理論的シューマである、平等性、差異性、責任性の4改革原理を中心にまとめることになる。
著者
川合 安
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

六朝時代における官制改革論の中で一貫して提起され続けた重要な論点の一つが、地方分権の推進であることが明らかになった。地方分権の主張は、曹操政権の時代(三世紀初頭)、「封建論」として提起される。中央集権的な郡県制を採用した秦漢古代帝国が滅亡の危機に瀕していたこの時期、理想的な周代封建制回帰の志向が強まったのである。「封建論」を最初に提起した荀悦は、封建諸侯の政治は王と領民と双方の規制を受け、王の政治も諸侯の規制を受けて、極端な悪政の出現が防止される点をメリットとして強調する。当時の論者の中には、封建の立場をとらず、郡県制の枠内で地方長官に領兵権を与えることを主張する者もあった(司馬朗)が、権力の分散という方向性においては「封建論」と軌を一にしていたといえよう。三国・魏の後半には、司馬氏の台頭に対する危機感から、皇室曹氏擁護のための皇族封建が強く主張される(曹問等)。司馬氏による西晋王朝創業の際にも、魏滅亡の教訓から皇族封建が主張された(段灼)。これら皇族封建論にも分権という論点が欠落していたわけではないが、皇族重用の方に力点があった。西晋の皇族「封建」政策は、皇族重用ではあっても、地方分権ではなく、実質的には郡県制であった。この点に対する批判は、劉頌や陸機によって展開され、封建制採用による地方政治の活性化が唱えられた。が、四世紀初頭、西晋の皇族「封建」が無惨な失敗に終わると、封建の魅力は大きく後退し、四世紀後半の袁宏を最後に、「封建論」はみられなくなる。かわって登場してくるのが、郡県制の枠内で地方長官の任期を長期化する等の措置を講じて、地方分権を実現しようとする主張である。その嚆矢は、四世紀初頭の丁潭であり、六世紀初頭の南朝・梁の官制改革を主導した沈約の地方分権論へとつながっていくのである。
著者
北市 伸義 大野 重昭 南場 研一 吉田 和彦 大神 一浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究ではぶどう膜炎における疾患感受性遺伝子や再発など予後に影響を与える遺伝子を検索した。まず世界14ヵ国25施設のベーチェット病臨床像をまとめ、地域による症状や予後の違いを明らかにした。日本では同病の視力予後は依然として不良で、小児発症例が少ないことも明らかとなった。並行して各国からベーチェット病や原田病、尋常性白斑などの遺伝子サンプルを収集・検討し、ベーチェット病と原田病の間で再発に関与すると考えられる遺伝子に差異が見られた。
著者
村上 裕章
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、個人情報保護における非権力的手法の活用可能性とその限界について、比較法的検討を加え、もって日本における今後の立法論及び解釈論の発展に寄与しようとするものである。その第一段階として、上記研究期間においては主としてドイツにおける「データ保護の現代化」論について検討を行ってきた。その成果をまとめるとおおむね以下の通りである。(1) ドイツにおいて「個人データ保護の現代化」が論じられるに至った背景には、一方では電気通信技術の飛躍的発展という技術的要因と、他方では規制緩和論という政治的要因があったこと。(2) 「個人データ保護の現代化」として特に主張されたのは、データ主体の自己決定の重視、事業者による自主規制手法の活用、技術を通しての個人情報保護という観点の導入であったこと。(3) 改革の必要性についてはコンセンサスがみられるものの、個人情報保護に好意的な論者からは非権力的手法の実効性等について疑問が提起され、事業者に好意的な論者からは規制緩和のさらなる推進が主張されていること。(4) ここ数年、本格的な改正作業が進んでいないが、それは主として政治的理由(政権交代)によること。
著者
千葉 恵
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究はアリストテレスの「分析論後書」の翻訳と註解からなる。この書物の詳しい説明は『序文』に譲るが、J.バーンズの印象的な表現を借りるなら、「この書物は、いかなる理由にせよ、哲学の歴史のなかで最も優れた、独創的で影響力のある作品のうちのひとつである。それは科学哲学のコースを--また或る程度科学そのもののコースを--千年間にわたり決定した」と形容されるものである。(J.Barnes,Aristotle Posterior Analytics,xiv,Clarendon Press Oxford 1994)今日は科学技術の時代であると言ってよく、生活のすみずみにいたるまで、その恩恵と制約のもとにある。科学そして科学的知識というものが、その起源において、いかなるものとして理解されたかを知ることは、今日の状況を作り上げているものをその源泉から理解し、省察することを促うように思われる。本研究においては「分析論後書」の全翻訳を提示し、註解としては私の「分析論後書」について研究である"Aristotle on Explanation ; Demonstrative Science and Scientific Inquiry Part I,II"(北海道大学文学部紀要 72号、pp.1-110、73号、pp.1-95)の関連箇所を指示する。詳細な註解の執筆は今後の課題としたい。
著者
須田 力 河口 明人 森田 勲
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

豪雪地住民は、冬季に雪道歩行や除雪のようなきつい作業があるにもかかわらず冬季間不活動になり勝ちとなる。本研究は、(1)身体活動の運動強度の測定、(2)中・高年の人たちの生活機能を高める在宅トレーニングの介入研究、(3)筋力トレーニングと有酸素運動のための簡易で安価な在宅トレーニング用具の開発、を行った。主な知見は以下の通りである。1.雪上路面の歩行や除雪のような冬季の身体活動の酸素需要量は、無雪期よりも多くなる。2.運動介入は、栗沢町、三笠市、士別市の中・高年者110名に対して、積雪期入りの第一回の測定時における運動ガイダンス、参加者へのダイレクト・メールによる運動の奨励、カレンダーによる運動と健康づくりの情報提供によるものであった。冬季明けの第2回目の測定に参加した男性25名において、握力、上体起こし、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行およびADL得点に、女性20名において6分間歩行に有意な向上を示した。しかしながら、安静時血圧は収縮期、拡張期とも冬季間で上昇する傾向が見られた。3.ステップエクササイズ用にステップ数がカウントされる装置を、スイッチング・センサーと安価な電卓を利用して試作した。ゴムチューブ、座椅子、ディジタル体重計を使用して簡易な脚筋力用具を試作した。これらの用具は、運動実施者が歩行距離、ステップ昇降高さ、発揮した筋力をモニターできるため、冬季の在宅トレーニングに有用と考える。
著者
長尾 誠也 山本 正伸 藤嶽 暢英 入野 智久 児玉 宏樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は。重要ではあるがデータの蓄積に乏しく、季節や地域によりその変動幅が大きく、沿岸域での炭素の吸収と放出量の見積もりを行う上で不確定要素の1つと考えられている河川から海洋への有機体炭素の移行量と移行動態を検討するものである。そのために、寒冷、温帯、および熱帯域の河川を対象に、河川流域の特性、植生、気候による土壌での有機物の分解と生成機構・時間スケールと河川により供給される有機物の特性、移行量との関係を難分解性有機物である腐植物質に着目して調べた。泥炭地を有する十勝川、湿原を流れる別寒辺牛川、褐色森林土の久慈川、スコットランド、ウクライナ、インドネシアの河川水中の溶存腐植物質を非イオン性の多孔質樹脂XAD-8を用いた分離法により分離生成し、いくつかの特性について分析を行った。また、河川水中の有機物の起源と移行動態推定のために、放射性炭素(Δ^<14>C)および炭素安定同位体比(δ^<13>C)を測定し、両者を組み合わせた新しいトレーサー手法を検討した。その結果、放射性炭素(Δ^<14>C)は-214〜+180‰の範囲で変動し、土壌での溶存腐植物質の滞留時間が流域環境により大きく異なることが考えられる。上記の検討と平行して、連続高速遠心機により河川水20〜100Lから懸濁粒子を分離し、放射性炭素および炭素安定同位体比を測定した。その結果、久慈川では年間を通してΔ^<14>Cは-19〜-94‰、炭素同位体比(δ^<13>C)は-24.0〜-31.1‰の範囲で変動し、石狩川ではΔ^<14>Cは-103〜-364‰、δ^<13>Cは-25.9〜-34.2‰、十勝川ではΔ^<14>Cは-111〜-286‰、δ^<13>Cは-25.0〜-31.6‰であった。これらの結果は、流域の環境条件および雪解けや降雨による河川流量の変動等がこれら炭素同位体比の変動を支配している可能性が考えられる。以上の結果から、放射性炭素および炭素安定同位対比を組み合わせる新しいトレーサー手法は、河川の流域環境の違いを反映し、移行動態および起源推定のために活用できることが示唆された。また、現時点では、大部分の地域では核実験以前に陸域に蓄積された有機物が河川を通じて移行していることが明らかとなった。
著者
武田 清香
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

はじめに、PCMと躯体蓄熱を併用した床吹出し空調システムについて、数値シミュレーションにより夏季冷房時のピークカットに有効な運転方法について検討した。1)午前中に循環風量を少なくすることで、床下からの過剰な放熱および室温の低下を防止できることを示した。今回の計算においては、最大32m^3/h/m^2に対し、70%の22m^3/h/m^2で送風する場合、良好な蓄放熱特性および室内環境が得られることがわかった。2)夜間10時間に加え、午前中にも冷凍機を運転して蓄熱を行うことにより、PCMからの放熱をピーク時間帯まで持続させる方法を提案した。6kg/m^2以上のPCMを用いる場合には、シーズンを通して高い夜間移行率でピークカットを行えることを示した。3)設定室温が28℃のとき、26℃の場合に比べ、午前中の室内温熱環境が改善される様子が確認できた。このときピーク負荷時間帯にもPMVはほぼ中立を示し、シーズンを通して快適な室内環境となることがわかった。続いて、同システムにおいて省エネルギー性を維持しながら外気処理(除湿)機能を付加することを目的とし、夜間蓄熱時の低温排熱を用いた潜熱顕熱分離空調システムを提案した。1)シリカゲル製ハニカムを用いた吸脱着実験から、総括物質伝達係数を1.0×10^<-5>m/sと同定した。2)デシカントシステムの給排気出口温湿度を算出する数値計算プログラムを作成し、デシカントシステムにおける低温排熱の利用可能性について検討した。40℃排熱を用いて再生を行うと、1段除湿の場合は必要除湿量の約4割、2段除湿の場合には約8割を賄えることが示された。また、デシカントシステムのみで全て除湿する場合、1段除湿で約90℃、2段除湿で約53℃の再生温度が必要であることがわかった。
著者
瀬戸口 剛
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

北海道のように冬季の積雪が多い寒冷地では、駅やバス停など公共交通機関の交通結節点の計画において雪や寒さへの対策が必要で、都市デザインにおいて重要な課題である。本研究では積雪寒冷の都市を対象に、積雪シミュレーション実験を行い、冬季に吹雪の影響を受けにくい交通結節点(駅やバスターミナル)のデザインを研究し、交通結節点における都市デザイン手法を確立した。わが国では、積雪時の都市デザインシミュレーションを行った研究は、筆者以外には無い。本研究では、稚内駅および中心市街地を対象に、積雪インパクトの評価を大型風洞実験装置による積雪シミュレーションを用いて行った。実験装置は、旭川市にある北海道立北方建築総合研究所が所有するものを利用した。積雪シミュレーションにより、稚内駅舎のデザインや建物配置、乗客動線システムを具体的に計画し、実際に設計に反映できる結果を得られた。積雪シミュレーションにより、稚内駅舎計画に反映した内容は以下の3点である。(1)稚内駅舎は歩行者動線に吹きだまりをつくらないよう、曲面型のファサードとした。(2)駅前広場に雪の吹きだまりが溜まるため、堆雪スペースを中央に設ける。(3)線路の先端部分に雪の吹きだまりができにくいよう、吹き払いができる駅舎設計にするとともに、除雪がしやすいようにする。さらに、積雪シミュレーション結果を実際の設計プロセスに反映させるための、デザインガイドラインを開発した。
著者
杉浦 秀一 山田 吉二郎 根村 亮 下里 俊行 兎内 勇津流 貝澤 哉 北見 諭 坂庭 淳史 川名 隆史 室井 禎之 渡辺 圭 今仁 直人 堀越 しげ子 堀江 広行 斎藤 祥平 山本 健三
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、ロシア・プラトニズムという観点から19-20世紀のロシアの文化史の流れを再構築することである。本研究では20世紀初頭の宗教哲学思想家たちを分析し、彼らが西欧で主流の実証主義への対抗的思潮に大きな関心を向けていたこと、また19世紀後半のソロヴィヨフの理念はロシア・プラトニズムの形成に影響を及ぼしたが、彼以前の19世紀前半にもプラトニズム受容の十分な前史があったことを明らかにした。したがってロシア・プラトニズムという問題枠組みは、従来の19-20世紀のロシア思想史の図式では整合的に理解し難かった諸思想の意義を理解し、ロシア文化史を再構築するための重要な導きの糸であることを確認した。
著者
繪内 正道 羽山 広文 森 太郎 瀬戸口 剛 本間 義規 林 基哉 佐藤 彰治
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本申請研究の目的は、冬をポジティブに捉えている子供達が、何時の時点で冬をネガティブに考えるようになるか、それに影響を与えている大人の側では、冬に対してどの様な適応状況にあるか、北方圏域における小学生や成人を対象にしたアンケート調査を通じて、経時的推移の実態把握を量ることにある。下記の「冬への適応に関する6軸の項目」に関わって、日本(札幌・盛岡・仙台)、カナダ(Waterloo, Gatineau)、フィンランド(Espoo)、ロシア(Knabarovsk)、中国(Harbin)においてアンケート調査を実施した。1.Enduring Winter(冬を忍耐する)、2.Tolerating Winter(冬を大目に見る)、3.Accepting Winter(冬を受け入れる)4.Respecting Winter(冬に期待する)、5.Appreciating Winter(冬に感謝する)、6.Celebrating Winter(冬を祝賀する)6項目合わせて、100%とするアンケート調査の実施例はなかった。この6軸項目を拠り所にして小学校学童や成人を対象にアンケート調査を実施することにより、言語や文化な違いを超えて、北方圏域で生活する人々の『冬の捉え方』を相互に分かり合い、共通の尺度を共有することは、冬とどの様に向き合い、冬期の屋外活動とどの様に取り組むのか、のシナリオが見出された時、積雪寒冷な地域に望まれるこれからのライフスタイル、特に微気候計画に基づいた街づくり(コミュニティーづくり)や省エネルギーのあるべき姿が明らかになり、これからの建築環境計画や都市計画に欠かせない基礎資料となる第一部では、日本の小学生(低学年)は、冬をポジティブに捉え、大人になるに従ってネガティブになる。カナダの小学生も冬をポジティブに捉えるが、成人は2面的になっていた。フィンランドは小学生も成人も冬をポジティブに捉え、ロシアや中国(Harbin)では、冬を受は入れるという心理特性にあることが分かった。また、対象地域において学童や成人の外套下の温湿度測定・就寝時の寝室の温湿度測定の結果を取りまとめ、検討を加えた。第二部では、札幌で行われたInternational Forum CREATION OF BETTER OPEN SPACES IN COLD REGIONS のProceedingsを収録した。このフォーラムでは、北方圏域における公開空地のあり方や学童の冬の屋外活動の実態を対象に、発表・討議を行い、Winter Citiesに求められる公開空地等の基本的な都市計画は如何にあるべきか、についてディスカッションを行った。更に、学童の冬の屋外活動を誘発するためワークショップを行い、学童による屋外活動を活発にする施設の提案や、研究者・都市計画家・建築家・行政官による屋外活動を誘発するためConcepts, Strategies, Toolsに関わった基礎的なディスカッションの結果を取りまとめた。
著者
荏原 小百合
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

ロシア連邦サハ共和国におけるホムス(口琴)の伝承に関する調査を行い、人と音文化の関わりについて考察するため、本年は二度サハに渡航した。当初首都と近郊、遠方都市の伝承状況の差異に注目したが、ホムス演奏は村や都市で個別に演奏される他、国内、諸外国でと多岐にわたり、ホムスを巡る人々の動向は、その個々の焦点化だけでは全体像が見えないとホムシストから助言があった。筆者の研究は多角的で実践性も多分に含んだ音を通じた人のネットワークの試みのため(調査では司会や演奏を含む参加型参与観察)、その指摘を反映した調査内容を以下に列記する。1.愛知万博でのサハ文化団のマンモスラボ開会式儀礼、ロシアパビリオンサハ週間を司会等行い参与観察(期間:05年3月18日〜4月3日)。マンモスラボ閉会式同行調査(9月30日)。2.「ヨーロッパとアジアのホムスコンサート」出演及び同行。3.共和国文化大臣と副首相に愛知万博への文化団派遣の意図聴取。4.サハ共和国国立高等音楽院ホムス講師に集中的インタビュー。本調査で明らかとなったことは、共和国政府(初代大統領が1990年代半ば日本を始とする各地に演奏家を連れて回った等)、祭り、学校、コンクール、ホムシスト、国際口琴大会、サハ語によるテレビ、ラジオ放送と広範囲のファクターが立体的・多層的に絡まり合い、現時点で観光や音楽産業と強い結びつきが無くとも、内外からその音世界が強い関心を集める世界でも稀有な状況を浮かび上がらせていることだ。この多層的に出現する音の空間が、互いに絶妙なハーモニーを奏でる現状がこの独自性を裏付ける鍵と指摘したい。また、筆者も会員の北海道標茶町塘路口琴研究会「あそう会」は、会の発足が1991年以来のサハのホムシストとの演奏交流に由来し、演奏・製作技術の創造的な場を持ち続けてきた独自性も指摘する。本成果は『季刊北方圏』131号〜134号等に反映した。
著者
内藤 哲 正木 春彦
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

シロイヌナズナのシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)mRNAとtRNAに特異的な大腸菌ヌクレアーゼであるコリシンDとE5によるtRNAの分解制御機構の解析を行った。CGS mRNAはS-アデルシルメチオニン(SAM)存在下ではSer-94の位置で特異的な翻訳停止を起こし、これが引き金となってmRNAが分解されると考えられる。CGS遺伝子の第1エキソン領域とレポーター遺伝子をつないでpSP64ベクターに組込み,試験管内転写で調製したRNAを用いてコムギ胚芽抽出液の試験管内翻訳系での解析を行った。SAMに応答した翻訳伸長停止でリボソームは転座の段階でアレストしており、翻訳中間体のペプチジルーtRNAはリボソームのA部位にあることが示された。CGS mRNA分解中間体は約30塩基ずつ離れて複数個が検出されるが、これは最初に翻訳を停止したリボソームに後続のリボソームが追突した状態に対応していることを示す結果を得た。コムギ胚芽抽出液でRNaseの働きを阻害するとされるポリGを添加した解析により、少なくとも最初に停止したリボソームに対応する3'側のmRNA分解中間体に対応すると考えられる5'側の断片が検出され、エンドヌクレアーゼによる切断であることが強く示唆された。Try, His, Asn, AspのtRNAに特異的なコリシンE5の構造と基質認識を解析した。コリシンE5はジヌクレオチドGUをよい基質とするが、基質ポケットの空間制約が、基質tRNAのGUを含むアンチコドンループへの高い特異性を与えることを見いだした。tRNA(Arg)に特異的なコリシンDを出芽酵母とHeLa細胞で発現させると、リボソームやRNAポリメラーゼの合成が上昇する一方、Argの生合成が抑えられ分解経路が活性化されていた。また、tRNA障害が酵母の接合機能を昂進することを見いだした。
著者
大澤 雅俊 山方 啓
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、固液界面で二次元的なパターンを形成しながら進行する反応(Chemical wave)を赤外分光法でリアルタイムに追跡する新しい手法を開発することを目的とした。他の光学顕微鏡と異なり、特定官能基の吸収の強弱をイメージ化すれば、時々刻々と変化する分子の分布と反応の広がりが観察できると期待される。ただし、対象は単分子以下の超微量であり、溶媒の吸収に妨害されるので、通常の赤外顕微分光では実現が難しい。本研究では、内部反射配置の表面増強赤外分光法(ATR-SEIRAS)でこの問題を解決することとし、光源、球面鏡2枚、波長可変赤外フィルター、チャンネルマルチチャンネルMCT検出器からなる最大限に簡素で明るい赤外分光イメージング装置を製作した。通常の透過条件での測定では何ら問題がないことを確認した。また、パターン化した電極を用いた固液界面の測定でも、20μmの空間分解能が得られた。これと並行して、Chemical waveがもっとも形成されやすいと考えられるPt電極表面でホルムアルデヒド酸化の(空間平均での)電気化学振動を高速スキャンFT-IRで検討し、振動がフォルメート種を中間体とする主反応経路と、被毒種COを経る副次経路の相互作用の結果生じることを明らかにした。この測定から、COが何らかの空間パターンを形成することが示唆されたので、最終段階として、製作した赤外分光イメージング装置を用いた電極表面の観察を行い、実際にPt電極表面上の吸着COが不均一な分布をしていることを見出した。ただし、装置上の制約のため、当初計画したビデオレートでの高速イメージングには到達できなかった。その他、イメージングの基礎として、基板となる電極の新しい作製法を開発した。また、その他種々の反応解析を行い、それぞれにおいて新しい知見を得たが、いずれも空間パターンの形成は認められなかった。
著者
村澤 尚樹
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、金属ナノ構造体に局在する光電場増強場が金属ナノ構造体近傍に配置したマイクロ・ナノメートルサイズの液晶液滴の挙動に与える影響を詳細に解析することで、光電場増強場の物理的描像を明らかにすることを目的としている。本年度は、液晶液滴の位置制御、及び液滴の位置検出のための実験システムの構築、金属ナノ構造体の設計・作製を行った。捕捉用レーザーとしてCW Nd:YAGレーザーの基本波1064nmを用い、レーザー光を偏光祁顕微鏡内に導入し、対物レンズで液晶液滴に集光照射することで液滴を捕捉した。プローブ光としてHe-Neレーザーを捕捉用レーザーと同軸で照射し、液滴の散乱光を4分割フォトダイオードに導入することで、1 nmオーダーで位置検出が可能なシステムを構築した。また、金属ナノ構造の設計として、高い光電場局在効果を期待できる3次元的に配列制御された金属ナノ構造の作製を行った。電子線リソグラフィー・リフトオフ法を用いて金ナノ構造を積層、あるいは3次元的に1 nmオーダーで制御することにより、2次元的に配列したときと比較して大きな光電場増強効果が表れることを実験的に明らかにすることに成功した。特に構造の頂点同士を近接させたナノギャップ金構造の場合、2次元的に配列した構造と比較して50倍の光電場増強効果が誘起されることが明らかとなった。今後、種々の構造を有する金属ナノ構造を用いて、構造の近傍に配置された液晶液滴のブラウン運動や液滴内部の分子配向の挙動を詳細に解析することにより、光電場増強場が空間的にどのように分布しているかが明らかになると考えられる。
著者
塩谷 雅人 西 憲敬 小川 利紘 長谷部 文雄 VOMEL Holger OLTMANS Samu
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究費にもとづき,1998,1999年度,東太平洋ガラパゴス諸島のサンクリストバルで3回,中央太平洋キリバスのクリスマス島で2回の観測キャンペーンをおこなった.さらに,1999年9月-10月には,船舶から赤道東太平洋域のオゾン観測をおこなった.これらのキャンペーンによって取得したデータは現在解析中であるが,これまでのところ以下のような知見が得られている.1.サンクリストバルと西太平洋のシンガポールにおけるゾンデデータを比較したところ,対流圏界面が北半球の冬に低圧・高高度・低温になるという特徴が両観測点で見られたが,海面水温と対応していると考えられていた圏界面高度の差は明瞭ではなかった.2.サンクリストバルにおける水蒸気観測データから,東部太平洋域でも3月の圏界面付近で水蒸気は飽和していることがわかった.また,9月の観測では水蒸気が未飽和であるプロファイルも得られたが,これは赤道ケルビン波の下方変位位相部に当たっていて乾燥したオゾンの豊富な成層圏大気が下降してきたのを観測していたことがわかった.3.サンクリストバルにおける対流圏オゾン分布は,3-4月には対流圏内でほぼ一定値(〜30ppb)をとるのに対して,9月には地表付近(20ppb)から6-7km付近まで増加(50ppb)したあと上部対流圏まではほぼ一定の値をとるという特徴が見られた.これは赤道波と関連した成層圏からのオゾンの洩れ出しが,特に9月には顕著に見られるためではないかと考えられる.4.船舶からのGPS/オゾンゾンデ観測より,地表〜高度5kmほどの領域で,しばしばオゾンの少ない湿った薄い大気層が2,3つ存在することが見出された.これはちょうど北風が卓越する高度領域とも対応しており,船の北側に位置するITCZとの関連が示唆される.また,同様の特徴は,サンクリストバルやクリスマス島でのオゾン観測データにも見ることができた.
著者
長谷部 文雄 塩谷 雅人 藤原 正智 西 憲敬 柴田 隆 岩崎 俊樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

熱帯対流圏界層(TTL)内脱水過程を解明し、熱帯成層圏水蒸気の長期トレンドを高精度ゾンデ観測により検出するために、TTL水蒸気量と水平移流に伴う大気の温度履歴との対応を、同一大気塊の複数回観測(match観測)により明らかにすることが本課題の特徴である。これまで蓄積してきた観測データから、ゾンデ観測された水蒸気混合比と移流する大気塊の経験する最小飽和水蒸気混合比との間には、観測点の立地条件、温位高度、季節、ENSOなどの気象条件に特有の脱水効率依存性が見出された。また、個々のゾンデ観測ごとに様々な高度で描かれた後方流跡線により大気塊の起源を求めたところ、相対湿度のジャンプが観測された高度の上下で流跡線が大きく配置を変える例が見出された。この結果は、ゾンデ観測された個々の大気塊ごとに、その大気質の変遷を大気塊の起源と対応させて議論することが可能であることを示す客観的根拠となり、水蒸気matchの信頼性を担保する事実と考えられる。個々の水蒸気分布の特徴をライダー観測された巻雲粒子の存在と対応させたところ、両者に良い対応の認められる例が見出された。これらの結果は、独自に開催した国際研究集会やアメリカ気象学会中層大気会議などの国際会議で発表し、投稿論文を準備中である。米国の予算削減に伴いTC4が中米に場を代えて実施されたため、TC4との同時観測は実現しなかったが、我々の観測データは人工衛星データの検証においても大いに貢献している。さらに、今後の発展を展望した試みとして、Lymana水蒸気計などの飛揚も行った。また、GCMに全球解析場や観測データを同化することにより流跡線解析を精密化する試みを開始した。こうした活動は、熱帯上部対流圏・下部成層圏における水蒸気の長期モニタリングの継続の重要性とともに、脱水過程に関する研究の発展の方向性を示すものである。