著者
戸谷 剛
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度は親油性表面での、平成17年度は疎油性表面での、液滴の飛散と捕集を分ける閾値について調べた。作動流体には、液滴ラジエータでの使用が考えられているシリコンオイル(信越化学工業株式会社KF96-50cSt)を用いた。シリコンオイルと親油性を持つ表面はアルミ面をもちいることで、疎油性を持つ表面はアルミ面に撥油剤(信越化学工業株式会杜KP-801)を塗布することで実現した。宇宙空間(微小重力,真空環境)での液滴の捕集と飛散を模擬するために、液滴の衝突は真空チャンバー内で行い、航空機(ダイヤモンドエアサービス株式会社MU-300)を用いて微小重力実験を行った。その結果、以下の知見を得た。1.通常重力下での液滴の飛散と捕集を分ける閾値(K=We×Oh^<-0.4>)は、親油性表面で○○○、疎油性表面で○○○であることが分かった。2.宇宙空間と通常重力下での液滴の捕集と飛散の結果を比較したところ、微小重力下と地上重力下での結果に違いがないことが分かった。3.宇宙空間での液滴の飛散と捕集を分ける閾値は、微小重力実験の回数が少ないことから、はっきり特定することはできなかったが,1,2の結果より、通常重力下での閾値の値と違いがないことを推測することができた。4.親油性表面と疎油性表面で液滴の捕集と飛散を分ける閾値に大きな違いがないことから、液滴回収器の表面は親油性でも疎油性でも良いことが分かった。5.1.の結果は従来の報告よりも大きい値であり、使用した作動流体の粘性、表面張力の違いが原因と推測される。6.液滴の捕集と飛散を分ける閾値は、液膜厚さには依存しないことが分かった。従来の報告よりも液滴速度が高速(○○〜○○m/s)であるため,液滴の持つ運動量により,液滴の衝突部の流体が排除され,液膜厚さがほぼ一定であったためであると推測された。
著者
土佐 紀子
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

研究目的:近年、「動物福祉(animal welfare)」、という言葉を盛んに聞くようになり、実験動物に関しても動物の「幸福な暮らし(psychological well-being)」を実現するための環境エンリッチメント(environmentalenrichment)の役割が注目されている。実験動物の飼育では、飼育環境が抱える物理的または社会的な問題により、繁殖障害、発育障害、異常行動といった異常がしばしば観察される。これらの問題における環境エンリッチメントの効果に期待が高まっている。今回、環境エンリッチメントの中の一つの要素であるマウス専用玩具に注目し、マウスの異常行動である常同行動と攻撃問題における影響について解析した。研究方法と結果:実験には、給・排気型動動物飼育システム(TONETS SEOBiT)を用いた飼育室(最大収容ケージ数:432)を使用し、設置された9台のラックには前面式自動給水装置(エデステローム)が装備されていた。床敷にはペパークリーン(三協)を使用し、餌はMF(オリエンタル酵母)を給与した。この飼育室の利用者の了承を得て、飼育されているマウス全てを披見動物として使用した。マウスの種類は、ICR、C57BL/6、BDF1と、C57BL/6の遺伝的背景を持つ遺伝子組み換えマウスで、常時約800匹のマウスが飼育されていた。この飼育室で発生する常同行動を、月に1回、4ケ月間調べたところ、飼育ケージ数の平均が289.75±21.05個に対して、給水ノズルを悪戯する行動が60.5±7.85(20.75±1.28%)個のケージで観察された。これらのケージに市販されている玩具であるShepherd Shack(エルエスジー)またはMouse Igloo(アニメック)と木片を施し2週間観察したところ、78例32例(41%)で悪戯が消失した。さらに、悪戯が消失しなかったケージ5例に、新しく考案したボールタイプの玩具を施し2週観察したところ、3例(60%)で悪戯が消失した。一方、攻撃行動が観察されたケージについて、上記と同じ玩具を施したところ、10例中10例(100%)で怪我の治癒が認められた。研究成果:本研究により、マウス専用玩具が常同行動と攻撃行動に効果がある事が明らかとなった。特に攻撃問題に関しては、玩具を一つケージ入れるだけで攻撃問題が消失した事は非常に興味深く、マウスの攻撃性が低下した事によるのか、避難場所が確保できた事によるものか、今後さらに解析を進めたいと考えている。
著者
吉田 文和 寺西 俊一 山下 英俊 外川 健一 寺西 俊一 山下 英俊 外川 健一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ITと環境問題を3の側面から検討した。第1は.IT製品・IT部品の生産による環境影響である。いわゆるハイテク汚染問題そして半導体生産に必要な原料やエネルギー需要の問題である。第2は, IT製品の消費によるエネルギー需要である。とくにサーバによる電力需要が増加傾向にある。第3は, IT製品のリサイクルと廃棄による環境問題である。日本と世界の家電リサイクル制度について比較検討を行った。
著者
濱田 靖弘
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は,主要地域が豊平川扇状地に位置している札幌に適したエネルギーシステムとして,扇状地特有の河川伏流水を用いた暖冷房システムの構築の可能性を検討するものであり,研究実施計画に基づいて本年度得られた主たる研究成果は以下の通りである.1.札幌における既存の地下水観測井戸における測定値の収集及び整理を行い,札幌扇状地の不圧地下水流動系の広域的な把握を行った結果,札幌は広範囲にわたって,極めて豊富な高流速の伏流水が存在する可能性が高いことが示唆された.2.地下熱利用のための基礎資料の作成を目的として,地中温度・不圧地下水位等の長期定点測定を実施した.地中温度の測定は,過去に例の少ない不易層到達深度にて行われ,不圧地下水位の変動特性及び不易層温度に関するデータベースを構築した.3.熱水分同時移動,粘性圧縮現象による積雪の変成過程,凍結・融解現象を考慮した積雪寒冷地に適用可能な地中温度シミュレーターを作成し,実測値との比較を行った結果,地中温度,積雪深等の計算値は,実測値を比較的良く再現することを示した.4.扇状地の伏流水を利用した暖冷房システムの設計フローを構築するとともに,伏流水の影響を考慮した地中熱交換器の熱解析モデルを作成し,地下水の流速,凍土形成,土壌の熱伝導率等の要因が採熱量に及ばす影響を示した.以上により,札幌扇状地の伏流水の広域的な流動系,地中熱環境に関するデータベースが構築され,暖冷房のための地中熱交換器の敷設規模の原単位が札幌について明らかになった.
著者
工藤 信樹 鈴木 亮 山本 克之 岡田 健吾 坂口 克至 八木 智史 渡辺 典子 千田 裕樹 奥山 学 松井 智子 吉松 幸里
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究の最終的な目的は,パルス超音波と微小気泡を用いることにより,効率が良く生体に対する安全性が高いin vivoソノポレーション手法を開発することにある.今回の研究では,手法の効率向上を主な目的として,ソノポレーションに伴う細胞変化をタイムラプス観察する光学顕微鏡システムを開発した.また,気泡位置を制御できる光ピンセット装置も開発し,細胞膜損傷の程度や発生部位の制御を実現した.開発した装置を用いて,数10分間の比較的早い時間内に起きる細胞の損傷と修復を観察し,その発生機序について検討した.また,気泡に取り込まれた薬剤の効果発現をとらえるために観察チャンバを改良し,最大20時間程度にわたって細胞に生じる変化を連続観察する手法を確立した.さらに,特定の細胞にのみ付着するターゲティング気泡とシェルに薬剤を付着した気泡を作製し,提案するソノポレーションにおけるこれらの気泡の有用性を確認した.
著者
佐藤 馨一 清水 浩志郎 為国 孝敏 竹内 伝史 小林 一郎 馬場 俊介 古屋 秀樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

平成16年度の研究は個別の大規模社会資本の整備事例をもとに、これらの総合的な評価を行い、今後の課題を整理した。平成15年度は道路公団の民営化論議が集中的に行われたこともあり、その是非や問題点について活発な意見交換がなされ、研究分担者間の共通認識が確立した。以下に平成16年度の研究成果を取りまとめる。(1)「公共事業方式と政府企業方式の混同の危険性」が指摘された。最近の民営化論議は大規模社会資本の将来展望を持つこともなく、財務分析のみが突出している、との批判がなされた。また、中部国際空港の整備事例を研究した結果、大規模社会資本が公共事業方式でなくとも実施可能なことを検証した。(2)大規模社会資本の更新投資の問題が取り上げられた。新幹線も高速道路も減価償却という発想がなく整備されてきた。このことにより更新のための投資財源がまったく存在しない事態を招いている。その結果、「荒廃する日本」と言われる日も間近にせまり、民営化論議はそれに拍車をかけている。(3)受益者負担による社会資本の整備方式は社会的便益を無視しており、公的な財源を用いて大規模社会資本を整備し、その利用価格を安くすることによって社会的便益を増大するという基本的な考え方に立ち戻るべきである。(4)大規模社会資本は土地依存型であり、ITのように技術依存型とは整備の仕方や活用はまったく異なる。地形も気象条件も多様な国土において経済効率を追い求めると、地域格差が増大し、過疎地域の切り捨てにつながる。竹島という小さな島の領有をめぐって日本と韓国が深刻な諍いをしているとき、国内の過疎地域を無視する国土政策は根本的に間違っている。「均衡ある国土の発展」という目標は、極めて重要な国家政策となる。
著者
宮崎 隆志 横井 敏郎 上原 慎一 石黒 広昭 藤野 友紀 間宮 正幸 大高 研道 日置 真世 武田 るい子 大高 研道 向谷地 生良 仲真 紀子 駒川 智子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

社会的に排除された若者の移行支援の課題を明らかにした。彼・彼女らの「生きづらさ」の背後には、生活世界を構成する諸コミュニティの断片化がある。したがって移行支援のためには断片化したコミュニティを再統合することが必要であるが、そのためには多様性が保障された新たな媒介的コミュニティを構築することが有効であること、およびそのコミュニティを中心にした地域的な支援システムを構想することが必要であることを明らかにした。
著者
小野寺 康之
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ホウレンソウには雄花のみを着生させる雄株および雌花のみを着生させる雌株に加え、雌花と雄花あるいは両性花が様々な比率で混成する多様な間性が見出される。これまでの研究で、我々は花器形態に基づいて5種類の間性自殖系統を雌雄異花同株および雌花両性花同株の二つのタイプに分類できることを明らかにした。さらに、雌花形成割合(雌性率)および各間性形質の遺伝様式に基づいて、これらの間性系統の性型を4型(I型〜IV型)に分類した。本研究では、これまで解析に用いてきた間性系統の中で最も雌性率が低く、雌雄異花同株タイプに属する系統(03-336)が示す1型間性の発現を支配する遺伝子の同定を試みた。03-009♀x03-336によって得られたF1個体を雄株(系統03-009:XY)と交配してBC1世代を作出し、2007年4月から6月にかけてこのBC1集団を北海道大学構内のビニールハウス内で育成した。当該F1集団および前述のBC1集団のおよそ半数からY遺伝子マーカーが検出されたことに加えて、それらの全ての個体が雌性率0%(雄株)を示したことからY遺伝子はI型間性の発現を支配する遺伝子に対して優性もしくは上位性を示すと結論づけた.さらに、このBC1世代(169個体)において,雄株:間性株:雌株=2:1:1の比に適合する分離が生じていることも判明した(x^2検定,ρ=0.372).雌雄決定遺伝子XおよびYに加えてI型間性遺伝子としてM遺伝子を想定することによって,雄株:間性株:雌株=2:1:1(XY;Mm:XY;mm:XX;Mm:XX;mm=1:1:1:1)の分離が当該BC1世代で生じることが説明できる.
著者
小杉 康 佐々木 亨 橋本 雄一 鈴木 正章 瀧川 渉 山崎 京美 富岡 直人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「噴火湾北岸縄文エコ・ミュージアム」の基本計画を作成し、小幌洞窟遺跡、有珠6遺跡の発掘調査による学術成果に基づいて、それぞれの遺跡をサテライトとして整備して、コア・ミュージアムを開設した。
著者
佐藤 錬太郎 弓巾 和順 近藤 浩之 水上 雅晴 室谷 邦行 末岡 実 山際 明利 名畑 嘉則 小幡 敏行
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

国際的な学術動向を踏まえた上で研究交流を推進し、国内外の研究者と協力関係を構築した。最終年度には、中国の科挙学会「中華炎黄文化研究会科挙文化専業委員会」及び台湾国家科学委員会研究計画「清代經典詮釋方法與理論的轉向」の協力を得て、2009年8月に北海道大学において、「科挙と中華伝統文化」を主題とする科挙学国際シンポジウムを開催し、国内10名国外20名の科挙研究者を招聘し、科挙学の最新の研究成果を発表した。
著者
三田村 好矩 岡本 英治
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

完全埋込型人工心臓用の多くの種類のアクチュエータが研究されている.しかし,それらは複雑な運動変換機構や軸受を使用しているため,耐久性に問題がある.一方,磁性液体を用いるアクチュエータは磁性液体に外部より磁界を加えるだけで,軸受を必要としない利点がある.そこで本研究では,磁性液体を使用する人工心臓の可能性について明らかにした.ギャップ10mmの2つの環状ソレノイドのギャップ間に外経10mm,内径7.4mmのアクリル管を挿入した.アクリル管の両端には,容積2mLのゴム製サックを装着した.サックは流入,流出ポートを持つ固い容器内に入れた.アクリル管およびサック内部はフロロカーボンを満たし,アクリル管中央に磁性流体と鉄心を沈めた.実験は2種類行った.(1)磁性流体のみを使用するもの,(2)磁性流体と鉄心(外径70mm,長さ28mm)を併用するもの.2つのソレノイドを交互に駆動した.磁性流体のみを使用したとき,流量26mL/min(@140beats/min),圧力13mmHgが得られた.また,磁性流体と鉄心を併用したとき,流量318mL/min(@260beats/min),圧力300mmHgが得られた.磁性流体と鉄心の併用は,高い磁化特性を持つ磁性液体の代替品として使用した.これにより,理論値の90%の流量が得られた.また,計算により,現在の磁性液体の1.5倍の磁化特性を持つ磁性液体を開発すれば,人工心臓駆動が可能であることを明らかにした.
著者
柴田 拓二 後藤 康明 城 攻 城 収
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

耐震壁脚部の応力条件やコンクリ-トの打継ぎ条件を実験変数とする単層鉄筋コンクリ-ト造耐震壁模型7体の水平加力試験結果を用いて、壁脚部におけるスライディングの発生条件及びスライディング耐力について検討し、以下の諸点を明らかにした。なお、試験体形状は両側に柱形を有する単層1スパンモデルで、シアスパン比M/QD、コンクリ-トの脚部打継ぎの有無、躯体素材(コンクリ-トとモルタル)、脚部界面処理法、基礎スラブ厚さの5つを影響要因とする計7種各1体である。(1)試験体はすべて曲げ降伏型に設計されているが、繰り返し水平加力によってシアスパン比が大きいと曲げ破壊し、小さいと曲げ降伏後に脚部の滑り破壊に至りやすい。初期剛性に占める滑り変位の割合は、打ち継ぎがある場合と基礎梁のせいが大きい場合にやや大きい。また最大耐力時に占める滑り変位の割合は、シアスパンが小さいほど大きい。いずれも柱脚部のダボ・素材の相違の影響は殆ど無い。(2)耐震壁の層間変形角を滑り・脚部回転・剪断・曲げの4成分に分解して、繰り返し加力における剪断力と各変形成分とから求められるエネルギ-吸収量の全量に対する割合の推移は、変形成分そのものの推移と大きな相違は認められない。(3)既往の滑り破壊耐力式は、均等な圧縮応力と剪断応力が分布している応力条件から導かれたものであるが、これを曲げモ-メントを受けている壁脚部へ適用する方法として、中立軸の測定結果を考慮して壁脚部の圧縮断面積を圧縮柱断面と仮定し、均等軸力に純剪断力を受ける場合の滑り剪断応力度式3種を適用して比較した。この結果、Brirkeland式の適合が最もよく、Mattock式は曲げ亀裂後の壁脚には適合しにくい。今後は更に、シアスパン比・コンクリ-ト強度・柱軸力・柱壁軸筋量等の影響についても明確にすることが望まれる。
著者
岩田 圭示
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本年度はアルタイ山地のカトーン川中流および上流地域のザスーリン層、シャシクナール層について補足的な野外調査と珪質堆積岩のサンプリングを行い、また、これらの地層に相当する層準と考えられる他の地層についても野外調査、珪質堆積岩のサンプリングを行ない化学薬品処理によって放散虫化石の抽出に努めた。またバテーネフ山地のブリズナヤ地域の下部カンブリア系の珪質岩に含まれる珪質海綿骨針化石の抽出と観察、同定をおこなった。この結果、シャシクナール層の珪質頁岩からこれまでに少なくとも4つの新たな種属と思われる放散虫化石を見い出し、記載・分類を行い研究結果の一部についてRussian Geology & Geophysics誌に投稿した。また、アルタイおよびバテーネフ山地のカンブリア紀前期-後期およびオルドビス紀早期の放散虫化石群集、前期カンブリア紀海綿骨針化石群集に関するこれまでの研究成果について9月17日-22日に米国、カリフォルニア州ブレアスデンで開かれた第9回国際放散虫シンプジウムにて3編の論文発表をおこなった。また,オーストラリアや中国などのデータを含めカンブリア紀における放散虫化石の層位的分布を整理検討し、暫定な化石帯区分表を作成した。また放散虫類の初期進化のプロセスについての検討も行った。さらにカンブリア紀前期-後期の珪質海綿骨針化石の暫定的な化石帯区分表も作した。最後に本年度は研究の最終年度であるのでこれまで4年間の研究結果の総括と研究実績報告書の作成を行った。
著者
西村 欣也 森 司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

エゾアカガエル(Rana pirica)のオタマジャクシとエゾサンショウウオ(Hynobius retardatus)の幼生は、雪解けの後の北海道の池に成立する生物群集の創始者である。エゾサンショウウオ幼生は発生時のある条件で、口顎が発達した「広顎型」になる。広顎型の個体はオタマジャクシや同種の幼生を丸のみで捕食する「捕食型」である一方、エゾアカガエルのオタマジャクシは、エゾサンショウウオ幼生の捕食危機に曝されると、頭胴部を膨らませた「膨満型」になる。膨満型は、広顎型エゾサンショウウオ幼生の丸のみ型の捕食に対抗する「防御型」である。このように、これら2種の両生類の形態は可塑的で互いの捕食-被食関係に対して適応をはかっているものと解釈できる。この事実を出発点として、誘導防御・攻撃形質に関する理論的・実験的研究を発展させた。エゾアカガエルのオタマジャクシは、池の生物群集内の捕食者一般に対しても、防御形態を発現する。もっとも頻繁に出会う強力な捕食者であるヤゴによって防御形体誘導実験を行った結果、その誘導形体は、エゾサンショウウオ幼生によって誘導される防御形態とは異なっていた。エゾアカガエルのオタマジャクシは、,丸のみ型捕食者(エゾサンショウウオの幼生)に対するスペシャリスト的防御形態と、被丸のみ型の捕食者に対するジェネラリスト的防御形態の2つの異なる形態を臨機応変に発現する能力を有していることが分かった。
著者
山本 興太朗 綿引 雅昭 田中 歩
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

植物の茎の伸長や屈曲を引き起こすオーキシンの分子機構をシロイヌナズナで研究した。その結果、オーキシンによって発現するMSG2 遺伝子が、伸長や屈曲が起こりすぎないように抑制的に働くことを明らかにした。一方、屈曲に働く新規遺伝子LAZY1を単離した。屈曲では屈曲に特異的に働くオーキシン輸送体が存在することが知られているが、LAZY1 はそれらとは別経路で屈曲を調節していることを明らかにした。
著者
渡辺 暉夫 新井田 清信 前田 仁一郎 在田 一則
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

神居古澤変成帯・三都変成帯およびオーストラリアのニューイングランド〓曲帯の泥質片岩の変形についてまとめ、オーストラリアのニューイングランド〓曲帯で認められた典型的シース〓曲の産状をくわしく検討した。その結果、このシース〓曲は形態状むしろ舌状〓曲というべきであって、単にsimole shear成分だけではなく、pure shear成分やshear方向の回転をともなっているものであることを明らかにした。神居古澤ではこのような変形を受けた岩石の石英ファブリックの検討も行なった。このような振動は流体相の存在によっても促進されるので、流体包有物の研究も行なった。この研究からは変形帯がductile-brittle境界を横切る時に形成されたと思われる流体包有物が確認された。全体の研究を通して、変成帯の基質を構成する岩石の変形がsimple shear,pure shear,rotation の複合によることが明かとなり、この変形はメランジュ一般に適用できるであろうことか示唆された。また本研究ではマイクロリアタ-を用いた合成実験から岩石の流動が変成反応に及ぼす効果を明らかにすることを課題としていたが、マイクロリアタ-は5Kbの条件下で2週間圧力を維持できるものしか完成しなかった。原因はガスケットに使った材質が不適当であったためである。今年4月以降、装置の改良を待ち、実験を行う予定であったが、改良されたモデルは圧力の維持がさらに悪くなっており、使用に耐えなかった。現在更に改良を要求している。2週間の実験ではFeパンペリ-石成分のものからモンモリロナイトとザクロ石が生成された。パンペリ-石が生成されない理由はさらに検討しなければならない。
著者
小林 大二 加藤 喜久雄 油川 英明 兒玉 裕二 石川 信敬
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

融雪期の洪水で、その流出量が予想外に大きく危険な洪水は、融雪出水に雨の流出が重なった場合である。融雪出水期は豪雪地帯では1ケ月前後の長期にわたる。出水期の中期から末期にかけては日々出水が重なり、川の水位の高い状態が継続する。又斜面では地中流出が続くため地盤がゆるんでくる。そこへわずか30-50mm程度でも雨が重なると、水位は異常に高くなり洪水となるとともに、崖くずれが続発して、大災害となる。しかるに積雪を通しての、雨及び融雪水の出水予測は、その流出機構の煩雑性のため研究例が少なく、未解明な問題として残されている。融雪出水に重なる雨による異常出水の流出機構の解明と流出予測を試みるのが、本研究の目的である。研究は石狩川支流の雨龍川源頭部の豪雪地帯で行った。毎年融雪出水期を通じて、洪水の危険を有した出水は3-4回ある。63年度は、晴天の継続による出水の異常重量が2回、晴天日に続く雨による異常出水が1回あった。この雨量はわずか30mm前後であったが、夏期のこの程度の雨による出水の4-5倍以上の出水となった。夏の大雨の出水に比べると、積雪のため流出のピークが3時間程度遅くなっている。積雪1mにつきピークの遅れは2-4時間増すことが新たに設置された大ライシメーター(3.6×3.6m)及び堰によって確認された。河川水の比電導及び化学成分の分析結果によると、地中流出が約8割、表層流出が約2割となった。融雪出水が地すべり発生の要因となることが確かめられた。δ0の分析によって、河川水と融雪水のそれのわずかではあるが有意な差が認められた。積雪下の川の水温は融雪期を通じて3-4℃と高いが、この水温は、1.5の深の地温に相当する。融雪出水の主成分である地中流出水の流出経路の深さの概略がうかがえよう。
著者
笹田 栄司 村上 裕章 鈴木 秀美 亘理 格 赤坂 正浩 林知 更
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「裁判の公開」原則の定める非公開要件は極めて厳しい。そうしたなか立法化されたプライシー及び営業秘密の保護を理由とした公開停止を検討し、その合憲性を支える理論について、公序概念拡張説とともに、例示説の立場から憲法82条と32条を組み合わせた解釈を検討すべきとの知見を得た。さらに、目下の立法課題である情報公開訴訟におけるインカメラ審理について、上記知見を用いた憲法上の基礎づけを行い、その適用範囲及び実体的要件について立法化に向けた提言を行った。
著者
中村 義男 加美山 隆 河村 純一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

われわれがこの研究で得た成果は、以下のようにまとめられる。1.金属・非金属系:セシウム・メチルアミン・アンモニア系のCs-133のNMRスペクトルと電気伝導率の測定を行い系の示す金属・非金属転移と濃度ゆらぎなどの溶液構造との関連を明らかにした。またナトリウム・アンモニア系で200MHzのESR測定を行い、バルクの金属化に先立つ電子の非局在化を示唆する結果を得た。また酸化物ガラス中にビスマス、銀のナノサイズ超微粒子を析出させ、その光学吸収、融解温度などの物性の微粒子のサイズ依存性を明らかにした。タリウム・カルコゲン化物系の濃度ゆらぎと系の電気的性質の関係を明らかにした。2.有機・無機超イオン伝導ガラス系:ヨウ化銀と・ヨウ化テトラアルキルアンモニウム系のアルキル基のサイズを変えることにより、さまざまなヨウ化銀の容積分率のガラス試料を作製し、その交流伝導率を測定した。その結果、容積分率0.35付近で、顕著なパコレーション的なイオン導体・絶縁体転移を示すことがわかった。銀イオンと有機塩のプロトンのNMR、中性子錯乱、X線小角散乱などにより、このガラス中のイオンと分子の微視的運動状態についてさらに詳細に調べた。3.無機塩・分子性液体系:硝酸リチウム・グリセロール系では、塩の濃度の増加とともに粘性が増大し、電気伝導率は低下することがわかった。この系のグリセロールの分子運動を中性子の準弾性散乱の測定から調べた。また塩化リチウム濃厚水溶液とそのガラス中の水分子の運動をNMRにより測定し、中性子散乱の結果と比較検討した。これらの系ではイオンを介した低分子物質のネットワーク構造形成が系の物性を支配していることが分かった。これらの結果より、異種結合混在系の液体あるいはガラスでは、異相分離的(同種安定)、もしくは秩序形成的(異種安定)な「局所的ゆらぎ」が、系の電気物性を支配していると結論される。