著者
金澤 章
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では、二本鎖RNA分子が、植物のゲノムDNAに対して配列特異的なメチル化ならびに転写不活性化を誘導することを利用してエピジェネティックな転写不活性化(TGS)の系を確立すること、ならびに、その不活性化状態の維持機構を解明することを目的として研究を行った。CaMV 35Sプロモーターにより転写制御されるカルコーン合成酵素遺伝子を導入することで花色の変化を誘導した形質転換ペチュニアを用いた研究により、外来遺伝子がTGSを受けるためには、プロモーター近位配列が高い頻度でメチル化を受けることが関連していることを明らかにしていた。本年度は、外来遺伝子が転写不活性化されているペチュニア植物体に対して、DNAメチル化の阻害剤5-アザシチジンによる処理を行うことにより、TGSが解除されるか否か、また、その際にメチル化の程度、および、特定の領域の脱メチル化がTGSに影響を及ぼすか否かを検討した。その結果、TGSは部分的に解除され、その際に、転写開始点の上流約300 bpの領域においてメチル化の程度が低下した。同様な効果は、ヒストン脱アセチル化阻害剤として知られるトリコスタチンAによる処理によっても得られた。この実験と並行して行った、ウイルスベクターを用いてプロモーター領域に対する二本鎖RNAを産生し、その機能によるエピジェネティックな変化を誘導する実験により、このプロモーター領域の全域のメチル化はTGSに必ずしも必要な条件ではないが、部分的にメチル化が誘導されることがTGSと密接に関連することを見出した。以上の研究から得られた知見を総合し、高い効率でTGSを誘導するため、ならびに、それを維持するためには、このプロモーターの転写開始点から約300 bp上流の領域の一部に対して高い頻度でメチル化が誘導されることが必要であり、この領域全体にわたって高いメチル化が存在することは、世代を越えて安定にTGSの状態が伝達されるために十分な条件であるという結論を得た。
著者
横江 未央
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

1.精米の賞味期限の設定精米の賞味期限が明らかでないため小売店や消費者は搗精年月日のみで精米の新鮮さを判断し,そのため,品質劣化していない精米が工場に返品されている。そこで,精米の賞味期限設定のために普通精米と無洗米を試料とし1年間の貯蔵試験を行った。その結果,理化学測定に比べ官能試験は米の食味の劣化を早く敏感に捉えられることがわかった。そこで官能試験を賞味期限設定のための最重要測定項目と考え賞味期限の設定を行った。本試験では精米の賞味期限は普通精米,無洗米ともに温度25℃で2カ月,20℃で3カ月,15℃で5カ月,5℃で7カ月が適当であると考えられた。2.北海道米および府県米の食味と品質の評価現在,米の生産や販売価格は,品種や産地銘柄の影響が強く反映されている。そのため,府県米に比較して北海道米は消費者のイメージが悪く,価格も低い。しかし近年,品種改良,栽培技術,ポストハーベスト技術の向上により米の品質および食味はおしなべて向上している。そこで,生産年,産地および品種が異なる56種類の試料を用いて,各種の理化学測定と官能試験を行い品質と食味を評価した。その結果,北海道米はタンパク含量とアミロース含量が府県米に大きく近づいていることが明らかとなった。また官能試験の結果から,北海道米の食味は府県米と同程度もしくはそれ以上であった。この結果は,品種や産地銘柄の影響が強く反映されている米市場の適正化につながると考える。
著者
原 暉之 井竿 富雄 池田 裕子 井澗 裕 ウルフ ディビッド 神長 英輔 越野 剛 塩出 浩之 竹野 学 田村 将人 三木 理史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

サハリン島近代史の全体像の叙述を最終目的とし、その第1段階として日露戦争前後の時期に焦点を当てた論文集『日露戦争とサハリン島』を刊行した。本書は、帝政期ロシア領時代のサハリン島史、日露戦争サハリン戦、国境変動後の住民生活を総合的に描いたはじめての業績である。また、国際シンポジウムをほぼ毎年開催することで、サハリン島史研究の国際的ネットワークを確立させ、日露間の相互歴史認識の進展にも大きく寄与した。さらに、サハリン島史研究のための資料基盤の共有をおこない、共同研究の基盤構築を進めた。
著者
藏田 伸雄 新田 孝彦 杉山 滋郎 松王 政浩 石原 孝二 伊勢田 哲治 黒田 光太郎 調 麻佐志 金光 秀和
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

リスク管理については熟議民主主義的な社会的意思決定の枠組みが必要である。またリスク-費用便益分析の「科学的合理性」とは別の「社会的合理性」があり、参加型の意思決定がそれを確保する手段となる。またリスク評価や社会的なリスクの軽減のために専門家(特に技術職)の果たす役割は大きいが、非専門家にも意思決定への「参加義務」があると考えられる。
著者
金澤 章
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究の研究代表者は、これまでの研究過程において、CaMV 35Sプロモーターの制御下で転写を行うトランスジーンに関して、DNAメチル化を伴うエピジェネティックな変化によって転写の不活性化が起きる現象を見出している。プロモーター配列のメチル化と転写不活性化の関連を詳細に解析する目的から、新規なウイルスベクターを用いて植物ゲノム中に存在する配列をトランスにメチル化し、転写段階でのジーンサイレンシング(TGS)を誘導する系の開発に成功した。この系では、CaMV 35Sプロモーター配列を組み込んだベクターを構成成分としてもつウイルスを、同じくCaMV 35Sプロモーター配列によって転写が制御されるGFP遺伝子をレポーターとしてゲノム中にもつNicotiana benthamiana植物体に接種することを行っている。このようなTGSと転写後のジーンサイレンシング(PTGS)による遺伝子の不活性化の効率の比較を行うために、同じ形質転換植物に対して、GFP遺伝子のコード領域を持つウイルスの接種を行った。その結果、接種後6日後には、TGS誘導ベクターとPTGS誘導ベクターの両者によりmRNA量の減少が誘導された。その後のmRNA蓄積量の減少はPTGS誘導ベクターを用いた場合により顕著であった。また、ウイルス感染の後代にはTGSは遺伝したが、PTGSは遺伝しなかった。したがって、ウイルス接種当代での強いサイレンシングを目的とする場合にはPTGSを誘導するベクターを、次世代への伝達を目的とする場合にはTGSを誘導するベクターをそれぞれ利用することが望ましいという結論を得た。この他、TGSを利用して有用な植物遺伝資源を創成するための標的配列を明らかにする目的から、ダイズの種子貯蔵タンパク質β-コングリシニンのαサブユニット遺伝子の上流域に関してレポーター遺伝子を用いた発現解析を行い、種子における転写制御に関与する配列を同定した。
著者
中村 太士 森本 幸裕 夏原 由博 鎌田 磨人 小林 達明 柴田 昌三 遊磨 正秀 庄子 康 森本 淳子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

森林、河川、農地生態系について、物理環境を基盤とした生息場評価手法を確立した。また、それぞれの生態系において、生息場の連結性や歴史的変化、倒木などの生物的遺産を考慮する新たな復元手法を開発し、実験的に成果を得た。また、魚類、昆虫、植物、両生類、鳥類、貝類、哺乳類など様々な指標生物を設定し、モニタリングや実験結果によりその成否を評価する手法を確立した。環境経済学や社会学的立場から、再生事業や利用調整地区の導入に対する地域住民、利用者の考え方を解析し、将来に対する課題を整理した。
著者
山口 佳三 石川 剛郎 清原 一吉 泉屋 周一 佐々木 武 佐藤 肇 大仁田 義裕 中居 功
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究の目的は,微分方程式系をJet空間の部分多様体として,幾何学的対象ととらえて,接触同値問題を核に,微分幾何学および特異点論の手法で研究することにある。今年度は最終年であるので,当初に掲げたつぎの6つのテーマをそれぞれまとめる研究を行った。(1)二階一未知関数偏微分方程式系の接触同値問題,特にE.CartanによるG_2-modelを多変数に一般化したG_2-型偏微分方程式系の研究。(2)Monge-Ampere方程式の解の特異点と衝撃波の構成。(3)微分方程式系のsymbolより生じる階別Lie環の研究および高階有限型微分方程式系(完全積分可能系)の同値問題とその応用。(4)線形高階有限系微分方程式系の同値問題の射影部分多様体論とGauss-Schwarz理論への応用。(5)微分式系の種数の概念のWebb幾何による意味付け。(6)測地流が完全積分可能系となるRiemann多様体の構造解明。(1)の課題については、成果発表として,Duke大学Bryant教授,Columbia大学倉西教授,Minesota大学Olver教授を訪れ活発な討議と共同研究を行った。(2)の課題は、泉屋が,まとめを雑誌「数学」に発表した。(3),(4)の課題は、高階常微分方程式系の同値問題を含み、背足による線形可積分系の線形同値問題を接触同値問題に発展させる研究である。基本的な成果を今年,研究代表者が八ツ井とともに公表した。(4)については,背足の線形方程式系に対する剛性定理の射影幾何学的解釈を研究代表者が,Jun-Muk Hwang教授(KIAS)とともに,まとめた。(6)の課題は、Liouville曲面の一般化の研究であり、完全積分可能系の大局的理論である。清原が,今年はそのKahler版をまとめた。
著者
今井 弘道 鈴木 敬夫 安田 信之 岡 克彦 國分 典子 鈴木 賢
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

16年度は、このプロジェクトを中心として、第五回東アジア法哲学シンポジウムを開催した(9月・札幌)。これはすでに何回も報告した通りであるが、日本国内からの参加者を始め、中国、各国、台湾その他を含めて100人を優に超える参加者があった、その中で、2006年には台湾で、第6回大会を行うこと、併せてそれを東アジア法哲学会の発会大会とすることが決議され、準備委員長として、本プロジェクトの代表者である今井が選出された。17年度は、上記第六回東アジア法哲学シンポジウム/東アジア法哲学会の発会大会が、行われた(主催・台湾大学、3月・台北)。中国、韓国、台湾その他を含めて150人を超える参加者があった。そこで、今井が理事長に選出された。これで、このプロジェクトで目標としてきた東アジアの法哲学の共同研究体制は基本的には完成し、大きな可能性が保障されることになった。18年度は、北京大学法学院から朱蘇力・張騏両教授を招待し、シンポジウム《中国における「生ける法」と「司法」を通しての法形成の可能性》を、名古屋大学と北海道大学で共催した。また上海政法学院教授の倪正茂教授を招いて「上海における住民運動と市民的法文化」とシンポジウムを行った。個々の成果については別記する。
著者
北島 象司 古塚 孝 狩野 陽 KANOH Minami
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

この研究では2種類の実験を実施した。第1部門は短かい時間の中で生じる注意転換の研究で、第2部門はプライミングパラダイムを用いた記憶の研究である。第1部門の概要:2種類の刺激(数字と4エィーボード、NとC)を200および400ミリ秒で対にして提示(S_1とS_2)し、もう1対(S_3とS_4)をそのあとに提示した。被験者の課題は、Nの読み上げとCのパタンの異同判断であった。この時間内(200と400ミリ秒)の注意の変動を測定するために誘発電位を利用し各刺激に誘発された陰性波(N_1)の波高値を測定した。注意条件はターゲットの場所(時間的)が決まっている焦点注意(F)とターゲットの種類が決まっていて場所が未定の分割注意(D)の2条件とした。実験の結果判明したことは(1)F条件でもD条件でも健常者はターゲットに注意を集中しノンターゲットには注意しない。この注意配分の統制は200でも400ミリ秒でも可能である。(2)精神薄弱児と精神分裂病者群では、ターゲットに注意することは健常者と同じであるが、ノンターゲットにも注意を配分してしまう点で注意配分の統制が不良であること、(3)特に精神薄弱児では反応カテゴリー(NとかCの各前や異同)に含まれない『まえ』とか『うしろ』を手がかりにして注意配分をすることが困難であること、であった。第2部門の概要:日常見慣れた物体や動物の絵を対にして提示し、第2刺激の名称を発話するまでの反応時間(RT)と誘発電位のN400を測定した。対刺激相互間に意味上のつながりの強弱をパラメーターとして上記測度を分析した。判明した結果によれば、(1)意味つながりの最強な同一対の場合にRTが最小となり、(2)つながりが弱いほどRTが大となること、(3)精神薄弱児の場合でも同じ傾向があること、(4)ただしRTが健常者よりも長大となること、が示された。
著者
岡田 尚武 西 弘嗣 沢田 健 川幡 穂高 大河内 直彦 坂本 竜彦 鈴木 徳行 北里 洋
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

岡田尚武をリーダとする研究グループは,統合深海掘削計画(IODP)の先駆的研究として,平成11〜13年度の科学研究費補助金(課題番号11691113)でフランスプロバンス地方に露出するOAE1b層を研究し,エンジンカッターを用いて大型の柱状試料を採取すると共に,RosansのOAE1b最上部層準において試験的なボーリングを実施した。このボーリング試料に関する遺伝子学的解析の結果,地層中のバクテリア群集に関する興味深い新知見を得た(Inagaki, Okada et al., 2005)。フランスに於ける第2弾の国際学術研究となる本研究では,フランスの専門業者を雇ってOAE1aとOAE1bでの本格的ボーリングを実施し,極めて良質な連続コアを採取した。開封後にコアがバラバラになるのを防ぐため樹脂を用いてコア全体を保存する技術と,1mm間隔での試料採取のためのマイクロドリル法を新たに開発し,非破壊法での成分・構造分析に加えて,各種微古生物学的,有機化学的,無機化学的手法を駆使してOAE層の堆積メカニズムと古環境復元の研究を行ってきた。OAE1b層準全体から採取した地表試料の解析から,無酸素水塊が海洋表層まで達しなかった環境下での黒色頁岩と,表層まで到達して表層生物圏に大きな影響を与えた環境下での黒色頁岩のあることが分かった。また,Paquir層を鏡面研磨した結果,強い葉理が発達する部分,要理が擾乱されて不明瞭な部分,葉理のない部分,のセットが4回繰り返していることが分かった。1cm(約250年)間隔での分析結果では,ラミナの明瞭な部分では各種プランクトン,陸源性砕屑物,有機炭素含有量や黄鉄鉱が増加する一方で,底生有孔虫は多様性と個体数が減少する。これらのデータから,陸起源の栄養塩供給増加によって一次生産が増え,その結果として底層に無酸素環境が広がるという環境が4回発生したと考えられる。
著者
河本 昇 DE BEAUCE Vivien DE BBEAUCE Vivien
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

V de B氏は博士論文の定式化の拡張として、ゲージ場まで拡張した格子上でのWhitney formsを用いた場の理論の定式化に取り組んできており、その定式化の完成が滞在中の研究テーマの一つであった。この定式化の持つ最大の特徴は、微分形式とホモロジーを基礎とした格子上での定式化になっており、これまで達成されていない格子上のトポロジーを導入した定式化になっている。この部分の数学的な定式化は定義されて上記のまとめとして出版されることになっている。一方この定式化を場の理論の定式化として発展させるために受け入れ研究者の私と色々議論を行ってきた。その結果この定式化では、格子上のシンプレックスを特徴付けるために、それぞれの基本単体に幾つかのパラメーターが導入され、これ等のパラメーターが基本単体の部分形式の導入としてトポロジーの性質を取り入れる役割をしており、具体的な格子計算を行ったときにこれ等のパラメーターの役割を明らかにする必要があるが、この点の問題点が依然として残されておりこの定式化が場の理論の定式化として役に立つかの判断が問われておりこの点に課題が残っている。また、受け入れ研究者である私は格子上のゲージ超対称理論の定式化を調べてきており、限られた場合であるがその定式化が完成した。この観点からV de B氏の定式化にどのような関係があるかは、興味のある問題であり議論を続けてきた。V de Bの定式化は、格子上で問題になる微分作用素がライプニッツ則を満たさないという困難が回避できる定式化に成っているのに対し、我々の定式化は超対称電荷をリンクの上に乗せ行列の概念を導入することによりライプニッツ則を満たす代数構造を導入している。これ等の関係を明らかにすることにより、トポロジーと代数構造の関連が明らかになると期待されるが上記のWhitney formsと関連されて導入されるパラメーターの問題との関連が明らかになっていない。そこで我々はこの関連を明らかにすることを一旦離れて、我々の模型の行列模型としての定式化の共同研究を開始し、一つの回答を得ている。ツイストされた超対称ヤング・ミルズの格子上での定式化は行列表式で具体的に表現することが出来ることを示し、現在これに関して論文作成段階にある。
著者
桑原 浩平 窪田 英樹 濱田 靖弘 中村 真人 長野 克則 池田 光毅 林健 太郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

個人差(心肺能力,暑熱順化)が生理量に及ぼす影響を既往の研究データと被験者実験により検討した。暑熱環境における直腸温を,作業強度起因の直腸温と暑さ起因の直腸温の増分として定義し,個人の心肺能力(最大酸素摂取量)を考慮することを可能にした。次に暑熱順化が発汗量および着衣のぬれに及ぼす影響について検討し,平均皮膚温36℃を境に暑熱順化前後の発汗量と着衣のぬれの特性に差が見られた。
著者
池上 重康 砂本 文彦 角 哲 谷村 仰仕 中江 研 安野 彰 崎山 俊雄 辻原 万規彦 木方 十根
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、鉱山実習報文の精査により明らかとなった、鉱業系企業社宅街の成立と変遷を基に、各種統計資料、各鉱山所蔵の資料ならびに各社史の記述を照らし合わせ、住戸と福利施設・都市基盤を含めた社宅街の開発手法の特質ならびにその理念を探るとともに、社宅街の形成過程を明らかにし、鉱業系企業社宅街を、業種別、開発年代、敷地形状、風土的条件の観点から、整理分類を試みた。
著者
嶋津 克明 吉永 裕介 中田 耕
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.5種類のスズ修飾貴金属電極上における硝酸イオンおよび亜硝酸イオンの還元反応を検討し、活性および窒素選択生成到達度の貴金属依存性を決定した。窒素選択生成到達度は、N-O結合切断、N-NおよびN-H結合生成率をベースとしており、これより高活性かつ高N_2選択率の電極を設計する上で重要な指針が得られた。2.PtおよびPd電極上に、硝酸イオン、亜硝酸イオンおよび一酸化窒素から生成する吸着種の構造とその反応性を赤外分光法により検討した。Pt電極上に硝酸イオンが吸着すること、bridged NOに比べ linear NO の還元速度が速いこと、スズ修飾により吸着NOの還元速度が促進されことなど、硝酸イオンの還元反応機構に関連して新規で重要な情報を得た。3.多結晶金電極上にSn^<2+>イオンおよびPtおよびPd錯体を逐次的に吸着させて、Sn-貴金属二元電極を調製した。貴金属の担持量は錯体の単分子層吸着の状態で決まるため、担持量は0.3gcm^<-2>以下と極端に少ないにも関わらず、硝酸イオンの還元反応に対して高活性であった。したがって、貴金属担持量の低減化のための新規分散法として有用であることを立証できた。4.自己組織化単分子層上にSn/Pd/AuおよびSn/Ptのナノ粒子を積層した。硝酸イオンの還元反応に対して2-3層目までの反応場の拡張が可能であることがわかった。また、シクロデキストリンをテンプレートとして、反応場を微細設計する方法を開発した。原子テンプレートを使い構築したナノ制御界面では酸素分子の還元に向上がみられた。これらの結果は、電極触媒を原子・分子レベルで制御して構築できること、ならびにその重要性を示している。
著者
近藤 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

オオバナノエンレイソウの種子が散布から出芽までに21ヶ月もの長期を要する理由を,胚成長,発根および出芽に必要な温度と光要求の側面から明らかにした。オオバナノエンレイソウの胚は,種子の散布時には小さく未発達であり,胚成長と発根のためには第1回目の低温を必要とし,発根した種子が出芽するためには,第2回目の低温が必要であった。種子の発根率は,変温条件よりも恒温条件で,また明条件よりも暗条件で高かった。
著者
中村 誠宏
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

苫小牧研究林のクレーンサイトにおいて地上15-20mにある枝(地上部)の温暖化処理を2008年5月から本格的に開始した。その結果、温暖化処理は、地区部処理区、地下部+地上部処理区、対象区の3つのタイプが揃った。それぞれの温暖化処理区において、このまま温暖化が続いた場合の100年後の気温を想定して5度の温度上昇を維持するための装置も設置してある。この電熱ケーブルを枝に張り巡らす地上部の温暖化処理は世界でも例を見ない手法である。以上の実験環境の整備により、北海道の代表的なミズナラ自然林を舞台に、人工的な温暖化現象を作り出し、樹木にどのような変化が現れるのかを長期的に調べることが可能な状態になった。本年度の温暖化処理区での調査は、昨年に引き続き林冠部の葉形質と食害度の調査を行った。さらに、葉の光合成と呼吸量の測定も行った。温暖化の処理効果を近接リモートセンシングで把握できるようにクレーンの上部に分光カメラと熱カメラを設置して林冠部の撮影によるモニタリングを開始した。一方、林床植物の群集構造そして繁殖戦略についての調査を開始した。土壌の温暖化を直接大きな影響を受けているのは林床植物群集であると考えている。今年度の主な結果は、ドングリ生産量が枝の地上部(枝)の温暖化処理によって2-5倍に増加したことである。また、秋の落葉も10日ほど遅くなり、地上部の温暖化は樹木の様々な生態的な特徴に影響を与えていることがわかってきた。また、樹木の生理機能に関しては、土壌の温暖化処理によって春先の葉の呼吸量が増加することがわかった。しかし、地上部の温暖化処理はこれら機能への影響は見られなかった。
著者
真貝 恒平
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

今年度の研究は、前年度までの研であった「ドイツ文筆家保護連盟」(Schutzverband Deutscher Schriftsteller:以下SDS)の設立から解体までの組織変遷を、近代以降のドイツの文筆業をめぐる諸問題と、世紀転換期からワイマール共和国期における全般的な社会運動との関連を再度ふまえながら概観し、組織解体直前の動向と、1933年以降、フランスへの亡命を果たしたSDSの活動について重点的に調査した。SDSは、ナチス権力掌握前夜、つまり、1920年代後半から30年代にかけて度重なる内部崩壊の危機にさらされ、それまで超党派的組織としてドイツ文筆業界に君臨してきた組織力に翳りが見え始め、組織の斜陽化の一途をたどることとなる。SDSは、組織内に生まれた政治イデオロギーにより、文筆業の代表機関としての本来の機能を失ってしまう。1933年6月9日に設立されたナチス国家直属の文筆業による情報プロパガンダ機関である「ドイツ文筆家帝国連盟」(Reichsverband Deutscher Schriftsteller:以下RDS)は、それまでドイツで活動展開していた文筆家団体を次々とその傘下に入れ、SDSもついに同年7月31日、RDSへ吸収合併され、SDSは、1909年から続いたドイツでの活動に幕を下ろしたのであった。SDSが組織の終焉を迎えた後、フランスへ亡命を果たした一部のSDS会員により、組織解体から僅か三カ月後の1933年10月31日、パリで「亡命におけるSDS」(SDS im Exil)が結成される。この組織は、1935年6月21日〜25日までの五日間、パリで開催された反戦・反ファシズムと新しい文化創造を目指し、世界38カ国から約250名の作家、知識人が参加した「第一回パリ国際作家大会」に参加し、大会四日目にドイツ亡命作家団体代表として共同声明を発表している。このように、SDS亡き後、その理念を継承した「亡命におけるSDS」は、ドイツの反ファシズム亡命文学者、知識人の一大拠点として、戦後まで持続的な活動をパリで展開したのであった。今後の研究の展望として、パリ亡命期のSDSの活動を追っていくとともに、SDSが組織解体へと至るプロセスをより詳細に追っていき、ナチス政権による文筆業の統合と、亡命作家の活動を比較しながら1933年以降の国内外の文筆業を包括的に考察していきたい。
著者
西浦 廉政 柳田 達雄 飯間 誠 栄 伸一郎 上田 肇一 寺本 敬 上山 大信
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

散逸系におけるパルスやスポットなどの動的な空間局在パターン(以下、粒子解)はTuring不安定性による空間周期構造と共に、パターン形成理論における最も基本的な秩序解のクラスを成している。近年、化学反応系、ガス放電系、液晶系、形態形成系を始めとする様々な系において粒子解が実験的・数値的に発見されている。これらの間の強い相互作用,とくに衝突や不均一媒質での振る舞いに対して従来の摂動的手法の適用は困難であった.これはパルスやスポットが激しく衝突する場合を想像してもわかるように、一般に解の大変形を伴うのがその一因であり,全くの未踏領域であった。しかし動的局在パターンのダイナミクスを考える際には、衝突・散乱は避けて通ることはできない。実際、1次元では常に正面衝突は不可避であり、高次元においても系のダイナミクスの定性的変化は衝突の際に生じる。本研究課題の研究成果から、例えば衝突過程では、分水嶺解(scatter)という不安定なサドルが様々な秩序解が相空間で成すネットワークの中で軌道の交通整理をしていることが明らかになった。さらに粒子解のドリフト・分裂・崩壊等の不安定性を組み合わせることにより,衝突過程で生じるほとんどすべてのダイナミクスを余次元2あるいは3の特異点の近くで再現することが可能となり,同時に有限次元系に帰着することも可能となった.これにより散逸系という無限次元力学系における複雑な時空パターンの骨格構造がなかり解明された。さらに粒子解を乗せて運ぶ媒質が一様でない場合の波の振る舞いについても,不安定解ネットワークからの視点が極めて有用であることが判明した.これは不均一性に由来する不安定解(ディフェクト)が存在し,粒子解の不均一媒質での運動は粒子解とこのディフェクトの衝突過程とみなすことができることに由来する.この場合も粒子解の運動は有限次元系に帰着させることが可能であり,これにより,不均一性の勾配,高さ,幅,曲率等の幾何的状況に運動がどのように依存するか調べることが可能となった.
著者
森 太郎
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

1実測結果のまとめと各遮光布,遮光方法の比較(1)白の垂直遮光:白色の布は日射吸収率が低いため,日射が当たっても布温度が上昇しない.そのため遮光効果によって居住域温度を下げることはできたが,頂部の温度は変化しない.(2)青の垂直遮光:白色の垂直遮光と同様に,居住域の温度を下げることができた.しかし頂部では,布が日射を吸収したため,布温度が上昇し,遮光したB棟の温度の方が上がってしまった.(3)白の水平遮光:遮光したB棟において,居住域の温度を下げることができたが,頂部の温度は上がってしまった.この原因は水平に設置された白い布が反射板となり,日射が反射され,周辺の温度を上昇させたためと考えられる.(4)青の水平遮光:居住域,頂部とも遮光したB棟の温度の方が上昇してしまった.空間内の上下温度差が大きくなるので,頂部の温度と外気温の差を動力とした自然換気の計画の際に有利になる.(5)透過率の高い布:日射透過性の高い布を使用すると,床面や壁面の日射受熱量をあまり減らすことができないため,他の布と比較すると,下部を涼しくすることができない.2遮光布の短波長に対する性状把握実験アトリウムの壁面への入射日射量の計算のために,数種類の布の光学的な性状を把握するための実験を行い,数値計算用にモデル化を行った.透過・反射成分の分布は,CGで用いられる表現技法を使用したモデル化から推定した[拡散性透過(反射)の様子⇒Lambert Model,指向性透過の様子⇒Phong Model,入射角毎の透過率,反射率,吸収率⇒フレネルの式]3数値計算による日射受熱量分布の把握モンテカルロ法による数値計算によって,遮光布を設置したアトリウム空間[10M×10M×10M]の日射受熱量分布[7/1,13:00]を把握した.その結果,遮光を行っていないケースと他のケースを比較すると,高さ6m以下において,日射受熱量が減少した.これは遮光布の設置によって日射が拡散反射,透過され,空間下部に直接日射が届かなくなったためである.また垂直遮光よりも水平遮光の方が,下部の日射受熱量は減少した.これは太陽高度が高いため,垂直遮光よりも水平遮光の方が,遮光面積が大きくなったためである.また日射反射率が高い布を水平に使用した場合,頂部の日射受熱量が非常に多くなった.布面での反射成分が頂部付近の壁面へ多く入射,吸収したためと考えられる.これらのシミュレーションの結果は実測調査結果ともおおむね一致している.
著者
佐藤 健次
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

昨年度に引き続き、出芽酵母Atg7単体およびAtg7CTD-Atg8複合体の立体構造の精密化を行なった。また、結晶構造からはAtg8とAtg7のadenylation domain間の相互作用の情報を得ることができたが、変異体解析によってAtg7はadenylation domainによる認識に先立って、C末端領域によってAtg8を捕まえていることが示唆された。しかし、この相互作用に関しては結晶構造からは十分な情報が得られなかったため、Atg7のC末端ペプチドを作成しAtg8との複合体構造をNMRを用いて明らかにした。これらの構造情報と各種変異体を用いたin vitroでの解析によって、Atg7はこれまで研究されてきたcanonical E1とはユビキチン様タンパク質の活性化の機構が大きく異なることを明らかにした。まず、Atg7はそのC末端領域によってAtg8を捕らえ、その後活性化の活性中心である自身のadenylation domainへと移行させるという二段階の認識機構を持つことを示した。また、活性化されたAtg8はE2分子であるAtg3へとtransの機構によって受け渡されていることを示した。これらのcanonical E1とは大きく異なったAtg7の特徴は今後オートファジーにおけるAtg8系とAtg12系の役割を明らかにするうえで重要であると考えられる。また、他のE1と大きく異なる立体構造および活性化の分子機構はAtg7特異的阻害剤を作成するうえで重要な情報といえる。本年度は上記の研究の結果をまとめ、学術誌Molecular Cellにて発表を行なった。