著者
小林 青樹
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、西日本の縄文・弥生移行期における東日本系土器の展開を検討し、その分布と各段階における特徴的な様相を追求することにある。北部九州で水田稲作が開始され渡来人の入植が始まる早期1段階から、弥生前期の新しい段階にわたる東西文化の相互交渉を中心に検討をおこなった。まず、西日本における東日本系土器の集成をおこない、これと平行して近畿地方以西の広範囲にわたって併行関係をおさえることが比較可能となる、土器編年の構築作業をおこなった。その結果、東日本系土器は北部九州から近畿の各地で見られ、時期毎にその分布に特徴的な様相が認められる。まず、表の早期1段階以前の晩期中葉、大洞Cl式段階までは土器及び土偶の大量出土に見られるように著しい緊密な関係が存在した。次の早期1段階、すなわち北部九州で水田稲作が開始される段階に突然関係が断絶してしまう。さらに次の前期1段階、すなわち北部九州で最古の弥生土器である板付I式土器が成立する段階に再び関係が活発化する。この段階には、西日本各地の土器様式構造に影響を与えるほどに関係は緊密であり、弥生土器の成立に東日本の要素が色濃く継承された。こうした現象は、弥生文化の成立が決して西日本を中心に単系的に実現されたのではなく、東日本の縄文系文化を含めた広範囲にわたる相互交渉の結果、予想以上の複雑性をもちつつ成し遂げられたことを示している。今後、土器以外の考古資料の検討をおこなう予定である。
著者
小栗 寛史
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

国際法学においては、いわゆる「長い19世紀」を通して法実証主義が台頭し、それ以前に優勢であった自然国際法論に代替したと評価されてきた。しかしながら、同時期に上梓された文献を参照する限り、実際には近代国際法完成期及び戦間期を通して自然国際法論を採用する論者は少なくなかったことが判明する。このような研究状況に鑑み、本研究は、これまで十分に検討されてこなかった近代国際法完成期及びその後の戦間期における自然国際法論の内実を解明し、それらが国際法史においてどのような意味をもった営みであったのかという点を考察するものである。
著者
笠原 成 木原 工 今城 周作
出版者
岡山大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2022-10-07

強相関電子系で実現する特異な量子凝縮相や新奇電子状態の探索と解明は、凝縮系物理学における中心課題の一つである。本研究では、欧州強磁場研究所(European Magnetic Field Laboratory: EMFL)における強磁場実験、特に、オランダ・Nijmegen強磁場研究所における極限定常磁場下での精密熱輸送測定を基盤としたエキゾチック凝縮相の探索と解明に取り組む。『強磁場熱測定』に精通した国内屈指の若手から中堅で構成される当該分野のエキスパートが、国際ネットワークを構築し、40T超の定常磁場実験が新たな潮流となる時代の転換期において、強磁場物性科学のフロンティアを切り拓く。
著者
田坂 健
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

研究目的本研究は抗菌薬によるせん妄メカニズムを解明し手術後あるいは感染症患者におけるせん妄管理に資する基盤データの構築を目的とした。方法実験にはICR系雄性マウスを用いた。マウスにLPS(300μg/kg)を腹腔内投与し、その24時間後に行動薬理学的検討を行う。行動薬理学的検討は、ジアゼパム(0.3mg/kg, DZP)およびペントバルビタール(40mg/kg, PB)を腹腔内投与し、PB誘発睡眠の睡眠潜時および睡眠持続時間を評価した。本研究では抗菌薬としてミノサイクリン(50mg/kg, MINO)を用い、LPS投与前および投与後にMINOを投与することによる睡眠潜時および睡眠持続時間への影響を評価した。なお、本研究は申請者所属施設の動物実験委員会の承認を得て行った。主要な研究成果LPS投与マウスに単独で無作用量のDZPおよびPBを投与した場合、DZP非投与マウスあるいはLPS非投与マウスと比較して有意に睡眠持続時間が延長した。このLPS、DZPおよびPB投与マウスの睡眠潜時および睡眠持続時間に対するMINOの影響を評価した。まず、MINO後投与としてLPS投与直後、1、2および4時間後にMINOを投与した場合、ペントバルビタールによるマウスの睡眠潜時に影響はなかったが睡眠持続時間は有意に短縮した。一方、前投与としてLPS投与48, 36, 24, 12時間前、投与直前およびLPS投与12時間後にMINOを投与した場合、睡眠持続時間が有意に延長した。MINOは中枢および末梢神経に存在するグリア細胞のうち、ミクログリアの活性化を抑制することが知られている。ミクログリアは神経の炎症にも深く関与することから、現在ミクログリアの活性化に着目して行動実験後の摘出脳サンプルを用いて検討中である。
著者
石川 洋文 平井 安久
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、本邦北海道全域にその感染域が拡大し、また本州に感染の侵入が懸念されている人畜共通感染症であるエキノコックス症(多包条虫症)について、伝播に関する数理モデルを構成し、シミュレーションを通して宿主動物に対する対エキノコックス・コントロール対策効果予測を行い、医学者・獣医学者との協力のもとで住民の感染危険防止に貢献することである。エキノコックスは、人に感染すると悪性腫瘍にも似た重篤な症状を引き起こし死に至ることもあり、4類感染症(感染症予防法)に指定され、北海道庁では、エキノコックス対策協議会を設け、その流行抑制を図っている。また、新興・再興感染症として、厚生労働省ではその感染源対策を推進している。エキノコックスは、Definitive hostsとIntermediate hosts間の相互作用による複雑な生活環を形成し、人にも感染する虫卵は、自然環境下に排出される。現在の技術では、人の感染しうる自然環境下の活性虫卵量の測定は不可能であり、また宿主動物に対する対エキノコックス・コントロール対策は多額の費用及び大量の労力を要することから、モデル・シミュレーションを用いた予測、判定が有用であり、真に役立つ精密モデルを構築することである。本研究では、Definitive hostであるキツネを個々に取り扱い、エキノコックスの感染進行を確率的に取り扱った。モデルをより現実化するために、個々のキツネについてエキノコックス感染荷を用いた。この感染荷は、捕食した野ネズミの原頭節量とキツネの感染経験により左右される。本研究では、北海道小清水及び札幌を研究対象地として確率シミュレーションを1,000回繰り返し結果を得た。この結果、コントロール対策としてキツネの駆虫薬散布を行うとき、散布時期の選択が重要となることが分かった。本研究で実施した確率シミュレーションは、感染率などを中央値とともに信頼区間を得ることができ、エキノコックスのような複雑な感染環をもつ疾患の解明、コントロール対策の評価に役立つものとなった。
著者
木之下 博
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

砂漠に生息するサンドフィッシュは、砂の中を泳ぐように移動できる.本研究では,サンドフィッシュの鱗のマイクロ構造やμNあるいはmN荷重での鱗のトライボロジー特性を調べた.鱗は人間の頭髪のようなキューティクル状の構造を有していた.また構成元素はO,C,NとSであった.水に対する接触角も大きくなく90°程度であった。μN荷重ではある条件を除いて比較材料のPTFEやPIよりも小さな値であった。mN荷重、φ1mmのSUJ2球の摩擦ではPTFEやPIでは摩耗が見られたが、サンドフィッシュの鱗では摩耗が見られなかった。
著者
根岸 友恵 鈴木 利典 濱武 有子 藤原 大
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

痛風の原因物質として知られている尿酸であるが、抗酸化物質として重要な働きをしている。尿酸がどのような酸化ストレスに対して防御作用を示すかを調べ、生物における尿酸の存在意義とその利用価値を示すことを目的とした。ショウジョウバエの尿酸欠損株はタバコ副流煙曝露に感受性が高い。副流煙曝露時の尿酸含量を測定した結果、野生株では尿酸が、尿酸欠損株では前駆体含量は増加した。このことは酸化傷害に対する防御機構として尿酸合成が亢進している可能性を示唆するものである。
著者
鈴木 越治
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

健康格差の全体的評価において重要なデータ分析・評価方法の構築を行った。特に、健康格差を評価する際に考慮すべき交絡バイアスの性質を明らかにして、交絡の四つの観念の類型を示した。また、健康格差を評価する際に生じる誤差の新たな体系的分類を提示した。加えて、健康の社会的決定要因(例:ソーシャル・キャピタル)や環境要因(例:砂塵)に着目し、日本における健康格差の特色を明らかにするとともに、格差拡大の背景を評価した。
著者
森 也寸志 金子 信博 松本 真悟
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

人工マクロポアという疑似間隙構造を土壌内に作るとき,充填物に縦方向に長い繊維を使い,充填率30%であったときに最も効果的に下方浸透を促すことができた.土壌カラム実験では,土壌水分と有機物量に逆相関がみられ,栄養塩をよりも水分が有機物分解に影響すること,また,土壌下方にある有機物は酸素が遮断され,かつ水分が減ると上方移動が不能になるため分解を免れる傾向にあり,根や浸透有機物の分解が逆に促進されることはなかった.亜熱帯土壌では畑圃場で地表流の発生が抑制され,結果的に農地土壌の流亡が抑制されることがわかった.このため,分解が優勢な高温化でも有機物については保全傾向が見られた.
著者
恒石 美登里
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

膿栓をもつ者に他覚的な口臭があることは,経験的に知られている。しかし,膿栓と口臭との関連性は科学的に証明されていない。そこで本研究の目的は膿栓の表面の観察および構成する細菌を特定することで,膿栓と口臭との関連性を明らかにすることとした。口臭を主訴に来院し,同意の得られた6名の膿栓を調査した。採取した膿栓からDNAを抽出後,PCR法で増幅を行い電気泳動により16S rDNAに相当するバンドを回収した。大腸菌ベクターへ挿入後クローニングした16S rDNAにより遺伝子配列を決定後,菌種の同定を行った。また25歳男性の膿栓を滅菌キュレットで採取後,固定処理を行い乾燥後,白金で金属膜蒸着を行い走査型電子顕微鏡(S-900,日立製作所)で観察を行った。採取した膿栓は白色から薄い黄色を呈しており,表面は滑沢で米粒のような形状をしていた。扁桃腺の陰窩から膿栓を採取した際には,出血や痛みなどの臨床症状も認めなかった。走査型電子顕微鏡で,表層を拡大してみると菌が絡みあって構成されている様子が確認できた。膿栓表層をさらに倍率をあげて確認すると,球菌が多く観察された。膿栓を半分に切断した横断面では,球菌はほとんど見られずスピロヘーター様の細菌や桿菌が多く観察された。膿栓を構成する菌の同定結果から,6名全員一致して検出された属は,Prevotella属であった。全員から一致して検出される菌種はなかった。また,6名の膿栓の全てに揮発性硫化物を産生する細菌が含まれていた。この結果から,膿栓が口臭の原因物質を産生し,口臭の原因となりうることが示唆された。また,電子顕微鏡による観察から,膿栓の表層には好気性や通性嫌気性の細菌が分布し,膿栓の内部に偏性嫌気性菌が存在することが想像され,膿栓をつぶすとにおいがする理由の一端が明らかになった。
著者
富岡 憲治
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究ではキイロショウジョウバエ概日活動リズムを制御する時計機構に関して、(1)温度感受性時計がどのような機構で振動するのか、また、(2)温度感受性時計が光感受性時計とどのように協調して概日リズムを制御するのかの2点について解析を行い、以下の成果を得た。恒明温度周期下から恒明恒温条件への移行でリズムが数サイクル継続すること、恒明下で20℃への単一温度変化でリズムが誘発されることがわかった。温度ステップ変化後、PER、TIMともに周期変動が誘発されることから、温度のステップ変化が、PER、TIMなど時計分子の量的変動を介して概日時計の振動を誘発することが示唆された。無周期突然変異系統での実験結果から、温度による振動にはCYC、CLKが必要であることも示唆された。PERの発現を指標として温度周期下で駆動する時計細胞を探索し、脳側方部ニューロン群(LNs)でPERが低温期に発現することが示された。LNを欠失したdisco系統では、温度周期下でも内因的な活動リズムは発現しないことから、上記の結果とあわせて、LNが温度周期下でのリズム発現に主要な役割を担うことが示唆された。クリプトクロームの機能欠損をもつcry^b系統では恒明条件下で長周期(LPC)と短周期(SPC)の2つのリズムを発現する。抗PER抗体を用いた免疫組織化学の結果は、SPCはLNと一部の脳背側部ニューロン群(DN)が、LPCは残りのDNによって制御される可能性を示唆した。光周期と温度周期への同調実験の結果、SPCはより温度同調性が強く、LPCは光同調性の振動体により制御される可能性が示唆された。この結果は、温度周期下でのリズム発現にLNが主要な役割を担うことともよく一致する。cry^b系統の行動リズムの解析から、SPCとLPCは相互作用により通常同調するが、SPCがLPCに対してより強力な同調作用を持つことがわかった。
著者
宮石 智
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

法医学実務においては、着衣等に付着した血痕が月経血に由来するか否かがしばしば問題とされる。従来の月経血痕証明法の一つである血痕からのフィブリン分解産物(FDP;月経血に多量に含まれている)の検出では、月経血は生体末梢血からは鑑別され得たが、月経血同様多量のFDPを含有する死体血との鑑別は困難であった。ところで私は、死体血と生体末梢血のミオグロビン(Mb)含量の差を利用した、血痕からの生体血と死体血との鑑別法を既に考案している。月経血は子宮という平滑筋臓器から出血する生体の血液であり、Mb含有量は生体末梢血と同程度と考えられる。そこで、血痕からのFDPとMbの同時検出によって、生体末梢血、死体血との鑑別を含めた月経血痕の証明が可能であると考えられた。月経血及び死体血の各10mu1を晒し布に付着させて実験的に血痕を作製し、これに200mu1のPBSを加え37℃で一夜静置して得られた抽出液についてFDP-Dダイマー(二次線溶に特異的に出現するFDPの一成分)の定量を行った結果は、月経血では5.94x10^2〜1.27x10^3ng/ml、死体血では5.84x10^2〜1.58x10^4ng/mlと高値であった。一方生体末梢血のFDP-Dダイマー濃度は9.7〜37.1ng/mlに過ぎないことから、血痕からのFDP-Dダイマー検出により月経血及び死体血と生体末梢血との鑑別が可能であった。月経血のMb濃度を測定すると27.2〜53.7ng/mlであり、生体末梢血のMbレベル(35.5±23.9ng/ml)に相当していた。従って血痕からのMb検出により、月経血も生体末梢血と同様に死体血から鑑別され得ることが判明した。以上のことから、血痕からのFDP-DダイマーとMbの同時検出により月経血、生体末梢血、死体血の三者が鑑別され得ること(FDP-Dダイマーのみ検出されたものは月経血、FDP-DダイマーとMbの両者が検出されたものは死体血、いずれも検出されないものは生体末梢血)が確認された。