著者
田中 宏二 兵藤 好美 田中 共子
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.103, pp.181-192, 1996-11

これまでに筆者らは、若・中年齢女性あるいは高年齢女性の取り結ぶソーシャルサポートネットワーク(SNWと略す)の特性が、精神的健康にどのような影響を及ぼしているかについて検討してきた(田中・野邊、1994;田中、1995;兵頭・田中、1995)。特に高齢者に対しては、SNWの重要性が注目されてきている。高齢者の福祉と医療の基本原則は、住み慣れた地域の住民と積極的に関わり合いながら、対象者が住宅のまま地域生活を可能な限り続けることであるという認識が確立されてきている。(那須、1980)。そういった意味から、地域での生活を継続してゆくために、高齢者と地域とを取り結ぶSNWは、不可欠な要素となってくる。そしてケアの概念は生活に根ざした概念として把えられ、対象者に対して包括的なものであり、日常的でかつ直接的な対応が重要視されるようになってきている。とりわけ栄養摂取については生活の中枢をなすものであり、日常的でかつ直接的な対応が求められる。多くの研究者により、独居群がそれ以外の居住形態に属する高齢者と比較して、食物摂取行動の面で問題を多く抱えていることが指摘されている。また、杉澤(1993a)は、独居群の場合、別居子や友人・近隣などとの社会的紐帯の多寡が、独居家族の代替として保健行動面での問題の解消に寄与するという仮説の検証を行い、支持する結果を得ている。これらのことにより、独居者に対するソーシャルサポートネットワークが今後益々重要になってくるものと思われる。ところで岡山市では平成6年10月から、65歳以上の虚弱な高齢者で、かつ自力で調理が困難な場合又は調理の援助が得られない場合を対象とし、「一人暮らし老人等給食サービス促進事業」(給食サービスと略す)が始められている。この事業の主旨として直接的には、要援護高齢者の食生活安定、栄養バランスの補足と栄養改善、調理の負担軽減、楽しめる食事の提供等による高齢者の日常生活の支援を目的としている。また間接的には地域ボランティアの養成、地域交流、安否確認、孤独感の解消、生活リズムの把握、配食者による受給者の保健福祉ニーズの発見及び住宅保健福祉サービスへの仲介を通しての地域福祉の高揚を目的とするものである。給食サービスの形態は月~金曜日迄の週5日間、日1食昼食を配達する毎日型を基本としている。なお、配食体制は、調理業者から配食拠点施設へ社会福祉協議会職員又は配達運転手が配送し、その配色拠点施設からボランティア配食協力員(以降、ボランティア協力員と略す)が受給者宅へ配食を行うという方法をとっている。本調査では、地域のボランティア協力員が利用住宅の高齢者に昼食を届け始めて、1年半を経過した平成8年3月時点で調査を行った。本報告の目的は、給食サービス及び受給者-ボランティア協力員間のサポート授受関係が高齢者のSNWや精神的健康に対して、どのような影響を及ぼしているかについて、検討を行うものである。
著者
田仲 持郎 入江 正郎 高橋 英和 中村 正明
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

現在,医療用及び工業用レジン系材料にとって,その機械的及ぶ物理的物性を改善するために可塑剤は不可欠な存在であるが,近年,可塑剤及び構成モノマーの内分泌攪乱作用が指摘されるようになってきた.その主因はフタル酸エステルやビスフェノール-Aに代表されるような芳香環をその分子内に持つことと考えられ,芳香環を分子内に持たない可塑剤やモノマーを用いて,所期の物性を持つレジン材料の開発が望まれている.また,ビニル系レジン材料にとって,重合収縮は避けられない問題であり,その使用にあたって種々の弊害の主因となっている。重合収縮を小さくする工夫としては,スピロ環などの開環重合を可能とする重合性基の導入によるモノマー自身の重合収縮の減少や複合化による見かけ重合収縮の減少など,数多くの試みがある.我々は,MMA/PMMA系義歯床用レジンに代表されるポリマー粉部とモノマー液部を混和して膨潤溶解を待ち,餅状化した樹脂組成物を重合する手法を応用して,見かけ重合収縮率の少ない高性能歯科用レジンを開発している.その過程で,重合性基を持つビニルエステルを液部とし,各種重合体を粉部として混和した樹脂組成物を調製したところ,極めて短時間に膨潤溶解が進行し,餅状化することを見い出した.先ず最初に,ポリメタクリル酸エチル(PEMA)を粉部とし,ビニルエステルを液部として混和した軟性樹脂組成物の軟性裏装材としての可能性に関して,ビニルエステルの分子量とその分子構造の観点から詳細な検討を加えた.その結果,ビニルエステルはエチルアルコールを用いることなく,PEMAを膨潤溶解させることが出来,その軟性樹脂組成物のゴム弾性は従来の軟性裏装材と同様であることを明らかにした.次の段階として,その餅状化物中のビニルエステルを重合することにより,硬化物の中に従来の概念の可塑剤が存在しないこととなる.また,脂肪族系ビニルエステルを用いた時,その樹脂組成物の細胞毒性は従来の軟性裏装材よりも小さかった.
著者
白羽 英則 小橋 春彦 大西 秀樹 中村 進一郎 山本 和秀 小林 功幸
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

Des-gamma carboxy prothrombin (DCP)は、血管内皮細胞のKDRに作用し、細胞移動能(2.2倍)、細胞増殖能(1.5倍)を亢進させた。これら効果はKDR阻害剤により消失した。肝癌細胞のシークエンス解析からexon2の脱落したΔ2-gamma-glutamyl carboxylase(GGCX)を同定し、クローニングした。肝癌細胞においてΔ2-GGCX発現はDCP産生細胞(69%)において非産生細胞(8%)と比較して優位に高く、本来DCP非産生細胞であるHLE, SK-Hep-1は、Δ2-GGCX遺伝子導入によりDCP産生機能を持つようになった。これらの結果より肝癌におけるΔ2-GGCXの発現は、DCP産生の一因であることが解明された。Δ2-GGCX導入Hep3Bは、parental Hep3Bに対して約10倍のDCPを産生し、逆にWT-GGCX導入Hep3Bは、DCPの産生が消失した。それぞれの細胞を、ヌードマウス皮下に接種し8週間飼育した。Δ2-GGCX遺伝子導入細胞(腫瘍体積632mm^3)においては、WT-GGCX遺伝子導入細胞(腫瘍体積153mm^3)と比較して4.2倍と大きな腫瘍をヌードマウス皮下に形成し、血管新生も多く認められた。HCC患者組織(手術標本)でもDCP産生、血管新生の検討を行った。免疫組織染色の検討では、DCP発現と血管新生を示すCD31発現の相関が認められた。また、造影CTで評価したHCCのvascularityと、血清DCPの値にも相関が認められた。これらの結果より、DCPは臨床検体においても血管新生と密接な関連を持つことが判明した。
著者
森田 学 丸山 貴之 竹内 倫子 江國 大輔 友藤 孝明
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

高齢者をターゲットとした研究は、日本をはじめとする先進国の喫緊の課題である。これまでの歯科領域における研究対象としての“高齢者”は、主に“要介護高齢者”あるいは“要支援高齢者”である。これに対して近年、“オーラルフレイル(口腔機能の虚弱)”という口腔機能の軽微な衰えを表す概念が注目されている。現実には、日常生活で口腔機能に不自由を感じていない高齢者(前オーラルフレイル期高齢者)は多数存在する。しかし、このような高齢者を対象に歯・口の機能の継時的変化(機能の衰え)を追跡した研究は少ない。本研究では、オーラルフレイルに関連する要因とオーラルフレイルに至るまでのプロセス(パス)を解明することとした。岡山大学医療系部局研究倫理審査専門委員会で承認を得たのちに大学病院外来患者を対象に、オーラルフレイルと関連する身体的、精神的、社会的指標を調査した。オーラルフレイルの判定には、オーラルディアドコキネシス、舌圧、口腔乾燥、咀嚼能力、咬合接触面積、細菌検査、質問票の結果から総合的に判定した。オーラルフレイルと関連している可能性のある指標として、全身の老化指標(BMI、栄養状態、日常生活動作)、生活のひろがり(活き活きとした地域生活を送っているか否か)、精神・心理状態(WHO Five Well-Being Index)など調査した。総計150名の患者が調査に参加した。現在35名(平均年齢74.3±5.0歳、男性10名、女性25名)について入力し、分析を開始している。舌圧、口腔乾燥、咀嚼能力、質問票については正常の者が多かった。しかし、細菌検査、咬合接触面積、オーラルディアドコキネシスについては、正常以下の者が多かった。総合的に判断した口腔機能低下症が認められる群(6名)と認められない群(29名)との間で、全身の老化指標、生活のひろがり、精神・心理状態を比較したところ、2群間で有意に異なる指標はみられなかった。
著者
笹倉 万里子 山崎 進
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

高度情報社会においては,個人が多彩な情報の恩恵を享受する環境が必要である。しかし,情報はただ提供されるだけで役立つものではなく,個人がその情報を用い行おうとする目的と合致して初めて役に立つものである。本研究では,情報の十分な量が提案されている状態から,要求に合致したものを探し出し,目的を達成するための要因を決定していくための環境を,「ある要求が定まっているときに,ある状況と知識を仮定して,目的の要因を推定していく」過程とみなし,それをコンサルタントと捉えこのコンサルタント機能の実現を目指した。具体的には以下の研究を行った。1.矛盾解消推論とその関連の研究状況と知識に内在する矛盾を解消するメカニズムを構築し,それに基づいて,コンサルタント機能の基礎となる説明推論を確立した。一般論理プログラムにおける理論を確立し,また,それを拡張論理プログラムで展開している。実際の応用例についても検討した。2.視覚化とヒューマンインタフェースに関する研究コンサルタント機能ヒューマンインタフェースとして,説明推論の過程を視覚化する技法を確立した。円の包含関係を用いて論理プログラムを表現する手法を提案し,同様の手法で推論の過程を表現する手法を提案した。3.分散環境でのコンサルタント機能に関する研究推論を分散環境で展開できる体系を確立した。また,分散環境において,説明推論の過程を視覚化する技法についても検討した。分散環境への応用として,自動並列化コンパイラにおいて自動並列化を支援するためのシステムを説明推論を用いて構築する例を提示した。また,分散環境における矛盾解消推論の応用例を検討した。
著者
荒木 元朗 渡部 昌実 定平 卓也 植木 英雄
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

我々は既にヒト細胞では「腎機能を担う腎小体・尿細管の再生につながる腎組織幹細胞」を樹立している。今回腎組織幹細胞における病的ストレス制御機構の解明を目指す。病的ストレスには腎移植・急性腎不全における腎虚血再還流障害を選択した。腎虚血再灌流モデルとしては8-12週の雄性C57BL/6マウスを麻酔下に開腹し、腎動静脈を一括クランプする。電灯・heatpadを用いてマウスの腹腔内温度を32℃に保ち、35分後に腎動静脈を開放(unclamp)する。一方「我々が独自に開発した2つの新技術:「逆行性幹細胞誘導法」および「組織特異的幹細胞分離法」に基づき誘導・分離したマウスの「腎組織幹細胞」を樹立し、「腎虚血再灌流モデル」において上記のヒトまたはマウスの「腎組織幹細胞」を用いて、腎組織幹細胞の腎虚血再灌流モデルにおける腎臓再生能力を解析する。昨年度に引き続きヒトの正常人由来の腎組織幹細胞と人工多能性幹(iPS)細胞との発現遺伝子比較解析を網羅的に行い、腎の病的ストレス状態時に腎組織内で関与する既知の分子群について解析を行った。引き続き腎組織幹細胞における病的ストレスの制御機構の候補シグナリングの解析を続けている。
著者
岡田 賢祐
出版者
岡山大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

本研究計画は闘争と記憶に焦点を当てたものであり、戦いの敗北を4日間記憶できるオオツノコクヌストモドキを使用して、以下の研究を展開した。最初に記憶時間がなぜ4日間維持されるのかシミュレーションし、敗北の記憶時間がどのように変化するか調査した。また敗北経験を覚えている間、オスはまったく戦わないが、代わりに射精形質への投資を増やす。従って、学習によって行動を調整できる。これら結果の一部は専門の国際誌に掲載されている。
著者
玉井 康之
出版者
岡山大学
雑誌
岡山大学経済学会雑誌 (ISSN:03863069)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.749-775, 2000-03

"The Rate of School Attendance" is different between in a rural area and in an urban area from 1880 to 1905 in Japan. And "the Rate SchoolAttendance in the urban area is reduced to decrease relatively, because poor students are piled in an urban city. We can understandreorganization of the community by observing changing rates of school attendance.
著者
吉田 靖弘
出版者
岡山大学
雑誌
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 地域事業 地域イノベーション創出総合支援事業 シーズ発掘試験
巻号頁・発行日
2007 (Released:2016-04-26)

高齢社会の到来に伴い,インプラント治療の需要は益々増加すると予想される。しかし現在のインプラント治療は,術後,数ヵ月の治癒期間を要することが指摘されており,今後の革新的な技術開発が切望されている。本研究では,組織再生能に優れたインプラントの開発を目指し,ポリリン酸処理したインプラントの機能と安全性について動物実験を中心に検討する。さらに,インプラント-生体界面を詳細に評価することにより,製品化に必要な知見を集積する。
著者
金関 猛
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フロイトが「精神分析」という術語をはじめて用いたのは40歳のときである。それまでフロイトは医学者としておもに神経学の研究に携わっていた。フロイトがウィーン大学生であったときに専攻したのも医学である。それまでの専門と精神分析とは隔たりがあるように見える。しかし、本研究においては、精神分析の基盤がすでにフロイトの学生時代に形成されていたことを明らかにした。ウィーン大学医学部における、徹底した実証主義研究が精神分析の根幹をなすのである。
著者
唐 健
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

水素はヘリウム以外に自然に存在する超流体の唯一の候補である。水素液体が超流動に相転移する温度は三重点より低いため、その相遷移の観測は非常に困難であり、水素超流動の実現はまだ成功していない。ヘリウムクラスターの赤外分光によってヘリウム超流動の研究と同じ手法で、気相の水素分子クラスターの赤外分光によって水素分子超流動を見出すことが期待される。本研究は従来の赤外ダイオードレーザー分光器を用いて一酸化二窒素(N_2O)と13個水素分子までのパラおよびオルト水素クラスターについて振動回転スペクトルの観測が成功した。パラ水素クラスター(para-H_2)_N-N_2Oの回転定数の解析結果では、水素分子数の増加で回転定数の大きさがN=13まで単調的に減少し続け、分子超流動が始まった形跡は認められなかった。観測されたN=15以上の(para-H_2)_N-N_2Oクラスターの振動回転スペクトルは突然不規則になり、分子超流動の始まりとも考えられる。より多くの水素分子クラスター種を研究するために、中赤外領域に広く発振できる連続波OPOレーザーを用い、超音速パルス分子線装置および非点収差多重反射セルと組み合せて、最初に変調型の赤外吸収分光器を製作した。2つの異なる周波数の変調を用い、吸収ありとなしの2つの信号の比によって、OPOレーザー出力の変動を抑えることができた。さらに、水素分子クラスターを検出できる感度を実現するために、最近活発に使われているキャビティリングダウン分光法装置を立ち上げた。この分光法の感度は光源の出力変動に依存しない特徴があり、OPOレーザー出力変動の問題を避ける最適切な方法だと考えられた。メタン分子の非常に弱い振動回転遷移を観測し、周波数を掃引しない場合は吸収係数が最小1×10^<-7>cm^<-1>まで検出できることがわかった。さらなる改良で感度を向上し、超音速分子線と組み合わせて水素分子クラスターのスペクトル観測への応用が期待される。
著者
馬 建鋒
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

1.ケイ酸の導管へのローディングは非常に速い過程で行われ、また一種のトランスポーターを介していることを明らかにした。^<29>Si-NMRを用いて導管液中のケイ酸の形態を同定したところ、単分子のケイ酸と同じケミカルシフトを与え,ケイ素が単分子のケイ酸の形態で輸送されていることを明らかにした。2.単離したケイ酸吸収欠損突然変異体(lsi1)を用いて、イネのケイ酸吸収に関与する遺伝子のポジショナルクローニングを行った。変異体とインド型イネ品種カサラスとの交配で得たF_2集団を用いて、SSRマーカーやCAPSマーカーで遺伝子型を調べた結果、原因遺伝子は2番染色体に座乗していることが明らかとなった。野生型と変異体の塩基配列を比較した結果、変異は一塩基置換に起因することがわかった。この遺伝子は3609bp塩基で、298個のアミノ酸からなっている。この遺伝子は主に根に構成的に発現していることがわかった。またケイ酸が十分ある条件と比べ、ケイ酸がない場合はLsi1の発現量が4倍増加した。Lsi1によってコードされたタンパク質の局在性を調べるために、Lsi1のプロモーター及びLsi1遺伝子とGFPを連結させたコンストラクトを作成し、組み換えイネを作出した。その結果、Lsi1タンパク質は主に主根と側根に存在し、根毛にないことを明らかにした。3.新たなケイ酸吸収欠損突然変異体の選抜を試みた。メチルニトロソウレアで変異処理した台中65のM_3種子を用いて、ケイ素の同属元素であるゲルマニウムに対する耐性を指標し、変異体の選抜を行った結果、ゲルマニウムに対して、強い耐性を示す変異体(lsi2)を得た。この変異体によるケイ酸吸収特性を野生型(WT,台中65)と比較して調べた。短期(12時間まで)及び長期(50日間)のケイ酸吸収実験では、変異体によるケイ酸の吸収は、WTよりはるかに低かったが、他の養分(KとP)の吸収においては差が認められなかった。この原因遺伝子をマッピングした結果、染色体3番に座乗していることを明らかにした。
著者
山本 宏子 徳丸 吉彦 鈴木 正崇 垣内 幸夫 細井 尚子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、日本および周辺アジア地域の太鼓文化を対象に、そのリズムパターンを収集し、それぞれの伝統的伝承システムである口唱歌(口太鼓)に基づく記録方法でデータバンクを構築することを通して、アジアの太鼓文化の相互関係を明らかにし、また、各地域の口唱歌システムを比較分析することによって、日本人のもつ音楽性を浮き彫りにすることを目的とするものである。さらにはアジアの伝統的太鼓文化の保存と発展に資する資料を提示し、理論的・方法論的に問題提起をすることをも、その目的としている。中国・ベトナム・インドネシア・インド・日本で調査をおこない、資料を収集した。1、実際のコンテクストの中でおこなわれた祭・儀礼・芸能を参与観察し、関係者の許可が得られたものは、写真やVTRで記録作成をおこなうことができた。2、芸能の芸態つまりテクストそのものの分析に資する資料として、上演を依頼し、舞踊劇や人形劇・舞踊などを収録した。3、太鼓をそれぞれの伝承者から習い、口唱歌と伝承方法についてのインタビューでデータを集積した。これらの調査から、口唱歌には、「インド系単音オノマトペ型」と「中国系重音オノマトペ型」の2つの化圏があることが分かってきた。また、単に太鼓の音を真似て歌う「単純口唱歌」と、それを体系化した「システム口唱歌」の2つのレベルの文化圏があることも分かってきた。両要素は必ずしも連動してなくて、それらの重なり具合は複雑な様相を呈している。さらに、それらを比較すると、「聞き做し」のオノマトペが、発展し体系化し、伝承システムとして構築されるには、太鼓というテクストだけではなく、太鼓を取り囲むさまざまなコンテクストが影響を及ぼしていることが明らかになった。