著者
中村 博昭 鳥居 猛 鈴木 武史 吉野 雄二 山田 裕史 松崎 克彦 廣川 真男 石川 佳弘
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

昨年度に基礎を確立した複素および1進の反復積分の関数等式の導出法(Wojtkowiak氏との共同研究)を延長して,具体的な実例計算をさらに検証した.とりわけ古典的な高次対数関数について知られている分布関係式(distribution relation)の1進版を導出することに成功した.分布関係式は,様々な特殊値を代入することで,高次対数関数の特殊値の間に成立する様々な関係式を組織的に生み出す重要なものであり,1進の場合にも並行してガロア群上の関数族(1-コチェイン)を統御する要となることが期待されるが,前年度までに得られた関数等式との整合性についても検証を行った.8月にケンブリッジのニュートン数理科学研究所で行われた研究集会"Anabelian Geometry"において口頭発表を行った.このときの講演に参加していたH.Gangl氏,P.Deligne氏から今後の研究指針を考える上で有用になると思われるコメントを頂戴することが出来た.また分布関係式の低次項の解消問題に関連して,有理的な道に沿った解析接続の概念にっいて考察を進める必要が生じた.こうしたテーマに関連して研究分担者の鳥居氏には,有理ホモトピー論に関する情報収集を担当していただき,また研究分担者の鈴木氏には,量子代数やKZ方程式との関連で組みひも群の数理についての情報収集を担当していただいた.以上の研究成果の一部は,共同研究者のWojtkowiak氏と協力して,"On distribution formula of complex and 1-adic polylogarithms"という仮題の草稿におおよその骨子をまとめたが,まだ完成に至っていない.周辺にやり残した問題(楕円ポリログ版など)もあり,これらについて一定の目処をつけてから公表までの工程を相談する予定になっている.
著者
小坂 丈予 平林 順一 吉田 稔 鎌田 政明 松尾 禎士 小沢 竹二郎
出版者
岡山大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

1.全国の火山地域における噴気ガスの化学成分測定とその変化:一 今年度は本邦における有珠, 十勝, 雌阿寒, 樽前, 北海道駒ヶ岳, 旭岳, 秋田駒ヶ岳, 秋田焼山, 鳴子(潟沼), 那須, 草津白根, 富士(河口湖), 木曽御岳, 伊豆大島, 雲仙岳, 霧島, 桜島, 開聞(うなぎ池)などの諸火山について, 噴気ガスの噴出温度, 化学成分, 噴出量や速度などを測定し, 特に火山活動の消長と噴気ガスの成分変化との関係を求められた.2.諸火山の噴気孔ガスの化学的研究から判明した2, 3の事実:- 今年度の調査結果から判明したことのうち2, 3の例について挙げると, 有珠火山に於いては, その化学組織と同位体組成の次時間変化から, その最高値より出口温度の最高値の方が約2年遅れて出現することが判った. また秋田焼山の叫沢の噴湯はその酸素・水素同位体比の測定などから山頂の噴気ガスと低温の地下水との混合後に与熱されて噴出した特殊な湧出過程であることや, また今回活動が活発化した雌阿寒岳ではフッ素/塩素比の明らかな増加が見られ逆に活動の沈静化が進んでいる大島ではこの値の低下が認められた.3.大気中に放出された火山ガスの滞留状況と災害についての調査研究:- 1986年5月に火山ガス中毒死亡事故の発生した秋田焼山叫沢に於いて, 大気中に滞留している火山ガス濃度の分布状況は, ガス発生地点の位置, 発生濃度, 温度, 地形, 気温, 風向等に密接に関係することを確かめ, 現在でもところにより250ppm以上の滞留濃度を示すことがあるのが確かめられた. 同じくガス中毒事故のあった草津白根山殺生河原や, その他桜島, 木素御岳などでも同様大気中に拡散した火山ガス濃度の経時変化を測定した.4.研究の問題点と今後の展望:- 火山ガス災害の発生源である火山噴気ガスの濃度・発生量等の予測と, 大気中への拡散後の地形・気象条件との関係についてより詳細な調査が必要である.
著者
藤吉 正哉
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

新規抗てんかん薬ラモトリギンは、グルクロン酸転移酵素UGT1A4によってグルクロン酸抱合を受け、ラモトリギン2-Nグルクロニドとして尿中に排泄される。本研究では、ラモトリギンのクリアランスは、ラモトリギンとラモトリギン2-Nグルクロニドの血中濃度比(UGT1A4活性マーカー)によって予測可能であることを明らかにした。妊娠の経過に伴い、UGT1A4の発現量は増加することから、UGT1A4活性マーカーを用いるクリアランス予測は、妊娠期間を考慮した投与設計基盤となることが期待できる。
著者
関 明穂 鈴木 久雄 中塚 幹也
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

性同一性障害の人の体力・運動能力測定を前年度に引き続き実施した。これまでに測定に協力していただいたのは20歳代のトランス女性で、全員がホルモン療法を受けていた。測定を行った人の体格、体力・運動能力測定の結果は、同年代の男性・女性の基準値がオーバーラップしている範囲内であったが、測定数が少ないため、さらに例数を増やして検討を行う必要がある。また、性同一性障害・トランスジェンダーの人がマラソン大会に参加することについてのアンケート調査を、大会の主催者を対象として実施した。449件(回収率47%)の回答のうち、時間計測を行っていて男女別の種目があるとの回答があった395大会について分析した。これまでに性同一性障害・トランスジェンダーの人が参加したことがあるとの回答が14大会(3.6%)からあった。もし、性同一性障害・トランスジェンダーの人から「男女どちらのカテゴリーで参加可能か」との問い合わせがあった場合、どう回答するかを聞いたところ、「本人の申告する性別で参加してもらう」が約4割で最も多く、次いで「その人の状況に応じて判断する」「戸籍上の性別で参加してもらう」の順であった。また、性同一性障害・トランスジェンダーの人がマラソン大会に参加する場合に問題が生じる可能性があることとして、約8割が「更衣室」を、約6割が「トイレ」「上位入賞時の扱い」「男女どちらのカテゴリーで参加するか」と回答していた。マラソンは順位を争う競技スポーツの側面と、多くの市民ランナーが参加する健康スポーツの側面とを有している。マラソン大会の主催者は健康スポーツの観点から多くの人に本人の希望に添った形で参加してもらいたいとの思いがある一方で、競技スポーツの観点から競技の公平性を保つために、どのような条件で性同一性障害・トランスジェンダーの人の参加を認めるのがよいのかが課題であると考えているものと思われた。
著者
濱村 貴史
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

アカシジアは、放置すると突発的な暴力や、自殺企図に至ることもあり、早急な対応が要求される抗精神病薬の重要な副作用として認識されてきている。本研究では、このアカシジアの脳内機序を解明し、アカシジアを惹起しない抗精神病薬のスクリーニング法を開発することを目的に以下の実験をおこなった。定型的抗精神病薬であるハロペリドール投与によって活性化する神経細胞を、臨床的にアカシジアに有効であるプロプラノロールがどの脳部位で抑制するか、Fos蛋白を指標にした脳機能マッピング法を用いて比較検討した。ハロペリドール(1mg/kg)投与により前頭前野皮質、線条体、側坐核、後肢知覚野、中隔、海馬、扁桃核などの広範な脳部位にFos蛋白が出現した。このうち、プロプラノロール(5mg/kg)前処理により前頭前野皮質、海馬、後肢知覚野においてFos蛋白発現が有意に抑制された。アカシジアは下肢のムズムズ感と精神運動不穏を主兆とするが、今回の結果から、後肢知覚野の神経細胞が活性化したことが、下肢のムズムズ感の直接原因として推定された。また精神運動不穏の原因部位として、前頭前野皮質の関与が示唆された。一方、錐体外路系の出力核である線条体においては、プロプラノロールはハロペリドールによるFos発現に影響を与えなかったが、これはプロプラノロールが抗パーキンソン作用を持たないことに一致している。今回の結果から、抗精神病薬のスクリーニングにおいて、抗肢知覚野にFos蛋白を誘導しない薬物を探索することにより、アカシジアを惹起しない抗精神病薬のスクリーニングが可能となる可能性が開けた。
著者
坂口 英
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究ではまずはじめに,後腸発酵動物(モルモット,デグー,オオミミマウス,マーラ,ヌートリア,ハムスター,ハタネズミ,ラット,ウサギ)のADF消化率と消化管内容物滞留時間との関係を検討した.その結果,繊維の消化能力は微生物発酵槽である大腸の内容物貯留能に支配されるが,それぞれの動物の消化管によって異なる貯留機能が備わっており,繊維消化能はその機能に応じて異なることが示された.また,ウサギの消化管機能は飼料の物理性,特に粒子サイズに大きく影響され,飼料繊維の消化率の変動は他の後腸発酵動物とは異なった要因によってもたらされることが明らかになった.次に,異なる大腸内容物貯留機能と繊維消化能力を備えた動物種間で,消化管内微生物活性にどのような違いがあるかを検討するために,同一飼料を与えたラット,モルモット,オオミミマウスの大腸内容物中の繊維分解菌数,有機酸組成,大腸内微生物の繊維分解活性等を調べた.繊維分解菌数は繊維消化能力の高いモルモットが必ずしも多くなく,短鎖脂肪酸組成,短鎖脂肪酸総量,セルロース分解活性にも動物種間差が認められ,これら3動物種の盲腸内セルロース分解菌の種類と性質に差異があることが示された.しかしながら繊維の消化能力とこれらの微生物に関わる測定結果との一定の関係はつかめなかった.以上のように本研究で調べた齧歯類間の繊維消化能力の違いは,動物の持つ盲腸内セルロース分解菌数と活性からだけでは説明することはできないことが示唆された.繊維分解の動物種間差は,セルロース分解菌群が存在する発酵槽(盲腸)へ流入する内容物(基質)の質的な違い,セルロース分解菌を効率よく保持できる消化管構造と機能の有無などによってもたらされるものと考えられる.
著者
高山 修
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、ヒト生殖細胞の操作トレーニング試料の開発、仮想治療データベース(DB)の構築ならびに顕微授精シュミレーターの開発に取り組み、それぞれ成果を得られた。ヒト生殖細胞の操作トレーニング用試料として、卵の代替物については、ブタ、マウス、ウサギ卵で検討したところ、ウサギ卵が直径や透明度、透明帯の厚さ、細胞膜の伸展性の点からヒト卵に近く、これらの特性を必要とする顕微授精のトレーニングに適していると考えられた。また、ガラスのピペット(毛細管)を用いた卵の培地間の移動や凍結操作などのトレーニングには、直径と透明度のみの特性でも十分トレーニングできることから、ヒト卵と同等の大きさで透明度も同等な細胞培養用の極小ビーズ(マイクロキャリアビーズ)が利用可能であることが分かった。ウシ精子は大きさと形状がヒト精子とほぼ類似しているものの、精子頭部が若干ヒト精子より大きいためヒト顕微授精用ピペット内には入らないことが判明した。このため、ウシ精子を使った顕微授精のトレーニングには、ヒト用より少し大きめのピペットを作成または購入する必要があると考えられる。射精直後に粘度が高いヒト精子を再現するため、ウシ凍結精子を鶏卵の卵白と混ぜたところ、再現度の高い擬似精液の作成に成功した。この粘度は、ヒト精液では時間経過とともに低下するが、作成した擬似精液もタンパク分解酵素であるブロメラインを添加することで、粘度の低下も再現可能であった。仮想治療DBについてはFileMaker Proを用いて、架空の患者情報(氏名、住所、生年月日、婚姻情報)と治療情報を作成し、それぞれを紐付けることで、基本的なデータベース構築の作成に成功した。また顕微授精シュミレーターはゲームエンジンであるUnityを利用してサンプル版を作成したところ、物理的な動きも再現可能であることが判明し、今後本ソフトを用いて開発することを決定した。
著者
横井 彩 山中 玲子 森田 学 山崎 裕 柏﨑 晴彦 秦 浩信 友藤 孝明 玉木 直文 江國 大輔 丸山 貴之 曽我 賢彦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

舌の上に白い苔のように付着している汚れ(舌苔)の面積と、口の中のアセトアルデヒド濃度について、健常者65人(男性51人、女性14人)で調査し、舌苔の付着面積が大きい人は、付着面積が小さい人に比べ、口の中のアセトアルデヒド濃度が高くなることを明らかにしました。その理由として、舌苔に含まれる細菌がアセトアルデヒドの産生に関与していると考えられ、舌苔を取り除く舌清掃を行うと、口の中のアセトアルデヒド濃度が減少することも確認しました。
著者
杉山 勝三
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1ヒスタチン類の唾液内性状: ヒト唾液中のヒスタチン5がヒスタチン3から生成することをin vitroで証明した。ヒスタチン3にα-キモトリプシンを作用させると20分以内にヒスタチン5を生成し、その後更に分解が進み、小さい断片に分解した。この断片化したペプチドは正常のヒト唾液中にも認められた。この知見は腺房細胞で生合成されたヒスタチン3から分泌の過程においてヒスタチン5が生成することを示すものである。2)ヒスタチンのリポタイコ酸に対する作用: グラム陽性菌の表層成分であるリポタイコ酸(LTA)の種々の生物活性に対してヒスタチン類が中和的に作用することを見い出した。この知見は唾液中のヒスタチンがグラム陽性菌に対しても防御的に作用していることを示唆するものである。3)唾液リゾチームの迅速精製法の開発: ヒスタチンの精製過程において唾液リゾチームを迅速に高収率で精製する方法を開発した。この方法はヘパリンカラムクロマトと高速液体クロマトによる2段階法によるもので、精製した唾液リゾチームの分子量は14,690であり、その比活性は卵白リゾチームに比べて約3倍強い活性を示した。4)ヒスタチンの細菌凝集能とリゾチームの増強作用: ヒスタチン類がグラム陰性および陽性細菌を凝集することを見い出し、この凝集が唾液リゾチームによって顕著に増強されることを発見した。これらの知見はヒスタチン類がリゾチームとの協働作用によって口腔内の細菌排除の機構に関与していることを示すものである。
著者
東 哲司 森田 学 友藤 孝明 遠藤 康正
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

酸化ストレスは老化に関与する。抗酸化物質である水素水は、老化による酸化ストレスの増加を抑制するかもしれない。我々は、老化ラットの歯周組織に対する水素水の効果を調べた。4ヵ月齢雄性ラットを水素水を与える実験群と蒸留水を与える対照群の2群に分けた。12ヵ月の実験期間終了後、実験群は対照群より歯周組織の酸化ストレスが低かった。IL-1β蛋白の発現に違いはみられなかったが、インフラソーム関連遺伝子は、対照群よりも実験群の方が、むしろ発現した。水素水の摂取は、健康なラットにおいては炎症性反応はなく、老化による歯周組織の酸化ストレスの抑制に影響があるのかもしれない。
著者
小野 芳朗 小野 芳朗 水藤 寛 毛利 紫乃
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

化学物質の影響は、子供が感受性が高い。その曝露シナリオのモニタリング指標として、子供の集積する小学校の桜の葉を選んだ。桜はほとんどの小学校に植えられている。岡山市内19の小学校に許可を得て、4月から11月までの間、桜葉を採取した。得られた葉を、ひとつはチトクロームP450誘導を知るEROD活性を測定した。これらの測定に係わり、葉中の繊維を溶かすなどのテクニックを導入した。EROD活性は概して道路近傍の小学校に多い傾向がみられたが、有意な差をみることは難しかった。そこで、多環芳香族炭化水素類(Poly Aromatic Hydrocarbon : PAH)を測定した。対象とした小学校は、岡山市内を横断する国道2号線(片側3車線)をはじめ、主な国道沿いの立地や、市南部の工場地帯の立地、山間部の立地など特性をもたせた。その結果、概して道路近傍の小学校の桜葉は、PAHに汚染されていることがわかった。また南部工場地域の小学校のPAHが最も高く、移動発生源である自動車よりも国連発生源である工場の影響が強いことが示唆された。また、PAHの由来をオイルと燃料由来に分けて検討した結果、燃料由来の比量が大きく、大気中の排ガス発生源のものを桜葉が吸収していたことが明らかになった。さらに、これら桜の葉との相関をとるために、桜木の下の土壌、当該小学校における大気をサンプラーによって収集かつ近傍道路において道路近傍の大気、じんあいを採取し、これらのPAHと桜葉中のPAHの相関を求めたが、明確な相関はでず、桜葉中のPAHは、これら複数の要因の複合により形成されていることが示唆された。
著者
出村 和彦 上村 直樹
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、古代末期北アフリカ、ヒッポのキリスト教司教アウグスティヌスの「貧困」理解を取り扱い、時代の転換期における「貧困」に関して、彼がいかなる洞察を有し、実践的に関与したかを、彼の初期作品、民衆に語った『説教』、『神の国』、および『詩篇講解』等の原典読解を通じて解明した。これによって、「貧困」についての「霊性化」という彼の思想の一貫した傾向を見出している。本研究は、オーストラリアや韓国の研究者との有益な交流を通して推進された。
著者
又吉 里美
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は大山方言の文法を記述することを目的とした大山方言の総合的研究である。主な成果は以下の3点である。(1)音韻体系および音韻変化の過程を考察し、大山方言における緩やかな口蓋化を指摘した。(2)はだか格を含めて16個の格形式を整理し、その機能を明らかにした。(3)動詞の形態について、動詞活用のタイプ、文末形式、連体形、テンス・アスペクトについて整理した。
著者
中東 靖恵
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は、中国人日本語学習者に対して撥音の読み上げ調査を行い、その結果を学習者音声の音声的バリエーションという観点から考察を行った。インフォーマントは、日本に在住の中国人日本語学習者31人(男12人、女19人)。出身地、民族名、年齢、来日歴、日本語学習歴など学習者の属性のほか、中国で受けた日本語の発音教育や、日本語の撥音を発音する際の意識についても尋ねた。調査は、以下に示すような撥音を含む258の単語と13の短文を用いて行った。(1)両唇鼻音:インパクト、乾杯、看板、コンビニ、あんまり、運命、さんま、専門…(2)歯茎鼻音:簡単、センター、半月、うんざり、金属、団地、本音、訓練、親類、コンロ…(3)硬口蓋鼻音:カンニング、こんにゃく、三人、にんにく、般若、本人…(4)軟口蓋鼻音:アンコール、単価、貧困、案外、音楽、言語、ジャングル、ハンガー…(5)口蓋垂鼻音あるいは鼻母音:安全、本、禁煙、恋愛、神話、男性、チャンス、噴水…調査の結果、学習者に見られる撥音の音声的バリエーションには、音環境ごとに一定の傾向が認められることが明らかになった。多くの場合、日本語母語話者と同様、後続する音の別により実現音声が決まるが、ゆれも見られ、その場合、撥音に先行する母音の別と、先行母音の調音位置が関係するという日本語母語話者にはない別の規則が働いている可能性が示唆された。本研究は、従来、誤用の観点からしかあまり議論されてこなかった日本語学習者の撥音の実現音声について、計量的観察に基づき、音声的バリエーションという観点から考察することにより、これまで漠然としていた学習者音声の実態を明らかにすることができた。今後、他の言語を母語とする学習者にも調査を行い、日本語学習者に共通する規則性が見いだせるかどうか、そしてそれがあるとすれば互いに共通性があるのかどうか、検討する必要がある。
著者
冨士田 亮子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

住宅の清掃は、住まいを美しく、清潔に暮らしていくために、必要なばかりでなく、居住者によって日常的に住宅内外の点検や小修理が行われることから、住宅の維持管理上も必要な基本的な作業である。近年、住宅の長寿化が目指されているものの、住宅そのものばかりでなく、住生活も大きく変化し、清掃は行われなくなっている。清掃をはじめとした住宅を維持管理するために、居住者がどの様な手法を用い、現在までどの様に受け継いでいるかを明らかにするため、明治以降に出版された月刊誌の掲載記事を採集し、また、伝統的住宅地における清掃をはじめとした住宅の維持管理の実態と意識を把握し、時代による変化、用具、考え方を明らかにする。あわせて、今後の住宅の維持管理に活かす方法、また、住文化的にも現代生活において引き継いでいったらよいと思われることを明らかにする。(1)月刊誌にみる清掃:対象とした月刊誌は『住宅』と『婦人之友』である。『住宅』では創刊号(1916年)から廃刊(1943年)までの28年間、また、『婦人の友』では、創刊号(1908年)から昭和期(1988)までの81年間である。清掃をはじめとした住宅の維持管理に関する記事を収集し、記述内容の分析を行った。採集した記事は『婦人の友』64件、『住宅』42件ある。その結果、『婦人之友』では、1)掃除の担当は、中流家庭の場合、女中から主婦へ移っていく様子が見える。2)住宅内の清掃場所は居住室で、掃除機が普及する以前ははたく→掃く→水拭きの順に毎日、朝食前に行われていた。住宅を美しく磨き上げることに主眼が置かれている。3)清掃は、時間や労力の管理を重視した視点で書かれ、日常生活を丁寧に営み、美しく清潔に住むことに主眼が置かれている。4)『住宅』は、労賃などの点から女中を雇用する代わりに、掃除機を用いたり、軽減するための合理的な方法を見いだそうとしている。(2)伝統的住宅における家庭清掃:調査対象地域と対象家庭は、重要伝統的建造物群保存地区である岐阜県美濃市、大阪府富田林市、岡山県高梁市吹屋および伝統的生活習慣を色濃く残している京都市中京区の1985から1987年に実施した調査家庭で、計14家庭である。その結果、1)日常の清掃は、日常用いる部屋を中心にして行われて、日常の清掃範囲は縮小の傾向である。用具は、掃除機ばかりでなく、使い慣れて軽い箒、はたき、雑巾が使い続けられている。京都の「かどはき」を除いて、朝食後に、10〜90分かけて行っている。夫婦が協力して行う家庭もみられる。2)家庭内の清掃は、しなければならないものとしており、業者を利用ることは考えられていない。3)調査対象住宅の内装、外装材は無垢材であるため、新築時以降の継続した清掃習慣が材の艶を出し、汚れを取りやすくし、丁寧に住みこなしている様子である。生活習慣の積み重ねの大切さを感じさせられる。
著者
舟橋 弘晃
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

ブタ精液中の膠様物の諸特性を解析評価した。膠様物は、強酸性および強アルカリ性で溶解できたが、中性周辺では比較的安定していた。また、子宮内に多く存在する多核白血球の膠様物への走化性はなく、また、極めて高い保水性が認められた。粉末膠様物を精液と混和することで、精子カプセルを作成することが出来、そのカプセル中で一定時間精子が生存でき、また徐々に精子が放出されることを確認できた。化学的な解析により、膠様物はo-グリカンを多く含むことが明らかとなり、糖鎖解析とペプチド解析から特異的な糖鎖とタンパク質を含むことが明らかとなった。これらの知見は、医療分野を含む広い領域で有効活用できる可能性を含む。
著者
木村 聰城郎
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

大腸粘膜のバリアー能について、透過し得る分子サイズの小腸粘膜との差を明らかにするため、水溶性化合物で分子量の異なるpolyethylene glycol(PEG)300,600及び1000を用いて、in situループ法によりラット小腸及び大腸からの吸収を検討した。用いたPEGはそれぞれ分子量300,600及び1000を中心に、重合度の異なる各種分子量のPEGの混合物である。その結果、小腸では分子量600付近まで吸収が認められるのに対して、大腸では分子量300以上では吸収は困難であった。これらのPEGについては細胞間隙を通るいわゆる経細胞側路が考えられるが、両部位での透過可能な分子量すなわち分子サイズの差は細胞間隙の大きさの違いに基づくものと思われる。この点については電気生理学的解析によっても裏付けられた。また、細胞間隙の帯電状態の違いも示唆されたが、細胞間隙に作用する吸収促進剤EDTAの作用はその帯電状態への影響も含むことが明らかとなった。一方、経細胞路の透過性は薬物の親油性に左右されるが、小腸と大腸では吸収の親油性との関係に違いが見られた。3種のアシルサリチル酸を用いて吸収実験を行った結果、小腸部の方が大腸部より極めて吸収がよく、大腸の中では結腸の方が直腸より吸収が良好であった。これは大腸よりも小腸、特に小腸上部では吸収表面積が大きいことが寄与していると考えられる。また、どの部位でもアシル鎖が長くなるに従って吸収が良好になっているが、小腸部では親油性が増しても、吸収が頭打ちになった。そこで、親油性の異なる2種類の薬物acetaminophen とindomethacinの吸収を評価したところ、高親油性薬物の場合には小腸と大腸で吸収速度に差がなくなることが分かった。これらの現象は粘膜表面近傍に存在する非攪拌水層の抵抗の部位差で説明することができた。
著者
石井 亜矢乃 和田 耕一郎 狩山 玲子 小比賀 美香子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

再発性尿路感染症に対する乳酸菌膣坐剤の有効性に関する臨床研究ならびに実験研究を実施した。臨床研究では、反復性膀胱炎患者に乳酸菌膣坐剤を投与し、投与前より有意に再発回数が減少した。次世代シーケンサーによる解析で、膣より乳酸菌(Lactobacillus crispatus)が確認できる症例もあった。実験研究では尿路バイオフィルム(緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌)に対する乳酸菌と各種抗菌薬の評価を行った。乳酸菌によるバイオフィルム形成抑制効果を認め、抗菌薬併用下で乳酸菌による抑制効果はさらに増強した。以上より、再発性尿路感染症に対して乳酸菌膣坐剤は有効な予防法・新規治療法に繋がることが示唆された。
著者
高浪 景子
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

1. 両生類ツメガエル知覚神経系におけるガストリン放出ペプチド(GRP)系の組織化学解析前年度行った遺伝子発現解析およびタンパク質発現解析の結果を受け、今年度は、中枢神経系におけるGRPの局在解析を行うため、成体ネッタイツメガエル(Silurana tropicalis)の脳および脊髄組織を用いて免疫組織化学解析を行った。その結果、脳-脊髄の広域にわたり、GRP免疫陽性を示す神経軸索が密に分布していた。さらに、延髄および脊髄において、GRP免疫陽性線維や細胞体が多数観察された。以上から、両生類ネッタイツメガエル知覚神経系においてもGRP系が発現していることが示唆された。2. 硬骨魚類メダカ知覚神経系におけるGRP遺伝子、アミノ酸配列の同定硬骨魚類メダカ(Oryzias latipes)のゲノム情報に基づいたバイオインフォマティックス解析によりGRP/GRP受容体のオ-ソログ遺伝子を単離した。得られたメダカGRP配列を既に報告されている他の脊椎動物におけるGRPホルモン前駆体の配列と多重配列アライメントを用いて解析した。その結果、今回同定したメダカのGRP配列もGRP受容体配列もこれまで報告された他の脊椎動物との高い相同性が示された。次に、GRPとGRP受容体の各臓器における発現分布をRT-PCRを用いて解析したところ、哺乳類と同様にメダカにおいてもGRPが中枢神経系と消化器系に発現し、GRP受容体は脳と脊髄で高発現することが明らかになった。また、ウエスタンブロット解析により、GRP受容体のタンパク質レベルでの発現を調べた結果、脳と脊髄において、メダカGRP受容体の予測される分子量に特異的なシグナルが確認された。以上から、メダカ脳・脊髄においてもGRP/GRP受容体ともに遺伝子およびタンパク質レベルで発現することを明らかにした。