著者
森田 学 山本 龍生 竹内 倫子
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

口腔関連の疾患と気象条件との関係を明らかにすることを目的とした。岡山大学病院予防歯科診療室の外来患者で、歯周病に起因する症状を急遽訴え、予約時間外で来院した患者(217名)を対象に、来院時の気象条件との関連を分析した。各月を3等分(上旬、中旬、及び下旬)したところ、その間に来院した患者数が、その期間中の平均気圧(r=0. 310、p<0. 05)、平均日照時間(r=0. 369、p<0. 05)と有意な相関を示した。以上のことから、気象条件と口腔の炎症性疾患との間には何らかの関係がある可能性が示唆された。
著者
平木 隆夫 木浦 勝行 郷原 英夫 金澤 右 豊岡 伸一 加藤 勝也 三村 秀文
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

肺アスペルギローマの症例に対してラジオ波焼灼療法を行った。治療に伴う有害事象はなく、安全に治療された。その後、CTによる経過観察を治療後26ヶ月まで行い、焼灼域は経時的に縮小傾向していった。また治療後16ヶ月には焼灼域の生検を行った。焼灼域はほとんどが線維性組織で、菌糸はごくわずかにみられるのみであった。よって、この研究によりラジオ波焼灼療法はアスペルギローマに対して安全かつ有効であることが示唆された。
著者
槇原 博史 四方 賢一 国富 三絵 土山 芳徳 四方 賢一 山地 浩明 林 佳子 槙野 博史
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

腎組織へのマクロファージの浸潤は、白血球表面に発現する細胞接着分子が糸球体と間質の小静脈の内皮細胞に発現するICAM-1やセレクチンなどの細胞接着分子と結合することによっておこる。本研究では、糸球体腎炎や糖尿病性腎症の腎組織における細胞接着分子発現のメカニズムを明らかにするとともに、これらの細胞接着分子の結合を阻害してマクロファージの浸潤を抑制する新しい腎疾患治療法(抗接着分子療法)の開発を目指した。本研究の結果、1)糸球体腎炎および糖尿病性腎症患者の腎組織にはICAM-1、E-セレクチン、P-セレクチンが糸球体と間質に発現し、マクロファージやリンパ球の浸潤を誘導していることを示した。2)糸球体過剰濾過により糸球体内皮細胞にICAM-1の発現が誘導され、マクロファージの浸潤を誘導することを示した。3)尿細管上皮細胞に存在するL-selectinのリガンドが尿細管障害にともなって間質の小静脈壁に移動し、マクロファージに発現するL-selectinと結合することによって間質へのマクロファージの浸潤を誘導するというユニークなメカニズムを明らかにした。さらに、このL-セレクチンのリガンドの一つがsulfatideであることを示した。4)L-およびP-セレクチンのリガンドであるsulfatideを投与することにより、腎間質への単核球浸潤と組織障害が抑制できることを示した。5)prostaglandin I2がICAM-1の発現を抑制することによってラットの半月体形成性腎炎に対する治療効果を示すことを示した。これらの結果より、ICAM-1やP-およびL-selectinが腎組織へのマクロファージとリンパ球の浸潤に重要な役割を果たしており、接着分子の結合を阻害することによって糸球体および間質への単核球の浸潤を抑制できることが明らかになるとともに、腎疾患に対する抗接着分子療法の臨床応用の可能性が示された。
著者
今津 勝紀
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本の古代では、旧暦の夏に必ず飢饉が発生していた。飢饉の発生により疫病も発生するのだが、本研究では、その被害の程度を推定した。具体的に取り上げたのは隠伎国で、貞観八年・九年(866~867)の疫病により、人口が三割から五割減少したと推定される。もっとも、これだけの被害が列島全体を覆うわけではなく、全体を見た場合には、変動の幅は小さくなるのだが、地域社会にとっては、大打撃であることは間違いない。古代社会は決して、牧歌的な農耕社会ではなく、厳しい生存条件のもとで流動性高い過酷な社会であった。
著者
橋本 英樹
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

申請者は鉄酸化細菌Gallionella ferrugineaが自然界で作るねじれ紐状酸化鉄を“G-バイオジナス酸化鉄(G-biogenous iron oxide: G-BIOX)”と命名し機能探索を行ったところ,リチウム(Li)イオン充放電特性を示すことを発見した.これまでの申請者の研究成果により,G-BIOXの組成・微細組織・結晶構造が明らかとなった.また,最近の予備研究によって,G-BIOXをLiイオン電池の正極材料として用いたところ,現行材料を遥かに凌駕する初期充放電容量が得られることを世界で初めて発見し,鉄酸化細菌由来酸化鉄の機能性材料への可能性を示した.本研究の目的は,予備研究結果を更に発展させて(1)G-BIOXの原子レベルでの構造を明らかにすると共に,(2)G-BIOXをLiイオン電池の電極材料(正極および負極)として応用することである.(1)G-BIOXの構造解析:申請者はG-BIOXと構造の良く似た酸化鉄(Leptothrix ochraceaが作ったBIOX,L-BIOX)の高エネルギーX線回折を行っている.本年度は,G-BIOXの構造を明らかにするための第一段階として,既に得られているL-BIOXのデータを元に逆モンテカルロ法を用いて原子配列を明らかにした.その結果,L-BIOXは酸化鉄のネットワーク中に酸化シリコンが孤立して存在する興味深い構造を有することを明らかとした.(2)G-BIOXをLiイオン電池の電極材料としての応用:平成24年度では正極としての特性を検討した.具体的にはG-BIOXを活物質として電極を作製し,Liを対極としたハーフセルで4.0–1.5 Vの電圧範囲で充放電特性を評価した.その結果,G-BIOX電極はこれまでに報告されている酸化鉄系材料よりも優れた特性(容量,サイクル特性,レート特性)を示すことを見出した.
著者
冨田 栄二 佐々木 浩一 赤松 史光 池田 裕二 河原 伸幸
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,二酸化炭素や有害排出物の排出の低減のために,従来とは異なる新たなプラズマ支援燃焼方式を提案している.すなわち,大気圧・室温状態から高温・高圧状態までの着火・燃焼と非平衡プラズマの関係を物理的・化学的に調べるとともに,スマート燃焼という新たな研究分野を創出するための基礎現象を解明して,熱機関への応用を試みた.ラジカル密度,燃焼に及ぼすマイクロ波プラズマの影響,非平衡プラズマを重畳させたレーザー着火過程におけるラジカル挙動と燃焼特性,含水エタノールの燃焼・化学反応への影響を調べ,火炎の時空間制御の可能性を見出した.その結果,マイクロ波による燃焼の新たな可能性を見出すことができた
著者
高田 浩司
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

昨年度から引き続き、各地から出土した弥生・古墳時代の銅鏃について、報告書などから形態・法量・年代等に関するデータの収集を行った。また、重要な資料については、各地の博物館や埋蔵文化財センターが保管する銅鏃を実見して、実測やデジタルカメラによる撮影などを行うなどして資料の調査・記録を行った。以上のデータをパソコンにデータベース化する作業を進め、ほぼ全国の資料について終えることができた。これらの基礎的なデータをもとに銅鏃の製作技術、地域性、生産・流通の検討を行った。従来の研究では、各地で製作されていた弥生時代の銅鏃が古墳時代にいたって畿内を中心とした政治的権力によって一元的に生産され、それが各地に配布されるようになったと指摘されてきた。しかし、製作技術や形態などを詳細に検討すると、古墳時代においても弥生時代と同様に、地域ごとにそれぞれ特徴をもっており、地域性がみられることが判明した。そして、古墳時代も畿内からの一元的な配布のみならず、弥生時代と同じように、列島の各地域でも生産が行われ続けていたことを明らかにすることができた。以上から、弥生時代を経て古墳時代にいたって形成された政治体制の特質は、重要物資の流通に関して、その一部を掌握しつつも弥生時代から続く各地域独自の生産・流通体制を温存しっつ、それをうまく自らの政治システムの中に組み込むことによって政治体制の維持を行っていたという結論にいたった。
著者
平田 仁胤
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、暗黙のうちに前提とされてきた「学習=個の作業」あるいは脳内にある表象を操作するといった図式を問い直し、学習のメカニズムに状況や他者が不可欠であることを指摘した状況的学習論を批判的に検討することによって、より具体的な学習論を提示することにある。これまで、ヴィゴツキー学派の1人であるユーリア・エンゲストロームの活動理論の検討、そして、それとウィトゲンシュタイン哲学との接続を試みてきた。その結果、異なる状況・文脈においても言語が通用するという原初的信頼の感覚に基づいて、新しい物語を紡ぎだすことで再組織化がなされること、教師の権力・権威概念がその過程において重要であることを明らかにした。平成30年度は、教師の権力・権威に基づく再組織化の過程について、ウィトゲンシュタイン哲学における世界像概念に依拠することによって、さらに精緻化することを試みた。英国ウィトゲンシュタイン学会では共同発表者の1人として”How to Alter Your Worldview: A Wittgensteinian Approach to Education”を発表し、また教育思想史学会のシンポジウム「教育学としてのウィトゲンシュタイン研究――現在の到達点と今後の展開――」では、報告者の1人として「どこからでもない眺め/どこにでもある風景――ウィトゲンシュタインと教育学についての覚書――」の報告を行った。これら2つの学会発表およびシンポジウム報告は現段階では論文化されていないものの、そこで得られた知見の一部を、坂越正樹監修、丸山恭司・山名淳編著『教育的関係の解釈学』(東信堂)の第12章「教育的関係の存立条件に対するルーマン・ウィトゲンシュタイン的アプローチ」として論文化した。
著者
松本 直子 桑原 牧子 工藤 雄一郎 佐藤 悦夫 石村 智 中園 聡 上野 祥史 松本 雄一
出版者
岡山大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

ヒトが生み出す物質文化には、身体機能の拡張を果たす技術と、感性や価値観にうったえてヒトの心を動かす芸術という二つの側面がある。本計画研究では、「アート」として包括されるその両面が身体を介して統合される様相に焦点を当て、日本列島、メソアメリカ、アンデス、オセアニアにおけるアートの生成と変容の特性を比較検討する。アート(技術・芸術)によるヒトの人工化/環境のヒト化という現象を、考古学的・人類学的・心理学的に分析することにより、社会固有のリアリティ(行動の基準となる主観的事実)が形成される歴史的プロセスを解明し、新たな人間観・文化観を提示することを目的とする。
著者
建部 泰尚
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究目的】小児難治性疾患である悪性腫瘍のうち白血病が最も多く、本研究対象の急性骨髄性白血病(AML)は約25%を占める。近年、染色体異常やそれに伴う遺伝子異常により予後を層別化して行う化学療法と造血幹細胞移植により予後は改善したが、一方で一部の再発・初発時治療抵抗例は予後不良であり、さらなる予後不良例の同定方法・代替治療の早期開発が望まれる。小児AMLでは、DNAプロモーター領域のメチル化によってがん抑制遺伝子の発現抑制されていることが報告されているが、その検討は十分ではない。そこで、本研究では小児AMLの予後不良群の同定するマーカーとして、また脱メチル化薬であるアザシチジンの奏効性を判断するコンパニオン診断マーカーとしてDNAメチル化が有用ではないのかと仮説をたて、その有用性について検討した。【研究方法】岡山大学病院小児科でAMLと診断された患児の初発期、寛解期、再発期それぞれから採取した骨髄よりQIAamp DNA mini kit(Qiagen社)を用いてDNAを抽出した。メチル化陽性コントロールとしてはHela細胞、陰性コントロールとしては健常小児DNAを用いた。25種類のがん抑制遺伝子中のメチル化を検出するMS-MLPA用プローブ(MRC-Holland社)を用いてPCRによって増幅後、シークエンサーにて検出を行った。さらに培養細胞とAML初代培養細胞を用いてMTSアッセイによってアザシチジンの抗腫瘍効果を検討し、リアルタイムPCRによって妥当性を検証した。【研究成果】小児AML患者21人の初発期検体よりCDKN2B, CADM1, TP73, CDH13, ESR1, APCのメチル化が検出された。一方で寛解期には全例メチル化は検出されなかった。21人中9人が再発していたが、再発期でメチル化が認められた遺伝子はCDKN2B, CADM1, ESR1, FHITであった。再発期に検出された4遺伝子のメチル化は治療抵抗性、あるいは再発に関与している可能性があり、予後不良マーカーとなる可能性が示唆された。これまでに我々はアザシチジンがAML細胞株に対して抗腫瘍活性を示し、DNA脱メチル化を引き起こすことを確認している。その再現性を確認した後、患者より得られるAML初代培養細胞で同様に得られるか評価しようと試みた。しかし、細胞の精製、腫瘍細胞数などの問題により系を確立するに至らなかった。
著者
坂口 英
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

胃や小腸での消化を免れる糖質(難消化性糖質)フラクトオリゴ糖やマンニトールの摂取は,ウサギの飼料タンパク質利用効率を改善させ,その効果は「難消化性糖質が盲腸内微生物増殖を促し,血中尿素の微生物態タンパク質への移行量を増大させる。増大した微生物を良質のタンパク質源としてウサギが摂取する」ことにより発現することを示した。これは生産効率改善ならびに窒素排泄低減をもたらす飼養技術として実用化できる。
著者
佐伯 清美 西堀 正洋
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

脳のモノアミン類の神経性取り込みに及ぼす抗ヒスタミン薬(H_1受容体拮抗薬)の影響を脳内モノアミン代謝脳変化を指標にして検討した。モノアミン類とその代謝産物は、脳ホモジネ-トの遠心上清を直接あるいは精製操作後に高速液体クロマトグラフィ-(HPLC)・電気化学検出法で分析することにより測定した。クロルフェニラミンは1mg/kg(i.p.)以上の用量で脳内5ーHIAA量を、5mg/kg以上でDOPAC量を減少させ、ジフェンヒドラミンは10mg/kg以上でDOPAC量を、20mg/kg以上で5ーHIAA量を減少させた。メピラミンは20mg/kg以上で5ーHIAA量減少させたがDOPAC量に影響しなかった。プロメタジンは20mg/kgでMHPG量を増加させた。メピラミン以外の薬物は10mg/kgでαーメチルーpーチロシンによるドパミン減少を抑制したが、ノルアドレナリン減少はプロメタジンにより逆に促進され、他の薬物では影響されなかった。パ-ジリンによる5ーHT蓄積はH_1拮抗薬により影響されなかった。以上の結果から、(1)ジフェンヒドラミン、クロルフェラミンおよびメピラミンは脳内ノルアドレナリン系に対してその伝達物質再取り込みにほとんど作用を示さない、(2)メピラミンはドパミン系に対してもほとんど作用を示さない、(3)ドパミンの神経性再取り込みはジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンによって阻害され、その代謝回転も抑制される、(4)ジフェンヒドラミンとクロルフェニラミン(特にクロルフェニラミン)ならびにメピラミンは5ーHTの再取り込みを阻害するがその代謝回転には影響しない、(5)プロメタジンはドパミンの代謝回転を抑制するがノルアドレナリンの代謝回転を促進すると結論した。
著者
中田 和義
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は,希少種を含む在来生物に対して深刻な悪影響を与えるとともに,巣穴を掘って水田漏水を引き起こすなどの農業被害をもたらしている外来種アメリカザリガニについて,効率的な管理・駆除手法を検討することである。アメリカザリガニは,環境省と農林水産省によって2015年に公表された「生態系被害防止外来種リスト」で,緊急対策外来種に選定されており,被害が生じている水域では早急な駆除対策が求められている。令和元年度の研究では,平成30年度の研究においてアメリカザリガニが掘る巣穴長が長くなると水田漏水が発生する可能性が高くなると考えられた結果をふまえて,本種が巣穴を掘削できる土壌硬度の限界値を明らかにすることを目的とした室内実験を行った。この実験では,ワグネルポットに水田土壌を満たして土壌硬度の異なる模擬耕盤層を作製し,アメリカザリガニが巣穴を掘削できるかを観察した。模擬耕盤層の土壌硬度については,1 mm刻みで4~9 mm(計6実験区)となるように調整した。本実験によって得られた主要な結果は以下のとおりである。1)アメリカザリガニは土壌硬度7 mm以下の模擬耕盤層には巣穴を掘削できた。2)土壌硬度4 mm以下では,アメリカザリガニは模擬耕盤層内に長い巣穴を掘り進めることができた。3)土壌硬度8 mm以上の模擬耕盤層では,アメリカザリガニは巣穴を掘削できなかった。以上の研究成果については,現場の水田管理においてアメリカザリガニの巣穴による水田漏水対策を検討するうえで有用な知見になると考えられる。
著者
植竹 智 山崎 高幸 下村 浩一郎 吉田 光宏 吉村 太彦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

本研究は,レプトンのみからなる水素様純レプトン原子:ミューオニウム (以下Mu)の精密分光により,電弱統一理論の精密検証および新物理探索を行うことを目標とする.具体的には,(1) Muの1S-2S間遷移周波数の精密二光子レーザー分光;(2) 基底状態超微細分裂の精密マイクロ波分光;(3) 荷電束縛系のエネルギー準位に電弱効果が及ぼす影響を摂動2次の項まで取り入れた高精度理論計算;の3つを行う.実験精度を先行研究より大幅に向上させ,基礎物理定数であるミュー粒子質量の決定精度を大きく向上させると共に,理論と実験の比較を通じて電弱統一理論の精密検証と新物理探索を目指す.
著者
辻 修平
出版者
岡山大学
巻号頁・発行日
1998

宇宙空間から地球に入射する放射線のことを宇宙線と呼ぶ。この宇宙線は,地球に入射する1次宇宙線とそれが大気圏内の原子核と相互作用して生み出された2次宇宙線との2つに大別される。1次宇宙線は約90%が陽子,9%がα線である。これら1次宇宙線が大気に入射すると大気中の陽子,あるいは中性子と強い相互作用を起し主に多数のπ(パイ)中間子が発生する。そのうち中性のπ(0)は2つのγ線に崩壊し,さらにこのγ線は対生成を起しe(-)(電子)とe(+)(陽電子)を生成する。また電荷を帯びたπ(+),π(-)中間子は,μ粒子(ミューオン)とυμ(ミューオン・ニュートリノ)に崩壊する。μ粒子はレプトンなので大気の核子と強い相互作用はしない。また,μ粒子はe(電子または陽電子)とυe(エレクトロン・ニュートリノ)とυμに崩壊するがπ中間子に比べ寿命が長いため,地表に到達する2次宇宙線の約70%がμ粒子である。1950年代から1980年代にかけてμ粒子の強度,および電荷比の理論的,実験的研究がなされてきた。これによりμ粒子の生成に関与したπ中間子やK中間子の割合を求めることができる。さらに,これから1次宇宙線のエネルギースペクトルや1次宇宙線が大気と相互作用するプロセスを導き出すことができる。また天体宇宙物理学的見地からは,地表にどの程度μ粒子が降り注いでいるかを知っておくことは必要である。最近では,ニュートリノ・フラックスの理論的計算を確かめるためにμ粒子のエネルギースペクトル及び電荷比がきわめて重要な指標となっている。というのは,最近のニュートリノ地下実験の報告によると,地下実験のニュートリノの観測値とニュートリノフラックスの理論計算に大きなずれが生じているためである。この意味においても十分な精度のミューオン強度の地上観測結果が要求される。理論的には全天頂角方向から到来するμ粒子のエネルギースペクトルが計算されているにも関わらず,実験では主に鉛直近辺と大天頂角近辺(75°~90°)しか報告されていない。これは,巨大なμ粒子観測装置を垂直か水平に設置することは比較的容易であるが,いろいろな方向に向けることは難しいからである。これに対して,任意の方向からのμ粒子を観測できる宇宙線検出器「岡山粒子望遠鏡」の設計,建設,観測を行なった。「岡山粒子望遠鏡j は,サーボ・モータ・システムIこよる経緯儀になっており,コンピュータ制御により任意の方位角,天頂角に検出器を向けることができる。この機能は大気μ粒子の全方位測定に対して非常に有用である。さらに入射荷電粒子の電荷符号の判別,運動量の測定が可能である。本論文では,この「岡山粒子望遠鏡」を用いて天頂角毎の測定と方位角毎の測定を行い,大気μ粒子の全方位測定結果を示した。天頂角0°から81°までから到来するμ粒子を観測し,観測期間1992年から1996年,及び運動量領域1.5GeV/cから250GeV/cのデータを天頂角別に解析し,μ粒子の強度分布,電荷比(charge ratio)を運動量の関数として求めた。天頂角0°から81°まで2°刻み連続的なμ粒子強度分布はこれまで未測定であったが,本論文に示すように中間角度領域ではμ粒子強度に特異性がないことを示した。これによって,これまでに測定された狭い天頂角領域での実験や理論計算の結果を検討することが可能になり,本論文とのよい一致を見た。この一致は,理論の前提が示す全天頂角領域に対し,運動量領域1.5GeV/cから250GeV/cの範囲で,ミューオンがほとんどπ中間子からの崩壊の寄与に依存していること,K中間子の寄与は無視してよいことの恨拠を与えた。このことは1次宇宙線と空気核衝突においてK中間子が関与するような特異な反応は生じていないことを示すとともに,大気ニュートリノ・フラックスを推定する際にπ→ μυμのプロセスのみを扱えばよいことも示している。方位角毎のμ粒子測定に関しては,天頂角5°,20°,40°に対し8方位角方向を観測し,観測期間1997年から1998年までのデータを解析用に採用した。運動量領域に関して2.5GeV/cから3.5GeV/c(低運動量領域),3.5GeV/cから100GeV/c(高運動量領域)までの2領域に分け,電荷別,方位角方向別にこれらのデータを解析した。この結果,低運動量領域において,特定の方位角領域でμ粒子強度が減少した。これは,地磁気の影響のために,特定の方位角方向からのμ粒子の通過距離が延び,μ粒子が電子及び2種のニュートリノに崩壊するためである。大気ニュートリノは,μ粒子の生成(A:μ粒子強度の天頂角依存性),崩壊過程(B:電荷別μ粒子強度の方位角依存性)に1対1に対応するので, μ粒子のフラックスを求めることは,大気ニュートリノ・フラックスを求めることに対応する。このととを確証するために,本論文での解析A,Bからニュートリノエネルギーにして1GeVの,大気電子ニュートリノ,大気反電子ニュートリノ・フラックスを求め,相対変化の割合が数%であることを得た。さらに,海面位で,天頂角5°,1GeVの各々の大気ニュートリノ・フラックス比を求め,電子・反電子ニュートリノ,ミューオン・反ミューオンニュートリノ,ミューオン・電子ニュートリノ比それぞれ,1.23,1.02,2.26を得た。これらの比は,理論的に予想されるもの(それぞれ,1.24,1.04,2.48)に近い値であり,岡山粒子望遠鏡で大気二ユートリノ・フラックスを求めることができることを示した。
著者
中塚 幹也 関 明穂 新井 富士美
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

教員を対象として,性同一性障害に関する授業を行うことへの意識,必要な教材などについてのインタビュー調査,質問紙調査を実施した.この調査結果は,公開シンポジウム,教育関連,小児科医,精神神経科医,産婦人科医などの学会にて発表した. 全国の教員に対するアンケート調査結果や性同一性障害に関する専門家や性同一性障害当事者からの助言なども参考とし,教員が効果的に生徒に性同一性障害に関する情報を提供するための資料,また,より深く議論ができるようなワークを作り,テキスト,DVDを制作した.