著者
赤木 泰文 数乗 有 藤田 英明 小笠原 悟司
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

平成6年3月,名古屋市科学館と近くの高層ビルの地下電気室で相次いで発生したリアクトルの爆発事故は,「6.6kV配電系統から流入した高調波電流が原因」との調査結果が報告されている。このような高調波障害は,電力用半導体素子を使用したパワーエレクトロニクス機器の増加に伴って発生件数も年々増加し,現代社会の新たな"公害"として早期対応が迫られている。資源エネルギー庁は,平成6年9月30日付けで「高調波抑制ガイドライン」を電力・家電業界に通達し,高調波障害の解決に向けて大きく前進した。欧米においてもIEC555-1000(欧州)やIEEE519-1992(米国)などの高調波規制が施行されている。交流モータの可変速ドライブシステムや無停電電源(UPS)は,AC/DC電力変換器を必要とする。しかし,電源高調波規制に対応した従来の大容量AC/DC電力変換システムでは,1)スイッチング損失が増加する,2)高調波対策機器の価格が高い,3)良好な高調波抑制効果が得られない,などの問題点がある。本研究は,電源高調波規制に対応した大容量・高効率AC/DC電力変換システムの開発を目的とし,三相ダイオード整流回路と直列形アクティブフィルタを一体化した主回路構成と制御法に特長がある。本研究の成果は,以下のように要約することができる。1.直列形アクティブフィルタの制御法を開発し,その有効性をディジタルシミュレーションにより確認した。特に,制御系の遅延がアクティブフィルタの安定性に及ぼす影響について検討し,遅延の影響の少ない新しい制御法を提案した。2.直列形アクティブフィルタ(2kVA)を設計・製作し,ダイオード整流回路(20kVA)と一体化して,新しい制御法の有効性と高調波抑制効果を実験により確認した。3.スイッチングリプルを抑制するフィルタを設計・製作し,その有効性を実験によって確認した。2000年6月に,これらの研究成果をまとめた論文をIEEE/PESCで発表する予定である。
著者
植村 玄輝 吉川 孝 八重樫 徹 竹島 あゆみ 鈴木 崇志
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、現象学の創始者エトムント・フッサール(Edmund Husserl)が1922年から1923年にかけて日本の雑誌『改造』に寄稿した5編の論文(うち2編は当時未刊)、通称「『改造』論文」について、フッサールの思想の発展・同時代の現象学的な社会哲学の系譜・より広範な社会哲学史の系譜という三つの文脈に位置づけ、現象学的な社会哲学の可能性についてひとつの見通しを与えることを目指すものである。
著者
米谷 俊彦 田中丸 重美 菅谷 博 柴田 昇平
出版者
岡山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

温暖化対策のためには、気候資源を利用した省エネを目指した技術開発を行い、特色ある産地作りなどの地域の多様な農業戦略の確立が急がれている。本研究では、中山間地域の傾斜地の地形と自然のエネルギー(地温)を生かした夏季の施設内冷却システムを開発し、善通寺市生野地区の大麻山の傾斜角度約20度の斜面において、長さ5m、内径60cmの土木排水管用外圧管を連結して、2m以下の地中に約70mに亘って埋設した。埋設したパイプが人工の風穴となり、夏季には、地中で冷却された空気を、傾斜地下部に設置した傾斜ハウスに送り込んで、施設内を換気冷却する。また、ハウス内部で暖められた空気は、ハウスの最上部に設置した煙突部から排出する。このシステムは、傾斜地の地下の地温で冷却された冷気と地上部の暖気の密度差をポンプの駆動力にした冷却システム(夏季に風穴からの冷気の吹き出しと類似)である。初期のパイプ埋設経費のみで、冷房機の運転に要するコストが不要なため、省エネシステムとして有望と考えられる。特にハウス内の気温が高温になる日中の午後に流量が大きくなって冷却効果が高まり、気温が低くなる夜間には流量が減少する特性を有している。工事が遅れたため、本研究期間には、暖候期の10月中旬と3月下旬のデータが僅かに得られただけであるが、晴れた日中に冷気がハウスに流入し、10℃程度冷却する事が確かめられている。一方、冬季には、気流の向きが逆転し、傾斜地上部から暖気が吹き出すことが確かめられており、上部にハウスなどを設置すれば、暖気を暖房用としても利用できることが証明されている。2006年7月に「傾斜地利用型環境調節システム」を特許出願し、2007年3月に岡山県内の2企業と技術移転の契約を行った。今後は、ハウス内の配管法などを工夫しながら、種々のデータを蓄積して、傾斜地利用型環境調節システムの開発、改良を進める予定である。
著者
國定 俊之 尾崎 敏文 藤原 智洋
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

テロメラーゼ活性依存性に癌細胞内で増殖して細胞死を誘導する腫瘍選択的融解ウイルスを利用した治療は、単独で投与するよりも、放射線治療や化学療法と併用することで、より強力な抗腫瘍効果を認めた。さらに、相乗効果も確認でき、肉腫に対する新規療法となる可能性が示された。そこで、これらのウイルス治療を利用した実際の臨床応用では、単独投与ではなく、放射線治療との併用療法を考えていく。臨床応用へ向けた基礎研究は、ほぼ予定どおり行うことができた。肉腫患者へのウイルス治療の臨床試験が食道癌ですでに開始されており、今後は肉腫で早期臨床応用を開始できるように、プロトコールを作成していく。
著者
高橋 栄造
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アエロモナスが産生する菌体外メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼの性状解析を行った。メタロプロテアーゼは中間体として菌体外に放出されたのち、成熟体へと移行する。その中間体の性状解析のため、大腸菌でメタロプロテアーゼを発現させたが、中間体は検出されなかった。また、セリンプロテアーゼは37℃より25℃の方が産生量が多く、またその産生は培地中に添加したスキムミルクで増強されることがわかった。
著者
山田 剛史 村井 潤一郎 杉澤 武俊 寺尾 敦
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,心理統計担当教員間で共有できるテスト問題の項目データベースの開発を行うことであった。具体的な成果は,(1)これまでの研究成果(基盤研究(C)課題番号:17530478)を発展させ改良を加えた,心理統計テスト項目データベースの開発,(2)データベースのユーザビリティについて,全国の心理統計の講義を担当する大学教員を対象にした試験的運用,基礎データの収集を計画した,といったことをあげることができる。
著者
神谷 厚範
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

本研究は、従来の神経計測法(体外培養下や臓器外における記録等)では決して分かり得ない、臓器組織の内部における神経線維終末の動態(生体情報の感知, 細胞機能の調節)という未開の領域を、独自の先端的神経計測技術(生動物2光子末梢神経イメージング, MEMS神経マイクロマシン)によってリアルタイムに計測し解明することを目指す。がん組織や胸腹部臓器に分布する末梢神経を対象として、実施する。
著者
神谷 厚範 吉川 宗一郎 檜山 武史
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

自律神経系は、健康時には、生体情報の変化に応じて全身の臓器を個別に調節する役割を担い、生体恒常性や生命の維持機構の要のひとつである。ところが、自律神経系は、病態ではむしろ不合理に働き、病勢を加速するなど、難病の病態に深く関わる。本研究では、乳がんと高血圧を対象とし、制御工学や遺伝子工学等で自律神経系に介入して神経機能を制御して疾患を治療する、システム自律神経制御医療を試作することを、目的とする。
著者
谷 明生 中川 智行 三井 亮司 NURETTIN Sahin
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

植物に多く共生するMethylobacterium属細菌の系統分類に関しては四株について新種提唱を行った。生育促進に関わる植物ホルモンについて分析し、サイトカイニンが最も重要であることを示唆する結果を得た。メタノール脱水素酵素(MDH)の補酵素が気孔を開く活性を持っており、その作用機構として活性酸素の除去にあることを見いだしている。MDHのホモログの中に希土類元素を要求するものを見いだし、機能解析を行った。イネをモデルとして本属細菌の種レベルでの同定を行い、イネの種子に含まれる本属細菌の種は、イネの遺伝型よりも栽培条件に影響されていることを示唆する結果を得た。
著者
藤原 俊義 黒田 新士 吉田 龍一 田澤 大
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では、テロメラーゼ依存性アデノウイルスOBP-301(Telomelysin)に多機能がん抑制遺伝子であるp53を搭載した次世代型武装化ウイルス製剤 OBP-702(Pfifteloxin)の膵癌間質細胞による免疫抑制機構への効果を検証し、臨床試験用ロットの大量製造が進む本製剤の難治性膵癌を対象とした実用化を目指す。特に、がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast; CAF)の免疫抑制分子であるTGF-β発現調節や免疫活性化に繋がるPTENがん抑制遺伝子の膵癌細胞での発現調節に着目してin vitroおよびin vivoでの解析を進める。
著者
山崎 大輔 辻野 典秀 芳野 極 米田 明
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、深さ~1000 kmの粘性率異常の原因を解明することである。最近のジオイド研究から、下部マントルの深さ1000km付近で粘性率が1-2桁増加することが指摘されている。一方で、地震学的研究において、沈み込んで行くスラブの滞留が、660 kmの下部マントル境界のみならずおおくの場合で1000 kmにあることが見て取れる。すなわち、1000 kmにおける粘性率増加が、マントル対流へ与える影響は660 km不連続面と同程度かそれ以上であること示している。従って、全マントルの運動を理解する上で、この1000 kmの粘性増加が何に起因しているのかを物質学的に明らかにすることは非常に重要な課題である。下部マントルは主にブリッジマナイトとフェロペリクレースの2相混合岩石で構成されている。この2相では粘性率が数桁のオーダーで異なっており、複合岩石としての微細構造やそれぞれの相の量比が全岩の粘性率に影響を与える。すなわち、逆に、観測されている粘性率を与える量比を実験的に明らかにすれば、現在でも問題となっている下部マントルの組成(パイロライト的かコンドライト的か)については、新たな制約を与えることができる。そのため、下部マントル条件を実験的に再現し、ブリッジマナイトとフェロペリクレースの2相混合岩石の粘性率に関する実験を行ってきている。特に、30年度は、2相混合岩石に大変形剪断歪みを与える実験の技術的開発を行い、100%以上の実験に成功した。また、開発した手法を放射光その場観察実験に応用し、変形場での応力その場測定を実施した。
著者
佐川 英治
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

北魏の正史『魏書』は孝文帝の時代を北魏史の頂点とする歴史観で書かれている。しかし、本研究ではこの歴史像がある目的をもった一面的な歴史像であることを明らかにしてきた。本年度はこれを受けて北魏の建国から洛陽遷都までの百年間をその都であった平城に焦点を当て見直す研究をおこなった。すなわち、平城の北には、平城の規模をはるかに上回る広大な禁苑「鹿苑」が広がっていた。実はこの鹿苑は広大な放牧地であって、そこには無数の牛羊馬が放牧され、毎年春に陰山方面へ放牧に出かけ、秋に返る習慣があった。皇帝もしばしばこのルートにしたがって行幸し、春と秋には遊牧の祭祀をおこなった。当時、陰山は自然が豊かで多くの動物が暮らす場所であった。北魏は征服戦争で得た人民を平城周辺に移住させ、彼らに土地と耕牛を給する「計口受田」といわれる方法で国力を充実させていくが、それを可能としたのは陰山から毎年大量に供給される豊かな動物資源であった。ここに平城の地政学上の利点とそれまでの五胡十六国が持ち得なかった北魏の国力の源泉がある。しかし、やがて動物は減少し、皇帝は行幸や狩りをしなくなり、平城周辺では牛不足が深刻となる。これにしたがって鹿苑も放牧地から宴遊をおこなう中国的な禁苑へと姿を変えていった。『水経注』には孝文帝の時代、陰山から樹木が消えていたことが記されており、過放牧や森林の伐採がその原因と考えられる。この結果、孝文帝は平城を放棄し洛陽へ遷都するとともに、漢化政策をおこなって新しい権力基盤を求めざるを得なくなった。本研究では以上のことを明らかにすることで、孝文帝の漢化政策や洛陽遷都を北魏の発展の上に位置づける従来の見方に対して、環境の危機の上に位置づける新しい歴史像を提起した。また、洛陽遷都後の北魏史については造像銘を用いた研究の可能性に注目し、その成果を書評の形で示した。
著者
野田 隆三郎 洞 彰人 神保 秀一 池畑 秀一 石川 洋文
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1 タイトt-デザインの分類については ウイルソン多項式の根の整数条件が有力な手がかりであるが これの処理方法においてかなりの進展が得られた。今後はこれ以外に入の整数性をうまく結びつけて 最終的な解決をはかりたいと考えている。2 擬対称4-デザインはタイト4-デザインに他ならず すでに分類が完成している。条件を擬対称3-デザインに弱めても 同じ手法がかなりの程度まで使えることが分かった。デザインの諸パラメーターの整数性および付隨する強正則グラフの結合行列の固有値の整数性が 強い制約を与えており これらをうまく処理して分類を完成させる 見通しができた。3 スタイナーシステムS(t,k,v)において よく知られているキャメロンの不等式 V≧(b+1)(k-t+1) および私の証明した不等式 V≧(b+1)(k-t+1)+(k-t)の改良として次の結果を得た。 定理 tが奇数で V>(t+1)(k-t+1)とすると V≧(t+2)(k-t+1) が成りたつ.さらに等号が成りたつのは(t,k,v)=(t,b+1,2t+4)のときに限る.この結果は近く論文にまとめる予定である.4 等周問題については3次元におけるミンコフスキーの不等式 M^2≧4πA,およびA^2≧3VMの改良がいま一歩のところまで進展した。これは有名なブルン・ミンコフスキーの不等式の改良とも結びついているので完成すれば大変面白い結果であると考ている。近いうちに是非完成したい。また逆向きの等周不等式については 2次元におけるゲージの証明はそのまま3次元以上に適用することはできないがボンネゼンの定理をうまく使う事によって解決への重要な手がかりが得られた。
著者
野田 隆三郎 池畑 秀一 石川 洋文 梶原 毅 脇本 和昌 堤 陽
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1 tight3とtight5-orthogonal array(つまり Raoのboundを達成する直交配列)の分類を完成した。(別掲論文)。その他のtight orthogonal arrayの分類の研究は現在進行中である。2 Steiner system(つまりt-(v,k,l)デザイン)に関する次の新しい不等式が得られた(論文準備中)。これはP.J.Cameronが与えた不等式の改良になっている。tが隅数の時 v≧(t+1)(k-t+1)+(k-t)がなりたつさらに等号がなりたつのは 4-(23,7,1)がt-(2t+3,t+1,1)に限る。また tが奇数で v>(t+1)(k-t+1)とあると v≧(t+2)(k-t+1)がなりたつ3 orthogonal arrayに関する不等式も得られたが、更なる改良を、現在考慮中である。
著者
野坂 俊夫
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

南西インド洋海嶺のアトランティス・バンクにおいてIODP 第360次航海で掘削されたHole U1473Aから採取された斑れい岩類と,高知コア研究センターに保管してあったODP Hole 735Bのコア試料の一部について,研究期間内に計画していた分析のほとんどを完了した。今年度は補足的な顕微鏡観察,電子線マイクロアナライザー分析,レーザーラマン分光分析,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析を行った。特に電子線マイクロアナライザー分析とレーザーラマン分光分析の結果から,黒雲母と緑泥石混合層の存在を確定することができ,この混合層が広範囲にわたって生じていることが明らかになった。さらにコンピューターによる熱力学的解析を行い,黒雲母と緑泥石,および両者の混合層の生成条件を求めた結果,それらの鉱物はほぼ同程度の温度条件(700℃前後)で,シリカとカリウムの濃度の異なる流体が関与する変質作用によって生じたことが推定された。黒雲母とそれを含む混合層の形成は剪断帯や割れ目に沿って浸透した珪長質含水メルトと関連しており,そのようなメルトの浸透は超低速拡大海嶺周辺の海洋下部地殻に特徴的な現象である可能性が高い。以上の研究成果は,海洋下部地殻における水と岩石の相互作用を理解するうえで重要な新知見を提供するものである。この成果は日本鉱物科学会で発表し,論文にまとめて国際学術誌に投稿した。また現世の海洋リソスフェアと比較するために,過去の海洋リソスフェアであるオフィオライトの低温変質作用,特に蛇紋岩化作用についても並行して研究を進めてきた。その結果,蛇紋岩化作用に伴ってかんらん石の鉄とマンガンの含有量が系統的に変化すること,およびモンチセリかんらん石を生じる場合があることを明らかにした。これらも海洋底構成岩の変質作用に関わる重要な新知見であり,国内学会と国際学術誌上で発表した。