著者
鐸木 道剛
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本の大主教ニコライ・カサートキン(1836-1912)が育てた日本人イコン画家山下りん(1857-1939)の先駆者のような形で、アレウト・カムチャツカ・クリルの主教インノケンティ(1797-1879)が育てたワシリー・クリューコフ(c. 1805-c. 1880)というアレウト人画家がいる。今回の調査によって、クリューコフとその周辺のアラスカのイコン画家たちはロシアから将来された原画を忠実に模写したことが明らかになった。これは山下りんのイコン制作態度と同じであり、ニコライはイコン制作に関しても先輩のアジアへの正教会伝道師インノケンティのイコン観を受け継いだと考えられる。8世紀ビザンティンに由来する表象観念が、アラスカと日本に同様に伝えられたことになる。
著者
井上 剛 森山 芳則
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

有効な治療薬が無い難治性てんかんに対して、ケトン食療法が有効であることが知られている。そこで本研究では、ケトン食による代謝変化(ケトン体の上昇、グルコースの減少)に着目し、その作用機序の解明と抗てんかん剤の同定を行った。ケトン体の化学構造を改変する事で、興奮性シナプス伝達を抑え、抗てんかん作用も示す化合物を見出した。さらに、ケトン食による神経抑制・抗てんかん作用の新規メカニズムも見出し、それに基づく抗てんかん剤も見出した。
著者
堤 良一 岡崎 友子 藤本 真理子 長谷川 哲子 松丸 真大
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、現代日本語の指示詞の現場指示の方言差を明らかにするとともに、各方言が採用する空間認知の分割方法と、それと連関するような文法現象を見極めることで、日本語の指示詞の現場指示の使用のされ方と、その他の言語現象との関わりを探ろうとするものである。今年度は、次年度以降に実施予定である本格的な実験に向けて、実験のデザインを行った。そして、そのデザインの妥当性を検討するために徳山大学(山口)、尾道市立大学(広島)、愛媛大学(愛媛)の3大学で実験を行った。収集したデータは方言帯ごとにグルーピングし、それぞれの差を見ることとなる。具体的な傾向としては、研究代表者と研究分担者(岡﨑友子氏)が、岡山方言について言及したことがあるように、話し手と聞き手との間程度の距離の対象についてアノで指示する話者が一定数存在し、それは瀬戸内海沿岸の地域の出身者に多いような傾向が見て取れる。しかしこれは今後継続的な実験を続け、データの数をある程度取らなければ断定的なことは言えないというような状況である。実際に実験を行いながら、実験の妥当性、公平性他、様々な点で問題点が見つかったが、その都度微調整を行いながらデータ収集を行った。現段階では、次年度に向けて均等な環境での実験が遂行できる準備が整いつつあると考えている。収集したデータについて、統計的な処理を施すことができるかどうかについて、平成30年3月24日(土)、東洋大学岡﨑友子(共同研究者)研究室にて、検討会を行った。統計学の専門家である小林雄一郎氏から有益なコメントをもらい、データベースの作り方等を今後さらにつめていく必要があることを確認した。
著者
山中 芳和
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.77-85, 1994

国学思想において、このような被治者たるものの心構えが、政治論的文脈の中で説かれるようななったのは、前章で指摘したとおり本居宣長においてであった。すなわち、宣長は『古事記伝』において「政」という言葉について次のようにのべている、政は、凡ての君の国を治坐す万の事の中に、神祇を祭賜ふが最重事なる故に、其余の事等をも括て祭事と云 とは、誰も思ふことにて、誠に然ることなれども、猶熟思に、言の本は其ノ由には非で 奉仕事なるべし、そは天下の臣連八十伴緒の天皇の大命を奉はりて、各其職を奉仕る、是天下の政なればなり、さて奉仕るを麻都理と云由は、麻都流を延て麻都呂布とも云ば、即君に服従て、其事を承はり行ふをいふなり 即ち「政」は「奉仕事なるべし」とのべ支配を形成する命令と服従の二つの要素のうち、被治者における服従の側面から政治を基礎づけたのであった。命令と服従あるいは治者と被治者との関係は「身分制的」社会における「上と下」の関係に外ならないのだが、本節ではこの問題に関して宣長学における「世間の風儀」の意義を中心に考察していくことにする。
著者
宮竹 貴久 岡田 賢祐
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

オオツノコクヌストモドキの闘争行動の勝敗と記憶力の関係を調べた。本種のオスは勝利の経験は覚えないが、敗北の経験は4日間覚えていた。人為選抜実験によって闘争の記憶時間には遺伝変異のあることを明らかにした。本種では敗北期間中は戦いに投資しないが、射精への投資を増やした。オスは敗北経験による学習によって、交尾後のオス間競争である精子競争の投資を調整した。さらに雄同士が後脚を用いて配偶者獲得のために闘争するホソヘリカメムシを用いて闘争行動に明瞭な日内パタンのあることを明らかにした。
著者
山口 和子 西村 清和 長野 順子 川田 都樹子 前川 修
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

写真の非芸術的側面と従来みなされてきた細部の再現からなる触覚的質が、視覚をモデルとするモダンの美的ヒエラルキーと知を揺るがし、日常的なものや無意味なもの、アブジェクトなものや非焦点性を芸術の世界に組み入れ、芸術のポストモダン的状況を作り出すと共に、アパレイタスとしてのその特性は自我やリアリティーの消失に対応している。他方、芸術と写真とのこの近接は写真の非芸術的な起源への問を再び呼び起こしている。
著者
保田 孝一
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1992年ペテルブルグのロシア海軍資料館で、1861年の対馬事件に関するロシア側の一次史料を発見した。それに基づいて、当時幕府の非公式の顧問だった有名なフォン・シ-ボルトが、この事件と東禅寺事件を解決するためにどのような役割を果たしたかを明らかにすることができた。その中心資料は、1861年にシ-ボルトが横浜と江戸から、ロシア東洋艦隊提督リハチヨフに宛てた5通の手紙である。これらの手紙を読むとシ-ボルトが、ロシア側からも、幕府からも尊敬されていたことが分かる。しかしシ-ボルトが親日的、親露的立場から事件を解決しようとして日露両国へ行った提言は、事件を解決するために直接の効果をもたらしはしなかった。明治時代の日露関係は、今想像するよりもずっと友好的であった。両国の皇室外交は、日露戦争の前にも後にも活発で、両国の皇族や重臣は相互に友好訪問をくり返していた。たとえば日露戦争の前に訪露した皇族には、有栖川宮熾仁・威仁両親王・小松宮彰仁親王・閑院宮載仁親王らがいる。ロシアからはアレクセイ大公、アレクサンドル・ミハイロヴィチ大公、キリル・ヴラディーミロヴィチ大公らが訪日している。訪露した最大の政治家は伊藤博文であった。かれは生涯に3回ロシアを訪れている。かれの持論は、日露戦争を避けるために満韓を交換するという提案である。つまり韓国は日本の、満州はロシアの影響下におくというのである。伊藤のこの提案は、日露戦争後に日露協商として実を結んだ。
著者
奥 忍 権藤 敦子 HERMANN Gottschewski
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究の完成年度として、3度の研究会を開催してこれまで行った研究成果について検討と補足をした上で報告書の形で総括をした。研究の目的を実現するために、本研究では数多くの研究者、学生の協力を得たので、それらを含めて、成果を全185頁の報告書として刊行した。第1部「忘れられたアイデンティティ」:日本音楽をめぐる教育の場の現状を3つの角度から明らかにした。第2部「潜在する音楽的アイデンティティ」:日本音楽・芸能におけるリズムを対象とした実験研究を行い、口上や朗読、伝統音楽にみられるリズムの特質について分析を行う。また、学生の表現の分析によって、その中に伝統芸能のリズム操作と共通する要素が含まれていることを明らかにした。第3部「近代日本の歌における日本語の捉え方」:第1部や第II部で浮上した問題について歴史研究の手法でアプローチした。近代日本における日本語による歌の捉え方、音楽要素に着目した日本語指導などについて扱った。第4部「音楽的アイデンティティの再認識」:言葉と音楽との関係に着眼した授業の開発とその成果の検討。日本音楽の学習に関する客観的で分析的な理論研究の裏付けをもつ実践的な研究が必要とされるため、方法の異なる実践例を検討し、例示した。研究の内容は以下のとおりである。I 忘れられたアイデンティティ1.小学生と中学生に見る日本伝統音楽に対する姿勢2.教員養成関係学部における日本音楽の動向3.現代の若者にとっての日本音楽-大学院生のレポートに見る日本音楽-II 潜在する音楽的アイデンティティ-リズムを中心に-1.香具師の立ち売り口上におけるリズム操作-「がまの油売り」の場合-2.「何は何して何とやら」におけるリズム操作-茂山千之丞による7つの演じ分けを基に-3.日本の伝統芸能のリズム-共通詞を用いた伝統芸能の音声分析-4.朗読と歌唱のリズムの類似度を定める方法についての考察5.音楽教育専攻学生に見る伝統芸能的な語感-歌舞伎風「名乗り」のリズム分析-6.金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」の朗読におけるリズム(1)-行と行間、連間に焦点をあてて-7.金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」の朗読におけるリズム(2)-行間と連間の感受に焦点をあてて-8.金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」の朗読におけるリズム(3)-詩の初見と再読による「間」の取り方-9.詩の朗読から歌うことへ-詞を詠・唱・歌う-III 近代日本の歌における日本語の捉え方-西洋音楽との関わりから-1.「国の子ども」を定義する-近代日本子ども音楽の三つの場面-2.音楽教育と外国語教育の接点-語学教育における歌唱のすすめ-3.民謡・わらべうたの特質と西洋音楽(1)-兼常清佐の言説を中心に-4.民謡・わらべうたの特質と西洋音楽(2)-高野辰之の言説を中心に-5.民謡・わらべうたの特質と西洋音楽(3)-わらべうた教材の分析をとおして-IV 音楽的アイデンティティの再認識-声と言葉による学習の開発-1.言葉のリズム学習としてのヴォイス・プロダクション-「お祭り」の創作学習2.香川の民話・民謡・方言を用いたミュージカルの創作-小学校低学年向け「狼の眉の毛」-3.オノマトペによる音楽創作-ヴォイス・プロダクション『のでのでので』-4.讃美歌から生まれた歌唱教材-「星の世界」に見る歌詞の変遷-5.体験学習「歌舞伎の表現」-内在する伝統的なリズム感に気づく授業
著者
岡本 源太
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ジョルダーノ・ブルーノの「世界の複数性」の思想を調和も照応もなき多様性の哲学として読み解き、多様なものの共生という現代的課題に新たな視座を提起することを目的に、(1)ブルーノ『しるしのしるし』(1583)に見られる世界の複数性の存在論的基盤・倫理的含意、(2)世界の複数性の概念史におけるルネサンス・近世の音楽論の重要性、(3)ルネサンス哲学から近世自由思想に継承された自然主義的循環史観の重要性、を解明した。
著者
平松 緑
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

放り上げ刺激により痙攣が誘発可能になったElマウスの安静時〔El(+)〕,放り上げ刺激をしていないElマウス,すなわち痙攣誘発のないELマウス〔El(-)〕,及びElマウスの母系であり痙攣素因のないddYマウスの大脳皮質切片を作成し、放射性タウリンとアスパラギン酸を用いてuptakeとreleaseについて検討した。その結果、(1)El(+)のタウリンのuptakeはddY及びEl(-)に比べて低下していること、(2)El(-)のタウリンのreleaseはddYに比べて増加していたが、El(+)のreleaseはEl(-)に比べて低下していること、(3)El(-)のタウリン量はddYに比べて高いが、El(+)とは有意差のないこと、(4)El(-)のアスパラギン酸のuptakeはddYに比べて低いが、El(+)のuptakeはEl(-)に比べて高いこと、(5)El(-)のアスパラギン酸のreleaseはddYに比べて低下しているが、El(+)のreleaseはEl(-)に比べて増加していること、(6)El(-)のアスパラギン酸の量はddYに比ベて高いが、El(+)のアスパラギン酸の量はEl(-)に比べて低下していること、が明らかとなった。タウリンは抑制性神経伝達物質、アスパラギン酸は興奮性神経伝達物質と想定されている。けいれん準備性を獲得したElマウス〔El(+)〕の大脳皮質においては、El(-)に比べてタウリンのuptakeとreleaseは低下しているが、アスパラギン酸のuptakeとreleaseは亢進していることが明らかとなった。又、Elマウスの痙攣を阻止するdiphenylhydantoin及びdipropylacetateは、El(+)のタウリンのreleaseを亢進させることが認められた。これらのことは、興奮性神経伝達物質の機能亢進と抑制性神経伝達物質の機能低下が、Elマウスの痙攣準備性に密接に関与していることを示唆している。
著者
山本 洋子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

アルミニウム(Al)イオンは、酸性土壌における主要な作物育成阻害因子と考えられており、土壌の酸性化に伴って溶出し、植物根の伸長阻害や壊死等を引き起こす。しかし、その分子機構はまだ明らかにはなっていない。本研究では、Al障害の一つとして脂質過酸化に着目し、Al毒性やAl耐性との関わりを、植物根と植物培養細胞を用いて解析した。タバコ培養細胞の系では、AlはFe-依存性の脂質過酸化を促進し、それが引き金となって、動物系で報告されているアポトーシス様の細胞死に至ることを明らかにした。さらに、このようなAl毒性に対して耐性を示す細胞株の解析から、Caffeoyl putoresineが脂質過酸化耐性に関わっていることと、動物系で主要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ様の活性が植物細胞にも存在することを見いだした。一方、エンドウ幼植物を用いた解析では、Alによって脂質過酸化が促進されるが、培養細胞の系や人工膜の系と異なり、Fe-非依存性の脂質過酸化が促進されること、脂質過酸化の促進は初期応答反応であること、Alの集積とともに直ちに見られる根伸長阻害の原因ではないものの、Alを集積した根がAlの非存在下で再び増殖を開始するのを妨げる障害の一つであることを明らかにした。以上、Alによる脂質過酸化の促進は、培養細胞のみならず根においても、Al障害機構の一つであることが明らかになった。今後、その促進機構や耐性機構の解析が必要である。その際、本研究で行った様に、タバコ培養細胞を用いてAl耐性株を分離し、障害や耐性機構の詳細を分子レベルで解析すると共に、その情報を手がかりに根での現象を解析していくことは、大変有意義であると思われる。
著者
吉村 太彦 久野 純治 棚橋 誠治 諸井 健夫 日笠 健一 福島 正己 福来 正孝
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究代表者の吉村は、宇宙論と素粒子物理の接点で焦眉の課題である、物質・反物質不均衡の問題をレプトジェネシス理論で解決するときの諸問題を整理して、今後、実験で解明すべき研究を明らかにするとともに、新たな実験原理を提唱した。特に、励起準安定原子のニュートリノ対生成のレーザー増幅過程が、ニュートリノ質量のマヨラナ性の確定と質量絶対値、混合角度の精密測定に有用であることを指摘して、大きな世界的反響を得た。諸井は、超対称模型に基づく宇宙進化のシナリオに関する研究を行なった。特に、宇宙初期に作られるグラビティーノが宇宙初期元素合成に与える影響を調べ、インフレーション後の宇宙再加熱温度の上限を求めた。この仕事は、関連する一連の研究の決定打として世界的に高い評価を得ている。久野は、超対称模型における暗黒物質探索のための理論研究を行なった。特に、暗黒物質と原子核との散乱断面積、暗黒物質の対消滅過程における量子補正の効果の評価を行なった。棚橋は、TeVスケールコンパクト化された余剰次元模型における電弱対称性の破れ(素粒子質量の起源)のメカニズムを考察し、いくつかの素粒子標準模型を超える模型を提唱した。また、これらの模型に対する現象論的制限を求めた。
著者
柳川 協 高橋 史
出版者
岡山大学
雑誌
研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.75-86, 1998-11
著者
永松 朝文 大塚 正人 AJAYA Shretha R. 真銅 隆至 池内 百江 芦田 則之
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,細胞増殖機能調節に関わっている酵素のチロシンキナーゼを阻害して,腫瘍細胞増殖を阻害する新規抗腫瘍薬開発を目的に行った研究である。デアザフラビン類縁化合物に関して,抗腫瘍活性データとコンピューターを駆使した酵素へのドッキングデータよりバーチャルスクリーニング系を構築した。この系より得られた活性情報を基にデザインした新たな活性有効化合物を合成・評価する新しい高効率抗腫瘍活性化合物検索系を構築した。
著者
山本 雅道 白井 浩子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 走査型電子顕微鏡を用いて無腸目 Convoluta naikaiensisの初期発生の過程を詳細に記載し、産卵から孵化(約90時間後)までを以下の4期16ステージにわけた。第1期(卵割期):St.1-St.7, 第2期(陥入期):St8-St.10,第3期(球形期):St.11-St.12,第4期(偏平期):St.13-St.16卵割は変形ラセン卵割で、割球の胚内部への侵入は動物極、植物極の2極で進行した。2. 扁形動物渦虫綱より無腸目、カテヌラ目、多食目、卵黄皮目、順列目、棒腸目、全腔目、三岐腸目、多岐腸目の9目より17種を選び、18S rDNAのほぼ全長にあたる約2000塩基対のDNA断片の塩基配列を決定した。そのデータをもとに近隣結合法、最節約法、最尤法により系統樹を作成したところ、すべての系統樹で無腸目が渦虫類のなかで最も早期に分岐したグループであるという結論が得られた。3. 扁形動物渦虫綱の無腸目、カテヌラ目、多食目、棒腸目、全腔目、三岐腸目、多岐腸目の7目のミトコンドリアの遺伝子暗号を比較した。無腸目を除く6目AAA,ATAは各々アスパラギン酸、イソロイシンを指定してたが、無腸目ミトコンドリアではリジン、メチオニンを指定してた。この事実は、無腸目は他の扁形動物が特殊化する以前の段階で分岐していたことを示唆しており、無腸目の原始性を明確に示す結果と言える。4. 無腸目は体表上皮細胞とその下の筋肉組織を隔てる基底膜構造が全く存在せず、表皮と筋肉が複合構造を形成している。筋表皮複合構造の形成過程を透過型電子顕微鏡で追跡し、発生過程においても基底膜構造が出現する時期は全くないという結論を得た。この事実は、無腸目の筋肉表皮複合構造が退化の結果生じたものではないということを示唆している。
著者
橋本 将志
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年脚光を浴びるようになったがん免疫療法も予後不良な膵がんにおいてはその効果は限定的である.がんウイルス療法は,既存の治療とは異なるメカニズム抗腫瘍効果を発揮し,がん免疫療法との相性がよいと報告されている.我々が開発した腫瘍融解アデノウイルス製剤のテロメライシンは現在臨床試験の段階にあるが,さらにp53がん抑制遺伝子を搭載した,p53発現腫瘍融解アデノウイルス製剤(OBP-702)を開発し,テロメライシンでは効果が不十分であった難治性がんの治療に挑戦している.本研究では,マウス・ヒトの膵がん細胞株を使用し,OBP-702が既存化学療法と比較し免疫学的治療効果を期待できる薬剤であるかを検討する.
著者
世良 貴史
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

従来の遺伝子治療法の問題点を克服するために、挿入酵素を空間的に標的DNAサイトに近接させることにより位置特異的遺伝子挿入を可能にする新しい技術の開発を目指した。その近接させる手法として、導入遺伝子と標的サイトにそれぞれ特異的に結合する2種類の人工DNA結合タンパク質を柔軟なペプチドリンカーで連結した新しい人工DNA結合タンパク質を作製し、これを用いて、まずは試験管内のモデル系で、標的DNAに別のDNAを特異的に挿入させることに成功した。