著者
川西 秀明
出版者
岡山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

【研究の目的】バシリキシマブは腎移植における急性拒絶反応の抑制に対し適応を持つ薬剤であり、免疫抑制剤であるカルシニューリンインヒビターを減量しながら急性拒絶反応の予防が可能であるといわれている。しかしながら、肺移植におけるバシリキシマブの使用はその症例が少ないことから有効性や有害事象に関する報告はほとんどない。カルシニューリニンヒビターの有害事象として腎機能障害が知られているが、バシリキシマブ投与によりカルシニューリンインヒビターの血中濃度を低く維持することができれば肺移植後の腎機能障害を軽減できる可能性がある。本研究では、バシリキシマブ投与により急性拒絶反応や感染症のリスクを上げることなくカルシニューリンインヒビターの血中濃度を低く保ち、さらに腎機能障害を軽減することができるか検討を行った。【研究方法】平成21年1月から平成27年12月に当院にて肺移植手術を受け、カルシニューリンインヒビターとしてタクロリムスを投与された患者を対象とした。対象をバシリキシマブ投与群と非投与群に分け、バシリキシマブ投与前後の腎機能、タクロリムスの血中濃度、急性拒絶反応の発症リスクおよび感染症のリスクについてレトロスペクティブに検討を行った。【研究結果】肺移植後8週までのタクロリムスの平均血中濃度はバシリキシマブ投与群で有意に低い結果となった。術後8週のクレアチニン値はバシリキシマブ非投与群において有意な上昇が認められた。急性拒絶反応、サイトメガロウイルス感染およびアスペルギルス感染は両群に有意差は認められなかった。これらの結果より、肺移植において、バシリキシマブ投与は感染症および急性拒絶反応のリスクを上げることなくタクロリムスの血中濃度を低く保つことができることが明らかとなった。そして、タクロリムスの血中濃度を低く維持できることが腎機能障害のリスク軽減につながると考えられた。
著者
池亀 美華 岡村 裕彦 平山 晴子 福原 瑶子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

我々は、機械的刺激による骨芽細胞分化促進に伴い著しく増加する新規因子としてVGLL3を見出し、さらに、VGLL3は選択的スプライシング調節機能をもつ可能性をつかんでいる。本研究では、培養細胞と実験動物を用いて、VGLL3の骨芽細胞分化や骨形成における働き、さらに遺伝子のスプライシングバリアント発現への影響について解析する。その結果、新たな骨芽細胞分化調節機構が明らかになることが期待される。
著者
吉野 夏己
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

「嫌がらせ訴訟」とも定義される「スラップ(SLAPP)」対策についは、人格権としての名誉権保護及び裁判を受ける権利と、表現の自由を対立軸として、憲法、刑法、民法、訴訟法など多様な法領域にまたがる法解釈論が求められ、加えて裁判官の訴訟指揮を含む訴訟実務のあり方、さらには、スラップ被害防止法制定などの立法政策について、横断的・多角的視点での検討が求められるところ、わが国においても、「現実の悪意」基準を不法行為法の解釈に取り入れるなど、表現の自由の価値を基底とするスラップ救済法理を探る。
著者
荒川 健佑
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、乳酸菌の抗真菌性に着目し、真菌をターゲットとした「バイオプリザバティブ(食品保蔵因子)」と「プロバイオティクス(保健機能因子)」の両面で食品利用可能な乳酸菌株の単離・選抜・同定(1年目)、選抜菌株が産生する抗真菌物質の単離・精製・同定(2-3年目)、選抜菌株の効果についてのin vitroおよびin vivo評価(2-4年目)を行う。
著者
増田 佳苗
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

作物の性表現は栽培・育種において考慮すべき最重要形質の一つである.カキ属の野生二倍体種は画一的な性別を示す, 一方で, 六倍体の栽培ガキはこの性表現に揺らぎを持ち, 雌花・雄花両者の着生や両性花の派生が見られる. しかし,この性表現の不安定性を統御する遺伝的・環境的要因はこれまで全く理解されておらず, 本研究ではその機構解明を目指す. 本研究は,多様な性表現を制御する技術開発を目標とするだけではなく, 同時に, ゲノム倍化が駆動する性の揺らぎの進化過程を明らかにするものである.
著者
村井 良介
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

室町期において幕府の裁定や守護による施行は、人々が共通に参照点とする相対的な卓越性を有している。したがって、人々は幕府や守護に文書の発給を求めると考えられる。しかし、戦国期になると幕府や守護の卓越性が低下し、幕府や守護の保証では十分ではないと見なされるようになり、将軍や守護以外の地域権力による判物発給が見られるようになる。判物は発給者と受給者の一対一の関係性の中だけで機能するものではなく、周辺の第三者群の反応を整序する。その秩序を共有する人々の関係性が「私」に対する「公」である。文書なしの知行給与から、判物による知行給与への変化は、この「公的」秩序が意識されることによる。
著者
比江島 慎二
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

凧型の帆で風を捉えて帆走し,水流タービンで発電する帆走式洋上風力発電を提案する.水流タービンと帆にHydro-VENUS技術を導入し,帆走システム全体のエネルギー取得性能をシミュレーションして実現可能性を探る.発電電力は送電せずに浮体内に蓄電するため,遠洋の膨大な風力を利用した発電が可能になる.固定設置しないため漁業との競合もない.従来の洋上風力発電が,沿岸付近の微弱な風力しか得られず,漁業との競合で導入が進まないのに対してブレークスルーとなる.さらに,観測機器等を搭載して広範囲に配備すれば,洋上通信,防災観測,資源探査,海上監視等に利用でき,海洋空間の利用をこれまでになく活性化できる.
著者
横井 功
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

頭部外傷後に発症するけいれん発作やてんかんの成因には活性酸素種が関与していることが示唆されている。すなわち、頭部外傷の際に脳内に出血した赤血球より遊離したヘモグロビン及び鉄イオンを会して発生した活性酸素種が神経細胞膜の脂質を過酸化させるために神経細胞は機能障害を起し、外傷性てんかん発症の重要なリスクファクターとされる早期けいれんが発現し、外傷性てんかん焦点が形成されるものと考えられている。このために、発生した活性酸素を抗酸化剤により消去することにより早期けいれん発現を抑えると、外傷性てんかん発症は予防され得ることが示唆される。本研究においてはラット大脳皮質感覚運動領のに塩化第二鉄を投与して作成した外傷性てんかんの実験モデルを使用して下記の成果をあげた。(1)エピガロカテキン類やEPCなどの抗酸化剤を鉄イオン投与後に投与すると、鉄イオンにより誘発される発作脳波や尾状核内でのドーパミン放出量の増加、あるいはメチルグアニジンなどの内因性けいれん誘発物質量の増加、などの変化を予防できる。(2)活性酸素を消去するアデノシンやその構造類似物質は鉄イオンの誘発する発作脳波の発現を予防する。(3)一酸化窒素(NO)及びその合成酵素(NOS)活性の測定法を開発し、ラット脳に鉄イオンを注入するとNOS活性が低下することを明らかにした。けいれん発現にNOは抑制性に働くことにより、NOS活性低下が外傷性てんかん発症に関与している可能性が示唆された。以上のごとく、頭部外傷部位で発生する活性酸素種を抗酸化剤により消去すれば、外傷性てんかん発症は抑えうることを明らかにした。活性酸素種は頭部外傷のみならず、脳内血腫や脳梗塞時などにも脳内で生成され、脳浮腫やてんかん焦点などの形成に関与している。このため、本研究は外傷性てんかん発症予防の道を明らかにしたばかりでなく、脳内血腫や脳梗塞時などの脳浮腫の予防や治療を考える一助ともなる。
著者
杉山 勝三
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1.ヒスタチン類の分離、精製ヒスタミン遊離物質として、ヒト唾液から分離した高ヒスチジン含有ペプチド、F-Aは1988年にヒスタチン5と命名されたものと同一ペプチドであった。そこで酸性下に熱処理した唾液からヘパリンカラムと高速液クロ(HPLC)を用いてヒスタチン1、3および5を同時に迅速精製する方法を開発した。唾液中に存在するヒスタチン1、3と5の割合は1:1:1であった。これらのアミノ酸組成および一次構造を決定した。2.ヒスタチン類のヒスタミン遊離機構精製したヒスタチン類を用いてラット腹腔から分離した肥満細胞からのヒスタミン遊離の機構について検討した結果 1)ヒスタチン類によるヒスタミン遊離は濃度依存的におこり、ED_<50>はヒスタチン3と5は13μM、ヒスタチン1は100μMであり、ペプチドの塩基性の強さと分子量に関係していた。2)このヒスタミン遊離反応は温度に依存しており27°ー37℃に至適温度があり、pHは中性から酸性側で著明であった。3)温度37℃において反応は10秒以内に最大に達した。4)このヒスタミン遊離は肥満細胞内の乳酸脱水素酵素の漏出を伴わなかった。従ってヒスタチンによるヒスタミン遊離は開口分泌様式によるものと考えられる。3.ヒスタチン類の抗菌作用の機構1)カブトガニの血球抽出液を用いるLimulus testにおいてグラム陰性菌の内毒素成分リポポリサッカリド(LPS)によるゲル形成反応をヒスタチンは阻害した。2)感作血球から補体による溶血反応はLPSにより阻害されるが、ヒスタチンはこの阻害を反転した。3)LPSとヒスタチンはゲル内沈降物を形成した。以上の成績は唾液中には一群のヒスタチンが存在し、口腔内の自然防禦成分として役立っていることを示唆している。
著者
安原 隆雄 内藤 宏道 道上 宏之 菱川 朋人 田尻 直輝 佐々木 達也 佐々田 晋
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、再現性・精度の高いCTEモデルを確立し、行動学的な変容とリン酸化タウ蛋白の蓄積具合を明らかにすることを1つめの目的とする。2つめの目的として、CTEにおける炎症性サイトカイン、細胞増殖、アポトーシス等に関連する遺伝子発現を明らかにすることである。3つめの目的としては、CTEにおける細胞療法(特にヒト骨髄由来多能性幹細胞の動脈内投与)の治療効果を明らかにすること、及び、タウ蛋白蓄積や遺伝子発現がどのような変化を受けるか明らかにすること とする。
著者
伊達 勲 道上 宏之 藤井 謙太郎 安原 隆雄 平松 匡文 菱川 朋人 春間 純 田尻 直輝 佐々木 達也 佐々田 晋 石田 穣治
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

脳梗塞モデルラットに対して、ヒト骨髄由来多能性幹細胞・脳内移植を行う。A:電気刺激治療、B:リハビリテーション、C:電気刺激治療+リハビリテーションにより次の項目の評価を行う。1. 組織学的評価:移植細胞の生存・遊走・分化、脳梗塞・神経新生評価、炎症・血管新生評価2. 行動学的評価:運動機能評価、認知機能評価・うつ様症状評価3. 遺伝子発現プロファイル評価:治療による虚血ペナンブラ領域の遺伝子発現変化を解析する
著者
伊東 秀之
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

高齢化社会の進行や医療費の増加などから,機能性食品などを利用したセルフメディケーションに取り組む人々が増えている.しかし,その機能性に反して,過剰摂取や医薬品との相互作用による副作用も出現している.本研究では,機能性成分の生体内挙動に関して,クランベリー成分およびエラジタンニンの尿中代謝物の検索,さらにクランベリーとワルファリンの食品-医薬品間相互作用の疑いが持たれていることから,その相互作用の解明の一環として,クランベリー成分の薬物代謝酵素に与える影響についても検討した.クランベリージュースをボランティアに飲用後,採取した尿を分析し,ジュース中には存在しない成分が代謝物として排泄されていることを確認し.中にはProanthocyanidin A-2のモノメチル化体など,新規代謝物の存在も明らかにした.またクランベリーの代謝物の中には,バイオフィルム形成抑制を示唆する低分子代謝物の存在も見出した.エラジタンニンをラットに経口投与後の尿中代謝物として,7種の新規代謝物を単離し,各種スペクトルデータの解析結果から,その化学構造を明らかにした.その代謝物の中には,抗酸化活性が顕著なエラジタンニンと同等の活性を有する代謝物も存在することを明らかにした.クランベリー成分の薬物代謝酵素(CYP2C9, CYP3A4)阻害活性をin vitro実験系にて評価した結果,高分子ポリフェノール画分が阻害活性を示し,また,in vivo系実験においてもワルファリンの体内からの消失を遅延させることを示唆するデータが得られ,クランベリー成分がワルファリンの主要代謝酵素を阻害する可能性が示された.本研究成果から,生体内代謝物が機能性本体として作用していることが十分考えられることから,機能性成分の評価には,生体内挙動の知見を考慮しながら遂行することが重要であることが示された.
著者
金 惠淑
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

クロロキンをはじめとする既存抗マラリア薬に対する耐性熱帯熱マラリア原虫が出現し、既存の抗マラリア薬では治療できない状況になりつつある。そのために新しい抗マラリア薬の開発研究はマラリアに関する最優先研究事項である。私は、薬用天然資源の中から薬剤耐性マラリアを克服できる新規マラリア治療薬を開発し、マラリア制圧に寄与することを研究目的として本研究を進める。本研究では今までの研究で得られた新規構造を有する天然生薬成分、及び天然薬用資源中の薬効成分をリード化合物とし、熱帯熱マラリア原虫における抗マラリア薬候補の最適化、薬効を示す分子標的の同定、及び、その遺伝子機能を解析する。また、アフィニティ法とプロテオミクスを用い、高い確率で抗マラリア薬のターゲットになりうる分子標的を選抜する。さらに、薬剤耐性のメカニズム解析を行い、薬剤耐性を克服するための基盤研究を行う。平成17年度の研究成果を下記に示す。1.メフロキン高度耐性熱帯熱原虫(R/24株)を用い、pfmdr-1遺伝子の変異ヵ所が実際のマラリア流行地の患者でも見られるかどうか、マラリア流行地の血液サンプルを用いて解析した。タイのマラリア患者、及びタンザニアの患者由来のサンプルを用いてR/24株で見られる変異ヵ所を調べた結果、変異ヵ所は見られなかった。今後、メフロキン耐性が流行する地域の患者サンプルを増やして検討する。また、プロテオミックスとトランスクリプトームを駆使してメフロキン耐性メカニズムの解析を開始した。2.生薬天然資源由来の租抽出分画由来のサンプルを用いて校マラリア活性を検討した結果、6種類の天然資源由来より強い抗マラリア活性が見られた(EC_<50>=<1μg/ml)。現在これらサンプルを更に分画して活性化合物を見出す研究を進めている。3.生薬アルテミシニン誘導体の研究を行い、10^<-8>M程度で強い抗マラリア活性を示す種々の抗マラリア活性を示す誘導体を得たので、構造-活性の関連性を検討している。
著者
栗林 裕
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

カシュカイ語はトルコ語と同じチュルク語南西グループに属していながら、特異な統語法を持つ言語である.統語法のみ近隣言語であるペルシア語から借用し、語彙はチュルク語系のものを用いるような統語的言語変化はチュルク語全体の中でも少数派である.非トルコ語研究者にとっても興味深いカシュカイ語の言語資料を広くアクセス可能な形で提示し、知識の共有を進めていくことで理論的研究と記述的研究の連携を図ることを目的として3 年間の研究成果を著書としてまとめた.