著者
猿渡 俊介 森川 博之
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.6, pp.1-8, 2010-08-26

ネットワーク化された物理オブジェクトを有機的に組み合わせていつでもどこでも必要なサービスを即座に構築することができる.このような,仮想空間だけでなく,実空間全てがプログラマブルになった世界がコンピューティング・ネットワーキング技術の目指すべき未来であろう.実空間のプログラマブル化は徐々に実現されつつある.携帯電話に組み込まれた各種センサを利用したスポーツアプリケーション,センサが組み込まれたリモコンを利用したテレビゲーム,いつでもどこでも撮影した動画像を瞬時に共有可能なマルチメディア共有サービス,マルチホップ無線通信を用いて電力やガスの自動検針を行うスマートメータなどは,センサ,コンピュータがネットワークを介して有機的に連携した結果として実現されている.実空間のプログラマブル化の最終形態に向けては,ワイヤレス技術の更なる技術革新が不可欠である.携帯電話や無線 LAN の登場によって加速化されたモバイル端末の発展により,ワイヤレス技術は新しい局面を迎えている.東京大学森川研究室では,無線通信の新しい応用分野の創出を目指すと同時に,電波政策などの俯瞰的な視点からも研究を進めている.本発表では,1 フロア当り数十の無線センサノードで実現される地震モニタリングアプリケーション,超低消費電力な無線待ち受けを実現するウェイクアップ無線通信方式,ロボットなどの機械を制御するために往復数ミリ秒以内の高速なデータの送受信を実現するリアルタイムワイヤレス,広範囲・高密度に電波の利用状況を収集する分散スペクトラムセンシングを紹介する.The next generation of computing and networking technologies will enable us to instantly build a useful service when we need it: the service is built by organically combining programmable networked physical objects. We are already enjoying services using the programmable networked physical objects, and the services include exercise applications using sensors embedded in a mobile phone, video games using sensors embedded in a remote, multimedia sharing services enabling us to instantly share fresh pictures and movies with our friends, smart meters automatically checking electricity consumption and gas consumption with wireless ad hoc networks. The services are realized by combining sensors and computers with networks. Towards the final form of the programmable networked physical objects, wireless communication technologies must be technically innovated furthermore. The wireless communication technology moves forward to a new phase by the progress of mobile devices, such as cell phones and WiFi PCs. We are widely studying not only the new application area of wireless communication, but also spectrum management policy. This presentation introduces our studies: earthquake monitoring composed of dozens of sensor nodes on a floor, wakeup wireless realizing super low power listening, real-time wireless enabling submilliseconds round trip time for machine-to-machine communication, and distributed spectrum sensing collecting spectrum usage information from densely placed sensor nodes.
著者
湊山 梨紗 野池 賢二 鈴木 泰山 徳永 幸生 杉山 精
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:18840930)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.5, pp.1-6, 2010-11-27

本稿ではピアノ譜を対象として適切な譜めくりタイミングの推定法を提案する.音楽演奏では演奏中に楽譜をめくる "譜めくり" が必要となる.この譜めくりを行うタイミングは演奏曲や演奏者によって異なると考える.しかし,具体的にどのような要因が譜めくりタイミングを変化させているのかは明らかでない.そこでまず,楽譜構造における時間軸方向の音符密度に着目した推定法を考案した.本推定法では,楽譜のページ末尾に休符などによって打鍵を行わないときに譜めくりが行われることから楽譜上で時間軸方向に音符の少ない箇所を抽出し,その長さをもとに譜めくりタイミングを推定する.また,本推定法を用いて被験者実験を行い,推定した譜めくりタイミングと演奏者が望むタイミングとを比較し,推定手法の評価と考察を行った.その結果,推定した譜めくりタイミングが演奏者の望むタイミングと概ね一致したことなどから,本推定法が有用である見通しを得た.This paper proposes an estimation method of page-turning point for piano score. Page turning is necessary for performing music, and page turning point varies according to performer and score. However, what influence for page turning point is unapparent. So, we propose an estimation method which considering density of notes on time series based on score structure. We also conducted an experiment to evaluate this method by comparing estimated point with performer preferring point. Results from this experiments showed that proposed method is useful for estimating page turning point.
著者
寺田 努 塚本 昌彦 西尾 章治郎
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.266-275, 2003-02-15
被引用文献数
6

近年のモバイルコンピューティング技術の発展により,ユーザは自分用のPDA(Personal Digital Assistant)を持ち歩くようになった.PDAの用途は多岐にわたり,特に今後は音楽を中心としたエンターテイメント利用の重要性が高まると予想される.しかし,現在の音楽アプリケーションは基本的に聴くだけのものが多く,演奏を楽しんだり周りの音楽に参加したりするといった能動的なものがほとんど存在していなかった.そこで,筆者らの研究グループでは,PDAを用いて場所を問わずに気軽に音楽演奏を楽しむためのモバイル楽器に関する研究を進めている.本稿ではそのようなモバイル楽器の1つであるDoublePad/Bassを構築することを目的とする.DoublePad/Bassはタッチパネル式のPDAを2つ用いたシステムで,それぞれのPDAを左右の手の入力に割り当てることでエレクトリックベースの奏法を想定した入力方法を実現している.したがって,本物のベースを演奏できる人が場所を問わずにその腕前を披露できる.また,楽器初心者でもある程度の演奏ができるように簡易演奏モードを用意している.本システムを用いることでいつでもどこでも気軽に演奏でき,同じように演奏をしている人たちとのコラボレーションも可能となる.As a result of advancement in mobile computing technologies,it becomes common for users to carry a PDA (PersonalDigital Assistant) with them wherever they go. PDAs can be used forvarious purposes, and applications for entertainment, especially thosecentering on music, are expected to gain more importance. However,most current mobile applications only allow users to listen to music andthere are few applications that enable users to enjoy and participatein playing music. Therefore, our research group proposes mobile electronic musical instruments to enable users to enjoy playing music anywhere. In this paper, the goal of our study is to construct theDoublePad/Bass as such a mobile musical instrument. The DoublePad/Bass uses two PDAs with a touch panel display, and realizes the input by allocating two PDAs for inputs at each hand like playing an electric bass. Thus, musicians who can play an electric bass can also play the DoublePad/Bass with little practice. Moreover, the system provides asimple playing mode for users who are not familiar with playing musicto enable them to play music easily. Using this system, users can playmusic no matter where they are, by themselves or by collaborating withothers.
著者
高田 真吾 佐藤 聡 新城 靖 中井 央 板野 肯三
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:03875806)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1043-1052, 2009-03

企業や大学など多数のコンピュータが導入されている組織では,利用者に対する計算機利用の自由度を高く維持しつつ,稼動しているOS の種類とその最大稼動数を適切に管理する必要がある.本研究では認証デバイスを用いて,管理者により承認された複数のOSから適切なOSの起動と終了を制御できるシステムを提案する.提案システムの特徴は,OSの種類とは独立に,起動されるOSの数を把握するために認証デバイスを用いる点にある.利用者は,システム利用時に利用したいハードウェアに認証デバイスを挿入する.提案システムは,デバイスの挿入を検出するとハードウェアと認証デバイスの組合せにより,管理者が定めた起動すべきOSを決定し,起動する.認証デバイスが抜かれると,起動したOSを停止する.これらの動作は,制御対象のOSより下位に配置するOS制御レイヤにおいて行う.このOS制御レイヤを仮想計算機モニタXenを用いて実装し,動作実験を行い,提案システムの有効性を確認した.
著者
鈴木 貢
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.e30-e42, 2022-12-15
著者
小宮 常康
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.e34-e52, 2022-10-15
著者
菅野 翔平 片寄 晴弘
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.1463-1473, 2023-11-15

近年,男性ボーカルのポップス楽曲が歌いにくいと指摘する声をよく耳にするようになった.主要因の1つとして単純なメロディ音高の上昇が考えられるが,これまでに精緻な調査は実施されていない.また,ミックスボイスと呼ばれる発声法が多用されるようになったとの指摘もあるが,こちらも精緻な調査に基づく主張ではない.この状況に際し,我々は50年規模の調査を実施することとした.発声法の分類については,メインボーカル(非コーラス),コーラスの分類,さらに,メインボーカルについてはチェスト,ファルセット,ミックスボイス,プルの4種類のタイプ分類を目指すが,大量データに対してのラベリングはきわめて煩雑な処理となる.そこで,深層学習による発声法の自動分類処理を実装したうえ,メロディの基本周波数推定をあわせて,過去52年間合計1,560曲に対して分析を実施した.この結果,約一音半分の平均ピッチの上昇と,地声から高音域に用いられる発声法へと徐々に変化している状況を確認した.また,メロディピッチの上昇とミックスボイス,プルによる歌唱の推移に強い正の相関を確認した.
著者
飯尾 淳
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.113, 2023-02-15

公衆トイレのサインには面白いものが多数あり,それらを収集しデータベース化している.現在2,000件以上のデータが集められている.トイレサインからはいろいろと学ぶことがある.世界のトイレサインを比較すると文化の違いを発見できる一方で,全世界で共通する傾向も見出せる.
著者
山下 祐貴 森本 有紀 秋田 健太
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.1065-1073, 2023-05-15

本研究では,深層学習により入力テキストの内容に対応した色付きメッシュモデルを生成する手法を提案する.これまでに深層学習を用いて様々な表現形式の3次元モデルを生成する手法が広く提案されている.その中でも,入力した画像に対応する3次元モデルを生成する3次元再構成手法が多く提案されている.しかしこのような手法では,ユーザが作成したい形状や色などの3次元モデルを得るために,その特徴に対応する画像を用意する必要があり,手間がかかる.本研究では,テキストによる自由形式の説明文を入力とすることでそのような手間を軽減する.3次元モデルの大規模データセットを用いた定量的・定性的な評価を行い,提案手法がテキスト入力による柔軟な色付きメッシュモデルの生成において有効であることを示した.
著者
佐藤 喬
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.e30-e41, 2023-05-15

令和3年に大学入試センターより公開された「情報」のサンプル問題の第1問から,東日本大震災と情報分野のかかわりを扱った問1の解説をする.この問題は,震災後にまとめられた報告書から教員と生徒の対話形式で作られている.「情報I」の「1. 情報社会の問題解決」と「4. 情報通信ネットワークとデータの活用」に対応しており,実際に発生した震災をもとに,情報技術の仕組みや情報社会の問題点を考えることができる内容である.
著者
武藤 久慶
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.391, 2023-07-15

2022年 4月,必履修科目「情報I」の全面実施をうけ,文部科学省では,授業で使える解説動画を作成・公開しました.これらは教師の研修教材に,現役の高校生の予習・復習に,また社会人の学び直しにも活用されています.この1年を振り返って我々学校デジタル化プロジェクトチームメンバが感じるのは,産官学民の「協働の価値」です.教科情報を愛する先生方や有識者を始め,誰一人取り残されないデジタル社会を推進しようという多くの方々の熱い想いが,プロジェクトの成功に不可欠な要素でした.日本の未来を支える生徒の「もっと学びたい!」を支援し,デジタル社会 Society 5.0の構築に向けて頑張りたいと思います.
著者
高 友康 筧 康明
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.1083-1094, 2023-06-15

オーディオゲームとは,視覚情報を用いずに音声のみでプレイするデジタルゲームジャンルである.オーディオゲームはこれまで視覚障がい者を中心に親しまれてきたが,視覚を前提とせず聴覚に集中してゲームをプレイするという体験は,より幅広い層から楽しめるコンテンツとして近年注目を集めている.すでに様々な種類のオーディオゲームが制作されているが,既存のオーディオゲームでは,音声のみでの空間的な情報提示が困難であるといった課題がある.それに対し今回筆者らは,プレイヤがより自由に空間的な移動・回転が可能なオーディオゲームの制作を試み,「大爆走!オーディオレーシング」と名づけるレーシング型オーディオゲームを提案する.これはゲーム内での音楽の連続的なパンニングをコース形状の手がかりとして用い,音の聞こえる方向へハンドルを操作することで走行が可能になるものである.また,ゲームとしてのエンタテインメント性を向上させるため,ボイス実況や,サウンド演出,適切な難易度での体験のための運転アシスト機能の設計を行った.本稿では,設計・実装の詳細と,オンライン展示および物理展示を通して得られた走行データから読み取れる考察,そして誘導方式について行ったユーザスタディについて述べる.
著者
加藤 淳
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.252-256, 2023-04-15
著者
矢野 翔平 伊藤 弘大 山下 真由 高嶋 和毅 伊藤 雄一
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.1002-1013, 2023-05-15

一般的な教育現場では,教師が生徒の理解状況を把握するために,テストを実施したり,机間巡視をして問題解答の様子を観察したりする.しかし,教師の能力や状況によっては正しく理解状況を把握できていない場合がある.近年では,情報技術を用いた学習支援システムが発達し,学習時の情報を取得することが容易になった.一方,情報教材が普及してきたとはいえ,現在最も普及している学習方法はペンを用いてノートに筆記するものである.また,紙を使用して学習する方が,電子デバイスを使用して学習するよりも優れているという結果が報告されている.そこで本研究では,筆記行動から理解状況を推定する手法を検討する.筆記量や筆記速度は,理解状況と相関があるといわれており,学習者の理解状況が筆記行動に表れていると考えられる.理解状況の評価には,解答した問題の正誤判定と学習者の解答に対する自信度を組み合わせて評価する統合評価法を用いる.また,筆記行動取得の手段として,学習者のペンを握る力(ペン把持力)を用いる.60名の実験データより,理解状況は,特に解答時間やペン把持力の平均変化量に表れていることが確認された.また,ペン把持力には自信度の影響が強く表れていることが分かった.理解状況の推定精度を評価したところ,圧力センサ付きペンから得られる情報と解答用紙から得られる情報(解答情報)を組み合わせることで72.1%の推定精度が得られた.
著者
和田 勉
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.233, 2023-04-15

我が国の初等中等情報教育と大学入試はよい方向に進みつつある.本号にもこれに関する記事が2件掲載されている.私が2006年に韓国に半年間滞在し,初等中等情報教育に関する会議を見た際,登壇した同国国会議員も含め情報教育は国の重要だという認識を共有していることが見てとれた.その後訪問したいくつかの外国でも共通して情報教育は重要であるという認識があった.いまの我が国の変化は望ましいことである半面,25年前から我が国の情報教育にたずさわりまた諸外国を見てきた立場からは,これが20年前に実現しているべきだったと思う.今後できることは,情報教育を充実させ情報社会を担う若い世代を育てることである.
著者
杉 ライカ
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.58-65, 2023-01-15

テキスト・トゥ・イメージ(text-to-image)の画像生成AI(Midjourneyを例とする)を,プロ作家がオンライン小説の現場でどのように活用しているか,具体例を交えてレポートする.自作小説の挿絵や登場人物のイメージ画を作成するだけでなく,さまざまな場面で,AI描画が作者と読者の想像力を仲介するのに役立っていると考えられる.その他,AIが描画した予想外のイメージによって作者の創造力が刺激される可能性について,またAI描画ファンアートの登場によって既存のファンコミュニティにどのような影響を与えうるかなどについても,導入から間もない現状についてのレポートや,今後の見通しなどをまとめている.