著者
森岡 耕作
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.31-42, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
21

異質な顧客ニーズに対応できる有効な製品戦略であるマス・カスタマイゼーション(MC)の中でも,顧客の構成負担を軽減しうるソリューション提示型カスタマイゼーション(CvSS)が注目を集めており,その有効性が吟味されている。しかしながら,このCvSSに関する既存研究は,第一に,MCについて顧客が知覚する価値のうち限られた種類の価値にしか注目しておらず,第二に,そのシステムを利用する顧客のデザイン・スキルにおける異質性を考慮していない,という問題を抱えている。そこで本論は,第一に,顧客が知覚するMC価値の構造を特定化し,第二に,その価値構造を前提に,CvSSの効果を吟味しようと試みた。サーベイ・データを利用して行った分析(分析1)の結果,享楽性と過程努力とによって構成されるMC過程価値が,選好合致と自己表現性とによって構成されるMC製品価値を高めるということを見出した。そして,実験データを利用して行った分析(分析2)の結果,デザイン・スキルの低い顧客より,デザイン・スキルの高い顧客の方が,MC過程においてソリューションが提示された時に知覚する享楽性が低いということを見出した。
著者
清水 聰
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.7-17, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
25

動線調査研究は,RFIDなどの位置情報技術により,新たな研究段階に入ってきている。本稿では,新しい位置情報システムであるQuuppaを用い,ある店舗での消費者の動線を70日間集めた。そしてその動線データと当該店舗のFSPデータと結び付け,消費者の当該店舗との関係性が動線長に与える影響と,動線長そのものを説明する要因を探った。その結果,店舗のロイヤルユーザーは,それ以外の来店者と比べて,1回の買物の動線長が短く,購買金額も高くないことが示された。また動線長を説明する要因には,週末や年末年始,各売場や通路の滞在時間,そしてロイヤルユーザーフラグが影響することが示された。動線調査を行う際に,消費者の視点を入れることの重要性が明らかになった。
著者
吉岡(小林) 徹
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.21-37, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
54
被引用文献数
3

デザイナーが商品開発の上流工程から関わること,とくに,デザイナーが他の職能組織の活動に積極的に関与していくことは,製品・サービスのイノベーションの実現につながるのだろうか。本研究は,デザイナーによる他の職能組織の活動への関与の一つとして,技術開発への関与が,技術開発の質を高め,かつ,製品の質を高めているのかを,市場で成功を収めた事例の分析と,国際的なデザイン賞受賞製品90製品の調査により検証した。その結果,デザイナーの技術開発の関与は,①新たな要素技術を着想し,新規な製品コンセプトを実現する,②技術的課題を設定するか,技術開発チーム内での共有を促し,技術者の開発効率を高める,③他組織の技術を橋渡しし,新たな技術を生み出す,のいずれかの形で高い質の技術を生み,かつ,製品自体の質を高めていたことが確認できた。これらはデザイナー固有の寄与とまでは断言できないが,デザイナーの強みが生きた機能組織間連携の効果であると考えられる。
著者
田中 洋 安藤 元博 髙宮 治 江森 正文 石田 実 三浦 ふみ
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.24-42, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
42

本論文はCMO(チーフマーケティングオフィサー)が日本企業において企業業績にどのような貢献をしているかを実証的に分析するとともに,CMOの地位が現在どのように変化しているかを文献調査で明らかにすることを目的としている。CMOが企業業績に正の影響を与えていることが近年米国で報告されているが,日本ではまだ研究がほとんどなされていない。実証分析の結果,日本企業において,CMOを設置している企業の割合は約8–11%であり,設置率は業種によってばらつきがあった。またCMO設置企業と非設置企業とでは,前者がより規模において大きいことがわかった。また,CMO設置あり・なしは,企業の2年間売上伸張率に正の影響があり,CMO設置は4.7%の売上増収効果をもっていた。また,企業規模が小さな企業ほど,CMO設置あり条件が売上変化率により大きな影響を与えている。文献調査では米国消費財企業においてCMOに代わりCGO(チーフグロースオフィサー)が設置される傾向が2010年代に目立つようになった。CMOへの詳細インタビューを通じて,これらの結果を仮説モデルとしてまとめ,CMO/CGOの設置がどのように企業業績に影響を与えるかを考察した。
著者
久保 麻子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.32-51, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
31

急速なインターネットの環境改善やスマートフォンの普及により,企業と消費者とのタッチポイントが増えたことで,企業は差別化のために消費者に優れた体験を提供することが求められてきている。消費者に対して製品やサービスを通じて「体験」を提供するという概念は,経営手法に取り入られてきたが,学術的にユーザーエクスペリエンス(UX)の影響を調査した研究はまだ少ない。本研究では,UXとブランドに関する先行研究をレビューした上で,ECサイトにおけるUXのブランド態度に対する影響と,その要素について考察した。そこで,UXの要素を,Peter Morville(2004)が提唱した「UXのハニカム構造」より6つの要素を抽出し,それぞれのブランド態度に対する影響を調査した。結果,実務上UXの設計に利用されている6要素が,学術的にみてもUXを構成する因子となることが確認された。さらに,6要素のうち,4要素がブランド態度に正の影響を及ぼすことも確認されたことは,経営視点において示唆を与えるものである。
著者
村松 潤一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.6-24, 2017-09-29 (Released:2020-02-25)
参考文献数
43
被引用文献数
6 1

サービスをプロセスとして捉えるS-Dロジックが提示されてから,かなりの時間が過ぎた。しかし,S-Dロジックが求めた新たなマーケティングは未だその姿が明らかとなっていない。一方,もともとサービスをプロセスとして理解してきたのが北欧学派であり,Sロジックである。そこで,両者からの示唆を得ながら新たなマーケティングについて考察することを本稿の目的とした。その結果,消費プロセスで文脈価値を高めるマーケティングを新たに価値共創マーケティングと呼ぶことにし,伝統的マーケティング,類似概念との対比を試みた。次に,それがどのような意義を持ち,その実践がどのような成果を生むかについて議論し,若干の典型的な事例をみることで,4Cアプローチ,文脈マネジメントといった独自の考え方を示すと共に,価値共創マーケティングを推進する企業システムについても言及した。
著者
水越 康介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.3-5, 2023-09-29 (Released:2023-09-29)
参考文献数
2

Case study research is a method of research using case studies that has gained a spotlight within social science. Many books and articles outline the case study research method, among which the series of works by Robert K. Yin has been well referenced. In this special issue, we summarize findings from case study research based on the methodology described by Yin. These findings show how case study research can be performed in practice and what it can reveal.
著者
江上 美幸
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.80-92, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
25

本論文では,銀座や竹下通りといった外国人に対する著名地区ではなく,裏路地に極めて多くのインバウンド旅行者が回遊する裏原宿に着目し,その誘引性を考察した。結果は,裏原宿への最も多い来街者は中国からの旅行者であり,裏原宿独特のストリートファッションブランドに誘引されて訪れていることが分かった。また,これらのブランドは,近年まで日本のファッションの主軸として語られてきた百貨店やSCを中心に販売するブランド群とは異なるものであり,当該エリアならではのカルチャーを有するユニークなブランド,そしてオリジナリティーや希少性ある商品が評価され,推奨の対象となっていることが,Kotler5Aモデルを修正したカスタマージャーニーにより示された。
著者
西本 章宏 勝又 壮太郎
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.53-65, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
31

本研究の目的は,決済手段に対する消費者の心理的所有感が,決済手段の選択,支払意思額(willingness to pay: WTP),受取意思額(willingness to accept: WTA)に及ぼす影響について明らかにすることである。本研究では,2種類の決済手段(現金とスマートフォン決済)を対象として,2つの実験を行った。実験1では,参加者に架空の購買シナリオを読んでもらい,相対的に心理的所有感が低い決済手段が支払い時に選択されやすく,選択された決済手段による支払いの方がWTPは高くなることを明らかにした。実験2では,参加者に4種類の架空の売買シナリオのいずれか2つを読んでもらい,相対的に心理的所有感が高い決済手段が受け取り時には選択されやすく,選択された決済手段による受取の方がWTAは低くなることを明らかにした。
著者
菅野 佐織
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.7-17, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
56

近年,マーケティングにおいて,心理的所有感が注目されている。心理的所有感とは,対象に対して人が抱く所有感のことであり,その対象が「私のもの」であるという感覚のことである。デジタル化やシェアリング・エコノミーの拡大の影響によって,消費者が消費する対象は,物質的なモノとは限らず,デジタル財やシェアリング財など,多様な形を取るようになった。心理的所有感は,これらの非物質的な対象や実際には所有を伴わない対象に対しても生じる感覚であり,複雑化する消費者とモノとの関係を解明する鍵概念として捉えられている。本稿では,近年のマーケティングにおける心理的所有感の研究の動向を把握することを目的として,マーケティング領域の有力学術誌に掲載された近年の論文48本のレビューを行うことで,心理的所有感の研究の現状と今後の方向性について検討を行う。
著者
松井 彩子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.39-50, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
32

本研究の目的は,スポーツイベントへのスポンサー契約にネガティブなインシデントが発生した場合の,消費者の反応を探索的に検討することである。具体的には,2021年に開催された2020東京五輪に関して,2022年に入って指摘されはじめた五輪汚職を事例に,Twitter上で発生したネガティブな口コミを探索的に検討する。そして,ネガティブな事象が発生した場合の,スポンサー企業への消費者の反応を明らかにする。実際にツイートデータを抽出した企業は,AOKIとKADOKAWAの2社である。これらのツイートデータに関して,ネガティブインシデントが発生した時系列ごとに頻出単語を整理した。その結果,一度ネガティブインシデントが発生して以降は,消費者の反応の増減に関わらず,ネガティブな頻出単語の性質には変化はないことが示された。
著者
福田 怜生
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.63-71, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
54
被引用文献数
1

消費者に新たな体験を提供する技術としてバーチャルリアリティ(VR)が着目されている。本研究では,消費者を対象としたVRに関する近年のマーケティング研究の動向を把握することを目的とした。2019年以降に出版された実証的論文49篇を抽出し,これらを「コミュニケーション」,「空間設定」,「体験」,「デバイス受容」のテーマに分類した。「コミュニケーション」,「空間設定」,「体験」をテーマにした研究については,VRやVRデバイスが及ぼす影響を明らかにした。また,「デバイス受容」については,VRデバイスが消費者に受容されるための要因を明らかにした。最後では,各テーマに共通した最も重要な課題点として,各研究が対象とするVRデバイスやコンテンツの特性が不明確である点が指摘された。具体的な解決策として,各研究がVRの構成要素を測定し,報告することが指摘された。またこの他の課題として,VRの効果を説明する理論の整理,サンプルサイズの事前設計も指摘された。
著者
野村 拓也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.67-74, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
42

本稿は,近年における消費環境の変化を背景とする消費者の物質主義に関する議論を統合的に整理する。ここでいう消費環境の変化とは,デジタル化の進展,シェアリングをはじめとする財の法的所有を伴わない消費形態の普及,ミニマリズムなどのような反物質主義的な価値観の流行を指す。これらの消費環境の変化は,種々の弊害があると問題視されてきた消費社会における物質主義の弱体化を象徴する現象として評価されることがある。本稿では,物質主義に関する初期の研究や,消費環境の変化に着目した研究のレビューを通じて,物質主義の弱体化を楽観的に期待する見解を批判的に検討する。そして,物質主義の概念を用いて今日の消費者行動と消費社会のあり方をより適切に理解するための視座を提供する。
著者
松井 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.5-19, 2015-09-30 (Released:2020-05-12)
参考文献数
36

本論文では,ことばを通じた市場創造という現象について深く検討するために,筆者が行った調査結果に基づき,博報堂ケトルの嶋浩一郎氏が提案する「社会記号」について検討する。「社会記号」とは,「ロハス」や「コギャル」といった「世の中の新しい動きや事象を言い表すためにメディアがつくる言葉」のことである。この社会記号には,呼称,行為,脅威,カテゴリーの4つの類型があり,また自己確認,同化,寛容,拒絶,規範,課題の6つの機能があることが示される。それぞれの類型について詳細な検討を加えて,動機の語彙・ラベリングという2つの観点から,その役割について検討する。
著者
渡邉 裕也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.18-24, 2023-02-28 (Released:2023-02-28)
参考文献数
24

企業内にイノベーションに貢献するリードユーザーが存在し,その企業内リードユーザーが発案した製品のアイデア評価や,市場での製品パフォーマンスが高いことが明らかになっている。本研究では,企業内リードユーザーの資質を持った小売店舗販売員が,新製品開発において,どのようにイノベーションに貢献しているかを明らかにすることを目的とする。小売店舗販売員は,顧客接点から様々な情報を持ち,企業のイノベーション・プロセスに貢献ができると考えられる。その企業内リードユーザーの特徴を持った小売店舗販売員を活用した新製品開発のケーススタディを行なった。グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した結果,企業内リードユーザーの特性を持つ小売店舗販売員は,個人要因としてのリードユーザー特性を活用し,文脈要因としての企画開発部門との共創を通じて,顧客要因としての自身のニーズと顧客ニーズの融合することにより,新製品開発に貢献していることが確認された。
著者
有賀 敦紀
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.17-26, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
21

製品パッケージは,製品情報や概念などを消費者に効率的に伝達するマーケティング手段として有用である。先行研究では,パッケージ内の製品画像(視覚オブジェクト)が空間的に下に配置されたとき,上に配置されたときよりも,その製品は視覚的に重いと評価された。本研究では,パッケージデザインに基づく重さ知覚に対して,視覚と触覚の双方からアプローチすることを目的とした。研究1では,先行研究の結果を概ね再現することに成功した。研究2では,実験参加者が製品を持ち上げて重さを評価しても,研究1と同様の結果が得られることがわかった。研究3では,参加者が事前に視覚的重さを評価してから製品を持ち上げると,視覚オブジェクトがパッケージ内の下に配置された製品は,上に配置された製品よりも軽いと知覚される傾向が見られた。以上の知見は,製品パッケージの心理的効果は消費者の情報処理方略に依存することを示唆している。
著者
兼子 良久 上田 隆穂
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.6-17, 2022-01-07 (Released:2022-01-07)
参考文献数
34

1990年代後期以降,インターネットの普及,デジタル財の増加,収集可能な情報の増加,AI技術の発展など,情報技術の急速な進歩によって企業を取り巻くマーケティング環境は大きく変化した。これら環境変化を一つの背景に,企業が採用する価格戦略にも変化が生じた。この結果,近年ではダイナミック・プライシングとサブスクリプションが価格戦略の二大潮流になっている。本稿の目的は,情報技術が進歩する1990年代後期以降に採用されるようになった主要な価格戦略を整理し,Tellis(1986)によって示された価格戦略を起点としたプライシングの系譜を示すことにある。本稿では,近年の各価格戦略が採用されるようになった背景とプライシングの系譜に基づき,今後の価格戦略の行く末について述べる。