著者
岩田 英樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.191-203, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
51

目的 本研究は,日本の高校生を対象に,飲酒と喫煙の誘いに対する断り方の特徴,および現在飲酒,現在喫煙との関連について明らかにすることを目的とした。方法 A県の高校5校(男子1,713人,女子785人),2,498人に無記名自記式調査を行った(有効回答率96.1%)。調査項目は,まず,飲酒と喫煙の誘いに対する反応を9種類の断り方から選択させた。また,本人の現在飲酒および現在喫煙(この一か月間)と,飲酒および喫煙の誘いを断る自己効力,友達の飲酒行動および喫煙行動,同世代の飲酒率および喫煙率の見積(記述的規範),とした。解析では,断り方のタイプを明らかにするために因子分析(最尤法,プロマックス回転)を用いた。また,現在飲酒および現在喫煙を従属変数とし,独立変数には男女別,学年,学科,断り方のタイプを強制投入した多重ロジスティック回帰分析を用いた。その際,モデル1では調整変数を投入せず,モデル2では誘いを断る自己効力,モデル3では友達の飲酒行動および喫煙行動と,同世代の飲酒率および喫煙率の見積を調整変数とした。結果 9種類の断り方のうち,最も多かったのが「単純に『いらない』,『いや』などと言う」で,次に「断るための何らかの理由を説明する」が多かった。これは,飲酒と喫煙とで類似した傾向であった。因子分析の結果,3つの最適解(無反応・強硬な断り方,曖昧・切り返し的な断り方,弁明・簡潔な断り方,の3タイプ)が得られた。現在飲酒との関連では,いずれのモデルにおいても「曖昧・切り返し的」な断り方でのみ正の関連が示された(オッズ比(95%CI)=1.77(1.36-2.30),1.66(1.27-2.17),1.59(1.19-2.13))。現在喫煙との関連では,いずれのモデルにおいても「弁明・簡潔な断り方」のみ負の関連が示された(オッズ比(95%CI):0.38(0.22-0.66),0.47(0.25-0.87),0.44(0.23-0.82))。結論 高校生の飲酒と喫煙の誘いに対する断り方は,概ね類似した傾向であった。しかし,現在飲酒や現在喫煙と断り方との関連を分析した結果,断り方と負の相関を示したのは現在喫煙のみで,現在飲酒では認められなかった。
著者
奥野 みどり 上原 徹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.177-189, 2019-04-15 (Released:2019-04-26)
参考文献数
38

目的 保健師がやり取り遊び等を介して乳幼児の社会性や言語発達,微細運動等を評価する半構造化行動観察(Social Attention Communication Surveillance-Japan;以下,SACS-J課題項目)を導入し,自治体乳幼児健康診査(以下,健診)による継続追跡により得られた医学診断を基に,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;以下,ASD)診断との関連を検討した。方法 A町で平成23年・24年に生まれ,1歳半健診および3歳児健診のいずれも受診し,平成28年12月まで追跡できた372人を対象に,15か月,20か月(1歳半健診),27か月,38か月(3歳児健診)の各月齢時期の健診と並行し,SACS-J課題項目を用いて保健師が行動特性を評価した。医学診断によるASD診断群と医学診断に至らない定型発達群の2群について各月齢時期の行動特性との関連を統計的に比較した。結果 医学診断により,ASD診断8人が明らかになった。ASD群と定型発達群の2群を比較したところ,男児が女児に比してASD群の割合が高く[P<.05],「お座り」・「20か月時点での歩行開始」の獲得時期が定型発達群に比してASD群が有意に遅かった[P<.05]。SACS-J課題項目では,各月齢時期に共通して有意差が認められたのは,アイコンタクト(15か月[P<.05],20か月・27か月・38か月[P<.001],共同注意行動(15か月の「視野外の指さし理解」[P<.001],20か月の「大人」[P<.05],「自分」[P<.01],「応答の指さし」[P<.05],27か月の「自発的提示」[P<.001]),言語発達(15か月[P<.01],20か月[P<.01],27か月・38か月[P<.001])であった。微細運動は,15か月[P<.001],27か月[P<.01]において,定型発達群に比してASD群が有意に高かった。結論 保健師による標準化された行動観察評価を1歳半健診前からの早期に導入することで,ASDが疑がわれる児を自治体における公衆衛生活動のレベルで早期に同定し,地域での保健指導や養育発達支援に結び付けられる可能性が示された。
著者
杉本 昌子 槇田 浩祐 吾妻 有貴 福田 典子 先田 功
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.117-124, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
29

目的 マンモグラフィ(MMG)単独検診の推進に向けて,問診内容を含めた住民検診データを用いて,視触診で見つかるMMG非検出乳癌の実態を明らかにし,乳癌との関連要因を検討することで,視触診省略によるMMG非検出乳癌への対応策について示唆を得ることを目的とした。方法 西宮市においてデータ化が可能であった2014, 2016, 2017年度の乳がん個別検診のデータベースから,個人情報をすべて削除し,連結可能匿名化したデータファイルを用いた。MMG非検出乳癌は,視触診判定のみで要精密検査(MMG判定はカテゴリー2以下で異常なし)となった者のうち,精密検査で「乳癌」と診断された者により把握した。乳がん検診の精度管理指標(プロセス指標)は,受診者全体に加え,視触診判定のみで要精密検査となった者についても算出した。乳癌と各項目との関連は,χ2検定またはFisherの正確確率検定等により分析した。結果 受診者13,504人のうち,要精密検査者は1,247人(9.2%)であった。精密検査の結果,乳癌と診断された者は44人(3.5%)であり,このうち,MMG非検出乳癌は4人であった。また,プロセス指標はいずれも許容値を満たしていた。MMG非検出乳癌症例を検討したところ,4例中3例は乳房で気になることとして「しこり」と答えていた。乳癌と各項目との関連を分析した結果,乳癌と有意な関連が認められた項目は,「乳房で気になることの有無」であり,「しこり」と「分泌物」に有意な差異が認められた。結論 MMG非検出乳癌の4例中3例はしこりを自覚しており,しこりと分泌物の自覚症状は乳癌と有意に関連していた。視触診省略によるMMG非検出乳癌への対応策として,これらの自覚症状に着目した受診勧奨の啓発,問診の徹底と観察,医師への伝達など多職種による連携,ならびにブレスト・アウェアネスの普及が重要であることが示された。
著者
田近 敦子 井手 一茂 飯塚 玄明 辻 大士 横山 芽衣子 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.136-145, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
33

目的 厚生労働省は2014年の介護保険法改正を通じて,本人を取り巻く環境へのアプローチも含めた取組も進めるとし,通いの場づくりを中心とした一般介護予防事業を設けた。しかし,通いの場への参加による介護予防の効果を複数の市町を対象に検証した報告は少ない。本研究の目的は通いの場参加による要支援・要介護リスクの抑制効果を10道県24市町のデータを用い検証することである。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が10道県24市町在住の要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013・2016年度の2時点の自記式郵送調査データを用いた。目的変数は要支援・要介護リスク評価尺度(Tsuji, et al., 2018)の合計点数(以下,要介護リスク点数)5点以上の悪化とし,説明変数は通いの場参加の有無とした。調整変数は2013年度の教育歴,等価所得,うつ,喫煙,飲酒,手段的日常生活動作,2013年度の要介護リスク点数(性・年齢を含む),さらに独居と就業状況を加えた9変数とした。統計学的分析は全対象者,および前期・後期高齢者で層別化したポアソン回帰分析(有意水準5%)を行った。感度分析として,要介護リスク点数を3点,7点以上の悪化とする分析も行った。結果 対象者3,760名のうち参加者は全体で472人(前期高齢者316人,後期高齢者156人),12.6%(11.8%,14.5%)であった。参加なしに対して参加あり群における要介護リスク点数5点以上の悪化の発生率比は全対象者で0.88(95%信頼区間:0.65-1.18),前期高齢者で1.13(0.80-1.60),後期高齢者で0.54(0.30-0.96)となり,後期高齢者で有意であった。また,要介護リスク点数3点や7点以上の悪化を目的変数とした感度分析でも同様の結果であった。結論 非参加者と比較し,通いの場参加者において,要介護リスク点数5点以上の悪化は,後期高齢者で46%抑制されていた。とくに後期高齢者が多い地域に対して通いの場づくりを進め参加者を増やすことが,介護予防を推進する上で有効である可能性が示唆された。
著者
戸ヶ里 泰典 阿部 桜子 井上 洋士
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.146-157, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
27

目的 本研究は日本国内の成人男女を対象として,第1にHIV陽性者に対するパブリックスティグマの実態,第2に標語「Undetectable=Untransmittable(ウイルス量検出限界値未満なら感染しない:U=U)」に関する情報とパブリックスティグマとの関連,第3にパブリックスティグマの変化とHIV陽性者に向き合ってきた経験との関連を明らかにすることを目的とする。方法 国内インターネット調査会社モニターを対象として,性的指向がヘテロセクシャルで,HIV陽性でなく,知り合いにHIV陽性者がいない20歳代から60歳代の男女を対象とした横断研究デザインのオンライン調査を2019年9月に実施し,2,268人を分析対象とした。パブリックスティグマは精神障害者向けのビネットをHIV陽性者向けに改変した社会的距離尺度により測定した。社会的距離は,「隣近所になる」「あいさつしたり話したりする」「自分の子どもや知り合いの子どもの世話を頼む」など6項目とした。回答者に「U=U」に関する情報を提供し,提供前後での社会的距離の各項目の受け入れの変化を「非受入のまま」「受入⇒非受入」「非受入⇒受入」「受入のまま」の4カテゴリで扱った。結果 「あいさつしたり話したりする」以外の項目では情報提供により社会的距離は短縮された(男性のオッズ比1.76~4.18,女性のオッズ比2.25~7.00)。また,「非受入のまま」が多かった項目は「あなたの親せきと結婚する」が男性で57.5%,女性で58.1%,次いで「自分の子どもや知り合いの子どもの世話を頼む」が男性で37.0%,女性で37.3%であった。多項ロジスティック回帰分析の結果,男女ともに「あなたの親せきと結婚する」については男女ともにHIV陽性者と向き合った経験が関連しており,「受入のまま」に比して「非受入のまま」はHIV陽性者に関するテレビ・ラジオなどの番組視聴,映画や演劇の観劇,小説や本の読書の経験が少なかった(男性オッズ比0.38~0.63,女性オッズ比0.50~0.56)。結論 HIV陽性者に対する社会的距離は,家族や子育てなどプライベート面で遠い傾向にあること,「U=U」の説明により社会的距離は各項目で短縮化する可能性が高いこと,HIV陽性者に対しメディア視聴・鑑賞,読書など主体性のある経験が社会的距離の近さに関連することが分かった。
著者
久保 秀一 井上 孝夫 山崎 彰美 羽田 明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.340-349, 2011-05-15
参考文献数
29

<b>目的</b>&emsp;本研究の目的は,子どもを持つ両親の喫煙における社会経済的要因の関与の有無を明らかにすることである。<br/><b>方法</b>&emsp;千葉県西部の 3 市に住む小学校 4 年生を持つ保護者4,179人全員に対し,少子化対策を目的とした無記名自記式の質問紙調査を行った。本研究では母親がいると回答し,子ども数,喫煙,結婚に関する回答があった3,522人(84.2%)を対象とした。<br/><b>結果</b>&emsp;母親の喫煙率は21.2%であった。母親の喫煙と関連する要因としては,&ldquo;配偶者がいない&rdquo;,&ldquo;配偶者の喫煙&rdquo;,&ldquo;母親が35歳未満&rdquo;,&ldquo;育児休暇を利用していない&rdquo;,&ldquo;母親の両親が健在でない&rdquo;,&ldquo;千葉県出身,&ldquo;保育園の利用&rdquo;,&ldquo;子育てサークルを利用しない&rdquo;,&ldquo;麻しんワクチンの未接種&bull;接種不明&rdquo;,&ldquo;生活に対して不満足なこと&rdquo;であった。<br/>&emsp;父親の喫煙率は51.4%であった。父親の喫煙と関連する要因としては,&ldquo;配偶者の喫煙&rdquo;,&ldquo;父親が35歳未満&rdquo;,&ldquo;父親の職業が労務技能&bull;販売サービス&rdquo;,&ldquo;父親の勤務先が民間企業1,000人未満&rdquo;であった。<br/><b>結論</b>&emsp;両親の喫煙行動に社会経済的要因の関与が認められた。とくに配偶者の喫煙の有無と母親の配偶者の有無は強い関連性が示された。
著者
平島 賢一 樋口 由美 柳澤 幸夫 鶯 春夫 澁谷 光敬
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.59-66, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
34

目的 近年,高齢ドライバーの免許証自主返納者は増加しているが,自動車は地方都市における住民の主な移動手段としての役割を担っており,免許証返納後の身体機能や生活に対する影響は大きいと考える。そこで本研究では,徳島県内の高齢ドライバーを対象に,免許証自主返納が活動性低下を招き,運動機能および認知・精神機能の低下を惹起するという仮説を予備的検証することとした。方法 対象者は,免許証の返納日まで日常的に週2回以上の運転を継続していた高齢者17人(平均年齢80.2歳,返納群)と,運転を継続している高齢者23人(76.9歳,運転継続群)とした。調査測定はベースラインと3か月後に実施し,活動性の評価は活動量計による3か月間の実測とLife Space Assessment(LSA)を用いた。運動機能と認知・精神機能の評価は,握力,Timed Up and Go testおよびMini-Mental State Examination(MMSE),Geriatric Depression Scale(GDS)を用いた。返納群には免許証返納に関するアンケート調査も実施した。統計解析は評価時期と2群に対して二元配置分散分析を実施した。結果 活動性の指標としたLSAの合計得点は有意な交互作用(P<0.01)を認め,返納群では3か月後に有意に低下した。一方,活動量計による歩数は有意な変化を示さなかった。運動機能および認知・精神機能のいずれの指標にも有意な交互作用を認めなかったが,MMSEとGDSで群の有意な主効果を認め,返納群が運転継続群に比して不良な成績であった。結論 徳島県在住の高齢ドライバーにおける免許証返納3か月後の変化は,日常生活における行動範囲の狭小化を認めた。運動機能および認知・精神機能の低下は観察されなかった。免許証を返納した高齢者は,自動車に代わる移動手段の速やかな確保が必要であると思われた。
著者
西田 和正 河合 恒 伊藤 久美子 江尻 愛美 大渕 修一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.17-25, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
26

目的 2015年度に介護予防・日常生活支援総合事業が導入され,住民主体の介護予防活動は,より重要性が増している。自治体の介護予防事業においても,終了後に参加者を住民主体の介護予防活動へ効果的に繋げることが必要である。本研究では住民主体の介護予防活動への参加を促進する取り組みを行った介護予防事業終了者の,その後の住民主体の介護予防活動への参加要因を明らかにすることを目的とした。方法 東京都A区の一般介護予防事業の2教室を対象とした。この教室では,心身機能改善とともに事業終了後の参加者の自主グループ化を支援するための学習やグループワークを導入している。本研究では,2016・2017年度に同事業参加者に対して実施した,事業開始3か月後(以下,T1)と事業終了6か月後(以下,T2)の自記式アンケートを分析した。有効回答数は216人(男性:51人,女性:165人,年齢:65-95歳)であった。T1では参加教室,健康度自己評価,基本チェックリスト,ソーシャル・キャピタルの「近隣住民との交流」,「グループや団体への参加の有無」,「近隣住民への信頼」,「近隣住民が他の人の役に立とうとすると思うか」を調査した。T2では住民主体の介護予防活動として,介護予防自主グループへの参加の有無を調査した。住民主体の介護予防活動への参加の有無と調査項目との関連をロジスティック回帰分析で検討した。結果 参加群は113人(52.3%),不参加群は103人(47.7%)であった。住民主体の介護予防活動への参加の有無を従属変数,各調査項目を独立変数として個別に投入した単変量のモデルでは,「参加教室」(オッズ比:0.31,95%信頼区間:0.15-0.63,P=0.001),「近隣住民への信頼」(オッズ比:5.30,95%信頼区間:1.46-19.16,P=0.011)が介護予防活動への参加と有意に関連していた。すべてを独立変数として投入した多変量のモデルでは,「参加教室」(オッズ比:0.29,95%信頼区間:0.14-0.62,P=0.001)が有意な関連要因であった。結論 事業における積極的な取り組みを通して約5割が住民主体の介護予防活動へ繋がっていた。住民主体の介護予防活動参加の関連要因は,「参加教室」であり,教室の開催頻度などプログラムの内容が事業終了後の住民主体の介護予防活動参加に影響すると考えられた。
著者
上野 恵子 西岡 大輔 近藤 尚己
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.48-58, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
29

目的 近年,生活保護制度の被保護者への健康管理支援の重要性が指摘され,施策が打たれている。本研究は,2021(令和3)年に全国の福祉事務所で必須事業となった「被保護者健康管理支援事業」に対して福祉事務所が抱える期待や懸念,および国・都道府県への要望を明らかにすることを目的とした。方法 2019年11月,機縁法により選定された23か所の福祉事務所に,質問紙調査を依頼した。質問紙では,健康管理支援事業の実施に際して期待する点ならびに懸念する点,国・都道府県から受けたい支援を自由記述で回答を求めた。次いで2019年11月から2020年2月にかけて,福祉事務所でヒアリング調査を実施した。ヒアリング調査では,質問紙項目に記載が不十分な回答,回答の補足事項や不明点を調査票の内容に沿って聞き取りを実施した。結果 16か所の福祉事務所から調査票の回答およびヒアリング調査の承諾を得た(同意割合69.6%)。福祉事務所担当者は健康管理支援事業が被保護者の健康意識・状態を改善し,被保護者のみならず他住民への取り組みとしても実施されることを期待していた。また,困難を感じている点として,実施体制の構築,事業の評価指標・対象者の設定,保健医療専門職の確保が示唆された。国・都道府県への要望としては,評価指標・基準の提示,標準様式の提供,参考となる事業事例の紹介,福祉事務所間や地域の他の関係機関との連絡調整,情報共有の場の提供,財源の確保などが挙げられた。結論 健康管理支援事業の円滑な実施を推進するためには,自治体と国ならびに都道府県が連携を深めるとともに,重層的な支援体制の構築が求められている。
著者
杉浦 圭子 村山 洋史 野中 久美子 長谷部 雅美 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.37-47, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
27

目的 最長職は高齢期の健康状態や生活の質に関連すると報告されている。本研究では,主として就労支援の観点から,最長職の就労形態および業種と,現在の就労状況および就労理由との関連を明らかにすることを目的とした。方法 東京都大田区入新井地区に居住する65歳以上の者のうち,要介護度4以上,施設入所中の者等を除いた8,075人全数に対し,2015年8月に郵送による無記名自記式質問紙調査を実施した。調査票では基本属性,生活状況,現在の就労状況および最長職の就労形態と業種を尋ねた。また,現在就労している者については就労理由を尋ねた。分析は現在の就労状況(「常勤」「非常勤」「就労なし」)を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析を,就労理由については個々の理由の該当有無を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 5,184件の調査票を回収し(回収率64.2%),5,050件を分析対象とした。最長職の就労形態は,正規の職員・従業員が最も多く42.7%で,業種は販売・サービス職が最も多かった(24.2%)。常勤,非常勤を含め現在の就労者は約3割だった。常勤・非常勤を含めた就労者のうち,その就労理由を尋ねると「生活のための収入を得るため」が最も多く約3割を占め,次いで「健康のため」「生きがいを得るため」「社会貢献・つながりを得るため」であった。現在就労している者の最長職の業種は,常勤では自営業主・自由業,会社・団体などの役員が多く,非常勤では専門職が多かった。就労していない者は正規の職員・従業員および無職(専業主婦含)が多かった。現在就労している理由を「生活のための収入を得るため」とした者は,最長職の就労形態については自営業主・自由業が,業種については労務系職種が多く,「健康のため」「生きがいを得るため」「社会貢献・人とのつながりを得るため」を理由としていた者は,最長職が正規の職員・従業員が,会社・団体などの役員,業種については事務系・技術系職種が多かった。結論 最長職の就労形態や業種によって現在の就労状況や就労理由が異なることが明らかとなった。高齢者の就労や社会参加が円滑に推進されるためには,高齢期の健康状態や生活の質に関連が深い最長職を含め,生活背景などの個別性を加味する必要性があると考える。
著者
久保 彰子 大原 直子 焔硝岩 政樹 積口 順子 須藤 紀子 笠岡(坪山) 宜代 奥田 博子 澁谷 いづみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.344-355, 2020

<p><b>目的</b> 本研究は,災害時の栄養・食生活支援について,対人サービスに係る被災者の健康管理支援と対物サービスに係る被災者への提供食の準備状況を明らかにすることと準備における行政管理栄養士等の関わりの状況を検討することを目的とした。</p><p><b>方法</b> 2018年9月,全国1,741市区町村の防災担当課宛に大規模災害時の栄養・食生活支援に係る準備状況を尋ねる質問紙調査を依頼した。防災担当課で回答が難しい質問は関係各課に照会し回答するよう求めた。基本集計の他,地域防災計画等策定への行政管理栄養士等の参画の有無および常勤行政管理栄養士等の配置の有無と質問項目との関連をピアソンのカイ二乗検定で調べた。</p><p><b>結果</b> 1,056市区町村から回答があった(回収率60.7%)。栄養・食生活支援を計画等へ記載している市区町村は52.8%,要配慮者の把握の防災計画等への記載は35.9%だった。要配慮者に対応した固定備蓄として,おかゆを備えているのは28.2%,乳児用粉ミルクは30.8%,アレルギー対応食は20.9%であった。炊き出しを提供する市区町村は82.1%だが献立基準を設定しているのは5.2%,弁当等を事前協定している市区町村は32.6%,献立基準を設定しているのは0.9%と少なかった。常勤行政管理栄養士等の発災時の従事内容は,要配慮者への支援33.2%,炊き出し又は弁当等の献立作成や助言39.3%だった。管理栄養士等の応援要請を記載している市区町村は29.0%と少なく,応援要請しない理由は,どのような活動をしてもらえるのかわからないが33.6%と最も多かった。地域防災計画等に行政管理栄養士等が参画したところは,栄養・食生活支援の記載や食事調査の実施,食事調達や炊き出し等の関係部署との連携が多かった。常勤行政管理栄養士等が配置されているところは,それらに加え流通備蓄や食料の衛生保管および適温提供の機器整備も多かった。</p><p><b>結論</b> 栄養・食生活支援に関する記載や要配慮者に対応した食品備蓄は以前より増加したが,炊き出しは減少した。要配慮者に対応した食事提供や炊き出しおよび弁当等の献立基準の作成等,行政管理栄養士等の関与が必要な準備について防災担当課等との連携不足が示唆され,積極的な関与が必要と考えた。一方,常勤行政管理栄養士等が未配置の市区町村は,管理栄養士を活用した食事提供支援の準備をすすめるために適正な配置が望まれた。</p>
著者
田中 宏和
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.276-285, 2021

<p><b>はじめに</b> 2019年末に中華人民共和国湖北省武漢市で初報告された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はわずか数か月で世界的に拡大し,欧州でも多くの感染者を出した。本稿はオランダにおける2020年7月末までの感染拡大とその対応についてまとめ,新興感染症による公衆衛生の海外での体験を一例として共有することを目的とした。</p><p><b>疫学</b> 2020年2月27日に初めての新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから感染が急拡大し,第一波は新規感染者・死亡者ともに4月10日ごろにピーク(日別新規感染者1,395人,日本の人口換算で約10,000人)を迎えた。その後,感染拡大は収束したが5月31日時点で感染者46,422人,入院患者11,735人,死亡者5,956人が累計で報告された。死亡のほとんどが60歳以上で発生し,男性は80-84歳で,女性は85-89歳でそれぞれピークとなっていた。地理的な広がりとしてはアムステルダム・ロッテルダムといった都市圏での感染者は相対的に少なく,南部の北ブラバント州・リンブルフ州で多かった。</p><p><b>オランダ政府の対応</b> オランダ政府の対策の特徴は,最初の感染者の確認からわずか2週間で全国的な都市封鎖に追い込まれたこと,比較的緩やかな都市封鎖措置と行動制限を実施したこと,社会・経済活動の再開までに約3か月を要したことが挙げられる。2020年3月12日から段階的に全国的な対策を施行し,3月下旬にルッテ首相がインテリジェント・ロックダウン(Intelligent Lockdown)と呼ぶオランダ式の新型コロナウイルス感染防止対策が形成された。5月中旬以降,子どもに対する規制が緩和されたが対策措置の多くは6月中旬まで続き,段階的な緩和をもって社会・経済活動が再開,7月1日にほぼすべての規制が解除された。それ以降,在宅勤務の推奨,1.5メートルの社会的距離を取ることや公共交通機関でのマスク着用義務化など新しい日常への模索が続いている。</p><p><b>おわりに</b> オランダにおける感染拡大防止策は多様性と寛容に裏打ちされたオランダの国民性を体現したものだったが,感染者数および死亡者数は日本より深刻な状況であった。健康危機管理に関する他国の政策の評価には公衆衛生や医療資源の評価とともに,その背景にある社会の特徴を考慮することが重要である。</p>
著者
野尻 純子 柳川 敏彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.237-245, 2019

<p><b>目的</b> 本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)を疑われた児の母親に対してステッピングストーンズ・トリプルP(以下SSTP)を実施し,その効果を明らかにすることとした。</p><p><b>方法</b> 対象は,A市の健診後に発達支援教室を利用する児の母親36人であった。児は2歳から6歳で,広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(以下PARS)が9点以上でASDが疑われた。対象者を介入群と対照群の2群に無作為に割り振り,両群にSSTPを実施した。介入群から介入前後と3か月後,対照群から介入2か月前と介入前後に各々3回ずつ質問紙の回答を得た。質問紙は,親が報告する子どもの困難な行動(SDQ),親の子育てスタイル(PS),夫婦間の関係の質と満足度(RQI),親の子どもへの不適切な行為(JM)の4つの尺度であった。介入前後の効果を介入群と対象群の1回目と2回目の尺度得点を用いた共分散分析で求め,介入3か月後の効果を介入群内の3回の尺度得点を用いた分散分析でそれぞれ調べた。</p><p><b>結果</b> 児の平均年齢は3.7±1.4歳,PARS平均得点は20±6.8点のASDを疑われた児であり,児の発達指数(DQ)の全領域平均は76.1±18.8点で知能は境界域にあった。介入前後で得点分布に有意差があったものは,SDQ(行動問題,難しさの合計),PS(過剰反応,多弁さ,総合スコア),JMであり,RQIに有意差は見られなかった。介入後3か月後時点では,介入群内においてSDQ(行動問題,難しさの合計,過剰活発),PS(すべての項目)で1回目と3回目で有意差があった。</p><p><b>結論</b> SSTPを受けることで親の子育てに良い変化がみられ,児の問題行動が改善され,育てにくさが減少した。叩くなどの児への不適切な行為に改善が見られたことで,SSTPが親の養育態度の変化につながることが示唆された。</p>
著者
中村 美詠子 近藤 今子 久保田 晃生 古川 五百子 鈴木 輝康 中村 晴信 早川 徳香 尾島 俊之 青木 伸雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.881-890, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
17
被引用文献数
4

目的 本研究は,児童生徒における「学校に行きたくないとしばしば感じる気持ち」(以下,不登校傾向)の保有状況と自覚症状,生活習慣関連要因との関連を横断的に明らかにすることを目的とする。方法 平成15年11月に小学校 2・4・6 年生,中学校 1 年生,高等学校 1 年生の5,448人と小学生の保護者1,051人を対象として実施された静岡県「子どもの生活実態調査」のデータを用いた。自記式の調査票により,児童,生徒の不登校傾向,自覚症状,生活習慣,および小学生の保護者の生活習慣を把握した。結果 有効な回答が得られた小学生2,675人,中学生940人,高校生1,377人,小学生の保護者659人について分析を行った。不登校傾向は,男子小学生の11.4%,男子中学生の12.1%,男子高校生の25.3%,女子小学生の9.8%,女子中学生の19.6%,女子高校生の35.9%にみられた。不登校傾向を目的変数,自覚症状,生活習慣関連要因をそれぞれ説明変数として,性別,小学(学年を調整)・中学・高校別に,不登校傾向と各要因との関連を多重ロジスティック回帰分析により検討した。男女ともに,小学・中学・高校の全てでオッズ比(OR)が統計学的に有意に高かったのは,活力低下(OR: 3.68~8.22),イライラ感(OR: 3.00~6.30),疲労倦怠感(OR: 3.63~5.10),朝眠くてなかなか起きられない(OR: 1.98~2.69)であり,また強いやせ希望あり(OR: 1.83~2.97)のオッズ比は中学男子(OR: 2.09, 95%信頼区間:0.95–4.60)以外で有意に高かった。一方,小学生において保護者(女性)の生活習慣関連要因と不登校傾向との間に有意な関連はみられなかった。結論 不登校傾向の保有状況は小学生では男女差は明らかではないものの,中高生では女子は男子より高かった。また,不登校傾向は,不登校者においてしばしば観察されるような様々な自覚症状と関連していた。
著者
岩崎 正則 角田 聡子 安細 敏弘
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.865-875, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
22

目的 継続的な口腔管理,定期的な歯科受診は口腔の健康維持に重要である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により,感染への不安から医療機関への受診を控えるケースが報告されている。定期歯科受診による管理下にあった口腔の状態が,COVID-19感染拡大にともなう定期管理の中断により,どのように変化するかは明らかとなっていない。本研究は,高校生を対象に,学校健康診断(学校健診)のデータと学校健診と同時に実施した質問紙調査から得られたデータを用いて,COVID-19流行下の定期的歯科受診の状況と口腔の状態の変化を検討することを目的とした。方法 福岡県内の高等学校1校に在学する高校生のうち2019年度の1年生,2年生であった者878人を解析対象とした。COVID-19流行下での定期的歯科受診の状況,歯科医療機関受診に対する不安について質問紙により調査した。2019年度および2020年度学校健診結果にもとづく永久歯の状態と歯肉の状態の変化と定期的歯科受診の状況の関連をロバスト標準誤差を推定したポアソン回帰分析を用いて評価した。結果 対象者878人中,417人(47.5%)が定期歯科受診未実施,320人(36.4%)がCOVID-19流行下での定期歯科受診継続,141人(16.1%)が定期歯科受診中断であった。定期歯科受診中断群では,歯科医療機関受診に不安を抱いている者の割合が30.5%であり,有意に高かった。2019年度の歯科健診時に歯肉の炎症がない者521人における,2020年度の歯科健診時に歯肉の炎症を有する者の割合は,定期歯科受診未実施群で31.0%,定期歯科受診継続群で20.2%,定期歯科受診中断群で38.2%であった。定期受診継続群と比較して,定期歯科受診中断群および定期歯科受診未実施群では,歯肉の炎症を有する者の割合が有意に高く,共変量調整後の発生率比(95%信頼区間)は定期歯科受診中断群で1.95(1.34-2.84),定期歯科受診未実施群で1.50(1.07-2.10)であった。定期歯科受診中断と永久歯の状態の変化の間には有意な関連はなかった。結論 本研究の結果から定期歯科受診の中断と歯科医療機関受診への不安感は有意に関連していること,定期歯科受診中断者では学校健診時に新たに歯肉の炎症を有する者の割合が高いことが示された。
著者
田村 元樹 服部 真治 辻 大士 近藤 克則 花里 真道 坂巻 弘之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.899-913, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
38

目的 本研究は,うつ発症リスク予防に効果が期待される65歳以上の高齢者のボランティアグループ参加頻度の最適な閾値を傾向スコアマッチング法を用いて明らかにすることを目的とした。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が24市町村に在住する要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013年と2016年の2時点の縦断データを用いた。また,2013年にうつ(Geriatric Depression Scale(GDS-15)で5点以上)でない人を3年間追跡し2013年のボランティアグループに年1回以上,月1回以上もしくは週1回以上の参加頻度別に,2016年に新たなうつ発症のオッズ比(OR)を,傾向スコアマッチング法とt検定などを用いて求めた。結果 参加群は,年1回以上で9,722人(25.0%),月1回以上で6,026人(15.5%),週1回以上で2,735人(7.0%)であった。3年間のうつの新規発症は4,043人(10.5%)であった。傾向スコアを用いたマッチングでボランティアグループ参加群と非参加群の属性のバランスを取って比較した結果,月1回以上の頻度では参加群は非参加群に比べて,Odds比[OR]0.82(95%信頼区間:0.72, 0.93)と,うつ発症リスクは有意に低かった。年1回以上の参加群ではORが0.92(0.83, 1.02),および週1回以上では0.82(0.68, 1.00)であった。結論 高齢者のボランティアグループ参加は,月1回以上の頻度で3年後のうつ発症リスクを抑制する効果があることが示唆された。高齢者が月1回でもボランティアとして関わることができる機会や場所を地域に増やすことが,うつ発症予防対策となる可能性が示唆された。
著者
根本 裕太 桜井 良太 松永 博子 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.888-898, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
23

目的 自然災害時において,情報通信技術(ICT)機器を用いることで,迅速に多様な情報を収集できる。本研究では性別・年齢階級別のICT機器利用状況を示し,ICT機器利用者における自然災害時に想定される情報収集の特徴を明らかにすること,インターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因を解明することを目的とした。方法 東京都府中市の18歳以上の住民21,300人を対象に郵送調査を実施した。ICT機器は,パソコン,スマートフォン,タブレット端末,携帯電話の利用状況を調査し,いずれかの機器を利用する者をICT機器利用者とした。自然災害時に想定される情報収集手段として,テレビ,ラジオ,インターネット検索,緊急速報メール,防災行政無線,行政機関のホームページ,近隣住民,家族,友人から該当するものをすべて選択してもらった。このうち,インターネット検索,緊急速報メール,行政ホームページを,インターネットを介した情報収集手段とした。ICT機器利用割合の性差と年齢階級差ならびにインターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因を検討するため,ロバスト分散を用いたポアソン回帰分析を実施した。結果 9,201人(回答率43.2%)から有効回答を得た。ICT機器利用者は,70歳未満では95%程度以上,80歳以上では女性66.7%,男性70.6%であった。ICT機器利用者の災害時に想定される情報収集手段は,インターネット検索を選択した者は,女性では60歳未満,男性では70歳未満の70%以上であったが,80歳以上の女性では7.8%と低かった。インターネットを介した情報収集手段に関連する人口統計学的要因は,インターネット検索では,女性,世帯収入が高い者,教育年数が長い者,配偶者がいない者で選択する者が多く,同居者がいる者や高年層,とくに高齢女性では少なかった。緊急速報メールを選択した者は,女性,教育年数が長い者で多く,高年層,配偶者がいない者では少なかった。行政ホームページを選択した者は,女性,教育年数が長い者で多く,同居者がいない者,配偶者がいない者や高年層,とくに高齢女性で少なかった。結論 ICT機器利用者における災害時に想定される情報収集手段は性や年齢階級により異なることが示され,インターネットを介した情報収集手段に関連する要因は情報収集手段によって異なることが示唆された。
著者
LINGLING 辻 大士 長嶺 由衣子 宮國 康弘 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.925, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)

第67巻第11号(2020年11月15日発行)「LINGLING,他.高齢者の趣味の種類および数と認知症発症:JAGES 6年縦断研究」において,以下の箇所に誤りがありました。お詫びとともに下記のとおり訂正いたします。P800 筆者•共著者の所属•責任著者連絡先の修正 下線部が訂正箇所誤Ling LING∗,辻 大士2∗,長嶺由衣子2∗,3∗,宮國 康弘4∗,5∗,近藤 克則2∗,4∗ ∗千葉大学大学院医薬学府先進予防医学共同専攻博士課程 2∗筑波大学体育系 3∗東京医科歯科大学医学部付属病院総合診療科 4∗国立長寿医療研究センター老年学•社会科学研究センター老年学評価研究部 5∗医療経済研究機構研究部責任著者連絡先:〒260-8670 千葉市中央区亥鼻1-8-1 千葉大学大学院医薬学府Ling LING正LINGLING∗,辻 大士2∗,長嶺由衣子3∗,6∗,宮國 康弘4∗,5∗,近藤 克則4∗,6∗ ∗千葉大学大学院医学薬学府先進予防医学共同専攻博士課程 2∗筑波大学体育系 3∗東京医科歯科大学医学部付属病院総合診療科 4∗国立長寿医療研究センター老年学•社会科学研究センター老年学評価研究部 5∗医療経済研究機構研究部 6∗千葉大学予防医学センター責任著者連絡先:〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 千葉大学大学院医学薬学府LINGLINGP810 筆者•共著者の所属 下線部が訂正箇所WrongLing LING∗, Taishi TSUJI2∗, Yuiko NAGAMINE2∗,3∗, Yasuhiro MIYAGUNI4∗,5∗, Katsunori KONDO2∗,4∗ ∗Docter Course in Graduate School of Medical and Pharmaceutical Sciences, Chiba University 2∗Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba 3∗Department of Family Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University 4∗Department of Gerontological Evaluation, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology 5∗Research Department, Institute for Health Economics and PolicyCorrectLINGLING∗, Taishi TSUJI2∗, Yuiko NAGAMINE3∗,6∗, Yasuhiro MIYAGUNI4∗,5∗, Katsunori KONDO4∗,6∗ ∗Doctor Course in Graduate School of Medical and Pharmaceutical Sciences, Chiba University 2∗Faculty of Health and Sport Sciences, University of Tsukuba 3∗Department of Family Medicine, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University 4∗Department of Gerontological Evaluation, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology 5∗Research Department, Institute for Health Economics and Policy 6∗Center for Preventive Medical Sciences, Chiba University
著者
吉岡 京子 藤井 仁 塩見 美抄 片山 貴文 細谷 紀子 真山 達志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.876-887, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
39

目的 本研究の目的は,保健師が策定に参画した保健医療福祉計画(以下,計画とする。)の実行段階における住民との協働に関連する要因を解明し,地域全体の健康レベルの向上に貢献できる保健活動への示唆を得ることである。方法 研究の概念枠組みとしてPlan-Do-Check-Act(以下,PDCAとする。)サイクルを用いた。本調査で焦点を当てた計画の実行段階は「Do」に相当するため,調査項目は「Plan」の段階の内容を中心に構成し,計画の実行段階における住民との協働をどの程度取り入れたか,回答者の属性,計画策定への参画状況,組織要因,計画策定の際に用いた方策を含めた。調査対象者は,地方自治体に勤務する常勤保健師のうち,保健師活動指針が発出された2013年以降に計画策定に参画した経験を有する者とした。協力意思を示した220地域(36都道府県,41保健所設置市,153市町村)に2,185人分の調査票を2019年10月~11月に郵送した。二項ロジスティック回帰分析により,住民との協働を取り入れたことと独立変数との関連について検討した。結果 1,281人から回答を得た(回収率58.6%)。2013年以降に計画策定の経験がなかった203人と欠損値の多かった50人を除く1,028人について分析した(有効回答率47.0%)。計画の実行段階で住民との協働を「全く取り入れなかった」と回答した者は125人(12.2%),「あまり取り入れなかった」者は293人(28.5%),「少し取り入れた」者は482人(46.9%),「とても取り入れた」者は128人(12.4%)だった。二項ロジスティック回帰分析の結果,係長級以上の職位に就いていること,健康増進計画の策定への参画,住民へのアンケート調査やグループワークの実施,ワーキンググループや計画策定委員会の委員への住民の参加,すでに発表されている研究成果の活用,ターゲット集団の設定および計画実施の進捗管理の実施が,住民との協働を取り入れたことと有意に関連していた。結論 保健師が,計画の実行段階における住民との協働を進めていくためには,地域の健康・生活課題解決に向けて住民の声やエビデンスに基づく計画を策定し,確実に実行されるように進捗管理を行う必要性が示唆された。
著者
岩澤 聡子 道川 武紘 中野 真規子 西脇 祐司 坪井 樹 田中 茂 上村 隆元 道川 武紘 中島 宏 武林 亨 森川 昭廣 丸山 浩一 工藤 翔二 内山 巌雄 大前 和幸
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-43, 2010-01-15
参考文献数
7

<b>目的</b>&emsp;2000年 6 月に三宅島雄山が噴火し,二酸化硫黄(SO<sub>2</sub>)を主とする火山ガス放出のため同年 9 月に全住民に島外避難命令が出された。火山ガス放出が続く中,火山ガスに関する健康リスクコミュニケーションが実施され,2005年 2 月に避難命令は解除された。本研究では,帰島後 1 年 9 か月経過した時点における,SO<sub>2</sub> 濃度と小児の呼吸器影響の関連について,2006年 2 月から11月の 9 か月間の変化を検討した。<br/><b>方法</b>&emsp;健診対象者は2006年11月時点で,三宅島に住民票登録のある19歳未満の住民を対象とした。そのうち,受診者は,141人(受診率50.4%)で,33人は高感受性者(気管支喘息などの気道過敏性のある呼吸器系疾患を持つ人あるいはその既往のあり,二酸化硫黄に対し高い感受性である人)と判定された。<br/>&emsp;健康影響は,米国胸部疾患学会の標準化質問票に準拠した日本語版の自記式質問票により,呼吸器に関する自覚症状調査,生活習慣,現病歴,既往歴等の情報を収集した。努力性肺活量検査は,練習の後,1 被験者あたり 3 回本番の測定を実施した。<br/>&emsp;環境濃度は,既存の地区名を一義的な括りとし,当該地区の固定観測点での SO<sub>2</sub> モニタリングデータをもとに,避難指示解除より健診までの22か月間のデータについて,その平均値により居住地域を低濃度地区(Area L),比較的曝露濃度の高い 3 地域(H-1, H-2, H-3)と定義し,SO<sub>2</sub> 濃度(ppm)はそれぞれ0.019, 0.026, 0.032, 0.045であった。<br/><b>結果</b>&emsp;自覚症状では,「のど」,「目」,「皮膚」の刺激や痛みの増加が,Area L と比較すると,H-3 で有意に訴え率が高かった。呼吸機能検査では,2006年 2 月と2006年11月のデータの比較において,高感受性者では%FVC,%FEV1 で有意に低下(<i>P</i>=0.047, 0.027)していたが,普通感受性者では低下は認めなかった。<br/><b>結論</b>&emsp;高感受性者では呼吸機能発達への影響の可能性も考えられ,注目して追跡観察していくべきである。