著者
久保 彰子 久野 一恵 丸山 広達 月野木 ルミ 野田 博之 江川 賢一 澁谷 いづみ 勢井 雅子 千原 三枝子 仁科 一江 八谷 寛
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-020, (Released:2022-06-30)
参考文献数
15

目的 新型コロナウイルス感染症の蔓延により2020年度および2021年度の国民健康・栄養調査が中止され,都道府県の調査も中止または延期が予想されたため,日本公衆衛生学会公衆衛生モニタリング・レポート委員会生活習慣病・公衆栄養グループでは都道府県民健康・栄養調査の実施状況を調査し,公衆衛生施策立案のために必要なデータ収集の現状と課題を検討した。方法 47都道府県の調査担当者を対象に,郵送もしくは電子媒体による自記式質問紙調査を実施した。結果 47都道府県(回収率100%)から回答が得られた。健康・栄養調査を実施しているのは44自治体(93.6%)であった。新型コロナウイルス感染症の影響から2020年度調査予定の18自治体のうち「予定通りの内容で実施した」は2(11.1%)「中止した」は16(88.9%)であった。2021年度調査予定の31自治体のうち「予定通りの内容で実施した」は4(12.9%)「内容を一部変更して実施した」は5(16.1%)「中止した」は22(71.0%)であった。今後の調査方法について,身体状況調査実施の32自治体のうち「変更する予定はない」は6(18.8%)「未定」は18(56.3%)であった。栄養摂取状況調査実施の40自治体のうち「変更する予定はない」は12(30.0%)「未定」は19(47.5%)であった。2か年とも調査を中止した13自治体の各種計画評価は「各種計画期間を延長する」8(61.5%)「その他」7(53.8%)であった。2か年に調査を中止または延期した38自治体のうち,各種計画評価に関する問題点は「調査法の変更に伴う経年評価が不可能になる」「コロナ禍でのライフスタイル変化の影響が想定される」「評価に影響はないが評価期間が短縮となる」「国民健康・栄養調査中止により全国比較が不可能である」等があげられた。結論 都道府県健康増進計画等の評価のため,ほとんどの自治体が都道府県民健康・栄養調査を実施していた。また,全国比較ができるよう国民健康・栄養調査と同じ方式で実施する自治体が多かった。新型コロナウイルス感染症の影響により,国民健康・栄養調査と同様に調査を中止する都道府県が多く,今後の調査も未定と回答する自治体が多かった。
著者
高瀬 寛子 荒木田 美香子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-108, (Released:2022-06-30)
参考文献数
31

目的 本研究は,父親の子育て参加促進に向けた基礎資料とするために,1歳から3歳未満の第1子をもつ父親を対象に育児および家事における実施状況とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 2020年10月にWEB調査を行った。調査項目は基本属性,就業状況,子育てに関する情報,育児と家事の実施頻度,夫婦関係満足尺度(以下,QMI),ワーク・ファミリー・コンフリクト尺度日本語版(以下,WFCS),K6日本語版について尋ねた。育児と家事の実施頻度を各高低で2群化し,さらに育児と家事の各高低群を4群に分類した。育児高低群,家事高低群,育児家事の4群を各々従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。結果 44の都道府県から回答が得られ,406人(欠損値なし)を分析対象とした。育児と家事の実施頻度の高い項目は,抱っこする,一緒に遊ぶ,ゴミだしであり,低い項目は定期健診や予防接種の受診,病院受診,食事をつくる,寝かしつけであった。多重ロジスティック回帰分析の結果,育児の実施頻度の高い群において,両親学級や父親学級の参加あり,育児休業取得あり,妻の就労あり,残業時間10時間未満,最終学歴(中学・高校・専門・高専・短大卒業:非大学卒業),低いWFCS,高いQMIとの関連が認められた。一方,家事の実施頻度の高い群において,両親との同居なし,交替勤務あり,両親学級や父親学級の参加あり,世帯年収600万円以上,最終学歴(非大学卒業),妻の就労あり,妻の健康状態(普通・悪い・とても悪い),高いQMIとの関連が認められ,育児の実施頻度の関連要因とは異なる項目が抽出された。続いて4群に分類したところ,育児家事高群(38.4%),育児高く家事低い群(14.0%),育児低く家事高い群(19.5%),育児家事低群(28.1%)に分類された。この4群において,最も関連のあったものは両親学級や父親学級の参加,残業時間,妻の就労,QMIであった。結論 父親の育児および家事の実施頻度において,両親学級や父親学級への参加,残業時間,妻の就労,QMIとの関連が明らかになった。子育て参加への促進に向け,実施頻度の少ない育児や家事への働きかけや父親を対象とした学級等の支援方法の検討の必要性が示唆された。
著者
田島 敬之 原田 和弘 小熊 祐子 澤田 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-150, (Released:2022-06-30)
参考文献数
42

目的 本研究では,アクティブガイドの認知・知識・信念・行動意図の現状と,身体活動・座位行動,個人属性との関連を明らかにする。方法 オンライン調査会社に登録する20~69歳のモニター7,000人を対象に,横断的調査を実施した。アクティブガイドの認知は,純粋想起法と助成想起法により,知識は「1日の推奨活動時間(18~64歳/65歳以上)」と「今から増やすべき身体活動時間(プラス・テン)」を数値回答で調査した。信念と行動意図はアクティブガイドに対応する形で新たに尺度を作成し,信念の合計得点と行動意図を有する者の割合を算出した。身体活動は多目的コホート研究(JPHC study)の身体活動質問票から中高強度身体活動量を,特定健診・保健指導の標準的な質問票から活動レベルを算出した。座位行動は国際標準化身体活動質問表(IPAQ)日本語版を使用した。記述的要約を実施した後,従属変数を認知・知識・信念・行動意図のそれぞれの項目,独立変数を身体活動量,座位行動,個人属性(性別,年代,BMI,配偶者の有無,教育歴,仕事の有無,世帯収入)とし,ロジスティック回帰分析でこれらの関連を検討した。結果 アクティブガイドの認知率は純粋想起法で1.7%,助成想起法で5.3~13.4%であった。知識の正答率は,「1日の推奨活動時間(18~64歳)」で37.2%,「1日の身体活動時間(65歳以上)」で7.0%,「プラス・テン」で24.8%,3項目すべて正答で2.6%だった。信念の中央値(四分位範囲)は21(16~25)点であった(32点満点)。行動意図を有する者は,「1日の推奨活動量」で51.4%,「プラス・テン」で66.9%だった。ロジスティック回帰分析の結果,認知・知識・信念・行動意図は中高強度身体活動量や活動レベルでいずれも正の関連が観察された一方で,座位行動では一貫した関連は観察されなかった。個人属性は,評価項目によって異なるが,主に年代や教育歴,仕事の有無,世帯年収との関連を認めた。結論 本研究より,アクティブガイドの認知や知識を有する者は未だ少ない現状が明らかとなった。さらにアクティブガイドの認知・知識・信念・行動意図を有する者は身体活動量が多いことが明らかとなったが,座位行動は一貫した関連が観察されず,この点はさらなる調査が必要である。さらに,今後は経時的な定点調査も求められる。
著者
新開 省二 藤田 幸司 藤原 佳典 熊谷 修 天野 秀紀 吉田 裕人 竇 貴旺 渡辺 修一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.443-455, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
18

背景 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの実態についてはほとんどわかっていない。目的 地域高齢者における“タイプ別”閉じこもりの出現頻度とその特徴を明らかにする。方法 地域特性の異なる二地域[新潟県与板町および埼玉県鳩山町鳩山ニュータウン(以下鳩山 NT と略す)]に住む65歳以上の地域高齢者全員(それぞれ1,673人,1,213人)を対象に横断調査を実施した。ふだんの外出頻度が「週 1 回程度以下」にあるものを「閉じこもり」と定義し,そのうち総合的移動能力尺度でレベル 3~5 にあるものを“タイプ 1”,同レベル 1 または 2 にあるものを“タイプ 2”,と二つに分類した。地域,性,年齢階級別にタイプ別閉じこもりの出現頻度を比較するとともに,総合的移動能力が同レベルにあり,ふだんの外出頻度が「2, 3 日に 1 回程度以上」に該当する「非閉じこもり」との間で,身体的,心理・精神的,社会的特徴を比較した。成績 調査時点で死亡,入院・入所中,長期不在のものを除くと,与板町では97.2%(1,544/1,588),鳩山 NT では88.3%(1,002/1,135)という高い応答率が得られた。両地域とも地域高齢者のうち「閉じこもり」は約10%にみられ,そのタイプ別内訳は,与板町ではタイプ 1 が4.1%(男4.0%,女4.2%),タイプ 2 が5.4%(男5.2%,女5.6%),鳩山 NT ではそれぞれ3.3%(男1.5%,女4.9%)と6.8%(男5.7%,女7.8%)であった。潜在的交絡要因である性,年齢,総合的移動能力(レベル 1, 2 あるいはレベル 3-5)を調整すると,タイプ 2 の出現率に地域差がみられた[鳩山 NT/与板町のオッズ比=1.44(1.02-2.03)]。一方,タイプ 1 の出現率における地域差や両タイプの出現率における性差は認められなかった。両地域,男女において,年齢階級が上がるにしたがって両タイプの出現率は上昇し,タイプ 2 は80歳以降で,タイプ 1 は85歳以降で10%を越えていた。タイプ 2 はレベル 1 または 2 にある「非閉じこもり」に比べると,潜在的交絡要因を調整しても,歩行障害や失禁の保有率が高く,健康度自己評価や抑うつ度などの心理的側面,さらには高次生活機能や人・社会との交流といった社会的側面での水準が低かった。一方,タイプ 1 は,レベル 3~5 にある「非閉じこもり」に比べると,基本的 ADL 障害や「知的能動性」の低下を示す割合が低いにもかかわらず,家の中での役割がなく,転倒不安による外出制限があり,散歩・体操の習慣をもたないと答えた割合が高かった。結論 タイプ別閉じこもりの出現率には,地域差,年齢差を認めた。タイプ 2 には“要介護状態”のハイリスク者が多く含まれており,タイプ 1 を含めタイプ 2 も介護予防のターゲットとして位置づけるべきである。
著者
稲垣 宏樹 杉山 美香 井藤 佳恵 佐久間 尚子 宇良 千秋 宮前 史子 岡村 毅 粟田 主一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.459-472, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
37

目的 要介護状態や認知症への移行リスクは,心身の健康状態に加え,社会・対人関係といった社会的な健康状態もあわせて評価することでより適切に予測できると考えられる。本研究では,要介護未認定の地域在住高齢者を対象に身体・精神・社会的機能を包括的かつ簡便に評価できる項目を選定し,それらが将来的な要介護状態や認知症への移行を予測できるか検討した。方法 2011年時点で東京都A区に在住の要介護未認定高齢者4,439人を対象に自記式郵送調査を実施した。既存尺度を参考に選択された54個の候補項目から通過率や因子分析により評価項目を決定した。2014年時の要介護認定(要支援1以上),認知症高齢者の日常生活自立度(自立度Ⅰ以上)を外的基準としたROC分析により選定項目の合計得点のカットオフ値を推計した。次に,合計得点のカットオフ値,下位領域の得点を説明変数,2014年時の要介護認定,認知症自立度判定を目的変数とする二項ロジスティック回帰分析により予測妥当性を検討した。結果 2011年調査で54個の候補項目に欠損のなかった1,810人を対象とした因子分析により,5領域(精神的健康,歩行機能,生活機能,認知機能,ソーシャルサポート)24項目を選択した。ROC分析の結果,合計得点のカットオフ値は20/21点と推定された(要介護認定AUC 0.75,感度0.77,特異度0.56;認知症自立度判定では0.75,0.79,0.55)。二項ロジスティック分析の結果,2011年時点の合計得点がカットオフ値(20点)以下の場合3年後(2014年)の要介護認定または認知症自立度判定で支障ありの比率が有意に高く(それぞれ,オッズ比2.57,95%CI 1.69~3.92;オッズ比3.12,95%CI 1.83~5.32,ともにP<0.01),下位領域では要介護認定は精神的健康,歩行機能,生活機能と,認知症自立度判定は歩行機能,認知機能と有意な関連を示した。結論 本研究で選択された項目は3年後の要介護・認知症状態への移行の予測に有用であると考えられた。とくに認知症状態への移行の予測能が高かった。下位領域では,身体・精神機能との関連が示唆されたが,社会的機能との関連は示されなかった。
著者
中川 栄利子 樋口 倫代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.447-458, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
33

目的 女性就労者を対象に,代表サンプリングによる全国規模の社会調査のデータを使用し,就労形態別に労働要因および社会経済的要因と受診抑制との関連を分析することを目的とした。方法 日本版総合的社会調査2010年調査(JGSS-2010)のデータセット2,496人分より,20歳以上65歳未満の女性就労者639人分を抽出して行った二次データ分析である。まず,受診抑制の有無,労働要因(職種,就労年数,労働時間,会社の規模)および社会経済要因(年齢,婚姻状況,15歳以下の子どもの数,学歴,等価可処分所得)を就労形態別にクロス集計した。さらに,受診抑制の有無を目的変数,労働要因と社会経済要因を説明変数としたロジスティック回帰分析を就労形態で層化して行なった。結果 全対象者中,受診抑制ありと答えた者は227人(35.5%)であった。受診抑制の有無と就労形態の間に有意な関連は認めなかった。調べた労働要因および社会経済要因は就労形態と強い関連を認めた。正規雇用などの女性に限定すると,就労年数2年未満の者に対する2年以上5年未満,5年以上10年未満および10年以上の者の受診抑制のオッズ比は,それぞれ3.91(95%信頼区間(CI): 1.31-11.7),2.86(95%CI: 0.97-8.44),1.99(95%CI: 0.70-5.66)であった。非正規雇用などの女性の分析では,60代に対する50代,40代,30代,20代の受診抑制の調整オッズ比は,それぞれ2.26(95%CI: 0.99-5.16),4.09(95%CI: 1.70-9.82),5.03(95%CI: 1.90-13.30),5.32(95%CI: 1.87-15.10)と若い年齢群ほど受診抑制のオッズ比が大きくなる傾向を認めた。その他の労働要因,社会経済要因と受診抑制の有無には有意な関連を認めなかった。結論 3割以上の人が過去1年間に医療を受けることを控えた経験を有していた。就労形態と受診抑制の間には有意な関連を認めなかったが,正規雇用などの女性では中堅と考えられる群,非正規雇用などの女性では妊娠・出産や子育ての世代で受診抑制のオッズ比が有意に大きくなっていた。これは,就労形態による女性の健康問題の違いを示唆していると考えられる。個人のライフステージや家族関係とともに,労働状況や環境を考慮した健康支援が必要であろう。
著者
木村 博子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.424-434, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
27

目的 都心部において増加する高齢者の孤立死の背景にある課題を明らかにすることを目的とした。方法 国に東京都23区内A区の2016年の人口動態調査に係る調査票情報の提供の申出を行った。死亡票の記載項目には,死亡診断書と死体検案書の区別はない。しかし,監察医制度のある東京都23区では,死亡診断書または死体検案書を記載した医師の所属施設等が検案を実施する東京都監察医務院等の場合,死体検案書と判定することが可能である。病院・診療所等の記載がある場合は死亡診断書とみなした。自宅死および病院死のうち検案となった病死と,在宅患者訪問診療等により死亡診断書が作成された「自宅看取り死」について,死因,男女別,年齢,配偶者の有無等との関連を記述統計学的に分析した。結果 2016年のA区の死亡件数4,429件のうち,613件が検案死と判定され,うち65歳以上の高齢者は436件(71.1%)であった。自宅死757件のうち,検案死は399件(52.7%)であり,うち病死は271件であった。自宅看取り死は358件(47.3%)であった。34歳以上の検案で病死と判明した自宅死268件の死亡年齢は,男性145件が73.6±11.9(平均値±標準偏差)歳,女性123件が79.5±11.4歳であった。同様の病院死133件の死亡年齢は,男性76件が73.6±14.7歳,女性57件が81.9±9.7歳であった。一方,自宅看取り死358件の死亡年齢は,男性172件が81.3±13.7歳,女性186件が87.0±10.8歳であり,検案死に比べて死亡年齢は有意に高かった。自宅検案死の病死の65.3%,病院検案死の病死の54.1%が虚血性心疾患等の突然死型の疾患によるものであり,自宅看取り死の64.6%は悪性新生物等によるものであった。検案で病死と判明した自宅死のうち,65歳以上の男性110件の65.5%,女性110件の87.3%が単身であり,男性27.3%,女性52.7%が死別,男性16.4%,女性9.1%が離別,男性21.8%,女性25.5%が未婚であった。結論 都心部高齢者の孤立死には,主に突然死疾患の死因に加えて,女性では配偶者との死別,男性では死別以外に離別,男女ともに未婚という背景が影響していると考えられた。
著者
新鞍 真理子 関根 道和 山田 正明 立瀬 剛志 木戸 日出喜 鈴木 道雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.435-446, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
24

目的 社会活動は,高齢者の健康維持やQOLの向上に重要な役割がある。本研究は,地方都市在住の高齢者における社会活動への不参加に関連する要因について,社会活動の種類別(仕事,町内会活動,趣味の会,老人クラブ)に検討することを目的とした。方法 2014年に富山県に居住する65歳以上の高齢者の中から0.5%で無作為抽出された1,537人のうち947人を分析対象とした。男女別に各社会活動への参加の有無を従属変数,その他の項目を独立変数として,ポアソン回帰分析を用いて有病割合比(Prevalence Ratio,以下PR)を算出した。有意水準は両側検定において5%とした。結果 男性426人(平均年齢73.9±6.5歳),女性521人(平均年齢74.8±7.0歳)であった。 仕事は,男女ともに高年齢(男性75歳以上PR1.15,女性70歳以上PR1.11)で無就業が多く,男性では通院治療中(PR1.09)と改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)21~25点(PR1.09)と20点以下(PR1.12)の無就業が多く,女性では飲酒者(PR0.93)の無就業が少なかった。 町内会活動は,男女ともに高年齢(男性70歳以上PR1.12,女性80歳以上PR1.11)で不参加が多く,男性では肉体労働のみの職歴(PR1.12)とHDS-R20点以下(PR1.16)の不参加が多く,女性では独居(PR0.92)の不参加が少なかった。 趣味の会は,男女ともに肉体労働のみの職歴(男性PR1.05,女性PR1.08)の不参加が多く,男性では9年以下の教育歴(PR1.05),女性では独居(PR1.07)の不参加が多かった。年齢および認知機能の低下との関連はみられなかった。 老人クラブは,男女ともに高年齢(男性75歳以上PR0.89,女性70歳以上PR0.93)と飲酒者(男性PR0.91,女性PR0.89)の不参加が少なく,男性では喫煙者(PR1.06)と精神的自覚症状あり(PR1.09),女性ではHDS-R20点以下(PR1.13)の不参加が多かった。結論 地方都市在住の高齢者における社会活動は,社会活動の種類により不参加の関連要因が異なっていた。これらの地方都市在住の高齢者の特徴を踏まえた対策を検討することの重要性が示唆された。
著者
斉藤 功 山内 加奈子 山泉 雅光 加藤 匡宏
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.394-402, 2022-05-15 (Released:2022-05-24)
参考文献数
20

目的 地域集団における18.6年間の前向きコホート研究によりメタボリックシンドローム(MetS)と脳卒中罹患との関連について検討すること。方法 1996~98年の愛媛県旧O市の基本健康診査受診者4,068人(40~74歳)のうち,脳卒中の既往者を除く3,969人を対象とし,2018年12月末までの脳卒中罹患または脳卒中による死亡の有無を調べた。わが国のMetSの診断基準に基づき,ベースライン時のウエスト周囲長高値の有無と血圧高値,脂質異常,血糖高値のリスクの保有個数(0個,1個,2個以上)の組み合わせにより6群に分けた。カプラン・マイヤー法によるMetSの生存曲線の解析,ならびにCox比例ハザードモデルを用いて全脳卒中,出血性脳卒中,脳梗塞別に性年齢調整済みハザード比と人口寄与割合を算出した。結果 追跡期間中,376人の脳卒中罹患を把握した。MetSの割合は,脳卒中罹患ありの群15.2%,なしの群9.4%であり,有意な違いを認めた。ウエスト周囲長正常かつリスク0個の群を基準とした場合,全脳卒中,ならびに脳梗塞に対して,ウエスト周囲長にかかわらずリスク1個,ならびに2個以上の群で性年齢調整済みハザード比が2倍程度の有意な上昇を認めた。全脳卒中に対する人口寄与割合は,ウエスト周囲長正常かつリスク1個の群で最も高かった(18.9%)。結論 脳卒中罹患に対してMetSの寄与は大きくなかった。これまでの知見と同様,非肥満であっても血圧高値などのリスクが少なくとも1個あれば脳卒中罹患リスクは高まった。
著者
溝口 恭子 輦止 勝麿 丹後 俊郎 簑輪 眞澄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.867-878, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
17
被引用文献数
6

目的 近年,乳幼児のう蝕有病者率は著しい減少傾向にあるが,川崎市中原区における 3 歳児のう蝕有病者率は,1 歳 6 か月児のそれに比べ約 5 倍の増加がみられる。そこで,1 歳 6 か月時から 3 歳時にかけてのう蝕発生に関わる要因として,乳幼児期の家庭環境,生活習慣,食習慣,歯科保健行動について検討した。方法 平成13年 6 月から 9 月に川崎市中原保健所において 3 歳児健診を受診した者のうち,同保健所にて 1 歳 6 か月児健診を受診し,その健診においてう蝕のなかった者491人を調査対象とした。1 歳 6 か月児および 3 歳児健診結果,3 歳児健診時のアンケート調査票の結果を用いて,3 歳時のう蝕の有無別に比較検討した。う蝕発生と本研究で用いた要因について単変量解析で関連の強い要因を選択し,次に,選択された要因相互の関連性を調整したう蝕発生要因の決定にロジスティック回帰分析を適用した。結果 1 歳 6 か月時から 3 歳時にかけてのう蝕発生と有意に関連するリスク要因は,1 歳 6 か月時の母乳摂取「あり」(う蝕発生オッズ比2.80,95%CI:1.42-5.57),3 歳時の 1 日 3 回以上の甘味飲食「あり」(う蝕発生オッズ比2.07,95%CI:1.24-3.43)であった。保護者による毎晩の仕上歯みがきを「していない」のう蝕発生オッズ比は1.68(95%CI:0.90-3.14)と大きい傾向を示したが,有意ではなかった。結論 1 歳 6 か月時に母乳摂取を継続していると 1 歳 6 か月時から 3 歳時にかけてのう蝕発生のリスクが高まることが示唆された。また,3歳時で 1 日 3 回以上の甘味飲食の習慣がある児にう蝕「あり」の割合が高いことも示唆された。
著者
山村 奈津子 梅田 麻希
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.251-261, 2022-04-15 (Released:2022-04-26)
参考文献数
37

目的 平成30年7月豪雨災害に伴う被災市町村の要介護認定率の変化を推定するとともに,被災状況や地域特性と当該変化の関連を検討することを目的とした。方法 災害救助法を適用された108市町村を対象とし,2016年7月から2019年7月までの計37か月の月別要介護認定率のデータから,要介護認定率および軽度要介護率(要支援1~2),中度要介護認定率(要介護1~3),重度要介護認定率(要介護4~5)の災害後の変化を分割時系列分析により推定した。災害後の要介護認定率のトレンドの変化傾向と被災状況(住家被害棟数,死者・行方不明者数),地域特性(高齢化率,人口密度,課税対象所得,保健師1人当たり人口,介護保険施設定員数,病院病床数,診療所数,特定健診実施率,特定保健指導実施率)との関連を検討するため,多項ロジスティック回帰分析を行った。結果 要介護認定率および軽度要介護認定率は発災当月,災害後のトレンドの変化ともに有意な上昇が見られた。中度要介護認定率の災害後のトレンドの変化は有意に下降していた。重度要介護認定率は災害当月のみ有意な上昇が見られたが,災害後のトレンドには有意な変化が見られなかった。中度要介護認定率のトレンドの下降変化は,高齢化率と負の関連,診療所数と正の関連が見られた。要介護認定率,軽度要介護認定率,重度要介護認定率については,被災状況,地域特性に関するいずれの変数とも有意な関連は見られなかった。結論 自立度が比較的高い軽度要介護高齢者において,災害により介護保険サービスの需要が高まる可能性が示唆された。
著者
木村 美也子 井手 一茂 尾島 俊之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.273-283, 2022-04-15 (Released:2022-04-26)
参考文献数
37

目的 幼い子をもつ母親を対象に,COVID-19流行期に新たに生じた心理的苦痛(K6スコア≧10点)とCOVID-19流行前の子の育てにくさ,発達への不安,ソーシャルサポートおよび受援力の関連を検討することを目的とした。方法 本研究は縦断研究であり,2020年2月に全国47都道府県の未就学児の母親を対象としたベースライン調査を実施,4,700人より回答を得た。また同年6月に同じ対象に調査依頼をし,2,489人より回答を得た。ベースライン時と追跡時のK6スコア(4群)を比較し,ベースライン時に心理的苦痛を有していた521人を除く1,968人を対象とし,ポアソン回帰分析を行った。目的変数には追跡時の心理的苦痛の有無,説明変数にはベースライン時の子の発達への不安,子の育てにくさ,受援力,ソーシャルサポートを用い,母親の年齢,学歴,婚姻状況,就業状況,世帯収入,子の年齢,子の数,追跡時のCOVID-19による変化(10項目)で調整した。結果 心理的苦痛ありの割合は,20.9%から25.3%へと増加していた(P<0.001)。新たに心理的苦痛を有した者は333人(16.9%)で,ベースライン時の子の発達への不安あり(対照群なし),育てにくさあり(対照群なし),受援力の「受援活用姿勢」低群(対照群高群),ソーシャルサポート低群(対照群高群)と有意な関連がみられた。結論 幼い子をもつ母親の精神健康は,COVID-19流行期に悪化傾向にあり,心理的苦痛の関連要因には,流行期前から有していた子の発達への不安,育てにくさ,受援力の受援の機会を活用しようとする姿勢の乏しさ,ソーシャルサポートの乏しさが含まれていた。COVID-19流行時における継続的な子育て支援・療育・相談と受援力向上に向けた具体的なアプローチの検討が望まれる。
著者
田村 元樹 服部 真治 辻 大士 近藤 克則 花里 真道 坂巻 弘之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-014, (Released:2021-10-22)
参考文献数
38

目的 本研究は,うつ発症リスク予防に効果が期待される65歳以上の高齢者のボランティアグループ参加頻度の最適な閾値を傾向スコアマッチング法を用いて明らかにすることを目的とした。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が24市町村に在住する要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した,2013年と2016年の2時点の縦断データを用いた。また,2013年にうつ(Geriatric Depression Scale(GDS-15)で5点以上)でない人を3年間追跡し2013年のボランティアグループに年1回以上,月1回以上もしくは週1回以上の参加頻度別に,2016年に新たなうつ発症のオッズ比(OR)を,傾向スコアマッチング法とt検定などを用いて求めた。結果 参加群は,年1回以上で9,722人(25.0%),月1回以上で6,026人(15.5%),週1回以上で2,735人(7.0%)であった。3年間のうつの新規発症は4,043人(10.5%)であった。傾向スコアを用いたマッチングでボランティアグループ参加群と非参加群の属性のバランスを取って比較した結果,月1回以上の頻度では参加群は非参加群に比べて,Odds比[OR]0.82(95%信頼区間:0.72, 0.93)と,うつ発症リスクは有意に低かった。年1回以上の参加群ではORが0.92(0.83, 1.02),および週1回以上では0.82(0.68, 1.00)であった。結論 高齢者のボランティアグループ参加は,月1回以上の頻度で3年後のうつ発症リスクを抑制する効果があることが示唆された。高齢者が月1回でもボランティアとして関わることができる機会や場所を地域に増やすことが,うつ発症予防対策となる可能性が示唆された。
著者
田中 司朗 山口 拓洋 大橋 靖雄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.66-75, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
13

目的 看護系教育課程を持つ大学において疫学・生物統計学の授業を担当している教官の背景,講義・実習内容など疫学・生物統計学教育の実態と,教官の感じている問題点を調査し,教官の背景と,講義内容・感じている問題点に関連があるか検討した。対象と方法 看護系教育課程を持つ大学における疫学・生物統計学教育の実態について,国公立大学62校および私立大学27校(計89校)の疫学・生物統計学の授業を担当している教官を対象に自記式調査票を用いて調査を行い,対象校89校のうち回答の得られた50校61通を本研究の対象とした。結果 疫学・生物統計学を専門としている教官は20%と少なく,疫学・生物統計学に関係した学会の所属割合も低かった。また,教官の感じている問題点として,良い教科書・実習用の教材・問題集がなく,とくに看護に関する実例を挙げた教科書が望まれている事,教官やチューターの人数が不足している事,学生の意欲,数学やパソコン・情報処理の能力が足りない事が挙げられた。講義内容については「統計における基本概念」や「統計解析」のうちの基本的な分野に関しては90%前後の,「疫学における基本概念」や「医学・疫学研究デザイン」については70%前後の大学で講義されている事などがわかった。結論 疫学・生物統計学の授業を担当している教官の専門分野や所属学会などの背景,感じている問題点,講義・実習・卒業論文指導の内容などが明らかになった。疫学・生物統計学を専門としている教官が講義している大学は少なく,工学部・薬学部・理学部数学科などの他学部所属の教官に頼っている事や教科書に対する要望が強い事,学生に学ぶ意欲や数学とパソコン・情報処理の能力が足りないと感じている教官が多い事が示唆された。これらは看護教育における疫学・統計学教育のあり方を考える上で貴重な資料になりうると考えられる。
著者
黒田 藍 村山 洋史 黒谷 佳代 福田 吉治 桑原 恵介
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-097, (Released:2022-02-28)
参考文献数
35

目的 孤立や孤独を防ぎ,かつ食事を確保する方策として食支援活動が行われてきたが,その実践に関する学術的知見は乏しい。本稿では,住民がボランティアで食支援活動を行う地域食堂のコロナ下での活動プロセスを記述し,地域食堂の活動継続が利用者や住民ボランティアにもたらした効果について予備的に検証することを目的とした。方法 本研究は東京都内の独居高齢者が多く居住する大規模団地にて,飲食店と同水準の食品衛生管理体制のもと運営されている地域食堂「たてキッチン“さくら”」で筆頭著者が実施するアクションリサーチの一部である。2020年2月から同年5月までの地域食堂の活動を報告対象とした。活動プロセスは運営の活動記録,運営メンバーと住民との対話記録,活動時の画像記録を用いて記述した。地域食堂の利用住民10人と住民ボランティア6人との対話記録をKJ法に基づき分類し,彼らが認識する地域食堂の活動継続がもたらした効果を評価した。活動内容 対象期間中に地域食堂の役員や住民ボランティアは定期的に会議等を行い,市民向け新型コロナウイルス感染症対策ガイドや保健医療専門職の助言,利用者の意見等を参考にしながら,運営形態の検討と修正を続けた。結果として,地域食堂は高齢住民ボランティアが中心となって住民の食と健康を守るために週5日の営業を継続した。店頭の販売個数は形態変更に伴い5月に半減した一方(2020年2月4,670個,同5月2,149個),各戸への配食数は需要の増加に伴い3月以降増加した(2020年2月301個,同5月492個)。事後評価の結果,地域食堂の新型コロナウイルス感染症対策は外食業の事業継続のためのガイドラインを遵守していた。活動継続の効果として,地域食堂利用者では〈食の確保〉,〈人とのつながり〉,〈健康維持増進〉の3つのカテゴリー,住民ボランティアでは〈社会とのつながり〉,〈健康維持増進〉の2つのカテゴリーが抽出された。結論 住民ボランティアが,住民の食と健康を守るとの活動理念を確認しながら,新型コロナウイルス感染症の対策情報等を参照し,ステークホルダーを巻き込み,一般に求められる水準の感染症対策を取り入れて食支援活動を継続していた。この取組継続は,住民の食確保や健康支援に加え,住民同士のつながり維持に役立ったことが示唆された。
著者
鈴木 浩子 山中 克夫 藤田 佳男 平野 康之 飯島 節
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.139-150, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
25
被引用文献数
1

目的 何らかの在宅サービスが必要であるにもかかわらず,介護サービスの利用に至らない高齢者に関して,介護サービスの導入を困難にしている問題を明らかにし,問題の関係性を示すモデルを共分散構造分析にもとづいて作成することにより,有効な対策について検討する。方法 高齢者相談業務に従事する本州地域657か所の行政保健師に対し,自記式質問紙による郵送調査にて事例調査を実施した。調査対象事例は,本研究に該当する介護サービスの導入が困難な高齢者で,回答する保健師が,2000年 4 月以降家庭訪問による介入援助を行った,とくに印象に残る 1 事例とした。調査内容は,回答者および所属する自治体の属性,対象事例の基本的属性,対象事例への介入援助の結果,事例調査および文献検討により作成した介護サービスの導入を困難にする問題43項目である。有効回答を得た311通(有効回答率47.3%)を解析対象とした。介護サービスの導入を困難にする問題について,因子分析を行った後,共分散構造分析により関係性の検討を行い,最も適合度の高いモデルを選定した。結果 1) 介護サービスの導入を困難にする問題は,項目分析,因子分析の結果,第 1 因子『生活の変化に対する抵抗』,第 2 因子『親族の理解•協力の不足』,第 3 因子『手続き•契約における能力不足』,第 4 因子『インフォーマルサポートの不足』,第 5 因子『受診に対する抵抗』が抽出•命名された。2) 因子分析で得られた 5 因子を潜在変数として共分散構造分析を行った結果,GFI=0.929,AGFI=0.901,CFI=0.950と高い適合度のモデルが得られた。このモデルから,『生活の変化に対する抵抗』,『親族の理解•協力の不足』の問題に,『手続き•契約における能力不足』,『インフォーマルサポートの不足』,『受診に対する抵抗』の問題が重なり,介護サービスの導入が困難となっていることが示された。結論 行政保健師を対象とした事例調査により,介護サービスの導入を困難にする問題の関係性が示された。このような高齢者への支援には,個々の問題に応じた介入援助方法の他,手続き能力やサポートが不足し,支援が必要な高齢者を早期に把握,対応する体制を地域レベルで検討することが必要である。
著者
渡邉 彩 村山 洋史 高瀬 麻以 杉浦 圭子 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.215-224, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
23

目的 少子高齢化の進行による労働力不足が課題となる中,高齢者による就労を促進するための諸制度や職場環境の整備が急速に進められている。高齢者が積極的に労働市場に参入することへの期待が高まる中,高齢期における就労と高齢者の心身の健康との関連や課題を明らかにする必要がある。中でも,主観的健康感は,生活機能の低下や健康寿命の延伸にも強く関連し,高齢者の全体的な健康状態を捉えるための重要な健康指標である。そこで本研究は,高齢期における就労と主観的健康感との縦断的関連について,システマティックレビューの手法を用いて整理することを目的とした。方法 文献検索のデータベースは,PubMed, PsycINFO, CINAHL,医学中央雑誌を用いた。「高齢者」「就労」および「主観的健康感」をキーワードとして検索を行い,ⅰ)60歳以上の者を研究対象としていること,ⅱ)就労を独立変数,主観的健康感を従属変数として設定していること,ⅲ)縦断研究であること,を採択基準とした。採択された文献の質評価は,観察研究の質の評価法であるNewcastle-Ottawa Scaleを用いた。結果 最終的に,5件が採択され,4件が日本の研究,1件はアメリカの研究であった。5件のうち3件は,高齢期に就労している者は,非就労の者に比べて主観的健康感が高いことを報告していた。質評価の結果,5件とも6点あるいは7点(9点満点)であり,いずれも一定の水準を満たしていた。5件のうち2件は,高齢期の就労と主観的健康感の間に有意な関連は認められなかった。結論 本研究により,高齢期における就労と主観的健康感との間に一定の関連があることが示唆された。しかし,その効果を縦断的に検討した文献はいまだ少ないことも明らかになった。今後,高齢期における就労がより一般的になることが見込まれる中,高齢者が積極的かつ安心して就労するためにも,就労が高齢者の健康に及ぼす影響やその機序について,さらなるエビデンスを伴った知見の集積が望まれる。
著者
竹田 飛鳥 福田 英輝 北原 俊彦 横山 徹爾
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.183-190, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
23

目的 新型コロナウイルスの感染拡大のため,2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が発令された。同月には厚生労働省から歯科医師の判断により緊急性がない歯科診療は延期等の留意点が周知された。本研究では歯科診療所を受診した患者を対象に,2020年4月に発令された緊急事態宣言時における歯科受療行動を把握し,その関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法 本研究の対象者は,埼玉県内の歯科診療所28施設を2020年9月に来院した患者1,335人のうち,有効回答があった1,227人とした。歯科受診の項目に回答があり,かつ緊急事態宣言時に歯科受診の意向があった者(611人)のなかで,受診を控えた者を「未受診群」(214人),受診した者を「受診群」(397人)として分析を行った。結果 多変量ロジスティック回帰分析による「受診群」に対する「未受診群」のオッズ比は,女性で1.69(95%Cl: 1.12, 2.55),65歳未満で2.91(95%Cl: 1.88, 4.49),月1回未満の受診で1.71(95%Cl: 1.04, 2.82),緊急事態宣言中の予約なしで7.12(95%Cl: 4.56, 11.11)であり,いずれも有意に大きかった。結論 緊急事態宣言時に歯科受診の意向がありながらも受診を控えた「未受診群」の割合は35%であった。「未受診群」と関連があった項目は,女性,65歳未満の者,受診頻度月1回未満の者,および予約がない者であった。
著者
笠原 美香 千葉 敦子 大西 基喜
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.225-235, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
14

目的 COVID-19が保健師自身やコミュニケーションに関わる保健師活動へ及ぼす影響を集約,分析し,コロナ禍におけるコミュニケーションの在り方ついて示唆を得ることである。方法 青森県内の全市町村(40か所)で働く保健師474人を対象に,基本属性,陽性・濃厚接触者への支援や関わりの有無,保健師の身体面・精神面への影響,保健師活動領域別影響,マスク着用での住民への影響,感染対策による「良い影響」や「悪い影響」,利用している連絡・情報共有・支援方法,新たな課題や取り組み・工夫について,自記式質問紙調査を行った。実施期間は,2020年9月23日~10月7日である。分析はSPSSとKH Coderを用いて行った。結果 228人より回答を得た(回収率48.1%)。陽性,濃厚接触者への支援や関わり有は11.4%であった。6割以上の保健師が精神面に影響を受けていた。COVID-19下のマスク等着用による,住民との意思疎通においてコミュニケーションへの支障が認められた。一方,住民との信頼関係構築にはあまり影響はなかった。COVID-19対策の進展で,保健師活動への影響で良い影響としては,「感染症予防の意識向上と対策の進展」,「オンラインを含めて会議の効率化」,「事業の見直しの機会となったこと」が挙げられ,悪い影響としては「住民とのコミュニケーションの希薄化」,「感染者等への誹謗や中傷」,「住民のストレスの増加」,「外出自粛の影響」,「必要な保健事業実施困難」が挙げられた。利用している連絡,情報共有,支援方法は電話が多かった。新たな課題や取り組み,工夫の主なものとして,「感染対策への配慮の進展」,「消毒・体温測定,換気など予防の取り組み」,「新しい生活様式の定着に向けた取り組み」,「集団検診の方法の見直し」,「事業見直し,保健指導上の工夫」,「オンライン会議など,会議や研修の見直し」の6カテゴリーが示された。結論 COVID-19下で6割以上の市町村保健師が精神面に何らかの影響を受けており,保健師活動に大きな課題が突き付けられる厳しい状況が浮き彫りになった。とくに住民とのコミュニケーションへの支障は大きいものがある。しかし,制約を受けながらも感染対策を取り入れた活動の中で,新たなコミュニケーションの在り方が模索されている。今後の方向性を見据え,時代に合う保健師活動を探究する必要がある。
著者
奥山 絢子 片野田 耕太 田淵 貴大
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.204-214, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
19

目的 本研究は,基礎疾患保持者と基礎疾患がない者に分けて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する認識,そして基礎疾患保持者の療養生活への影響を明らかにすることを目的とした。方法 2020年8月~9月に実施された「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータを用いた。調査項目のうちCOVID-19に対する認識,療養生活への影響について,基礎疾患・流行地域別に記述分析を行った。結果 不正回答を除く,25,482人の回答を用いた(がん455人,循環器疾患510人,呼吸器疾患883人,高血圧・糖尿病4,501人,精神疾患936人,基礎疾患無18,197人)。SARS-CoV-2に感染することが危険であると回答した者は,基礎疾患・流行地域に関わらず約70%であった。一方で,自身の感染リスクや重症化リスクがあると捉えていた者はいずれの疾患も20%未満であった。療養生活への影響をみると,影響があったと答えた者が最も多かったのは,呼吸器疾患保持者で,予定通りの通院ができなかった者が流行地域41.9%,非流行地域28.8%であった。また,精神疾患では,持病が悪化したと回答した割合が他疾患より多かった(流行地域27.2%,非流行地域22.9%)。結論 COVID-19流行が,基礎疾患保持者の受療状況に影響を及ぼしていることが示唆された。また,約70%がSARS-CoV-2に感染することが危険であると捉えていた一方で,自身が感染するかもしれないと捉えていた者はいずれの疾患保持者も20%未満であった。今後,詳細な要因分析を行い,受診への影響がどういった患者で多かったのか,経済状況によって差があるのか等を分析する必要がある。