著者
曽我 元 森田 康治 新井 賢二
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.97-103, 2014
被引用文献数
1

日常的に行われる美容行動の一つである地肌マッサージに関して,血行促進を効率的に実現できる方法を考案することにした。そこで,種々のマッサージ基本手技が皮膚血流に与える作用を個別に評価した。その結果,頭皮においては,圧迫法が最も血流上昇作用が高いという特徴を見出した。ほかの基本手技も組み合わせて,約3分間のセルフマッサージ方法を創案した。この方法により地肌をマッサージすると,即時的な血行促進作用が認められ,平均で約120%まで上昇し,20分程度持続することを確認した。また,地肌が動きやすくなり,1週間の連用を行うと動きやすさのスコアに上昇傾向が認められた。この方法は,地肌マッサージの生理学的意義を明らかにする目的で,頭皮の物性や血流量に与える影響と,それに加えて,毛髪の成長に関わる作用を評価するために有用である。
著者
平尾 直靖
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-9, 2002
被引用文献数
3

スキンケア化粧品の品質は, 保湿などの肌状態を改善・維持する特性のみでなく, リラクゼーションなどの心身に働きかける特性にも依存する。使用感は, 心理的な効果を生む最も重要な品質特性だが, 皮膚感覚機能に依存する。皮膚感覚器により受容された感覚信号は, 中枢神経系に伝わる過程で, 自律神経系, 内分泌系, 免疫系へと影響を及ぼし, 情動状態に影響を与える。このようにして生じる心理的な効果は, 肌状態を改善・維持するスキンケア効果とも相互に影響しあっている。本論では, スキンケアの心理的な効果について, 皮膚感覚, 情動, スキンケア効果との関連の観点から論じる。
著者
河野 善行
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.253-261, 2002
被引用文献数
1

保湿は肌荒れに対して大変有効な手段であり, また化粧品の最も基本的かつ重要な機能と考えられる。そして多くの種類のエモリエント剤や保湿剤が皮膚の水分保持や乾燥を防御することを目的として用いられてきた。角質層においては, 自然保湿成分 (NMF), 皮脂および細胞間脂質の重要性が証明されてきた。皮膚科学的なアプローチの観点からわれわれは皮膚保湿のメカニズムのアナロジーを皮膚上で再構築してきた。具体的には肌荒れに対して, 水, 保湿剤および脂質を等価に皮膚に補う"モイスチャーバランス"の有用性を証明してきた。これらとは別に化粧品の開発に薬理学的なアプローチの観点も重要であり, 新規な化粧品有効成分の開発に大変役に立つ方法論である。近年われわれは, 肌荒れにおいて表皮プロテアーゼが重要な役割を果たすこと, またその活性を阻害することが修復を促すことを明らかにしてきた。そして表皮プロテアーゼであるプラスミンの阻害活性を有し, 肌荒れに効果を有する<i>t</i>-AMCHAを開発した。本総説では, 皮膚の保湿のメカニズムと, 皮膚科学的にまた薬理学的に開発されたスキンケア化粧品についてレビューする。
著者
野村 浩一 高須 賀豊 西村 博睦 本好 捷宏 山中 昭司
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.254-266, 1999
被引用文献数
2

メークアップ膜の化粧くずれは多忙な現代女性の大きな悩みの一つであるが, この問題に着目した研究例は少ない。化粧くずれにはいくつかのプロセスが考えられているが, われわれが世界に向けて行ったアンケートでは「テカリの発生」がその重要なシグナルであるという結果が得られた。本研究の目的はその光学特性変化の原因を追究し, この現象の新しい解決策を提案することであった。化粧くずれの主な原因が皮脂の分泌であることはよく知られている。われわれが今回ヒト皮脂の各成分についてその化粧くずれに対する影響を調べたところ, 皮脂中の不飽和遊離脂肪酸が主な原因である可能性が示唆された。遊離脂肪酸の存在は皮脂の融点の降下などを招き, 結果的に化粧膜中の粉体と濡れやすくなることによって化粧くずれを助長した。これらの結果はわれわれに, 化粧くずれを防ぐ新しい方法が遊離脂肪酸の選択的吸着であることを示した。その目的を達成するために, シリケート層を物理化学的に修飾した粘土鉱物が化粧品素材として検討された。検討した粘土鉱物は酸化亜鉛担持アルミナピラードクレー (以下ZA-pilc) である。ZA-pilcを配合したパウダーファンデーションは<i>in virto</i>および<i>in vivo</i>試験において化粧膜の光学特性の劣化が少なく, 結果として化粧膜のいわゆる「もち」を改善した。このような化粧くずれ防止の機能に加え, ZA-pilcはその遊離脂肪酸への吸着特性ゆえたとえばニキビ防止といった別の機能も考えられ, 事実, 今回行ったウサギを用いた実験でもその可能性が示唆される結果となった。
著者
山本 宏 下里 功 岡田 正紀
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.26-32, 1998-03-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
5
被引用文献数
4

我々は, 官能評価, 毛髪表在脂肪酸分析, 頭のヘッドスペース分析結果より, 通常生活者の頭のニオイ原因物質は, 皮膚常在菌が産生する脂質分解酵素リパーゼにより皮脂中のトリグリセライドが分解されて生じる主に低級から高級にいたる脂肪酸類であると考える。我々は, 微生物及び試薬リパーゼによるトリグリセライド分解による脂肪酸生成モデルを開発, このモデルを評価法として用い, 種々の香料について, 脂肪酸生成に与える影響を調べた。その結果, 脂肪酸生成を抑制する数多くの香料を見いだし, それらの香料を賦香したシャンプー及びリンスの実際使用における頭のニオイ抑制効果を確認した。また, 微生物やリパーゼの作用により, いくつかの香料が脂肪酸と反応してエステルを生成することを見いだした。
著者
中村 直生 高須 賀豊 高塚 勇
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.119-126, 1987-09-30 (Released:2010-08-06)
被引用文献数
2

To develop a novel makeup which is effective in making wrinkles less visible, optical properties of the makeup compornents and their mixtures were systematically studied.It was discovered that within a specific composition range, it was possible to produce a makeup more effective in making wrinkles much less visible than possible with other mixtures. The composition of this “SOFT FOCUS MIXTURE” was found to be strongly dependent on the optical properties as well as the ratio of the powder to the oil. Two major factors found to contribute to the reduction of wrinkle visibility are: (a) Optical blurring of the outlines of wrinkles, and (b) Reduction in the differerence of lightnesses due to diffuse reflection. The first is strongly dependent on the concentration of the oil phase while the second is affected by the gloss of the powder. By optimizing these two factors, effective makeup have been prepared to make wrinkles less apparent.
著者
久留戸 真奈美 中村 千春 塩原 みゆき
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.298-303, 2010-12-20 (Released:2012-12-20)
参考文献数
3

昨今,若い女性たちの腕や脚に乾燥した状態が目立っているが,これはムダ毛の手入れと非常に関係が深い。本研究では,一般女性19名の腕,脚,腋の肌の状態を調査するとともに,電動脱毛器3機種とカミソリによる手入れを比較して,ムダ毛の手入れと肌への影響を調査した。この結果,手入れの前後で,TEWLが増し,安全カミソリのみならず,むしろ,肌を傷めずに脱毛できると訴求される電動脱毛器においても,肌に赤みや炎症を起こし肌荒れの原因になる可能性が示された。
著者
光井 武夫
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.75-90, 1990-12-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
14
被引用文献数
1

Present-day's cosmetic industry is making rapid technological advancements while the country goes through various changes such as increase in the average span of human life, introduction of high technology, and expansion of information networks and globalization.Many of the recent high-performance cosmetic products take advantage of recent technical advancements in such fields as biotechnology, new materials and formulating technology.Extensive researches are being made for development of tools and instruments for promotional uses at the cosmetic counter.These researches are closely related to the life science including dermatological science.In this presentation, the current status of cosmetic industry will be reviewed together with recent trend in cosmetic technology and themes for the 21st century will also be discussed.
著者
奥 昌子 西村 博 兼久 秀典
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.204-209, 1987-12-10 (Released:2010-08-06)
参考文献数
9
被引用文献数
2

Previous report showed that proteins and amino acids were dissolved from bleached hair. This study was carried out to determine the affects of permanent-waving agent on the dissolution of proteins from hair, breaking point and waving effect.Dissolution of proteins into permanent-waving agent was measured as previously reported. Breaking points of hair treated by permanent-waving agent were evaluated by the tensile tester after treatment by oxidizing agent for 15 minutes. The waving effect was measured by the method of kirby.The higher pH of the permanent-waving agent, the more dissolved proteins from hair. Breaking points of hair were decreased at higher pH. The waving effect increased as the rise of pH, but it decreased at pH 10. On the contrary, the amount of dissolved proteins from hairs and the breaking point were slightly influenced by the treatment time.It is noteworthy that the amounnt of dissolved proteins and breaking point gave a good correlation. From these results, the analysis of dissolved proteins from hair to evaluate hair damage was suggested to be important. Permanent-waving agent gave damage to hair greately, and it was confirmed that much proteins dissolved in the short time. Most of dissolved one was seemed to be peptides or proteins but not to be free amino acids.
著者
上月 裕一
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.254-259, 2009-12-20 (Released:2011-12-21)
参考文献数
7

分子軌道およびニューラルネットワークを用いて,化粧品素材のリスクアセスメントを可能とするための,in silico 安全性予測システムの開発を試みた。皮膚刺激性のデータベースとして,文献およびわれわれの研究機関の実験結果から,161検体のhuman patch testの結果を採集した。皮膚刺激性を予測するための記述子としてmolecular weight,polarizabilityα,polarizabilityγ,dipole moment,ionization potentialを計算し,さらに,配合濃度,塗布時間を加えた。解析にはニューラルネットワークを用いた。その結果,human patch testの陽性率に関して,leave-one-out cross-validationによる結果で,妥当な精度が得られた(root mean square error 0.352)。したがって,分子軌道法およびニューラルネットワークを組み合わせて,化粧品素材の毒性ポテンシャルの予測のみならず,リスクアセスメントも可能な,in silico 安全性予測システムの構築の可能性が示唆された。
著者
坂本 考司 原水 聡史 征矢 智美 中野 詩織 松本 雅之 中村 純二
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.247-252, 2022-09-20 (Released:2022-09-20)
参考文献数
25

化粧品の触覚情報は感性・情緒的価値をもたらす要素の1つである。これまでに,両手で顔の肌に穏やかに触れることで快感情を喚起するハンドプレス刺激の継続により,「キメの整い感」等の肌の質感が向上することが報告されているが,詳細なメカニズムは明らかではない。本研究では健常日本人女性を対象に,主に脳で合成されるホルモンのオキシトシンに着目し,検討を行った。その結果,快感情を喚起する触覚刺激の1つである前腕へのチークブラシ刺激の継続で,定常状態(ベースライン)のオキシトシンが上昇し,さらに試験参加者の88%が肌状態の変化を実感していた。そこでオキシトシンと顔の肌状態との関連性を解析した結果,オキシトシンと肌の質感(キメの整い感,色むらのなさ,つや)のスコア値が正相関を示した。そしてハンドプレスによる快感情喚起度合いとオキシトシンとの関連性を解析した結果,両者で正相関が認められた。したがって,ハンドプレスのような快感情を喚起するスキンケア動作の継続で,定常状態(ベースライン)のオキシトシンの上昇を介して,肌の質感が向上する可能性が示された。
著者
芳賀 理佳 鈴木 幸一 松川 浩 田中 結子 一ノ瀬 昇 竹中 玄 藤田 早苗
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.285-291, 2010-12-20 (Released:2012-12-20)
参考文献数
4

香水やオーデコロンなどの香り製品は,身だしなみや香りを楽しむために使用するほか,異性から魅力的に思われたいといった理由からも使用されていると思われる。われわれは,「男性の魅力を香りで向上させることができるのか」を研究目的に,男性の印象を形成する一つの要素である声に着目し,男性の声の印象度試験を行った。試験には声に関するパラメーターを単純化するため,男性1人の声から機械的に基本周波数のみを変化させた高さの異なる6種の声を用いて女性被験者に評価させた。まず,香りを漂わせない状態で印象度試験を行ったところ,男性の声の高さの違いにより女性が感じる声の好みや印象が異なることがわかった。次に,試験に用いる香料を調整した。文献や伝承をもとに心理的な作用があるとされている香料成分34種から,専門パネルが官能評価により男性のポジティブなイメージに合致する香料成分を6種類選定した。その中で高揚感・魅力的なイメージが大きいL─ムスコンに着目して男性の声の印象度試験を行ったところ,L─ムスコンの提示の有無で男性の声の印象が変化した。そこでさらに,6種類の香料成分の中からL─ムスコンを含む1種以上の香料成分を含有する男性向けボディケア製品の香りを3種類創作した。この3種類の香りの中から男女ともに嗜好性が高く,香りのイメージが湧きやすいフローラル・スウィート調とシトラス・ムスク調の香りを試験用香料と選定した。選定した香料を用いて男性の声の印象度試験を行った結果,低い声 (基本周波数が120Hzより低い声) に対してはフローラル・スウィート調の香りに,高い声 (基本周波数が120Hzより高い声) に対してはシトラス・ムスク調の香りに,男性の声の爽やかさを向上させる効果が観測された。さらに,試験後の女性被験者の気分状態は,香りを漂わせなかった場合と比較して香りを漂わせた場合に,イライラする感じ,ほっとする感じ,イキイキする感じ,わくわくする感じが有意に改善された。
著者
上田 早智江 高田 真史 東條 かおり 櫛田 拳 髙木 豊 樋口 和彦
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.25-34, 2023-03-20 (Released:2023-03-21)
参考文献数
18

COVID-19の感染拡大により,長時間の衛生マスク(以下,マスク)の着用が必要となった。そこで,この長期間のマスク着用による皮膚性状の変化を客観的に捉えるべく,本研究では,マスク内の温湿度環境を計測するとともに,マスク内の温湿度環境の角層への影響を評価した。また,長時間のマスク着用による皮膚性状の変化の実態を調査した。その結果,マスク内は高温多湿であり,マスクを外すことで急激な温湿度の変化が起こること,くわえて,軽度な運動負荷を伴ったマスク着用では,30分という短時間でも角層の質の変化を誘発していることが明らかとなった。長期間のマスク着用の影響解析においては,マスクの内側の皮膚性状は,外側の皮膚と比して,バリア機能が低く,ターンオーバーが亢進し,敏感な状態であることが明らかとなった。さらに,遊離脂肪酸の比率が高い皮脂が存在し,広範囲にマスクとの「こすれ」が生じることで,より皮膚性状が悪化する環境が形成されていることがわかった。
著者
山下 由貴 大林 恵 岡野 由利 正木 仁
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.216-222, 2010-09-20 (Released:2012-09-25)
参考文献数
14
被引用文献数
7 2

近年,目立つ毛穴に対するケアは市場の注目を集めており,毛穴開大のメカニズムの解明とその抑制方法の開発は化粧品技術者にとって大きな課題となっている。本研究は,目視による毛穴開大の印象を表すパラメーターを確定することと,毛穴開大のメカニズムに対する酸化ストレスの関与を明らかにすることを目的とした。はじめに,われわれは毛穴が目立つと認識される毛穴面積を0.04mm2 以上と定義した。また,測定野あたりの毛穴総面積,毛穴平均面積および開大毛穴個数を毛穴パラメーターとして算出し,これらが目視による毛穴開大の印象と相関を有し,さらに毛穴総面積は年齢とも相関を有することを明らかにした。次に,毛穴開大のメカニズムを明らかにするために,角層より得られた有核細胞率,多重剥離度,カタラーゼ活性およびタンパクのカルボニル化レベル (SCCP) の各角層パラメーターと毛穴総面積との相関について調査した。毛穴周辺部全体について解析を行った結果では,カタラーゼ活性を除くいずれのパラメーターも毛穴総面積との相関は認められなかった。しかし,開大した毛穴は下頬と比較して上頬に多く認められること,また有核細胞やSCCP による強い蛍光は毛穴開口部周辺に局在していることが確認されたため,上頬の値を下頬の値で標準化した各角層パラメーター比を算出し解析を行った。その結果,SCCP 比およびカタラーゼ比は毛穴総面積と有意な相関を示した。これらの結果より,毛穴開大のひとつの要素として酸化ストレスが関与している可能性が考えられた。
著者
大田 正弘
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.171-180, 2019-09-20 (Released:2019-09-20)
参考文献数
12

人生100年時代において人生の年輪ともいえるシワが,美容的な観点からこれまで以上に肌悩みの中心的関心として高まるのは必至である。本総説ではシワに対して化粧品(医薬部外品)が貢献できる役割を説明するにあたり,シワを目立たなくする粉体製剤技術から,細胞レベルで有効成分が作用しシワを改善する有効性について述べる。ファンデーション(FD)は粉体製剤技術を基に毛穴などの浅い凹凸の形状補正に対しては十分機能した製剤が得られている。しかしながらシワなどの深い凹凸に対する形状補正についてはソリューションが与えられているとは言いがたい。そこでわれわれはモンテカルロ法をベースとした光学シミュレーションにより,通常のFDの塗布ではなぜシワを目立たなくすることができないのかを解明し,さらに形態補正機能によりシワを目立たなくする製剤を実現した。2016年に抗シワガイドラインに則った有効性により,医薬部外品で「シワを改善する」訴求が初めて認められた。それまで日本国内におけるシワに対する訴求は乏しく,海外での積極的な訴求と比べて非常に出遅れている状況であった。ようやくグローバルレベルでハーモナイゼーションに沿った訴求に近づいた。われわれはレチノール(RO)によるシワ改善有効性試験を実施した。ランダム化二重遮蔽左右対比較試験のもと,RO配合製剤とプラセボ製剤(RO抜去)をおのおのハーフフェイスで左右の目尻を中心とした目周りに9週間連用した。視感判定と機器評価(レプリカ解析)の両方においてRO配合製剤塗布側はプラセボ製剤塗布側に比べて有意にシワを減少させた。抗シワガイドラインに則って,レチノールによりシワを改善する有効性が認められた。長年にわたる承認審査を経て,2017年にレチノールはシワを改善する医薬部外品・有効成分として承認された。正常ヒト表皮角化細胞を用いた実験から,ROはヒアルロン酸合成酵素HAS3の遺伝子発現を亢進し,ヒアルロン酸を有意に産生させた。このようなヒアルロン酸の産生促進作用は皮膚水分量を顕著に増加させ,その結果皮膚に柔軟性を与えることによりシワを改善すると考えられた。
著者
美崎 栄一郎 池田 浩 今井 健雄
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.108-112, 2014-06-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
2

われわれは専門家として,メイクやヘアメイクの仕上がりなど使用実態を調査している。その使用実態観察研究の一環として,本研究では観察者の視線の動きに着目した。化粧直後の仕上がり写真を刺激画像とし,それを観察する視線の動きを調べた。今回の検討により,化粧における専門家であるメイクアップアーティストは左右上下のバランスを測るように広い範囲に視線移動をし,仕上がりを短時間で評価していることがわかった。一般女性は顔の中心や個々のパーツなどの気になる部分に視線が片寄りがちになる傾向にあった。視線の移動を可視化することで,暗黙知として専門家がもっている美しい仕上がりへの知見を引き出せる可能性が示唆された。
著者
久留戸 真奈美 菅沼 薫
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.48-58, 2020-03-20 (Released:2020-03-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

男性の顔面皮膚は,皮脂量は多いものの同年代女性に比べてキメが粗く乾燥していることに加え,加齢とともに皮膚色が赤黒くなるという男性特有の加齢変化を示す。これは男性のヒゲ剃り習慣が大きく影響していると考えられる。そこで,本研究は,長期間電気シェーバーと安全カミソリのいずれかのみを毎日使用している20代と50 代の2つの世代の顔面皮膚を調査することで,ヒゲ剃り習慣による長期的な皮膚への影響を推測することを目指した。あわせて,被験者自身の肌状態,スキンケアなどのアンケート調査を実施し,男性の顔面皮膚の加齢と,ヒゲ剃り,スキンケア等の関連を考察した。調査の結果,20代と50代の肌を比べると,50代の肌は赤黒くなるだけでなく,頬からアゴ下にかけて多くの色素沈着が見られた。これは,ヒゲ剃りダメージの大きさを示している。一方,アンケート調査では,紫外線対策を含めてスキンケアを怠っている男性が多数であった。日本人男性の顔面皮膚は,「ヒゲ剃り習慣」と「スキンケアの怠り」が長期に渡った結果,男性特有の加齢変化を起こしていると考えられる。
著者
江浜 律子 島田 有紀 仲西 城太郎 萩原 基文 岩渕 徳郎
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.16-23, 2018-03-20 (Released:2018-03-20)
参考文献数
21

一般に健康な毛髪を育むには頭皮の健康が重要であると考えられているが,これまでに頭皮状態が毛髪物性に及ぼす影響を遺伝子レベルで検証した報告はない。本研究では,日本人女性101名の頭皮状態を観察し,頭皮トラブルの程度が高い被験者ほど皮脂量が多く,また毛髪のハリ・コシが弱いことを明らかにした。これらの結果から,皮脂由来の刺激物質が頭皮トラブルを引き起こし,それに伴い放出される炎症性因子を介して毛包細胞における毛形成を阻害するという仮説に基づき,培養実験モデルでの検証を試みた。外毛根鞘細胞に過酸化脂質を作用させると炎症性サイトカイン(IL-1,IL-8)の遺伝子発現が亢進し,器官培養毛においてこれらの炎症性サイトカインがキューティクル強度に寄与するKAP5.1の遺伝子発現を低下させた。さらに過酸化脂質等による炎症性サイトカインの遺伝子発現亢進を抑制する植物成分を見出した。以上より皮脂由来物質等に起因する頭皮トラブルに伴い炎症性因子が亢進し,毛髪形成が遺伝子レベルで阻害されて新たに作られる毛髪のハリ・コシなどが低下することが示唆され,また,それを防ぐ植物由来成分の可能性を提示した。
著者
佐藤 千尋
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.93-99, 2013-06-20 (Released:2015-08-25)
参考文献数
11
被引用文献数
3

水性洗顔料は主成分である脂肪酸セッケンや界面活性剤の作用により,時として洗顔によって皮膚に悪影響を及ぼす可能性がある。それを低減するため,これまで低刺激性界面活性剤開発など処方面での工夫が行われてきた。しかし,実際にその処方を使用してもらうと設計どおりの結果が得られない場合がある。水性洗顔料は他の化粧品と異なり,そのままの形態で使用するものではない。すなわち消費者自らが泡状に形態を変化させて (=泡立て) はじめて機能を発揮する製品である。そこで「泡立て」に着目し,「使用量」「濃度」「泡体積あたりの脂肪酸総量」をポイントに使用方法の実態を調査した。また,調査結果を基に行った実使用テストでは,「泡立て」の違いが肌状態に影響することを確認した。われわれメーカーは,水性洗顔料という製品を提供するのみでなく,使用方法のポイントすなわち「使用量」「泡立ての途中で水を加える」「空気を巻き込むように泡立てる」を消費者にわかりやすく伝え,適切な使用方法で使用してもらうことの重要性を啓蒙していく必要がある。
著者
久原 丈司 笠原 啓二 嶋田 格 松井 宏
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.33-40, 2017 (Released:2017-03-22)
参考文献数
8

デオドラント剤の防臭効果の持続性向上(ロングラスティング化)を目的として,臭いの原因となる皮膚常在菌の繁殖を抑えるために,デオドラント剤に配合されている殺菌剤4-イソプロピル-3-メチルフェノール(IPMP)と2,4,4′-トリクロロ-2′-ヒドロキシジフェニルエーテル(トリクロサン)について,腋窩上での経時残存性を評価した結果,トリクロサンはIPMPよりも有意に経時残存性が高いことが示唆された。次に,殺菌剤の腋窩上での経時的な減少要因の解明として,殺菌剤の揮発性,皮膚内部への浸透性,皮膚表面での拡散性,衣服への移行性を評価した結果,皮膚内部への浸透および衣服への移行が主要因であることが示唆された。また,殺菌剤の腋窩での残存性を高める成分(デオドラントキーパー)の探索を行った結果,デオドラントキーパーの要件としては,皮膚内部への浸透を抑えるため分子量が大きいこと,耐水性が高い必要があるためオクタノール/水分配係数(Log P)が大きいこと,殺菌剤との親和性(結合性)が高いことが必要であり,今回評価したIPMPのデオドラントキーパーとしては,分極部位を有しIPMPと水素結合等の双極子相互作用を起こしやすい構造であることが,残存性向上に有利に働くことが見出された。