著者
水越 興治 二川 朝世 山川 弓香
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-127, 2013-06-20 (Released:2015-08-25)
参考文献数
12
被引用文献数
5 1

皮膚は最外層に位置する臓器であり,温湿度,日照量等の環境や日焼け等の流行といった体外から身体に影響を及ぼす外的要因や,かゆみ,痛み等の身体内部の個人差に起因する内的要因からの影響を受け,その状態は個人間でさまざまに異なっていると考えられる。したがって,それら外,内的要因を知り適切なスキンケアをすることは,健やかで美しい肌を維持するために重要であると考えられる。そこでわれわれは,外的,内的要因による皮膚状態の違いや変化が存在するかを検討するために,沖縄県から北海道に及ぶ日本全地域の,のべ5893536件の女性の皮膚状態の調査を20年間にわたり行ってきた。その結果,見た目のシミ,肌の色,シワの状態が2000年付近を境に傾向が変化し,この変化は肌色に関する流行の変化 (ガングロブーム,美白ブーム) や,UVの害に対する社会的認識の変化 (母子手帳から「日光浴」の項目の削除) との関連性が考えられた。また,毛穴の目立ちが,日照時間に相関する傾向が示された。皮膚のバリア機能の指標である角層細胞の配列規則性が,すべての季節で,敏感である対象者ほど悪いスコアをとる傾向が示された。また,健常な肌と考えられる対象者のほうが,角層細胞の配列規則性の年間の変動が大きい傾向であることが示された。
著者
堀辻 麻衣 森田 美穂 井上 明典 北谷 典丈
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.181-187, 2019

<p>近年,コットン等にとってふきとるような動作で使用する,「ふきとり化粧水」の効果や重要性への注目度が高まっている。ふきとりに際して使用する液や日常のスキンケアに対する「ふきとり行為」の追加が皮膚に与える作用については報告があるものの,コットンによるふきとりという行為が皮膚に与える影響とそのメカニズムを解明するには,さらなる検討が必要であった。本研究では,この行為に着目し,ふきとりの作用と機能を明らかにすることを目的として,コットンによるふきとりとパッティングが皮膚状態および皮膚成分に与える作用を比較した。2週間の連用試験の結果,ふきとりを行った部位について,試験開始前のメラニンインデックスが高い測定参加者ほど値の低下が大きかった。さらに,コットンに付着した角層由来タンパク量について,パッティング使用した場合と比較して,有意に多いにもかかわらず,角層厚に変化はみられなかった。これらの結果から,ふきとり行為にはメラニンを含む角層の除去と同時に新たな角層の生成を促進する機能があることが示唆された。さらに,ジヒドロキシアセトンを適用した人為的なサンレスタンニング部に対する適用試験により,ふきとりの角層交換促進作用が確認された。本研究により,コットンによるふきとりが角層交換促進機能を有し,これによって色素を含んだ角層が減少することで,皮膚色を明るくする作用を発揮していることが示された。</p>
著者
勝田 雄治 岩井 一郎 針谷 毅
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.285-291, 2013-12-20 (Released:2015-12-21)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

敏感肌において感覚刺激を受けやすいことの原因の一つとして,角層バリア機能の低下により外来刺激物質が皮膚に浸透しやすくなっていることが考えられている。しかしながら,角層バリア機能がどのように低下しているのかについての詳細は明らかになっていない。そこで,ドライアイの診断法として汎用されているフルオレセイン染色法を皮膚に応用して,非侵襲的手法による角層バリア機能のビジュアル化を試みた。検討の結果,皮膚にフルオレセインを塗布して蛍光を観察することにより,角層深部への水溶性物質の浸透が確認できた。また蛍光強度を定量したところ,経皮水分蒸散量との間に相関が確認された。これによりフルオレセイン染色像が角層バリア機能を反映していることが明らかになり,角層バリア機能のビジュアル化が実現できた。また,角層バリア機能がどの領域で低下しているかを観察することが可能になった。実際にこの方法を用いて敏感肌の頬部皮膚の観察を行ったところ,毛穴周辺領域での角層バリア機能の低下が示唆された。さらにはスキンケア化粧品の連用による角層バリア機能向上のビジュアル化に活用しうることが示された。
著者
小池 徹 中島 紀子 奥村 英晴 奥村 秀信
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.14-21, 2011-03-20 (Released:2013-03-18)
参考文献数
20

化粧品において「触感」は重要な因子であり,その触感に大きな影響を与える皮膚の柔らかさに関する報告は多い。たとえば角層の柔軟性には,水分が大きな影響を与えていることが広く知られており,その詳細なメカニズムの解明も進んでいる1)。一方,「エモリエント」という言葉が業界に古くからあるように,油剤が皮膚へ柔軟性を与える効果も広く認められている。しかし油剤による柔軟効果に関して,具体的にどのような機構で働いているのかという点を追究した報告が少ない。そこで今回は液状油に注目し,皮膚への柔軟化機構を力学的ならびに官能的に検討した。その結果,塗布された液状油によって細胞間脂質層が柔らかくなり,これが角層に影響を与えていることが示唆された。また官能的に「感じる」柔らかさは必ずしも力学的な柔軟化傾向とは一致しておらず,ほかにも摩擦等の表面特性が関与していることが示唆された。よって,肌を柔らかくする,または感じさせる効果を化粧品で十分発揮するためには,両方の側面からアプローチすることが有効であると考えられた。
著者
長瀬 忍 篠崎 孝夫 土屋 勝 辻村 久 増川 克典 佐藤 直紀 伊藤 隆司 小池 謙造
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.201-208, 2009-09-20 (Released:2011-12-09)
参考文献数
23

毛髪外観は毛髪の形や色,光学物性などの影響を受ける。たとえば,毛髪の形は加齢に伴いうねり(くせ)が強くなることが報告されているが,うねりの増加に起因して毛髪の揃いが乱れ,髪の艶が低下する。そこで本研究では毛髪の形に着目し,毛髪の形と微細構造との関係を明確にすることを目的とし,種々の解析を行い以下の結果を得た。1.蛍光色素のくせ毛内部への浸透挙動は非対称(くせ形状の外側で浸透速度が速く,内側で遅い)であった。この結果は外側・内側における構造/化学組成の違いを示唆する。2.透過型電子顕微鏡観察により,くせの外側では中間径フィラメント(IF)が螺旋状に配列し比較的小さなマクロフィブリルを形成し,くせの内側ではIFは毛髪軸にほぼ平行に配列し比較的大きなマクロフィブリルを形成する傾向が認められた。3.くせ毛を外側と内側に分割しアミノ酸組成を分析した結果,くせの外側にはAsp,Glu,Glyが多く,内側にはCysが多いことが判明した。以上のヒトのくせ毛解析結果は,羊毛のオルト/パラコルテックス細胞の解析結果に似ており,曲がった形の毛髪の構造や組成が哺乳類で共通である可能性を示唆する。
著者
大江 昌彦 白髭 由恵 窪田 泰夫 乾 まどか 村上 有美 松中 浩 森岡 恒男
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.127-132, 2010-06-20 (Released:2012-06-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

近年のにきび用化粧品は,毛包漏斗部を閉塞するような成分を除きpHを弱酸性にするなど,処方面での工夫がなされており,にきび患者が使用試験して問題となることは少ない。反面,化粧品の使い方(スキンケア)については,人によって方法が異なるのが現状である。そこで,〓瘡患者を対象として,化粧品の使用実態調査を行った結果,〓瘡患者は健常者に比べ,洗顔回数や洗顔料の使用量が多いことなどが明らかとなり,〓瘡の予防や改善のためには,化粧指導とスキンケアが重要であることがわかった。今回われわれは,女性〓瘡患者31名を対象として,皮膚科専門医による化粧指導とともにスキンケア製品を2カ月間使用し,皮膚生理機能および患者のQOLを調べた。その結果,皮膚の生理機能や患者のQOLの改善が確認され,皮膚科医によるスキンケア指導は,〓瘡患者の治療補助として役立つことが確認できた。
著者
萬成 哲也 戸田 和成 小川 俊介 佐藤 千怜 中嶋 礼子 細川 博史 大西 日出男
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.187-196, 2018-09-20 (Released:2018-09-21)
参考文献数
18
被引用文献数
1

ヘッドスパは数種類の頭皮マッサージ基本手技の組み合わせによって構成される。本研究では,5種類の基本手技(圧迫法,指圧法,揉捻法,強擦法,軽擦法)をそれぞれ3分間実施した際の心身に及ぼす影響を,各種生理的・心理的指標を用いて評価した。その結果,副交感神経の活性化によって生じる脈拍数の低下はすべての基本手技に共通してみられた一方で,他の指標においては各基本手技で異なる効果がみられた。生理的指標において,圧迫法,指圧法,軽擦法では顕著なストレスの軽減がみられ,揉捻法ではすべての測定部位での皮膚表面温度の上昇と顔面部位の形状変化がみられた。Visual Analogue Scale(VAS)を用いた心理的指標に関しては「,気持ち」の改善は圧迫法「,リラックス度」の向上は揉捻法,「覚醒度」の向上は軽擦法において顕著であった。このように,われわれはマッサージ基本手技による3分間の短時間の施術においても,基本手技ごとに異なる効果が得られることを証明した。本研究結果は,科学的根拠に基づく最適なヘッドスパメニュー構築において,重要な手掛かりになると考える。
著者
渡辺 啓 松尾 玲 井上 裕基 安達 謙太郎 野田 章
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.287-294, 2012-12-20 (Released:2014-12-20)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

メーク落としに求められる重要な特徴は,「メーク落とし効果」と洗い流し後の「さっぱり感」である。しかしながら,これら2つのを要素を満たすメーク落とし製品は市場には存在しなかった。これは,従来技術ではこれらの要素はトレードオフの関係にあったためである。われわれは,この課題を解決するために,「メーキャップとのなじませ」と「洗い流し」の間に存在する「水を加える」という行動に着目し,界面活性剤の溶存状態変化を,相平衡図上で界面化学的に検討した。その結果,「メーキャップとのなじませ」時には洗浄力の高い逆ミセル油溶液であり,水を加えると,両連続構造を経由して,「洗い流し」が容易なミセル水溶液に相転移する特異な系を見出した。このような系を実現するためには,①HLB (親水性-親油性バランス) を釣り合わせ,界面活性剤低濃度領域に存在するO/W領域を縮小すること,②極性の油を添加し,相平衡図の中央付近に出現することの多い高粘性の液晶相を消去すること,が重要であることが明らかになった。逆ミセル油溶液をクレンジングオイルとして用いると,「メーク落とし効果」は非常に良好で従来のクレンジングオイルと同程度であり,「さっぱりさ」は皮膚上への油の残留がきわめて少ないためクレンジングローションと同程度であるという特徴を有していた。この高性能クレンジングオイルは,クレンジングオイルによるメーク落としプロセスを界面化学的に詳細に検討することで,トレードオフの関係にあった要素を両立させたものである。
著者
飯田 年以 菅原 美郷 小野 隆之 河合 江理子
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.100-107, 2013-06-20 (Released:2015-08-25)
参考文献数
16

肌のざらつきは,若年層を中心として悩み項目の上位に挙げられるが,その正体は詳細に検討されていなかった。20~30代前半の女性の額部を観察したところ,ニキビがよくできる人にぶつぶつとした触感の小さなふくらみがあり,これを「ざらつき」と感じていることを見出した。このざらつきの構造を機器分析するとともに,触感で認識,マークして計測を行う評価法を用い,個数や変動,肌状態との関連を調べた。その結果,ざらつきは毛穴に一致した肌色の盛り上がりを持つ「小さなコメド (面皰) 」であった。これはニキビとは認識されていないごく初期段階のもので,肌の伸展や光の当て方で認識できる“missed comedones”に相当すると想定された。短期間に形成または消失することで,全体として数が周期的に変動していた。また,ざらつき数の多い人は皮脂量が多かった。以上より,ざらつきの改善には明らかな面皰や炎症性コメドと同様に過剰皮脂と角層のターンオーバー制御が重要と考えられ,有効成分としてサリチル酸とトラネキサム酸配合の化粧水製剤を開発した。ヒト連用試験の結果,額部のざらつきの減少とともに,アンケートでざらざら感減少やなめらかさ向上が認められた。
著者
長崎 芙美 村上 泉子
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.17-24, 2016-03-20 (Released:2017-03-21)
参考文献数
20
被引用文献数
5 6

30代と40代それぞれで年齢幅の近い女性を対象に,見た目年齢と実年齢,肌状態,顔形状,生体指標,肌印象・魅力印象との関連について検討した。その結果,30~33歳,あるいは46~49歳のわずか4歳の年齢幅でも見た目年齢には約20歳の差があることや,目じりのしわ,しみ,たるみが見た目年齢に影響することが示された。年代別では,40代で肌の柔軟性や皮脂量との関連もみられた。また,見た目年齢と顔の形状や生体指標との関連はみられなかったが,肌印象・魅力印象とは強く関連していた。これらの結果から,30代や40代女性の見た目年齢には個人差があり,顔形状よりも肌状態が強く影響していることや,その影響度にも年代差があることが示唆された。
著者
山口 あゆみ 大西 一禎 栗山 健一
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.118-126, 2010-06-20 (Released:2012-06-25)
参考文献数
9
被引用文献数
3 3

男性顔面上で「ギラつき」と表現される現象は,一般的に皮脂量の多さに関係すると考えられている。しかし,加齢に伴い皮脂量は徐々に減少することに反し,ギラつきは中高年男性に顕著である。そこで男性顔面の前額部において,ギラつきとさまざまな皮膚特性との相関を解析した。ギラつきに対する重回帰分析を行ったところ,皮脂量で0.490,キメ細かさで—0.370,皮膚色の明度で—0.314の標準偏回帰係数が得られた。皮脂量の要因が最大であったが,他ニ者もギラつきに関与する重要な因子であることが示された。また,画像解析によって得られる前額部の表面反射光および内部反射光の光学的特性値を用いて重回帰分析を行い,ギラつき度予測式を導いた。表面反射光の光学的特性値は,皮膚上に存在する皮脂量とキメの状態によって決定されると推測できた。紫外線対策が不十分な男性特有の生活習慣は,キメの不明瞭化や顔面色の暗化を引き起こし,男性顔面に特徴的な「ギラつき現象」を発生させていると考えられる。ギラつきを低減するには洗顔等による皮脂の除去が基本となるが,スキンケアによる皮膚色やキメの改善も重要であると考えられた。
著者
山本 義昭 小野 太一
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.50-57, 2023-03-20 (Released:2023-03-21)
参考文献数
19

シャンプーは,すすぎの過程でカチオン化ポリマーと界面活性剤がコアセルベーションを生成するように処方設計されており,毛髪にコアセルベーションが付着することで滑らかになるとされている。しかし,そのコアセルベーションの物理的特性が処方設計の違いで異なるのか,また,実際の使用感とどのような関係があるのかは解明されていない。そこで本研究では,主基剤アミノ酸型界面活性剤とカチオン化ポリマーの系に対して,種々の両性界面活性剤を使用した際の使い心地と生成されるコアセルベーションの関係について検討した。その結果,各種処方の滑らかさ,しっとり感,コシ感において,個々に得られるコアセルベーションには異なる物理的特性があることがわかった。また,これらの結果は,生成されるコアセルベーションの特長が使い心地に影響を与えていることを示唆した。
著者
兼井 典子 児玉 達哉 張谷 友義
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.311-316, 2017-12-20 (Released:2017-12-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1

シャンプーの主成分であるアニオン界面活性剤はカチオン性高分子との相互作用により,シャンプー希釈時のある濃度領域において,コアセルベートと呼ばれる水に不溶の複合体を形成する。コアセルベートは毛髪に付着してコンディショニング効果を付与することが知られており,コアセルベートの性質がシャンプーの使用感に影響を及ぼすことが報告されている。一方,香料はシャンプーに配合されており,香り立ちや残香は重要である。コアセルベートは毛髪に付着することから,香料の香り立ちや残香はコアセルベートの影響を受けるものと考えられる。そこで,本研究では毛髪への香料の付着に及ぼすコアセルベートの影響について検討した。コアセルベート有/無シャンプー水溶液の上澄み液中の香料量を比較した結果,香料はコアセルベート中に取り込まれる傾向にあることが明らかとなった。さらに,コアセルベート有/無のシャンプーを用いて洗髪した毛髪への香料の付着量をガスクロマトグラフィーにより定量した結果,コアセルベート有の方が無よりも香料の付着量は増加することが確認された。これは,コアセルベート形成時に香料が取り込まれて毛髪へ付着するためと考えられる。
著者
野々村 美宗
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.89-92, 2014-06-20 (Released:2014-06-20)
参考文献数
14

泡は身体洗浄料の洗浄力や使用感を左右する重要な因子であるため,多くの研究者がその物理的性質の制御に取り組んできた。しかし,商品のコンセプトにあった起泡性や泡安定性を実現することはいまだに難しい。本総説では,泡の物理的な特性の起源となる構造とダイナミクスに関する最近の研究を紹介する。
著者
木田 尚子 曽我部 隆彰 加塩 麻紀子 須賀 康 金丸 晶子 大場 愛 富永 真琴
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.108-118, 2013-06-20 (Released:2015-08-25)
参考文献数
32

われわれヒトの皮膚温度は気温や体温によって大きく変動する。しかし,温度が皮膚機能に与える影響やその詳細なメカニズムは不明である。本研究では,生理的皮膚温度付近 (>30°C) の熱刺激や化学的刺激によって活性化する温度感受性イオンチャネルTRPV4に着目し,皮膚機能におけるその役割を検証した。その結果,TRPV4はヒト表皮ケラチノサイトにおいて細胞間接着構造adherens-junction (AJ) を構成するタンパク質βカテニン,Eカドヘリンと複合体を形成し,TRPV4を活性化する熱刺激や化学的刺激を加えることで①細胞内カルシウムイオン (Ca2+) 濃度の上昇,②低分子GTP結合タンパク質Rhoの活性促進,③細胞間接着構造AJおよびtight-junction (TJ) の形成・成熟促進とそれらを介した表皮細胞間バリア機能の亢進に関わることが示唆された。さらに,TRPV4を活性化する素材の開発はバリア機能の維持・改善に有用であると考え,天然由来物からTRPV4活性化成分を探索したところ,バナバ葉から単離されたエラグ酸誘導体に高いTRPV4活性化作用および表皮細胞間バリア機能向上作用が確認された。
著者
松岡 桓準 平 徳久 中村 清香 勝山 雄志 吉岡 正人
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.200-207, 2014

アスコルビン酸は生体にとって不可欠な成分であり,化粧品分野においても抗酸化作用をはじめとする様々な生理機能を求めて多くの製剤に配合されている。しかし,アスコルビン酸は非常に不安定な物質で,しばしば着色・着臭をはじめ乳化系の破壊や製剤の粘度低下の原因となる。今回われわれは,アスコルビン酸とグリセリンを結合させた2種類のグリセリル化アスコルビン酸を開発した。これらはB16細胞を用いたメラニン生成抑制試験において高いメラニン生成抑制効果を示した。また,<i>in vivo</i>の連用試験ではグリセリン由来の保湿効果を示し,肌表面の紋理を整え,乾燥による目尻の小じわを目立たなくした。さらに,水溶液や粘性製剤において高い安定性を示すことも確認された。これらの結果よりグリセリル化アスコルビン酸は既存の誘導体と同様の生理活性を有するだけでなく,化粧品市場に求められる付加的機能を併せ持った保湿型アスコルビン酸誘導体であることが確認された。
著者
澤根 美加 大田 正弘 山西 治代 本山 晃 高倉 伸幸 加治屋 健太朗
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.188-196, 2012
被引用文献数
1

皮膚には血管・リンパ管からなる微小循環系がはりめぐらされており,皮膚は全身の臓器と同様に,血管から栄養や酸素を供給され,リンパ管から過剰な水分や老廃物を排出されることで恒常性を維持している。皮膚の恒常性維持に微小循環系は重要と考えられるが,皮膚老化への関わりとその分子メカニズムについては未知な部分が多かった。本研究では,加齢による皮膚老化が循環系機能の低下によって引き起こされ,さらにその循環系機能を血管安定化にかかわる受容体Tie2 (endotheliumspecific receptor tyrosine kinase 2) が制御することを明らかにした。まず,ヒト皮膚組織を用いて循環系変化を解析したところ,加齢で血管およびリンパ管の構造が不安定化し,機能が低下していた。さらに,そのメカニズムはTie2の活性化の低下に起因していた。Tie2は血管と同様,リンパ管機能や成熟化にも寄与しており,Tie2の活性化が血管・リンパ管の安定化に重要であった。そこで,Tie2を活性化する薬剤を網羅的に探索した結果,ケイヒエキスを同定した。
著者
目片 秀明
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.2-11, 2017
被引用文献数
2

近年でも微生物汚染が原因により製品回収に至った化粧品の事例がある。消費者が化粧品を使用する際に,使い始めから終わりまで安全に安心して使用できることは化粧品が有すべき重要な品質である。本稿では二次汚染リスクの高い製品に対する製品設計上の留意点や,使用頻度が高い防腐剤,国際的な防腐剤規制状況,防腐力に影響を与える因子などを中心に概要を列挙した。また,消費者の安全性志向の高まりや海外の防腐剤の配合規制に応えるため,われわれはパラベンフリー・防腐剤フリーを目的とした製品開発に向けて,1,2-アルカンジオールの抗菌効果と皮膚の感覚刺激性についてパラベンと比較して調べた。その結果,抗菌効果はほぼ同等であり,感覚刺激性はパラベンに比べて有意に低いことを確認した。化粧品開発において適正な製品品質を確保した防腐処方設計の考え方の一助となれば幸いである。
著者
山口 弘毅 大隅 和寿 坂井田 勉 広瀬 統 八代 洋一 中田 悟
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.27-32, 2017 (Released:2017-03-22)
参考文献数
11

毛穴の目立ちの原因となる角栓は,角質や皮脂が毛孔内で凝固して発達したものと考えられていたが,われわれの研究から角栓形成には毛包中の内毛根鞘が関与する可能性が考えられた。また,男性ホルモンの活性化が角栓形成に関与することも明らかにした。これらの結果から,内毛根鞘の形成阻害や男性ホルモンの活性化抑制が角栓形成を防ぎ,結果として毛穴を目立たなくさせると考え,有効成分としてザクロ発酵液を同定した。さらに,ザクロ発酵液を配合したミルクローションを2ヵ月間女性被験者16名(平均年齢30.3歳)に連用させたところ,ポルフィリン量を指標にした角栓の目立ち,およびレプリカにおける毛穴の深さ解析において改善効果を得た。以上の結果から,ザクロ発酵液が角栓形成を抑制し,毛穴の目立ちを改善すると考えられた。
著者
大坊 郁夫
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.241-248, 2000

顔の魅力は, 身体的特徴にのみによって形成されるものではなく, 社会的脈絡や文化によって大きく影響される。多くの研究は, 進化によって築かれた民族的な同一性と顔の形態特徴によって顔の魅力が形成されることを示している。日本人は, 歴史的に外見的特徴自体および外見的美を表現することに抑制的であり, 包括的な平等さを重視する傾向がある。しかし, 外見美に無関心なわけではない。このような間接性を重視する文化は, 欧米, 他のアジアとも異なるものであり, 日本人の同調性, 集団主義的傾向を示唆する。外見美や化粧の効用の社会心理学的研究において, 個人の特徴や文化的影響を十分に踏まえる必要がある。さらに, 顔の形態特徴に加えてコミュニケーション性への視点も重要である。