著者
岩上 貴幸 山田 創 小笠原 禎文 孫 宰賢
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001656, (Released:2022-02-25)
参考文献数
18

症例は生来健康な全く既往のない31歳男性.コロナウィルス修飾ウリジンRNAワクチン(トジナメラン)接種翌日より頭痛および繰り返す嘔吐を認めた.接種4日後には左半身の痺れも自覚し,当院救急外来受診.MRIで脳静脈洞血栓症と診断し,抗凝固療法を開始した.治療開始後症状は徐々に改善を認め,フォローアップのMRIでは閉塞静脈洞の大部分で再開通を認めた.採血上明らかな血栓性素因はなく,コロナウィルスの感染も否定的であった.ワクチン接種24時間以内に発症した脳静脈洞血栓症の1例を経験したが,両者の因果関係については今後より大規模な症例の蓄積から判断を行う必要がある.
著者
田中 公二 柴田 護 野沢 悠子 駒ヶ嶺 朋子 森田 陽子 五味 愼太郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.130-134, 2008 (Released:2008-02-22)
参考文献数
13

症例は23歳の女性である.4歳時からアトピー性皮膚炎,小学生時から気管支喘息に罹患していた.200X年7月に歩行障害,下肢感覚異常,膀胱直腸障害を急激に発症し入院した.神経学的所見では,下肢筋力低下,下肢の温痛覚と位置覚障害,下肢腱反射低下ないし消失,および弛緩性の膀胱直腸障害をみとめた.入院時のMRIでは,円錐上部の腫脹がみとめられ,髄液検査では細胞・蛋白・IgGは正常であったが,IgE(8IU/ml)とMBP(7.8ng/ml)は高値であった.血液検査ではダニ特異的IgEが強陽性であった.以上の所見からアトピー性脊髄炎と診断した.入院後,ステロイド・パルス療法と血漿交換療法で臨床所見は改善した.第21病日以降に施行されたMRIでT2強調画像にて高信号を示す散在性病変が腰髄∼仙髄レベルに確認された.髄液と血液のIgEおよびアルブミンの測定結果から,IgE髄内産生の可能性が示唆された.髄液IgEを経時的に測定したが,病勢との相関は明らかでなかった.本例のような病巣部位と急性の経過は従来の報告に比し,非典型的と考えられた.
著者
小栁 清光
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1165-1167, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10

神経軸索スフェロイドをともなう遺伝性び慢性白質脳症(HDLS)の臨床所見と病理所見を概説した.HDLSは40歳前後に発症する進行性の認知症で,痙攣をともなう事が多い.その多くは常染色体性優性遺伝を示すが孤発例(de novo発症)も多い.大脳白質の有髄線維が脱落し,腫大軸索がみられる.発症初期から中期では,病変部に活性化したミクログリアとアストロサイトをみとめる.
著者
池内 健
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1158-1161, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

Hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids(HDLS)は大脳白質を一次性に障害する若年性認知症である.2012年,colony stimulating factor-1 receptor(CSF-1R)がHDLSの原因遺伝子として報告されて以来,本症は遺伝子解析による確定診断が可能である.CSF-1R変異をともなうHDLS報告例は54家系73症例におよぶ.平均発症年齢は45歳,死亡までの罹病期間は平均6年であり,一旦発症すると病気の進行は早い.初発症状は認知機能障害がもっとも多い.パーキンソニズム,錐体路徴候,前頭葉徴候が頻度の高い臨床症状である.脳MRIでは大脳白質の異常信号と脳梁の菲薄化をみとめ,病初期から側脳室が開大するcentral atrophyを呈する.脳CTでは微小石灰化病変が特徴である.HDLSはまれな頻度ではなく,白質型・若年性認知症の鑑別診断において念頭におくべき疾患である.
著者
横手 顕 合馬 慎二 高橋 和範 原 文彦 吉田 邦広 坪井 義夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.420-424, 2020 (Released:2020-06-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

症例は64歳,女性.40歳頃より軽度のコミュニケーション障害が出現したが日常生活に支障はなかった.59歳から健忘,幻覚,妄想といった認知機能障害が出現し,約5年の経過で錐体路,錐体外路症候が出現し,歩行困難となった.脳MRIにて大脳の萎縮,脳梁の菲薄化,両側前頭葉優位に大脳白質病変を認めた.コロニー刺激因子1受容体(colony stimulating factor 1 receptor; CSF1R )のexon 18内にp.R777Qの変異を認めた.明らかな家族歴はなく,神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症と診断した.本症例のように軽度の精神症状を呈して長期期間経過した臨床経過は希少であり報告する.
著者
齋藤 万有 林 信太郎 鎌田 崇嗣 村井 弘之 尾本 雅俊 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.753-758, 2015 (Released:2015-10-16)
参考文献数
16

症例は45歳女性.38歳より右手指の伸展障害が出現,その後数年かけて左側,次いで右側の下垂足が出現した.腱反射は右上肢と両下肢で減弱し,左下肢遠位部に軽度の異常感覚を認めた.神経伝導検査は軸索障害パターン,針筋電図検査で慢性神経原性所見を認めた.血清抗SS-A抗体と唾液腺病理所見が陽性.腓腹神経生検では神経束内の有髄神経線維脱落の分布に差異があり小血管周囲に炎症細胞浸潤を認めた.シェーグレン症候群に伴う多発性単神経炎と診断,免疫療法を行い一部の筋力に改善がみられた.本例が年余に亘る緩徐進行性の運動優位多発性単神経障害を示した点は,同症候群に合併する末梢神経障害として特異である.
著者
中谷 光良 月野 光博 髙橋 良輔 池田 昭夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.504-507, 2016
被引用文献数
1

<p>81歳女性で高血圧,サルコイドーシス,慢性腎不全で透析中の患者.右胸背部に出現した皮疹に対し帯状疱疹と診断され,バラシクロビルの内服が開始された.3日後より見当識障害,歩行障害が出現し救急搬送された.意識障害,および下肢優位の左右対称の安静時ミオクローヌスを認めた.脳波検査で周期性同期性放電(periodic synchronous discharges; PSDs)を認め,経過と所見よりバラシクロビルによる薬剤性脳症と診断した.保存的加療により意識レベルは改善し,脳波所見も軽快した.バラシクロビルはPSDsと薬剤性脳症をきたし,特に高齢者および腎機能障害患者では注意を要する.</p>
著者
小林(野網) 惠 丸尾 和司 坂本 崇 高橋 祐二 堀越 勝
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.791-798, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

本邦における局所性ジストニア患者92名を対象として,Revised NEO Personality Inventory(NEO-PI-R)に基づく結果を決定木法に基づいて解析し,職業および発症部位による観点から性格傾向を検討した.その結果,患者パーソナリティは発症部位よりも,職業に関与するか否かによって傾向が異なることが示唆された.また音楽家を含む職業性ジストニア患者における神経症傾向と高水準の不安,職業性上肢ジストニア患者の現実的思考,musicians’ dystonia患者におけるポジティブ/ネガティブ両方の豊富な感情体験が明らかとなった.
著者
鈴木 万幾子 内山 剛 高橋 均 伊藤 充子 清水 貴子 小林 寛 大橋 寿彦
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.586-589, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
7
被引用文献数
3 1

症例は57歳男性.全般性痙攣で発症し,左前頭葉に病変をみとめ,脳生検では反応性astrocyteの増生と血管周囲性のT細胞優位のリンパ球浸潤がめだった.病変は自然消退し,18カ月後に左小脳脚の病変を再発したが,ふたたび自然消退した.初発から2年後に脳梁に再発し,当初は多発性硬化症をうたがったが,ぶどう膜炎を合併,ステロイド抵抗性であり,再生検でびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断した.自然軽快する症候性病変をくりかえした中枢神経系悪性リンパ腫の1例について,2回の脳生検病理と臨床経過を報告した.
著者
阿部 康二 山下 徹 河相 裕美
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1143-1146, 2012

Stroke is a major neurologic disorder. Induced pluripotent stem (iPS) cells can be produced from basically any part of patients, with high reproduction ability and pluripotency to differentiate into various types of cells, suggesting that iPS cells can provide a hopeful therapy for cell transplantation. However, transplantation of iPS cells into ischemic brain has not been reported. In this study, we showed that the iPS cells fate in a mouse model of transient middle cerebral artery occlusion (MCAO). Undifferentiated iPS cells (5&times;10(5)) were transplanted into ipsilateral striatum and cortex at 24 h after 30 mins of transient MCAO. Behavioral and histologic analyses were performed at 28 day after the cell transplantation. To our surprise, the transplanted iPS cells expanded and formed much larger tumors in mice postischemic brain than in sham-operated brain. The clinical recovery of the MCAO+iPS group was delayed as compared with the MCAO+PBS (phosphate-buffered saline) group. iPS cells formed tridermal teratoma, but could supply a great number of Dcx-positive neuroblasts and a few mature neurons in the ischemic lesion. iPS cells have a promising potential to provide neural cells after ischemic brain injury, if tumorigenesis is properly controlled.<br>
著者
武藤 多津郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.849-852, 2011 (Released:2012-01-24)
参考文献数
10

Many researchers now recognize the importance of glycobiological research achievements. Glycoside-containing substances such as proteins (glycoproteins) and lipids (glycosphingolipids) have been involved in many important and essential events for normal life. The production of glycoside residues of the proteins is only partially regulated by the genes. In this talk, I will make a brief description of what glycobiology can influence the future of neurological research arena and how glycoproteins and glycolipids affect the normal biology of the neurons. Furthermore, I will introduce you some evidences that many neurological disorders such as Alzheimer's disease and immune-mediated encephalitis have special relationships with glycobiological abnormalities. I also explain the structures and functions of lipid rafts, caveolae, and glycosynapse and their roles in the intracellular signal transduction and cell motility.
著者
尾内 康臣
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.925-928, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

ミクログリアは脳実質内グリア細胞の10%を占め,安静時ではramified型をして繊毛突起を出して絶えず移動して免疫監視作用にかかわっている.ところが,脳組織が傷害を受けると傷害された神経細胞やアストロサイトからの刺激によってameboid型と形を変え,ミクログリアが傷害側まで誘導される.血管障害や変性疾患などの神経疾患だけでなく,直接的な脳病理学的所見が不明確とされる精神疾患においても,神経細胞やアストロサイトの異常によってミクログリア活性が上昇していることが最近報告されている.活性化ミクログリアはグルタミン酸神経シナプスなどを剥離して異常興奮を抑制する神経保護に関与する一方,炎症性サイトカインを放出し細胞傷害を惹起する.すなわちミクログリアの活性化こそ脳内での炎症の存在を示す証拠となる.この神経炎症を死後脳でなく,生きた脳で捉えることは疾患の病態を評価し,治療方針の決定に重要となる.活性化したミクログリアには,末梢性ベンゾジアゼピン受容体が多数発現し,その受容体に結合するトレーサーとPETを使うことで可視化できる.様々なトレーサー開発がおこなわれているが,中でも[11C](R)-PK11195は感度は低いが世界で広く臨床利用されているPETトレーサーである.このトレーサーは傷害性ミクログリアと保護的ミクログリア(果たして末梢性ベンゾジアゼピン受容体の差で差別化できるか疑問であるが)の区別なく,活性化したミクログリアを検出することができる.本シンポジウムでは神経・精神疾患の患者脳におけるミクログリア活性について述べる.
著者
三村 將
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1007-1009, 2010 (Released:2011-03-28)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

The neural substrates of moral judgments have recently been advocated to consist of widely distributed brain networks including the orbitofrontal cortex (OFC), anterior temporal lobe and superior temporal gyrus. Moral judgments could be regarded as a conflict between the top-down rational/logical processes and the bottom-up irrational/emotional processes. Individuals with OFC damage are usually difficult to inhibit emotionally-driven outrages, thereby demonstrating severe impairment of moral judgments despite their well-preserved moral knowledge. Individuals with OFC damage frequently present with anti-social less moral behaviors. However, clinical observation indicates that some OFC patients may show "hypermoral" tendency in the sense that they are too strict to overlook other person's offense. Two representative cases with OFC damage were reported, both presented with extreme rage against others' offensive behaviors. To further elucidate the "hypermorality" of OFC patients, an experiment was performed in which patients with OFC damage and healthy control participants were asked to determine punishments for other's fictitious crimes that varied in perpetrator responsibility and crime severity. Individuals with OFC damage punished more strictly than healthy controls those persons for mitigating circumstances. The results are consistent with clinical observation of OFC patients' highly rigid and inflexible behaviors against third person's offense.
著者
下畑 享良 木村 暁夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001673, (Released:2021-11-18)
参考文献数
33

抗IgLON5抗体関連疾患は,2014年に睡眠時随伴症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害と,タウオパチーを示唆する病理所見を呈する疾患として報告された.これまで八つの臨床病型が報告されている.睡眠時随伴症と閉塞性睡眠時無呼吸症候群を合併する患者,また運動異常症,運動ニューロン病,認知症患者において特徴的な睡眠時随伴症を合併する場合は,血清ないし脳脊髄液の抗IgLON5抗体を測定することが望ましい.一般に予後は不良であるが,免疫療法により改善する症例も報告されており,早期診断による病初期からの免疫療法が,予後を改善する可能性がある.
著者
伊藤 道哉
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.923-925, 2013

医療技術の高度化,分子標的薬等新薬の保険収載は,画期的な治療効果につながる可能性をもたらしながら,窓口負担の増加・国民医療費の増大をまねき,中医協でも費用対効果の議論が活発化している.国民皆保険制度も半世紀,制度疲労によるほころびを医療者の気合いで持ちこたえるには限界がみえており,東日本大震災の深刻なダメージは,医療崩壊を加速させる.神経内科の領域は,「難病」制度のなかで保険診療をおこなうかぎりにおいて,患者の自己負担をおさえることができたが,高額療養費を巡る議論,がん対策基本法等疾病対策の法制化の潮流の前に,大きな転換点を迎えている.法制化による難病対策の安定財源確保が喫緊の課題である.
著者
伊﨑 祥子 田中 覚 田島 孝士 中道 一生 西條 政幸 野村 恭一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.345-348, 2015 (Released:2015-05-30)
参考文献数
9
被引用文献数
4 6

症例は77歳,女性.6ヵ月にわたって緩徐に進行する小脳性運動失調を主訴に受診した.頭部MRIで左橋上部背側と両側の中小脳脚から小脳白質にかけて鍬型に異常信号をみとめた.本例は,非HIVであり,膠原病や免疫抑制剤を使用するような基礎疾患をみとめなかった.髄液中にJCウイルス(JCV)のDNAを検出したことから,小脳症状で発症したまれな小脳・脳幹型の進行性多巣性白質脳症と診断した.また入院後の検査でCD4+リンパ球減少症をみとめた.メフロキン単独による治療で髄液JCVは陰転化し,神経症候の改善をみとめた症例を経験した.
著者
小谷 紗稀 深沢 良輔 武澤 秀理 馬場 正道 曽根 淳 藤井 明弘
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.194-199, 2021 (Released:2021-03-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2

症例は70代の男性3例.主訴は全例歩行障害だった.全例に縮瞳と四肢・体幹失調を認め,mini-mental state examinationは2例,frontal assessment batteryは全例で低下していた.頭部MRIで白質脳症所見と小脳萎縮,拡散強調画像で皮髄境界の高信号を認めたが,2例は経過観察となっていた.全例,皮膚生検で抗ユビキチン抗体と抗p62抗体陽性の核内封入体,遺伝子検査でNOTCH2NLCのCGGリピート伸長を認め,神経核内封入体病と診断した.本症は物忘れを主訴とすることが多いが,失調による歩行障害で受診することもあり,特徴的な頭部MRI所見を手掛かりに皮膚生検や遺伝子診断で精査を進めることが重要である.

1 0 0 0 OA めまい

著者
城倉 健
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.279-287, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
19
被引用文献数
2

めまいの病態は,眼球偏倚(および結果として生じる眼振)に反映されることが多い.末梢性めまいである良性発発作性頭位めまい症は,耳石が迷入した半規管刺激による眼球偏倚がそのまま出現する.良性発作性頭位めまい症以外の末梢性めまいでは,一側の半規管障害をすべて総和した眼球偏倚となる.一方,中枢性めまいでは,中枢前庭経路(半規管経路+耳石器経路)が小脳により抑制制御を受けているため,前庭経路の直接障害による眼球偏倚に加え,小脳からの脱抑制による眼球偏倚も出現する.小脳による中枢前庭経路の抑制制御は,めまいの回復に重要な役割を担う前庭代償にも深く関わっている.めまいを治療する際には,こうしためまいの病態を理解し,病態に応じて特異的に介入する必要がある.
著者
梅本 大地 柴田 曜 森 仁 進藤 克郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.537-542, 2021 (Released:2021-08-30)
参考文献数
16
被引用文献数
3

破傷風は土壌に存在する破傷風菌が体内に侵入することで発症する感染症である.当院が診断した破傷風11症例について先行外傷や治療経過など臨床経過について検討した.発症時の平均年齢は68歳であり,7例で集中治療管理を要した.先行外傷には明らかに汚染を伴う例もあれば,非常に軽微あるいはない例もあり,先行外傷の程度と重症度に相関はなかった.初診医が破傷風と疑えたのは11例のうち4例のみであり,開口障害や頸部の筋緊張亢進など典型的な症状を呈していても外傷が軽微,またはない場合には見逃される傾向にあった.破傷風を疑う際には生活歴に至るまでの病歴聴取および適切な神経診察を行い診断・治療を行う必要がある.