著者
曽根 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001417, (Released:2020-09-05)
参考文献数
47
被引用文献数
7

神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease; NIID)は,進行性の神経変性疾患であり,近年まで剖検により診断されていたが,2011年に皮膚生検が診断に有効と報告された後,症例数が増加している.2019年にはNOTCH2NLC遺伝子上のGGCリピート配列の延長が原因であると同定され,遺伝子診断も可能となった.NIIDでは,認知機能障害で発症し,頭部MRIでの白質脳症およびDWIでの皮髄境界の高信号が認められる群と,四肢筋力低下から発症する群の2群が認められる.今後,白質脳症およびニューロパチーの鑑別診断にNIIDを含める必要があり,皮膚生検と遺伝子検査を組み合わせ,NIIDを的確に診断し,病態解明を推進する必要がある.
著者
松島 理明 高橋 育子 保前 英希
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.147-151, 2012 (Released:2012-03-28)
参考文献数
16

症例は53歳の女性である.貧血に対する1カ月の鉄剤内服でHb 3.5g/dl が8.9g/dl と改善した.入院当日頭痛や痙攣を主訴に救急搬送され,搬入後痙攣重積となった.高血圧を呈し,脳MRIで両側後頭葉などに異常信号をみとめた.髄液蛋白は上昇していた.人工呼吸管理下のチアミラール持続静注で痙攣は収束し,意識状態の改善,脳MRI異常の消退をみとめ,posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)と診断した.PRESの背景として高血圧や薬剤性などがあるが,本症例のように比較的急速な貧血補正で発症するばあいもある.貧血補正の際は慎重さを要する症例が存在する.
著者
守谷 新 門脇 傑 菊地 サエ子 榎本 雪 望月 仁志 宇川 義一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.699-702, 2011 (Released:2011-09-26)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

突然疼痛をともない,両側体幹と下肢の深部感覚優位の感覚障害,錐体路障害と膀胱直腸障害で発症した後脊髄動脈症候群の2例を報告した.後脊髄動脈は左右1本ずつ存在するが後脊髄動脈症候群の症状は本症例のように両側性のばあいが多い.後脊髄動脈は吻合が多く,側副血行路が働き,1対の独立した血管支配ではなく1つの血管のネットワークで補われているのが原因と考えられる.本症例は2例とも高血圧,脂質異常症と虚血性心疾患の既往があり,高度な動脈硬化にともなうアテローム硬化性の機序により血管のネットワークが破綻したためと考えられた.
著者
宇川 義一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1339-1342, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
3
被引用文献数
2

I summarize one year experience after the great earthquake in Fukushima as a neurologist and give some proposals to prepare this kind of disaster. The great east Japan earthquake is characterized by its long duration of quake, great Tsunami and nuclear plant accident especially for Fukushima. We used different strategies for treating the patients at four periods after the earthquake. I will briefly describe those in the following parts. Acute period: We acted as one doctor, not neurology specialist, under the conditions with some lacks of life lines. We accepted serious patients from city hospitals in Fukushima. Some of them were transferred to university or large hospitals in other areas when they were not able to be treated in our hospital. The other patients were admitted to our hospital. Many neurologists, self-defense forces officers and people of MHLW helped us in this period. The internet communication played significant roles because of telephone system breakdown. Subacute period: We acted mostly as a neurologist. Serious neurological patients, such as meningoencephalitis, MG crisis, relapse of multiple sclerosis, were admitted to our department. Recovery period: We acted as a neurologist at this period. City doctors consulted us about non-serious neurological patients because of difficulty in coming to our hospital. Ideally, the consultation may be made through internet telephone system. Reconstruction period to the ordinary life: Medical problem solution all depends on the political strategy of how to reconstruct Fukushima.
著者
井元 万紀子 刀坂 公崇 北口 響子 白川 雅之 奥田 志保
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.321-327, 2020 (Released:2020-05-26)
参考文献数
25

症例は73歳の右利き男性.ヘルペス脳炎を発症し,重度のウェルニッケ失語を含む認知機能低下が残存した.病前に描画の習慣はなく,妻の勧めで始めた塗り絵をきっかけに,発症数年後より風景写真の模写を始めた.その作品は写実的傾向が強く,病巣は左半球であり,獲得性サヴァン症候群の特徴を有していた.描画能力の向上に伴い,買い物や公共交通機関の利用などの手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living; IADL)も向上したが,標準失語症検査などの神経心理学的検査では著変を認めなかった.本症例では,描画活動で得られた達成感や支援者とのコミュニケーションがきっかけとなり,IADLの向上につながった可能性が考えられた.
著者
前田 憲吾 清水 芳樹 杉原 芳子 金澤 直美 飯塚 高浩
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001239, (Released:2019-01-31)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

症例は48歳女性.43歳時に下肢硬直感が出現したが3か月で自然軽快した.両下肢の筋硬直が再発し,ミオクローヌスが出現し入院.意識清明,言語・脳神経は異常なし.両足趾は背屈位で,足関節は自他動で動かないほど硬直していた.神経伝導検査は異常なく,針筋電図では前脛骨筋に持続性筋収縮を認めた.血液・髄液一般検査は正常で,抗GAD65抗体・抗VGKC複合体抗体は陰性.脊髄MRIにも異常なく,症候学的にstiff-limb症候群(SLS)と考え,ステロイドパルス療法を実施し筋強直は改善した.その後,血液・髄液の抗glycine受容体抗体が陽性と判明した.プレドニゾロン内服後,再発はない.
著者
山本 雄貴 松井 尚子 平松 有 宮崎 由道 野寺 裕之 和泉 唯信 髙嶋 博 梶 龍兒
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000976, (Released:2017-01-28)
参考文献数
23
被引用文献数
2 6

症例は60歳男性.小児期より運動後の筋疲労感や褐色尿を自覚したが症状は軽微であった.45歳頃より両下肢遠位部優位の筋萎縮,感覚障害が進行した.神経伝導検査で軸索型末梢神経障害を呈し,シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease; CMT)が疑われた.55歳より横紋筋融解症を繰り返すようになり,血清アシルカルニチン分析と遺伝子検査から三頭酵素欠損症と診断した.三頭酵素欠損症は先天性脂質代謝異常症の稀な一型であるが,末梢神経障害を合併してCMTに類似した臨床所見を呈しうる.筋症状を伴う進行性の末梢神経障害をみた場合,積極的に本疾患を疑って精査すべきである.
著者
都築 雨佳 安藤 哲朗 杉浦 真 川上 治
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
2021
被引用文献数
1

<p>症例は発症時16歳男性.高校生となり弓道を始めてから両側の三角筋,上腕二頭筋,腕橈骨筋などのC5, 6髄節筋に筋力低下が亜急性に発症した.神経所見では,両側前腕外側の軽微な感覚障害と下肢の索路症候も伴っていた.前屈位の頸椎MRIとCT myelographyにて脊髄が後方硬膜により圧迫する所見を認めたことから,平山病と臨床像は異なるものの同病態の'近位型平山病'と考えられた.弓を射る姿勢である頸部回旋位のCT myelographyでも脊髄圧迫を認めたことから,頸部回旋も脊髄症発現に関与していると考えられた.頸部前屈および回旋の制限のみで上肢の筋力低下と下肢の痙性が改善した.平山病において,頸部前屈に加えて頸部回旋も病態に関与する可能性がある.</p>
著者
西野 一三
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-6, 2010 (Released:2010-02-08)
参考文献数
31
被引用文献数
1 2

自己貪食空胞性ミオパチー(AVM)は,筋病理学的に自己貪食空胞の出現により定義される一群の遺伝性筋疾患である.歴史的にもっとも研究が進んでいるPompe病以外に,最近2つのAVMのカテゴリーが新たに認識されつつある.一つは,Danon病を初めとする一連の筋疾患である.この筋疾患群は,特異な筋鞘膜の性質を有する自己貪食空胞(AVSF)の出現を特徴とする.AVSFでは,アセチルコリンエステラーゼをふくむ,ほぼすべての筋鞘膜蛋白質が空胞膜に発現する.Danon病はライソゾーム膜蛋白質LAMP-2の原発性欠損による.興味深いことに,本疾患におけるAVSFの数は年齢とともに増加する.AVSFミオパチーとしては,他に,最近VMA21 変異によることが明らかとなった,過剰自己貪食をともなうX連鎖性ミオパチー(XMEA)がある.もう一方のAVMは,縁取り空胞の出現を特徴とするミオパチーである.縁取り空胞は電顕的には自己貪食空胞の集塊である.もっとも良く知られた疾患として,縁取り空胞をともなう遠位型ミオパチー(DMRV)がある.本疾患は,欧米では遺伝性封入体ミオパチー(HIBM)と呼ばれる.DMRVはシアル酸生合成経路律速酵素遺伝子GNE の変異により発症する.DMRVモデルマウスにおいては,シアル酸補充療法によりほぼ完全に筋症状を抑制することができる.このことは,シアル酸低下がミオパチーの原因であることとシアル酸補充がヒトでも有効である可能性を示唆している.現時点で原因遺伝子が明らかとなっているAVSFミオパチーはともにライソゾーム機能異常を根本原因としている.一方,縁取り空胞は,DMRV/HIBMが低シアリル化を原因としているように,ライソゾーム外の異常が根本原因であり,二次的に形成されるものである.
著者
金澤 雅人 高橋 哲哉 川村 邦雄 下畑 享良
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.699-706, 2019 (Released:2019-11-08)
参考文献数
42
被引用文献数
5

脳梗塞に対する組織プラスミノゲン・アクチベーター(tissue plasminogen activator; t-PA)投与は,予後を改善させるが,症候性頭蓋内出血はt-PA療法後の転帰不良に関連する要因である.我々は,出血合併を抑制し,予後を改善させるt-PAに併用する血管保護薬の開発を行っている.治療標的分子として血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor; VEGF)に注目し,血液脳関門(blood-brain barrier; BBB)破綻に関する検討を行った.発症4時間後にt-PAを投与すると,出血合併が生じる,脳塞栓モデルを用いた検討において,遅延したt-PA投与がVEGFを著増させ,タンパク分解酵素マトリックス・メタロプロテナーゼ-9を活性化,BBB構成蛋白を分解し,出血合併を来すことを示した.さらに,VEGF-VEGF受容体シグナルの抑制薬は,脳出血合併を抑制することを明らかにした.
著者
宮城 愛
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1258-1260, 2013-11-01 (Released:2013-11-29)
参考文献数
8
被引用文献数
2

多くの脳卒中患者の機能回復は発症後6ヵ月がピークとなり,その後の回復は見込めないとされていたが,ボツリヌス治療により長期の回復が得られる可能性が出てきた.ボツリヌス毒素はこれまで重要視されていた神経筋接合部への影響だけでなく,脊髄への直接的な影響も考えられるようになっている.このため,ボツリヌス毒素は異常な筋伸張反射の亢進を正常化させ,機能を回復させる可能性が考えられる.実際の治療では,まず治療目標を設定し,適切に目的となる筋肉へボツリヌス毒素を投与し,その直後に注射された筋肉へ運動療法をおこなうことが重要と考える.また治療間隔を最短期間の3ヵ月に設定することが,重要である.
著者
下畑 享良 井上 雄一 平田 幸一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.63-70, 2017 (Released:2017-02-25)
参考文献数
70
被引用文献数
1

REM睡眠行動障害(rapid eye movement (REM) sleep behavior disorder; RBD)は,夢内容の行動化を呈する睡眠時随伴症である.長期的な経過観察で,αシヌクレイノパチーの発症が高率に認められる.将来の発症リスクの告知は,患者に動揺をもたらすものの,患者には知る権利があることから,適切な時期や方法を症例ごとに検討した上で告知し,告知後はRBDに対する生活指導と治療を行い,精神的にも支援する必要がある.またRBDは,他の検査との組み合わせによりαシヌクレイノパチーの早期診断を実現する可能性があり,病態抑止療法への応用が期待される.
著者
藤井 陽子 大倉 睦美 上森 栄和 谷口 充孝 大井 元晴
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.88-92, 2018
被引用文献数
1

<p>レム期睡眠行動異常症(rapid eye movement sleep behavior disorder; RBD)は筋活動の抑制が欠如し夢内容と一致した行動が出現し,終夜睡眠ポリグラフ(polysomnography; PSG)にて筋活動の抑制を伴わないレム睡眠の出現を認めることで診断される.病歴上RBDが強く疑われた51歳男性において常時監視下ビデオ同時記録によるPSGによりノンレム睡眠,レム睡眠期に関わらず呼吸イベントに伴う覚醒中に発声,発語を認め,閉塞性睡眠時無呼吸が原因であると判明した1例を報告する.持続陽圧呼吸療法導入後,呼吸イベントは消失し発声,発語は認められなかった.常時監視下ビデオ同時記録PSGの重要性を示した1例である.</p>
著者
望月 葉子 竹内 千仙 大迫 美穂 湊川 みつ子 柴田 直美
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.279-281, 2019 (Released:2019-05-28)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

小児期発症神経系疾患を有する患者の移行期医療における神経内科での課題を検討するために,当院内科患者の移行期医療の現状を調査した.移行例は近年増加しており,その多くは小児科医の勧めに因った.多くの患者にてんかんが合併し,また,神経難病患者もあったので,この移行期医療は神経内科医が必要とされる領域である.移行期医療には十分な診療時間が必要で,小児科と成人診療科での医学管理料が異なっていた.日本神経学会や関連学会は移行期医療改善のための対応が必要と考えられた.
著者
藥師寺 祐介
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.743-751, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
53

脳小血管病(cerebral small vessel disease,以下SVDと略記)とは,脳微細血管劣化に伴う効率的な脳内微小循環・代謝・ネットワーク維持の困難な状態,及びそれらによる認知・身体機能低下状態を指す.高血圧性細動脈障害を基盤とした1型SVDは,白人に比べ東アジア人に多い.近年,脳小血管負荷を包括的に半定量化するための取り組み,すなわちMRIマーカー評価に基づいたSVDスコア化が注目されている.この概念は「脳小血管負荷に実用的な閾値はあるか?」という新たな疑問を生んだ.SVD画像マーカーの自動解析手法の開発はこの疑問を解き,1型SVD患者への最適な介入法の発見につながるであろう.
著者
木田 耕太 林 健太郎 清水 俊夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.260-263, 2020 (Released:2020-04-24)
参考文献数
15

神経変性疾患を中心とした神経難病患者の栄養障害は疾患および嚥下障害,呼吸障害,運動麻痺,筋強剛,不随意運動,運動失調など種々の症状や疾患およびその病期によるエネルギー代謝の変容などのため患者ごとに多様である.神経難病患者の栄養療法には多専門職種の知識・経験の共有に基づいた個々の患者に対するオーダーメイドのサポートが必要である.しかしながら外科・内科領域と比して,脳神経内科領域では栄養管理のエビデンスの蓄積は未だ十分でない.神経難病専門病院における栄養サポートチーム(nutrition support team; NST)の活動,および活動を通じて得られた知見について述べる.
著者
福嶋 直弥 鈴木 美紀 小川 諒 林 北見 高梨 潤一 大橋 高志
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001078, (Released:2017-10-26)
参考文献数
23
被引用文献数
2 21

症例は20歳女性.11歳時に急性散在性脳脊髄炎を発症し,その後,再発を繰り返した.17歳時には片側大脳皮質にFLAIR高信号を伴う痙攣発作で入院.18歳時に血清抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(myelin oligodendrocyte glycoprotein; MOG)抗体陽性と判明した.今回,多相性散在性脳脊髄炎(multiphasic disseminated encephalomyelitis; MDEM)の診断で当科に入院した.抗MOG抗体陽性例でMDEMがみられることは以前から知られているが,近年,痙攣を伴う片側大脳皮質脳炎を来すことが報告された.本症例のように両方の病態を呈した症例の報告はなく,抗MOG抗体の関連する自己免疫疾患の病態を考える上で興味深い.
著者
櫻井 謙三 田中 成明 柳澤 俊之 森 華奈子 堀内 正浩 長谷川 泰弘
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.555-560, 2015 (Released:2015-08-21)
参考文献数
12
被引用文献数
3

経鼻胃管挿入中に両側声帯麻痺をきたした脳梗塞2例,Parkinson病2例を報告する.症例はいずれも著明なるいそうを呈する高齢者であり,低栄養状態であった.経鼻胃管挿入後平均17.8日で両側声帯麻痺をきたし,3例は気管切開術を施行,全例で救命しえた.両側声帯麻痺の原因は多岐にわたり,臨床現場で厳密にnasogastric tube syndrome(NGTS)と診断することは困難だが,本症の可能性を念頭におき,適切に対処することが肝要である.自験例では低栄養状態や低免疫状態がNGTSの危険因子となりうる可能性を指摘したが,今後,危険因子や誘発因子,対処法について症例を重ね検討する必要がある.
著者
浅原 有揮 余郷 麻希子 宮川 晋治 鈴木 正彦
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001396, (Released:2020-09-05)
参考文献数
23

早期ステロイド・パルス治療後,後療法なしで1年間再発のなかったchronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids(CLIPPERS)の37歳男性例を報告する.左半身表在覚低下,失調性歩行障害で来院し,橋のT2高信号病変と多発点状造影効果を認めた.第20病日からステロイド・パルス治療を行い寛解後,1年間再発を認めなかった.CLIPPERSは後療法なしでは再発する報告が多く慎重な経過観察を要するが,貴重な症例と考えられ報告した.