著者
鈴木 由希子 稲富 雄一郎 米原 敏郎 平野 照之
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.8-12, 2015 (Released:2015-01-19)
参考文献数
5
被引用文献数
2 5

症例は77歳の女性である.パソコンのキーボード入力操作においてタッチタイピング(ブラインドタッチ)を獲得していたが,左中大脳動脈領域の脳梗塞を発症した.右前頭葉には陳旧性脳梗塞をみとめた.軽度の右麻痺,喚語困難,仮名・漢字・アルファベット1文字の読み書き障害は急速に改善したが,キーボード入力が困難になった.失行や視知覚障害はなく,ローマ字の読み書き障害をみとめた.アルファベットをみて確認しながらであればキーボード入力ができるまで改善したが,タッチタイピングは再獲得できなかった.本例のキーボード入力操作に選択的な行為障害には,ローマ字の読み書き障害がもっとも影響していると考えた.
著者
山根 清美
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.997-999, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
6
被引用文献数
1 2

片頭痛は本来Episodicな疾患である.しかし一部の片頭痛は発作に緊張型頭痛の要素が加わるなどの性状の変化を生じ,頭痛日数も増えChronic migraineへと進展する.Chronic migraineは薬物乱用頭痛との区別が難しいばあいも多いが,国際頭痛分類第3版beta版では慢性片頭痛と診断する時点で薬物乱用頭痛との診断並記が可能となった.片頭痛慢性化の機序は不明である.しかし疫学研究から,急性期頭痛薬過剰使用,頭痛頻度,肥満,低学歴,低収入,いびき,うつ状態,頭頸部外傷歴などが片頭痛慢性化の危険因子であることが判明してきた.これらの危険因子を是正することが片頭痛慢性化を防ぐために重要である.
著者
竹丸 誠 竹島 慎一 原 直之 姫野 隆洋 志賀 裕二 竹下 潤 高松 和弘 野村 栄一 下江 豊 栗山 勝
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.377-384, 2018 (Released:2018-06-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2

可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome; RCVS)11例を報告する.男性2例,女性9例で平均年齢47.9 ± 14.1歳で若年者に多かった.雷鳴頭痛と言える強度の頭痛は64%,全身けいれん27%,運動麻痺36%であった.脳内病変の合併は,脳表限局のくも膜下出血63%,皮質下出血9%,可逆性後頭葉白質脳症45%で発症初期から認めた.脳梗塞は45%に,発症後1~3週間目頃に起った.脳血管攣縮は発症1ヶ月目頃から改善傾向を認めた.誘因は,産褥,片頭痛既往,輸血,急速な貧血改善,腎不全,入浴,脳血管解離の合併などが認められた.発症時の血圧異常高値を55%に認めたが,誘因なのかは確定的ではなかった.
著者
寺澤 英夫 清水 洋孝 上原 敏志 喜多 也寸志 島 さゆり 武藤 多津郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.33-36, 2019 (Released:2019-01-30)
参考文献数
8
被引用文献数
2

症例は48歳男性である.発熱の先行症状の後に急性脊髄炎を発症した.脊髄MRIでは,C6よりTh8レベルまで連続する長大な脊髄病変をみとめ,免疫療法に奏功して脊髄病変は消退し,神経症状も軽快した.血清抗aquaporin-4(AQP4)抗体,抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体は陰性であったが,血清と髄液の両者より抗lactosylceramide(LacCer)抗体が急性期に陽性で回復期に弱陽性に低下した.抗中性糖脂質抗体は,脳炎・脳症を欠く急性脊髄炎で陽性になる既報告はなく,急性脊髄炎の病態の鑑別に本抗体を考慮する必要があると考えられた.
著者
徳元 一樹 上田 進彦
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.151-157, 2014
被引用文献数
6

症例は68歳男性である.ゴルフスウィング後に項部痛と両肩の脱力を自覚した.意識清明で脳神経系に異常なく両側の三角筋と上腕二頭筋の筋力が低下していた.頭部MRI,頸椎MRIで脳幹梗塞や頸椎硬膜外血腫はみとめず数時間後に両上肢筋力は軽度改善し脊髄震盪と診断された.翌日,高度四肢麻痺を呈し入院した.去痰困難,呼吸筋麻痺も出現し人工呼吸器管理となった.入院後の画像検査で頸髄病変が顕在化し右椎骨動脈は起始部から描出されず血管腔に解離所見をみとめた.一側椎骨動脈解離による頸髄梗塞は後方循環系脳梗塞にくらべると非常にまれだが報告例があり本症例もゴルフによって生じた右椎骨動脈解離が頸髄梗塞の原因と考えた.
著者
正門 由久
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1261-1263, 2013-11-01 (Released:2013-11-29)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

ボツリヌス療法が痙縮に認可され,症候軽減,介助負担軽減,さらに機能改善をもたらす可能性がある.痙縮を軽減することで,異常に活動が押さえられていた拮抗筋を促通することが可能となる.一方痙縮していた筋には伸張することが必要である.また温熱療法などと装具療法等と併用することがより効果的である.ボツリヌス,リハビリとともに反復磁気刺激,電気刺激などを個々の患者の状態に応じて使いわけ,慢性期の脳卒中患者でも機能改善が得られる可能性がある.痙縮に対するボツリヌス治療をうける患者ではリハビリが果たす役割は大変大きい.一方,ボツリヌス療法は今後のリハビリ治療の中で重要な位置を占め,さらにその進め方を変える.
著者
園生 雅弘 東原 真奈
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1080-1082, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
9
被引用文献数
3 2

線維束自発電位(FP)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴的所見として古くから知られていた.本稿では,fasciculationとFPの歴史をまず論ずる.FPはALS以外の神経原性疾患では,伝導ブロックを呈する一部の疾患を除けばあまりみられない.すなわち,ALS診断における特異度が高く有用である.改訂El Escorial基準ではFPの意義は過小評価されていたが,Awaji基準では再評価されたことは歓迎される.FPの鑑別対象としてもっとも重要なのは随意収縮MUPの残存である.その鑑別は発火リズムでなされる.FPの発火リズムは,低頻度,きわめて不規則で,しばしばクラスターを示す.これに対して,随意収縮MUPはsemiregularな発火リズムで特徴付けられる.
著者
木田 耕太 清水 俊夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.1083-1085, 2014 (Released:2014-12-18)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

Fasciculation potential(FP)は,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の筋電図診断において非常に重要な意義を持つ.運動ニューロンの自発放電に由来するこの現象は,神経変性のもっとも早期からおきると考えられており,FPをいかに正確に検出するかが,ALSの早期診断には重要である.また5相以上のものをcomplex form FP(CFP)と呼ぶ.CFPはALS以外では出現することが少ない.CFPの発生部位は,多くが軸索遠位部であると考えられており,軸索膜の興奮性の増大や不安定性と関連した現象であり,脊髄前角細胞や神経根から生じていると考えられる他疾患のFPと性状がことなり,診断的価値が高いものと考えられる.
著者
内藤 裕之 土井 光 稲水 佐江子 伊藤 聖 荒木 武尚
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.125-130, 2013-02-01 (Released:2013-03-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

症例は46 歳の男性である.感冒症状を契機に緊張性瞳孔,起立性低血圧,膀胱直腸障害,全身の発汗障害などの重度の自律神経障害を発症し,全身の温痛覚障害および脳神経系および四肢の運動障害を合併した.各種検査から節後性無髄線維の軸索変性が主体の急性自律性感覚性運動性ニューロパチーと診断した.免疫グロブリン療法およびステロイドパルス療法をおこなうも自律神経障害の改善は乏しく,予後不良な経過をたどった.頭部MRI 検査にて両側三叉神経の腫大および造影効果が確認され,表在覚の障害は著明であるにもかかわらず深部覚は保たれているといった,過去の報告にはない特徴的な所見をみとめた症例であった.
著者
打田 佑人 小池 春樹 小栗 卓也 加藤 秀紀 湯浅 浩之 三竹 重久
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.339-344, 2015 (Released:2015-05-30)
参考文献数
16
被引用文献数
3 3

53歳男性.頭痛と発熱が10日間遷延後,尿閉が出現し,髄液異常をみとめたため,髄膜炎・尿閉症候群と診断.入院後,血清IgM抗サイトメガロウィルス抗体陽性が判明し,ガンシクロビル点滴治療を施行したところ,髄膜炎症状は軽快した.一方で,尿閉は改善せず,高度で多彩な自律神経症状が重畳した.自律神経機能検査では節前線維の障害を示唆する所見を呈し,末梢神経伝導検査ではF波の出現率の低下をみとめた.免疫療法を試みたところ,とくにステロイド治療が奏効した.抗ガングリオシド抗体の中でIgM抗GM1抗体およびIgM抗GM2抗体が陽性であり,Guillain-Barré症候群との異同を考える上で貴重な症例と考えられた.
著者
山下 裕之 宇羽野 惠 上坂 義和 國本 雅也
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.576-580, 2012 (Released:2012-08-27)
参考文献数
27
被引用文献数
3

脳症を呈した猫ひっかき病(CSD)の一例を経験した.症例は34歳女性,約1カ月前より微熱および鼠径部リンパ節腫脹を自覚していた.発熱および嘔気・嘔吐をともなう頭痛出現後,意識障害が出現し,受診した.髄液検査で大きな異常なく,頭部MRI正常であったが,骨盤造影CTにて壊死性リンパ節炎の所見をみとめ,外科的リンパ節生検にて肉芽腫様変化をみとめた.猫を飼っているという生活歴を考慮し,生検組織をもちいてCSDの病原体であるBartonella HenselaeのPCR検査施行し,陽性であることが判明しCSD脳症と診断した.本邦ではCSD脳症の報告が非常に少なく,見逃されている可能性があるため注意が必要である.
著者
肥塚 泉
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1318-1320, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
8
被引用文献数
1

On Earth, humans are constantly exposed to the gravity. During head and body tilts, the otolith organs sense changes in head orientation with respect to the gravitational vertical. These graviceptors also transduce transient linear acceleration generated by translational head motion and centripetal acceleration during rotation about a distant axis. When individuals are rotated at a constant velocity in a centrifuge, they sense the direction of the summed gravitational and centripetal acceleration as the vertical in the steady state. Consequently they experience a roll-tilt of the body when upright and oriented either left-ear-out or right-ear-out. This perception of tilt has been called the somatogravic illusion. Under the microgravity, the graviceptors no longer respond during static tilt of the head or head and body, but they are still activated by linear acceleration. Adaptation to weightlessness early in space flight has been proposed to entail a reinterpretation of the signals from the graviceptors (primarily the otolith organs), so that on return to Earth pitch or roll of the head with respect to the vertical is sensed as fore-aft or left-right translation. In this article, formulation of the spatial orientation on the earth and under microgravity was described.
著者
織茂 智之
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.259-273, 2017 (Released:2017-06-28)
参考文献数
107
被引用文献数
2 7

パーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)の新しい診断法と治療について解説した.画像では,神経メラニン画像,meta-iodobenzylguanidine(MIBG)心筋シンチグラフィ,ドパミントランスポーターシンチグラフィ,経頭蓋黒質超音波検査,重要な非運動症状の嗅覚低下やレム睡眠行動異常症,Movement Disorder Society(MDS)から発表された新しいPDの臨床診断基準について解説した.新たな治療としては,最近上市された抗PD薬と治験中の薬剤の紹介,PDの薬物治療として早期治療の意義と初期治療の実際,進行期の薬物治療として持続的ドパミン刺激療法の意義と治療法の実際,手術療法として主に脳深部刺激療法,新たな治療法として遺伝子治療と細胞移植治療を紹介した.
著者
末次 南月 後藤 公文 川久保 洋晴 曲淵 裕樹 前田 泰宏 松永 和雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.149-152, 2019 (Released:2019-03-28)
参考文献数
14

パーキンソン病(Parkinson disease; PD)の73歳女性が誤嚥性肺炎のため入院し,食事中に嚥下を誘因として徐脈を伴う意識消失が生じた.上部消化管内視鏡検査では食道に器質的病変をみとめず,頸部食道におけるバルーン拡張にて意識消失に至る洞停止と徐脈が生じた.PDに伴う食道蠕動障害による頸部食道の拡張が迷走神経反射を惹起し嚥下性失神(swallow syncope; SS)が生じたと考えた.本例はhead-up tilt試験にて起立性低血圧をみとめ,心電図R-R間隔の変動とHolter心電図検査におけるRR50は正常であった.PDに由来する交感神経機能が低下し副交感神経機能は維持されている心血管系自律神経障害が,本例のSS発症に関与した可能性がある.
著者
北川 賢 長田 高志 金子 仁彦 高橋 利幸 鈴木 則宏 中原 仁
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.737-744, 2018 (Released:2018-12-21)
参考文献数
30

症例は18歳男性.約半年前に両眼視力低下,1か月前に右下肢麻痺と感覚異常を自覚.入院時,中心フリッカー値は両眼で低下.MRIは頸髄,胸髄に造影効果を伴う散在性のT2延長病変あり(頭部は異常なし).抗アクアポリン4抗体陰性,髄液オリゴクローナルバンド陽性.“視神経脊髄型多発性硬化症”を疑ったが,抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(myelin oligodendrocyte glycoprotein; MOG)抗体陽性であった.多発性硬化症を疑う病態から抗MOG抗体を認めた際の対処法は,2017年改訂のMcDonald診断基準にも詳細な言及はなく,今後の知見の蓄積を要すると思われる.
著者
菊本 舞 野中 恵 竹下 潤 大下 智彦 山下 拓史
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.761-763, 2018 (Released:2018-12-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1

症例は91歳女性である.90歳時に右眼の視力低下が出現し,右視神経炎と診断された.その3ヶ月後に左視神経炎を発症したが,いずれもステロイドパルス療法で改善した.91歳時に左上下肢の筋力低下が出現し,MRIで頸髄に4椎体にわたるT2強調画像の高信号病変をみとめ,ステロイドパルス療法により筋力は改善した.血清抗アクアポリン4抗体が陽性であり,視神経脊髄炎(neuromyelitis optica; NMO)と診断した.その後も約1年の経過で脊髄炎は1回,視神経炎は3回も再発した.NMOは90歳以降でも発症することがあり注意が必要である.
著者
渡辺 宏久 陸 雄一 中村 友彦 原 一洋 伊藤 瑞規 平山 正昭 吉田 眞理 勝野 雅央 祖父江 元
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.457-464, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
69
被引用文献数
4 8

多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)は進行性の神経変性疾患で,パーキンソニズム,小脳失調,自律神経不全,錐体路徴候を経過中に種々の程度で認める.孤発性が圧倒的に多いが,主として常染色体劣性を示す家系も報告されている.パーキンソニズムが優位な臨床病型はMSA-P(multiple system atrophy, parkinsonian variant),小脳失調が優位な臨床病型はMSA-C(multiple system atrophy, cerebellar variant)と呼ばれ,欧米ではMSA-Pが多く,日本ではMSA-Cが多い.平均発症年令は55~60歳,予後は6年から10年で,15年以上生存する症例もある.早期から高度に出現する自律神経不全は重要な予後不良因子の一つである.発症時には,運動症状もしくは自律神経不全のいずれか一方のみを有する症例が多く,いずれの症状も出現するまでの期間の中央値は自験例では2年である.現在広く用いられている診断基準は,運動症状と自律神経不全をともに認めることが必須であるため,運動症状もしくは自律神経不全のみを呈している段階では診断が出来ない.しかし,自律神経不全のみを呈する段階で突然死する症例もあることを念頭に置く必要がある.MSAに伴う自律神経不全の特徴の理解と病態に基づいた責任病巣の特定は,早期診断に有用な情報をもたらすと考えられる.従来は稀とされてきた認知症もMSAにおける重要な問題である.前頭葉機能低下はMSAでしばしば認め,MRIやCTにて進行とともに前頭側頭葉を中心とする大脳萎縮も明らかとなる.最近では,前頭側頭型認知症の病型を示す症例も報告されている.MSAの病態と症候の広がりを踏まえた,早期診断方法開発は,病態抑止治療展開の上でも極めて重要である.
著者
小長谷 陽子 渡邉 智之 小長谷 正明
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.335-341, 2009 (Released:2009-07-08)
参考文献数
13

愛知県内のすべての医療機関,介護福祉施設などを対象に,若年認知症の実態調査をおこない,1,092人(男性569人,女性520人,性別不明3人)について原因疾患と有病率を解析した.調査時平均年齢は60.7±7.1歳,発症年齢は55.1±7.8歳であった.原因疾患は全体では,アルツハイマー病(AD)(34.9%),血管性認知症(VD)(34.1%)が多く,次いで前頭側頭型認知症(5.9%),パーキンソン病(3.6%)であった.男性ではVD,AD,FTD,PDの順であり,女性ではAD,VD,FTD,PDの順であった.人口10万人当たりの推計有病率は60∼64歳で男性182.2人,女性150.6人,55∼59歳ではそれぞれ90.6人,81.7人であった.
著者
中根 俊成
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1071-1073, 2013-11-01 (Released:2013-11-29)
参考文献数
4
被引用文献数
3 3

Autoimmune autonomic ganglionopath(yAAG)は比較的新しい疾患概念である.一次性自律神経性ニューロパチー患者血清における抗ganglionic acetylcholine recepto(rgAChR)抗体の検出により,AAGと呼称されることが一般的となっている.われわれは本邦ではじめて抗gAChR抗体の測定系を確立した.サブユニット毎の測定が可能であり,定量性を有する測定系である.この測定系確立以降,全国からの抗体測定依頼を受ける態勢を整備した.現在,抗gAChR抗体測定を含んだAAGの臨床像解析と,自律神経障害を呈するAAGなどの神経疾患にこの抗体が関与する可能性についての検討を進めている.