著者
塚本 知玄 浅野 浩正 小野 伴忠
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.127-136, 2003 (Released:2014-03-15)
参考文献数
11

生乳輸送をモデルとして,液体輸送の新しい手段であるソフトタンクシステムと従来法の主流であるタンクローリー輸送について,容器の洗浄度,輸送時の品温,菌数,品質の変化等を比較検討した。平成13年夏,5 回の配送試験を実施し(岩手県遠野市から埼玉県行田市へ。平均走行距離600 Km,平均輸送時間19時間),以下の結果を得た。 1. ソフトタンクの洗浄度は良好で,洗浄後の容器内の生菌数測定値も低値で安定していたのに対し,タンクローリーの洗浄度は部位によるムラが見られ,洗浄不十分と考えられる部位が観察された。これは,タンクローリー内部の複雑で洗浄しにくい部分についての情報が洗浄作業者に十分に伝わっていないことが原因と考えられた。 2. タンクローリー輸送では輸送により乳温上昇が観察された。乳温上昇と外気温とに相関関係が見られなかったこと,また,タンク上部のヘッドスペースが少ない過積載状態の輸送では乳温上昇が抑えられたことなどから,タンクローリー配送では,外気温よりも,直射日光によるタンク上部の温度上昇に伴うヘッドスペースの温度上昇が,乳温上昇に大きく影響をあたえることが示唆された。一方,ソフトタンクシステムは輸送中の品温上昇は無かったが,外気温に依存した品温変化が観察された。温度を一定範囲内に制御する工夫が必要と考えられる。 3. いずれの配送においても,菌数の大幅な変化は観察されなかった。 4. タンクローリー輸送では生乳の脂質含量に変化が見られた。これは,輸送中の撹拌,衝撃もしくは振動でチャーニング現象が起こり,巨大脂肪球(クリーム)が生じたためと推察される。ソフトタンク輸送ではこの変化は見られなかった。 これらの結果は,ソフトタンクシステムが,新しい生乳輸送手段として,衛生面と品質面でタンクローリーに劣らない優れたシステムと成り得ることを示している。
著者
木下 英樹 井本 瞬 須田 義人 石田 光晴
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.171-176, 2011 (Released:2014-03-15)
参考文献数
15

プロバイオティック乳酸菌の単離は現在でも積極的に行われており,効率的な方法が望まれる。本研究では MRS 寒天培地と mLBS 寒天培地を用いて乳酸桿菌を単離し,その選択性について比較した。単離試験の結果,乳酸桿菌の検出率は,MRS 寒天培地では59.4%,mLBS 寒天培地では75.0%であった。また,MRS 寒天培地で最も多く単離された Lb. sakei は,mLBS 寒天培地では 1 菌株のみしか生育できず,Lb. curvatus および Lb. rossiae は mLBS 寒天培地では全く生育できなかった。 L. plantarum, Lb. coryniformis, Lb. rhamnosus, Lb. gasseri, Lb. brevis, Lb. fermentum, Lb. alimentarius, Lb. paracasei および Lb. casei は,単離した全ての菌株が mLBS 寒天培地に良好な生育をみせた。 Lactobacillus 属以外の乳酸菌では,Leuconostoc 属,Weissella 属,Pediococcus 属が検出されたが,mLBS 寒天培地に生育できたのは Pediococcus 属だけだった。このように MRS 寒天培地は選択性が低く乳酸菌以外の様々な細菌も分離され,mLBS 寒天培地は選択性が高く乳酸桿菌でも生育できない菌株が存在することが明らかとなり,目的に応じた培地の選択が必要であると考えられた。
著者
加藤 勲 安藤 功一
出版者
日本酪農科学会
雑誌
酪農科学・食品の研究 (ISSN:03850218)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.A-87-A-94, 1994

硬質チーズの Gouda チーズと半硬質チーズのSt. Paulin チーズを試作し、熟成70日間に於ける各種糖、有機酸及び pH の変化を比較することによって以下のことが明らかになった。<br/>1. 先ず2種類のチース製造に於て製造上の主な相違点は、Gouda チーズのチーズバット内の予備加圧と、St. Paulin チーズの表面熟成菌 (<i>Brev. linens</i>) によるチーズ表面からの熟成である。これらの製造法の違いにより両チーズの味、色、臭い等に決定的な違いが生じた。<br/>2. 70日間15~16℃で熟成させることによってラクトースが分解を受けて Gouda チーズでは熟成前 (約0.2%) の約半分 (約0.1%) にSt. Paulinチーズでは 約1/4 (0.05%) まで減少した。一方、グルコースとガラクトースの含量は Gouda チーズで熟成一週間後でガラクトースで0.05%、グルコースで0.03%程度を示し、その後、熟成50日頃でガラクトースで0.1%、グルコースで0.04%まで増加した。また、St. Paulin チーズでは熟成一週間にガラクトースが0.33%に増加し、その後は減少した。グルコースは0.1%から徐々に増加し、2週間後には0.18%まで増加したが、その後は減少した。<br/>3. 両チーズには元々乳中に含まれる有機酸を含めて熟成中に5種類の有機酸 (オロット酸、ピルビン酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸) が認められた。Gouda チーズではオロット酸と酢酸は熟成1日目にそれぞれ 20ppm と 100ppm の濃度が熟成の経過と共に減少し、乳酸は1.25%を示していたものがその後1.5%まで増加した。又、プロピオン酸は3日目に、ピルビン酸は5日目に検出されそれぞれ0.01%、8ppm 程度あったのがその後増加した。一方、St. Paulin チーズでは酢酸、乳酸、プロピオン酸そしてピルビン酸が熟成1日目から急増し熟成3~5日頃に最大に達した (酢酸:46ppm、乳酸:1.7%、プロピオン酸:0.18%、ピルビン酸:10ppm)。その後、熟成25日頃から再び酢酸、プロピオン酸、ピルビン酸が増加し熟成35日頃から徐々に減少した。<br/>4. 両チーズ共に熟成2~3日でpH5.3前後から4.5位に急に低下しその後上昇した。Gouda チーズは熟成期間の最後までほぼpH5.6位で推移するのに対して、St. Paulin チーズは熟成14日頃に pH6.0 まで上昇してその後、35日頃に pH 5.5 まで低下した。更に熟成の経過と共にpHが再び上昇し最後には pH7.3 までに至った。
著者
石井 智美 小宮山 博
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.125-130, 2010 (Released:2014-03-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

モンゴル国ではゴビ地方でフタコブラクダが飼われてきた。伝統的にラクダを飼育してきたゴビ地方ではラクダ乳酒(ホルモグ)をつくってきた。ウムヌ・ゴビ県でホルモグを製造する遊牧民宅と,首都に近いダルハン・オール県で,新たにホルモグをつくり始めた遊牧民宅で調査を行った。ダルハン・オール県のホルモグの性状は酸度1.2%,pH 4.2,アルコール度1.5%で,ウムヌ・ゴビ県のホルモグと大きな違いは無かった。ホルモグの一般成分分析をした結果,アイラグと比べたんぱく質,脂肪,可溶性無窒素物が多かった。飲用量は成人男性で 1 日あたり 2~3 L,女性で 1 L だった。製造方法はスーダンのラクダ乳酒であるガリス,カザフスタンのシュバトと同様だった。スターターにはゴビ地方と同じく,ヤギ乳の発酵乳を用いていた。飲用には「健康に良い」「内臓の病気に良い」等の効能が伝承されていた。発酵に関与する微生物由来の代謝産物が,腸管で良い働きをするとともに,免疫賦活作用があると考える。ホルモグに伝承されてきた効能を科学的見地から明らかにすることは,民族飲料の価値について考えるきっかけになると思われる。
著者
日暮 聡志 奈良 貴幸 松山 博昭 細谷 知広 門岡 幸男 加藤 健
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.75-80, 2012

近年,肝臓における脂肪蓄積は異所性脂肪として注目されており,MSに関連する病態の発症に深く関わることが知られている。一方,チーズがMSに対して保護的な作用を示すことが種々の研究により明らかになってきている。しかしながら,チーズが肝臓の脂質代謝に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。そこで,市販のゴーダタイプのチーズを,高脂肪かつ高コレステロールの飼料を投与した脂肪肝のモデルであるラットに28日間経口摂取させ,肝臓での脂肪蓄積に及ぼす効果を調べた。その結果,チーズの摂取により血清コレステロール濃度が低下し,肝臓の重量やトリグリセリド量,コレステロール量が減少した。また,チーズの摂取により糞中の脂質排泄量が増加した。したがって,チーズを経口摂取することにより,高脂肪,高コレステロール摂取に起因する脂肪肝を予防することができる可能性が示唆された。
著者
郭 暁艶 上西 寛司 川井 泰 安田 成美 春日 元気 竹澤 志織 瀬戸 泰幸 西村 順子 北澤 春樹 齋藤 忠夫
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.129-135, 2014

ガセリシン T (GT)は,ヒト腸管より検出される乳酸桿菌 <i>Lactobacillus gasseri</i> により生産される二成分性バクテリオシンである。また,当研究室で分離したヒト乳児由来の GT 生産 LA158株を含む <i>L. gasseri</i> は,改良乳培地で良好に生育するものの,乳中に豊富に存在する二価金属イオンにより LA158株の GT 生産は抑制されることが知られている。本研究により,GT 生産株として最初に見出された,抗肥満効果を有する <i>L. gasseri</i> SBT2055は,MRS 培地にて二価金属イオン(Mg<sup>2+</sup>,Ca<sup>2+</sup>, Mn<sup>2+</sup>, Fe<sup>2+</sup> および Zn<sup>2+</sup>)の添加により濃度依存的に GT 生産が抑制されることが判ったが,LA158株における抑制濃度(Mg<sup>2+</sup> および Ca<sup>2+</sup>)とは異なっていた。また,200 mM の二価金属イオン添加では,良好に生育するにもかかわらず,GTの生産は完全に消失した。さらに,二価金属イオンのキレート剤で食品添加物であるクエン酸三ナトリウム(TSC)の添加によりGT 生産は回復した。以上の結果から,ヨーグルト製造においてスターターの生育を阻害せずに,GT 生産性のプロバイオティック <i>L. gasseri</i> 株を効果的に添加・利用出来るものと考えられた。
著者
織田 浩嗣
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.105-109, 2013 (Released:2013-12-26)
参考文献数
18
被引用文献数
1
著者
平田 昌弘
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-14, 2009

コーカサスは、南方の西アジアと北方の中央アジアやヨーロッパを繋ぐ結節点にある。西アジアで牧畜と乳加工が始まり、西アジアの乳加工技術が周辺域に伝播したとすると、中央アジアやヨーロッパヘはコーカサスを経由した可能性は十分にありえる。牧畜を生業基盤とする西アジアの乳加工技術が農業を生業基盤とするコーカサスにおいてどのように変化・展開したかを考察することは、文化の伝播と変遷を論考するにおいて極めて興味深い。また、中央アジアやヨーロッパなどでの乳加工技術の展開過程を分析する上で、コーカサスでの乳加工技術のあり方は極めて貴重な資料ともなる。そこで本稿では、コーカサスにおける乳加工技術の変遷過程を論考するために、グルジアとアルメニアにおいて2008年7月11日〜7月30日まで観察とインタビューにより合計9世帯を調査した結果を報告する。インタビューはグルジアの農牧民にはグルジア語で、アルメニアの農牧民にはロシア語とアルメニア語を介しておこない、乳加工技術と乳製品に関する語彙はグルジア語とアルメニア語でそれぞれ書き取った。本稿の目的は、1)グルジアとアルメニアにおける乳加工体系を把握し、2)周辺地域との比較分析や生態環境の視座からコーカサスにおける乳加工体系の変遷過程を検討することにある。本稿では、乳加工体系を整理・把握するために、中尾の4つの系列群分析法を用いた。つまり、生乳をまず酸乳にしてから加工が展開する発酵乳系列群、生乳からまずクリームを分離してから加工が展開するクリーム分離系列群、生乳に凝固剤を添加してチーズを得る凝固剤使用系列群、生乳を加熱し濃縮することを基本とする加熱濃縮系列群の4類型である。
著者
中村 正 菅井 理子 男澤 綾 有賀 秀子 小疇 浩 キュラ キーユキア 荒井 威吉 浦島 匡
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.9-14, 1999
被引用文献数
1

ケニアの一般家庭より伝統的発酵乳であるMaziwa lalaを採取し, その菌叢および流動特性について検討した。生菌数はMaziwa lala (A) で5.2×10<sup>7</sup> c.f.u/ml, (B)で1.3×10<sup>9</sup> c.f.u/mlであった. また, Maziwa lala (A), (B) からそれぞれ分離した45菌株, 54菌株を同定試験に供した結果, 主要菌種は<i>Lact. lactis</i> subsp. <i>lactis</i>と<i>Leuc. mesenteroides</i> subsp. <i>mesenteroides dextranicum</i>であり, これらが全菌株の90%以上を占めていた。<br/> スキムミルク培地で, これら主要菌種である<i>Lact. lactis</i> subsp. <i>lactis</i>, <i>Leuc. mesenteroides</i> subsp. <i>mesenteroides dextranicum</i>およびこれら2種を混合 (1:1) したものを培養し, 粘性試験を行った。その結果, 混合培養したものが最も粘性が高く, また, 風味が良かったことから, これら2菌種がMaziwa lalaの製品特性を形成するものであることが示唆された。
著者
益田 時光 善藤 威史 園元 謙二
出版者
日本酪農科学会
雑誌
ミルクサイエンス = Milk science (ISSN:13430289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.59-65, 2010-04 (Released:2011-07-26)