著者
新美 倫子
出版者
東京大学
雑誌
東京大学文学部考古学研究室研究紀要 (ISSN:02873850)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.137-171, 1990-12-28

The purpose of this paper is to consider the relation between Man and his environ-ment during the Jomon era by using faunal remains, which were mainly excavated from Middle and Late Jomon period sites in Hokkaido. The North Pacific Ocean, which is rich in sea mammals, encouraged peoples along its coasts to develop various techniques in hunting these animals. Drift ice carries many sea mammals to Hokkaido, which is located on the northwestern rim of the Pacific, and people living there hunted sea mammals from the Jomon to the modern period. It has been pointed out that sea mammal hunting was an important subsistence activity in Hokkaido since the Jomon era. In this paper, I focused on the techniques of hunting sea mammals, especially the Fur Seal (Callorhinus ursinus), Japanese Sea Lion (Zalophus califoraianus japonicus) and Steller Sea Lion (Eumetopias jubata) in the Jomon culture in Hokkaido. In order to discuss the technical developments of sea mammal hunting, I examined the remains of sea mammals that have been excavated and classfied them into several groups by their age and sex. The life cycle and migratory patterns of each species were also examined. Using these results, I divided the sea mammal hunting techniques into six types, according to technical complexity. Types A and B, which were used since the Early Jomon period, were not well-developed. This shows that at that time sea mammal hunting was not a stable enough major food supply. Hunting by techniques C to F, which were in use after the Middle Jomon, became an important subsistence activity on all coasts of Hokkaido. Around Uchiura Bay, of course, sea mammal hunting had been important since the Early Jomon. I also attempted to examine the ratio of vegetable food in the total diet of the Jomon culture in Hokkaido. To that end, I used the quantity of grinding stones as an index. I calculated the ratio of grinding stones to several stone tools in each of 36 Early to Late Jomon sites. The result shows that the use of grinding stones gradually retreated south over time, something which we might be able to attribute to climatic changes. It can be said that climatic changes in the Jomon era made plant f ood an unstable f ood supply f or the Jomon people, especially for those who lived on the northern boundary of the exploited flora. It is concluded that while the plant food supply fluctuated with climatic changes, sea mammal hunting became a more stable food supply after the Middle Jomon period. In this sense, sea mammal hunting was an important adaptation to the cold environment for the Jomon people in Hokkaido.
著者
沢島 政行 堀口 利之 新美 成二
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

気流阻止法を用いて、正常者における発声時の呼気圧,呼気流率と声の強さの関係を検討した。対象は成人男子30名、女子36名であった。発声条件は、声の高さとして、各人の話声位、および5度高い地声とした。声の高さはピアノの音で与えた。声の強さは、中等度,弱い声,強い声の3種類とし、各人の主観的判断にまかせて発声させた。測定は、各発声時の声の基本振動数(Hz),声の強さ(dB SPL),呼気流率(ml/sec),呼気圧(mm【H_2】O)の4種の値の同時測定である。結果は以下の通り。1)声の強さは流量計開口部から20cmの距離で60〜90dB SPLの範囲に分布し、話声位、5度高い声の間に差はなかった。2)呼気圧は、上記の声の強さの範囲で男女共に水柱20mm〜150mmの範囲に分布し、話声位、5度高い声の間に差はなかった。声の強さの増加と共に呼気圧は上昇した。3)呼気流率は、男女共に毎秒70〜350ml/Secの間に分布し、声の高さによる差はなかった。また声の強さを増しても、呼気流率は必ずしも増加しなかった。4)声の強さと呼気圧,声の強さと呼気流率,それぞれの比を計算すると、この値は、声の強さと共に一定の増加を示していた。すなわち、呼気圧,呼気流率共に、声門における呼気-音源の変換の効率が、声の強さと共に変化することが示された。このような効率と強さの関係を考慮して、病的症例の検査結果の評価を行なうべきである。5)呼気圧と声門下圧との関係は、呼気流率が少ない時はその差が無視されるが、呼気流率が増加した場合は、適当な補正により、呼気圧から声門下圧を推定することが可能である。
著者
押田 勇雄
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1951

博士論文
著者
高橋 淳 影山 和郎 金田 重裕 大澤 勇
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

プラスチックス製(ポリエステル等)の柔軟なシートまたは袋による海上輸送技術(シール材またはコンテナとしての利用)が、低コストで低環境負荷型な輸送手段として注目されている。本研究では、このウォーターバッグに関して、疲労メカニズム解明と損傷(すなわち内容物流出のリアルタイム)検知システム開発の2つの検討を行った。すなわち、まず、ウォーターバッグの損傷の主要因と考えられている(内容物輸送後の)リールへの巻き取り時等における疲労損傷発生に関し、室内実験として「巻き取り模擬試験」を行い、それに基づき「損傷発生メカニズム解明」ならびに「疲労プロセス解明」を行った。この際に、万能試験機制御装置を導入し、既存設備である万能試験機(島津UH-500KNI)を本研究用途に改造してデータの収集を行った。その結果に基づき、繰り返しによる疲労損傷プロセスの解明が行なわれ、より長寿命で信頼性の高いウォーターバッグ設計への提言を行うと共に、モニタリングによる損傷検出のための方針を策定した。一方、上記の検討を通して明らかとなった損傷の形態や大きさの情報をもとに、過剰な設計を避けて最適なライフサイクルコストを実現することを目的として、ウォーターバッグ内外の電位差変化に着目した低コストな損傷検知システムの開発を行った。具体的には、「巻き取り模擬試験」のデータと考察をふまえた実際の損傷形態と大きさにもとづき、電位差変化により損傷の有無と場所を検知するための理論構築を行い、検知システムを開発した。
著者
福永 玄弥
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

今年度の研究実施状況は次の2点に分けることができる。第一に、4月1日より8月20日まで台湾に滞在し、前年度に引き続き、性的マイノリティの制度への包摂という点において日本よりも先行ポジションにある台湾の事例を調査し、その研究成果を論文や学会で発表した。第二に、日本の事例について調査を実施し、学会発表を行った。今年度の補助金はこれらの研究を遂行するために使用し、主にフィールド調査(旅費)や関連図書の購入費に当てた。なお、台湾の滞在にあたっては貴会若手研究者海外挑戦プログラムの支援を受けた。具体的な研究実施状況およびその成果は以下のとおりである。1. 日本と台湾における性的マイノリティの社会運動が、東京と台北のプライド・パレードをプラットフォームとして近年、連帯関係を形成してきたことを指摘し、その政治的背景を批判的に考察した。その成果は台湾、韓国、香港における学会ならびに東京で開催された公開シンポジウムで口頭報告として発表した。また、同成果を国際学会誌に論文として投稿しており、掲載の可否について連絡を待っているところである。2. 日本の事例として、2014年に成立した「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」を取り上げ、同性パートナーシップが制度化されるに至った政治的背景を調査した。現在も調査は継続して進めているが、その成果の一部は学会で発表した。3. 2018年に米国で始まり、その後、日本や台湾、韓国、中国でも急速に広がった#MeTooムーブメントをフェミニズム運動のグローバル化として位置づけ、それが日本や台湾ではモダニティと関連づけて表象されていることを批判的に検討した。その成果は香港の学会誌に中国語で投稿した。
著者
河西 健一
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1962

博士論文
著者
渡邉 真代
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

昨年度に引き続き、ジャービル・ブン・ハイヤーンに帰される『探求の書』を収めたアラビア語写本の読解に取り組み、内容理解を深める場として、『探求の書』読書会を毎月開催した。『探求の書』第1章には、質料と形相の何であるかが記されている。その中身は基本的にアリストテレスの質料形相論を踏襲しているが、「形相すなわち運動」とする独自の形相論も展開されている。この特異な形相論の源泉は、『探求の書』第6章に見出された。第6章には、アフロディシアスのアレクサンドロスの著作を引用した箇所がある。引用の出典は「アレクサンドロスの論文」とだけ記され、その原典はこれまで特定されずにいた。しかしこの度、「形相が質料の内にいかにしてあるか」を主題とする箇所で引用されている「論文」が、アレクサンドロス『問題集』第1巻第17問のアラビア語訳である可能性に行き着いた。続いて、「運動の何であるか」を論じた箇所で引用される「論文」がD8と一致することを確認し(D8とは、[Dietrich (1964)] がアレクサンドロスのアラビア語作品に付した整理番号で8番目の作品を指す)、さらにD8が『問題集』第1巻第21問(=1.21)のアラビア語訳であると判断するに至った。ところが、1.21のアラビア語訳としては、既に別の作品D2が認知されている。D8とD2は異なる作品として数えられているものの、訳語の違いが見かけ上の差異をもたらしているだけであり、両者は同じ原典を持つ作品であると理解できる。特にD8では、1.21の内容理解において決定的な意味を持つ一文が誤訳されており、それが本来1.21には見出されない「形相すなわち運動」という思想を、D8の内に生み出す契機となっていた。以上の内容を口頭発表にて報告し、また、関連するアラビア語写本資料を求め、3月にはイランのテヘラン大学図書館、議会図書館にて写本データの収集を行った。
著者
坂本 慎一 横山 栄 中島 章博 李 孝珍
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

環境音響の研究では、様々な空間において人が音を聞いたときの反応を調べる。建築音響の分野では、音の空間特性が聴感印象や快適性、作業効率など、人の心理や活動に及ぼす影響に重点が置かれるので、対象とする空間の音響特性を正確に捉えることが重要である。そのような目的で近年では高度な波動音響解析手法が開発され利用されるようになってきた。様々な音源はすべて指向性をもっており,人間もまたそうである。さらに,人の聴覚も,頭部や耳介の形状に起因する指向性を有している。本研究では,そのような音源と受聴の指向性を正確にシミュレートしながら,環境音響を忠実に再現できる,波動数値解析を援用したシステムの開発を行った。
著者
美根 大介
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:鍼灸治療においては四肢末梢部にある経穴の刺激で、疼痛の軽減だけでなく身体の柔軟性が高まることが経験される。これを利用出来れば、高齢者や運動習慣のない人、障害を持つ人々に対して、怪我の予防や運動を行ないやすい身体づくりの一助となる可能性が考えられる。本研究では、この現象を検証し客観的に測定することを目的とする。○研究方法:対象は健常成人6名(平均年齢34.2歳)とした。身体の柔軟性を評価する項目には、体幹および下肢の柔軟性評価として指床間距離と下肢伸展挙上角度を、上肢の柔軟性評価として肩関節屈曲、外旋、内旋角度を測定した。はじめに上記項目を測定し、ストレッチ効果を除外するため1時間以上の間隔を空けた後、コントロール(無刺激)ではそのまま2回目を測定、各経穴への鍼刺激では2回目測定前に30秒間の鍼刺激を行い、1回目と2回目の変化を観察した。使用した経穴は「合谷」「曲池」「足三里」「太衝」の4部位とし、それぞれの経穴ごとに1週間以上の間隔を空けて測定を行った。○研究成果:肢伸展挙上角度、肩関節屈曲、外旋、内旋角度に関しては、コントロール、各経穴刺激ともに大きな変化は認められなかった。指床間距離の前後差はコントロールにおいて平均-6.7mmの柔軟性低下傾向がみられたのに対し、各経穴刺激では「合谷」平均13.31m、「曲池」平均22.5mm、「足三里」平均22.5mm、「太衝」平均20mと柔軟性が高まる傾向がみられた。下肢伸展挙上角度および肩関節可動域に変化がみられなかったことは、対象が健常者であり元々制限が少なかったことや、これらの制限因子が主に靭帯などの伸張性の乏しい組織によることなどが考えられた。指床間距離では背筋鮮を中心とした大きな筋群の影響を受けていることから、鍼刺激による筋緊張の変化が出やすかったものと考えた。今回、部位の違いにおける特異性は見出せず、四肢への鍼刺激は一様に体幹の前屈柔軟性を高める可能性が示唆された。
著者
亀田 真澄
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、1960年代のソ連における有人宇宙飛行ミッションを「メディア・イベント」と捉え、そのテレビイメージの特性を、アメリカの有人宇宙飛行ミッションと比較しながら、明らかにしようとするものである。ソ連では宇宙船からの国際的なテレビ生中継がかなり早い段階から実施されていたが、それはなぜなのかという問いを出発点に、(1)生中継そのものに価値を置くプロパガンダが実施された背景及び議論過程の分析を通して、(2)ソ連の国家宣伝において宇宙船からの生中継が果たしていた役割を明確化するとともに、(3)それを「ライヴ性の文化史」のなかに位置づけることを目指した。
著者
由水 輝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

1年度目に引き続きボローニャ大学の Ugo Dal Lago 氏, パリ第7大学の Claudia Faggian 氏, フランス CentraleSupelec の Benoit Valiron 氏と共同で研究を行い, 本研究の実施計画における中心概念である Geometry of Interaction の複数トークン機械意味論としての理論を更に拡張し, 再帰・高階関数に加えて種々の確率的分岐を含むようなプログラミング言語を解釈することに成功した. 特に研究計画において目標としていた量子的な分岐はこの枠組みに含まれている. この結果はプログラミング言語理論のトップ国際会議であるPOPL 2017に共著論文として採択された. また, 申請者はこの研究の途中経過に関してマルセイユで行われたJSPS日仏二国間プロジェクト CRECOGI のワークショップにおいて対外発表を行った.さらに, 逐次的計算だけでなく並行計算に対し同様の意味論を与えることを考え, Ugo Dal Lago 氏および申請者の所属研究室の修士課程学生である田中諒氏と共同研究を行った. 結果として, multiport interaction net (MIN) と呼ばれるクラスのグラフ書換え系の妥当な意味論を複数トークン機械によって与えることに成功した. 同グラフ書換え系は並行計算における標準的な計算モデルのひとつである π 計算を埋め込めることが知られており, この結果は理論的には複数トークン機械によって並行計算プログラム一般の意味論を与えられることを示すものである. この結果は共著論文として理論計算機科学分野のトップ国際会議である LICS 2017 に投稿し採択された. さらに同結果を用いてプロセス計算系に対し望ましい性質を保証する型システムの構成を与える研究も進行中である. この進行中の研究には multiport interaction net の基礎理論を整備したパリ第13大学の Damiano Mazza 氏も既に加わっており, 今後より一層の進展が大いに期待できるものである.
著者
大竹 二雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1993年12月27日に,種子島海岸で採集されたシラスウナギの5個体の耳石について,SIMS(二次イオン質量分析法)を用いた酸素同位体比(^<18>O/^<16>O)の微小局所領域測定を試みた。測定にはCAMECA社製IMS-6f型(東京大学理学系大学院地球惑星物理学研究室所属)を用いた。分析条件はPrimary beam:CS+,10kV,Primary beam size:〜25μmφ,Primary beam intensity:〜8x10-11A,Secondary HV:-9.5kV(Normal-incidence Electron Gun(-9.5kV)を用いる),測定時間:-10min/analysisとし,試料には金蒸着を施した。また標準試料としてCaCO_3 stdを用いた。耳石は研磨して中心面を表出させ,1μmダイヤモンドペーストを用いて鏡面を作成し分析試料とした。2個体の耳石について分析値の再現性を検討し,3個体については中心から縁辺に至る耳石中心面状の3〜4点について分析し,生息水温が既知の部位の分析値と生息水温を対応させることにより水温-酸素同位体比の関係を求め,耳石中心の水温(産卵水温)の推定を試みた。標準試料を用いた分析における再現性は,連続分析においては2∂が±1.5‰の範囲に収まり,非常に良好であった。耳石試料では,±4‰であったが技術的に再現性を向上させることは十分可能であると考えられた。本年度の分析値は測定精度の点から不十分な結果しか得られず,水温-酸素同位体比の関係を具体的に求めることはできなかった。しかし耳石中心と縁辺部の酸素同位体比の差は極めて小さいことが分かった。縁辺部にあたる水温は約20℃であったことから産卵水温もこれに近いものと推測される。今後,さらに測定法の検討を行い精度の高い分析を行う必要がある。
著者
増沢 譲太郎
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1957

博士論文
著者
根本 彰 三浦 太郎 中村 百合子 古賀 崇
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.453-478, 2000-03-15

12 policy statements, in which 4 are during the former, 3 during the middle, 5 during the later Occupation Period (1945-1952) in Japan, are analyzed to investigate the course of library policies at the Education Division of the Civil Information and Education Section (CIE). General Headquarters, Supreme Commander of the Allied Powers (GHQ/SCAP). In result we indicate that the national plan with public libraries made by P. O. Keeney was not taken over by his successors after his dismissal in April 1947,and that important library policies were begun by those except the libraries officers. And we consider that there was a concept of library developments among those of the CIE but there was no single continuing policy with the library.
著者
宮廻 裕樹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は,電子線により誘導されるナノ電場(バーチャル電極)を用いて分子間の静電相互作用などの分子間力を操作することにより,ソフトマターがつくる自己組織化構造を動的に誘導する制御インタフェースを構築することを目的としている.本年度は,人工脂質二重膜の流動性パターニングや相分離ドメイン構造の誘導への応用について研究を行った.DOPC(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine),DPPC(1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine),コレステロールと蛍光標識された脂質を含む脂質二重膜を自発展開法によって厚さ100 nmの窒化ケイ素(SiN)膜上に形成し,SiN薄膜を介して加速電圧2.5 kVの電子線を間接的に照射したときの蛍光強度の変化を計測した.その結果,電子線の照射領域において蛍光強度の減少が見られ,電子線照射終了後には蛍光強度の急速な回復が見られた.これは,電子線による電場によってSiN薄膜の表面エネルギーが変化したことにより,脂質分子がSiN薄膜上から脱離したあと,照射領域外から脂質分子が再展開したためであると考えられる.さらに,蛍光強度の回復が見られたあとドメイン構造の成長が観察された.コレラ毒素Bサブユニットが特異的に吸着する糖脂質を混ぜて同様の実験をした結果,成長したドメイン構造においてコレラ毒素Bサブユニットの吸着量が多くなり,このドメイン構造が液体秩序相であることを示唆する結果が得られた.以上の結果から,人工脂質二重膜の流動性を電子線によるバーチャル電極により制御することで,人工脂質二重膜のドメイン構造を動的に誘導できることが実証された.開発された制御インタフェースは人工脂質二重膜を用いたデバイスのラピットプロトタイピングなどへ応用できると考えられる.