著者
馬渕 一誠 細谷 浩史 沼田 治 浜口 幸久 田中 一馬 北山 仁志 渡辺 良雄 丸山 工作 石川 春律 木下 専
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

収縮環の形成機構を様々な細胞を用いて解析した。分裂酵母においては収縮環は、核分裂の間に細胞中央部に蓄積するF-アクチンケーブルから形成されることが分かった。アフリカツメガエル卵で星状体微小管が分裂溝直下で連結することを見い出した。これまで細胞質分裂のシグナルに関連していると思われていたCaイオンについて、分裂後半あるいは分裂後にCa waveの発生はあるものの、分裂溝先端ではCa blip, Ca puffといった微小なシグナルでさえ見られなかった。ウニ胚第4卵割で、中心体から近い表層ではアクチンが少なく、遠い部位ではアクチンが増えて分裂することを確かめた。即ち不等分裂する植物極側割球では、赤道面に収縮環ができる前に、植物極の表層からアクチンが減少し表層が膨らんだ後分裂溝ができた。テトラヒメナのEF-1αが2量体を形成してアクチン繊維を束ね、Ca^<2+>/CaMはEF-1αを1量体にしてアクチン繊維束形成を阻害すること、フィンブリンのアクチン結合性やアクチン繊維束形成能はCa^<2+>非感受性であり、フィンブリンが収縮環と同様に分裂構でリングを作ることを明らかにした。HeLa細胞のRhoキナーゼが、アクチン結合タンパク質であるフィラミンAと結合したので両者は収縮環中で結合して存在する可能性がある。分裂シグナル伝達に関し分裂酵母の新規のRhoファミリータンパク質Rho3を見い出した。Rho3は細胞膜に局在した。Rho3とCdc42の下流に共通の標的として新規のフォルミンFor3があってアクチン細胞骨格と微小管を支配し、細胞形状や分裂位置の決定に関与することが分かった。出芽酵母のRhoファミリータンパク質Cdc42の標的であるCla4(PAK)とBnil(フォルミン)が協調的に働き分裂部位でのセプチンリング形成を制御すること、この過程にアクチンが重要な働きをすることを示唆した。
著者
大沼 保昭 能登路 雅子 渡辺 浩 油井 大三郎 新田 一郎 遠藤 泰生 西垣 通
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.この2年間の研究活動の成果は、主題に関わる分野の広汎さに対応して極めて多岐にわたるが、その主要な部分は、およそ以下のように要約することができる。2.(1)「国際公共価値」の中核におかれてきた「人権」に対する評価の持つ政治的・文化的バイアスを相対化して議論の可能性を担保するための方法を供給する視点としての「文際的」視点が提示された。(2)(1)の「文際的」視点を踏まえて、「公共性」という概念の多面的な解析が試みられた。J.ハーバーマスの著作の読解を出発点として、ハーバーマスの議論が持つ特殊西欧近代的な性質と、そうした特殊性を超えて普遍的に展開されうる可能性とを、批判的に弁別する必要性が指摘された。(3)(2)の指摘をうけて、「公共性」概念の持つ普遍化可能性を測定するために、中国・日本など非欧米の伝統社会における「公」「おおやけ」観念との比較研究を行った。その結果、「普遍」的形式への志向性こそが、西欧近代文明の持つ特殊性としての重要な意味を持つ、との見通しが得られた。(4)以上のような研究を通じて、「文化帝国主義」という概念の持つ問題点が明らかとなった。アメリカを中心とした欧米文化の「世界化」は、単に政治的経済的な比較優位に基づく偶有的な現象ではなく、欧米文化が持つ「普遍」という形式が重要な意味を持つ。この「普遍」という形式の持つ特殊性の解明が、重要な課題として認識された。(5)例えば「法」は「普遍」という形式を持つが、「法による規律」は必ずしも普遍的な方式ではない。そうした点を踏まえたうえでの、真に普遍性を持ちうる「国際法」概念の再構築の必要性が指摘された。3.2年間にわたる協同研究は、多くの成果を収めた一方で、多くの新しい課題を発見した。新たに発見された課題については、引き続き研究を進めてゆきたい。
著者
山下 雄大
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本年度(2018年度)は前年度の研究成果を考慮した上で、公安委員会の理論的指導者であるサン=ジュスト、ビヨ=ヴァレンヌ、ロベスピエールの三者に共有されている「統治への不信」というモチーフに基づく「統治」概念の特殊な用法、および1793年後半に完成した「革命政府」の理論形成におけるその帰結の究明に取り組んだ。具体的な内容は以下の通りである。まずはルソーの政治哲学における「統治」概念の形成過程と「行政官」の意義に着目するとともに、ルソー主義の関連文献を読解・分析し、革命期の「統治」批判とルソー受容の関係性について検討した。ルソーにおいては必要悪と位置づけられている行政官をめぐる議論を参照軸とした結果、革命初期にすでに登場していたことが指摘されているルソーを叩き台とした理論形成の傾向、すなわち「アンチ・ルソー主義」が93年のジャコバン主義に及ぼした影響の範囲が画定された。続いて、革命政府の理論化に大きく寄与したとされている上記三者の演説をコーパスとして、「統治」と「立法者」概念に注目しながら93年のジャコバン主義に通底するレトリックを検討した。共和政の安定のために求められる自己統治の理想が人民の対概念として形成された可変的な「敵」と名指された人物に対する統治へと向かうアポリアのなかで成立を余儀なくされた革命政府の理論にあっては、特徴的な解釈を施された「立法者」概念が重要な役割を果たしている。この視点を導入することにより、立法府の成員たる代表者としての近代的立法者による、人民それ自体の創造・再生を担う古典的立法者像への自己同一化の試みが93年のジャコバン主義を際立たせる争点のひとつであることが判明した。
著者
廖 肇亨
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2001

博士論文
著者
増田 昌敬 長縄 成実 宮沢 政 田中 彰一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

微小な隙間内において低粘性流体が高粘性流体を置換する場合、流体間界面に不安定性が生じてフラクタルなパタ-ンを形成する。本研究では、0.8mmの隙間をもつアクリル板を2枚重ねたHeleーShaw実験モデルを製作し、この上下板間の微小な隙間に満たされたある流体が他の流体により置換される時の流体界面の形状を観察した。上下のアクリル板は、各々、直径60cmと66cmの円板であり、厚さ2cmである。実験では、まずモデル内に一方の流体を満たした後、下板の中心に開けられた径1mmの注入孔より、他の流体を放射状に圧入する。本年度は、濃度200、500、1000ppmのポリアクリルアミド水溶液を水で置換する場合の流体界面の形成過程の観察を行い、流体のレオロジ-特性が流体間の界面の不安定成長に与える効果について解析した。観察デ-タを画像解析した結果、以下のことが言える。(1)低粘性のニュ-トン流体が高粘性の擬塑性流体を置換する場合は、ニュ-トン流体同士の置換の場合に比べて、その流体間界面にはより大きな不安定性が生じる。この置換パタ-ンのフラクタル次元d_fは1.69〜1.81の値であり、前年度に得られたニュ-トン流体同士の置換の場合の1.80〜1.96に比べて小さくなる。(2)流体間の界面に生じる不安定性(フラクタルなパタ-ン)は、時間経過とともに大きなフィンガ-(指状体)に成長していく。この成長過程においては、流体のレオロジ-特性が大きな影響を及ぼす。2次元流れの数値シミュレ-ションでは、差分法を用いてラプラス方程式を解いた。計算の初期条件として、流体間の界面にゆらぎを与えることにより、流体界面の不安定性の成長過程はある程度予測できた。しかし、実験に特徴的であった樹枝状のフィンガ-の成長は再現できなかった。
著者
飯野 雄一 石原 健
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2017-05-31

線虫C.エレガンスは環境中の塩の濃度と餌の有無を連合して学習し、経験した塩濃度に向かう、あるいは避ける行動を示す。本研究はこの際の行動反転の分子・神経機構を明らかにすることを目的としている。この行動制御に重要であると以前の研究より分かっていたのがDAGシグナル伝達経路である。神経細胞内で、酵素ホスホリパーゼC(PLC)によりジアシルグリセロール(DAG)が生成される。生成されたDAGはプロテインキナーゼC(PKC)などの酵素を活性化する。このシグナル伝達経路が塩を感じる感覚神経(ASER神経)内で活性化されると線虫は高塩濃度方向に進み、不活性化されると低塩濃度方向に進むことが分かっていた。そこで、実際にDAGの量がどのように変化するかを調べた。このためにDownward DAG2とよばれる蛍光プローブをASER神経に発現させ、蛍光の変化を顕微鏡で観測することによりシナプス部位のDAG量を測定した。この結果、感覚入力としての塩濃度の変化に応答してDAG量が変化することが観察された。塩濃度が上昇するとDAGは低下、塩濃度下降時にはDAGは増加した。DAGの増減はASER神経の感覚受容に依存し、カルシウム、PLCに依存することもわかった。さらに、飢餓を経験した線虫ではDAG量の変化が小さかった。この単純な機構により、DAGは過去に経験した塩濃度と現在の塩濃度の差をコードできることがわかり、塩走性の反転機構の一部が説明できた。また、飢餓による行動変化におけるfoxo型転写因子の役割と働きかたについての研究を進めるとともに、ASER神経から下流の介在神経への情報伝達をカルシウムイメージングで解析した。さらに、全神経の活動の同時観察のための4Dイメージングシステムの導入を進めた。
著者
森下 徹
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1993

博士論文
著者
村上 晋
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

近年米国で発見されたD型インフルエンザウイルスは、ウシ呼吸器病症候群(BRDC)の患畜から高頻度でウイルス遺伝子が検出されることから、BRDCの原因ウイルスの一つである可能性が示されている。これまでに私たちは日本にもD型ウイルスが侵淫していることを初めて明らかにした。本研究では、わが国のウシやブタなどの家畜おけるD型インフルエンザウイルス感染の実態を大規模に調査し、そのBRDCとの関連性や、日本に存在するD型インフルエンザウイルスの生物性状を明らかにすることを目的とする。本年度はまずリバースジェネティクス法の開発とその改良に取り組んだ。ウイルスRNAを発現するプラスミド7種とウイルスのポリメラーゼと核タンパク質を発現するプラスミド4種を293T 細胞あるいはHRT-18G細胞にトランスフェクションし、上清中に放出されるウイルス量を比較したところ、HRT-18G細胞の方が多かった。しかし、作製したウイルスの増殖性は、シークエンスは野生型と同一であるにもかかわらず、野生型よりも100倍程度が低かった。その原因を調べるために、ウイルス粒子内に取り込まれるRNA量を比較したところ、作製した組換えウイルスは野生型よりも少ない遺伝子分節があることがわかった。そこでトランスフェクションするプラスミドの割合を変更したところ、野生型と同様の増殖性を持つウイルスの作製に成功した。疫学調査の一環としてウイルス分離を試みた。山形県で呼吸器症状を示したウシの呼吸器スワブから、ウイルスが分離された。分離されたウイルスはこれまで報告のあるD型ウイルスとは遺伝的に異なるウイルスであることがわかった。今後その性状を解析する予定である。
著者
小林 喜光
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1975

博士論文
著者
村上 周三 小林 信行 鎌田 元康 加藤 信介 内海 康雄 吉野 博 赤林 伸一
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.はじめに省エネルギーを実現すると同時に清浄な空気環境の維持と快適性の向上を図るためには、従来の一様拡散の仮定ではなく、気流・濃度分布を考慮した換気効率の概念に基づく換気設計や換気システムの評価が必要である。そこで本研究は、換気効率を考慮した空調換気設備の評価方法の確立を目的として、文献調査、実験、数値計算、用語集の作成、測定マニュアル等の作成を行った。2.研究方法と結果(1)研究の現状調査国内外の文献と関連の規格、国際会議の研究動向等を調査し、換気効率の概念や評価法の実測例、実験例をまとめた。その結果、換気効率に関しては様々な概念があって、未だ確立されていない現状が明らかになった。(2)換気効率の概念について関連する用語集と一般的な換気システム図を作成し、各国での換気効率に関する用語の定義を整理した。(3)各種建物を対象とした換気効率の実測・セントラル換気システムを備えた住宅給気系ダクト入口にCO_2ガスを注入し、各室における濃度履歴を測定した。・実大居室模型空気齢を基にした各種測定法の精度・実用性などを実験的に検討した。・3室の縮小居室模型各室の換気効率を測定した基礎的なデータを得た。・事務所ビル単一ダクト方式を採用した事務所ビルの換気効率を実測した。(4)空気齢の測定方法に関するマニュアルの原案作成各種の実験や実測を基に、主要な換気効率指標である空気齢の測定法のマニュアル(原案)を作成した。(5)数値シミュレーション乱流計算プログラムによる空気分布に基づいて各種の換気効率指標の予測手法を検討した。3.まとめ換気効率の概念についての各国での研究の現状を明らかにし、関連用語集を作成した。また、各種建物について実験や数値シミュレーションを実施し、換気効率指標を計算した。これらに基づいて、主要な換気効率指標である空気齢の測定マニュアル案を作成した。
著者
山口 慎太郎 安藤 道人 神林 龍
出版者
東京大学
雑誌
国際共同研究加速基金(帰国発展研究)
巻号頁・発行日
2017

本年度は、以下の平成30年度研究発表の雑誌論文に示してあるように、多くの査読付き論文を出版するという成果を得ることができた。それらの出版にいたる過程では、下記に記載したさまざまな学会、大学でのセミナー発表を行い、そこでは有意義な討論を行うことができた。また、西宮市と協力して行った保育利用申込者に対するアンケートも集計を行うことができた。それにより、基本的な記述統計を整理し、西宮市に報告書を提出した。平成31年度はデータのさらなる分析を行う予定である。また、学術論文の出版を目標としており、さらなる研究成果が平成31年度に見込まれている。現在は研究実施計画に従って、引き続いてデータ収集・分析の最中であり、今後のさらなる研究成果は平成31年度に得られることが見込まれる。
著者
江崎 玲於奈
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1959

博士論文