- 著者
-
菊水 健史
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2002
われわれは初生期環境の研究モデルとして,幼少期の早期離乳ストレスに注目し,ストレスを負荷されたマウスおよびラットでは数種の不安行動試験において不安傾向が上昇すること(Physiol. Behav. in press),その変化は成熟後長期にわたり持続すること,縄張り性の攻撃行動が変容すること(J. Vet. Med. Sci, in press)を既に見出してきた。同じくマウスにおいてこのような早期離乳ストレスが、成長後のメスにおける母性行動およびオスにおける性行動の発現を抑制することを見出し、早期離乳が繁殖活動を抑制することが明らかとなった。また我々は幼少期における母子分離ストレスによって精神覚醒作用をもつコカインに対する感受性が増加し,薬物依存のモデルとされる行動感作が脆弱化する事も明らかにしてきた(Psychopharmacology under reviewing)。また同様に早期離乳ストレスを負荷されたラットにおいても、数種不安評価テストにおいて不安行動が上昇していることが確認された(Behavioral Brain Research, under reviewing)。次にテレメトリー発信機をラット体内に埋め込むことで,自由行動下における自律神経系の変動が測定可能なシステムをセットアップし、精神的ストレスに対する自律機能の反応性を調べた(Physiol. Behav.2000)。早期離乳されたラットを新規環境や警報フェロモンに暴露すると、特異的な体温上昇が観察され、またそれと並行して行動学的にも動物が緊張状態を示していることが明らかとなった。離乳期前後にラットの母親は母性フェロモンを糞中に放出することが知られており、その成分はデオキシコール酸であるとの報告がある。上記早期離乳群においては、離乳期の母性フェロモンを摂取することができなくなることが想定された。そこで早期離乳群に母性フェロモンのデオキシコール酸を餌に添加した群を設け,成長後の情動行動に対するフェロモン効果を調べた。デオキシコール酸添加群では不安行動の軽減および攻撃行動の抑制が認められ、母性フェロモンが成長後の行動様式に大きな影響を及ぼすことが示唆された。これらのことから離乳前後における親子間の社会的接触を剥奪することにより、仔の成長後の行動・自律機能・生殖内分泌といった生体機能全般にストレス反応の増大が引き起こされることが明らかとなった。