著者
山口 絢
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究は、高齢者の法的支援においてインフォーマルネットワークが担っている役割、およびフォーマル・インフォーマルネットワークの連携による高齢者の法的支援の課題を明らかにすることを目的としている。平成30年度は、(1)地域包括支援センターへのインタビュー調査、(2)ケアマネージャーへのインターネット調査を行った。(1)地域包括支援センターへのインタビュー調査自治体Aの複数の地域包括支援センターの職員を対象に、高齢者のニーズを把握するプロセス、法専門家を含む専門機関につなぐ判断基準等についてのインタビュー調査を行った。その結果、とくに成年後見の問題に関しては、民生委員や家族から相談を受けて高齢者の支援を開始し、職員が高齢者本人や家族を訪問する等、インフォーマルネットワークと連携した地道な支援を続ける中で、一つの可能性として成年後見というアプローチを提案するという支援プロセスが明らかになった。(2)ケアマネージャーへの成年後見制度に関するインターネット調査本年度までの調査から、ケアマネージャーが、インフォーマルネットワークを通して発見された高齢者のニーズを整理し、必要に応じ成年後見のニーズとして再定式化する重要な役割を担っていることが示唆された。そこで、ケアマネージャーによる成年後見ニーズの発見経緯、対応、インフォーマルネットワークとの連携、成年後見制度への意識等を明らかにするために、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務するケアマネージャーを対象として、調査会社に委託したインターネット調査を実施した(回答数492名)。分析の結果、多くの回答者が成年後見のニーズがありそうな高齢者に対応しているものの、家族の同意を得る難しさ、手続の複雑さ等から、必ずしも成年後見制度を活用できていない状況が明らかとなった。このほか、成果をまとめた論文の執筆を進めた。
著者
溝口 勝 荒木 徹也 山路 永司 木村 園子ドロテア 登尾 浩助
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)間断灌漑周期とイネ収量の関係の定量的解明日本で初めてSRI農法を導入した愛知県新城市の農家の水田にモニタリング機器を設置し、平成21年6月から10月までのイネの生長と気象、土壌水分量の変化をリモートで観測した。その結果、間断灌漑の周期に応じて5cm深さの土壌水分量が応答すること、梅雨時には排水条件にするのが難しいことが確認された。(2)現地農民の水管理方法に関する聞き取り調査上記の農家に、SRI導入に至った経緯や慣行法との違いについて聞き取り調査を行った。また、インドネシアで学会に参加し、その現地見学の際にSRI普及指導員からSRIのノウハウを教えてもらった。日本の農家から、排水時に有機物(藻や水生生物)が田面水と共に水田の外に除去されてしまうことが指摘されたが、インドネシアでは灌漑時の湛水深をほぼゼロにすることで有機物を有効に土に還元していることがわかった。(3)局所的な排水の違いによるイネ収量調査千葉県柏市の水田でSRI実験を実施し、局所的な排水がイネ収量に及ぼす影響を明らかにした。(4)メタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定昨年度実施したSRI方式の水田および慣行水田からのメタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定結果を解析し、栽培方式の違いが温室効果ガス放出量に与える影響について考察した。(5)SRI実施水田と慣行栽培水田における水収支・エネルギー収支観測結果に基づき、水田における水収支・エネルギー収支を気象データから計算する方法を提案した。その他、J-SRI研究会を年6回開催し、SRIに関心を持つ研究者との意見交換を行った。こうした議論はホームページに公開されている。特に、最終年度の今年度は「SRI用語集」のWikiページを開設した。
著者
三尾 裕子
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2004

本論は、1980年代半ばより筆者が行ってきた台湾・中国の漢人についての一連の宗教研究の中で、台湾中西部の沿海地域にある馬鳴山鎮安宮という"廟" −本論では、廟とは様々な霊的存在(spiritual beings)を祀る施設を指す−を社会的な場として展開される信仰観念や信仰実践を、歴史人類学的に考察したモノグラフである。// 本論では、個別具体的なケーススタディを民族誌として包括的に記述するということが目的であるが、そのために、時間軸(即ち歴史)と、空間軸(即ち研究対象の設定)という点で従来の人類学研究の問題点について、新しい試みを行った。// 第一の時間と言う点では、中国文化圏の特に民間信仰の分野において、従来歴史学あるいは宗教史学と人類学的な研究とが個別に行われ、相互の連関が不問に付されてきたことに鑑み、この欠を補うことを試みた。これまでの中国・台湾の宗教史研究を通観すると、現在見られるある事象に関わる民衆の多様な解釈の中から、過去の文献にも登場するある解釈を抽出し、その間の連続性を無条件に措定することで、それ以外の解釈を逸脱や捏造として排除する場合がしばしば見受けられた。更に民間信仰を人類学的に扱う上で、仏教や道教などの成立宗教と民間信仰とがそれぞれ別個に自律的に存在するのではなく、相互に影響を及ぼし合う点に注意を払う必要があると考えられるものの、この点についての考察はほとんどなされてこなかった。// 第二の空間と言う点では、本研究では従来人類学の研究手法では扱いにくかった、明確な外延を設定できない研究対象を包括的に捉える試みを行った。今日の経済活動などに代表されるグローバリゼーションによって、従来の人類学が当然視してきたところの、その中で社会関係が完結するコミュニティを研究対象として設定することは不可能になっている。そこで、本研究では、ある考察の対象となる事象が生起する"場"に注目し、その"場"を媒介として様々な活動や人々の関係を常に外に開かれたものとして考察するとともに、人々を引き寄せ、繋いていくそのような"場"に人々が付与する意味や価値を明らかにして行く方法を取った。つまり、研究対象の外延をあらかじめ設定するのではなく、"場"を媒介とすることで、そこに参加する人たちがその"場"や信仰対象に対して作り上げて行く意味や関係のプロセスを提示することを試みた。// 以上のような問題意識に基いて、具体的に考察を行ったのは、台湾中西部の馬鳴山鎮安宮と呼ばれる〈五年王爺〉を祀る廟である。本論では、フィールドワークによる資料収集だけではなく、文書史料を併用することによって、主に、〈五年王爺〉を含む〈王爺〉というカテゴリーの〈神〉が、従来道教の文脈で〈瘟神〉と意味付けられてきたことと、人類学的研究において「〓鬼」と意味付けられてきたこととの齟齬や断絶を接合した。特に本論では、〈五年王爺〉を信仰してきた人々によるそれに対する語りを分析することから、台湾漢人の霊的な存在の動態性とのかかわりに留意しつつ、〈五年王爺〉像の変遷を跡付けた。また、従来民間信仰は、地域社会を統合する際の宗教的なシンボルとして考えられてきたことについて、「祭祀圏」という概念を用いて廟を核とする地域的な社会結合を分析した。特に、本研究の対象のように、伝統的に既に複数の郷鎮、あるいは県にまたがって広範囲に信者が広がっている廟の場合、「祭祀圏」概念がどこまで適用できるのかを検証した。更に、1970年前後から急速に増加している地縁的な基盤を持たない信者については、従来の地縁的な基盤を前提とする民間信仰概念では捉えきれない。そこで、鎮安宮という"場"を焦点として、そこに出入りする新しいタイプの信者が、地縁に代わる如何なる紐帯を廟あるいは〈五年王爺〉と結ぶに到ったのかを考察した。// その結果、本論で明らかになったことは、以下の諸点である。// まず、伝統的にそして現在も鎮安宮の地縁的な基盤となっている〈五股〉の諸村落及び〈香庄〉と呼ばれる諸単位に所属する信者にとっては、〈五年王爺〉は〈瘟神〉と関係付けられるのではなく、科挙に合格した「進士」としてイメージされている。// 第二には、〈五年王爺〉が天の最高位の〈神〉である「玉皇上帝」から派遣された強大な権力と権威をもった〈神〉であるという側面と、横暴で理不尽で〈鬼〉(特定の祭祀者を持たない死者の霊魂)と共通する側面とを持つ両義的な存在として意識されていることが理解される。// 第三には、道教経典などにまで遡って歴史的な〈王爺〉像の変遷を追い、〈王爺〉の起源に関する先行研究を再考した結果、清代以降の台湾では、〈王爺〉という名のもとに、経典中の「瘟神」のみならず、様々な多様な霊魂が、いくつかの共通する要素とズレとを含みつつ収斂して行くことを跡付けた。// 第四に、台湾の民間信仰における霊的な存在は、〈神(gods)〉・〈祖先(ancestors)〉・〈鬼(ghosts)〉の三位の中に位置づけられるという研究が欧米の人類学者によって蓄積されてきたが、このような三位モデルは、漢人が霊魂に関して語る二種類の語りの間の弁証法的な関係と言う点から理解することが必要であることを指摘した。即ち、一つが、非常にシステマティックで階層的な諸霊魂の位置づけの語りであり、もう一つが前者のような体系的な語りでは収まりきらない曖昧な霊魂についての語りである。彼らの中で、これらの一見相反する語りが矛盾なく同居することにこそ、漢人の霊魂観のダイナミックスの源があると考えられる。// 第五には、以上の議論を受けて、筆者の主な居住地であったS村の人々が、三位モデルに関していかなる語りをしてきたのか、特に、〈神〉と〈鬼〉との中間領域への彼等の関わり方について、「大家楽」と呼ばれる民間の賭け事を例にとって分析した。「大家楽」は一種の宝くじであるが、1980年代後半から人々が当たり番号を予想する為に、霊的な存在に頼るという現象が広くみられるようになった。彼らは、〈鬼〉と〈神〉との境界領域にあった存在に頼るが、そのような存在が霊験を発揮して当たり番号を当てた場合に〈神〉と見なされるようになるケースが見られることを、具体的な事例を用いて明らかにした。〈王爺〉は今日の台湾では、既に最もポピュラーな〈神〉となっているが、〈王爺〉の出自由来と今日の信者の語りとの間の隔たりが存在することから、今日の台湾で見られる〈鬼〉の〈神〉化のプロセスに類似した移行が〈王爺〉においてもあったことが推測される。// 第六に、鎮安宮の信者の空間的な広がりに関わる諸問題のうち、まず、主に伝統的に鎮安宮の信者とされてきた地域社会を"祭祀圏"概念を用いて考察した。まず、"祭祀圏"に関する先行研究をレビューし、多くの論者に共通する"祭祀圏"を構成する条件について論じた。それらを鎮安宮に適用して見た場合、次の二点が明らかになった。まず〈五股〉の場合には、これが外延のはっきりした一つの祭祀圏を形成していると考えることが可能だが、その結合の原理を宗教以外のその他の社会組織に求めることについては、その証左を得る事は出来なかった。また、〈香庄〉の分布域は、今日では、250を超える諸単位を抱え込んでいるが、廟経営への参与の有無などの客観的条件によってプロットされる「範囲」と人々がイメージする単位分布の「領域」が一致するような固定的で明確な外延によって囲い込まれているわけではない。各単位の鎮安宮との関係は、慣習化されているとはいえ、一回一回の儀礼毎に鎮安宮に勧請に行くこと(あるいは行かないこと)を選択できる流動性を許容する関係である。また、〈香庄〉の場合も、その分布域が何らかの社会組織と対応関係にあるという証左は発見できなかった。// 最後に、従来"祭祀圏"概念によって分析されてきた民間信仰においてほとんど取り上げられることの無かった、遠隔地の個人ベースで信仰を求める信者層について考察した。その結果、信者の都市への移動や仕事や婚姻などによる台湾の人々の活動領域の拡大が、信者の分布域の拡大と関わっていることが明らかになった。また、このような遠隔地の信者たちと鎮安宮あるいは〈五年王爺〉との関わりについて、信者の語りを分析することによって、彼らの〈王爺〉像が今日の台湾社会の社会変化とどのように関わりをもち、またその中で彼らが〈王爺〉といかなる新しい関係を結ぼうとしているのかを明らかにした。従来、集落などの地域共同体内の安寧を保護してきた〈神〉は、戦後特に1970年以降の人口の流動化、都市化によって、個人とより直接的な関係を結びつつある。そして〈神〉と個人との関係の中で、個人が〈五年王爺〉との持続的なインターアクションを構築する事によって、信仰に至り、それを維持発展させていることが明らかになった。ただし、ここにおける"個人"とは、必ずしも他者と区別された自律的な"個人"といった近代的自我を具えた"個人"ではない。本論では、彼等が近代化、都市化による社会の再編過程にある社会において生み出された不安や不確定性に対して、伝統的な思考における共同性や「〈命運 mia7-un7(運命)〉観」を援用することによって対処していることを示した。つまり、信者と〈王爺〉との間に〈命運〉観に基づく結合の回路が創り出されている事が、今日の鎮安宮が、地縁社会との結びつきとは別に脱地縁化した信者を増やしている所以である、というのが筆者の見方である。
著者
小山 隆太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

我々は、てんかん原性の獲得に寄与する現象として、乳幼児期に生じる複雑型熱性けいれんと、脳内免疫細胞であるマイクログリアに着目した。熱性けいれんは通常38℃以上の発熱によって引き起こされるが、けいれん状態が重篤な複雑型熱性けいれんは、将来のてんかん発症に関与することが示唆されている。しかし、複雑型熱性けいれん後のてんかん原性の獲得過程におけるマイクログリアの役割は殆ど明らかにされていない。そこで、本研究では高温刺激によって誘導する実験的熱性けいれんモデルマウスを利用して、熱性けいれんによるマイクログリアのプロパティ変化を詳細に検証した。その結果、熱性けいれん後の歯状回では、マイクログリアが抑制性シナプスを貪食することで、シナプスE/Iバランスが興奮性優位に傾斜することが明らかになった。なお、シナプスE/Iバランス破綻の結果として、熱性けいれん後のけいれん閾値が低下した。また、これらの現象は、マイクログリアの不活性化薬であるミノサイクリンによって抑制された。マイクログリアは補体を認識してシナプスを貪食するが、我々は、熱性けいれん後の抑制性シナプスに補体が局在することを発見した。さらに、補体の局在化の一因として、熱性けいれん時の脳内温度に活性化領域を有する温度感受性受容体「TRPV4」が関与することを明らかにした。以上の発見は、マイクログリアやTRPV4をターゲットとした「抗てんかん原性」薬の創薬に貢献しうる。
著者
近藤 淳
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1959

博士論文
著者
菱田 厚介
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1954

博士論文
著者
小池 進介
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

大学生259名を対象にした調査は218名(84.1%)について1年後調査を得て、現在2年後調査を実施中である。精神疾患に対するスティグマ軽減戦略を検証するRCT結果についてまとめ、国際誌に投稿した(現在査読中)。母子調査は、計画研究の橋本龍一郎分担研究者、岡本泰昌分担研究者に指導を受け、134名に対して実施した。解析結果より、Positiveな単語(例.親切だ)についての、3人称(母)視点の自己評価(例.お母さん(お父さん)はわたしのことを、親切だ、と思っている)と1人称視点の他者評価(例.(お子さんはどれに当てはまりますか)親切だ)との回答差が、メタ認知能力をもっとも適切に示しやすいことを明らかにした(H28.1.24成果報告会)。また、同様に聴取した東京ティーンコホート親子25ペアについても予備的に検討し、メタ認知能力が10歳児でより低いことを明らかにした。現在、この結果をまとめ英文誌に投稿する予定である。また、母子調査をもちいた精神疾患に対するスティグマの親子間比較および相関結果について、英文誌に投稿した(現在査読中)。さらに、母のスティグマが、上述のRCT介入結果に独立して影響を与えることを示し(成果報告会)、今後この結果をまとめ英文誌に投稿する。MRIを含めたバイオサンプル計測を80名に対して実施した。今後、解析を進める。そのほかのサンプルとして、英国1946年出生コホートデータを用いて、13歳および15歳時の自己制御能力が、15歳から63歳までの体重増加に影響することを明らかにした(Koike et al., Int J Obes (Lond) 2015)。また、精神疾患のスティグマに関連して、統合失調症の名称変更によってマスメディアの報道に違いが出たかを30年間にわたる新聞記事2200万件の解析を行った(Koike et al., Schizophr Bull in press, 日経プレスリリースほか)。
著者
佐々木 揚
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2002

博士論文
著者
平野 達志
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

今年度は特別研究員採用期間の3年目に当たり、昨年度に続いて資料収を継続し、2009年9月から2010年2月までの期間に日独共同大学院プログラムを利用してドイツ、ハレ=ヴィッテンベルク・マルティン=ルター大学での在外研究を行った。まず資料収集作業としては、モスクワと北京に滞在してロシア国立図書館(2009年8月)、中国国家図書館(同9月)に関連文献を調査したことが挙げられる。さらにドイツ渡航後にはドイツ外務省政策文書館(同10~11月)、イギリス国立公文書館(同11~12月)、ミュンヘン歴史学研究所(2010年1月)、ベルリン=リヒターフェルデ連邦文書館(同)、国際連盟公文書館(同)で作業を実施した。すでにベルリンでは何度も渡航して資料を収集していたが、今回はとりわけ中央や在外公館の間の公信だけでなく、1930年代に駐華大使を務め、日中戦争初期に和平工作を行ったオスカル・トラウトマンの日記を撮影できたことが成果として特筆される。また、ロンドンでの作業は今回が初めてであり、華北分離工作から日中戦争、日米開戦に至る東アジア情勢や、世界政治における枢軸形成に関するイギリス側の基本資料を収集できた。また年明けにはジュネーヴ国際連盟文書館を訪れ、デジタルカメラで約3,000枚分の資料を集めることができた。ハレでの在外研究では、まずこの都市で9月末から10月初頭にかけて開催されたドイツ語圏日本研究学会に出席し、ドイツ、オーストリア、スイスなどから訪れた日本学研究者と知遇を得た。それに続いて10月初頭に1週間開催された東大・ハレ大秋季共同アカデミーでは、「市民社会とその対抗構想」というテーマでの討論に参加した。その後、面談を通じてパトリック・ワーグナー教授からの博士論文指導を受けた。
著者
福島 正己 佐川 宏行 垣本 史雄 荻尾 彰一
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2009

米国ユタ州に宇宙線観測装置テレスコープアレイ(TA)を設置し、極高エネルギー宇宙線の観測をおこなった。2014年までの5年間に10^<18>から10^<20> 電子ボルト(eV)にいたる宇宙線を約80,000例とらえ、銀河系外の宇宙で発生して地球まで伝搬してくる陽子宇宙線の特徴をもつことを示した。また10^<19.76> eV 以上の72例には、ある特定の方向から偏って到来する傾向があることを見出した。今後の観測で発生源の天体を特定し、宇宙空間で粒子が極高エネルギーに加速される仕組みの理解をめざす。
著者
山内 敏正 窪田 直人 原 一雄 門脇 孝
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

(1)アディポネクチン受容体の特異的アゴニストを植物(果物・野菜を含む)から抽出・精製し糖尿病の根本的治療薬を開発。:アディポネクチンと立体構造上ホモロジーを持ち、アディポネクチン受容体に結合してAMPキナーゼを活性化するオスモチン並びにPR-5ファミリーペプチドをあらゆる植物・果物からスクリーニングし、ジャガイモOSM-1h(89%)、トマトNP24(89%)、ピーマンP23(86%)、トウガラシosmotin-like protein(72%)に含まれることを見出した。(()内はタバコオスモチンとのアミノ酸配列相同性を示す。アディポネクチン受容体アゴニストであることが確認されたオスモチンを、肥満・2型糖尿病モデルマウスであるob/obマウスに投与したところ、糖・脂質代謝が改善されるのが認められた。(2)オスモチン測定系の確立。:PR-5ファミリー物質の抗体の作製を完了した。ウエスタンブロットにて反応性の検討中である。(3)果物・野菜の摂取量とオスモチンの血中濃度・メタボリックシンドロームとの相関の検討。:東大病院に入院・通院する糖尿病患者あるいは兵庫県宍粟郡の住民からなるコホート集団を対象として植物・果物の摂取頻度調査を行い、前者の集団では種々の植物・果物の摂取量と糖尿病関連臨床指標との相関を後者の集団では種々の植物・果物の摂取量と糖尿病発症率との相関を検討し、PR-5ファミリーのうちどの物質が実際に生体内で対糖尿病作用を強くもっているかのsupportiveなデータが得られるか検討中である。
著者
松林 嘉孝 筑田 博隆 齋藤 琢 谷口 優樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では本邦で行われた頚椎後縦靭帯骨化症(頚椎OPLL)のGWASで同定された疾患修飾候補遺伝子のひとつであるRSPO2のOPLL発症およびOPLL伸展における機能解明を目指して開始した。まずヒトサンプルおよびマウスのティッシュパネルにおいてRSPO2が後縦靭帯に発現していることを確認した。また手術で得られた頚髄症患者および頚椎OPLL患者の黄色靭帯での発現比較において頚椎OPLL群で有意にRSPO2の発現が高かったことからRSPO2がWnt活性化因子であることをあわせて、我々はRSPO2のgain-of-functionがOPLLの発症に関与しているという傍証をえた。またヒトOPLLサンプルやヒト黄色靭帯骨化症サンプルにおいて骨化前線部の靭帯細胞でコントロールと比較してRSPO2の発現が有意に上昇していることも確認した。次にヒト脊椎靭帯細胞で実際にRSPO2が骨化を誘導することが可能か検証すべく実験を行った。まず手術で得た黄色靭帯からCD90陽性の間葉系幹細胞とCD90陰性の靭帯細胞をフローサイトメーターを用いて分離培養する系を確立した。続いて同系にて得られたCD90陽性の細胞群にRSPO2を添加することで実際に骨芽細胞分化が誘導されることを確認した。またOPLLはメカニカルストレスのかかる部位で進展悪化することが知られているが、実際に上記系で得られたCD90陰性の靭帯細胞にメカニカルストレスをかけることでRSPO2の発現が上昇することも確認でき、靭帯内では靭帯細胞でのRSPO2の発現・分泌上昇が靭帯内間葉系幹細胞の骨芽細胞分化を促進している可能性が考えられた。最後にRSPO2のCre誘導性トランスジェニックマウスを作出し、様々なCreマウスを交配することで実際に靭帯骨化症が誘導できるかを検討したが現時点では、靭帯骨化が確認されるには至っておらず現在も交配と解析を継続しているところである。現段階までの成果を現在英語論文にまとめ、投稿中である。
著者
竇 毅
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-08-30

地下熱、産業排熱等未利用エネルギーは都市域にも豊富に存在し、それを最大限活用することは持続可能な低炭素社会への転換に対して重要な手段である。本研究では、次世代地域熱供給、高効率ヒートポンプ、大規模蓄熱等技術開発の進捗を把握しながら、地域エネルギー需給の時空間分布に応じた広域熱交換ネットワークの計画と評価モデルを開発することで、経済性と環境性両方を考慮して未利用熱を最大限活用する地域エネルギー計画方法を提示する。